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100円足りなくて、家に帰れない
帰りの車は荷物でいっぱいになり、弟しか座る場所がなくなったので、両親は僕に100円を渡し、バスで帰るように言った。 でも、バス代は200円だっ...
Chương (1)
第1章
帰りの車は荷物でいっぱいになり、弟しか座る場所がなくなったので、両親は僕に100円を渡し、バスで帰るように言った。
でも、バス代は200円だった。
「どうしてそんなに気が利かないの?『子供だから100円でいい』って言いなよ」
二人はそう言い捨てると、弟だけを連れて行ってしまった。
家に着いたら、母が、弟に新しく買ったおもちゃの箱を開けてあげていた。
そして、父は、彼に新しい服を着せてあげていた。
外がどしゃ降りの雨になって、二人は、ようやく僕のことを思い出した。
「あの子、なんでまだ帰ってこないの。本当にトロいんだから、何にもできやしない!」
だけど、その時、たった100円足りなかったせいで、僕はバスから降ろされ、別の方法で帰るしかなかったんだ。
その後、変わり果てた姿にされた体を引きずって、僕が家にたどり着いた時、みんな、その場に泣き崩れた。
第1話
帰りの車は荷物でいっぱいになり、弟しか座る場所がなくなった。
最初は、両親にトランクに乗るように言われたんだ。
だって、席はもう一つしか空いてなかったし、弟を我慢させるわけにもいかなかったから。
僕は聞き分けのいい子だから、ちゃんと言うことを聞いた。
おとなしくトランクの中で、体を小さく丸めてたんだ。
でも、車が動き出すと、つんとするガソリンの匂いがした。
車がガタンと揺れるたび、僕の体は冷たい壁に勝手にぶつかっちゃうんだ。
そしたら、母に、「車から降って」って言われた。
僕が吐いちゃって、弟の新しいおもちゃを汚すのが嫌だったみたい。
母は僕に100円だけ渡して、バスで帰れって言った。
でも、バス代は200円だった。
母に言われたとおりにしたのに、バスの運転手に降ろされちゃった。
「君みたいなウソつく子はたくさん見てきたぞ!わざと100円足りなくして、おこづかいにするつもりだろ!」
それを聞いて、まわりの人たちも嫌な目で僕を見てきて、顔がすごく熱くなった。
でも、お金なんて隠してない。
母は、本当に100円しかくれなかったんだ。
「あなたは子供だから、100円くらい足りなくても大人は気にしないから大丈夫」って、母は言ってたのに。
バスは行っちゃって、僕はそこに一人ぼっちで残された。
次のバスが来るのは、30分も後だった。
僕はずっと、ずっと待っていた。
そうしたら空がまっ黒な雲でおおわれて、大つぶの雨がぽつぽつ降ってきたんだ。
風が吹いて、寒くて体がぶるぶる震えた。
やっと次のバスが来たのに、そのバスの運転手も、やっぱり僕を乗せてくれなかった。
雨はどんどん強くなって、ゴロゴロって雷まで鳴り始めた。
僕は、とうとう怖くなっちゃった。
20円を使って、公衆電話から母に電話した。「迎えに来て」ってお願いしたんだ。
電話の向こうから聞こえたのは、がっかりしたような母の声だ。
「こんな簡単なこともできないなんて、あなたに一体なにができるの?
本当にどんくさいんだから。バスにも乗れないなんて、あきれちゃう」
僕は下のくちびるをぎゅっとかんで、泣くのを我慢した。
でも父は、車で迎えに行くのはガソリン代がもったいないって。そのお金で弟のおもちゃが買えるから、自分でなんとかしてって言った。
電話の向こうから、ツーツーっていう音が聞こえた。電話、切られちゃったんだ。
でも、僕は知っている。うちがお金に困ってるわけじゃないってこと。
両親は、ただ僕のことが嫌いなだけなんだ。
母は学生のころに「間違い」をおかして、学校のトイレで僕を産んだんだ。
そのせいで母は周りから色々と言われて、父は学校を辞めさせられた。
それから6年もたって、二人はやっと立ち直って、結婚することにしたんだって。
結婚してから、弟が生まれた。
弟は二人の愛の結晶で、家族の宝物。
そして僕は、そのつらい過去を思い出させる、ただのシミみたいなものなんだ。
でも僕、すごくがんばっている。
ちゃんと言うことを聞いて、お手伝いもして、みんなに好かれるようにがんばっている。
どうして、それでも両親は僕を愛してくれないの?
