ただ、古き夢は還らず

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ただ、古き夢は還らず

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資産家の令嬢・白川栞(しらかわ しおり)は、誰もが羨む存在だった。 彼女には大富豪の父と、溺愛してくれる兄・雅人(まさと)がいるだけで...

Chương (1)

第1章

資産家の令嬢・白川栞(しらかわ しおり)は、誰もが羨む存在だった。 彼女には大富豪の父と、溺愛してくれる兄・雅人(まさと)がいるだけでなく、父が彼女のために選び抜き、共に育て上げた「三人の完璧な花婿候補」がいたからだ。 速水蓮(はやみ れん)は、その美貌で世界中を熱狂させるトップスター。 瀬名拓実(せな たくみ)は、冷徹で気高い天才デザイナーだが、彼女にだけは優しい笑顔を見せる。 古賀秋彦(こが あきひこ)は、優しく献身的な医師。何よりも彼女を第一に考えてくれる。 彼女が誰を選ぶのか――社交界ではその行方に莫大な賭け金が積まれていた。 そして周囲の予想を裏切り、栞が選んだのは秋彦だった。 結婚から三年。二人は誰もが認める「おしどり夫婦」として、片時も離れず愛し合っていた。 だが、栞の心には誰にも言えない棘が刺さっていた。 なかなか子宝に恵まれず、来る日も来る日も病院に通っていたのだ。 そんな彼女を、秋彦はいつも優しく抱きしめた。 「栞、そんなに自分を追い詰めないでくれ。君さえいれば、子供なんていらないよ。 養子を迎えたっていいんだから」 この人と結婚して本当に良かった――栞は心からそう信じていた。 誕生日のあの日、病院からある検査報告書が届くまでは…… 第1話 資産家の令嬢・白川栞(しらかわ しおり)は、誰もが羨む存在だった。 彼女には大富豪の父と、溺愛してくれる兄・雅人(まさと)がいるだけでなく、父が彼女のために選び抜き、共に育て上げた「三人の完璧な花婿候補」がいたからだ。 速水蓮(はやみ れん)は、その美貌で世界中を熱狂させるトップスター。 瀬名拓実(せな たくみ)は、冷徹で気高い天才デザイナーだが、彼女にだけは優しい笑顔を見せる。 古賀秋彦(こが あきひこ)は、優しく献身的な医師。何よりも彼女を第一に考えてくれる。 彼女が誰を選ぶのか――社交界ではその行方に莫大な賭け金が積まれていた。 そして周囲の予想を裏切り、栞が選んだのは秋彦だった。 結婚から三年。二人は誰もが認める「おしどり夫婦」として、片時も離れず愛し合っていた。 だが、栞の心には誰にも言えない棘が刺さっていた。 なかなか子宝に恵まれず、来る日も来る日も病院に通っていたのだ。 そんな彼女を、秋彦はいつも優しく抱きしめた。 「栞、そんなに自分を追い詰めないでくれ。君さえいれば、子供なんていらないよ。 養子を迎えたっていいんだから」 この人と結婚して本当に良かった――栞は心からそう信じていた。 誕生日のあの日、病院からある検査報告書が届くまでは…… * 栞はパニックに陥りながら、秋彦が勤務する病院へと急いだ。 息を切らして正面玄関にたどり着いた直後、彼女の足がピタリと止まった。視線の先に、白衣姿の秋彦がいたからだ。彼は、栞の義理の妹である白川美月(しらかわ みづき)を大切そうに支え、産婦人科から出てきたところだった。 美月は少しふっくらとしたお腹を愛おしそうに撫で、甘ったるい声で言った。「秋彦さん、ありがとう。私に赤ちゃんをくれて」 彼女の目は赤く潤み、今にも泣き出しそうだ。 「でも……もしお姉ちゃんが先にあなたの子供を妊娠したら、私たち母子のこと、捨てちゃう?」 その言葉に、秋彦は優しく彼女の涙を拭う。 「あり得ないよ。彼女との間に子供ができることは、永遠にない」 「どうして?」 秋彦は一瞬沈黙した後、声を潜めて答えた。 「この三年間、あいつの食事にはずっと避妊薬を混ぜていたからな」 その瞬間、栞の頭の中で何かが「ブン」と音を立てて弾けた。全身の血液が凍りつき、指先が震えだす。 美月は安心したように彼の腕に絡みつき、さらに甘えた。 「よかったぁ。やっぱり秋彦さんが一番愛してるのは私なのね。当初、私が白川家にいられるように守るためとはいえ、お姉ちゃんと三年間も偽装結婚させるなんて、辛かったわよね。 でも、あと一ヶ月で三年契約も終わるもの。そうすれば、堂々と私をお嫁さんにしてくれるわよね?」 秋彦は何も答えず、ただ微笑んで彼女を助手席に乗せた。 建物の陰に隠れていた栞は、声も出せずに涙を流していた。 車が走り去るのを見送った栞は、ハッと我に返り、自分の車に飛び乗って彼らの後を追った。 二人が入っていったのは、天宮市でも有数の高級会員制クラブだった。 通された個室のドアの隙間から中を覗くと、そこには栞の実の兄である白川雅人(しらかわ まさと)と、蓮、そして拓実の姿もあった。 栞は唇を噛み締め、呼吸を殺して中の会話に耳を澄ませた。 「美月、妊娠中は大事にしなきゃダメだぞ。一ヶ月後の結婚式は、僕たちが盛大に祝ってやるからな」 雅人が優しい声で言うと、美月は涙ぐんで彼の胸に飛び込んだ。 「お兄ちゃん、ありがとう。私、本当の妹じゃないのに、こんなによくしてもらって……」 雅人は溺愛するペットを撫でるように、彼女の頭を撫でた。 「バカだな。僕たち四人は幼馴染だろ。血が繋がってなくたって、お前は僕たちの大事な妹だ」 「じゃあ、私とお姉ちゃん、どっちが好き?」 「当然、お前だろ。栞は五年前に突然見つかって戻ってきただけだ。二十年も一緒にいたお前と比べられるわけがない」 美月は嬉しそうに涙を拭う。 「お兄ちゃん、拓実さん、蓮さん、秋彦さん、ありがとう……でも」彼女は唇を尖らせて、上目遣いで彼らを見渡した。 「お姉ちゃんがもし、秋彦さんの結婚が私を守るための演技だったって知ったら、私のこと恨むかな?」 その言葉に、部屋が一瞬静まり返った。 沈黙を破ったのは、ソファで足を組んでいた蓮だった。彼は軽く笑いながら、美月の髪をくしゃくしゃにした。 「恨ませとけばいいさ。そもそも彼女が突然戻ってきて被害者ぶるから、親父さんが美月を追い出そうとしたんだろ?僕たちまで家を出る羽目になったしな。 でも、雅人が頑張って三年で白川家の実権を握ったから、もう誰も美月を追い出せない」 拓実も深く頷いた。 「ああ。