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インキュバスの育成ルール
私はネット通販で、イケメンでクールなインキュバスを一体ポチった。 けど、届いたそいつはなんかずっと唸ってるし、私をじっと見つめてくるし...
Chương (1)
第1章
私はネット通販で、イケメンでクールなインキュバスを一体ポチった。
けど、届いたそいつはなんかずっと唸ってるし、私をじっと見つめてくるし、体温も死ぬほど熱い。
病気なんじゃないかって心配になって、私は慌ててサポートセンターに問い合わせた。
私の説明を聞き終わった担当者は、黙り込んでしまった。
【お客様……もしかしてそのインキュバスは病気なんじゃなくて、ただお腹が空きすぎて……お客様とキスしたいとか、何か他の『悪いコト』がしたいだけ、とかじゃないですかね?】
第1話
私はネット通販で、大金叩いてインキュバスを一体ポチった。
商品詳細によれば、このインキュバスはイケメン、クール、そして腹筋はバキバキに割れていて、腰つきもヤバいらしい。
そして何より、「めっちゃデキる」らしい。この特性が私の心にブッ刺さった。迷うことなく、秒でポチった。
ところが注文した直後、サポートからDMが来た。
【お客様、いらっしゃいますか?】
【どうしたの?】
【先ほどご注文いただいたインキュバスですが、容姿は申し分ないものの、少々気難しい面がございまして。その上、成熟期を迎えているため、精力も……少々強すぎるきらいがございます。
もしこのタイプがお気に召さないようでしたら、一度キャンセルしていただき、当店から別の優しいタイプのインキュバスをお勧めすることも可能ですが】
私は返した。
【いらない。そういうクールで『デキる』タイプが、今すぐ必要なの】
するとサポートは、どこか意味深な祝福を送ってきた。
【承知いたしました。では、予定通りお客様のご自宅へ到着いたします。彼との毎日が、どうぞ幸せでありますように~】
数日後。広い肩幅に引き締まったくびれ、冷たい顔立ちのインキュバスが、我が家のドアをノックした。
彼を見た瞬間、私は一瞬我を忘れた。
インキュバスが一族揃って美形ぞろいで、容姿が人並外れているのは人類共通の認識だ。
けど、それにしてもイケメンすぎない?事情を知らなければ、どこかの高貴でクールなお坊ちゃまが、血迷ってホストにでもなったのかと誤解するレベルだ。
「ご主人様」
インキュバスが私を呼んだ。
その声はひどく冷めている。なのに、ふわふわした小さなブラシで耳の中をくすぐられるような、妙なむず痒さを感じた。
私は気恥ずかしさから手を振る。
「べ、別に主人なんて呼ばなくていいから。水野汐(みずの しお)……汐でいいよ。あ、あなたの名前は?」
「俺は朱鷺宮廻(ときのみや めぐる)」
そう言うと、廻は自分の尻尾を私の目の前に差し出した。先端が小さなハート型になっている、綺麗な尻尾だ。
「規則上、あなたが俺の尻尾を握らないと、引き渡し完了にならない」
「あ、はいはい」
私は慌ててその尻尾を握った。スベスベしていて柔らかい。オモチャのような、不思議な感触。思わずむぎゅっと握りしめてしまった。
「ん……っ」
廻が不意に息を詰めたような声を漏らす。力を入れすぎて痛かったのかと、私は慌てて尻尾を離して謝った。
「ご、ごめん。痛かった?」
廻は私をじっと見下ろし、喉仏を小さく動かした。喉の奥から、かすかに奇妙な音が響いている。ゴロゴロと。
「いや、こっちの心構えが足りなかっただけだ」
「そっ、そっか、よかった」
彼が緊張しすぎているのだと思い、私は慌てて慰めた。
「そんな緊張しなくていいよ。ちょっと休む?これから、いっぱい『力仕事』が待ってるんだから」
「あなたが望むなら、今すぐでも構わない」
「今?」
私は少し戸惑った。
「ん……まあ、いっか」
「ああ」
廻の喉の音が一層、はっきりとしてきた。
私は彼の手首を掴んで、優しく声をかける。
「なんでまだそんな緊張してるの?
