夫の不感症が治った相手は、私の妹だった

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夫の不感症が治った相手は、私の妹だった

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結婚して三年になる夫の入江浩輔(いりえ こうすけ)は、不感症を患うようになった。 そこで浩輔のプライドを守るため、私は逆に自分が「冷感...

Chương (1)

第1章

結婚して三年になる夫の入江浩輔(いりえ こうすけ)は、不感症を患うようになった。 そこで浩輔のプライドを守るため、私は逆に自分が「冷感症」を演じているようにしていた。 そして一方で浩輔のために世界中の名医を探し、あらゆる治療法を試してきた。 でもお正月の親戚が集まる席で、浩輔は私の義理の妹の手を取り、みんなの前で宣言した。 「俺は葵(あおい)と離婚しようと思って、理由は彼女が冷たくて相手にしてくれないからだ。 これまでも柚のほうが、俺に男としての喜びを与えてくれていた」 浩輔はそう言ってすべてを私に擦り付けるつもりだったのでしょう。でも、そうすることで、彼は自分の不能をみんなの前で暴露しているだけだということには、気が付いていないようだ。 一方で小林柚(こばやし ゆず)はそんな中、浩輔の腕にすり寄りながら、私に向かって勝ち誇ったように笑ってみせた。 そこで私はスマホを取り出すと、慣れ親しんだ番号に電話をかけた。 「渉、離婚の件、もう進めてもらっていいから」 第1話 今日は結婚三周年の記念日。 それに、大晦日の夜でもあった。 私はカウンセラーとしての仕事を終えて、夫の入江浩輔(いりえ こうすけ)にラインを送った。【今夜、ご飯は家で食べる?】 だが、浩輔からの返信は、いつも通り冷たいものだった。 【いや、医局の忘年会があるんだ】 結婚して三年、浩輔が家に帰ってこない時はいつも同じ理由だった。だから私も、彼は本当に仕事が忙しいんだと信じていた。 そう、ある日、義理の母である石田直美(いしだ なおみ)がわざと動画を送ってくるまで、私はずっとそう信じ続けていた。 【葵、見て。柚にすごくいい彼氏ができたのよ】 動画を再生してみると、そこは薄暗くて騒がしい、カラオケボックスの個室だった。 浩輔は、私の義理の妹である小林柚(こばやし ゆず)を抱きしめながら、ラブソングを歌っていた。 そして柚は、うっとりとした顔で浩輔を見上げているのだった。 さらに一曲歌い終わると、周りが騒ぎ始めた。 「キスしろ!キスしろ!」 そんな中、浩輔は顔を傾け、柚にキスをした。 動画はそこで、ぷつりと途切れた。 そしてすぐに直美からのボイスメッセージが届いた。 「葵、あなたも見たでしょ。柚と浩輔の方がお似合いよ。だから、あなたは身を引くべきよ。 さっさと離婚しなさいよ。あの二人だって婚約の予定があるんだから」 それを聞いて私はスマホの電源を切ると、テーブルいっぱいに並べた料理をゴミ箱に捨てた。 その日の真夜中に、帰ってきた浩輔は体からお酒の匂いと、知らない女の香水の匂いをぷんぷんさせていた。 柚とよっぽど楽しんだのだろう、浩輔はご機嫌に鼻歌まで歌っていた。 そして私の顔を見た瞬間、浩輔はネクタイを緩めながら、苛立った声で言った。 「なんでまだ起きてるんだ?」 彼はそう言って私の気持ちなんて、全く気にしていない様子だった。 一方で、私も吐き気をこらえ、冷たく笑い返した。 「医局の忘年会って、カラオケでやるの?」 すると、浩輔の動きが一瞬止まった後、またいつもの口実でごまかそうとした。 柚が浩輔のそばに現れてから、彼はいつもいろんな言い訳を見つけては家に帰ってこなくなった。 だから、今回も浩輔は視線をそらしながら言った。「忘年会が終わってから、同僚たちと二次会に行ったんだ」 「どの同僚?」