あの時、僕たちが家を出たら美月があの女にいじめられると思ったから、秋彦が犠牲になって結婚したんだ。すべては美月、お前を守るためだったんだよ」 美月の顔色がパッと明るくなる。彼女は最後に、すがるような目で秋彦を見つめた。 「秋彦さん……この三年間、一度もお姉ちゃんに心を動かされたことはない?」 ドアの外で、栞の心臓は早鐘を打っていた。唇からは、血が滲むほど強く噛み締めていた。 長い沈黙の後、秋彦が淡々と答えた声が聞こえた。 「ない。一度も、ないよ」 その一言が、鋭いナイフのように栞の心臓を突き刺した。息ができない。痛くて、苦しくて、立っていられない。 部屋の中からは、彼らの楽しそうな笑い声が響いてくる。栞はめまいを覚え、世界がぐるぐると回るのを感じた。 思い出すのは、五年前のことだ。白川家に戻ってきたばかりの栞は、まるで居場所のない泥棒のように、彼らが美月に注ぐ愛情をこっそりと盗み見ていた。 国民的スターの蓮は、美月にサイン入りの写真を贈り、自身のコンサートへ連れて行っていた。 デザイナーの拓実は、毎月ハンドメイドのドレスをプレゼントし、彼女のパーティーのエスコート役を務めていた。 医師である秋彦は、美月が体調を崩すと、スプーンで一口ずつ薬を飲ませ、一晩中つきっきりで看病していた。 そして、実の兄である雅人でさえも。彼はあろうことか、本来主役であるはずの栞の「お披露目パーティー」で、美月の手を固く握りしめてこう言ったのだ。「僕が一番愛おしいのは、やはり昔から一緒に育ったこの妹だ」と。 栞は羨ましくてたまらなかった。けれど、それを奪い合う勇気などなく、ただ物陰に隠れて泣くことしかできなかった。 そんなある日、事態は急変した。あんなに冷たかった兄が栞を庇うようになり、他の三人までもが彼女に贈り物をし始めたのだ。 栞は驚き、そして嬉しかった。愛に飢えすぎていた彼女は、その変化を凍えた心が溶かされるように受け入れ、異常なほど大切にした。 とりわけ、秋彦が指輪を取り出してプロポーズしてくれた時の衝撃は、彼女を気絶させんばかりだった。 「栞、僕にチャンスをくれないか。君を愛し、一生守らせてほしい」 あの優しい瞳。恥ずかしそうに頷いた自分。 注目を浴びることを好まないからと結婚式は挙げなかったけれど、栞はそれでも幸せだった。 咳をすれば生姜湯を作ってくれ、夜中に車を2時間走らせておでんを買ってきてくれ、落ち込んでいればピエロの格好をして笑わせてくれた。 他の人たちもそうだった。 兄の雅人は、宝石やブランドものの服、バッグを山のように贈ってくれた。 蓮は、二人の祝福のためにオリジナルのラブソングを書き下ろしてくれた。 拓実に至っては、彼女のために何十着ものウェディングドレスをデザインし、笑顔でこう言ったのだ。「これは僕からの気持ちだ。大切にしてくれよ」 すべてが夢のようだった。栞は、自分が世界一幸せなシンデレラだと思っていた。 けれど――今、壁一枚隔てた向こうで笑う彼らの声が、残酷な真実を突きつける。彼女はシンデレラなんかじゃなかった。ただの、舞い上がった大馬鹿者だったのだ。 誰かが部屋から出てくる気配がして、栞は慌てて踵を返した。涙が溢れて前が見えない。 廊下の角を曲がったところで足がもつれ、派手に転んだ。膝の痛みよりも、心の痛みが勝っていた。栞は床に突っ伏したまま、声を殺して泣いた。 全部、嘘だった。 深情けな夫も、優しい兄も、思いやりのある友人たちも。全員がグルになって、彼女を騙していたんだ。 すべては、あの大切な「お姫様」を守るために。 過呼吸になりそうなほど泣き続け、ようやく涙が枯れた頃。栞は震える手でスマートフォンを取り出し、ある番号に電話をかけた。 「……先生。海外の研究室でやっている新療法、受けさせてください」 電話の向こうから、少し訛りのある言葉が聞こえてきた。 「栞さん、その治療法には副作用があります。記憶を失うリスクが高いですが、本当によろしいですか?」 栞は腫れ上がった目を閉じ、迷いなく答えた。「はい。覚悟はできています」 「わかりました。では、一ヶ月後にお待ちしています」 第2話 通話を終えると、冷たい風が栞の体を震わせた。 彼女は涙を拭い、深く息を吸い込む。 あと一ヶ月。それで彼女は去る。すべての嘘と苦痛を忘れるために。 この茶番劇は、自分で終わらせるのだ。 その時、スマートフォンが鳴り響いた。秋彦からだ。 「栞、どこにいるんだ?」 相変わらず優しい声。栞は一瞬、先ほどの出来事が夢だったのではないかと錯覚しそうになる。 だが次の瞬間、秋彦はその幻想を打ち砕いた。 「栞、今日は美月の誕生日だ。彼女が君に来てほしいと言っている。 今どこだ?運転手を迎えに行かせるよ」 無数の針で刺されたような痛みが、再び全身を這い回る。 栞は自嘲気味に、口元を歪めた。 栞と美月は同じ誕生日だ。けれど、彼らがそれを覚えていたことなど一度もない。 愛されているか否か、その差はあまりにも明白だった。 誕生日パーティーの会場に到着すると、そこら中に美月の写真と、彼ら五人の集合写真が貼られていた。 栞はそれらを一枚一枚眺め、胸の奥が締め付けられるのを感じる。 ステージの中央では、ドレスを身に纏った美月がプレゼントを受け取っていた。 雅人が優しい声で口を開く。「美月、お前のために『ズートピア』のテーマパークを建てたぞ。お前が永遠に無邪気なままでいられるように」 拓実が赤い布をめくる。そこにはダイヤモンドが散りばめられたウェディングドレスがあった。 「美月、これは僕がデザインしたドレスだ。これを着て、最愛の人と結ばれますように」 蓮がギフトボックスを開ける。中には2億円は下らないであろうティアラが輝いていた。 「美月、お前は僕たちの永遠のお姫様だ。いつまでも幸せでいてくれ」 彼はそう言って、美月の頭にティアラを載せた。 会場中が拍手に包まれる。 ただ一人、栞だけが全身を凍らせ、指先を震わせていた。 最後に、夫である秋彦が美月の手を取り、中央へと進み出る。 音楽が流れ出し、二人が踊り始める。まるで王子様とお姫様のように。 栞の目が赤く染まり、爪が手のひらに食い込む。 彼女が二人を凝視していると、不意に美月と目が合った。美月は挑発的に微笑み、秋彦に何かを囁く。 次の瞬間、栞は見てしまう。愛する夫が、美月の額に優しくキスをするのを。 栞は雷に打たれたように立ち尽くし、顔面蒼白になった。 ダンスが終わり、秋彦が栞に気づいて近づいてくる。少し気まずそうな表情だ。 「栞、知ってるだろう?