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藤堂社長、この子はあなたの子ではありません!
ある日、会社のトイレで妊娠検査薬を使ってたら、藤堂慎也(とうどう しんや)の秘書に見つかってしまった。 その日の夜、慎也が家に押しかけ...
Chương (1)
第1章
ある日、会社のトイレで妊娠検査薬を使ってたら、藤堂慎也(とうどう しんや)の秘書に見つかってしまった。
その日の夜、慎也が家に押しかけてきた。
「何か月だ?」
私は、おどおどしながら答えた。「2、2か月……くらいかな……」
慎也は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。「堕ろせ!」
それを聞いて私は驚いた。「え?」
「分かってるだろ。俺は隠し子が大嫌いなんだ!お前と結婚なんてするわけない。だから堕ろせ!」と慎也は更に冷たく言い放った。
「はぁ?」
あなたの子でもないのに、どうして私が堕ろさないといけないわけ?
第1話
ある日、会社のトイレで妊娠検査薬を使ってたら、藤堂慎也(とうどう しんや)の秘書に見つかってしまった。
その日の夜、慎也が家に押しかけてきた。
「何か月だ?」
私は、おどおどしながら答えた。「2、2か月……くらいかな……」
慎也は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。「堕ろせ!」
それを聞いて私は驚いた。「え?」
「分かってるだろ。俺は隠し子が大嫌いなんだ!お前と結婚なんてするわけない。だから堕ろせ!」と慎也は更に冷たく言い放った。
「はぁ?」
あなたの子でもないのに、どうして私が堕ろさないといけないわけ?
「堕ろせ!」
慎也の冷たい声が、また響いた。
「これだけは譲れないんだ、それ以上言わせるなよ」
彼はまるで最後の通告でもするかのように言い放った。
私は頭が真っ白になった。
慎也と知り合って20年、付き合って10年になる。
彼は性欲強い方ではあるが、子供に関してはいつも慎重だった。
その証拠に彼のコンドームのストックは、私のナプキンよりも多いくらいだ。
だから、私たちは一度だって無防備でしたことはなかった。
そんな私が、どうやって彼の子を妊娠するんだろう?
だが彼は有無を言わさない様子で歯を食いしばりながら、私を追い詰めた。
「詩織、今回だけは見逃してやる。その子を堕ろせば、何もなかったことにしてやる。でも、もし従わないなら……俺をハメたヤツがどうなるか、知ってるよな!」
この様子だと、彼はどうやら、私がコンドームに何か細工をしたと思っているようだ。
私はそんな彼を見て、ふっと鼻で笑ってしまった。
「慎也、もしかしたらこの子、あなたの子じゃないかもって思わなかったわけ?」
私はここ数日、時々吐き気がして、えずいてしまうことがあった。
そこで今日、どうしても我慢できなくて、こっそり妊娠検査薬を買って、会社のトイレで試してみたんだ。
結果は、くっきり二本線だった。
あまりにも衝撃的で、私は妊娠検査薬を握りしめたままぼーっとしてしまった。そして会社を出てから捨てようと思っていた。
なのに、運悪く慎也の新しいお気に入りの秘書、松浦莉奈(まつうら りな)にばったり会ってしまったのだ。
彼女は、私が持ってる妊娠検査薬を一目で見つけると、瞳をきらりと光らせた。
そんな彼女を見て、私はなんとなくまた面倒なことになりそうな予感がした。
慎也は、隠し子をなによりも嫌っていた。
なぜなら彼自身が、京市一の資産家である藤堂家の隠し子だからだ。
15歳の時、彼の母親は事故で亡くなった。
そこで初めて、彼の父親である藤堂浩(とうどう ひろし)が彼を見つけ出して、カードを一枚渡した。
浩は彼に裕福な暮らしをさせることはできたけど、人前に堂々と息子として認めることはできなかったのだ。