そう考えたら、鼻がツンとして、涙が勝手にぽろぽろこぼれてきた。
涙を拭いながら空を見上げると、もうすぐ日が暮れる。手元には80円しか残ってない。
どうやって家に帰ればいいんだろう?
その時、りんご飴を持ったおじさんがこっちに歩いてきた。
「坊や、さっきからずっとここにいるみたいだけど、お父さんとお母さんは?」
おじさんは、りんご飴を僕に差し出してくれた。
りんご飴はキラキラ光っていて、すごくおいしそうだ。
母が買ってくれるのは、いつも弟だけだ。
僕は思わずそれを受け取って一口かじった。あまい味が口の中にふわって広がった。
こんなに優しくしてもらったのは、久しぶりだ。
「両親とはぐれちゃったのか?俺が一緒に探してあげるから、行こうか?」
第2話
先生が言ってた。知らない人についていっちゃだめだって。
「坊や、大丈夫だよ。俺の息子と年が近そうだから、助けてあげようと思っただけなんだ」
りんご飴をごちそうしてくれたし、きっと悪い人じゃないよねって思った。
だって、母は買ってくれなかったもん。
もう何も心配ない。僕は素直に、おじさんの古ぼけたワゴン車に乗り込んだ。
車に乗ったら、なんだか頭がくらくらしてきた。
ちょっと眠い。
シートにもたれかかると、僕は小さい頃の夢を見た。
あの頃、母は僕を産んだばかりで、彼女が自分の体からつながるへその緒とかを見て、顔を真っ青にしたんだ。
そして、水をざっと流して、そのままトイレで僕を溺れさせようとした。
でも、僕の元気な泣き声が掃除員に聞こえたんだ。
そのせいで、母の恥ずかしいことがみんなにバレちゃった。
それから、母は僕を憎んだ。僕のせいで恥をかいたって思ったから。
産まれてすぐの頃、母はミルクをくれなかった。僕がお腹をすかせてわんわん泣くと、やっと大人の食べ残しを飲ませてくれた。
僕がむせて顔を真っ赤にしているのを見て、母はどこかほっとしたみたいに嬉しそうな顔をした。
でも、そんなもの、赤ちゃんが消化できるわけないんだ。
ある夜、僕はお腹がすごく痛くて泣き叫んだ。
母はうるさくて眠れないって言って、布団で僕の頭をぎゅうっと押さえつけた。
僕の泣き声がかすれて、唇が紫色になって、やっと布団をどけてくれたんだ。
あれは、母が僕を殺そうとした二回目だった。
まあ、これは全部、近所の人から聞いた話なんだけど。
僕がはっきり覚えているのは、3歳の時のことだ。
母が初めて、自ら僕を遊園地に連れて行ってくれた。でも、僕がちょうちょを追いかけているほんの一瞬で、母はいなくなった。
大雪の中、僕は母をあちこち探した。
大人に突き飛ばされて、ひざは擦り傷だらけ。でも、痛いなんて気にしていられなくて、手をぱんぱんって払ってまた立ち上がった。
そして、よろよろしながら母を探し続けた。
周りは雪で真っ白で、母がどこにいるのか全然わからなかった。
頭にあったのは、たった一つのことだけ――
母に、捨てられたんだ。
そのうち、小さい僕はもう歩く力もなくなって、隅っこでうずくまって、カチコチに凍えそうになっていた。
その時、母が現れたんだ。
あれは、母が僕を殺すには最高のチャンスだったはずだ。
でも、彼女は諦めた。
そして冷たい顔で言ったんだ。「本当に、あなたにはうんざり!」
それから、僕の毎日は少しだけマシになった。
でも、母が僕を嫌いなのは変わらなかった。
僕は子犬みたいに、びくびくしながら生きていた。
6歳の時、両親は仲直りした。
僕は、すごく嬉しかった。
