Đang tải thông tin quảng bá...
今、あの時の過ちを知る
かつて私だけが、都で唯一、皇太子を恐れぬ女だと言われていた。 そして、あの日、公の場で彼は宣言した。 「必ずや汝を皇太子妃として迎へ、...
Chương (1)
第1章
かつて私だけが、都で唯一、皇太子を恐れぬ女だと言われていた。
そして、あの日、公の場で彼は宣言した。
「必ずや汝を皇太子妃として迎へ、この世にては唯だ汝ひとりを妻とする」と。
しかし、江南へ巡視に出た折、彼は脳の病気を患った花魁に出会った。
彼女が「この方以外には嫁がない」と言い張った結果、彼は進んでその花魁の身請け金を出し、哀れな女の夢を叶えてやった。
そして自ら皇帝陛下に奏上し、私との離縁を願い出て、こう言い放った。
「汝には、永遠にこの家の主となる資格はない」
だから私は、離縁状に一瞬の迷いもなく指印を押し、静かに差し出した。
「もう、ご署名は済んでおります」
これで、私たちは解き放たれ、二度と振り返らずに歩み去るだけなのだ。
第1話
かつて私だけが、都で唯一、皇太子を恐れぬ女だと言われていた。
そして、あの日、公の場で彼は宣言した。
「必ずや汝を皇太子妃として迎へ、この世にては唯だ汝ひとりを妻とする」と。
しかし、江南へ巡視に出た折、彼は脳の病気を患った花魁に出会った。
彼女が「この方以外には嫁がない」と言い張った結果、彼は進んでその花魁の身請け金を出し、哀れな女の夢を叶えてやった。
そして自ら皇帝陛下に奏上し、私との離縁を願い出て、こう言い放った。
「汝には、永遠にこの家の主となる資格はない」
だから私は、離縁状に一瞬の迷いもなく指印を押し、静かに差し出した。
「もう、ご署名は済んでおります」
これで、私たちは解き放たれ、二度と振り返らずに歩み去るだけなのだ。
……
離縁状を書き終えた夜、私は一晩中、ぼうっと座り続けていた。
今日を境に、私はもう宋懐景(そう かいけい)の妻ではない。
そして彼はようやく、柳如煙(りゅう じょえん)の夢を叶え、花魁を皇太子妃として迎え入れる。
……両方にとって喜ぶことだ。
きいっ、と戸が音を立てて開く。
宋懐景が部屋へ入ってきて、気まずそうに口を開いた。
「すまなかった、歳晩(さいばん)。昨日の言葉は……気にしないでくれ」
私は答えず、ただ静かに視線をそらした。
気にしていないわけがない。
あの冷酷な言葉は、とっくに私の心を木端微塵に砕いていたのだ。
返事のない私に、彼はさして気にも留めない様子で、袖から錦の小箱を取り出し、机に置いた。
中には、蘭の花をかたどった玉佩。
――昔なら、私が落ち込むたび、彼はこんな風に贈り物を持ってきてくれた。
けれど今、私の胸には微塵の喜びも湧いてこない。
拒もうとしたその時、宋懐景が一方的に言葉を継いだ。
「しばらくは……少し我慢してくれ。如煙は良い娘だ。落ち着いた頃には、必ず汝も労わるから」
思わず、嗤うような息が漏れた。私の胸の奥底は冷え切っている。
――そうね。柳如煙は良い娘だ。
だからこそ、都に戻って数日も経たぬうちに、私を皇太子妃の座から引きずり落とそうとする。
これ以上聞くに堪えず、私はそっと目を伏せた。
「……疲れました。どうかお引き取りを」
宋懐景が眉をひそめ、何か言いかけようとしたその時――甘ったるくて息が詰まるような香りと共に、もう一人が部屋へ入って来た。
「殿下、姉上に何をお渡しになっていらっしゃいますの?妾にも、拝見させてくださいませ」
