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別れ後に花開く私
夫の高坂恒一(こうさか こういち)と、息子の高坂悠真(こうさか ゆうま)に心の底まで踏みにじられ、私は家を出た。 あの二人は、これまで何...
Chương (1)
第1章
夫の高坂恒一(こうさか こういち)と、息子の高坂悠真(こうさか ゆうま)に心の底まで踏みにじられ、私は家を出た。
あの二人は、これまで何度もそうしてきたように、今回も私が我慢して戻ってくると高を括っていたのだろう。
けれど私は、本当に失望してしまった。
それ以来、二人の消息には一切触れず、連絡先も残さず、私はまったく新しい人たちと出会いながら生きていくことを選んだ。
第1話
私は橘真央(たちばな まお)。高坂恒一(こうさか こういち)と結婚して四年目で、約束どおり離婚届を出した。
息子の高坂悠真(こうさか ゆうま)の親権は、高坂家に渡した。私は黙って、それを受け入れた。
恒一は口の端を歪めて鼻で笑った。「真央、子どもまで手放して、金しか要らないのか。思った以上に薄情だな」
私は聞こえないふりをして書類に目を通し、落ち着いて言った。「悠真に会う権利も放棄する。その分、もう少し上乗せできる?
それに、悠真が母親だと思ってるのは私じゃない。三浦里奈(みうら りな)のほうでしょ」
私は薄く笑って、固まった恒一を置いて背を向けた――
「里奈との式には行かない。どうせ呼ぶ気もなかったでしょ。
まあいい。どうせ一生、二度と会わない」
金も手に入れた。離婚の手続きも終わった。
SIMカードを捨て、キャッシュカードと身分証明書だけを持って、私はひとり、白見原行きの便に乗った。
今いる街から辿れる限り、最も遠い場所へ。
出発前、執事からメッセージが届いた。坊ちゃんがずっと泣いていて、ママに会いたがっている、と。
私は一瞬だけ指が止まり、そのまま返信した――
【里奈に連絡して。
あの子が父親と一緒に、「母親」だと決めたのは里奈だから】
送信して画面を閉じ、そのまま電源を切った。
悠真には、好きなママがいる。でも、それは産みの母である私じゃない。
四年育てたのに、まるで敵を育ててしまったみたいだった。
レシピを漁って栄養まで考えたご飯を作っても、「里奈さんが買ってくれるケンタッキーのほうがうまい」と言われた。
運動のレッスンを入れて、何か一つでも趣味を持たせようとすれば、ゲーム機を抱えたままわんわん泣いて、「里奈さんは一緒にゲームしてくれる」と駄々をこねた。
宿題を一文字も書かないから、堪えきれず、私は手のひらを二度叩いた。悠真は私を睨みつけて言った――
「里奈さんのほうがずっといい!ママはぜんぜん優しくない!
