義妹のため、兄が私の志望校を勝手に変えた

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義妹のため、兄が私の志望校を勝手に変えた

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義理の妹・内田澪(うちだ みお)の機嫌を取るため、兄の内田翼(うちだ つばさ)は私がずっと憧れていた東都美術大学の合格通知書を、地方の教...

Chương (1)

第1章

義理の妹・内田澪(うちだ みお)の機嫌を取るため、兄の内田翼(うちだ つばさ)は私がずっと憧れていた東都美術大学の合格通知書を、地方の教育大学のものとすり替えた。 見慣れない校章の書類が、やけに目に刺さる。 そんな書類を目にした親戚たちは顔を見合わせ、すぐにひそひそと話し始めた。 「どういうこと?玲奈(れな)は、東都美術大学に受かったんじゃなかったの?」 「まあ……教育大学も悪くはないけど、東都美術大学とはレベルが違いすぎるわね」 私は服の裾を握りしめて立ち尽くす。頭が真っ白になって、何も考えられない。 そんな私に翼が近づいてきて、肩をぽんと叩きながら、困ったような声で言った。 「玲奈。澪はさ、大学の共通テストに失敗して何日も泣いてるんだ。それに、澪はアートが好きだけど、お前みたいな才能はないだろ?だから、兄としても辛いんだよ。今回は澪に譲ってくれ、な?あいつを元気づけるためだと思ってさ。 そんな心配するなって。これは形だけのことだから。入学までには、ちゃんと元に戻してやるからさ。 それに、この家の人間が、お前をあんな将来性のない大学に本気で行かせるわけないだろ?」 第1話 義理の妹・内田澪(うちだ みお)の機嫌を取るため、兄の内田翼(うちだ つばさ)は私がずっと憧れてた東都美術大学の合格通知書を、地方の教育大学のものとすり替えた。 見慣れない校章の書類が、やけに目に刺さる。 そんな書類を目にした親戚たちは顔を見合わせ、すぐにひそひそと話し始めた。 「どういうこと?玲奈(れな)は、東都美術大学に受かったんじゃなかったの?」 「まあ……教育大学も悪くはないけど、東都美術大学とはレベルが違いすぎるわね」 私は服の裾を握りしめて立ち尽くす。頭が真っ白になって、何も考えられない。 そんな私に翼が近づいてきて、肩をぽんと叩きながら、困ったような声で言った。 「玲奈。澪はさ、大学の共通テストに失敗して何日も泣いてるんだ。それに、澪はアートが好きだけど、お前みたいな才能はないだろ?だから、兄としても辛いんだよ。今回は澪に譲ってくれ、な?あいつを元気づけるためだと思ってさ。 そんな心配するなって。これは形だけのことだから。入学までには、ちゃんと元に戻してやるからさ。 それに、この家の人間が、お前をあんな将来性のない大学に本気で行かせるわけないだろ?」 しかし、リビングは静まり返り、空気は凍りついていた。 みんなの視線が、私の手の中にある薄っぺらい合格通知書に注がれる。 お茶を飲もうとした叔母がその手を途中で止め、湯呑みの中のお茶がかすかに揺れた。 「こ……この大学って……南山市教育大学? 東都美術大学と南山市教育大学じゃ……あまりにも違いすぎるでしょ」 「教育大もいい学校よ」 すかさず伯母が無理に笑顔を作って、その場を取り繕う。「女の子が先生になったら、安定するし」 私は顔を上げた。視線を見慣れない通知書から翼の顔へ、そしてその隣にいる私の恋人である小川祐介(おがわ ゆうすけ)へと移す。 指の関節が白くなるほどの力で紙を握りしめ、かすれた声で、私は言った。「私の志望校……お兄さんが変えたんでしょ?」 翼は私の視線を避けると、グラスを一気に煽った。ごくりと、喉仏が上下する。 「ああ、俺だ」 グラスを机に置くと、翼は少し苛立ちを含んだ口調で話し始めた。 「澪がお前の東都美術大学合格を知ってから、自分はダメだったて落ち込んでさ。何日もご飯すら食べずに泣いてたんだよ。 だから、仕方なかったんだ。まずは澪を元気づけないとって。 それに、どうせ入学までには、ちょっと手を回せば元に戻せるんだからさ」 「私のせいで……」 翼の後ろに立っていた澪が、目を赤くして、いかにも可哀想な様子で口を挟んできた。 