美月の誕生日は毎年僕がファーストダンスの相手を務めるって。気にしないよな?」 栞は彼を長い間見つめ、力なく笑った。 「私に気にする資格なんてあるの?」 所詮、法的な手続きだけの関係なのだから。 秋彦の表情が強張る。彼が何か言い訳しようとした時、他の三人が割って入ってきた。 「栞、どうしたんだ?」雅人が近づく。「今日は美月の誕生日だぞ。彼女を不快にさせるな」 「そうだよ」蓮も口を挟む。「栞、美月と秋彦が一番仲が良いのは知ってるだろ。今日くらい心を広く持って、秋彦を貸してやれよ」 拓実も淡々と言う。「栞、僕たち五人は一緒に育ったんだ。理解できるだろ?」 底なしに美月を庇う彼らを見て、栞はもう争う気力すら失った。 彼女は静かに美月の背後に立つ四人の男たちを見つめる。そして、ようやく悟る――彼らにとっての「家族」は、最初から彼女ではなかったのだと。 彼女は踵を返し、その場を離れた。背後から嘲笑が聞こえてくる。 「たかがダンスで、心が狭いな」 「本当にお嬢様気取りかよ」 「姉としての自覚が足りないんじゃないか?」 …… 涙を流しながら宴会場を出た栞は、いつの間にか広場のような場所にたどり着いていた。そこには大量の花火が、巨大な円を描くように並べられていた。 彼女が花火の配置を眺めていると、背後から甘ったるい声が響いた。 「お姉ちゃん、一緒に花火をしましょう?」 いつの間にか美月が背後に立っている。手には火のついた線香花火を持ち、楽しげに笑っていた。 栞の背筋に冷たいものが走る。過去の悪夢がフラッシュバックした―― 美月が切り分けてくれた誕生日ケーキの中にカミソリの刃が入っていて、口の中が血だらけになったこと。 映画に誘われて行けば、血なまぐさいスプラッター映像を見せられ、一ヶ月もうなされたこと。 …… そうして栞が美月を避けるようになると、彼らは栞が美月を嫌っているのだと決めつけた。 それらを思い出し、栞は反射的に拒絶した。 「結構よ」 美月は怒ることもなく、微かに笑う。 次の瞬間、彼女は燃えている花火を、そのまま栞の腕に押し付けた。 「きゃあっ!」 栞は激痛に耐えかねて彼女を振り払う。 美月はその勢いを利用して地面に倒れ込み、悲鳴を上げた。 「痛いっ……」 「栞!何をしているんだ!」 雅人が怒号と共に駆け寄ってくる。 美月は足首を押さえて泣き叫ぶ。 「お姉ちゃん、私はただ花火を見てもらおうと思っただけなのに、どうして突き飛ばすの?」 秋彦が美月を抱き起こして怪我を確認し、栞を氷のような視線で射抜いた。 「美月が好意で誘ってくれたのに、こんな仕打ちをするのか?」 栞は痛みに顔を歪めながら訴える。「違う、彼女が花火を押し付けてきたのよ」 袖をまくって火傷の跡を見せようとするが、拓実がその腕を掴んで止める。 「いい加減にしろ!まだ美月を陥れる気か! 美月は昔から火が怖いんだぞ。燃えているものなんて触れるわけがないだろう!」 栞は痛みに息を吸い込む。「本当に、私はやってない……」 「もういい!栞、君には失望した!」秋彦は冷たく言い放ち、美月を抱き上げた。「まずは病院へ送るぞ!」 彼らは美月を守るように去っていく。蒼白になった栞の顔など見向きもしない。 火傷したところからは、皮膚の焦げる匂いがする。栞は痛みに耐えながら、病院へ行こうとした。 突然、黒服の男たちが数人飛び出してきて、彼女を花火の輪の中へと引きずり込んだ。 「誰なの!?放して!」 誰も答えない。彼女は椅子に縛り付けられる。 そして、すべての花火が一斉に点火された。 パン!パン!パン! 空中で花火が弾ける。 轟音が耳をつんざく。栞は恐怖に震えた。 花火の燃えカスや火の粉が、彼女の髪に、顔に、肌に降り注ぐ。 焼けるような熱さと痛みに、彼女は叫んだ。 「助けて!」 もがくうちに、服の端に火が燃え移り、焦げ臭い匂いが漂う。 栞は汗を流しながら椅子ごと転倒し、地面を転げ回って火を消そうとする。 どれくらいの時間が経っただろうか。花火が終わり、栞はボロボロの状態で意識を失った。 薄れゆく意識の中で、彼女は自分が手術台に乗せられ、医師が傷の処置をしているのを感じた。 その時、聞き覚えのある、冷酷な声が響いた。 「手を止めろ」 「雅人さん、栞さんは大火傷です。処置しないと肺炎や、酷い火傷跡が残ります」 「待て。これは、美月を傷つけた罰だ」 まさか実の兄が、わざと仕組んだことだったとは。 その真実は、傷口に塩を塗られるような激痛となって彼女を襲った。栞の目尻から一筋の涙が滑り落ち、彼女は完全に意識を失った。 第3話 どれくらいの時間が経っただろうか。看護師たちの話し声で、栞は目を覚ました。 「美月さんって本当に幸せ者よね。膝を少し擦りむいただけで、イケメン四人がつきっきりなんて」 「本当ね。同じ白川家の娘なのに、こっちは焼け死ぬ寸前だったのに誰も見舞いに来ないなんて。実の妹の方が養女より冷たくされるなんて、惨めね」 「惨め?愛想がないから嫌われるのよ」 看護師たちが去った後、栞は虚ろな目で天井を見つめた。 私は本当に愛想がないのだろうか? 兄である雅人のために、そして白川家の長女として、できる限りのことはしてきたつもりだ。 雅人の会社の上場が阻まれた時、栞は敵対企業の社長と胃から血が出るまで酒を飲み明かし、投資を取り付けて上場を成功させた。 蓮がハリウッド進出を目指した時、昼夜を問わず監督たちに推薦メールを送り続け、数百通が無視された末にようやくチャンスを掴み取らせた。あの映画が、彼を国際的なスターにしたのだ。 拓実がスランプに陥り、賞を逃し続けていた時、伝説の織物職人の家の前で三日三晩立ち尽くし、最後の反物を譲り受けた。彼があの服で新進気鋭のデザイナーになれたのは、そのおかげだ。 そして秋彦。臨床試験が行き詰まり、彼が酒に溺れていた時、彼女はこっそりと被験体となり、薬を試した。実験は成功し、彼は権威ある賞を受賞したが、彼女はその副作用で癌を患った。 これだけ尽くしても、まだ私は「愛想がない」と言われるのか。 それから数日間、栞は糸の切れた操り人形のようにベッドに横たわっていた。 口もきかず、何にも興味を示さない。 そんなある日、癌の主治医が病室を訪れた。 「栞さん、手続きが完了しました。予定より早く治療に向かえますよ」 栞のまつ毛が震えた。 そうだ、思い出した。彼女には別の選択肢があったのだ。人生をやり直すという選択肢が。 その日から、彼女は治療に協力し、食事も摂るようになった。 