みんな言ってる。ママは金目当てでパパと結婚したんだって!そんな女、ママになってほしくない!」
三日前も、里奈が渡したゲーム機を取り上げて、宿題をやりなさいと言ったときのことだ。
悠真は警戒した目で私を見て、こう聞いた。「もしママが死んだら、里奈さんを新しいママにしていい?」
子どもらしい発想だ。私が死ななくたって、あの子には新しい母親ができる。
子どもの言葉は残酷だ。でも、残酷な言葉ほど、たいてい本音でもある。
目を閉じると、これまでの出来事が、じわじわと胸を締めつけて、心を削っていった。
高坂家への情も、この父と子に、すでにすり減らされていた。
機内で財布を開き、身分証明書を確かめる。
キャッシュカードと身分証明書がある。それだけで、私はどこへでも行ける気がした。
けれど、札入れの奥から一枚の証明写真が滑り落ちて、私は思わず息を止めた。
十八歳の恒一だった。整った顔立ちで、眉目の端々に育ちの良さが滲んでいる。
八年前、私は初めて高坂家の敷居をまたいだ。
両親はとうに離婚していて、祖母が亡くなったあと、恒一の祖母が私を不憫に思い、家に迎え入れてくれたのだ。
祖母同士は、若い頃からの親友だった。だから、私のことも放っておけなかったのだろう。
屋敷の広間で、私は恒一と初めて顔を合わせた。あんなにも綺麗な人を、それまで見たことがなかった。
「真央?」
恒一がゆっくりと私の名を口にしただけで、鼓動が胸を突き破りそうになった。
ただ名前を呼ばれただけなのに、その声は、いつまでも耳に残った。
「今どき三つ編みなんて、ダサい」
恒一は上から下まで私を値踏みするように眺め、吐き捨てるように続けた。「……本人もダサい」
汚れひとつない革靴と、真っ白な袖口。その一つ一つが、彼の育ちを無言で語っていた。
田舎育ちの私は、畑仕事で泥だらけだった。靴底には土がこびりつき、袖口の黄ばみは、何度洗っても落ちなかった。
みじめさに歯を食いしばり、今にも体を小さく丸めてしまいそうになる。
そのとき、遊びに来ていた里奈が玄関に入るなり、目を丸くして私を見た――
「恒一、誰、この子?」
「田舎から来た芋くさい子だ。行こう。今日は遊園地に連れてってやる」
恒一が出ていったあと、テーブルの上には、青い背景の証明写真が一面に散らばっていた。
使用人は言った。大学の手続き用に撮りすぎたから、もう全部処分するのだと。
なぜだか私は、そっと一枚だけ拾い上げた。
周りに誰もいないのを確かめてから、その写真を慎重にポケットへ滑り込ませる。
それは――私の少女時代に生まれた、誰にも言えない秘密になった。
第2話
恒一は、最初から私を嫌っていたわけじゃない。
高三で転校した日、高坂家が手配した制服がまだ届いておらず、執事に「シャツで行きなさい」と言われた。
でも、誰も知らなかった。私のシャツは一枚きりで、それを五年も着続けていたことを。
しわだらけで、襟はとうに立たず、何度洗っても落ちない黄ばみが残っていた。
居候の身で言い出すこともできず、ただ何度も洗っては、どうか全部落ちますようにと祈るしかなかった。
恒一が通りかかり、きれいな眉をわずかにひそめたまま、紙袋をひとつ、無造作に放ってよこした。
「里奈に買ったやつだけど、ダサいってさ。お前にやる。
どうせ捨てるんだし」
あんなに白くて、清潔なシャツを着たのは初めてだった。自己紹介の声にも、ほんの少しだけ芯が通った気がした。
礼を言おうと思ったのに、家に戻ると、里奈が恒一の腕に絡みつき、私を見ながら何かを囁いていた。
恒一は可笑しそうに笑った。「あんなのに嫉妬してどうすんだよ」
すれ違いざま、里奈の嘲りが耳に突き刺さる。
「私がいらない服を宝物みたいにしてさ。あんたって、ゴミ箱なの?