私は尋ねた。「柚っていう同僚?」 それを聞いて浩輔の顔つきが、みるみる険しくなっていった。 「葵、どういう意味だ?俺を監視してるのか? 俺と柚が何でもないって分かってるくせに。そんなに俺を追い詰めて楽しいか?」 それには私も、思わず笑ってしまった。 何でもない、だって? 何でもない相手と、抱き合ってキスなんかする? 何でもない相手と、婚約の準備をするものなの? だけど私は、浩輔の見え透いた嘘を暴かなかった。 三年の結婚生活で、浩輔がいつも肝心なことから逃げることには、もう慣れていたからだ。 そこで私は、浩輔の「不感症」を治療するために特別に取り寄せた、最新の神経刺激装置を取り出した。 「記念日おめでとう」 浩輔はそれをちらっと見ると、さらに深く眉をひそめた。 そして彼はパタンと箱を閉めると、ソファに投げ捨てた。 「またこんなガラクタか。 葵、頭おかしいんじゃないのか?」 「おかしいのは私じゃない。あなたの方よ」 そう言われて、浩輔はカッとなって怒鳴った。 「もう一度言う、俺は病気じゃない! お前といても全然気持ちよくないのは、お前がダメだからだ! お前はまるでマグロみたいに味気なくて、声一つ出さないからだ。そんな女、誰も相手にしたいと思わないだろ? 普通の女を相手にしていれば、俺だってこんなことにはならなかった!」 浩輔の目は充血し、その言葉一つ一つが、ナイフのように私の心を突き刺した。 浩輔を見つめながら、私は不思議と冷めていく自分の気持ちに気づいた。 なるほど。私の三年間の努力は、浩輔にとっては私が「ダメな女」であることの証拠でしかなかったんだな。 そう思いながら私はスマホを取り出すと、あの動画を再生して、浩輔の目の前に突きつけた。 「その『普通の女』っていうのは、私の妹のことかしら?」 すると浩輔の瞳孔が、ぐっと収縮した。 画面の中でキスを交わす男女を見て、浩輔は顔からサッと血の気が引いた。 第2話 浩輔は喉仏を大きく上下させると、スマホを奪い取ろうとした。けれど、私は身をよじって避けた。 「柚は酔っていたんだ」 彼は口を開けば言い訳ばかりだったが、声はひどくかすれていた。 「これはただのゲームだ」 私は浩輔の真っ青な顔を見て、スマホをしまった。 「そう? じゃあ、あなたと婚約するって言ってたのも、ゲームなの?」 それを言われると浩輔は息を呑み、ソファに崩れるように座った。 「柚が……お前に言ったのか?」 「ううん」私は首を横に振った。「お母さんが言ってた」 ここで言う「お母さん」とは、私の義理の母で、柚の実の母親の直美のことだ。 それを聞いて浩輔の顔が、さらに青ざめていった。 彼はそれが何を意味しているのかを分かっていた。 つまり彼らの関係は、もうとっくに秘密ではなくなっていたということで、ただ私にだけ黙っていたのだが、周囲の人間は誰もが二人の関係を黙認していたってことだ。 「葵、話を聞いてくれ」 そう言って、浩輔は私の手を握り、優しく撫でた。それは久しぶりに感じる、彼の温もりだった。 「俺と柚は、ただ……」 浩輔は「ただ」と言ったきり、言葉を続けられずにいた。 どんな言い訳も、今となっては虚しく響くだけだと分かっていたからだ。 だから、私はその手を振り払った。 付き合い始めた頃、浩輔はどこへ行くにも私と手を繋いでくれた。「一生、お前と手をつないでいくよ」って言ってくれたのに。 でも結婚した後の三年間、浩輔から手を繋いでくれたことは一度もなかった。むしろ私が浩輔の手に触れようとすると、いつもうっとうしがられていたのだった。 「浩輔、もう言い訳しなくていいから。 ただ、これからどうするつもりなのか、それだけ聞かせて」 私を選ぶのか、それとも柚を選ぶのか。 すると、浩輔は黙り込んでしまった。 その様子に私はなんだか、笑えてきた。あんなに愛を誓い合ったのに、結婚してから三年間も連れ添ってきたのに、それでも、柚の方が彼にとって大事だったんだな。 