柳如煙が宋懐景の腕にすり寄り、嬌声をあげる。
宋懐景が気まずそうに目を泳がせるのをよそに、私は淡々と告げた。
「ただの玉佩です。お望みなら、あげましょうか」
――どうせ近頃、あなたが欲しがるものは何でも、私の手元から奪い取っていくのだから。
柳如煙は箱を覗き込み、嘲るようにくすりと笑った。
「まあ、何だと思いましたら……殿下が妾に頭飾りをお買い上げくださった折、店主がおまけに添えてくださった品ではございませんか。
姉上がお気に召すなら、妾の手元にまだ幾つもございますわ。ゆっくりとお選びくださいませ」
私は手巾(ハンカチ)を握りしめ、無理に微笑を作った。
――おまけの品、だったのか。
宋懐景の目に一瞬、狼狽が走った。
すぐに、苦し紛れの言い訳が続く。
「歳晩、勘違いするな……真心こもっていれば、それで良いと思っただけだ」
私は顔を背け、熱を帯びた目元を隠した。
「ええ、分かっております」
――分かっている。私たちの間の情愛など、最早ほとんど残っていないのだということを。
そして、僅かな残りの情愛でさえ、もはや私は求めたりはしない。
帰って頂こうと口を開こうとしたその時、柳如煙が陽気に言った。
「姉上、殿下は明後日、妾の花嫁衣装選びにお付き合いくださいますの。よろしければ、姉上もご一緒に?
都では今、どのような文様が流行っているのか、妾、詳しくなくて……どうか、ご助言いただけませんでしょうか?」
胸が揺れ動き、思わず宋懐景を見た。
「……殿下も、私が行って欲しいと?」
宋懐景は唇をわずかに噛み、私の目を避けた。
「如煙の望みだから……汝も、寛大であれ」
心臓を鋭い刃で何度も刺し貫かれるようで、私はそっと目を閉じ、重たく頷いた。
「……わかりました」
宋懐景、私は約束する。
――あなたが望むのなら、私は必ず……迷いなく、この場から去ってみせる。
残りの時間は、七日。
二人が去った後、私は机の上の玉佩を手に取った。
触れば冷たく、裏面には指先を痛めるような、細やかなひび割れが走っている。
それはまるで、宋懐景との情愛のようだった――いつの間にか、人の知らぬうちに、粉々に砕け散っていたのだ。
第2話
前庭には、宮人たちがずらりと並び、宮中で仕立てられた花嫁衣装を丁寧に捧げ持っていた。
どれもこれも、まばゆいばかりに豪華絢爛だった。
柳如煙は嬉しさを隠しきれず、両腕を広げては侍女に支えられ、次々に服を試していく。
一着、また一着と服を替えるたび、笑みを浮かべて宋懐景に尋ねる。
「殿下、妾……これ、お似合いでございますか?」
宋懐景は倦むことなく、丁寧に答え続けた。
――まさに、情愛厚き男女そのもの。
私は端に座り、これらの綺麗な花嫁衣装の波をただぼんやりと見つめていた。胸の奥底まで、じんわりと、そして確かに痛みが広がっていく。
「殿下……三年前、私の花嫁衣装を選んでくれた時のこと、まだ覚えていますか?」
声は小さかったが、彼はすぐにそれを聞きとった。一瞬、彼の動作を止め、目にかすかな懐かしみが浮かぶ。
「もう、そんなに経ったのか……よく、覚えていたな」
私は微笑んだ。けれど、その笑みはどうしても寂寥を帯びてしまう。
――忘れるはずがない。
あれは、私がこの人生で初めて誰かを愛した日だったのだから。
そして今、私はこの人生で初めて裏切りの痛みを知った。
三年の歳月が流れ、すべては移り変わった。
この愛に取り残されていたのは、きっと私ひとりだけ。