大丈夫、ヤっちゃえばすぐに慣れるから。ほら、こっち来て」
廻は素直に私の後について、キッチンへと入った。そして、ピタリと固まった。
「……キッチンで?」
「そうだけど。どうかした?ベッドルームからのほうが良かった?」
気を利かせて尋ねてみた。
彼の視線が重く熱っぽくなる。
「……キッチンでいい」
私は頷いて、彼に向き直る。
そして、その熱い視線を浴びながら、新品の雑巾を彼の手のひらに押し付けた。
私は優しく告げた。
「はい、廻。今日は『デキる』インキュバスのあなたに、家事を手伝ってもらいたいの。食器洗い、できるよね?」
「……食、食器洗い?」
第2話
廻は手元の雑巾を見つめ、呆然とした表情を浮かべた。その顔には「困惑」「混乱」「理解不能」と書いてあるようだった。
「そうだよ。もし洗い物ができないなら、床拭きとか、掃除とか、洗濯とか、他の家事でもいいから適当にやって」
彼は信じられないような様子で問いかけてきた。
「待て。あなた、俺を買ったのは……家事をさせるためなのか?」
私は瞬きをした。
「そうだけど。それ以外に何があるの?」
「……」
次の瞬間、インキュバスの喉から鳴っていたあの奇妙な音が、ピタリと止んだ。
その通り。私が廻を買ったのは、家事をさせるためだ。
この名案は、同僚の雑談を耳にした時に思いついた。
その同僚もまた、ネット通販でインキュバスを購入していたのだ。
給湯室で彼女はいつも、「うちのインキュバスったら働き者で素直なの。料理も洗濯も、家事全般を自ら進んでやってくれるし、毎晩もう死ぬほど幸せよ」と惚気けていた。
他の同僚たちがニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる中、どこか抜けている私は、あるキーワードだけをキャッチしたのだ。
家事を手伝ってくれる!
私の目が輝いた。社畜である私は、日々の激務に追われて部屋を片付ける暇もない。おかげで家の中はゴミ屋敷寸前の惨状だった。それが結構な悩みだったのだ。
だから、家事のできるインキュバスなんて、コスパ最強じゃないか。それが、私が一番「デキる」と評判の廻をポチった理由だ。
キッチンで仏頂面のまま皿を洗っている大きな背中を一瞥し、私は快適なベッドで眠りについた。
それから一週間、この有能なインキュバス・廻は、黙々と家事をこなし始めた。
最初は少し手際が悪かったが、二日もすれば完璧に慣れてしまった。すごく賢い。
起きれば布団を畳んでくれる。顔を洗えばタオルを渡してくれる。仕事から帰れば、豪華な夕食ができている。寝る前には、ベッドを温めておいてくれるサービス付きだ。
彼の残り香と体温で温められた布団に潜り込むと、私は満足げにため息をつき、骨抜きにされた気分になる。
いい。すごくいい。さすが最高級のインキュバスだ。あまりにも実用的すぎる。
唯一の疑問は、廻がずっと鳴っていることだ。喉の奥で、ゴロゴロと。
最初は環境が変わって怯えているのか、緊張しているのかと思った。でも一ヶ月経っても、彼はまだ鳴っている。
毎晩、私のベッドの脇に座り込み、喋りもせず、一人遊びもせず。ただじっと、瞬きもせずに私を見つめている。綺麗な尻尾が床をパタパタと振っている。その姿はどこか……恨めしそうで、切なそうだ。
心配になって廻の額に触れてみた。熱い。このインキュバス、何か重い病気にかかってるんじゃ?
