幼馴染と結婚したら、元彼が後悔した

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幼馴染と結婚したら、元彼が後悔した

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二十三回目の結婚式当日。 正木池羽(まさき いけば)は、またしても彼の義妹・和泉榎(いずみ えのき)の「自殺騒ぎ」で式場を飛び出した。 ...

Chương (1)

第1章

二十三回目の結婚式当日。 正木池羽(まさき いけば)は、またしても彼の義妹・和泉榎(いずみ えのき)の「自殺騒ぎ」で式場を飛び出した。 残された私は、嘲笑にさらされた。 「また捨てられた花嫁だ」「縁起でもない」―― 誰もが私を哀れみ、笑った。 けれど私は信じていた。 「すぐ戻る、結婚しよう」 そう言った池羽の言葉を、今回も。 ……そして、今回も裏切られた。 怒り狂う招待客をなだめ、散らかった会場を片づけ、ようやく家に戻った時には、夜も更けていた。 書斎の前を通りかかった瞬間、ドアの向こうから池羽の声が聞こえた。 「榎は精神的に不安定なんだ。付き添うのは当然だろ。 春日部(かすかべ)は、百回式を延ばしても俺から離れないよ」 ……ごめんね、池羽。 今度こそ、期待を裏切ってあげる。 涙をこらえながら、スマホを開く。 そして幼なじみの木戸真弓(きど まゆみ)にメッセージを送った。 【三日後、私たち結婚しよう】 第1話 婚約者が彼の義妹のせいで二十三回目の結婚式ドタキャンをしたその日、さすがに私も決めた。――もう、終わりにしよう。 木戸真弓(きど まゆみ)に別れを報告した直後、スマホが鳴った。 「どうしたんだ?大丈夫か? 待ってて。今すぐ行って、あいつをぶん殴ってやるからな」 返事をする暇もなく、書斎から正木池羽(まさき いけば)が出てきた。 慌てて「大丈夫」とだけ言って通話を切る。 池羽は眉をひそめた。 「今、誰と話してた?」 「……たぶん、詐欺の電話だったみたい」 しつこく確認したが、画面に映る見覚えのない数字を見て、彼はようやく安心した顔をした。 ――愛されてはいない。 でも、支配の仕方だけは誰よりも上手。 池羽の表情がふっと和らぐ。 私の隣に腰を下ろすと、指先で髪をくるくる弄び始めた。 彼はいつもそう。七年一緒にいて、後ろめたいことがあるときほど手癖が増える。 「今日は悪かったよ、また置いてっちゃって。 でも榎がさ、また自殺未遂したんだ。今度は病院から電話があって、心臓止まるかと思った。 医者が言うには、あと数分遅ければ死んでたって」 ――これが二十三回目の謝罪で、和泉榎(いずみ えのき)の二十三回目の「自殺未遂」。 けれど私、偶然あの子の病室を見たことがある。 点滴も刺さってない、元気に動画撮ってた。 私は無意識に彼の手を避け、髪をそっと払いのけた。 「……大丈夫」 大丈夫。どうせ、もうすぐあなたとは終わるんだから。 彼はまた顔を近づけ、私の鼻を指でつついた。 何か言いかけたその時――ピンポーン。 玄関のチャイムが鳴った。 彼は立ち上がってドアを開け、ケーキの箱を持って戻ってきた。 「やっぱり気にしてると思ってさ。君の好きなイチゴのケーキ、買ってきたんだ。 ほら、ちゃんと覚えてるだろ?」 嬉しそうに笑いながら蓋を開ける。 でも。――イチゴケーキが好きなのは、いつだって榎の方。 一度目のドタキャンのあと、埋め合わせにディナーに連れて行かれた私は、誤ってエビを食べて救急搬送された。 二度目のときは、鼻炎持ちの私に犬を買ってきた。 結果、くしゃみ地獄。 ……彼の「埋め合わせ」は、いつも私のツボを正確に外す。 「ほら、食べなよ」 フォークを手にした彼が差し出そうとした瞬間、スマホから動画通話の着信音。 榎専用の通知音だ。 彼はケーキを置き、迷いもせず通話を取る。 「池羽お兄さん、私、どうしよう……水道管が破裂しちゃって…… こんな夜中に業者呼ぶの怖くて……それに、足までケガして……見て?」 カメラが足首に移る。傷は浅くて血すら出ていない。 もう一分もすれば、自然に治りそうなレベル。 