私の表情に、昔日の面影が滲んだのだろうか、宋懐景はたまらず、そっと私のもとへ歩み寄った。
「歳晩……孤を信じてくれ。如煙の病さえ癒えれば、孤と汝はまたやり直せる。これはただの芝居だ。幕が下りれば、汝は変わらず皇太子妃なのだ」
私は彼を見ず、視線を綺麗な花嫁衣装へ落とした。
「……お二人は、本当にお似合いです」
心臓が一瞬、止まったように、宋懐景は言葉を失った。
ちょうどその時、柳如煙が花嫁衣装を着替えて戻ってきた。
「殿下……妾、いかがでございますか?」
その甘ったるい声に、場の空気が一瞬、そちらへ流れる。
彼が顔を上げた瞬間、私は、その瞳の奥に宿った驚きと、心を奪われた色をはっきりと見てとった。
――あれは、昔彼が私を見つめた時と、まったく同じ輝きだった。
彼の心が動くその瞬間は、もはや私だけのものではなかった。
彼が言葉を見つけるより早く、私が口を開いた。
「とてもお綺麗です。柳さんは、私の見た中で……一番美しい花嫁です」
宋懐景の笑みが一瞬で固まり、信じがたいという様子でこちらを見つめた。
三年前、同じ言葉を私に贈ったのは彼自身だった。
今、私はそれをそっくりそのまま、お返ししただけ。
柳如煙は勝ち誇ったようにくるりと回り、満足気に言った。
「姉上は本当にお心が広い。妾のこの花嫁衣装、殿下が特に職人を急がせて仕立ててくださったのです。
殿下がおっしゃいましたの――妾には、この上ないものを贈りたい、と」
私は宋懐景を見つめたが、彼は私の視線から逃げるように逸らした。
この上ないもの……だからこそ、私に離縁状を書かせたのだ。
皇太子妃の座という「この上ないもの」を、彼女に贈るためか。
揺れ動く心を必死で押し殺し、私は静かに告げた。
「もう用はございませんので、部屋に戻らせていただきます」
柳如煙は内心にやりとしたが、表面は心配顔してみせた。
「姉上、どうぞごゆっくり。妾と殿下は、これから結婚式の段取りを改めて打ち合わせなければなりませんので」
私は軽く頷くと、背後に焼けつくような視線があるのも感じぬふりをして、歩き出した。
――もう決めたのだから、宋懐景。どうか、最後まで振り返らずに進んでください。
二人の結婚式まで、あと五日。
前庭を出たところで、私は東宮全体がすでに祝賀の色に染め上げられていることに気づいた。
まぶしいほどの紅い布が、下働きの者たちの手で運ばれ、屋敷の隅々に飾りつけられていく。
前庭を離れれば、少しは息がつけるかと思っていた。
だが私は忘れていた――この広い東宮には、もはや私の居場所などどこにもないのだということを。
呆然と立ち尽くしていると、慌ただしく駆けてきた執事が声をかけた。
「皇太子妃様……」
言いかけて、執事は慌てて言い直した。
「雲(うん)お嬢様」
我に返り、私は軽く頷いて応えた。
そして自然と、下働きの者が抱える錦の箱へと視線が向かう。
そこには、幾通もの招待状が整然と収められていた。
一枚を取り出し、そっと開くと、目に飛び込んできたのは――宋懐景の、見覚えのある端正な筆跡だった。
【謹啓、春爛漫の候、皆様には……】
一文字一文字がすべて、彼自身の手で丁寧にしたためられたものだった。
その心尽くし、その重ねた想いは、本当に柳如煙が哀れなだけだからなの?
第3話
――宋懐景、私を騙すと決めたのなら、なぜその痕跡を隠そうともしなかったの。
それとも……私があなたを愛しているから、見ないふりをすると信じていたの?