一週間後、栞は退院の手続きを済ませた。病院の正門を出ると、そこには見覚えのある四台のロールスロイスが停まっていた。 ナンバープレートを見て、栞は踵を返そうとした。 「お姉ちゃん、乗って。今日は私のピアノリサイタルなの。お兄ちゃんたちにお願いして、待ってもらってたのよ」 秋彦の助手席で、美月が得意げに笑っている。 栞は平静を装って答えた。 「遠慮するわ。成功を祈ってる」 美月の目元が赤くなる。 「お姉ちゃん、まだ怒ってるの?私がみんなの愛を奪ったから?お姉ちゃんの全てを奪ったから?」 秋彦が眉をひそめて栞を見た。 「栞、意地を張るな。美月が許してくれているのに、どうしてそんなに聞き分けがないんだ」 後ろの車からクラクションが鳴り、雅人が顔を出す。 「栞、早く乗れ。美月の開演に遅れる」 これ以上揉める気力もなく、栞は車に乗り込んだ。 道中、美月と秋彦は楽しげに談笑していたが、栞は瞳を閉じて貝のように口を閉ざしていた。 会場に到着すると、美月はすがるような目つきで栞を見つめた。 「お姉ちゃん、拓実さんがデザインしてくれたドレス、着方が難しくて……手伝ってくれない?」 悪意を感じて拒否しようとしたが、四人の男たちの冷ややかな視線が突き刺さる。 拒否権などないのだ。 「行ってやれよ。姉なんだから、それくらい当然だろう」秋彦が諭すように言う。 控室で美月の着替えを手伝った後、栞は舞台袖の暗がりからステージを見つめていた。 演奏が終わり、美月が優雅にお辞儀をした瞬間だった。 プツリ、と何かが切れる音がして、ドレスの肩紐が弾け飛んだ。大勢の観客の目の前で、ドレスが滑り落ち、美月の肌が露わになる。 会場がどよめきに包まれた。 真っ先にステージに駆け上がったのは秋彦だった。ジャケットで震える美月を包み込む。 美月は横を向いて栞を凝視した。その唇は震え、顔色は蒼白だ。彼女は自身の腕をきつく抱きしめ、屈辱に耐えかねたように涙を流した。 「お姉ちゃん、どうして?家族をお姉ちゃんに返したのに、まだ私を許してくれないの?」 彼女はそのままショックで気絶した。 「美月を病院へ運ぶ。あとは頼む」秋彦は見たこともないほど慌てた様子で彼女を抱き上げた。 去り際、彼が栞に向けた視線は――氷のような冷徹さと、深い失望に満ちていた。 栞は地獄に突き落とされた気分だった。 雅人が歩み寄り、思い切り彼女の頬を張り飛ばした。 「栞、そこまでしてあいつを毀したいのか!」 「違う!」栞は腫れ上がった頬を押さえ、必死に訴える。「私はドレスになんて触れてない!私じゃない!」 拓実が鼻で笑う。「ドレスは僕のデザインだ。最後に触ったのは、美月を除けば君だけだ。まさか美月が自分でやったと言うつもりか?」 蓮もポケットに手を突っ込み、汚物を見るような目で言った。 「栞、君、そこまで性根が腐ってたのかよ」 性根が腐っている? その言葉がナイフのように胸に突き刺さる。 白川家に戻った当初、布団の中に大量の蛇を入れられて気絶した時、彼らは「美月が君の度胸を鍛えてやってるんだ」と笑った。 地下室に三日三晩閉じ込められ、瀕死の状態で見つかった時、彼らは「美月がうっかり鍵をかけ忘れただけだ」と庇った。 学校で美月の取り巻きにトイレに連れ込まれ、制服を切り裂かれた時、彼らは「美月の軽い冗談だろ」と済ませた。 そうか。彼らは最初から、何が「悪意」かを知っていたのだ。 ただ、相手が栞だからどうでもよかっただけなのだ。 「栞、どうやら少し躾が必要なようだな」雅人が冷酷に言い放った。 第4話 蓮は冷たい目で栞を見下ろした。 「おい、美月が妊娠してるって知ってんのか?」 拓実が眉をひそめる。「ショックで流産でもしたらどうするつもりだ?子供に何かあったら責任取れるのか?」 「そうだ」蓮が畳み掛ける。「今回のことで、あいつの心がどれだけ傷ついたと思ってんだよ」 心の傷?トラウマだって? 笑わせないでほしい。深い傷を負っているのは私の方だ。 美月の陰湿な「悪戯」のせいで、私は何年も抗うつ剤を飲み続けているのに。どうして加害者が被害者ぶって、心の傷を語れるの? そう思うと、乾いた笑いが込み上げてきた。 その態度が、彼らの怒りに火をつけた。 「栞、自分が何をしたか分かってて笑えるのか!?」雅人が激怒する。「僕はお前の兄だ。腐った性根を叩き直してやる義務がある!」 彼は控えていたボディガードたちに目配せをし、冷たく言い捨てて三人と共に立ち去った。 数人の屈強な男たちが栞を取り囲み、リーダー格の男が一礼する。 「悪く思わないでくださいね、お嬢様」 「何をする気!?」 後ずさる栞の腕が、左右から掴まれる。 「放して!やめて!」 抵抗も虚しく、男たちが一斉に襲いかかり、彼女の衣服に手をかけた。 ビリッ、ビリビリッ―― 衣服が引き裂かれ、寒空の下、晒された肌に鳥肌が立つ。 無数の手が体を這い回り、執拗に下半身にまで伸びる。 屈辱が胸の奥からこみ上げ、彼女は死に物狂いで抵抗した。 「お願い、放して!」 叫び声は誰にも届かない。 扱いはますます乱暴になり、栞は涙を流して叫んだ。 一糸まとわぬ姿にされるまで、その暴行は続いた。 栞は泥のように地面に崩れ落ち、必死に体を丸めて隠そうとした。 だが次の瞬間、手首を縛られ、強引に引きずり出された。 「やめて……どこへ連れて行くの……?」 恐怖で震える彼女を、男たちは会場の入り口へと引きずっていき――あろうことか、そのまま吊るし上げたのだ。 冬の鋭い風が、裸の肌をナイフのように切り刻む。寒さと羞恥で栞の唇は紫色になり、歯の根が合わないほど震えた。 声を押し殺して泣いた。大声を出せば、人が集まってしまう。 こんな惨めな姿、誰にも見られたくない。早く終わってほしい。ただそれだけを願った。 その時、無情にも終演を告げるベルが鳴り響いた。 栞はパッと目を見開き、全身を硬直させた。 観客がどっと押し寄せてくる。入り口の異様な光景に、人々は息を飲み、やがて騒然となった。 「うわ、何これ?前衛芸術?」 「この寒い日に全裸?売名行為かよ」 「イカれてるな」 無数のスマートフォンが向けられ、フラッシュが焚かれる。栞は屈辱に耐えかねて目を閉じた。 「待って、この人、ピアニストの美月さんの姉じゃないか?」 ネット上では既に拡散が始まっていた。美月が意図的に、栞の無惨な姿を何枚も並べた画像をSNSに投稿したのだ。 【お姉ちゃんが私のドレスを破いて演奏会を台無しにしようとした。