なにせ、浩は妻と政略結婚で結ばれているとはいえ、彼の妻の実家もまた由緒正しい家柄だからだ。
それに、藤堂家にはすでに正式な跡継ぎもいたのだ。
その後、慎也は必死に勉強して、会社を立ち上げた。
彼はいつか藤堂家に戻って、認めてもらえるように自分の力を証明したかったんだ。
「俺は藤堂家の人間だ。結婚は必ず政略結婚になる」
彼はそう言って、私に釘を刺した。
私はただの一般家庭の女の子。
政略結婚なんて、私にはまったく縁のない世界の話だ。
だから、多くを望んじゃいけないんだ。
でも、本当のところ、始めはこんなじゃなかったんだ。
当初、私たちは、同じマンションに住んでた。
彼には父親がいなくて、学校でいつもいじめられていた。
7歳の時、彼の前に立って守ってあげたのは、私だけだった。
その時私は、ただ困っている人を助けてあげたい一心だった。
でも成長するにつれ、彼はどんどん背が高く、かっこよくなっていった。
そして、性格もだんだん強気になっていった。
ついにある時彼は、「詩織、今度は俺がお前を守る番だ」と言ってくれた。
その頃の彼は、かっこよくてお金持ちで、もう思春期の女の子たちの憧れの的だった。
クールで強気な学校の人気者が、私だけを特別扱いしてくれた。
いつの間にか、私もそんな甘やかされた特別扱いにうぬぼれていた。
そして、卒業式の日、彼がキスしてくれたことで私たちようやく確かな恋人となったのだ。
それから、私たちは同じ大学の同じ学部に進んだ。
彼が自分で会社を始めると、手伝ってあげたくて私は内定を断って彼の会社に入った。
最初は、彼も「会社が軌道に乗って、藤堂家に戻れたら、結婚しよう」って言ってくれてた。
確かに、あの後会社は軌道に乗ってどんどん大きくなっていた。
でも、彼は結局、藤堂家には戻れなかった。
私はそれまで、彼に結婚を促してみたものの、彼は「藤堂家に戻らないと、ちゃんとした立場になれない。子供まで俺と同じ思いはさせたくない。だからまだ、お前とは結婚できないんだ」と一点張りだった。
第2話
私たちはそれで、大喧嘩をした。
でも、すぐに仲直り。
それからは、くっついたり、はなれたりのくりかえし。
いつからか、慎也のまわりにはいろんな女の子の影がちらつくようになった。
とくに、彼の秘書。
私たちが喧嘩するたび、慎也は秘書にいやしてもらってたみたい。
そしてその度彼は、「俺を傷つけたのは、お前だろ?それで俺が誰かに話を聞いてもらいたくなるのも当然じゃないか」と言い訳をするのだ。
でも、毎回私たちがよりを戻すと、慎也もあっさり秘書を変えるのだ。
実際、今まで彼が何人の秘書を変えてきたか、私も覚えていないくらいだった。
そんな毎日をくりかえすうちに、ひとつだけ、ひっそりと変わったことがある。
それは――
今までの言い訳が「今はお前と結婚できない」から「お前とは結婚できない」に変わったこと。
「俺は藤堂家の人間だ。いずれは政略結婚することになるだろう。だから、お前とは結婚できない」
このことばをはじめて聞いたのは、二ヶ月まえのこと。
このまえ別れた、ちょうどその日だった。
慎也は、いつものことだと本気にしてなかった。
どうせ、私たちはいつもよりを戻すから。
でも、こんどの私は本気だった。
だけど、慎也は全く信じていないようだった。
「詩織、お前が浮気したってこと?」
彼はそのこと自体がありえないと思っていたのか、思わず吹き出して笑ってしまったのだ。
それは昔から、私は慎也以外の男性と親しくするなんてなかったからだろう。
たとえ、ここ何年か、私たちが別れたりより戻したりを繰り返していたとしても、彼の女性との噂が絶えずにいたとしても、私はいつだって、彼から離れることはなかった。
彼がふりむけば、いつだって私とよりを戻せた。
木村詩織(きむら しおり)は、いつまでも慎也を待っている。
そうやって、彼はそれが当たり前のことかのように信じてやまなかった。
