夫がゲイで親友と恋仲だった件

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夫がゲイで親友と恋仲だった件

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流産の手術を受けたその日、夫の福山京介(ふくやま きょうすけ)は「親友」の個展のために、プライベートジェットでパリへと発った。 翌日、...

Chương (1)

第1章

流産の手術を受けたその日、夫の福山京介(ふくやま きょうすけ)は「親友」の個展のために、プライベートジェットでパリへと発った。 翌日、ネット上を席巻したのは、セーヌ川のほとりで唇を重ねる二人の写真。 さらにその「親友」は、薬指にペアリングが光る手の写真をSNSに投稿し、気取った一文を添えていた。 【真実の愛に、言葉はいらない】 抜け目なく、京介のアカウントがタグ付けされている。 私は乾いた笑みを漏らした。名門・矢代家の跡取り娘であるこの私、福山蘭(ふくやまらん)が、まさか男の恋人のカモフラージュにされていたとは。 上等だわ。けれど、この私を欺いた代償――払いきれると思わないことね。 第1話 流産の手術を受けたその日、夫の福山京介(ふくやま きょうすけ)は「親友」の個展のために、プライベートジェットでパリへと発った。 翌日、ネット上を席巻したのは、セーヌ川のほとりで唇を重ねる二人の写真。 さらにその「親友」は、薬指にペアリングが光る手の写真をSNSに投稿し、気取った一文を添えていた。 【真実の愛に、言葉はいらない】 抜け目なく、京介のアカウントがタグ付けされている。 私は乾いた笑みを漏らした。名門・矢代(やしろ)家の跡取り娘であるこの私、福山蘭(ふくやまらん)が、まさか男の恋人のカモフラージュにされていたとは。 上等だわ。けれど、この私を欺いた代償――払いきれると思わないことね。 …… ネットでの炎上騒ぎが三日続き、ようやく京介がパリから帰国した。 その傍らには、例の写真に写っていた張本人、立花晴人(たちばな はると)の姿もあった。 玄関を入るなり、晴人は糸が切れたように京介の胸へと崩れ落ちる。 「京介……めまいが……」 京介はすぐさまその細い体を抱き留め、私を見上げると眉間に深い皺を寄せた。 「蘭、ネットの件は本当に悪かったが、晴人は重度の鬱なんだ。今回の騒動で自殺未遂まで起こして……連れて帰るしかなかった」 まるで今夜の献立でも読み上げるような、淡々とした口調だった。 そこには一片の弁解もなければ、私への労わりもない。 京介に抱きかかえられた「繊細な」男を見つめ、口元だけで笑った。 「福山家と立花グループのAI医療プロジェクト、株価が三日で三十ポイント暴落したわ。時価総額にして数十億が吹き飛んだ」 私は冷ややかに告げる。 「それなのに、あなたの口から出るのは、彼の鬱の話?」 京介の表情に苛立ちが滲んだ。 「金で済む話なら、大した問題じゃない。晴人の命の方が大事だ」 彼は晴人を支えたまま、噂でしか知らない存在である晴人を、堂々と我が家へ連れ込んだ。 「会社のダメージは俺がなんとかする。だから彼を追いつめるような真似はするな」 私はその場に立ち尽くし、密着した二人の背中を見送りながら、全身の震えを抑えられずにいた。 流産手術による身体の消耗など、この瞬間に胸へ広がった冷たさに比べれば、あまりに些細なものだった。 深夜、喉の渇きを覚えて階下へ降りた。 キッチンから微かな物音がする。 そこには、京介の白シャツを纏った晴人の姿があった。ゆったりした裾から覗く、華奢な脚。 不慣れな手つきでミルクを温めている彼は、私に気づいて大仰に後ずさった。 「蘭……さん」 震える手からこぼれたミルクが、手の甲を濡らす。 「あっ!」小さな悲鳴があがった。 次の瞬間、京介がゲストルームから飛び出してきて晴人の手首を掴み、痛ましげな眼差しを向けた。 