結婚三年、夫は18回も入籍をキャンセルした

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結婚三年、夫は18回も入籍をキャンセルした

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結婚式を挙げてから三年、パイロットの夫・斎藤智也(さいとうともや)は十八回も私・田中美優(たなかみゆう)との入籍をキャンセルした。 一...

Chương (1)

第1章

結婚式を挙げてから三年、パイロットの夫・斎藤智也(さいとうともや)は十八回も私・田中美優(たなかみゆう)との入籍をキャンセルした。 一度目は、彼の女の弟子・清水花音(しみずかのん)が試験飛行をすると言い出し、私は戸籍課の前で一日中待ち続けた。 二度目は、道中で彼が女の弟子から電話を受け、慌ただしく引き返し、私を道路脇に置き去りにした。 それからというもの、私が彼と入籍の約束をするたびに、彼の女の弟子が必ず何かしらの問題を起こした。 やがて、私は彼のもとを離れる決意をした。 だが白嶺国へ向かう飛行機に乗った時、彼は狂ったように私を追って白嶺国までやって来た。 第1話 結婚して三年、斎藤智也(さいとうともや)はずっと私・田中美優(たなかみゆう)と入籍していない。 今日は彼にとって千回目のフライト成功という節目であり、私との入籍を十七回目に約束した日でもあった。 なのに祝賀会の席で、私が直属の上司に無理やり酒を飲まされている時、彼は自分の女の弟子・清水花音(しみずかのん)と料理を取り合い、酒を飲ませ合っていた。 高熱を押して飲み続け、ほとんど気を失いかけても、彼は私に一瞥すらよこさなかった。 会社の多くの同僚がため息をつき、舌を鳴らし、私を見る目には「報われないね」という色が濃く滲んでいた。 誰のために、体調を押してまで杯を重ねているのかなんて、少し目の利く人間ならすぐに分かった。 だが祝賀会が終わっても、本来なら一緒に戸籍課へ入籍の手続きに行くはずの智也は、またしても約束を破った。 彼は車を店先へつけ、片手で乗り込もうとした私を制した。 「花音がさっき俺の代わりに飲みすぎた。送っていくから、お前はタクシーで帰って。午後の入籍はもう間に合わないな。別の日にしよう!」 そう言うなり、私の反応など気にも留めず、彼は慌ただしく車を降り、花音を抱えて助手席に乗せた。 交際五年、結婚三年。 智也が花音のせいで私との入籍を延期したのは、これで十七回目だ。 いつもなら、私はもう崩れ落ちて大泣きし、彼に食ってかかっていただろう。 「いったい誰があなたの妻なの?さっき誰があなたの盾になって飲んだの?」と。 けれど今回は、私はほんの少し笑ってみせた。 「うん、気をつけて」 智也は一瞬きょとんとし、今日の私の静けさに意外そうな顔をしたが、すぐに冷えた声に戻った。 「夜に戻ったら、プレゼントで埋め合わせする」 そう言ってそのまま車を出し、去り際にはわざわざ花音のために窓を閉め、酔った彼女に風が当たらないよう気を配った。 以前の彼は、車内に酒の匂いが残ることを絶対に許さなかった。 私が彼の代わりに酒を飲んだ後は、真冬でさえオープンにして走っていたくらいで、窓を閉めるなんてあり得なかった。 いま思えば、乗っていたのが私だったからに過ぎない。 桜川町の真昼は全身を汗まみれにするほど暑いのに、私の心だけは妙に冷え切っていた。 大きく息を吸い、戸籍謄本をバッグへ戻した。 この八年の感情も、そろそろ手放す時だと、私は分かっている。 第2話 午後、私はそのまま会社へ戻り、上司に退職届を提出した。 「お前が辞めるって話、智也は知ってるのか?」 上司の原田啓介(はらだけいすけ)は私の退職に驚きを隠せなかった。 なぜなら、私は航空会社で七年連続トップCAに選ばれた存在であり、このまま残れば未来は確実に明るいはずだったからだ。 私は苦く笑った。 「夜に話すつもりです。でも多分、彼は気にも留めないでしょうね」 「はぁ……ここ数年は二人で新しい路線を飛んで、一緒に会社のベストにも選ばれた。三年前の結婚式には社長まで直々に出席して、みんな羨ましがったもんだ。だが……」 啓介は深いため息を吐き、悔しさを滲ませた。 そう、あれは確かに美しい思い出だった。 だが思い出はあくまで思い出に過ぎず、二度と戻ることはない。 退職届を出して家に戻ったのは、夜の十時を過ぎていた。 家の中はやけに静かで、誰もいなかった。 そんな時、花音が私を単独でタグ付けしたSNSの投稿がスマホに飛び込んできた。 