だって父ができて、ちゃんとした家族になれたんだから。
まだどこかぎこちなかったけど、僕が良い子にしていれば、きっと二人も好きになってくれるって信じていた。
だって、僕たちは血の繋がった家族だから。
世界で一番、近しい人たちなんだから。
その考えは、1年後にこなごなに打ち砕かれた。
父と母に弟が生まれた。二人の新しい子供ができたんだ。
その時、僕は初めて知った。
みんなに望まれて生まれてくる子供っていうのが、どういうものなのかを。
弟は何もしなくても、僕がどんなに願っても手に入らなかった両親の愛情をやすやすと手に入れた。
家の中で、僕はまるで透明人間みたいだ。
僕の役目は、弟が馬乗りごっこをしたい時に、背中に乗せて床をぐるぐる這い回ることくらい。
そうやって彼のご機嫌をとるのが僕の「仕事」だ。
「おい、クソガキ!いつまで寝てんだ!」
突然、夢を打ち砕く声が聞こえた。
僕が目を開けないでいると、男は思いっきり僕をつねった。
その痛みで目が覚めると、僕はワゴン車でどこかの小さな倉庫に運ばれていた。
そこは寒くて、真っ暗だった。
車のライトに照らされて、地面に僕と同じくらいの年の男の子が何人か転がっているのが見えた。
でもその子たちの手足は、みんな無理やりへし折られていた。
地面にうつ伏せになったまま、もぞもぞと動くことしかできないでいる。
僕は恐怖で、いっぺんに目が覚めた。
「嘘じゃなかっただろう。ほら、俺にはお前と同じくらいの『息子』が、こんなにたくさんいるんだよ」
りんご飴をくれたおじさんは、さっきまでの優しい顔とは打って変わって、怖い笑みを浮かべながら僕を車から引きずり下ろした。
そこでやっと気づいた。この人は、悪い人なんだって。
地面にいる男の子たちは舌を切られているみたいで、僕を見て声にならない叫び声をあげていた。
僕は全身がぶるぶる震えて、歯の根が合わなかった。
逃げなきゃ。
でも、すぐに変なおじさんに捕まって引き戻された。
そして、無理やりひざまずかされたんだ。
第3話
誰かの手が、僕の体をあちこち触ってきた。
でも、出てきたのは80円と、銀のブレスレットだけだった。
「ちくしょう、貧乏ガキが!」
男は、ブレスレットの内側にほられた文字に目をやった。
「お前は、内田浩輔(うちだ こうすけ)って言うのか?」
ちがう。
僕の名前は、内田海斗(うちだ かいと)だ。
浩輔は、弟の名前。
この銀のブレスレットは、もともと父から弟への誕生日プレゼントだったんだ。
でも、弟はそれが気に入らなくて、こっそりゴミ箱に捨てちゃった。
それを僕がこっそり拾って、きれいに拭いて自分の腕にはめた。
そうすれば、誰かに聞かれた時、父がくれたんだって言える。僕はそう思ったんだ。
変なおじさんは、ブレスレットをポケットに突っこんだ。
「こんなもんじゃ全然足りねえな。さっさと親に電話しろ。金持って迎えに来させろよ、じゃなきゃ……」
彼は、そこで一度言葉を切った。
「変な趣味の金持ちに売り飛ばすか、手足をへし折って、とことん痛めつけてやる」
その言葉を聞けば聞くほど、僕は怖くなった。
だって母は、バス代の100円だって、もったいながる人なのに。
彼女が、本当にお金を払って僕を助けてくれるのかな?
ごくりとつばを飲んで、自分に言いきかせた。
きっと、助けてくれる。
絶対そうだ。
だって、僕は母の本当の子なんだから。
なのに、電話がつながって話を聞いた母は、鼻で笑ったんだ。
「海斗、あなたウソつくのも大概にして。今度は誰かに手伝わせてるわけ?