この前、恒一の証明写真、こっそり持ってくの見たよ。気持ち悪っ。まさか惚れてるんじゃない?」
恒一は里奈の頭を軽く撫でて宥めながら、私には、氷みたいな視線を向けた。「……こいつじゃ、釣り合わない」
私は俯いて、「ごめんなさい」と言うしかなく、穴があったら消えてしまいたかった。
これで、私と恒一の人生は、もう二度と交わらない――そう思った。
けれど、四年後。
里奈と恒一は拗れたまま別れ話になり、恒一は、毎日酒に溺れて、かつての面影を失っていた。
私は恒一の部屋の前を通りかかり、書類を届けに来ただけだった。
廊下には空き缶が散らばっていて、一瞬ためらったものの、私はノックして中へ入った。
私を見た途端、恒一はぱっと表情を緩めた。「……里奈?」
口を開く前に、強く抱きすくめられる。「ほらな。お前、俺のこと捨ててないだろ?」
私は必死に身をよじった。「恒一、ひとを間違えてる!」
でも彼は聞こうともしなかった。唇を塞がれ、力づくで逃げ場を奪われる。
窓の外は土砂降りだった。彼は別の女の名前を呼びながら、私を無理やり抱いた。
翌朝。
恒一は眉を寄せ、煙草を吸いながら、私を汚いものでも見るような目で見下ろした。
「真央……なんでそんなに卑しいんだよ」
布団を胸まで引き上げているのに、私はどこにも隠れられない気がした。
その瞬間、あのとき里奈が私に投げつけた言葉は、正しかったのだと理解してしまった。
里奈が要らないと言ったシャツが私に回り、里奈が捨てた男が、私を壊した。
里奈――私は、あんたの人生のゴミ箱になった。
「真央?」
弾んだ男の声に、私ははっとして顔を上げた。
振り向くと、そこには何年も会っていなかった顔があった。
神谷修司(かみや しゅうじ)。大学時代の同期だ。
修司は穏やかに笑い、少し驚いたように言った。「偶然だな。真央も白見原?」
彼が隣の席に腰を下ろし、話していくうちに、さらに驚くことになる。
席は隣同士。向こうで泊まる場所まで、たった二本向こうの通りだった。
「白見原で民泊を一つ借りたんだ。退役したばかりでさ、ちょっとした商売でも始めようと思って。
真央は?」
私は淡々と答えた。「離婚したばかり。気分転換かな」
「……子どもは?」
「子どもはいないよ」
前はいた。でも、今はいない。
修司は小さく頷き、視線を落としたまま、何か考え込んだ。
そのとき、ふいに小さな手が修司の膝によじ登ってきた。「……パパ」
そこで初めて、修司の陰になっていた席に、子どもが座っていることに気づいた。大きな目をした、妙に静かな子だった。
さっきまで存在に気づけなかったほど、静かだった。
私は、つい聞いてしまった。「……息子?」
修司の顔が、ぱっと赤くなる。「あ、ああ。翔太、この人は橘真央さん。ほら、真央さんって呼びなさい」
翔太は私を上から下までじっと観察してから、素直に「真央さん」と言った。
けれど、修司がトイレに立った隙に、翔太は突然、私の手をぎゅっと掴んだ。ぱちぱちと瞬く大きな目で、真剣に問いかけてくる。
「ねえ、真央さん……ぼくのママ?」
私は言葉を失った。「……え?」
翔太は、少しもふざける様子もなく続けた。「パパは、ぼくにはママがいないって言う。でも、ぼくは信じない。みんなにはいるもん。
パパ、真央さんの前だと、すごくしゃべる。ほかの人には、あんなに話さない。
それに、真央さんも橘で、ぼくも橘だし……だから、真央さんが、ぼくのママじゃないの?」
私は一気に、顔が熱くなるのを感じた。
第3話
悠真は、私を「ママ」と呼ぶのが大嫌いだった。恒一と同じで、私のことをいつも「あの人」と呼んだ。
幼稚園の保護者会に出たとき、悠真は私の背中に隠れながら、こっそり舌を出していた。
「来てほしくない、あの人。恥ずかしいもん。
里奈さんが来てくれたらよかったのに」
さすがに担任も見かねたのか、悠真を軽く叱ってくれた。
そして私に向き直り、気の毒そうな目で言った。「悠真くんのお母さん……ご家庭での関わり方は、少し見直したほうがいいかもしれませんね」
苦笑いするしかなかった。分かっている。痛いほど。
卒業の年、恒一と一夜だけ、取り返しのつかないことをして、悠真ができた。
恒一は責任を取らされる形で私と籍を入れ、それから私の人生は、悠真を中心に回り始めた。
悠真を産んだのは冬だった。冬生まれの赤ん坊はおとなしい――みんな、そう言った。