一方で浩輔は俯いていて、表情は読み取れなかった。 でも、固く握りしめられた拳と、その手の甲に浮き出た血管が彼の思いを物語っているようだった。 そして、長い沈黙の後。 顔を上げた浩輔の瞳には、煮詰まった疲労感と決意の色が浮かんでいた。 「葵、俺たち……少し、離れよう。 少し、頭を冷やしたいんだ」 浩輔はそう言うと立ち上がり、ジャケットを手に取って出て行こうとした。 私は浩輔を止めなかった。 浩輔が言う「頭を冷やす」が、柚と今後の対策を練るための言い訳だってことは分かっていたから。 今の状況からして、まるで彼ら二人が夫婦で、逆に私の方が邪魔者みたいだ。 翌日、親戚での集まりがあった。 父と直美が、新年を祝うために料亭の個室を予約していたのだった。 私が着いた時には、もうみんな揃っていた。 浩輔をのぞいては。 それを見て、父は眉をひそめて言った。「浩輔は?まだ来ないのか?」 すると直美が笑って取り繕おうとして言った。「浩輔はお医者さんだから、忙しいのよ。きっと急患でも入ったんでしょ」 直美はそう言いながら、親しげに私の手を握った。 「葵、浩輔のことを責めちゃだめよ。男の人は仕事が一番なんだから」 私は直美の手を振りほどき、静かに言った。 「忙しいから来てないんじゃない。多分もう来るつもりがないんじゃないかな」 しかし、私がそう言った途端、個室のドアが開けられた。 浩輔と柚が一緒に入ってきた。 柚は浩輔の後ろにいたが、部屋に入ると彼女は浩輔の隣に立って、彼の腕に自分の腕を絡ませて、私に向かって挑発的に眉を上げた。 片や浩輔も柚を振り払うことなく、むしろ体をもっと近寄せて、私に勝ち誇ったような目線を向けたのだった。 その様子に父は顔色を真っ青にして、勢いよく立ち上がった。 「浩輔!一体どういうつもりだ!」 すると、柚が慌てて前に出て、父の片腕を掴んだ。 「私たちのことは、自分たちで解決させてよ」 そして、浩輔も息を深く吸い込んで、一歩前に出て柚の腰を引き寄せると、私に目線を向けた。 「お父さん、申し訳ない。 俺は葵と離婚しようと思って」 第3話 それを聞いて、父は怒りで体を震わせ、浩輔と柚を指さした。 「もう一度言ってみろ!」 「だから、葵と離婚しようと思って」 浩輔は私を睨みつけながら、きっぱりとした口調でそう繰り返した。 「この三年間、もう我慢の限界なんだ。 葵、お前は反省すべきだ。だって今まで妻としての責任を果たしたことなんてないだろ? お前は少しも女性らしい優しさがなく、氷みたいに冷たくて、強情な女だ。 お前と一緒にいても、情熱なんてかけらも感じない。まるで生き地獄で息が詰まりそうなんだ」 浩輔はそう言うと、柚の手を強く握った。そして優しい眼差しで彼女を見つめると、口の端をわずかに上げて続けた。 「それに対し柚は、俺に男としての自信を取り戻させてくれたんだ。 彼女は情熱的で、積極的で……お前が満足させてくれなかった分すべてを補ってくれた。 だから、俺はもう自分の気持ちに嘘はつきたくないんだ」 その言葉に、平手打ちを食らったようで、私の面子は丸々潰されてしまったのだった。 この三年間、浩輔の男としてのプライドを守るために尽くしてきたのに。その全てが、今、目の前で踏みにじられたのだ。 毎晩のように「焦らないで、次はきっと大丈夫だから」と浩輔を慰めてきた。私にだって色々と思うことがあるのに、浩輔のためにずっと我慢してきたのだ。 そう思っていると、彼の言葉で周りの親戚たちが、ひそひそと噂話を始めた。 「なんだ、原因は葵のほうだったのか。それじゃあ浩輔も浮気するわけだ」 「普通に見えるけど、まさか性的に淡白だったなんてね」 「やっぱり女が満足させてあげられないと、男は外に目を向けたくなるものね」 その聞くに堪えないひそひそ話が、針のように私の耳に突き刺さった。 