私は慎也の目をみて、まじめな顔で言った。「もう別れたんだから、浮気じゃないよ」
「ふーん。わざと怒らせようとしてる?やきもちをやかせたいの?それとも、こんなこと言えば俺が折れるとでも思った?」
彼はスマホを取りだして、ちょこちょこっと何かを打ちこんだ。
「病院の予約をもうおさえてあるから。明日の朝九時、運転手を迎えにむかわせるよ」
そう言い捨てると、慎也はくるりと背をむけた。有無を言わさないという態度だった。
「慎也!」私は後ろから彼を呼びとめる。「ほんとうに、あなたの子じゃないの。うそをつく理由がないでしょ」
「ふーん」慎也はまったく気にしてない様子で聞き返してきた。「俺の子じゃないなら、誰の子だよ?」
私は口を開きかけたけど、言葉が出てこなかった。
まるで私の心をみすかしたみたいに、慎也はにやっと笑って、また歩きだした。
私はため息をついた。
そして、ほんとのこと言ったら、きっと耐えられないのは彼の方だろうなと密かに思った。
普通なら失恋したら、みんなクラブとかでやけ酒して、ついでに新しい出会いでもさがすんだろうな。
だが私はそう思っていなかった。
だって、クラブの出会いなんて、たいていろくなもんじゃないから。
私は会社を数日休んで、結婚相談所に行って、いちばん高い特別プランに申しこんだ。
お金をかけただけのことはあった。
相談所の人は、すごく積極的だった。
次の日にはもう、ハイスペックな男性をひとり紹介してくれた。
なんでも、上場企業の創業者らしくて、収入もすごいんだとか。
そしてプロフィールには、こう書いてあった。年齢28歳、身長188センチ、体重75キロ……
私はそれを見て黙々と、ある有名モデルのプロフィールを検索してみた。
わっ。
なんと、そのモデルとほとんどおなじ体型じゃないの。
それを確認すると、私はすぐにその結婚相談所に断りの連絡を入れた。
そして、ネットをひらいて検索した。
【結婚相談所詐欺返金】
【悪徳相談所訴える方法】
【ロマンス詐欺にひっかかったら】
すぐに相談所の担当者から電話がかかってきて、必死に私をひきとめてきた。
「木村さん、この方は本当にまじめな方なんです。
どうぞご心配なく。プロフィールはすべて本当です。詐欺なんかじゃありませんから。
名前はまだ言えませんが、お会いすればきっと納得いただけます。すぐに身元がわかる方ですので」
第3話
「どうか、私を信じてください!」
待ち合わせ場所は街の中心だし、安全なところだ。
私は、確かめに行ってみることにした。
あらゆる可能性を考えていた。
まさか、彼だとは思わなかった。
藤堂直樹(とうどう なおき)だ。
結婚相談所の人が「彼の身元はすぐ確認できます」と言っていたのも納得だ。
直樹は経済ニュースや雑誌の常連だ。
誰もなりすましなんてできない。
しかも、私と慎也は昔、こっそり藤堂家のことについていろいろと調べあげていたのだから、藤堂家の人たちのことはすべて知り尽くしていたのだ。
だから、藤堂家と近藤家の正当な後継者である直樹のことを、私が知らないわけがなかった。
彼と慎也は、どことなく似たような顔つきだった。
そして、実際に会ってみると、映像で見るよりずっと彫りが深くて、目鼻立ちもはっきりして凛々しい感じがした。
正直、こういう顔が私のタイプだってことは認めざるを得ない。
じゃなかったら、慎也と何年もくされ縁を続けたりしなかっただろう。
でも、直樹が本気で私とお見合いをしに来たなんて、信じられるわけがないのだ。
だから、挨拶もそこそこに、私は思わず口にした。「あなたたちみたいな名家の跡取りって、みんな政略結婚をするんじゃないの?」
直樹は私のあまりにも率直な質問に、すこし驚いたようだった。
でもすぐに彼は片眉をあげて、少し笑みを浮かべて言った。
「結婚相手すら自分で決められないんじゃ、名家の跡取りなんて言えないよ」
直樹の答えに、私はもっと驚いた。
それじゃ、彼は政略結婚をする必要がないってこと?