ファンの皆さんは怒ってるけど……それでも私のお姉ちゃんだから、どうか許してあげて!】 誰かがその投稿を読み上げると、同情は怒りへと変わった。 「最低だな!妹の晴れ舞台になんてことを!性格悪すぎるだろ!」 罵声と共に、ゴミが投げつけられる。 ペットボトル、飲みかけのコーヒー……汚物が栞の体に叩きつけられる。 栞は絶望の中でそれを受け入れた。罵倒や暴力よりも痛かったのは、実の兄が自分の手で、妹をこのような生き地獄へ突き落としたという事実だった。 極度のストレスと悲しみで、内臓がねじ切れるようだった。栞はどす黒い血を吐き出し、そのまま意識を失った。 再び目を覚ますと、病院のベッドの上だった。医師が同情に満ちた目で見下ろしている。 「栞さん、病状が悪化しています。海外の医療チームと連絡を取りました。一週間後に出発しましょう」 医師の温かい眼差しを見て、愛する夫や兄から向けられた憎悪の視線を思い出す。胸の奥が苦く、重い。 もしかしたら、私が早く消えることが、全員にとっての幸せなのかもしれない。 栞は力なく微笑み、頷いた。 三日後、退院した栞は荷物をまとめるために実家へ戻った。 玄関に足を踏み入れた瞬間、話し声が聞こえてくる。 「秋彦、いつになったら栞に真実を話すんだ?美月がこれ以上傷つくのは見ていられない」眼鏡の位置を直しながら、雅人が言う。 秋彦はコーヒーを一口飲み、少しの沈黙のあと、重い口を開いた。 「もう少し待ってくれ。機会を見て彼女に話して、海外へ行かせるつもりだ」 栞は拳を握りしめた。 その必要はないわ、秋彦。 私は自分で消えるから。あなたを記憶から消して、二人を幸せにしてあげる。 彼女は溢れそうになる涙を堪え、平静を装ってリビングへ入った。 「お姉ちゃん、お帰りなさい」美月が階段を降りてくる。何事もなかったかのように。「お姉ちゃん、ネットのことは気にしないで。私、もう怒ってないから。ファンの人たちがあんなに怒るとは思わなくて……」 雅人が冷たく言い放つ。 「もういい、美月。お前が自分を責める必要はない。ネットの写真も動画も、僕がすべて削除させた」 消せば、私が受けた傷もなかったことになるの? 栞は虚ろな目で兄を見た。 「栞、これからはもっと美月を大切にしろよ」 栞は無感情に頷いた。 あまりに静かで従順な栞を見て、秋彦の胸に僅かな罪悪感がよぎる。 彼が慰めの言葉をかけようとした時、美月が甘えた声を出した。 「お姉ちゃん、明日は蓮さんのライブなの。一緒に行きましょう?」 かつて蓮のライブがあると知れば、自腹でチケットを買い、誰にも気づかれないように端の席で応援していた。 匿名でSNSに応援メッセージを送り続けていた。 だが今は、そんな自分が滑稽で仕方がない。 「いいえ。行きたくないわ」 美月の目から大粒の涙が溢れ落ちる。 「お姉ちゃん……まだ私のこと嫌いなの?まだ怒ってるの?」 雅人が舌打ちする。 「栞、せっかく美月が誘ってるのに、なんだその態度は。空気を読め」 秋彦も低い声で威圧する。 「栞、美月は妊娠してるんだ。悲しませるな」 栞は反論する気力もなく、ただ頷いて自分の部屋へと戻った。 部屋に戻ると、高熱が出て体が鉛のように重い。 助けを呼ぼうにも、喉が焼けるように痛くて声が出ない。 隣の部屋からは、美月をあやす男たちの楽しげな笑い声が聞こえる。 今ここを出て行けば、また怒鳴られるだけだ。 栞は泥のように眠った。 夕方、秋彦に乱暴に揺り起こされた。 「何……?」栞は意識が朦朧としていて、声は枯れ果てていた。 「君が行かないせいで、美月が泣き止まないんだ。準備しろ」 「気分が悪いの……休ませて……」 彼は栞の体が異常に熱いことに気づき、一瞬躊躇した。 だが、下の階から聞こえる美月の泣き声を聞くと、表情を硬くする。 「彼女は妊婦なんだ。精神的に不安定にさせられない……少し我慢してくれ」 彼は無理やり栞に服を着させ、引きずるようにして車へ押し込んだ。 第5話 コンサート会場に到着すると、拓実はすでに待っていた。 栞の姿を見るなり、彼の表情が曇る。 「よくもぬけぬけと来られたもんだな。あれだけ美月を傷つけておいて、まだ付きまとう気か?」 高熱で顔を赤くし、瞼も重い栞は、彼の言葉に反応する気力さえなかった。 すかさず美月が口を挟む。 「拓実さん、もういいの。私、お姉ちゃんのこと許したから。一緒に楽しませてあげて?」 拓実は不満げに栞を一瞥し、ふんと鼻を鳴らした。 席に着くと、男たちは当然のように美月を中央に座らせ、甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。 「美月、お茶を飲みなさい」 「美月、フルーツはどうだ?」 「美月、寒いだろう。ブランケットを使いな」 …… 美月の世話を終えた秋彦が、ふと隣を見る。そこには、顔を真っ赤にしてぐったりと座り込む栞がいた。 これほどまでに弱々しい彼女を見るのは初めてかもしれない。秋彦の胸に動揺が走り、声色が思わず優しくなる。 「栞、大丈夫か?少しの辛抱だ。終わったらすぐに病院へ送るから」 彼は自分のマフラーを外し、栞の首に巻こうとした。 しかし、栞はわずかに顔を背け、それを避けた。 「結構よ。あなたは美月の世話をしてあげて。妊婦なんだから」 秋彦の手が止まる。彼が眉を寄せ、何か言いかけたその時、美月の興奮した声が遮った。 「秋彦さん、早く!蓮さんの出番よ!」 秋彦はすぐに栞から意識を切り替え、美月の方へと体を向けた。 演奏が始まる。蓮が登場した瞬間、会場は歓声に包まれた。 栞がこれほど近くで彼のステージを見るのは初めてだったが、今の彼女には爆音で頭が割れそうに痛むだけだった。 それでも必死に意識を保っていたが、大スクリーンに美月の笑顔が映し出された瞬間、思考が停止した。 マイクを握った蓮が、客席の美月に向かって語りかける。「今日は、僕の最愛の妹・美月に感謝を伝えたい。彼女が何百回も武田(たけだ)監督に連絡を取ってくれなかったら、僕は映画『蒼き月』の役を掴めなかったし、主演俳優賞も取れなかった。美月、本当にありがとう!」 スクリーンの中の美月が、恥ずかしそうに顔を赤らめる。 栞は血の気を失った唇で、呆然とスクリーンを見つめた。 あの日々。来る日も来る日もメールを書き、頭を下げ続けたのは私だったのに。誰にも言わず、陰から彼を支えようとしたあの想いさえも、美月に盗まれていたなんて。 その時だった。「速水蓮!あんたのせいで兄は夢を絶たれたんだ!