「わざとじゃないの。 ただ……自分が情けなくなっちゃって……」 鼻をすする澪の声は涙で震えている。 「お兄ちゃん、お姉ちゃんを責めないで。私がわがままを言って、お兄ちゃんを困らせただけだから。 お姉ちゃん、ごめんなさい。全部、私が悪いの。 だからみんなの前で、お兄ちゃんを困らせないで。お兄ちゃんだって、この家のために……」 「なんでお前が謝るんだよ!」 翼が澪の言葉を遮った。その顔には、澪を不憫に思う気持ちが浮かんでいる。 そして、私の方を見ると眉をひそめた。 「見てみろよ、澪はこんなに聞き分けがいいのに! それに比べてお前は……こんな些細なことなのに、親戚みんなの前で俺を問い詰めたりしやがって。 どれだけ俺の面子を潰すことになるか、考えたことあるのか?お前ってやつは本当に、自分のことしか考えてないんだな」 私は祐介の方を向く。 「祐介、あなたも私が悪いと思う?」 しかし、祐介は不満そうな顔で私を見ると、責めるように言った。 「玲奈、みんなの前で翼さんを責めるべきじゃないよ。 それに、澪はまだ若いし、傷ついてもいるから、翼さんもただ彼女を慰めたかっただけなんじゃないかな。 落ち着いて考えてみろよ。俺たちの家からすれば、こんなこと大した問題じゃないだろ?入学前に大学と話を調整する時間なんていくらでもあるんだから。 今こんな風に騒いだら、翼さんのメンツを潰すだけなんだから、もういい加減にしろ。これ以上聞き分けのないことは言うなよ」 翼の陰に隠れている澪が、私に挑発的な笑みを向けてくる。しかし、すぐに俯いて、まるで自分がひどい目に遭ったかのように装い始めた。 翼は澪の背中をさすり、見せつけるようにして澪を慰める。 私が口を開こうとした時、父に遮られた。 父は咳払いを一つして、有無を言わせぬ口調で言った。 「この件は、玲奈に相談しなかった翼が悪い」 そして、私に視線を向ける。 「だが玲奈、お前の反応もやりすぎだ。 内輪の恥を、わざわざ外に持ち出すな。家族なんだから、後でいくらでも話し合えるだろ? なんで親戚の前で、翼や俺たち家族全員に恥をかかせるようなことをするんだ?」 母も隣でなだめるように続けた。 「あなたが傷ついてる気持ちは、お父さんもお母さんも分かってるわ。 でも、物事には順序ってものがあるの。 澪のことは、あなたもよく知ってるでしょ?彼女は感情の起伏が少し激しいから…… だから、翼も焦ってやってしまったのよ。やり方は良くなかったかもしれないけど、家族が揉めないようにっていう善意でやったこと。 それに、あなたはお姉ちゃんなんだから、もっと寛大な心で受け止めてあげないと、でしょ?」 母は私のそばに来て私の手を握ろうとしたが、私はそっと身を引いた。 母の手は気まずそうに宙に浮いたままになったし、声を震わせ始める。 「玲奈、お母さんはあなたが悲しいのは分かってるし、あなたが必死で勉強してきたこと、お母さんは全部見てきたわ……」 そして、母は目元に浮かんでもいない涙を拭うと、今度は口調を変えた。 「でも、翼のことも考えてあげてちょうだい。彼だって、すごいプレッシャーなの。 澪は……はぁ、澪は繊細だから、今回の受験がうまくいかなくて、思いつめてる……だから、翼は澪が何か間違いを起こすんじゃないかって心配してのこと。 澪に何かあったら、お母さんはどうすればいいの? お願い。お母さんのために、今回は一歩引いてくれないかしら? それに、約束するわ。入学までには、ちゃんと行きたい大学に行けるように、翼に手配させるから、ね?」 そう言いながら、母は懇願するような真剣な目で私を見てきた。 まるで私が同意しなければ、情け知らずで親不孝な娘だと言わんばかりに。 澪はここぞとばかりに母の胸に顔をうずめ、濡れた瞳を上げて、小声で呟く。 「お姉ちゃん、ごめんなさい、私が悪いの…… もうお兄ちゃんを怒らないで。私、もう絵は描かないから。全部お姉ちゃんに返すから…… どうせ私は引き取られた子だもん。この家のものは全部お姉ちゃんのもの。私にはふさわしくない……」 そう言って、澪の目からはまた涙がこぼれ落ちた。そんな澪は触れただけで壊れてしまいそうなくらい、弱々しく見える。 翼はすぐに、可哀想だと言わんばかりに澪を自分のそばに引き寄せた。 