私は慌ててベッドの横を叩いた。
「廻、今日は床じゃなくて、私の隣で寝ていいよ」
「……ベッドで寝ていいのか?」
廻が固まる。
私は居たたまれない気持ちで彼の手を握った。
「もちろん。これからはずっと隣で寝ていいから」
許可を得た廻は、自分の布団を抱えて私の隣に横になった。
美しく冷ややかなインキュバスが、私のピンクの枕に顔を埋めている。
重力に負けて顔が崩れることもなく、その造形は立体的で美しいままだ。目の保養としか言いようがない。思わずソワソワしてきた。
ただ、彼は相変わらず喉を鳴らしているし、体温も恐ろしく高い。
「廻、今日はゆっくり休んで。明日の朝ごはんも作らなくていいから」
「だが、腹が減るだろ」
「コンビニで何か買って食べるよ」
「体に悪い。俺が作る」
彼は私を見つめている。いや、正確には私が喋るたびに動く唇を、暗く、熱っぽい瞳で見つめている。
鈍感な私は、ただただ感動していた。
ううっ。なんて健気で優しいインキュバスなの。
私が雑な扱いをしたせいで、体調を崩させてしまったのかもしれない。罪悪感に駆られた私は、思わず身を乗り出し、お詫びの印として彼の額にキスをした。
廻の睫毛が、ピクリと震えた。
第3話
呼吸がわずかに止まる。廻は私の名前を呼んだ。その声は、熱っぽく掠れていた。
「汐……」
彼が腕を上げて抱きつこうとしたその瞬間、まだ異常に気づいていない私はサッと身を引くと、親切心から甲斐甲斐しく布団をかけ直してあげた。
上げようとした彼の手も、不穏にゆらゆら動く尻尾も、すべて無理やり布団の中に簀巻きにした。
風邪が悪化したら大変だと、私はわざと真顔を作って警告した。
「いい子にして。暴れちゃダメ。布団を蹴るのも禁止だからね」
「……」
廻はこの世の終わりみたいな顔をして目を閉じた。
電気を消して、私は廻に背を向けて横になった。
スマホを取り出し、沈痛な面持ちでアフターサービスのチャット画面を開く。
【すみません、うちのインキュバス、なんか様子がおかしいんだけど】
すぐに返信が来た。
【お客様、飼育に関する基本的なトラブルについては、『インキュバス飼育マニュアル』をご参照ください】
【申し訳ございません。前回、マニュアルをお送りするのを忘れておりました】
私は憂鬱な気分で返事をした。
【いいよ。でもマニュアルじゃ解決しないと思う。たぶん病気だから。それも結構重い病気】
担当者は心配そうに尋ねてきた。
【お客様、そのインキュバスの症状を詳しく教えていただけますか?】
【ずっと喉を鳴らしてるし、体温も異常に高いし、いつも恨めしそうに私をじっと見てくるの】
【それは正常ですよ。お客様と一緒にいるのが嬉しいという証拠です】
私は驚き、そして喜んだ。
【なんだ、正常だったんだ。毎日家事をさせてたから、疲れが溜まって病気になったのかと思った】
担当者が動揺したのがわかった。
【家事?】
【ちょっと待ってください、お客様はインキュバスに家事をさせているんですか??】
私はきょとんとした。
【違うの?広告に『すごくデキるから、人間に極上の幸せを与える』って書いてあったじゃん】
【……】
【なるほど、それでインキュバスの様子がおかしかったんですね】
担当者は何か言いたげだ。その言葉に、私はまた焦り始めた。
【え、じゃあやっぱり病気なの?】
【お客様、彼は病気ではありません。ただお腹が空いているだけです】
【お腹?ちゃんと毎日ご飯食べてるよ】
意味がわからない。
担当者は呆れたのか、怒涛の勢いで長文を送ってきた。
【食事の空腹ではありません。お客様とキスしたいとか、もっとイケないことをしたいという意味での『飢え』です】
【そもそもインキュバスは家事をするためのものではなく、人間の欲望を解消するための存在です】
【つまり、お客様のインキュバスは、今まさに極限状態まで飢えており、お客様を貪りたいと思っているのです】
【ただ、その熱烈な視線も、暖簾に腕押しだったようですが】
最後に、ニッコリ笑う絵文字が送られてきた。
私を貪りたい?飢えてる?マジで?