それでも彼の声は慌てふためく。 「ちょっと待って、今すぐ行く!」 私を見て、言い訳しようとする。 私はただ頷いた。 「行っていいよ」 以前のように引き留めることも、泣くこともない。 むしろ、これまでより素直だった。 彼は一瞬、驚いたように目を瞬かせ、それから珍しく言った。 「今夜は必ず戻るよ。 彼女、退院したばかりでさ、誰かがついてないと」 榎は彼がボランティア活動をしていた時に知り合った子だ。 親に捨てられ、自殺未遂を起こしたところを池羽が見つけたらしい。 彼は「兄」を名乗り、彼女にこう言ったという。 「もう君には家族がいる。もう一人じゃない。だから、死ぬな」 ――私はずっと、それを彼の優しさの証拠だと思ってた。 友達に「私、彼を選んで間違ってなかったの」なんて笑って言っていた。 今思えば、ただの滑稽な自己暗示。 池羽が出て行ってから、ほんの十分後。 榎からの電話。 「春日部さん、あんたなんか池羽お兄さんと結婚できるわけないじゃん。 見た?私がビデオ通話するだけで、彼すぐ飛んでくるの。 今夜も一緒にいてくれるって。絆創膏まで買ってくれるんだよ?」 ――今回はもう、黙ってる気はなかった。 「お似合いだね、クズ同士。末永く地獄でお幸せに」 榎は笑いながら、ドアが開く音をわざと聞かせてきた。 通話を切ると、私はそのままリビングに座り込んだ。 頭の中は、これまでの記憶でいっぱいになる。 窓の外の光が、少しずつ消えていった。 ――そして、深夜になっても池羽は帰らなかった。 また、嘘をついたのだ。 第2話 もうそのことで悲しみもしなかった。 彼にメッセージを送ることもやめた。 ――もうすぐ、終わるのだ。 そう思ったら、むしろ前よりぐっすり眠れた。 朝早く起きて荷造りを始める。 池羽にもらったプレゼントは全部ゴミ袋に突っ込んで、下のゴミ置き場へ。 出ていく前に、やるべきことがひとつだけ残っていた。 何度もかけて覚えた番号を押す。 「すみません、結婚式、キャンセルでお願いします。もう準備しなくていいです」 担当のスタッフは驚いて、何度も確認してきた。 ずっとあんなに楽しみにしてたから、無理もない。 電話を切った瞬間、部屋の入口に池羽が立っていた。 その隣には――榎。 「キャンセルって、何を?」 理由を作る暇もなく、彼が先に口を開いた。 「まあいい。今は榎のことが先だ」 その声は一方的で、怒りが滲んでいた。 「彼女の彼氏が最低なんだ。責任も取らず、妊娠したって聞いた途端に逃げやがった。 俺は榎の『兄』であり上司でもある。この子には家族も親もいない。 だから俺が守るしかない。だから、しばらくうちに住まわせようと思うんだ。 君にも手伝ってほしい」 榎を不憫に思った池羽は、彼女を義妹として迎え入れただけでなく、職場で苦労しなくてもいいようにと、社長専属アシスタントの地位まで与えた。 ――そして今度は、榎の世話まで私にさせるつもり? 思わず声が荒くなった。 「は?あんた、頭おかしいの?金あるんだから、シッターでも雇えば?」 「榎は体も弱ってるし、二十四時間誰かが見てないとダメなんだ。 俺が一番信頼してるのは君だよ。外の人は信用できない。 な?いい子にして。結婚のことは全部君の好きにするから」 そう言って池羽は、私の肩を優しくつかみ、なだめるように指先で軽く押した。 「この家に、あの子と私、どっちか一人で十分よ」 ほとんど叫ぶようにそう言い放ったあと、全身から力が抜けていくのを感じた。 池羽の顔が一瞬で冷たくなる。 「春日部。俺は『頼んでる』んじゃない」 そう言って電話を取り出し、勝手に会社へかけた。 「春日部の仕事、他の人に回して。しばらく休み取らせる。 ……ああ、そのプロジェクト?彼女抜きで無理なら、中止で」 半年かけて進めたプロジェクトを――たった一言で潰された。 電話を切ると、彼は私を抱き寄せようとした。 「聞き分けろよ。どうせ今会社行っても迷惑かけるだけだ。家で榎のこと頼む」 その時、榎の小さな足音が近づいた。 「あの……池羽お兄さん、私のことで春日部さんにちょっときつく当たっちゃって、本当にごめんなさい。 これから、いろいろお世話になります……」 小動物みたいに俯いて、わざとらしく可哀想な声を出す。 