くだらない。どうせ、私たちに迎えに来てほしいだけでしょ?」
母の言葉が、ナイフみたいに突き刺さる。口をぱくぱくさせるだけで、声が出なかった。
「浩輔がご飯まだかって騒いでるのよ。あなたにかまってる暇ないんだから。さっさと帰って。じゃないと、あなたのご飯はなくなるわよ!」
そう言うと、母は電話を切ってしまった。
変なおじさんの前に、僕一人だけが取り残された。
彼は「ちっ、ちっ」と舌打ちした。さすがに、こんな親がいるなんて、と呆れているみたいだった。
でも、だからといって僕を見逃してくれるわけじゃなかった。
こんな人は、人の気持ちなんて考えないんだ。
むしろ、僕の方が「扱いやすい」と思っただけだろう。
だって、僕みたいに大切にされてない子どもがいなくなっても、家族はきっとすぐには気づかないから。
そして、みんながはっと気づいた時には、僕はもう、跡形もなく消されちゃってるんだ。
「クソガキ、恨むなら金を出さねえお前の親を恨むんだな。
安心しろよ。お前の体をちょいと不自由にしてやれば、趣味の悪い金持ちどもが、血眼になって探し求めるようになるんだ」
僕は赤ちゃんのころから栄養が足りてなくて、大きくなってからも、両親に嫌われるのが怖くて、あまりたくさん食べられなかった。
だから、体はガリガリにやせこけていた。
変なおじさんは、こんなガリガリの子どもじゃ、金持ちの趣味には合わないだろう、と言った。
彼は、僕の体をじろじろ見て、何か新しいアイディアを思いついたみたいだ。
犬の皮をはいで熱湯で処理して、僕の体に縫いつける。そして、「犬人間」に仕立てるんだ。
そんな気味の悪い見世物なら、きっと高く売れるにちがいない。
そう思うと、彼は倉庫の番をしていた犬を殺して、その皮をはいだ。
そして、大きな鍋でお湯を沸かして、皮を処理する準備を始めた。
僕は倉庫の一番隅っこで、体を丸めた。
午前中に、母の車のトランクで縮こまっていたときみたいに。
急に、すごく後悔した。
もしあの時、気持ち悪いなんて言わなかったら、母は僕を車から降ろさなかったはずだ。
そうすれば今ごろ、みんなと一緒においしいご飯を食べていたはずなのに。
周りにいた他の子たちが、もぞもぞと僕の前に集まってきた。みんな、かわいそうだっていう目で僕を見ている。
突然、そのうちの一人の男の子が、口の中からカミソリの刃を吐き出した。
そして、そっと僕の手にそれを乗せた。
……
本当は、両親が、たまに僕をかわいがってくれることもあったんだ。
それは、僕が弟の面倒をすごく上手にみれた時。
でもある日、弟と遊んでいたら、彼は転んじゃって、僕が押したんだって泣き出した。
その一言が、母をすごく怒らせてしまった。
言い訳する間もなく、僕はひっぱたかれて、床に倒れこんだ。
「海斗!浩輔を殺す気なの?」
弟のケガは、するどい刃物みたいだった。
僕がやっと手に入れた愛情を、粉々にしてしまったんだ。
「あなたは疫病神よ!あなたのせいで、お父さんも私も周りから色々言われて将来をめちゃくちゃにされたのに、今度は浩輔にまでひどいことするなんて!
こんなことなら、いっそ産んですぐに、あんたなんかトイレで溺死させておけばよかったのよ……そうすれば、こんな苦労せずに済んだのに!」
でも、お父さん、お母さん、僕を産むって決めたのは、あなたたちじゃないか。
第4話
僕だって悪くないのに、どうして、なにもかも僕のせいにするの?
母はキッチンから麺棒を持ってきて、何度も、何度も僕をぶった。
弟の仕返しをしてるのか、自分のつらい人生を僕にぶつけてるのか、わからなかった。
やがて、母はすっきりしたようだった。
僕の体は、あざだらけになっていた。
体の痛みに、これまでずっと我慢してきた悔しさが、一気にこみ上げてきた。
「お母さん、もし選べるなら、僕だって生まれたくなかったよ」僕はそうつぶやいた。
母は一瞬きょとんとして、すぐに僕の言葉の意味がわかったみたいだった。
その目には、一瞬だけバツの悪そうな色が浮かんだ。
でも次の瞬間、それを隠すみたいに麺棒を床に叩きつけた。
「まだ自分が悪いって、わかってないのね!