父は怒りのあまり唇を震わせ、二人を殴ろうと手を振り上げた。 それを直美が止めると、今度はわざとらしく私の腕を取った。 「葵、そんなに落ち込まないで。気持ちの問題は無理強いできないものだから。 浩輔がもう決めたことなんだし、なら、私たちも分かってあげないと」 だが、それを聞いた父は首を横に振ると、冷たい視線で直美をちらりと見た。 「なら、俺たちも離婚しよう!」 そう言って父は浩輔と柚を、黙ったまま睨みつけた。 一方で直美は父の言葉を気にも留めず、ただ眉をひそめて私を見つめるのだった。 そして、柚も浩輔の腕の中で泣きじゃくっていた。その様子はまるで彼女こそが浩輔の妻であるかのようで、私が逆に、二人の仲を引き裂く悪者みたいだった。 「葵、ごめんなさい。私だってこうはしたくなかった…… ただ、私と浩輔さんは本気で愛し合ってるの。この気持ちは、もう止められない…… だからお願い、私たちを一緒にいさせて……」 なんて息の合った、完璧な芝居だろうか。 彼らは全ての責任を、私一人に押し付けようとしているのだ。 この結婚が破綻した原因は、全て私にあるのだと言わんばかりのごたくを並べて、責任を擦り付けようとしているのだ。 目の前にいる直美たちを見ていると、私はなんだか可笑しくなってきた。 そして、冷静に浩輔を見つめて言った。 「つまり、離婚理由は『性の不一致』ってことでいいわけ?」 それを言われて浩輔は一瞬固まった。彼は私がこんなにも冷静でいられるとは思っていなかったようだ。 ほどなくして、浩輔は頷いた。「ああ」 私も頷き、バッグからスマホとボイスレコーダーを取り出して、テーブルに置いた。 「じゃあ、さっき言ったことを、これに向かってもう一度、言ってみて。 どうして私が『ダメ』だと思ったのか。そして、柚がどうやってあなたを『男にしてくれた』のか。そのへんも詳しくね。 ちゃんと言えたら、すぐにでも離婚届にサインしてあげる」 すると、浩輔の顔から、さっと血の気が引いた。 彼はまさか私がこんな手で反撃してくるなんて、思ってもみなかったのだろう。 浩輔は親戚の前で私を貶めることはできても、その内容を世間に公表する度胸はなかった。 なぜなら、私たちの夫婦関係の問題の根源が、自分の「病」にあることを浩輔自身が一番よく分かっているからだ。 万が一それが公になれば、外科の世界で期待の新人ともてはやされていた浩輔は、たちまち病院中の笑い者になってしまう。 浩輔の築き上げてきたイメージもキャリアも、一瞬で崩れ去るだろう。 だから、柚も慌てて、浩輔の腕にすがりついた。 「浩輔さん、やめて……」 一方で浩輔は私を睨みつけた。その目には、明らかに恐怖の色が浮かんでいた。 そして、彼は歯を食いしばった。 「葵、お前は一体どうしたいんだ?」 第4話 「別に、どうもしたくないけど」 そう言って私はスマホとボイスレコーダーをバッグにしまった。 「ただ、忠告しておきたいだけよ、浩輔。 口にする前に、よく考えたほうがいい言葉もあるから。 だって、噂っていうのは、とても怖いものだから」 そう言って、私はあえて、「噂は怖いものだから」という言葉を、一語一句、噛みしめるように口にした。 それを聞いて、浩輔の体は、かすかに震えた。 私が冗談で言っているのではないということを、浩輔は分かったからだ。 私はカウンセラーなんだから、どうやって一番優しい言葉で、相手の心をえぐるかをよく知っているのだ。 それに、人の心の壁をどうやって壊せばいいのかも手に取るようにわかっているのだから。 浩輔は、賭けに出る勇気がなかった。 その瞬間、個室の中は、張り詰めた空気が流れていた。 その沈黙を破ったのは、父だった。 父は私の腕を引いて立たせると、浩輔の一家を睨みつけた。 「いいだろ、離婚はさせてもらう。 だけど、うちの娘がただ泣き寝入りするなんてことは許さない」 父はそう言って、浩輔に目を向けた。 