結婚してから2年、法律上の妻は私ではないことに気づいた

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結婚してから2年、法律上の妻は私ではないことに気づいた

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夫と結婚して2年も経ったが、ペアローンを申し込もうとした時までは、彼の法律上の妻が別人だったことは知らなかった。 そうだったか。私との...

Chương (1)

第1章

夫と結婚して2年も経ったが、ペアローンを申し込もうとした時までは、彼の法律上の妻が別人だったことは知らなかった。 そうだったか。私との「結婚式」というのは単なる私的な儀式に過ぎず、正式に提出された婚姻届には別の女性の名前が書かれたのだ。 法律上では、私は彼の妻ではなく、ただの愛人だった。 傷心して家に帰ると、ドアの外で夫と彼の親友との会話が聞こえた。 「いつも神経が張り詰めているお前を見ていると、こっちまで疲れるよ。まったく!鈴子(すずこ)ちゃんをあれほど愛しているのなら、なぜあの山下美幸(やました みゆき)と婚姻届を出したんだ?お前、一体何を考えているのだ」 宮崎誠(みやさき まこと)は不思議そうに尋ねた。 橋本隆祐(はしもと たかすけ)は複雑な表情を浮かべ、心が混乱しているように口を開いた。 「最初は、美幸のことを鈴子の身代わりだとしか思わなかったが、でも、美幸が去った後、僕は寂しくなり……ほぼ毎日、彼女が恋しくてたまらなかった。結局、彼女をアシスタントとして呼び戻さずにはいられなかった」 数秒後、彼はため息混じりに話し続けた。 「僕には鈴子も美幸も必要だ。だから、鈴子には正々堂々と一緒に暮らしてあげてる。その代わり、美幸には法律上の妻という身分を与えたのだ。公平だろ?」 ドアの外で、私は体が震え、心が引き裂かれるような痛みを感じ、世界が崩れ落ちたような感覚だった。 「鈴子も美幸も必要だ」という彼の言葉を聞いてはじめて、彼が二人の女性を同時に愛してしまったと分かった。 彼は幼なじみの私と一緒にいながらも、愛人も手放したくないようだ。 彼にとって、自分が特別な存在で、彼に至れたり尽くせたりで守られる大切な人だと思い込んでいた。 しかしながら、彼は私をバカにして、私の気持ちを踏みいじった。 真相がわかった時、私は泣きもせず、騒ぎもせず、ただ静かにその場から立ち去った。 そして、計画2件を立て始めた…… 第1話 橋本隆祐(たかもと たかすけ)と結婚して2年目、事業投資のためにペアローンを申し込むことにした。 手続き中、銀行員は手元の「婚姻届受理証明書」とコンピュータ画面と何度も見比べた後、戸惑った表情で私に向って言った。 「お客様、この証明書は間違っているのではありませんか。システムの登録情報を確認した結果、お客様はまだ未婚ですが……」 私は愕然として反論した。 「まさか?そんなはずがありません。2年前も婚姻届を提出しましたわ」 「システムの登録情報では、橋本隆祐様は確かに既婚者ですが、配偶者欄に記載されているのは山下美幸(やました みゆき)という女性の方ですので、申し訳ありませんが、お客様の申し込みはお受けできません」 眉をひそめたその銀行員は、真剣な顔で説明しがら、コンピューター画面を私が見えるように回してくれた。 目を大きくした私の前に、その画面に表示された「山下美幸」といった四文字は、まばゆくて、鋭い刃のように容赦なく私の心臓を貫いた。息をすると、刃がさらに深く突き刺さるように痛みが走る。 全身の力が一瞬で抜けた私は、眩暈をして、目の前が真っ暗になり、とうとう気を失い、床に崩れ落ちた。 意識が戻った時、私がその銀行員に支えられ、椅子に座らせられた。 