そして、もう一度私を見た翼の目からは、最後の躊躇いは消えていた。そこにあったのは冷たさと、有無を言わせぬ強い意志だけ。 「聞こえなかったのか?澪はもう謝ってるんだぞ!なのに、お前は一歩も引かないなんて。そんなに事を荒立てなきゃ気が済まないのか?」 祐介はため息をつくと、立ち上がって私の手を掴んだ。 「玲奈、もうやめろって。 みんなに謝って、この話は終わりにしよう。 子供みたいな我儘は、もうやめろよ」 私は祐介の手を、そっと振りほどく。 「謝る?」 何の感情もこもっていない自分の声が、耳に響いた。 「謝るってなんのために?勝手に志望校を変えられたこと? それとも、ちゃんと分かるように説明してほしいと頼んだこと? それとも…… みんなが期待したみたいに、黙って全部飲み込んで、澪に笑顔で『気にしないで』って言ってあげなかったこと?」 母が息を飲んだ。「玲奈!」 母が何か言い出す前に、私はかがんで、足元に落ちていた南山市教育大学の合格通知書を拾い上げる。 紙は、もうくしゃくしゃだった。 「ええ、みんなの言う通り」 私はその紙を、目の前のローテーブルにそっと置いた。みんなにまっすぐ向くように、きちんと。 「私には『聞き分け』が足りなくて、この家の『和』を乱してしまった」 そして、私は背筋を伸ばして、まっすぐ立った。最後にもう一度、一人一人の顔をゆっくりと見る。 「だから、そんな『聞き分け』が良くないと居られないこの家から……」 私は少し間を置いて、はっきりと、そしてゆっくりと言った。「もう出て行くことにする」 私はもう誰の顔も見ずに、くるりと背を向けて、まっすぐ玄関へ向かう。 背後からは母の甲高い、泣き叫ぶような声が聞こえてくる。 「玲奈!どこへ行くの!戻ってきなさい!」 そして、父の怒りを押し殺した低い声も。 「行かせておけ!もう勝手にさせろ!」 第2話 澪。 この名前は、冷たい棘みたいに記憶の奥に刺さり、息をするたびにズキズキと痛む。 澪がうちに来たのは、もう10年も前のこと。 その時私は8歳で、澪は7歳。 澪は亡くなった執事の娘だった。何か昔の事情があり、「償い」のような理由で引き取ったらしい。 10年前この山頂荘園に迎え入れられてから、内田家の「養女」となった。 帰ってきた父と母の後ろには、真っ赤に腫れた目で怯えたような表情を浮かべる澪が隠れていた。 「玲奈、この子は澪。今日からうちの子になるの。お姉ちゃんとして面倒を見てあげるのよ、分かった?」 母は優しくそう言って、私の頭を撫でた。 そして、澪を見るその眼差しには、心の底からの憐れみと慈しみが溢れている。 父も、澪の前に屈み目線を合わせた。 「今日からここが澪の家だ。こいつはお姉ちゃんの玲奈。二人で仲良くするんだよ」 最初はすごく嬉しかった。 なぜならやっと妹ができたから。おもちゃも、秘密も、父と母の愛情も……全部一緒に分かち合えると、その時は思っていた。 しかし、それからすぐに全てが変わってしまった。 私が大事にしていた人形は、いつの間にか髪を切られたり、服に落書きされたりして、いつもボロボロだった。 私がそれに気づいて、泣きながら母に言いに行くと、澪はいつも目を赤くしながらこう言った。 「お姉ちゃん、ごめんなさい。わざとじゃないの。ただ、髪をとかしてあげたかっただけなの……」 すると母は澪を抱きしめて優しく慰めてから、私の方を向いて言うのだ。 「玲奈、澪はまだ小さいから、分からなかったのよ。それに、あなたはお姉ちゃんなんだから、譲ってあげなさい。 たかがお人形でしょ。また新しいのを買ってあげるから」 課題を提出しなくてはいけない日に限って、私のノートがなくなることも度々あった。 私が母に言いに行くと、澪はまた唇を噛み締めて、ぽろぽろと涙をこぼす。 「お姉ちゃん、わざとじゃないの。いらない紙だと思って…… ごめんなさい。お姉ちゃん、怒らないで……」 そんな時、父と母は決まって私を諭すのだった。 「玲奈、澪はまだうちに来たばかりで不安だから、きっとかまってほしくてやってるんだよ。 あなたはお姉ちゃんでしょ?もっと広い心で見てあげなさい。宿題なんて、やり直せばいいんだから」 このようなことが次第に増えていった。人形や課題ノートだけではなく、友達からもらった誕生日プレゼントに至るまで。 