死んで償え!」 突然、一人の観客が時限爆弾を掲げてステージに駆け上がってきた。 会場はパニックに陥り、悲鳴と共に観客が出口へと殺到する。 蓮のボディガードがいち早く反応し、彼を避難させる。 蓮が叫ぶ。「僕はいいから、妹を守れ!」 他の三人も即座に反応し、美月を囲んで守りながら出口へと急ぐ。 「美月、気をつけろ!」 「怖くないぞ、僕たちがついてる!」 栞は震える足で立ち上がり、彼らを追おうとしたが、逃げ惑う人波に押されて転倒した。 「3――2――1」 ドカン!! 爆音が轟く。 爆風が栞の体を吹き飛ばし、彼女は地面に叩きつけられた。口から鮮血を吐き出し、意識が闇に落ちていく。 一方、美月を守りきった四人は安全な場所まで避難し、安堵の息をついていた。 「美月、大丈夫か?」 「怪我はないか?見せてみろ」 「念のため病院で検査しよう」 四人は急いで車に乗り込み、病院へと向かった。 病院の救急外来は、爆発事故の被害者たちで溢れかえっていた。あちこちから苦痛の呻き声が聞こえる。 その片隅に、全身血まみれで瀕死の状態の女性が担架で運ばれてきた。それは栞だった。 「先生、急いで!この患者、危険な状態です!」 看護師たちがストレッチャーを押し、手術室へと走る。 ちょうどその時、到着した五人とすれ違った。 最後尾を歩いていた秋彦が、ストレッチャーに乗せられた血まみれの人物を目にして、足を止めた。 今の……栞か? そういえば、栞が一緒に逃げてきていないことに、彼は今さら気づいたのだ。 心臓が嫌な音を立てる。確認しようと彼が踏み出した瞬間、声がかかった。 「秋彦、どうした?」蓮が呼びに来る。「美月がずっとお前を呼んでるぞ。早く行ってやれ」 秋彦は迷いを振り切り、小走りで彼らの後を追った。 …… 再び目が覚めた時、ベッドの脇に秋彦が座っていた。 栞が身じろぎすると、骨を削られるような激痛が走り、額に汗が滲む。 「栞、気がついたか?」秋彦が心配そうに顔を覗き込む。「すまない……まさかこんな大怪我をしていたなんて」 全身を包帯で巻かれた栞は、目の前で愛情深い夫を演じる男を見て、吐き気すら催した。 ただただ、その偽物の優しさが気持ち悪い。 「いいの……行って……美月のそばに……」 彼女は顔を背けた。 だが秋彦は動かず、医用手袋をはめ始めた。 「あいつらがついてる。傷の処置をさせてくれ」 彼はハサミで慎重にガーゼを切り、アルコール綿で傷口を拭き始めた。 「沁みるかもしれないけど、我慢してくれ」 真剣な眼差しで処置する彼を見て、栞はふと、かつての幸せだった日々を思い出した。 あの頃は、栞が少し不機嫌なだけで、彼はすぐに気づいてくれた。 けれど今は、彼の視界の端に映ることさえ難しい。 この優しさもまた、演技なのだろうか。 「秋彦さん……お腹が痛い……」 病室のドアから、美月の弱々しい声がした。 「なんだって?」秋彦がバッと振り返った拍子に、手元が狂って傷口を強く押してしまった。 「っ――!」栞は激痛に息を呑む。 秋彦は即座に手袋を脱ぎ捨てた。 「栞、すぐに戻る」 彼は迷うことなく美月を抱き上げ、病室を飛び出していった。 栞は痛みに耐えながら待ち続けた。日が暮れて、夜になっても、秋彦が戻ってくることはなかった。 巡回に来た医師が、処置が中断され放置された傷口を見て慌てて処置した。 消毒の痛みに唇を噛み締めながら、栞は何度も意識を失いかけた。 朦朧とする意識の中、枕元のスマートフォンが震えた。 「栞さん、ビザの手配が完了しました。出発は三日後です」 電話の向こうの声に、栞は掠れた声で答えた。 「お願いがあります……この街に残る私の記録を、すべて抹消してください……」 記憶だけではない。彼女は、自分がこの場所に存在したという痕跡すらも、すべて消し去りたかった。 第6話 あの日以来、秋彦が姿を見せることはなかった。 数日後、栞が退院の準備をしていると、またしても美月が現れた。 「お姉ちゃん、もう元気になったでしょ?ねえ、オークションに付き合ってよ」美月は見せつけるようにブラックカードを揺らしてみせた。 「お兄ちゃんは私のために海外へ限定バッグを買いに行ってるし、拓実さんはドレスのデザイン中、蓮さんは曲作り、秋彦さんは手術で忙しいの……」 彼女はパチパチと瞬きをして、可哀想な自分を演じてみせる。 「お姉ちゃん、私一人じゃ怖いの。一緒に行ってくれるわよね?」 「断るわ」栞は即座に拒絶した。 美月は意地悪く口の端を歪める。 「あら、じゃあ彼らに電話しちゃおうかな」 栞の脳裏に、彼らから罵倒される光景がフラッシュバックする。 またあの屈辱を味わうのか。 栞は美月の手からスマートフォンを奪い取り、渋々同意するしかなかった。 …… オークション会場に到着すると、美月は自分の番号札を栞に渡してきた。 「お姉ちゃん、私の代わりに札を挙げてね」 栞が警戒心を露わにすると、美月は強引にそれを握らせた。 「お姉ちゃん、これが欲しい! あれも欲しい!」 十点出品された品物を、美月はそのすべてを落札した。 会場中の人々が、冷ややかな目で栞を見ていた。 オークションが終了すると、美月はブラックカードを取り出した。 「お姉ちゃん、支払いを済ませてきてくれる?」 美月の笑顔を見て、栞の背筋に冷たいものが走る。 嫌な予感がして手を伸ばせずにいると、美月が小声で囁いた。 「私、妊婦なのよ。もし私と赤ちゃんに何かあったら、彼らがどうするか想像つくでしょ?」 脅迫だ。もし自分の目の前で、美月やお腹の子の身に何かあれば、彼らは絶対に自分を許さないだろう。 彼女はブラックカードを受け取ると、別室へと向かった。支配人は、媚びへつらうような卑屈な笑みを浮かべて彼女を出迎える。 「お客様、素晴らしい買いっぷりでございました。合計で64億円になります」 栞がカードを渡すと、支配人はPOS端末に通した。 ビーッ! エラー音が響く。支配人の顔色が変わり、もう一度通すが、やはり決済できない。 栞の額に冷や汗が滲む。 「待って……本人を呼んでくるわ……」 言い訳をして部屋を出ようとした瞬間、支配人が彼女の頬を思い切り張り飛ばした。 「このアマ!金もないくせに金持ちぶってんじゃねえぞ!」 口の端から血が流れる。栞が床に這いつくばりながらガラス戸の向こうを見ると、そこには勝ち誇った笑みを浮かべる美月の姿があった。 「美月、何を買ったんだ?」不意に、秋彦の声がした。ガラス越しに彼の姿が見える。 