泣きながらもう一度確認したが、答えは変わらなかった。 その瞬間、光も音も感じなくなり、冷たく漆黒なに湖の底に溺れたようだった。 しばらくした後、私はようやく立ち上がり、銀行を出た。 街を彷徨いながら、自分がゆらゆらと漂う落ち葉のようだと思い、どこへ行けるかもわからなかった。 その時だった。携帯が震えた。隆祐からのメッセージだった。 【鈴ちゃん、重要な会議を抜けて帰ってきたよ。鈴ちゃんが好きなイチゴも買ってきた。鈴ちゃんに会いたくてたまらないから。鈴ちゃんは?僕に会いたいか?】 このメッセージを見たとたん、感情が堪え切れなくなり、涙がこぼれた。 この2年間の間、彼は毎日のように愛の言葉を送ってきた。でも、その愛は本物だったのか? 隆祐とは幼なじみで、深い絆で結ばれていた。 私が彼の最愛の人だと誰も認めた。 しかし、私が留学に行った間に、彼は寂しさのあまりに私の「身代わり」として美幸を見つけた。 結局、本人の私の代わりに、その「私の身代わり」と法律上の夫婦になったとは。 すべては彼の仕組んだ罠だったのか? 気がつくと、自宅のドアの前で立ち止まっていた。中から隆祐と彼の親友である宮崎誠(みやさき まこと)の会話が聞こえた。 「大丈夫か?」 ドアの隙間から、ソファにゆったり寄りかかた隆祐が見えた。何か心配をしているようだった。 「山下美幸はただの胃痛だ。薬を飲めば治るから。君は鈴子(すずこ)ちゃんのそばにいてあげてよ」 誠がそう言ったら、隆祐はほっと安心したようで、ネクタイを外しながら、足を組んだままリビングテーブルに乗せた。 「いつも神経が張り詰めているお前を見ていると、こっちまで疲れるよ。まったく!鈴子ちゃんをあれほど愛しているなら、なぜあの山下美幸と婚姻届を出したんだ?お前、一体何を考えているのだ」 誠は不思議そうに尋ねた。 隆祐は複雑な表情を浮かべ、心が混乱しているように口を開いた。 「最初は、美幸のことを鈴子の身代わりだとしか思わなかったが、でも、美幸が一旦去った後、僕は寂しくなり……ほぼ毎日、彼女が恋しくてたまらなかった。結局、彼女をアシスタントとして呼び戻さずにはいられなかった」 数秒後、彼はため息混じりに話し続けた。 「僕には鈴子も美幸も必要だ。だから、鈴子には正々堂々と一緒に暮らしてあげる。そして、美幸にはこっそり法律上の夫婦になってあげたのだ。公平だろ?」 誠はため息をして言った。 「鈴子ちゃんにバレたらただでは済まないよ。彼女の性格なら、たとえ君が死んで詫びても許されないぞ!」 隆祐の目が暗くなり、冷たい声で言った。 「絶対にバレない。彼女を失いたくないんだ」 第2話 真実が明らかになったその時、私の世界が崩壊し、真っ黒になり、心の中の希望の炎もすっかり消えた。 ドアの外で唇を震わせながらも、声は出せなかった。ただ涙が止まらなく溢れてきて、心の苦痛を物語っていた。 彼の口から出た言葉は何万本の針のように私の胸にぐっと刺さってきて、私が息もできないほど痛かった。あまりの痛さで、最後は何もかも感じられなくなった。 今朝、出かける際に私の頬に優しくキスをした彼。 「鈴ちゃんがいないと生きていけない」とよく言った彼。 私の手を自分の胸に当て、「この心臓は鈴ちゃんだけのために鼓動する」と囁いた彼。 全てが嘘だった。 何かの誤解だと願いつつ帰ってきたのに。 その「鈴子も美幸も必要だ」という彼の言葉を聞いてはじめて、彼が二人の女性を同時に愛していることはよく分かった。 二者択一ではなく、欲張りの彼は幼なじみの私も愛人の彼女も両方を手に入れるつもりだった。 そうだったか。私との「結婚式」というのは単なる私的な儀式に過ぎず、正式に提出された婚姻届には別の女性の名前が書かれたのだ。 