慎也のことを思うと、なんだか皮肉な気持ちになった。
とはいえ、直樹が私の結婚相手としてふさわしいってわけじゃない。
いろんなニュース記事を見るかぎり、彼の性格は慎也よりもっと強引なはずだ。
慎也ひとりだけでも、私は心身ともに疲れ果ててしまうのに。
彼以上に強引な相手となると、手に負えるとはとても思えないのだ。
そう思っていると、ウェイターが高級そうな赤ワインを持ってきた。
断ろうとした、その時。私のスマホが立て続けに震えだした。
画面が明るくなって、慎也からのメッセージだとわかった。
【気が済んだら、会社に戻ってこい】
【もういい年なんだから、俺に宥めさせようなんてわがままをいうなよ】
私は呆然とスマホの画面を見つめた。
そして、三通目のメッセージが届いた。
【どうせお前は名家に嫁げるわけないんだから、何をごねてるのか意味がわからない!】
実際、今回別れるきっかけとなった喧嘩の原因は、慎也が私と結婚してくれるかどうかではなかった。
私が本当に絶望したのは、彼が言った「もしかしてお前、玉の輿目当てで俺と付き合ってきたのか?」という一言だった。
私たちはこれでも幼馴染として長く付き合ってきたのに、それが彼の数々のやり方によってもはやかつての情は跡形もないのだ。
そう思いながら直樹に目を向けると、彼はにこやかに私に向かってワイングラスを掲げていた。
その瞬間、私はふと悟った。
どうして人は、恋愛感情を持てる相手を探さなくちゃいけないんだろう?
慎也が私を玉の輿狙いだと言うのなら、いっそ本当にそうなってやらないと、ぬれぎぬを着せられたままで損じゃないか。
しかも相手はお金持ちでイケメンだ。これはどう考えても損する話じゃない。
それに相手が直樹だと思うと、なんだか妙にスカッとするのだ。
次の日、私が病院へ行かないと思ったのか、慎也が自ら家まで迎えにきた。
私がのんびりと目玉焼きを食べていると、彼は何度も腕時計に目をやった。
「わざと時間を稼いでるのか?
引き延ばしたって無駄だ。今日は絶対に行ってもらうからな」
私は可笑しくなって彼を見た。
「考えすぎよ。ただ、これまでずっと急ぎすぎてきたから、たまにはこうしてゆっくり生活を楽しむのも悪くないなって思っただけ」
慎也は一瞬黙って、それから珍しくやさしい表情を見せた。
「長期休暇をやるから手術が終わったらゆっくり休め。莉奈に頼んで、世話をしてくれる使用人を手配もさせるよ」
「長期休暇なんていらないから。これにサインしてくれれば、それでいい」
それは、私が昨夜徹夜で書いた退職届だった。
それを見て慎也の顔色が変わった。「冗談がきついぞ」
私は、彼がゼロから事業を立ち上げるのをずっと支えてきた。
彼は父親のお金を受け取りたがらなかった。だから最初の出資金は、私が胃を壊すほどお酒を飲んで調達した。会社の中心メンバーも私がひとり、ひとり必死に説得して引き抜いてきたのだ。そして何と言っても、一番難しいクライアントだって、私が何日も徹夜してやっと契約に漕ぎつけたのだ。
第4話
そして私が会社の創業メンバーで役員もしてることから、周りからはもうお金に困らない生活をしていると思われているようだ。
だけど、実際のところ、慎也がくれるお給料は悪くなかったけど、これだけ長く働いても、会社の株は少しももらえなかった。
いろんな会社から引き抜きの話をもらったこともあったが、それでも、私は全部断ってきた。
だから、慎也が一番羨ましがられているのは、若くして成功を収めたことではなく、彼を絶対に裏切ることのない詩織がいることだとも言われている。
