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捨てられたので、あなたの全てを奪います
三國京介(みくに きょうすけ)の「子供が生まれたら結婚しよう」という言葉のせいで、私、堂本檸檬(どうもと れもん)は散々な目に遭った...
Chương (1)
第1章
三國京介(みくに きょうすけ)の「子供が生まれたら結婚しよう」という言葉のせいで、私、堂本檸檬(どうもと れもん)は散々な目に遭った。
お産直前には大出血をして、三途の川を渡りかけた末、やっと三國家の長男を生んだのだ。
それなのに、息子のお宮参りのその日、京介は初恋相手、田中琳子(たなか りんこ)の手を掴んで掲げ、集まった人たちの前でこう言った。
「皆様、琳子と僕の息子のお宮参りにご参加いただき誠にありがとうございます」
私は階段口で立ち尽くしていた。京介は私を見ると笑いながらやってきた。
「遅かれ早かれ話さなければならなかった。それなら子供がまだ幼いうちにお前と決着をつけた方がいい」
京介は私に向かって杯を挙げた。彼の口調はまるでビジネスの商談をしているかのようだった。
「お前は婚前妊娠したのだから、ここにいる人は皆、お前を軽蔑する。俺の両親だってお前とは面識がないのだから、お前は俺にすがる他ない。
安心してくれ。息子はお前に育ててもらう。
でも明日、お前には一緒に出生届を出しに行ってもらわなければならない。息子の親権は必ず琳子に渡してもらう」
京介は私が泣き崩れるか、子供のために泣き寝入りすると思っていた。
けれど私はただ静かにその場を離れ、帰国したばかりの三國家の当主、京介の父親と連絡を取った。
数日後、私は息子、三國浩輝(みくに こうき)と共に三國家に籍をいれた。
それ以来、私は京介の義母、息子は京介の弟となった。
息子の親権は全部私が持つ。
そして、将来の三國家の相続権も私に帰属することとなったのだ。
第1話
三國京介(みくに きょうすけ)の「子供が生まれたら結婚しよう」という言葉のせいで、私、堂本檸檬(どうもと れもん)は散々な目に遭った。
お産直前には大出血をして、三途の川を渡りかけた末、やっと三國家の長男を生んだのだ。
それなのに、息子のお宮参りのその日、京介は初恋相手、田中琳子(たなか りんこ)の手を掴んで掲げ、集まった人たちの前でこう言った。
「皆様、琳子と僕の息子のお宮参りにご参加いただき誠にありがとうございます」
私は階段口で立ち尽くしていた。京介は私を見ると笑いながらやってきた。
「遅かれ早かれ話さなければならなかった。それなら子供がまだ幼いうちにお前と決着をつけた方がいい」
京介は私に向かって杯を挙げた。彼の口調はまるでビジネスの商談をしているかのようだった。
「お前は婚前妊娠したのだから、ここにいる人は皆、お前を軽蔑する。俺の両親だってお前とは面識がないのだから、お前は俺にすがる他ない。
安心してくれ。息子はお前に育ててもらう。
でも明日、お前には一緒に出生届を出しに行ってもらわなければならない。息子の親権は必ず琳子に渡してもらう」
京介は私が泣き崩れるか、子供のために泣き寝入りすると思っていた。
けれど私はただ静かにその場を離れ、帰国したばかりの三國家の当主、京介の父親と連絡を取った。
数日後、私は息子、三國浩輝(みくに こうき)と共に三國家に籍をいれた。
それ以来、私は京介の義母、息子は京介の弟となった。
息子の親権は全部私が持つ。
そして、将来の三國家の相続権も私に帰属することとなったのだ。
/
その日の午後、京介が家に帰ってきた。
私はすぐさま下に降りると、家政婦の懐で眠っている息子をみつめた。
家政婦は戸惑いながらまず京介の顔色を窺い、彼がうなずくと、私に子供を渡した。
もやもやしていた心がようやく落ち着いた。
少なくとも京介はまだ息子を私に抱かせてはくれるのだ。
「京介の勝ちね」
田中琳子は、出し抜けにこう言うと、吹き出しながら続けた。
「私たちは賭けをしていたの。 私は『堂本家のお嬢様であるあなたは、愛する人が別の女性と結ばれることを受け入れられず、怒りのあまり京介のもとを去って行くにちがいない』と言った。
けれど京介は 『あいつは俺のことを命がけで愛している。たとえ俺が10人、20人もの女性と浮気したとしても、決して見捨てることはない』と断言したの」
京介は自ら跪くと、田中琳子がハイヒールを脱いでスリッパに履き替えるのを手伝った。