法律上では、私は妻ではなく、ただの愛人――いや、世間では最も軽蔑される「不倫相手」でしかなかった。 なんて残酷なことだろう。 これが、彼の誓った「永遠の愛」の正体なのか? 子供の頃、4メートルもした高い木から私のためにリンゴを取ろうとして落下し、両足を骨折した後でも、リンゴを私にわたしながら、彼は笑って言った。 「鈴ちゃん、泣かないで。鈴ちゃんがこのリンゴを食べたら、僕は痛くなくなるよ」 私が16歳の誕生日に、吹雪の中を一晩中待ち続け、目覚めた私に彼は一番最初にプレゼントを渡した。 「鈴ちゃん、誕生日おめでとう」 成人式の日に、西京タワーの下でドローンを飛ばし、大勢の人の祝福の中で花束を捧げた彼は片膝をつき私にプロポーズした。 「鈴ちゃん、20歳になったら結婚しよう」 私が留学に行った日、涙ぐみながら私を抱きしめた彼は言った。 「2年後に帰ってこなかったら、引きずってでも連れ戻すからな」 その後、毎日ビデオ通話をしてきた彼。 一度、学業に勤しんで、彼からのビデオ通話に出られなかった時、酔っ払いで病院まで運ばれた彼の動画を誠から送りつけてきた。 病室のベッドで彼は悲しそうな声で言った。 「鈴ちゃん、愛してる……鈴ちゃんがいないと生きていけないよ」 心配でたまらなくなり、私はすぐに帰国した。 彼にサプライスにしたくて、あえて知らせなかった。 しかし、彼のオフェスのドアを開けたら、目に入ったのは私に似ている女性と熱烈にキスしていた彼。 泣きながら飛びだした私を、彼は狂ったように追いかけて、私を乗せた車の後を何十キロも走った。 彼からの電話やメッセージの着信音は一刻も止まらなかった。 私の家の前で3日間も跪き続け、許しを請ってた。 「この前、酔っぱらってて、彼女を鈴ちゃんと間違えてしまったの」 「鈴ちゃんに会えないから寂しくて寂しくて……だから身代わりを探したんだ」 「彼女とはキスだけした。それ以上は何もしなかった」 「ごめん、本当にごめん。でも僕は別人を鈴ちゃんに間違えるほど鈴ちゃんのことを愛しているんだ……」 弱弱しくなっても立ち去ろうとしない彼を見て、私は情に流され、彼を許してしまった。 その後も彼は以前と同じように私をかわいがってきた。 しかし、結婚直前に、とっくに辞めたはずの美幸が彼のアシスタントになったことに気づき、かんかんと怒った私に、彼はこう慰めた。 「彼女は両親を亡くし、学歴もないから、この仕事を失えば路頭に迷ってしまう。それに正式な選考を経てから採用された職員を私情で解雇するわけにはいかない」 彼を愛していたから、そういう言い訳で我慢した。 なのに、我慢に我慢を重ねた末に、見事に騙された愚か者になった。 だれにも嫌われる「不倫相手」で、法律で認められない「偽りの妻」だった。 私は全てを賭けたが、最後は傷だらけの体と、二度と修復できないほど粉々に砕けた心しか得られなかった。 第3話 夜。 家に帰ったら、隆祐が焦り顔をしてリビングでうろうろと歩き回っていた。 私を見ると、彼は慌てて駆け寄り、私の手を握った。 「鈴ちゃん!どこに行ってたよ?電話も出ないし、チャットの返信もこない。必死に探してたんだよ」 複雑な表情をして彼を見た。私のことを本当に心配しているようだった。 ふと思い出したことがある。大学生の時だった。遠足に行った私は携帯の充電が切れたから、私との連絡が取れなくなった彼は心配で仕方なく、急いでキャンプ場まで探しに行ってくれた。 あの時、私のことを深く愛していたに違いない。 だが、今になり、彼が愛している人は私だけではなくなった。 曽て私への愛は10点だとしたら、いまはそのうちの9点も分け合わされた。 胸が締め付けられるように感じ、息をするたびに刺された痛みが走る。 その苦しみに耐えなければならない。 目を伏せ、すべての感情を押し殺してから、私は平静を装って答えた。 