慎也もまたそう言われる度に、笑ってこう答えた。「会社は詩織のものでもあるからね」って。
その一言で、私が会社の株の半分を持ってるっていう噂が広まった。
もちろん、その噂は慎也の耳にも入っていた。
でも、彼はその時、なにも言わなかったし、私の立場を顧みることもなかった。
そんな慎也は今私が辞職をすることに少し不機嫌ではあったが、どうやら自覚があったようで、口調をいくらか和らいで言った。
「お前が頑張ってきたのはわかってる。もちろん、悪いようにはしないよ。昇給でも株でも、お前が望むならなんでも言ってくれ。相談に乗るから」
だが、私は首を横に振った。もう、遅い。
彼がサインするまで、私は座ったまま動かなかった。
しばらくして、慎也は諦めたように首を振り、ペンを手に取った。
「わかったよ」彼は流れるような字でサインすると、少しからかうように言った。「ゆっくり休んで、また戻っておいで。ポジションは空けておくからさ。まあ、勤続年数はゼロからになるけどね」
そう言うと慎也は立ち上がった。「運転手が下で待たせてあるから、とりあえずもう行こう」
私はうなずいて、立ち上がって靴を履き、彼と一緒に下へ降りた。
慎也が車のドアを開けて、乗るようにうながした。
でも私は彼を通り過ぎて、隣に停まっていた別の限定モデルのベントレーにまっすぐ向かった。
大柄なボディーガードがドアを開けると、そばにいた若い女性が私に丁寧にお辞儀をした。
「木村さん、はじめまして。私は栄養士です。社長は海外で手が離せないため、代わりに私が検診にご一緒致します。
私立病院に向かいますので、プライバシーはご心配いりません。検査後はそのまま高台の別荘へお送りします。あちらは環境がよく、お身体にも良いですから。生活用品はすべて用意してありますので、もし他に何か必要なら、執事になんなりとお申し付けください」
昨日、私は直樹に、妊娠したかもしれないと伝えた。
彼は海外にいるのに、すぐに私の世話をする人を手配してくれた。
今朝早く、運転手がマンションの下に着いたと連絡をくれた。
だから、彼らはもう二時間も下で待ってくれていたことになる。
そして私は、慎也にサインさせるために、わざと時間を引き延ばしていたのだ。
慎也と違って、彼らは一度も私を急かさなかった。
私は栄養士にうなずき、申し訳ない気持ちで言った。「お待たせしました」
私が車に乗ろうとした瞬間、ドアが慎也に強く引かれた。
そして彼は怒りを露わにして、叫びあがった。「あなたたちは誰だ!」
そう言いながら、彼は手を伸ばし、私を引きずり出そうとした。
すぐにボディーガードが前に出て慎也を振り払い、大きな体で私をかばってくれた。
「どこへ行く気だ!」
私からこんな扱いを受けたことがない慎也は、信じられないといった怒りを声ににじませていた。
「見てわかるでしょ?」私は冷静な声で答えた。「産婦人科の検診に行くの」
「検診だと?俺が産むことを許したとでも思ってるのか?
詩織!お前は、自分が俺にとって特別な存在で、なんだって許されるとでも思ってるのか!」
「この子はあなたの子じゃないって言ったでしょ。私が産むかどうかなんて、あなたには関係ない」
慎也がまた私を掴もうと前に出たが、ボディーガードにがっちり阻まれた。
栄養士の女性が厳しい顔で言い放った。「そちらの方!うちの社長の婚約者に対して、態度を改めてください!」
慎也は高そうな車と、よく訓練された人たちを一瞥し、あざけるような笑みを浮かべた。
第5話
「大金はたいて、プロの役者まで雇って。それも全部、俺を怒らせるためか?