そして優しく溺愛じみた声でこう言った。
「俺は浮気したりしない。琳子がいればそれでいいんだ」
田中琳子は横目でチラっと私をみると、口角を上げ、得意げに微笑んだ。
彼女が履いたスリッパは、京介が人を遣って買いに行かせていた特注品だと気づいた。京介はスリッパが入っていた箱の上にこう書いていた。
【息子の母親へ】
私は産後1か月が経過した自分へのご褒美のプレゼントだと思っていた。お宮参りを終えるまで待ってから、京介が包みを開けて私に手渡してくれるんだと。
でも実際には、彼のいう息子の母親とは私のことではなかった。
「檸檬、荷物を片付けて、赤ちゃん部屋に移ってくれ」
京介は、田中琳子の肩に手を回しながら、顎で示した。
「今後は外向きには、お前は住み込みのベビーシッターだ。主に浩輝のお世話を担当してもらう」
田中琳子は笑いながら念を押した。
「堂本さん、京介が呼んだ消毒会社の人がもうすぐ来るから、早く移動してね。
くれぐれもすべてのものを忘れずに持ちさってちょうだいね。私は潔癖症で、髪の毛が一本残っていただけでも気持ち悪くなって吐いちゃうんだから」
京介と田中琳子はまるで自分たちの言うことが全く理にかなっているかのように話した。家政婦たちは傍らに立って、興味津々で私を見ていた。
そもそも、前々から皆、私が京介の想い人だと知っていたのだから。
京介は私をこの上なく甘やかしていた。ぶつかったり、怪我をしたりしたときには、私よりも痛がった。私が少し機嫌を損ねると、跪いて私に許しを求めたこともあった。
京介は商売はてんでできないが、財布の紐は緩い。朝方に彼が何がほしいかと私にでまかせに聞けば、ほしいと言ったものは午後にはもう私の手元に届いた。しかもそれは必ず一級品だった。
私はこのような日々がずっと続いていくのだと思っていた。
誰が考えただろう。お宮参り後に、この家に新しい奥さんが迎えられ、私が京介の想い人からベビーシッターになり果てて、主寝室も明け渡さなければならないなんて…
誰だってこんな断崖から落ちるような変化には耐え得ない。
でもこの静寂の中、私は泣きも騒ぎもしなかった。
ただうつむいて息子を毛布で包み込むと、そっと「はい」と応えた。
そしてまっすぐに二階へと上がっていった。
後ろから京介の情欲に染まった囁きが聞こえてきた。
「俺は賭けに勝った。約束しただろ、今晩は心ゆくまで俺を満足させてもらう」
第2話
田中琳子はむくれながら三國京介にぴったりとくっついていた。
「負けを認めるわ。私を京介の好きなようにしていいわよ。
にしても…こんなに自信に満ちてあふれているけど、あの女が子供を連れて逃げ出さないか怖くないの?」
京介は彼女のスカートの裾をまくり上げた。それを見て察した家政婦たちは皆その場を離れた。
彼は全く気にかける様子もなく、皮肉っぽく言った。
「当時あいつは俺と付き合うために、堂本家と縁を切ったんだ。今俺のもとを離れたら、あいつはもう生きていけない」
ソファが軋む音が鳴った。京介は息を荒くしながら言った。
「しかも、八年も俺と付き合い、婚前妊娠までしたことは、周囲に知れ渡っている。だから俺の仲間のぼんぼんたちの眼中にも、あいつは入っていない。誰も過去を背負った女なんて、引き受けたくないんだ。
あいつの顔が好みというやつがいたって、この俺から子供を奪おうという度胸がなければ無理だ」
/
私は主寝室のドアを閉めた。リビングで繰り広げられている恥じらいもないイチャつきを遮断したかった。
幸い、息子は何も聞いていない。
慎重に息子をベッドに寝かしつけると、正面からスマホで息子の顔を撮って、ラインに送った。
【息子が私のもとに戻ってきました。私たちの約束を忘れないでくださいね】
数秒後に一言返事が返ってきた。
【分かった】
私は安堵した。
実際のところ賭けに勝ったのは田中琳子だったのだ。
私は愛していた人が他の女と一緒になるなんて許さない。
汚れた男には必ず代償を払ってもらわなければならない。
/
その晩、消毒会社の人がやってきた。私は息子を抱きかかえながら、赤ちゃん部屋で片づけをしていた。
田中琳子は出かけていて、京介は仲間を家に呼んで飲み会をしていた。ドア越しでも、京介たちのさわがしい声が聞こえてきた。
「さすが、三國家の御曹司。堂本家のご令嬢は本来揺ぎない跡取り娘だったのに、京介さんと駆け落ちをしたばかりか、自ら子供まで生むなんて!