「買い物に行ってたの。携帯をマナーモードにしてたから、気づかなかったの」 実際は、電話に出る気になれなかったのだ。心が乱れていたから。 彼はほっとした様子で、私を抱きしめて言った。 「心配で死にそうだったよ。何かあったかと思って。今度はちゃんと携帯を見るのよ」 私はうなずいた。 彼は私の首筋に軽くキスをし、優しい声で言った。 「さあ、買ってきたイチゴを食べて。肉じゃがも作っておいたよ」 手を引かれたまま、彼に食卓まで導かれた。 私は席に着き、お皿に肉じゃがをたっぷりよそってくれる彼を見つめた。 そのお皿を受け取り、ゆっくりと一口食べた。 美味しかった。 好き嫌いが多かった私のために、それまであまり台所に立たなかったこのCEOは半月もかけて一流シェフから教わり、腕を磨いた。 彼はイチゴを一つ取り、私の口元に運んだ。灯の光に照らされた彼の顔は優しさに満ちていた。 私は口を開けてそのイチゴを食べた。 ほら、どれも愛が溢れている行動だった。 その時だった。彼の携帯が鳴ったのは。 携帯の画面を見ると、彼は表情を変えて数歩下がった。 「鈴ちゃん、ごめん、急用ができた。会社に行かなきゃ。先に寝てていいよ」 私は黙って頭を縦に振った。 彼の慌ただしく出ていく後ろ姿を見て、私は苦笑した。 さっき携帯の画面が見えた。あの電話は美幸からの呼び出しだった。彼女に会うために、彼は私に嘘をついた。 つまり、今まで「残業」を口実に、美幸を会いに行ったんだ。 少し躊躇った後、やはり後を追うことにした。 案の定、隆祐は会社ではなく、病院へ向かった。 私は病室の入り口のドアの前に立ち、窓越しに隆祐が美幸を抱きしめているのを見た。 「夫人の看病はどうなっているんだ?薬を飲ませるだけで吐かせた?」 怒りに満ちた顔で、隆祐は医者や看護師数人を叱責していた。 「申し訳ありません、旦那様。刺激性のある薬を飲ませてしまった……今後は必ず慎重に処方いたします」 医師は頭を下げ、震えながら謝罪した。 「また何かがあったら、この病院は閉めてもらうぞ!」 隆祐は厳しく警告した。 医師と看護師たちは慌てて頷いた。 私は目を細めた。彼は美幸のためにこの病院を丸ごと貸切ることにした。ただの胃の病気でここまで大げさにするということは……彼は本気で心配していたのだ。 私は暗がりに身を隠し、医師と看護師たちが離れた後、再び近づいた。 美幸は弱々しく隆祐の胸に寄りかかり、涙で濡れた顔がいっそう儚げに見えた。 「少しは良くなったか?」 隆祐は優しく彼女の腹部を撫でた。 「うん、だいぶ良くなったの」 「ごめんね、隆祐さん。全部私のせいなの。この体が弱すぎて、薬さえ飲めなくて……鈴子さんとの時間を奪っちゃった。私って厄介者だよね」 美幸は悲しげに、申し訳なさそうに言った。 「馬鹿言うな。君の体が心配だから、そばにいるのは当然だ」 彼は叱ったように言ったが、声は優しかった。 「でも鈴子さんは……?」 美幸が心配そうに聞くと、 「彼女なら気にする必要がない。君はしっかり休んでいいよ。後は僕に任せて」 彼は淡々と言った後、さらにこう言い添えた。 「それに、彼女はただ名目上で僕の女だろう。僕たちこそ本当の夫婦だ。君に付き添うのは当然のことだ」 第4話 その言葉を聞いた瞬間、私は体が震え、血の気が引き、心も冷たい鉛のように重くなった。 彼は認めた。彼女こそが本妻で、私はただの慰みものに過ぎなかった。 いつでも捨てられてもいい存在だった! 初めて恐怖感を覚えた私は、これ以上見る勇気がなくなり、逃げるようにその場を離れた。 家に戻って間もなく、彼からのメッセージが届いた。 【鈴ちゃん、出張で数日家を空けることになっちゃった。怒らないでね、戻ったらちゃんと埋め合わせするから】 チャット画面をじっと見つめたら、涙がその画面に落ちった。