でも悠真は違った。お腹の中でも落ち着きがなく、いたずらみたいに、何度も私を蹴った。
胎動を感じるたび、恒一はそばにいなかった。私は何度もお腹に手を当て、中の小さな命に謝った。
「ごめんね。愛してくれるパパを、見つけてあげられなくて。
だからママが、その分まで愛する。世界でいちばん幸せな子にするから」
悠真は、確かに幸せだった。でも――それは、私のおかげじゃない。
生まれた瞬間から、高坂家は悠真の名義で高額な信託を組み、将来の不安を、丸ごと取り払ってしまった。
だから悠真には、わがままを通すだけの余裕があった。機嫌を損ねれば、何でも壊せた。どうせまた、新しいものが用意される。
癇癪を起こし、何台目かも分からないスマホを叩き割ったときのことだ。
私は、自分でも驚くほど冷たい声で言った。「いつも怒ってばかりなら、誰だって一緒にいられないよ。……ママだって、いなくなる」
悠真は、まるで他人事のような顔をしていた。その表情が、妙に恒一に重なる。
「里奈さんが言ってたよ。真央は、高坂家に居座ってるだけの乞食だって。
出ていけるわけないじゃん。どうせ離れられないくせに。
ぼくを産んだのも、高坂家にしがみつくためでしょ。そんなことで騙せると思わないで」
胸の奥が、少しずつ冷えていった。そして一度冷えたそれは、二度と温まらなかった。
傷つき尽くしたからこそ、踏み出すことに、もう迷いはなかった。
悠真。私は、もう戻らない。あなたの母親でいることも、もうやめる。
私がいなくても、あなたの隣には、きっと新しい「ママ」が来る。
修司が戻ってきたとき、ちょうど翔太が私にしがみついて、「ママ」と呼んでいた。
修司の顔が、一気に耳まで赤くなる。「翔太、変なこと言うな」
翔太は顔を上げ、幼い声でむっと言い返した。
「パパ。もし、ぼくが真央さんの子じゃないなら。
どうして、ぼくはパパと苗字が違うのに、真央さんとは同じ苗字なの?」
修司は困ったように額をこつんと弾き、翔太を腕の中に抱き寄せて寝かしつけた。
翔太は抱かれたまま、首だけをこちらに伸ばし、大きな目をぱちぱちさせて、じっと私を見ていた。
その視線だけで、胸の奥が、ふっとほどけた。
翔太が眠ると、修司は背中をそっと叩きながら、静かに話し始めた。
「翔太の父親は、俺の昔の戦友でさ。事故で亡くなったんだ。
それで……この子は、俺に託された。
俺、子どもの扱いが下手でさ。あいつが、こんなこと考えてるとも、気づかなかった」
胸が、小さく動いた。私は財布の奥から、そっとお守りを取り出した。
悠真を産んだ年、緑ヶ丘でいちばん大きな神社で授かったものだ。
子どもが、一生つつがなく過ごせるように――そう願って。
何度も悠真のポケットにねじ込んだ。けれど、そのたびに投げ捨てられた。
悠真は露骨に顔をしかめ、足で踏みつけながら言った。
「ダサい。里奈さんがくれるオモチャは、ぜんぶ世界限定なのに。
こんなの持って外に出ろって、恥ずかしいじゃん」
それなのに今、修司はそのお守りを、両手で受け取った。
掌に包み込む仕草は、まるで宝物みたいで、目が、まっすぐだった。
「……ありがとう。翔太に、持たせるよ」
第4話
白見原市は観光地で、民泊がそこら中にある。
ネットで予約した住所を頼りに、やっとのことで路地裏にある宿を見つけた。
玄関をくぐった途端、「追加で一万円、食事と宿泊代を払え」と言われた。
私は思わず首をかしげた。「予約サイトで、もう支払いは済ませたはずだけど」
店主は煙草をふかし、煙の輪を吐きながら言った。
「それは予約金だ。残りはまだ払ってないだろ」
ただの言いがかりだった。
腹が立って、このまま泣き寝入りする気にはなれなかった。「……じゃあ、別の宿にします」
「いいとも」
店主は外を指さし、にやにや笑った。
「出てみろ。この通りで、お前を泊めてくれるところがあるか、確かめてこい」
近くにいた連中が、へらへら笑って口を挟む。
「嬢ちゃん、ほかに移っても同じだぜ。結局、この一万円は払うことになる。俺たちに逆らって、損するだけだ」
――ああ、ぼったくりだ。
そう悟って、私はできるだけ冷静に言った。「強制的に取るつもりですか。警察を呼ばれても平気なんですか」
次の瞬間、上半身裸の男が三人、私のスーツケースを蹴り倒した。
「警察?!ハハハ、聞いたか。こいつ、何て言った?