一番やばいのは、彼女は婚前妊娠させられて、しかも息子は今後彼女のことをお母さんと呼ぶこともできないのに、その屈辱にも耐えていることですよ。京介さんのことを死ぬ気で愛しているに違いないですね」
1階にいる人たちは、どっと大笑いした。京介は乾杯の音が鳴り響く中、気にも留めていない様子だ。
「このことは、お前らしか知らない。外向きには琳子が浩輝の母親ということになっているからな。
三國家は掟が厳しく容赦がないのだと言ってあいつを騙した。子供を産まなければ嫁になれないってね。なんとあいつはそれを信じて、この5年で5回も体外受精を受け、注射痕で腹がボロボロになった。
にしても…堂本家の令嬢だからといって何だというんだ。あいつは命を懸けてでも俺を愛している。そして、救いようのないほど愚かだ。
ぶっちゃけ、もし琳子がこんな苦痛を味わうことになったら、俺はとても耐えられない」
衣服を畳んでいた手をふいにギュッと握りしめた。目を伏せると、床に視線を落とした。
もともと私は堂本家の箱入り娘だった。それなのに京介に心を奪われてしまった。
けれど父と母は、京介は娘を託すには値しないと判断し、交際を解消するよう迫ってきた。
京介はそれを聞くと、駆け落ちを持ちかけてきた。 私を大切にする、生涯ずっと私だけを愛し続けると約束までしてくれた。
しかし、私が本当に彼と駆け落ちしたときになって、三國家には結婚条件について掟があると言い出したのだ。
どうしようもなかった。私は当時本当に彼に夢中だったので、自然妊娠が難しいと分かれば、不妊治療を始めた。
彼との子供のため、三國家の嫁になるために、いかなる苦しみにも耐えた。お産の直前には大量出血をして、分娩台の上で死にかけた。
その報いとして私が得たのは、『救いようのないほど愚かだ』という浅はかな一言だけだとは。
部屋中に笑い声が響き渡っている中、ふとある男が田中琳子について言及した。
「京介さん、明後日は三國家のホームパーティーだそうじゃないですか。琳子さんを連れて三國家の皆様に紹介されるんですか?お父上も帰ってこられますよね」
京介はまんざらでもなく笑って言った。
「檸檬の出産はまさに絶好のタイミングだった。滅多に帰国しない父上が戻っていて、ホームパーティーまで開くというのだから。この好機に、俺が琳子と息子を連れて参加すれば――遺産の継承権は間違いなく手に入るだろ?」
「そりゃそうですよ。三國家は血縁が薄い上に、京介さんは唯一の直系。お父上が再婚して子供でも作らない限り、跡取りの座は誰も奪えません」
突然一階が静まり返った。
しばらくたってから、やっと京介がばつが悪そうに口を開いた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ。父上は仕事で一杯いっぱいで、再婚する余裕なんてあるわけがない」
私は握りしめていた指をゆっくりと解いた。スマホから音楽を流し、下から聞こえてくる音をかき消した。
曲に合わせて歌詞を小声で口ずさみながら、私は声をださずに笑った。
第3話
翌日の午前10時、京介は私と息子、田中琳子を車に乗せて、戸籍の手続きをしに市役所へ連れて行った。
車を降りるとき、田中琳子はわざとらしく息子を抱きたいようなそぶりを見せた。しかし彼女が抱いた途端、息子は大声で泣き叫んだ。
彼女はすぐさま赤ん坊を押し戻すと、京介に泣きながら訴えた。
「京介、この女ったら子供の教育もなってない…私の体中に唾を吐いてきたのよ」
京介は慌てて彼女の腰に手をまわして、優しくなだめた。
だが、その眼差しは鋭く私を非難していた。
「檸檬――琳子が浩輝の法律上の母親だと言ったはずだ。なのに、お前は息子が自分の母親を拒むように仕向けるなんて……一体何を考えているんだ!」
浩輝は私の懐に戻ってきた途端落ち着きを取り戻した。私は感情を淡々と告げた。
「浩輝は香水の匂いが苦手なの」
カッとなった田中琳子は、地団駄を踏んで言い返してきた。
「一体どこにこんな傲慢な子供がいると言うのよ。香水の匂いも耐えられないなんて!