入力しようとするが、指が震えた。 【本当に出張?それとも奥さんの付き添い?】 結局、その内容で送信できなかった。 号泣した後、理知的に一字一字削除した。 真実を暴いたところで、どうなる?裏切られても彼のことを受け入れる? いや、無理だった。 だけど、心が乱された私は孤独と迷いで押し潰されそうだった。 四日後、隆祐が帰宅した。 抱えていた大きなバラの花束を私に差し出し、優しく微笑んだ。 「鈴ちゃん、ただいま」 私は平然とした顔で彼をじっと見つめた。 一向に手を伸ばそうとしなかった私に、彼は無理やりに花束を私の手に押し付けた。 「怒らないで。本当に忙しくて、どうしても出張する必要があった。でなきゃ、鈴ちゃんのことをこんなに長く放っておくはずがないでしょう」 私は花束をテーブルに置き、淡々と言った。 「怒ってないわ。仕事があるならそっちを優先して」 落ち着いた私の様子に彼は少し驚いたようだったが、すぐに私の頬に触れ、手を取った。 「サプライズの準備をしたんだ。さあ、行こう」 返事も待たずに、私を車に引っ張り込んだ。 十数分後、私たちはオペラハウスに到着した。 中に入ると、座っていたのは私の知人ばかりだった。ホールを貸し切りにされたことが分かった。 私を見て、皆が囁き合い始めた。 「来たわ、本当にお似合いのカップルね」 「橋本社長は太っ腹だわ、鈴子さんのためにこのオペラハウスを丸ごと貸し切りにしたなんて」 「鈴子さんは舞台劇が好きだから、橋本社長は何百万を掛かり、わざわざ海外から劇団を呼び寄せてあげたそうよ」 「橋本社長は愛妻家で有名でだろう。これくらいはちょろいちょろいだ」 相次いだ羨望の声の中で、私の手を強く握っているの隆祐を見て、心の中で冷笑せずにいられなかった。 心が冷凍庫に閉じ込められたように、底知れぬ冷たさに襲われていた。 表向きは私にロマンティックな思いを、裏では別の女に妻の座を与える。 私を「偽りの妻」に仕立て上げるのに別の女を本妻にしたなんて。 人生においてこれより大きな皮肉がなかった。 着席すると、下腹部に鋭い痛みが走り、思わずお腹を押さえた。 「生理か?痛い?」 隆祐が心配そうに尋ねた。 「生理用品が必要なの」 私は眉をひそめて頷いた。 彼は暖かい手をすぐに私のお腹に当て、優しくさすりながら、スタッフに生理用品と鎮痛剤を届けるよう電話した。 その後もずっと、私のお腹を摩ったり、お湯を飲ませてくれたりして、今まで通りに彼の宝物であるかのように気遣った。 しばらくして、誰かが慌ただしく私たちの後ろに近づいてきた。 私と隆祐と同時に振り向くと、目に入ったのは美幸だった。 「社長、お届けに参りました」 彼女は笑顔を見せたが、顔が青白く、全身が雨で濡れていた。 「どうして君が?他の者に頼んだはずだ。外は雨だぞ?体調が悪いのに、どうしてこんなむちゃなことをしたの」 隆祐は心配そうに詰め寄った。 美幸は唇を噛み、弱々しく訴えるような声で、 「皆忙しくて……社長と鈴子さんを待たせてはいけないと思い、私が届けに来ました」 そしてある紙袋を私に差し出しながら、挑発的な目線に嫌味交じりな口調で私に言った。 「鈴子さん、次回は生理用品などを忘れないでいただけますか。こんな些細なことで社員を雨の中走らせるなんて、少しもったいないではありませんか」 第5話 「美幸、口の利き方に気をつけなさい」 隆祐が軽くたしなめた。 私は複雑な思いで美幸を一瞥し、黙ったまま席を立ち、洗面所に向かった。 「付き添うよ」 隆祐が慌てて私の後を追ってきた。 しかし、私が洗面所から出てきた時、彼の姿はもうそこにはなかった。 帰り際、ふと隣の休憩室から女性の甘い喘ぎ声が聞こえてきた。 直感で私をその扉に近づいた。 