私は顔も見ずに答えた。 「いいわよ。住めば?」 どうせ明日には出ていく。 ――早めに席を譲るだけ。 榎は嬉しそうに池羽に抱きつこうとした。 彼は慌てて止める。 その時、玄関のチャイムが鳴り、池羽が玄関へ向かった。 開いたドアの向こうから、強烈な香水の匂いが流れ込んだ。 入ってきたのは池羽の母・正木桜(まさき さくら)。 「あんた、早く春日部を捨てなさいよ。 何年も付き合って子供もできないなんて、どう考えてもあの女のほうに問題あるでしょ。 ちょうど榎ちゃんも妊娠――」 その瞬間、私が部屋を出た。 桜の顔が引きつる。 池羽は慌てて否定した。 「母さん、何言ってるんだ!榎の子は俺のじゃない!」 桜は気まずそうに目を泳がせ、口元を軽く叩いた。 「あらやだ、また口が滑っちゃった。電話で誰かが妊娠したって聞いたから勘違いして~ 春日部さん、気にしないでね?」 「……大丈夫ですよ、桜さん」 口ではそう言いながら、頭の中は真っ白だった。 ――榎の子は、池羽の。 静かだった心に、巨大な石が投げ込まれたみたいに波紋が広がる。 胸がぎゅっと握り潰されるように痛くて、息ができなかった。 七年間、彼と過ごした日々が、すべて嘘のように思えた。 涙をこらえて目をこすった。 思い出す。 三年目の記念日、彼が言った。 「出産の痛み、俺も体験してみたい」 体験装置をつけた彼は、レベル4まで耐えたところで冷や汗を流し、顔をゆがめた。 私は慌ててスタッフに止めてもらった。 その時、彼は私の手を握って言った。 「たったレベル4でもこんなに痛いのに、ママになるにはそれ以上の痛みに耐えなきゃいけないなんて…… 本当に、ママになりたい女の子を尊敬するよ。 君のことは一生大切にする」 ――あの言葉、全部嘘だったんだね。 夕食が終わって、桜が帰ったあと。 私は静かに部屋を片づけた。 もう明日の準備はできている。 荷物をまとめる私を見て、池羽がわずかに焦った声を出した。 「どうしたの?引っ越しでも?」 「榎さんが快適に寝られるように、部屋整えてるだけ」 彼の目が一瞬柔らかくなった。 「榎のことを手伝ってくれてありがとう。君は本当に優しい。 今週が落ち着いたら、君が前に気に入ってた結婚式場、予約しに行こう」 前回の結婚式では、私が気に入っていた式場が、彼の母に気に入られず、直前で変更された。 でも今の私にとって――あの会場は、もう必要ない。 もし彼が少しでも私を見ていたなら、机の下にあるスーツケースに気づいたはず。 けれど彼は気づかない。 そのままキッチンに行って、榎のためにリンゴを剥いていた。 ――もういい。 明日の今ごろ、私はもう、この家にも、この人のそばにもいない。 第3話 翌日。 池羽は出勤し、家には私と榎だけが残った。 沈黙が、空気を押し潰すように重い。 私はスマホで助手に連絡し、今夜のフライトを確認していた。 そこへ、榎が腰を押さえながらのそのそと近づいてきた。 「昨日あんなに『いい子』ぶっても、池羽お兄さんは絶対あんたなんか好きにならないから!」 顔を上げると、彼女の目がキラリと光った。 まるでスイッチを押されたみたいに、止まらなくなる。 「本当はね、昨日桜さんが言ってた通りよ。 私のお腹の子、池羽お兄さんの子なの」 わざとらしくお腹を突き出して、得意げに笑う。 その時、スマホが震えた。 ――助手からのメッセージ。 【雨天のため、フライトが遅延しております】 私は眉をひそめた。 榎はそれを「怒りの反応」だと勘違いして、さらに声を張った。 「七年も一緒にいて子どもができないって……まさか春日部さん、子どもなんて欲しくないとか?」 口元を手で押さえ、くすっと笑う。 「知らなかったでしょ?彼、いつも言ってるの。 『春日部はベットの中でも死んだ魚みたいでつまらない。 やっぱり榎といる時が一番興奮す』って」 彼女は私が取り乱すと思っていた。 泣くか、怒鳴るか。 けれど、私はただ頷いただけだった。 「……そう」 もう、何も感じなかった。 一昨日までの「未練」も「希望」も、全部どうでもよくなっていた。 私は助手に別の便を予約させた。 お腹が鳴る。 仕方なくキッチンに向かう。 