よそ者だろ。そんなもんで、俺らがビビると思ってんのか」
誰一人、怯む気配はなかった。
「今すぐ掛けてみろよ。どんな騒ぎが起こせるか、見せてみろ」
私はじりじりと後ずさりしながら、隙を見て逃げるしかないと覚悟した。
向こうはこちらの動きを見抜き、逃げ道を塞いだ。
「このクソ女、逃げる気か!?」
太い腕が首にかかりそうになり、腰が抜けるほど震えた。
目を閉じ、頭を抱える。けれど、覚悟していた殴打は降ってこなかった。
代わりに、鈍い呻き声が響いた。
恐る恐る目を開けると、さっきまで私を囲んでいた三人は、私服の警察官たちに取り押さえられていた。
脇の警官は、手錠をかけながらぼやく。
「この通りの民泊、全部おまえらの縄張りだろ。苦情、もう何百件も来てるぞ。
ずっと張ってたんだ。ようやく尻尾をつかんだ」
隊長、着いたばかりでこの大物っすか。さすが神谷隊長!」
その「隊長」と呼ばれていたのが、今朝、機内で見かけた修司だった。
修司は、不安そうに、私の無事を確かめるようにこちらを見ていた。
私は俯いたまま、何も言えなかった。
「隊長、どうします?」
「先に連れて帰れ。後は俺が片づける」
全員が引き上げたあと、修司は静かに、私のそばに立っていた。
私は床にへたり込み、荒い息を吐いた。恐怖が遅れて込み上げ、涙が止まらなかった。
「……なんで、いつも私ばっかり、こんな目に遭うんだろう。恒一にも嫌われて、悠真にも嫌われて。
適当に選んだ民泊まで、こんな店で……
私って、誰にも好かれないのかな。何ひとつ、まともにできないのかな」
旅行サイトのおすすめを見て、それで決めたのに。
来てみたら悪質業者の巣で、こんな外れにある理由が、よく分かった。
修司は途端に慌て、ティッシュを取り出して、そっと私の涙を拭った。声まで、わずかに震えている。
「真央……どうして、そんなふうに思うんだ。
でもな。俺にとっては、お前は福の神だ」
修司は私の目をまっすぐ見て、言葉を重ねた。
「白見原市の悪質な民泊は、前から問題になってた。だが、警察の中にも内通者がいてな。
こっちが動けば、すぐ身を隠す。だから、なかなか尻尾をつかめなかった。
俺が真央についてなきゃ、この件も、また流れてた。下手すりゃ、迷宮入りだ」
思わず、吹き出してしまった。「じゃあ私、手柄を立てたってこと?」
私が笑うと、修司の表情も、ようやくほどけた。
「もちろん。特大の手柄だ」
それから少し間を置いて、修司は続けた。
「それに、真央。さっきのは違う。お前は、全然、嫌われるようなやつじゃない。
たとえば……翔太。あいつは、お前のことが、大好きだ」
そう言いながら、修司は、私の目を見ようとしなかった。
緊張で結ばれた唇を見ていると、胸の奥に張っていた糸が、ふっと緩むのを感じた。