そっと扉を少しを開けると、隆祐が をソファに押し倒し、激しく絡み合っているのが見えた。彼らは私に気づいていなかった。 「やめて……鈴子さんが待ってるわ」 美幸は応じながらも拒むように、しなやかな声で囁いた。 「構うものか」 隆祐は目が情熱に曇り、手で彼女の体を撫で回していた。 「でも、隆祐さんがいないと心配するでしょう?」 今度彼女は力強く彼を押しのけた。 「大雨の中をわざわざ会いに来てくれんだろ?君が濡れているのを見て、胸が痛んだよ」 彼は慈愛に満ちた声で彼女の頬に触れた。 「会いたかったの。ほんの一瞬でも……隆祐さんの顔が見られるだけで満足なの」 彼女の声は突然泣きそうに震えた。 それを聞いた隆祐はより慈しむように彼女を抱きしめた。 「僕も会いたかった」 そして、なんと隆祐は首から下げていたペンダントを外し、美幸の首にかけた。 「これはご利益のあるお守りだ。長年身につけていたが、君にあげる。君の安全を守ってくれる」 美幸は感動のあまりで唇を震わせ、彼に熱いキスをした。隆祐も激しく応じた。 二人は愛が満ち溢れるようにキスをし続けた。 拳を固く握りしめ、爪が掌に食い込んだ。 胃がむかむかし、視界はかすみ、心臓が引き裂かれるように痛む。壁に手をつかなければ倒れそうだった。 あのペンダントは普通のお守りではなかった。 寒風の中で、私が何時間もかけ、傷だらけな手やあざだらけの膝を後にし、やっと日が暮れる前に聖ハイレナ山頂の古い教会までたどり着き、正式な儀式を上げた後、この神父に祝福された宝物を手に入れたのだった。 「真心からの祈りでなければ、儀式の意味がない」という神父の言葉をこころに刻んだ。 だから私は血を流し、真摯に祈り、強い信念をそのお守りに込めた。 そのお守りを彼に渡した時、乾きでカサカサになった指とまだ血の滲んでいる手を見つめて、声を震わせて言った。 「鈴ちゃん……どうして僕のためにここまでできたんだ?」 私は笑ってペンダントを彼の首にかけた。 「これで隆祐が生涯平穏無事でいられるよ」 彼に力強く抱きしめられ、深くキスされた。 「ずっと身につける。一生外さない」 それ以来、彼は一度も外したことがない。 なのに今、彼はそれをプレゼントとして別の女に送った。つまり、私が一生懸命に願った平安をほかの女に譲り渡した。 私の贈り物を、全然大切にしてくれなかった! 心臓が見えない手に握りつぶされて、張り裂けそうな胸の痛みで息もできなくなった。 彼の言う「一生」はたった数年で、彼の愛は偽物だった。 あの二人熱いのキスはまだ続いていた。隆祐はすでに手を彼女の服の中に入れて、おっぱいを揉んでいた。 彼女の口から気持ちよさそうな喘ぎ声を漏らした。 「気持ちいい?」 隆祐は動きを加速しながら低い笑い声で聞いた。 「うん……抱かれたい」 顔を赤くした彼女は艶めかしくいって隆祐のあそこに手を差し伸べた。 その行動は見事に隆祐を興奮させた 。 「この小悪魔」 隆祐は甘やかしているように言った後、手を下に移動して女のあそこを模索し始めた。 まもなく、満足できない二人は服も脱がせてまた一歩前に進んだ。 隆祐は彼女をあやした。 「美幸、僕の子を産んでくれ!」 第6話 美幸は声を押さえつけように答えた。 「はい……」 私はもう見ていられなかった。絡み合っている二人の姿を見て、強烈な吐き気してきた同時に、打ちのめされるような衝撃で、足元がふらついた。 痛みが全身に広がり、千本の刃が一斉に心臓を切り刻み、どの傷口から血が滴り落ち、もう癒えることはできない。 隆祐との新婚の夜を思い出した。あの夜、彼は私を痛めつけないように、優しく私を抱いた。その後、私をだきしめた彼は「この一生、鈴ちゃんだけ抱くよ」と誓った。 結婚してからこの2年間、子供が欲しかった私に「鈴ちゃん、体が弱いから」と言い、避妊を続けた。 