「何やってんだ!」 慌てた様子で晴人の手を冷水に晒し、振り返った京介の目には非難の色があった。 「何の用だ?驚かせただろう」 私はドア枠に背を預け、冷めきった瞳でその茶番を冷ややかに眺めていた。 晴人は京介の背に隠れるように身を寄せ、潤んだ瞳で私を見上げながら、か細い声を絞り出す。 「蘭さん、ごめんなさい……わざとじゃ……ただ京介にミルクを温めてあげたくて……僕、何もちゃんとできなくて」 私は笑みを深め、ゆっくりと歩み寄った。 手を伸ばし、ミルクで濡れたシャツの生地を指先でなぞる。 「京介のシャツはイタリア製のオーダーシルクよ。熱に弱いの」 視線を上げ、動揺に揺れる晴人の瞳を射抜いて、あからさまな嘲笑を浮かべた。 「立花さん、次に『当てつけ』をするなら、もう少し安い小道具を選んだら?」 晴人の顔色が見る間に蒼白になる。 京介が素早く彼を庇い、失望を滲ませた目で私を見た。 「どうしてそこまで意地悪を言うんだ?」 …… 翌朝、眩い陽光に包まれて目を覚ました。 階下へ降りると、いつもは冷え冷えとしたこの家に、初めて生活の温もりが漂っていた。 京介と晴人がサンルームにいた。 一人はパレットを、もう一人は筆を手に、未完成の油絵について語り合っている。 まるで一枚の絵画のような、調和の取れた光景。 そこに私は、紛れ込んだ異物に過ぎない。 近づいてようやく、キャンバスに描かれたものが見えた。 寝室の窓から望む景色は、私が何より愛した、薔薇の生垣だ。 胸の奥が締め付けられ、喉元まで苦しさが這い上がってくる。 私が足を踏み入れた途端、その調和は脆くも崩れ去った。 京介は筆を置き、何事もなかったような顔で言った。「起きたのか」 「流産の診断書、もらってきたわ」 私は診断書を彼の前に置き、抑揚のない声で告げた。 「医師から絶対安静を指示されたの。でも、家が騒がしくて……」 京介の視線が一瞬だけ診断書に留まり、すぐに逸れた。 顔を上げた彼の目には、私が最も嫌う光――有無を言わせぬ、一切の反論を許さない強引さが宿っていた。 「晴人の精神状態がやっと落ち着いたんだ。今出て行かせるのは、死ねと言うのと同じだぞ」 私の胸の中で、どす黒い苛立ちが膨れ上がった。 「じゃあ彼の精神状態のために、私の体はどうでもいいわけ?法律上の妻は私なのよ、京介!」 私が声を荒げると、彼はますます不機嫌そうになった。 そんな彼に思わず詰問した。「結局、あなたが欲しいのは私?それとも……彼?」 第2話 「蘭!」京介が低い声で私の言葉を遮った。「言葉を慎め。晴人はただの友人だ!」 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、傍らの晴人は私の剣幕に怯えたように手を震わせ、持っていた瓶を取り落とした。 ガシャン、と硬質な音が響き、テレピン油の瓶が床で砕け散る。 刺激臭が、一気に部屋を満たした。 手術明けの弱った身体にはあまりに酷な匂いだった。胃が裏返るような吐き気に襲われ、私は激しく咳き込んだ。 京介の顔色が一変する。 だが、彼は私に一瞥もくれず、真っ先に倒れかけた晴人に駆け寄り、慌てて窓を開け放った。 「大丈夫か?気分はどうだ?」 晴人を落ち着かせると、ようやく京介は振り返った。私に向けられたのは、かつて見たこともないほど凍てついた眼差しだった。 「お前!彼の精神状態が不安定だと分かっていながら、どうしてそこまで刺激するんだ?彼が死なないと気が済まないのか!」 私は彼を見据えたまま、一言も返せなかった。 結局、私の体も、私の心も、彼の「親友」の前ではゴミに等しいのだ。 私は完璧で、品格があり、決して感情を乱さぬ福山夫人でなければならない。 …… 夕方、福山家の本邸で一族の食事会が開かれた。 政財界の名士たちが集う場に、京介の妻として私は出席せねばならなかった。 喧騒を避け、私は独り会場の隅に腰を下ろしていた。 