その瞬間、胸の内に渦巻く感情が、もはや悲しみなのか、自嘲なのか、判別することさえできなかった。
招待状をそっと元の場所に戻し、私は執事に告げた。
「これを、持って行きなさい。殿下には……私がこれを見たことは、言わないで」
二人の結婚式まで、残り三日。
私は決意した――この傷つき果てた場所を離れ、両親のもとへ戻ろう、と。
夜、私は前庭へと向かった。
せめて最後に、宋懐景に別れを告げようと思って。
しかし、夜も更けていないというのに、庭の下働きたちの姿が誰一人としていない。
不審に思い、扉に手をかけたその時、中から微かな息遣いが聞こえた。
「殿下……あさって、妾、ついにあなたのお嫁になりましたね。夢のようです……」
続いて、宋懐景が低く笑い、目に溺愛の色を浮かべて言った。
「よくやったぞ、汝の記憶喪失を口実にしなければ、歳晩に離縁を承諾させられないだろう……さあ、夜はまだ長い。続けよう」
室内から聞こえる物音は次第に激しさを増し、私の心は深淵へと落ちていった。
彼は昔、騙したりはしない、と言った。
これはただの芝居だ、と言った。
この人生で、妻は汝ただ一人だと、誓った。
世は移ろい、人の心も変わる――そのくらい、私は分かっていた。
けれど、まさか、共に枕を並べた者が、愛が消えた理由で、私に罠を仕掛ける日が来ようとは。
宋懐景、あなたは本当に、私をここまで苦しめるほどに欺いたんだ。
涙が限界を越え、私は口元を押さえ、声さえも漏らすのが恐ろしかった。
三年にわたる思い、千九十五日もの寄り添い。すべてが……無意味だった。
背を向け、ふらつく足取りで階段を降りたその時――私は足を踏み外した。
「……痛っ」
「誰だ!?」
宋懐景の声とともに、扉が勢いよく開かれた。
「……歳晩?」
私の姿を見るなり、宋懐景の顔から怒りの色が消え、動揺に変わった。
「ど、どうしてここに……」
平静を装いたかったけれど、私はどうしても、彼の首筋に散らばった鮮やかな痕跡から目を離せなかった。
あの日交わした誓いも、積み重ねた思いも、すべてが虚しく、煙のように消え去った。
私は自分が彼に問い詰めると思っていた。怒りに任せて泣き叫ぶ自分を思い描いていた。
けれど、実際に彼の狼狽した瞳を見つめた瞬間――胸の中には、心臓がまるで音もなく凍りついた。
「……ごめんなさい。お邪魔をして」
宋懐景は息を呑み、信じられないという様子で私を見つめた。
「歳晩……怒ってないのか?」
私は微笑を浮かべた。
「私はもう、皇太子妃ではありませんから。怒る資格など、ないのです」
宋懐景は後ずさった。
その言葉が、彼にもっとも痛く刺さったようだ。
長い沈黙の後、彼は突然しゃがみ込むと、私の拒む手を無視して抱き上げた。
「歳晩……今夜の言葉は、怒りに任せて口にしただけだろう。孤は気にしない。落ち着いたら、またしっかり話をしよう」
主屋まで運ばれ、床に下ろされた直後、外から慌ただしい声が響いた。
「殿下!柳さまが気を失われました!どうか至急お越しください!」
宋懐景は反射的に立ち上がり、私を見た。
何か言いたげな様子だったが、言葉にはならなかった。
私は疲れ果てたように目を閉じた。
「お行きください」
宋懐景は動かなかった。
しかし、三度目の呼び声が響いた時、ついに彼は私から離れていった。
去り際、彼は言い残した。
「歳晩、まずは如煙のところへ行く。後で医者を連れて戻る」
私は軽く頷いたが、心の中でははっきりと理解していた――彼は、戻らないと。
結婚式まで、あと三日。
私が「去ること」こそが、彼らへの最高の祝福なのだと思う。
翌朝早く、私は自ら執事を呼び、部屋を移りたいと申し出た。
東宮を出たいとは言えない。宋懐景が決して許さないから。
裏庭の、誰も訪れない場所へ――そう執事に願い出た。
しかし、半刻も経たぬうちに、宋懐景が慌ただしく私を探しに来た。
第4話
一晩中ほとんど眠れなかったのだろう、彼の眉間には言いようのない焦燥がにじんでいた。
「歳晩、もうそんなことは止めてくれないか?」