【師匠が午後ずっとそばにいてくれてありがとう。そのお礼に、明日はライブにご招待!楽しみにしてます!】 分かっていた。 昼間に「家に帰る」と言っていた智也が、戻ることはもうないと。 こんなこと、結婚してからの三年間で何度繰り返されたか分からない。 私は簡単にインスタント麺を作り、食べながらメールを開いた。 そこには十数カ国の航空会社からのオファーが並んでいた。 カーソルは自然と白嶺国航空の一通に止まり、私は考える間もなく承諾を押し、二日後の白嶺国行きのチケットを予約した。 五年前、智也は白嶺国へのフライト中にキャリア最大の事故に遭い、それ以来「白嶺国」という三文字は彼の禁忌となった。 彼自身だけでなく、私も一度として飛ぶことはなかった。 智也、白嶺国へ行ったら、私たちはきっともう二度と会うことはないだろう。 第3話 翌日の午前、目が覚めた私はすぐに荷物をまとめ始めた。 半分ほど詰め終えたところで、智也がピンク色のシャツを着て帰ってきた。 その背後からは、濃厚なバラの香水の匂いが一緒に流れ込んできた。 私は思わず足を止め、呆然とした。 かつての彼は、香水の匂いを誰よりも嫌っていた。 そのせいで、彼と一緒に過ごした年月の間、私は一度も香水をつけず、大事にしていた香水さえ全部捨ててしまった。 だが今となっては分かった。 彼が嫌っていたのは香水の匂いじゃなく、香水をまとった私だったのだ。 入ってきた彼は、荷物をまとめている私を見て少し驚いたように言った。 「昨夜は花音がなかなか酔いから醒めなくて、俺は一人でホテルを取って泊まったんだ。それで帰れなかった」 私は顔を上げ、彼を見た。 少し意外だった。 結婚して三年、彼が自ら言い訳めいた説明をしたのは初めてだった。 私は軽く頷くだけで、何も言わなかった。 彼はゆっくりと私の前まで来て、視線を落としながら尋ねた。 「荷物まとめてるのは、フライトの仕事でもあるのか?」 私は少しだけ間を置いてから頷いた。 「まあ、そんなところ」 その言葉を聞いた彼は、なぜか安堵の息を吐いたように見えた。 そして続けた。 「今日はちょっと用事がある。物を取りに戻っただけだ。昼飯はいらない」 「うん」 私は顔を上げず、黙々と荷物をまとめ続けた。 本当は昼食の時に、私がもう退職したことを告げて、この八年の感情に区切りをつけようと思っていた。 だが今の様子では、その機会も訪れそうにない。 そう言い残し、智也は赤い袋をひとつ手に取り、玄関に掛けてあった服を取ると、足早に出て行った。 パシャン! 出て行った直後、玄関の壁に掛けられていた八年ものの写真立てが突然落ち、床に叩きつけられた。 ガラス片が四方に飛び散った。 視線を落とすと、それは智也と私が初めて一緒にライブを見に行った時の写真だった。 二人で手を合わせ、満面の笑みを浮かべている。 その夜、彼は私に誓った。 どんなに忙しくても、毎年必ず一緒にライブを見に行こう、と。 だが花音が彼の弟子になってから、その誓いは跡形もなく消えた。 空虚な部屋に、時計の音だけが響いていた。 私は長い沈黙の末、床のガラス片を掃き集めた。 そしてあの幸福に満ちた写真を、わずかに残った未練ごと、ゴミ箱へ投げ入れた。 第4話 夕暮れ時、すべてを片づけ終えた私は、疲れ果ててベッドに横たわっていた。 そんな時、親友から電話がかかってきた。 「智也って一体どうなってるのよ、さすがにひどすぎない? SNS見てみなよ、あの花音ってクソ女とベタベタしてイチャつきを見せつけてるじゃない!まだ離婚もしてないのに、どうしてあんなことができるの?」 親友の吐き捨てるような声を聞きながら、私は何気なくスマホを開いた。 一番上に表示されていたのは、花音が投稿したばかりのSNSだった。 写真の中で、花音の首にはアルハンブラのネックレスが輝き、手には智也が昼に家から持ち出した赤い袋が握られていた。 その瞬間、私は悟った。 彼が昼間帰宅したのは、花音にコンサートの贈り物を渡すためだったのだと。 写真の下には、こんな一文が添えられていた。 【出会って三年、あなたがいてくれて本当に良かった。智也、三周年おめでとう!】 その言葉を目にした時、私はようやく思い出した。 三周年? そうだ、今日は私と智也の結婚三周年の記念日でもあった。 けれどこの記念日は、これまで一度も祝われたことがなく、あまりに色褪せていて、私自身すら忘れてしまっていた。 大きく息を吐き出し、ようやく親友に返した。 「彼に離婚なんて必要ないよ。だって私たちはまだ入籍してないから」 「なに?三年も結婚してるのに?