「お前には、全ての財産というしかるべき償いをしてもらうからな」 それを聞いて、浩輔はすぐに飛び上がって反論した。 「ふざけるな!なんでそんなことを!」 そして浩輔の母もすかさず言った。「家はこっちが買ったんだわ!頭金だってほとんど私たちが出した。なんでそれを葵にやらなきゃいけないのよ!」 それを聞いて父は、ふんと鼻で笑った。 「お前らの息子が不倫したからだ。うちは二人の娘をコケにされてしまったからな。 このことが世間に知られたら、浩輔は病院での立場も悪くなるんじゃないのか? もちろん、お前らには、渡さないという選択肢もある。 その時は、法廷で会うことになるがね。 ついでに、知り合いの記者に頼んで、浩輔の『華麗なる女性関係』についても、大々的に報道してもらおうかな」 この言葉は、浩輔の一家の、まさに急所を突いていた。 彼らが何よりも大事にしているのは、浩輔の将来と名声なのだ。 浩輔の顔色も、みるみるうちに青ざめていった。 彼は私のことを、まるで見知らぬ赤の他人を見るかのように、じっと見つめていた。 多分、今まで浩輔の目には、私はずっと、大人しくて、何でも我慢して、彼の言うことなら何でも聞く妻として映っていたのだろう。 私がこんなに強く出るとは、夢にも思わなかったに違いない。 ましてや、父が私以上に強気でくるとは、予想もしていなかっただろう。 最終的に、折れたのは浩輔の方だった。 「わかった」 浩輔は目を閉じ、苦しそうに頷いた。 「財産は全部やる」 こうして、この茶番は私の完全勝利で幕を閉じた。 料亭を出てから、父はずっと黙っていた。 車に乗ってようやく私の方を向いたが、その目は真っ赤に充血していた。 「葵、すまなかった。お父さんが悪かった。 あの時、お父さんに見る目がなかったばかりに、浩輔のやつは将来有望な青年だなんて信じきって……」 私は首を横に振って、父の手を握った。 「お父さんのせいじゃないよ。 私が、間違った人を選んでしまっただけだから」 しばらく車を走らせていると、長年お世話になっているアンダーソン医師から電話がかかってきた。 電話口のアンダーソン医師の声は、興奮に弾んでいた。 「ご主人の病歴の件ですが、我々のチームが治療に画期的な進展を見出すことができました。 新しい特効薬を開発したんです。物理療法と合わせれば、九割以上の確率で、ご主人の不感症を完治させられるでしょう」 そして電話を切った後、私は窓に映る自分の顔を見つめているうちに、ふと笑いがこみあげてきた。 なんて馬鹿げているんだろう。 私は浩輔の病気を治したくて、必死で治療法を探していたというのに。 当の本人は裏で私の妹と「真実の愛」ごっこに夢中で、挙句の果てに私の方こそ性的障害があるとのレッテルを貼ろうとしてくるなんて。 そう思っていると、車は、青木渉(あおき わたる)の法律事務所の前で止まった。 渉は、父の自慢の教え子で、私の幼馴染でもある。 彼は私を見ると、その目に心配そうな色を浮かべた。 「全部、片付いたのか?」 私は頷いて、手にしていたボイスレコーダーを渉に渡した。 「ええ。浩輔は財産の全てを放棄することに同意したわ」 渉はボイスレコーダーを受け取ったが、その眉間に寄せられたしわがほぐれることはなかった。 「本当にそれでいいのか?あいつをこんなにも容易く見逃してしまって」 そう言いながら、渉は車のドアを開け、私が降りるのを手伝ってくれた。 「さあ、中に入ろう。離婚協議書はもう作っておいた」 渉の後について事務所に入ったが、私の頭の中ではアンダーソン医師の言葉が何度も響いていた。 「九割以上の確率で完治させられます」 私は、ぴたりと足を止めた。 それに気が付いた渉も振り返って尋ねた。「どうした?」 私は渉をまっすぐに見つめた。 「渉、協議書の内容、やっぱり変えたい。 浩輔の家なんて、いらないわ。 私が欲しいのは、彼が社会的に抹殺されることよ」