その上に正座して!もう立っちゃだめ!」
あの日、僕は麺棒の上に正座させられて、ひざが何度も床にすべり落ちた。
体は、すごくすごく痛かった。
そしてあの日から、両親は、僕をこらしめるためなのか、一度も優しい顔を見せてくれなくなった。
心も、すごくすごく痛かった。
……
ふと、意識が倉庫の現実にもどってきた。
どうせ僕のことなんて誰も愛してくれないんだって、一瞬思った。
このまま殺されちゃっても、もういいやって。
でも、カミソリの刃を見つけたとき、どうしても生きたいっていう気持ちが、心の底からわきあがってきたんだ。
ちょうどその時、変なおじさんはお湯を沸かし終わったところだった。
相手は大人だ。
カミソリの刃は小さいし、僕の力も弱い。まともにやりあっても、勝ち目はない。
相手が油断するのを待つしかない。
彼は熱いお湯で犬の皮をふやかすと、それを針で僕の体にびっしりと縫いつけはじめた。
針と糸が皮膚の中を何度も通るたびに、痛くて、痛くて、冷や汗が止まらなかった。
幸い、倉庫の中が薄暗かったから、おじさんの手つきはゆっくりだった。
おかげで、痛みで気を失わずにすんだ。
しばらくして、彼が糸をつけ替えるすきに、僕はカミソリの刃でその目を思いっきり切りつけた。
先生が言ってた。そこが、人間の一番弱いところだって。
おじさんが目を押さえてうめき声を上げているうちに、僕は倉庫から飛び出した。
追いかけてこようとしていたけど、もう何も見えていないようだ。
後はもう、罵る声が聞こえるだけ。
「逃げたって何になるってんだ!
お前の親はもともとお前のことなんかいらねぇんだ。そんな化け物みたいな姿になったら、もっと気味悪がられるだけだぞ。外で死んでくれた方がせいせいすると思って」
頭では、おじさんの言う通りだと思った。
でも、体は無我夢中で前へ、前へと走っていた。
意味はある。
きっと、意味はあるんだ。
幸いだったのは、その倉庫が、僕の家からそんなに遠くなかったことだ。
このあたりの道は、僕もだいたいわかっていた。
でも不運なことに、やっと家までたどり着くと、ドアには鍵がかかっていた。
昔、弟が遊びに行っては鍵を忘れるから、父が玄関マットの下に合鍵を隠しておいてくれたんだ。
まさか今日、それが僕を助けてくれるなんて。
ドアを開けると、家の中は真っ暗だった。
テーブルの上には、食べかけのご飯がそのまま置いてある。
伊勢海老のテルミドール、金目鯛の煮付け。
両親は、もう寝てしまったみたいだ。
13歳の子どもが夜中に帰ってこないのに、危ないなんて誰も心配してくれなかった。
僕にはもう力が残っていなくて、バタンと大きな音をたてて床に倒れ込んだ。
でも、こんな冷たい床の上で、たった一人で死ぬのはいやだった。
生きたい。
もう一度、両親の顔が見たい。
僕は腕の力だけで、這いずるようにして二人の寝室のドアまでたどり着いた。
ちょうどその時、中から話し声が聞こえてきた。
「海斗は、まだ帰ってこないのか?さすがにちょっと心配だな」
「大丈夫よ。妹の家がすぐ近くじゃない。きっと、そこに泊まりに行ってるのよ」
母の声だ。
「明日になったら迎えに行ってあげよう。今夜あの子がいないと、なんだか落ち着かないわね」
父はため息をついた。「確かにな。俺も少し落ち着かない」
僕がどんなにご機嫌をとっても、いつも知らんぷりするくせに。
僕がちょっといなくなっただけで、心配してくれるなんて。
なんだか、胸が苦しくなった。
ありったけの力をふりしぼってドアを叩こうとした。でも、指がドアに触れるその瞬間、もう、何もかもが限界だ。目の前が、すーっと暗くなっていった。
お父さん、お母さん、もう迎えに来なくていいから。
僕、一人で帰ってきたよ。