涙を流しながら懇願しても、彼は決して頷かなかった。 今、彼は別の女を優しく抱き、その女に子供を産ませようとしていた。 体が弱いなんかただの言い訳だった。彼の心の中では、私には彼の子供を産む資格がなかったのだ。 彼は本妻として選んだのは私ではなく彼女だった。 隆祐よ……結局私を裏切ったのか! ショックが大きすぎて、心も体も耐えられなくなり、苦痛に再度襲い掛かられたとき、つい吐血した。 慌てて口を押さえ、荒い息を整え、吐き気を必死でこらえながら、よろめくような足取りでその場を離れた。 何度も転びそうになり、悲嘆に暮れた涙がすでに襟元を濡らしていた。 もういい…… 心が引き裂かれるほど痛んだ後、私は疲れ果てた。 彼が彼女のほうを愛している以上、私にはここに残る意味などなくなった。 私は離れることを決意した。 静かな場所で、誰も見えない傷を舐めたかった。 しばらくして、隆祐は美幸と一緒に戻ってきた。 「鈴ちゃん、外は大雨だし、彼女が公演を見たいと言ったから、彼女を連れてきたの」 彼は優しい目で私を見つめた。 私は頷き、二人の関係を暴かなかった。 公演中、私を抱きしめた彼は、前のようにお腹をさすってくれた。 だが私は知っていた――彼の右手は終始、美幸の手と繋がっていたことを。 私を抱きつつ、別の女と手を繋ぐなんて……彼は十分に楽しんでいたでしょう。 ……もう少しの辛抱だ。 公演終了後、彼は一つのジュエリーボックスを開けた。中には美しいネックレスが光っていた。 「気に入ったか?」 熱烈な視線が送られてきた。 「わあ!高橋社長が特注した「一生一世」と名付けたのネックレスですよ!ものすごく高価なものです」 美幸が羨ましそうに囁いた。 私は軽く頷いた。 隆祐はネックレスを私の首にかけ、褒め称えた。 「とても美しい。鈴ちゃんにぴったりだ」 美幸をちらりと見たら、嫉妬しただろうか、彼女の目にかすかな陰りが浮かんでいた。 その時だった。彼女は体のバランスを崩したように近くの鉄製の扉にぶつかった。 「皆さん、逃げろ!」 誰か呼びかけたが、もう遅かった。鉄の扉が轟音とともに倒れかかってきた。 危機一髪の時、隆祐はさっと美幸を引き寄せ、抱きかかえて難を逃れた。 一方、鉄の扉がみすみすと逃げ遅れた私のほうに倒れてきた。 「ガーン!」 瞬時に倒れた私は鉄の扉の下敷きになり、全然動けなかった。 頭から血が大量に流れ出したせいか、意識が遠のいていった。 気を失う前に、隆祐の慌てた声が聞こえた。 「鈴ちゃん……!」 だが私は知ってしまった――危険が迫ってきたとき、彼が真っ先に守ろうとした相手は私ではないことを。 私は長い夢を見た。 夢の中で、隆祐と美幸が愛し合い、彼が彼女をいたわる姿を見た。 彼は彼女のために盛大な結婚式を挙げ、彼女は彼の子供を産んだ。 私は捨てられ、家から追い出された。 泣きながら隆祐を呼びかけても、相手にされたかった上、「出て行け」と言われた。 幸せそうな一家の姿に、私は腸が千切れるほど悲しんだ。 枕が涙で濡れた。目をかすかに開けたら、抱き合う二人の姿が見えた。 「もう泣かないで。彼女はきっと大丈夫だ」 隆祐は美幸を抱きしめ、背中を優しく叩いていた。 第7話 「ごめんなさい……私が眩暈なんかしなかったら鈴子さんは怪我などしなかったのに……」 美幸は涙ながらに悔やんだ。 「体調が悪かったでしょう、君のせいじゃない。それに……君が僕の妻だよ。責められない」 隆祐は彼女の涙を指で拭きながら囁いた。 「本当……?うう……」 彼女はまだ泣きじゃくっていた。 「もちろん。さあ、もう自分のことを責めないで。あなたって呼んでくれ。それだけで僕は幸せだ」 彼は彼女の涙にキスをした。 「あな……た……」 彼女は頬を染めて言われたとおりに呼んだ。 「いい子だ。