美月が一瞬で表情を変え、慌てた様子を見せる。「秋彦さん、どうしてここに?」 「お前と子供が心配でね」秋彦の影がガラスに映る。 「さあ、一緒に帰ろう。そういえば、栞は?一緒じゃなかったのか?」 「お姉ちゃん、気分が悪いから先帰るって」美月は顔色一つ変えずに嘘をついた。 その時、支配人の男が油断している隙を突いて、栞は猛然とドアへダッシュした。 「秋彦、私はここよ!」 だが、叫ぶ間もなく、太い腕が彼女の髪を掴んで引き戻し、大きな手が口を塞いだ。 「騒ぐんじゃねえ、このクソ女が!」 扉の外にいた秋彦は、微かに栞の声を聞いたような気がして、周囲の個室に鋭い視線を走らせた。 「本当なのか?」 「うん……」美月はうつむき、目の縁を赤く染めた。「信じられないなら、お姉ちゃんに電話して聞いてみて……ただ、ちょっとお腹が痛くて。でも、いいの。気にしないで先にお姉ちゃんを探してあげて。私は一人で帰れるから」 その言葉を聞いて、必死に抵抗していた栞の動きが、ふいに止まった。 数秒の沈黙の後、秋彦の声が聞こえた。 「……いや、いい。栞は昔から、自分のことは自分でできる女だ」 足音が遠ざかっていく。栞の中に残っていた最後の一縷の希望が、粉々に砕け散った。 「金がねえなら体で払ってもらおうか!」首が見えないほど太った支配人が、卑猥な笑みを浮かべて栞の服に手をかける。 栞は渾身の力で男の股間を蹴り上げた。 「ぐあああっ!」 豚が締め殺されるような悲鳴が上がる。 男が痛みにのた打ち回っている隙に、栞はドアへ走ったが、鍵がかけられていて開かない。 「クソ女が……ただじゃおかねえぞ!」 男が足を引きずりながら迫ってくる。 絶望の中で、栞の視界に窓が入った。彼女は歯を食いしばり、窓枠に足をかけ、そのまま身を宙に投げ出した。 ドスンッ! 鈍い衝撃音が響き、全身の骨が砕けるような激痛が走る。栞はあまりの痛みに意識が飛びそうになった。 すぐに野次馬が集まってくる。 「おい、飛び降りだ!見に行こうぜ!」 ちょうど車に乗り込み、美月にシートベルトを締めていた秋彦の手が止まった。 「秋彦さん、どうしたの?私たち見に行ってみる?」美月は彼を気遣うように、優しく声をかけた。 秋彦は我に返り、首を横に振った。「いや、いい。血生臭いものを見たら、お前と赤ちゃんに良くない」 彼はシートベルトを締めると、エンジンをかけて車を出した。 遠ざかる車の音を聞きながら、栞は限界を迎え、静かに瞳を閉じた。 第7話 目を覚ますと、医師が同情に満ちた眼差しで見下ろしていた。 「栞さん、怪我のことですが……警察に通報しますか?」 警察?そんなことをして何になる? もういい。これ以上、彼らに恥を晒されるのは御免だ。 彼女は静かに首を横に振った。 医師は小さく溜息をついた。 「ビザと航空券の手配は完了しました。出発は明後日です。 それから、あなたがこの街にいたという記録データは、すべて消去しました」 栞の口元に、微かな笑みが浮かぶ。 これほど長い間苦しんで、ようやく訪れた唯一の朗報だった。 よかった。やっと解放されるのだ。 翌日、栞が退院して自宅に戻ると、リビングから楽しげな話し声が聞こえてきた。ドアを開けると、五人が食卓を囲んで談笑している。 秋彦が美月にスープをよそい、他の男たちもプレゼントを見せ合っていた。 栞の姿を認めた瞬間、場の空気が凍りついた。 「よくもぬけぬけと帰ってこれたな。美月をオークション会場に置き去りにしておいて」雅人が冷ややかな視線を向ける。 栞は言い訳する気力もなく、無言で寝室へと向かった。 背後で蓮が「悪いことをした自覚もないのかよ」と毒づくのが聞こえた。 部屋に入った栞は、荷造りを始めた。 かつて宝物だった写真やプレゼントを、迷うことなくゴミ箱へと放り込んでいく。 手元に残したのは、亡き父とのツーショット写真だけだ。 この家で唯一、心から栞を愛してくれた人。 だが半年前に心臓発作で他界してしまった。 雅人や秋彦たちの態度が豹変したのは、父が亡くなってからのことだった。 写真の中の優しさに満ちた父の顔を指でなぞり、栞は鼻の奥がツンとするのを感じた。 「栞、荷造りなんてしてどこへ行くんだ?」いつの間にか秋彦が入ってきていた。彼はゴミ箱の中身を見て、眉をひそめて彼女を見た。「どうして全部捨てるんだ?」 ゴミ箱の中には、二人の思い出の写真が捨てられている。彼は得体の知れない不快感を覚えた。 「古い物だから、もういらないの」 汚れてしまった人間も、一緒に捨てるのだ。 栞は手を休めずに冷たく答えた。 秋彦の胸に不安がよぎる。彼女がただ拗ねているだけだと思いたい彼は、優しく言い聞かせようとした。 「栞、分かってるよ。最近、美月の妊娠にかかりきりで、君を疎かにしていた。 だが、僕の妻は君だけだ。だから、そんな風に拗ねるのはやめてくれないか?」 妻? 栞は心の中で冷ややかに笑った。よくもまあ、顔色一つ変えずにそんな嘘がつけるものだ。彼女は何も答えず、再びしゃがみ込んで片付けを続けた。 その時、スーツケースの隙間から見えた書類に、秋彦の目が留まった。 【癌診断書】の文字の一部が見えている。 「これは何だ?」 彼が手を伸ばした瞬間、栞の心臓が早鐘を打った。 出発を目前にして、余計な波風を立てたくない。 「秋彦さん、ウェディングドレスの試着に付き合ってくれるんでしょ?」タイミングよく美月がドア口に現れ、秋彦は手を引っ込めた。 「ああ、すぐ行くよ」彼は愛おしげに美月を見た。 「お姉ちゃんも一緒に行きましょう?」美月が怯えたように誘う。 「行かないわ」栞は即座に拒絶した。 美月の瞳がたちまち潤む。 「お姉ちゃん、そんなに私のことが嫌いなの?」 泣き声を聞きつけた雅人が階段を上がってきた。 「栞、また美月を泣かせたのか! 美月が好意で誘っているのに、どうして断るんだ!」 栞が口を開く間もなく、雅人は彼女の腕を掴み、強引に引きずっていった。 車内では、雅人がハンドルを握りしめ、顎を強張らせていた。彼が激怒しているサインだ。 だが今の栞には、以前のように彼をなだめる気力などない。突然、内臓を雑巾絞りにされるような激痛が襲った。彼女はポケットから鎮痛剤を取り出し、大量の錠剤を一気に飲み込んだ。 「何を飲んだ?」雅人が不審げに尋ねる。 「ラムネよ」栞は短く答え、目を閉じた。 車内の空気が重く澱む。 あまりに冷淡な栞の態度に、雅人の怒りは沸点に達しようとしていた。 ドレスショップに到着すると、予想通り、美月は着替えの手伝いを栞に要求した。 