慌てて一度も開いていなかったインキュバス飼育マニュアルを熟読して、私は黙り込んだ。
インキュバスは家事用じゃなかったんだ。
あの「デキる」って、家事じゃなくて、そっちの意味で「デキる」だったのか。
私は振り返った。寝ていたはずのインキュバスが、いつの間にか目を覚ましていた。彼は今、恨めしそうに私をじっと見つめていて、その瞳孔はなんとハートの形になっていた。
尻尾が、触れるか触れないかの絶妙な距離で、布団越しに私の腰へしつこく寄り添っている。
力がこもっていなかったので、今まで気づかなかったのだ。私が振り返ると、彼はビクッとして、慌てて尻尾を隠した。
それでも我慢できなかったのか、もぞもぞと身を寄せてきて、切なげに私を呼んだ。
低い声は、ミント味のキャンディを含んでいるみたいに、清涼だけど甘ったるい。
「ご主人様……苦しい」
「……」
数日前も同じことを言っていた。あんな風に甘えた声で呼んできたけど、私はてっきり風邪を引いて甘えているんだと思っていた。
だから、親切のつもりで、無理やりお湯を何杯も飲ませたのだ。
いや、効果はあった。その夜、彼はもう鳴かなかったから。ただ顔色は最悪で、拗ねた子犬みたいになっていたけれど。
でも今は……
担当者の言葉を思い出し、私は罪悪感から小さく咳払いをした。そして、自分の布団をめくった。
「じゃあ……私の布団に入ってくる?」
廻は固まり、すぐにしゃがれた声で答えた。
「入る」
第4話
廻は光の速さで私の布団に潜り込んできた。
いつの間にか上着を脱いでいるのはどういうわけだ。
バキバキに割れた腹筋と引き締まった腰つきが、私の目を焼きつくさんばかりに輝いている。
彼は枕に散らばった私の髪の毛先に、そっと顔を寄せた。
そして上目遣いで、私をじっと見つめてくる。眉間から唇まで、舐めるように。その眼差しは重く、貪欲だ。
……
いくら「鈍感力」MAXの私でも、今隣に寝ているのが無口な「犬」なんかじゃないことはわかる。
これは、侵略本能むき出しの「狼」だ。
ただ、主人の許可がないから、爪を立ててこないだけだ。
私はコホンと咳払いをし、気まずそうに謝った。
「廻、ごめんね。インキュバスなんて飼ったことなかったから、生態を全然知らなくて……てっきり家事ロボットみたいなものかと勘違いしてたの」
「気にしないで。汐のために家事をするのは好きだから」
そう言っている間にも、彼の喉の音は激しさを増していく。
もはや急かすようなリズムだ。
私はゴクリと唾を飲み込み、さっき読んだマニュアルの最初のアドバイスを思い出した。
【インキュバスが飢えている時は、まず自分から抱きしめさせてあげましょう。主人の体温と匂いは、彼らの焦燥感と渇きを効果的に癒やします】
だから私は言った。
「廻、もし本当に辛いなら、私を抱きしめてもいいよ」
「……いいのか?」
彼の目が輝き、腕を伸ばして私を抱きしめた。
最初は行儀が良かった。だがすぐに、私が顔を赤くするだけで嫌がっていないのを見て取ると、彼は大胆になってきた。
片手で背中を押し、もう片方の手で腰を抱く。尻尾は私の太ももにピタリと吸い付いている。首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ回り、熱い吐息を吹きかけてくる。
私の意識がだんだん朦朧としてきた。
ヤバい。このインキュバスの腹筋、ガチで本物だ。なんか、マジで値段以上の価値がある気がする。
廻はしばらくすり寄っていたが、突然しゃがれた声で言った。
「汐……まだ苦しい」
こっそり腹筋の形状を観察してのぼせ上がっていた私は、無意識に聞き返した。
「じゃあ、どうしたいの?」
彼は顔を上げた。
「……キスしても、いいか?」
「……」
私は躊躇った。
「それはちょっと……」
さすがに親密すぎる。正直、恥ずかしい。
廻はガックリと目を伏せた。
「わかった。大丈夫だ。実はそこまで辛くないし、抱きしめていれば何とか耐えられると思う。
おやすみ、ご主人様。俺のことは心配しないで。明日も早起きして朝ごはんを作るから」
「……」
おかしい。
どこからか「あざとい」匂いがする気がする。
でも、すっかり絆されている私はすぐに心配になった。
「誤解しないで、他意はないの。ただキスはちょっと早いかなって思っただけで……それに、そんなに我慢しないで。飼った以上、責任は取るから」
「本当か?」
「本当。キスしたいならしていいよ。でも一回だけね」
私は恥ずかしそうに唇を引き結んだ。
「ありがとう、ご主人様」
廻は私の首筋から顔を上げた。すぐに飢えた獣のように唇を奪われるかと思ったが、彼はまず私の顎にキスした。そして舌先を伸ばし、小動物のようにペロペロと舐めてくる。ゆっくりと、機嫌を取るように。
私はぼんやりと考えた。そうか。インキュバスって元々甘えん坊な生き物なんだもんね。
ただ、顎が濡れているのが気になって、無意識に指で拭おうとした。自然と、その指が廻の唇に触れた。
彼は待ってましたとばかりに、今度は私の指に吸い付いた。キスしながら私を見つめてくる瞳は、どこまでも黒く深い。
ううっ。ますますワンコっぽい。私はもう耐えられなくなり、もう片方の手で彼の尻尾を引っ張った。
そして急かした。
「廻、早く唇にキスして。遊んでないでよ。……もっと長くキスしていいから」