心配しないで、ここは僕に任せて、もう帰りな」 隆祐は満足げに笑って、彼女を帰らせた。 ……私は静かに目を閉じた。体中は蟻に噛まれたような痛みは骨まで染みていた。涙は堰を切ったみたい流れ出た。 傷だらけの私を横目に、彼は別の女と睦まじく語らった。なんて滑稽な光景だろう。 怒りに任せて「なぜ私を裏切った」と詰め寄りたかった。彼のひいきも罵りたかった。でも、何の意味がない。 美幸のせいで私がひどいけがもしたのに、彼女を責任を負わせるどころか、責めようともしなかった。 真相が暴かれても、彼女を愛する彼は絶対謝罪などをさせないに違いない。 十分に理解した。彼二人は正真正銘の夫婦で、私はただの部外者なのだ。 愛したり、憎んだり、傷んだりした後、すでに失望した。 愛があればヒステリーになるもので、憎しみがあれば大騒ぎするものだ。 今の私は隆祐に対して、愛もなければ憎しみもなった。 数分後、様々な感情を整えてから目を開くと、彼は慌てて駆け寄った。 「鈴ちゃん!気分はどう?」 無言で額に手をやると、彼は私の手を握りしめて言った。 「あの時はパニックで人を見間違えた……本当にすまなかった」 「……構わないわ」 淡々と答えると、彼は安堵のため息を漏らした 「きっとお腹がすいたでしょう、お粥をちょっと食べよう」とお茶碗を手にしながら寄ってきた。 私は静かに頷いた。 その後数日、隆祐は病室で献身的に世話を焼いた。 だが私の心は動かなかった。冷淡な態度に気付いた彼は、ついに悲しげに私を抱きしめて訴えた。 「僕に怒っているの?」 首を横に振ったら、彼は手を挙げて誓った。 「本当間違えたんだ!何でもするから許してくれ」 真剣な眼差しに、私はふっと笑った。 「じゃ、山下美幸をクビにして!」 彼の瞳が揺れて、即座に断った。 「……もう罰を十分に与えた。それ以上は無理だ」 ……やはり口だけの男だった。 自己中で偽りの彼を見て、ただ虚しさが募った。 そんな時、彼の携帯が鳴った。 すぐそばで電話に出たので、電話越しで美幸の怯えた声が聞こえる。 「あなた、助けて!ごろつきに囲まれてしまった……早く!」 隆祐の顔色が変わった。「どこだ!?」 だが通話は切れてしまった。何度かけ直しても繋がらなかった。 焦燥の末、彼は突然私を睨みつけた。 「鈴!……美幸をどこにやった?」 胸が締めつけられた。私は愕然とした。 「彼女を解放しろ」と彼は怒りを押し殺した声で言った。 ……私が疑われていた。いや、犯人だと断定されていたのだ。 「美幸をいじめようとするやつがいる。彼女に恨みを持つ者はお前しかいない」 私の両腕をぎゅっと掴んでいる彼の顔色が非常に悪かった。 「私の仕業だと思い込んでいるの?」 震える声で問い返し、彼の目をじっと見た。 彼は一瞬躊躇したが、「いや……ただの推測だ」と低い声で答えた。 私は皮肉めいた言い方で聞いた。 「一通の電話だけで私が犯人扱いされてしまったね。彼女とはいったいどういう関係だ?」 何かを意識したように彼は私の目から視線をそらしながら弁解した。 「……彼女は僕のアシスタントだ。今は緊急事態だ。嫉妬する場合じゃない。彼女の安否をとても心配しているから、早く教えて、お前に関わってるでしょう」 私は深呼吸を一回してから、涙くんで彼に答えた。 「嫉妬なんてしていないし、彼女の居所も知らない。私と関係ない!」 だが信用しかねる顔で私を見つめ、彼はますます焦り、疑念も深まるばかりだった。 美幸に何度も何度も電話をかけ直したが、やはり繋がらなかった。 ついに忍耐の糸が切れたのか、彼は私の腕を力強く握り締めて怒鳴った。 「もう彼女に罰を与えただろう!なぜそこまでする必要がある!」 「彼女をいじめようとするなんて卑劣だ!もうふざけないで!今すぐ彼女を解放しろ!居場所を教えろ!」