冷蔵庫には、昨夜池羽が医者に相談してまで書き写した「妊婦用メニュー」が貼ってあった。 朝早くに買い物までして、「ちゃんとこれ通りに作れよ」って、彼は何度も念を押していた。 もちろん、全部私の嫌いな食材ばかり。 私は無表情のまま料理を並べた。 榎はご飯を数口食べたあと、急にお腹を押さえてしゃがみ込む。 顔が真っ青で、額に冷や汗。 冷めた目で見ていると、彼女はすぐに池羽へ電話をかけた。 「池羽お兄さん、私、春日部さんの作ったご飯食べたら、お腹が……すごく痛いの…… これって……赤ちゃん、死んじゃうのかな……」 ――完璧な演技。 電話の向こうで、池羽の声が慌てふためく。 「榎、落ち着け!すぐ帰る!」 会社から家まで三十分。 それなのに、十分もしないうちに玄関が開いた。 息を切らした池羽が榎を抱き上げる。 榎は彼の胸に身を預けて、か細い声で言う。 「血が……出てたの。赤ちゃんが、もう……」 「大丈夫だ、今すぐ病院へ行く!」 彼は私を睨みつけた。 七年間一緒にいて、彼がこんなにも取り乱した顔を見たのは初めてだった。 彼が私をこんな目で見たことも、一度もなかった。 「俺があれほど『レシピ通りに作れ』って言ったのに、なんで守れない! もし榎と子どもに何かあったら、結婚式は中止だ! 俺は、そんな悪意のある女とは結婚しない!」 怒りが喉元まで込み上げた。 「彼女は、私の料理なんて食べてない!」 けれど池羽は、私の言葉をまったく聞こうとせず、ドアのそばにいたアシスタントに命じた。 「春日部を連れて、すぐ病院へ行け」 アシスタントに腕をつかまれ、半ば引きずられるように病院へ。 到着するなり、榎の病室の前で。 ――パシン! 頬に焼けるような痛み。 目の前に立っていたのは桜だった。 「このアマッ!うちの孫に何かあったら、あんたなんかすぐに追い出してやる! 最初から反対だったのよ。 ウチの息子にふさわしいのは、榎ちゃんみたいな子!」 毎年、節目ごとに贈り物をして、少しでも認めてもらおうとしてきたのに。 何ひとつ、届いていなかった。 頬を押さえて立ち去ろうとすると、アシスタントが前に立ち塞がった。 「正木社長の命令です。和泉さんが目を覚ますまでは、どこにも行かせられません」 しばらくして、医師の言葉。 「出血も異常もありません。ストレスによる腹痛の錯覚です」 病室のドアが開く。 榎はベッドの上で、池羽に寄り添っていた。 「池羽お兄さん……怖かった……さっき、本気で死ぬかと思ったよ。 でも、あなたが来てくれてよかった……」 池羽はその頭を優しく撫で、微笑む。 「大丈夫だ、俺がいる限り君には何も起きない」 桜も涙を拭いながら胸を撫でおろす。 「うちの榎ちゃん、もう心配させないでね。ほんとに心臓止まるかと思ったわ」 池羽が病室を出て、私の前に来た。 少し顔を伏せ、私の手を取る。 「……悪かった。焦ってて、つい強く言いすぎた。 痛くないか?顔……」 自分の頭を軽く叩きながら、「でも分かってくれよ、榎は妊婦なんだ。特別扱いするのは当然だろ? 俺の心は、いつだって君にあるんだ」 ――笑いが込み上げてきた。 池羽の約束はあまりにも軽く、風よりも薄っぺらい。 彼は大言壮語を並べ立てながら、吐き気がするような言葉を平然と口にした。 「来週、婚姻届出そう。翌日に式だ。 君が欲しがってたネックレスも買った。俺は似合わないと思うけど、君が好きならそれでいい。 新婚旅行もミナリアにしよう。もう計画半分立てた」 私は頷くだけ。 機械のように、感情のない首の動き。 「榎のことは俺が見る。君は今日は休め。明日また来てやってくれ」 それが、最後に交わした言葉だった。 私はそのまま病院を出て、家に戻り、スーツケースを持って空港へ向かった。 搭乗前、スマホのSIMカードを抜き、ゴミ箱に放る。 ――もう、さよならだ。池羽。 その頃、彼は結婚式の最終確認をしていた。 私にメッセージを送っても既読がつかない。 家に帰っても、部屋は空っぽだった。 「春日部はどこだ」 彼はアシスタントを問い詰めたが、返ってきたのは歯切れの悪い答えだった。 「……米沢(よねざわ)さん……その、たぶん飛行機でシオリスに……行かれたみたいで……」