それに、やっとのことで一番をとって、もらったご褒美も…… とにかく、私が大切にしているものや好きなものは、いつも何かしらの「偶然」で壊れてしまったり、なくなったりした。 そして澪は、いつも「うっかり」で「悪気はなかった」、だから「許されるべき」という可哀想な妹だった。 父と母の言葉は、「お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい」から…… だんだん「澪はまだ小さいんだから、いちいち細かいこと言わないの」に変わり…… そして最後には、非難と苛立ちの色を帯びるようになった。 「玲奈、あなたはどうしてそんなに意地悪なの? 澪はただでさえ可哀想な子なんだから、もっと優しくしてあげられないの? お姉ちゃんでしょ?お姉ちゃんらしくしなさい!」 そんな数々の「偶然」と両親の贔屓の中で、澪は…… もともと私だけのものだった居場所と愛情を、少しずつ蝕んでいった。 そして、澪は父と母の前では聞き分けのいい、甘え上手な子を演じるが、私の前では全く別の顔を見せるのだった。 第3話 私の成人式だったあの日。 澪が階段から転げ落ちた。 私は澪を助け起こそうとしたが、澪にハメられた。 澪は床にへたりこんだまま、涙だらけの顔を上げて、信じられないという目で私を見つめてきた。 澪の声は決して大きくはなかったが、その涙で震えた声は、静まり返った周囲の人々の耳にはっきりと届いた。 「お姉ちゃん……どうして私を押したの?私、また……何か悪いことしちゃった?」 一瞬で頭が真っ白になった。 「押してない!」私は声を震わせながら、駆け寄ってくる両親と兄の方を見た。 「お父さん、お母さん、私は澪に触れてもない!澪が自分で転んだの!」 しかし、澪は堰を切ったように涙をこぼし、か弱いがはっきりとした声で言った。 「ごめんなさい……お姉ちゃん。私のことが嫌いなんだよね。お父さんとお母さんが私に優しくするから…… 私はここに来ちゃいけなかったんだ。だって、お姉ちゃんの居場所を、奪っちゃったから……」 澪は声にならないほど泣いた。 「本当のお母さんに会いたい……もう行かせて。これ以上お姉ちゃんを怒らせたくないの……」 「玲奈!なんてことを!」 母は澪を抱きしめ、額の傷を心配そうに押さえながら、私に向かって厳しい声で言った。 「澪の怪我を見てみなさい!それでもまだ言い訳するつもり?」 「お母さん!一度でいいから私を信じて!」 私は泣きながら母に縋り付く。「私は何もしてない!澪が自分で転んだの!」 「もういい加減にしろ!」 父は怒りで顔を歪め、私の言葉を遮った。 「ちょっと可愛がられたからって、妹にこんな酷いことをするのか?玲奈、お前は本当に根性が腐ってる!」 翼が一歩前に出て、私を母から乱暴に引き離した。その目は氷のように冷たい。 「玲奈、いい加減にしろ!大勢の前でよくもこんなことを!お前なんかに、澪の姉でいる資格なんかない!」 周りの招待客は静まり返り、その視線が針のように私に突き刺さる。 味方は誰もいなくて、全身が冷たくなっていくのを感じた。 その時だった。祐介が、迷いのない足取りで私の隣に来て、ぎゅっと手を握ってくれたのだ。 「おじさん、おばさん」 祐介の声は落ち着いていたけど、その中には揺るぎない強さがこもっていた。 「俺は玲奈を信じますよ」 澪の泣き声がぴたりと止まる。 父は険しい顔になり、母も動きを止めた。 祐介を見上げると、涙がどっと溢れてきた。 あの時、私を信じてくれたのは、祐介だけだった。 でも、その時からだったかもしれない。私の中で何かがぷっつりと切れ、壊れてしまったのは。 それから私は喋らなくなり、勉強だけに打ち込み、家族との間に見えない壁を作った。 大学に受かって、この家から遠く離れさえすれば、それでいいと思っていた。 しかし、思いもしなかった。 私が必死で手に入れた、この息の詰まる場所から逃げるためのたった一つのチャンスを澪の機嫌を取るためだけという理由で、彼らにあっさりと奪われ、無かったことになってしまうなんて。 それどころか、一番信じていた恋人の祐介までが家族の味方をした。「大人になれ」とか、「みんなのことを考えろ」なんて言って、私を説得しようとしたのだ。