詩織、いつからそんなにくだらない女になったんだ?」
そんな慎也を見ていると、私はなんだか急に哀れに思えてきた。
この期に及んでも、この男はまだ自分が世界の中心で、私の行動はすべて彼の気を引くためだと思い込んでいる。
栄養士が言った。「私たちは役者じゃありません。邪魔はしないでいただけますか」
慎也は鼻で笑って言った。「じゃあ、あなたたちの社長は誰なんだ?」
私は二人の話を遮った。「慎也!あなたのためにならないから聞かない方がいいよ。これが私のせめての思いやりだから」
そう言いながら、私はスマホですぐに通報番号を押した。
「これ以上騒ぐなら通報するから。私はニュースになっても構わないわよ」
慎也の会社はちょうどシリーズCの資金調達を準備しているところ。スキャンダルは絶対に避けたいはず。
案の定彼はそれを聞いて、ぱっと手を離した。
でも、その後、彼の車はこちらの後ろをぴったりとついてきたのだ。
すると運転手が「まきましょうか?」と聞いてきた。
私は首を振った。慎也の好きにさせればいいやと思ったから。
彼がどうしても真相を確かめたいっていうなら、私はそれでも別に構わなかった。
だって、気まずい思いをするのは私じゃないもの。
慎也は病院までついてきたけれど、入口で警備員に止められていた。
私が検査を終えて戻ると、彼はものすごく不機嫌な顔をしていた。
私が診察室に入っている間、慎也もただぼーっと待っていたわけじゃないみたい。
彼の人脈があれば、この病院が直樹の資産だと調べるのは簡単だ。
慎也が藤堂家の後継者と認められるための、最大の障壁。それが直樹だ。
昔の私は慎也側に立っていたから、直樹が経営する会社の製品は絶対に使わなかったし、彼がインタビューで好きだと言ったお店にさえ、二度と近づかなかった。
そんな私が今日、直樹の病院に来た。慎也にしてみれば、これは完全な裏切り行為だ。
彼は唇をきつく引き結んで、冷たい視線で私をじっと見つめた。
今までの慎也なら、この顔は本気で怒っているサインだった。
そして、いつもなら私は先に折れて謝っていた。
でも今回は、私は彼に構うことなく、その場を立ち去った。
傍を通る時、慎也の体が、一瞬だけ硬直するのがわかった。
そして彼は大声で叫ぶのを聞いた。「詩織!俺が遠慮しているからって、いい気になるなよ!」
慎也が言い終わるのと同時に、屈強なボディーガードが十数人、私たちを取り囲んだ。
「俺を怒らせたくて、わざわざこの病院で芝居を打ったんだろ。お前の勝ちだよ。でも、だからってこの子を産むのを俺が許すと思うな」
それを聞いて私は耳を疑った。「慎也、あなた正気なの!こんなことして、犯罪だからね!」
彼は首を横に振った。「俺の許可なく、お前が勝手にこの子を産む権利なんてないんだよ」
もう、お手上げだ。向こうは数が多すぎる。力ずくじゃ勝ち目はない。
こうなったら、もっとはっきり言うしかない。
「この子は、私と直樹さんの子よ。あなたに何の関係があるっていうの?」
慎也はあざ笑うように、口の端をくいっと上げた。
「相手が他の誰かなら、少しは信じたかもしれない。でも、あいつだけは絶対にあり得ない。
お前ってやつは、いつもそうだよな。あいつの名前を出せば俺がキレるって、わかってて嘘をつくんだろ?
女が感情的になると頭が回らなくなるその悪い癖、仕事にまで持ち込むなよ」
そんな彼に私は、思わず呆れかえるのをぐっとこらえた。
「まあいい。今日のお前はちょっとやりすぎたが、俺はお前のすることはいつも大目にみてきたからな。今すぐ俺と一緒に来て、この子を堕ろせ。そうすれば、今日のことはなかったことにしてやる」
慎也のそばにいたボディーガード数人が前に出てくると、私の両脇をがっちり固めて車へと引きずっていこうとした。