この香水は京介がわざわざ人を遣って国外から取り寄せた限定品よ。一瓶何十万もするの。ほしくたって、あんたは手に入れられないわよ!」
京介は、田中琳子のこうした高慢さに惹かれていた。彼女の前に身をかがめると、唇にキスをした。
「こいつと張り合ってどうするんだ。琳子が気に入ってくれたんだったら、また人を遣って買ってきてもらおう」
田中琳子はやっとしぶしぶうなずいた。私をキッと睨むと、化粧を直しに行った。
/
田中琳子がいなくなると、京介は私に囁いた。
「檸檬、お前の気が晴れないことは分かっている。
でもな、お前は俺を許さなければならない。三國家はQ州では名の知れた家柄で、俺はその御曹司だ。適当な女を嫁に迎え入れるわけにはいかないんだ。
琳子は田中家の次女で、三國家と格が合う。彼女との結婚は息子の将来にも有利に働く。――それに、お前には浩輝を育てる権利をあげただろう」
彼の一言一句が何一つ全くピンとこなかった。
私は彼の目を見て言った。
「京介。――私は京介のために堂本家と縁を切ったのよ」
「それは知っている。でもここ数年、俺がお前を粗末に扱ったことは1度もなかった。どのみちお前には、帰る家も引き取ってくれる人もいない。おとなしく三國家にベビーシッターとして居座ればいい。いつでも我が子のお世話ができるし、一石二鳥だろ?」
思いもよらなかった。こんなにも彼が卑劣な男だったとは。
ちょうどその時化粧を直し終えた田中琳子が戻ってきたので、私たちは手続きをしに行った。
だが役所にいたスタッフは、システム故障のため3日後以降しか親権変更はできないと言った。
田中琳子は、手続きが遅れれば厄介なことになるのではないかと強く危惧していた。 そのため、頑なに私にその場で親権放棄の契約書に署名させた。
私は何の心配せずに署名した。京介は満足げに田中琳子に視線を送り、立ち上がると「映画を見に行く」と言った。 私には息子を連れて、一人で家へ帰るよう命じた。
ドアの前で「京介…!」と叫び、彼を呼び止めた。
私は彼に聞きたかった。ちょっと前まであんなに私を大事にしていてくれたのに、それは子供を産ませるためだけだったのかって。
だが私が話し始める前に、田中琳子がいきなり嬉しそうに「わあ!」と叫んだ。
「あの子のヴェール、すごく綺麗…!一緒に婚約届を提出した日に私もつけて行けば良かった!」
京介も琳子の視線の先を見て笑った。
「琳子はヴェールが好きなんだな。結婚式を挙げるときに、もっと綺麗なのをプレゼントしてやる」
田中琳子は京介と腕を組んだ。
「それもいいわね。去年の夏はめちゃくちゃ暑くて、ヴェールをつけてたらベタベタになってただろうしね」
胸がチクリと傷んだ。
去年の夏――それは検査薬で妊娠が判明した時だ。
京介は産婦人科のサポートチームをつけてくれた。「子供が生まれたら籍を入れよう」と言い、毎日喜びのあまり笑みがとまらない様子だった。
私は今までの苦労が報われて、やっと愛する人と結ばれるのだと思っていた。
ところが、彼が喜んでいたのは私が妊娠したことではなく、別の愛する女と結婚できたことだったなんて…
京介は振り向くと、イラついた様子で言った。
「さすがにタクシー代も払えないなんてことはないだろ」
私は自分を落ち着かせようと何度もまばたきをしてから、やっとこう言った。
「そうよ、paypayで送金してちょうだい」
田中琳子は迷惑そうにそっぽをむいた。京介はばつが悪そうに、数千円送金すると彼女を車に乗せて行ってしまった。
ほどなくもう一台の車が役所の前に停まった。私は息子を抱きかかえてその車に乗り込んだ。
車の中にいた男が、息子を抱き上げてじっと見つめた。
そしてすぐ運転手に命じて、車を別の市役所へと向かわせた。
市役所で入籍の手続きを終え、戸籍謄本と住民票を受け取った。そのまま私と息子は、三國家本宅へと向かった。
男は寡黙ではあったが、私たちのために事前に快適な部屋を用意してくれていた。一晩中私に付き添うベビーシッターをあてがい、赤ちゃん用品まで一式すべて揃えてくれていた。
第4話
夕食を食べ終えたとき、京介が突然メッセージを送ってきた。
息子をどこに連れて行ったのか問い詰めてくるのかと思ったが、開いてみるとただの連絡事項だった。
【俺と琳子は今日は帰らない。息子を頼んだ。