智也って、まだあなたと入籍してなかったの?」 電話の向こうで親友の驚愕した叫びが、鼓膜を突き破るほどに響いた。 そう、もう三年も前に結婚式は挙げたのに、彼は私との入籍を一方的に取りやめ続け、これまでに十七回もキャンセルしたのだ。 第5話 夜の十一時、智也が珍しく家に帰ってきた。 玄関でコートを脱ぎ、ドアの後ろに掛けようとした瞬間、そこにあったはずの私たちの写真がなくなっているのに気づき、彼はぴたりと動きを止めた。 「ドアの後ろの写真、どうしてなくなってる?」 コートも放り出したまま、慌てたように寝室まで来て私に尋ねる。 「落ちて割れたの」 その言葉を聞いた彼は、玄関のゴミ箱に入ったガラスの破片へ視線をやり、ようやく表情を緩めた。 そしてコートを脇に置き、ひとつの袋を取り出した。 中にはLVのバッグが入っていた。 「昨日渡すはずだったプレゼント、間に合わなかった。ちょうど今日は俺たちの結婚三周年だから、このバッグを贈るよ。記念日おめでとう」 ベッドの上にバッグを置かれた瞬間、私は思わず耳を疑った。 三年目にして、彼が結婚記念日を覚えていたなんて。 だがレシートに印刷された三十分前の購入記録を見て、すぐに悟った。 花音のSNSに載っていた「三周年」の言葉を見て、慌てて買ってきただけなのだと。 けれど彼は知らない。 私のクローゼットには、すでに同じ型のバッグが二つ並んでいることを。 私は何も言わず、ただ彼を真っ直ぐに見つめた。 「それと……もうすぐ年末だ。今年の航空会社の表彰、譲ってやれないか?花音は入社して三年、ずっとお前みたいにベストCAを取るのが夢だったんだ。お前はもう何年も続けて獲ってるし、今年は彼女に譲ってくれないか?」 そう口にした彼の顔には、言い淀むような影が差していた。 私は胸の奥で苦く笑った。 なるほど、このついでのプレゼントにも、すでに裏で値札がつけられていたのだ。 「いいよ」 私は静かにうなずいた。 今年だけじゃない、来年も、その先も。 もう航空会社の表彰を彼女と争うことはない。 なぜなら今夜が終われば、明日には私はここを去るのだから。 「……お前、承諾したのか?」 あまりに即答したせいか、智也は思いがけなかったようで、視線の端で何度も私を窺った。 そして堪えきれず、再び口を開いた。 「花音は俺の弟子で、お前はその師母だ。それでこそ筋が通る!そうだ、明日はフライトがないから、午前中に戸籍課へ行って入籍しよう!」 私は黙ったままだった。 彼もようやく、今日私が荷物をまとめていたことを思い出したのか、一拍置いて柔らかく尋ねた。 「忘れてたけど、お前明日復帰フライトなんだろ? 何時の便だ?」 「午後三時」 私は彼を見やりながら、今夜という最後の機会を逃さずに、自分が去ることを伝えようと口を開いた。 だが言葉が続く前に、彼のスマホが鳴り響いた。 花音からだった。 受話口からは甘ったるい声が響き、どうやら生理になったのにナプキンがなくて、智也に助けを求めてきたのだった。 通話を切った彼は、どこか後ろめたそうに私を見た。 「その……花音がちょっと困ってる。一人じゃどうにもならないらしい。俺、行ってやらないと」 その時の彼の口調には、珍しく伺うような響きがあった。 私は喉まで出かかった言葉を飲み込み、笑顔をつくってうなずいた。 「大丈夫、行ってあげて」 その一言に、彼はほっと胸を撫で下ろした。 彼はすぐに立ち上がり、出ていく前にもう一度言った。 「お前が午後三時なら間に合う。明日の午前十時、俺たちで入籍しよう。安心しろ、今度こそ何があっても必ず行くから」 私は苦笑するしかなかった。 結局、彼は私に直接「別れよう」と告げる機会すら与えてくれなかった。 翌日の午前。 私は荷物をまとめ終えると、戸籍課には向かわず、そのまま空港へ出発した。 そして正午になっても、智也からどうして戸籍課に来なかったのかと尋ねる電話は一本もなかった。 午後、いよいよ搭乗が始まろうとした時になって、ようやく彼からメッセージが届いた。 【悪い、花音の体調が優れなくて、病院に連れて行ってたんだ。今日の入籍は間に合わなかった。お前がこのフライトから戻ったら、すぐにでも一緒に戸籍課へ行こう】 その文字を見ても、私の心はもう一滴の波紋すら立たなかった。 やっぱり。十八度目の入籍も、彼は現れなかった。 【もういいよ、智也。私はもう退職した。これから白嶺国へ飛ぶ。今日を最後に、私たちは二度と会わない】 私はそう打ち込み、最後のメッセージを送って、電源を落とそうとした。 だが次の瞬間、長い間沈黙していたチャット画面が、狂ったように震え始めた。