更衣室で二人きりになった途端、美月はあのか弱い仮面を脱ぎ捨てた。 「お姉ちゃん、みんなが私に尽くしてくれるのを見て、悔しくてたまらないでしょ?」彼女は鏡の前でポーズを取りながら嘲笑う。 「でも仕方ないのよ。何事も早い者勝ちなんだから。いくら血の繋がった娘でも、愛されなきゃ意味がないの」 栞が無反応なのを見て、美月の目には憎悪の色が濃くなった。 「私はあんたの旦那も、お兄ちゃんも奪った。次は、あんた自身をこの世から消してあげる!」 ようやく栞が反応を示した。 美月に教えてやりたかった。そんな手間をかけなくても、私は明日ここから消えるのだと。 だが彼女が口を開く前に、美月は彼女の手を引いて更衣室を出た。二人は螺旋階段の上に立つ。 下から男たちの歓声が上がった。 「美月、綺麗だ!」 「当日が楽しみだな、世界一美しい花嫁だよ!」 彼らの賛美を聞きながら、美月は栞の耳元に顔を寄せ、悪魔のように囁いた。 「お姉ちゃん、知ってる?……実はね、私、妊娠なんてしてないの」 栞は目を見開いた。 「秋彦さんに早く結婚してほしくて、嘘ついただけ」 嫌な予感がした。栞は後ずさりしようとしたが、美月がその手首を掴んで離さない。 「ただ私は……彼らに……お姉ちゃんを追い出してほしかっただけなの」 言い終えると、彼女は栞に向かってにっこりと甘く微笑んだ。 次の瞬間、美月は栞の手を掴んだまま、自ら階段へと身を投げ出した。 「きゃああっ――!」 「美月!!」 「栞、なんてことをするんだ!!」 下で見上げていた四人の目には、栞が美月を突き落としたようにしか見えなかった。彼らは狂気じみた形相で駆け寄った。 「美月、しっかりしろ!」雅人が震える手で彼女を抱き起こす。 「お兄ちゃん、お腹が痛い…… 私の赤ちゃん……赤ちゃんが……」 美月はうわごとのように呟き、気を失った。 「急げ!病院だ!」秋彦が狂ったように叫び、四人は大慌てで美月を運び出す。 呆然と立ち尽くす栞の腕を、蓮が乱暴に掴み上げた。その瞳は氷のように冷え切っていた。 「来い。もし美月に何かあったら、君も生きて帰れると思うなよ!」 第8話 手術室の前の廊下は、重苦しい空気に包まれていた。赤いランプが点滅している。 「全部お前のせいだ。栞、お前は美月を殺す気か?」雅人が憎々しげに栞を睨みつける。 拓実が栞を壁際まで追い詰める。「栞、美月は君を本当の姉のように慕っていたのに。どうしてそんなに性根が腐ってるんだ?」 「突き落としてない。彼女が自分で落ちたのよ。 それに美月は妊娠なんてしてない、あの子は……」 パチン! 言い終わる前に、秋彦の手が栞の頬を打った。 「この期に及んでまだ嘘をつくのか!」 栞は自分の愚かさを噛み締めた。 彼らはいつだって美月の味方だ。私の言葉など、信じるはずがない。 その時、医師が出てきた。「美月さんのご家族は?出血多量です、輸血が必要です」 四人の視線が一斉に栞に向く。 蓮が乱暴に栞の腕を掴んだ。 「美月と同じ血液型だろ。輸血しろ!」 冷たい針が皮膚に突き刺さり、真っ赤な血液がパックへと流れ出していく。 すぐに栞の視界が歪み、めまいが襲ってきた。 「多めに抜いておけ。美月のためにストックが必要だ」雅人が冷酷に命じる。唇の色を失った栞のことなど見向きもしない。 看護師が四パック分の血を抜いたところで、ようやく雅人がストップをかけた。 栞はふらふらと立ち上がろうとしたが、膝に力が入らず、その場に崩れ落ちた。 男たちは冷ややかに彼女を見下ろす。 「栞、可哀想なフリはやめろ」 栞は何も言い返さなかった。ただ、早くここを立ち去りたかった。飛行機の時間が迫っているのだ。 その時、手術室のランプが消えた。 医師が出てくる。 「残念ですが……母体の命は取り留めましたが、お子さんは……ダメでした」 四人が凍りつく。 病室から、美月の悲痛な叫び声が響いた。 「赤ちゃん!私の赤ちゃんが……!」 泣き声を聞いた四人は、慌てて病室へと駆け込んだ。 「お姉ちゃん、私が嫌いなのは知ってるけど、どうして赤ちゃんまで……この子は無実なのに!」美月は身を裂くように泣き叫ぶ。その姿に、男たちの心は痛んだ。 「美月、大丈夫だ。僕たちがついてる。子供ならまた授かるさ」 美月は彼らを突き放す。 「出てって!みんな出てってよ!みんなが私に優しくするから、お姉ちゃんが嫉妬して……私の赤ちゃんを殺したのよ」 秋彦が彼女の手を強く握り締める。 「美月、落ち着いてくれ。栞には必ず罰を与えるから」 「赤ちゃんは帰ってこない!どんな罰を与えたって意味ないわ!」 美月の迫真の演技に、男たちの目には涙が滲んでいた。 栞は心の中で冷たく笑った。美月は自分を追い出すために、「被害者」を演じて彼らの同情を引く術を完璧に身につけている。 「栞、土下座して美月に詫びろ」 雅人が低い声で命じた。 「嫌よ。私は悪くない」 栞の声は震えていたが、意思は固かった。 雅人の目に暗い陰が落ちる。 彼が目配せすると、蓮と拓実が動き、抗う力もない栞を床にねじ伏せた。 彼女の頭を掴み、強制的に床に叩きつける。 ドン!ドン!ドン! 鈍い音が響き、額が床に打ち付けられる。その痛みと共に、栞の中に残っていた最後の未練が粉々に砕け散った。 「謝れ!」 雅人が再び怒鳴る。 栞は失望の眼差しで兄を見上げた。 「私は……悪くない!」 反省の色がない栞を見て、雅人は激昂した。 「栞、お前のような娘は白川家にはいらない!絶縁だ!」 背後で、美月が勝ち誇った笑みを浮かべていた。 「ほら、彼らが一番愛してるのは私なの」とでも言うように。 栞の胸の奥で何かが決壊した。突然、口から大量の血が噴き出した。 視界が暗転し、そのまま床に倒れ込む。 秋彦と雅人が顔色を変えて駆け寄ろうとしたが、蓮が鼻で笑って止めた。 「また演技かよ。大した演技力だな」 二人は顔を見合わせ、足を止めた。 美月がお腹を押さえて苦しみ出す。 「お腹が痛い……」 「医者!早く医者を呼べ!」 栞の意識は遠のいていく。誰かが通り過ぎる気配がしたが、誰も立ち止まらない。 「放っておけ。死んだふりでもさせておけばいい」 自分を助けようとした医師や看護師を止める雅人の声が、遠くから聞こえた。 周囲の音が消え、寒さが全身を包み込んでいく。 …… 「栞さん、しっかりして!海外の専門医が待っています!助かりますから!」 けれど、栞はもう疲れ果てていた。これ以上は、もう頑張れない。彼女は静かに瞳を閉じた。