明日は三國家のホームパーティーだ。10時に息子を連れて三國家本宅に来てくれ。今お前は俺の家のベビーシッターだということを忘れないように。万が一遅刻したり、でたらめを話したりするようなことがあれば、もう一生息子と会わせないからな】
私は顔を上げて本宅の趣深い内装をぐるっと見渡した。そして快く「はい」と返信した。
心配無用。遅刻するどころか、京介たちよりも早く到着しているんだから。
/
三國家のパーティー当日、私は晴れの場にふさわしい格式高い着物を着た。浩輝には赤いジャンプスーツを着せて、二階から会場を見下ろしていた。今日は三國家の親戚たちはもちろん、上流階級の超名門一族も数多く集まっていた。
京介と田中琳子ももう到着していた。京介は高級なオーダーメイドスーツで身を包み、田中琳子はタイトなロングスカートを身にまとっている。2人は人々の中を歩き回りながら、お世辞を浴びている最中であった。
「この方が奥様ね、お家柄も釣り合っているし、本当にお似合いのカップルだわ!」
田中琳子は上品に微笑み、グラスを掲げた。
「京介のビジネスに皆さまのご支持を賜っておりますこと、感謝申し上げます。今後さらに良いパートナーシップを築いて、共に成長してまいりましょう」
慌てて何人かが相槌を打った。京介は満足げに田中琳子を見つめており、その眼差しは彼女への好意に満ちていた。
不意にある女性が大声で尋ねた。
「そうだ、京介くん。お嫁さんが三國家の長男を生んでくれたそうじゃないの、なんで今日は連れて来ていないわけ?」
京介は笑顔を崩さない。
「息子はまだ幼いので、このような場に来れば泣きわめいてしまいます。
ですが、ベビーシッターに息子を連れて来るよう言いつけてあります。父上はずっと忙しくてなかなか帰国できないので、なんとしても父に孫の顔を見せてあげなければならないでしょう?」
その場にいた人々が賛同してうなずいた。それから間もなく、京介からのメッセージを受信した。
【今どこにいる?遅刻するなと言ったのに、なぜまだ来ていないんだ!】
スマホを手にとって返信しようとしていたら、突然バタバタとせわしない足音が聞こえてきた。
田中琳子が階段を上ってきたのだ。後ろには青ざめた顔の京介がいる。
周りにたくさん人がいたので、京介は小声で私に告げた。
「父上がまだ来ていないのは、不幸中の幸いだ。父上がいたら、終わっていたところだった。父上は遅刻を何よりも嫌うんだ!」
いい終わると、京介は私が着物を着ていることに初めて気づいた。彼は着物に目を奪われた。
「いつ買った着物だ?着ているのを見たことがないぞ」
田中琳子の目尻が怒りでピクリと動いた。彼女はためらいなく私たちの間に割り込んできた。
「なんでこんな人目を引くような服を着ているの?あなたは私たちのベビーシッターで、奥様ではないのよ!」
京介は我に返って、顔をしかめた。
「琳子の言うとおりだ。ここは三國家のホームパーティーだ。外部の人が見れば、三國家は格式がないと思われてしまう。息子を琳子に渡して、お前は後ろの勝手口から出ていってくれ」
京介が話し終えると田中琳子が浩輝を奪おうとしてきたので、ギュッと指の力を強めて横によけた。
「誰も私の息子を奪うことはできないわ」
「檸檬!俺が言ったことを忘れたのか?言うことを聞かなければ金輪際、浩輝に会わせることはないぞ」
京介は小声で私を脅すと、手を伸ばして浩輝がかぶっている毛布を掴んできた。
私は眉をひそめて、京介の手を振り払った。踵を返して会場へ降りようとしたが、ほんの数歩進んだところで襟をつかまれてしまい、後ろに引きずられた。
襟が首を締め付けていて痛かった。息苦しくてたまらない。
右手で息子を必死に抱きかかえながら、左手を後ろへ伸ばして京介を叩いた。 田中琳子は機を逃さず走り寄ると、歯を食いしばりながら、必死の形相で浩輝の手を掴んだ。
「やめて…浩輝を離して…」
あと少しで二人が浩輝を奪い去ってしまいそうになったその瞬間―― 家政婦の1人がこの状況を目にすると、突如大声で叫んだ。
「奥様!お坊ちゃま!」
田中琳子はその瞬間、腹をくくった。彼女の長く整えられた爪を、浩輝のやわらかい皮膚の中に食い込ませたのだ。
「彼女はあなたのことを奥様って呼んだ…!?道理でそんな目立つ服を着てきたわけね。やっぱりそういうことだったのね…!」
「京介、お母さんと弟を離しなさい!」
浩輝が泣き叫んだ途端、後ろから京介を厳しく叱責する声が響いた。
京介は即座に息を呑んだ。