私は一瞬、きょとんとしたが、すぐに静かに言葉を継いだ。
「明後日には、殿下と柳さんがご結婚なさいます。
主屋にお住まいになれるのは正妃だけです。私がここに留まるのは、いささか不都合かと存じます」
宋懐景は一瞬、呆然と私を見つめたが、その表情に喜びは微塵もなかった。
「歳晩、本気でそう言うのか?」
滑稽だった。
彼が柳如煙のためにこれほどまでに心を砕いてきたのは、私にこの座を明け渡させたいからに他ならない。
今、私が自ら退こうとしているのに、なぜ彼は満足そうに見えないのだろう。
私が沈黙を守ると、宋懐景の瞳にかすかな動揺が走った。
「……分かった。好きにせよ」
私は淡々と頷いた。
彼には告げなかったが、私はすでに都にいる父の元部下に連絡を取っていた。
宋懐景と柳如煙が結婚式を挙げるその日、私はこの東宮を静かに後にするつもりだ。
結婚式まで、あと一日。
医者にも見せなかった足の捻挫は、さらに悪化していた。
明日は、二人の結婚式の日。そして柳如煙は、案の定、人を遣わして私に化粧を施すよう頼んできた。
実に滑稽な話だ。
新婦に化粧を頼まれるのは、通常は最も親しい年長者や友人である。
しかし今、元皇太子妃である私が、新たなる皇太子妃のために化粧を施し、飾りつけをする。
これはおそらく、この国で初めてのことであろう。
私は宝石箱を開け、箱の奥から鳳凰の模様が刻まれた金の簪を取り出した。
これは、かつて婚約が決まった時、宋懐景が私に贈ってくれた品だった。
彼はあの日、こう言った。
「歳晩、これは父皇(ちち)と母后(はは)がご結婚式の際に身につけられた簪なのだ。
孤が三日三晩、母后の前で跪いて懇願して、ようやく下賜していただいたものだ。
歳晩、汝は幼い頃から、孤が心に決めていた皇太子妃だ。これからは父皇と母后のように、末永く仲睦まじく、白髪が生えてもなお共に歩んでいこう」
この簪は、私と宋懐景の愛の証であった。
今、それは柳如煙へのものとなる。
どうか二人が――末永く仲睦まじく、白髪が生えてもなお共に歩みますように。
結婚式の当日、宮中はことのほか賑わっていた。
都の権貴たちが、こぞって東宮に押し寄せている。
東宮から嫁ぐとはいえ、宋懐景は彼女に欠け目ひとつない盛大な結婚式を整えてやった。
花嫁籠は都を練り歩き、その盛大さは並々ならぬものだった。
私は嫁入り前に身につけていた衣装をまとい、侍女の春杏(しゅんきょう)に命じた。
「持っていけるものはすべて持っていくように。持てないものは……すべて、焼いてしまいなさい」
今日を境に、私は宋懐景の世界から完全に消え去る。
これが、私から彼への――最良の結婚祝いだろう。
夜も更け、爛醉した宋懐景が人々に囲まれ、新婚の部屋へと戻ってきた。
使用人は満面の笑みを浮かべて、侍女や下働きたちも、こぞって縁起の良い言葉を唱え、笑い声をあげていた。
だが宋懐景が面紗を上げろうとするその瞬間、三年前の結婚式の夜がふと脳裏をよぎり、彼は棒立ちになった。
若い貴族たちがすぐに囃し立てる。
「皇太子殿下、どうなさいました?早く新婦の御顔を拝見させてください!」
「そうですとも、殿下、早く面紗をお上げください!」
「まさか、我々に見せるのがお惜しいのではありますまいね?」
善意の笑い声が、宋懐景を我に返らせた。
彼は首を振り、乱れた思考を振り払うと、震える手でゆっくりと面紗を上げていった。
紅い唇、杏のような形の目、柳のように細く優しい眉――美しい顔が少しずつ露わになっていく。
「さすが皇太子妃様、これぞ傾国の美女でございます」
「本当に、実に美しい。そして頭にお付けの金の簪も、ひときわ映えておりますな」
「ただ、その簪……どこかで見覚えが……確かに……皇后様のものでは?」
宋懐景はすっと立ち上がり、場のざわめきが一瞬で止んだ。
彼は金の簪を乱暴に引き抜くと、鋭い眼光で詰問した。
「この簪……どこで手に入れた?」
その時、執事が慌てて駆け込み、声を張り上げて叫んだ。
「皇太子殿下、大変でございます!雲将軍の手下が、雲お嬢様をお迎えに参りました!」