そこへ、長年の友人であり白井家の当主でもある白井一生(しらい いっせい)が、温かいお茶を持ってきてくれた。 「顔色が悪いな。京介の奴、ちゃんと気遣ってるのか?」 彼がカイロを私の手の中に押し込む。 礼を言おうとした瞬間、手首を万力のような力で掴み上げられた。 京介だった。 彼は険しい表情で私を無理やり立たせ、一生を睨みつけた。 同格の男同士が放つ火花に、周囲の空気が一気に張り詰める。 「帰るぞ」 京介はそれだけ言い捨て、有無を言わさず私を連れ出した。 車内に入った途端、京介がパーティションを上げる。 私が訝しむ間もなく、彼が覆い被さってきた。 唇に走る鋭い痛みで、一気に現実に引き戻される。 力任せに彼を突き飛ばすと、怒りで胸が激しく波打った。 一生とは、ほんの少し言葉を交わしたに過ぎない。 晴人を堂々と家に招き入れておきながら、どの口で独占欲を示すというのか。 「どういうつもり?」私は氷の刃のような声で言い放った。 京介が顔を上げる。その深く暗い瞳が、渦のように私を飲み込もうとしていた。 「お前は俺のものだからだ」 私は眉をひそめ、ただ滑稽で馬鹿馬鹿しいと思った。 「違うわ。それは立花さんの領分でしょ」 京介の口元が緩んだ。普段の冷徹な仮面の下から、珍しく柔らかな色が滲み出る。 「なんだ。嫉妬してるのか」 私は彼を押しのけ、自分でも軽蔑したくなるような我儘を口にした。 「じゃあ、立花さんを追い出して」 車内の空気が一瞬にして凍りついた。 京介から笑みが消え、先ほどまでの甘い雰囲気は幻のように霧散する。 彼はネクタイを緩め、小さくため息をついた。 「安心しろ。彼がお前の立場を脅かすことは絶対にない。ただ、俺は彼に借りがあるんだ。昔、俺を庇って利き手をダメにした。もうメスは握れないんだ」 第3話 ……立花さんは、外科医だったのか。 窓の外を流れる夜景を眺めながら、胸の奥に言いようのない苦さが込み上げてきた。 では、私は彼に感謝すべきなのだろうか。この「完璧な」夫と引き換えに。 その時、携帯の画面が光った。見知らぬ番号からの画像付きメッセージ。 【蘭さん、ごめんなさい。僕は存在してはいけない人間です。でも京介への依存を止められなくて……】 添付されていたのは、あのお揃いの指輪だった。 寝室のサイドテーブルに静かに並べられた二つの輪。その横には、乱れたシーツが写り込んでいる。 手口はあまりに稚拙だが、効果的だった。 私は携帯を京介に投げ渡し、凍えるような声で告げた。 「どうやら、あなたたちの間の部外者は私みたいね」 京介が一瞬硬直し、視線を落として画面を見た。だが、それでも反射的に口をついて出たのは、晴人を庇う言葉だった。 「彼は精神的に不安定で、思い込みが激しいんだ。真に受けるな」 私は乾いた笑い声を漏らした。怒りを含んだ嘲笑だ。 「わざと鈍感なフリをしてるの?それとも本気で分からないの?私が現場を押さえるまで認めないつもり!?」 京介が低い声で、警告を込めて言った。「俺と彼の間に後ろめたいことは何もない」 私は冷たく笑い、涙声で言った。 「じゃあ教えて。どこまでいったら後ろめたいことになるの!」 車内が静まり返った。京介の瞳には、見たこともない冷たさが宿っていた。 「蘭!お前は矢代家の跡取りだろう。もう少し度量を持てないのか!男相手にそこまでムキになって、いったい何と張り合ってるんだ!」 この瞬間の感情を、どう表現すればいいのか分からなかった。 ただ、心の中の何かが、一瞬にして枯れ果てた気がした。 胸の痛みを堪え、目頭が熱くなる。 「私に度量がない?は……もし本当に私に度量がないなら、あなたがパリ行きの飛行機をチャーターしたその日に、矢代家は彼を社会的に抹殺していたわ!彼の写真がネットで炎上するまで放置なんてしない! もし本当に度量がないなら、彼が家に入り込んだその夜に、叩き出していたわ!寝室の写真を突きつけられて挑発されるまで我慢なんてしない」 言葉にするたび、事実は棘となって私自身を刺し貫いた。 京介が言葉を失い、私の赤くなった目を見つめた。 「俺は……」 私は顔を背け、窓を開けた。 冷たい夜風が頬を打ち、不甲斐ない涙を隠してくれる。 「私の名前の意味、知ってる?」 私は独り言のように続けた。 「父と母が、私に幸せになってほしいって、『幸福が飛んでくる』という花言葉を持つ蘭にしたの」 深呼吸をして、矢代家の令嬢としての誇りを己に取り戻す。 「だから、もしあなたにとって私が、ただの政略結婚の相手なら、ここで終わりにしましょう」 京介は動揺を隠せずにいた。 彼は身を寄せて私を抱きしめ、嗄れた声で言った。 「すまない、蘭。もう二度としない」 車を降りて別荘に足を踏み入れた途端、晴人がソファから立ち上がり、か弱げに京介を見つめた。 「京介、さっき悪夢を見て、僕……」 しかし今回は、京介はいつものように慰めに行かず、むしろ顔色を曇らせた。 晴人が訝しげに見つめる中、京介は私の携帯を彼に投げつけた。 「謝れ」 第4話 突然の怒声に、晴人は戸惑いを隠せない。 視線を落として画面を確認すると、その目に一瞬、嫉妬の色がよぎった。 京介は傍らで冷淡な表情を浮かべる私を見て、苛立ちを募らせた。 「蘭は俺の妻だ。今後、誤解を招くようなものは送るな」 京介のこれほど厳しい姿を初めて見たのだろう、晴人の目が一気に潤んだ。 彼は私に向き直り、涙声で、しかし微かな悔しさを滲ませながら言った。 「蘭さん、ごめんなさい。許してください」 私は顔を上げ、氷のような視線を向けた。 歩み寄り、片手で彼の顎を持ち上げ、そのまま冷然と彼を見下ろした。 「私の前でその小細工は通用しないわ。さもなければ、矢代家の地下室に、身の程知らずな人間が何人埋まっているか、教えてあげることになるわよ」 突き放された晴人の顔が蒼白になり、今にも倒れそうに揺らいだ。 京介が眉をひそめて割って入ったが、それでも彼は晴人を庇う。 「もういい。晴人、外に別の住まいを用意する。荷物をまとめてくれ」 晴人は信じられないという顔で彼を見つめ、大粒の涙を溢れさせながら、逃げるようにゲストルームへと戻っていった。 この三文芝居もようやく幕を下ろすと思っていた。 ところが翌晩、京介から電話がかかってきた。声は今までにない動揺に満ちていた。 「蘭!晴人がいなくなったんだ!しかも遺書を残して!今、川辺を探してるから、すぐに来てくれ!」 川辺に着くと、パトカーの赤色灯が闇を切り裂くように回転していた。 京介が一人、規制線の内側に立っていた。頼りなげな背中だった。 私を見つけると、血走った目で駆け寄り、骨がきしむほど強く、私の腕を掴んだ。 「お前、彼に何を言ったんだ!?どうしてここまで追い詰めた!」 怒鳴られて、私は少し呆然とした。 その時、警官が証拠品の袋を手に近づいてきた。 「福山さん、立花さんのアトリエでこれを見つけました」 袋の中には、薬局の処方箋。 京介がひったくるように受け取った。 内容と署名を確認すると、顔を上げて私を見た。その目には、驚愕と激情があった。 「白井家の診療所……蘭、お前が……」 彼は私を見つめた。まるで親の仇を見るように、一言一言が私を断罪する。 「お前が一生に頼んで、抑鬱を悪化させる薬を処方させて、カルテを偽造させたのか……最初から彼に死んでほしかったんだろう?」 私は信じられない思いで彼を見つめ返した。 この瞬間、三年間の結婚生活、私のすべての忍耐と譲歩が、壮大な笑い話だったと悟った。 やっとわかったんだ。三年尽くしても、彼の氷のような心は溶かせなかった。 すべての感情を押し殺し、彼の目を射抜く。 「京介、結局、私を信じないのね」 そう言って、困惑する彼の前で改めて口を開いた。声には淡々とした響きしか残っていなかった。 「私、矢代蘭が人を消すのに、こんな愚かな手段は使わないわ」 私は振り返りもせず、その場を後にした。そして携帯を取り出し、秘書の番号にかけた。