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報われなかった青春を弔う
私は、あまり有名ではないけれど、愛に満ちたカップル垢をフォローしていた。 そこには、投稿者と彼氏の日常のささやかな出来事が綴られている...
Chương (1)
第1章
私は、あまり有名ではないけれど、愛に満ちたカップル垢をフォローしていた。
そこには、投稿者と彼氏の日常のささやかな出来事が綴られている。
彼らはラーメンを分け合うことで言い合いになっても、次の瞬間、互いの顔を見合わせると、相手を「大人になれない子どもだね」と笑い合った。
また、山頂の星空の下で強く抱き合い、「この瞬間で時間が止まってしまえばいいな」と語り合った。
投稿者は一度も顔を見せなかったけれど、彼女の言葉に、私は深く胸を打たれていた。
そして、私が結婚する前日、そのアカウントの投稿が再び更新された。
【十年にわたる恋は、ここで終わりを迎える。
これから彼は彼女の夫、私は彼女の親友になる。
このアカウントは更新を終了する。私のいちばん大切な友人と、彼女がいちばん愛している男が、永遠に幸せでありますように】
添えられていた写真は、私、松本彩織(まつもと さおり)と婚約者の後ろ姿だった。
第1話
私は、あまり有名ではないけれど、愛に満ちたカップル垢をフォローしていた。
そこには、投稿者と彼氏の日常のささやかな出来事が綴られている。
彼らはラーメンを分け合うことで言い合いになっても、次の瞬間、互いの顔を見合わせると、相手を「大人になれない子どもだね」と笑い合った。
また、山頂の星空の下で強く抱き合い、「この瞬間で時間が止まってしまえばいいな」と語り合った。
投稿者は一度も顔を見せなかったけれど、彼女の言葉に、私は深く胸を打たれていた。
そして、私が結婚する前日、そのアカウントの投稿が再び更新された。
【十年にわたる恋は、ここで終わりを迎える。
これから彼は彼女の夫、私は彼女の親友になる。
このアカウントは更新を終了する。私のいちばん大切な友人と、彼女がいちばん愛している男が、永遠に幸せでありますように】
添えられていた写真は、私、松本彩織(まつもと さおり)と婚約者の後ろ姿だった。
それは、先週、私たちがウェディングドレスの店にいたときに撮られた写真だった。
あのとき、葉月清美(はづき きよみ)は私のベールを整えながら、絶え間なくおしゃべりをしていた。
鏡の中で、彼女は私よりも楽しそうに笑っていて、まるでこれから結婚するのが彼女自身であるかのようだった。
「彩織、本当にきれいだね」彼女はふいに声を詰まらせ、「彩織の婚約者は、本当に幸せ者だね。彩織を妻に迎えられるなんて」と言った。
少し離れたところに、古井弘行(ふるい ひろゆき)が立っていて、スマホを見た。
自分の名前を聞いて、弘行は顔を上げ、私たちに向かって穏やかな笑みを浮かべた。
けれど、その笑顔の奥に、どこか無理をしているような影を感じてしまった。
「清美が大げさだよ」私は清美の手を握った。
「あなたが無理やり連れてこなかったら、たぶんウェディングドレスを適当に一着買って終わりにしてた」
「それはダメでしょ!」清美は目を見開いた。
「私のいちばん大切な親友が、一生に一度だけ迎える結婚式なんだから、適当になんてできない!」
彼女は弘行のほうを振り向いた。「ねえ、そう思わない?」
弘行はスマホをしまい、歩み寄って、自然な仕草で私の肩を抱いた。「どこが適当なんだよ。彩織は、何を着てもきれいに決まるだろう。
でも、このドレスは特に似合ってる」彼は私を上から下まで眺め、甘やかな声で言った。
その瞳には愛情が溢れていた。
ロケ撮影に出発する前、清美が突然、私たちを盗み撮りした。
フラッシュ音は消されておらず、私が振り返ると、彼女はただ「記念に撮りたくて」と言っただけだった。
結婚式前夜のパーティーで、私は酔いつぶれた。清美はごく自然に私を引き受け、世話をしてくれた。
弘行が迎えに来たとき、彼女は濡れタオルを手に、私の額を丁寧に拭いていた。
「彩織は私に任せて」彼女は弘行に言った。
「今夜は彼女の独身最後の夜よ。あなたは邪魔しちゃダメ」
弘行は入り口に立ったまま、中には入ってこなかった。
彼の視線は清美に落ち、その表情は複雑で読み取れなかった。
私はソファにもたれ、酔いで霞む目で二人を見ていた。
「弘行……」私は掠れるような声で彼の名を呼んだ。
すると彼はようやく私を見て、歩み寄り、私を抱き寄せた。「どうしてこんなに飲んだんだ?」
清美が笑って言う。「結婚が嬉しいに決まってるでしょ。
彩織は大学の頃から言ってたじゃない。いつか結婚する日が来たら、バチェロレッテ・パーティーでは絶対に潰れるまで飲むって。今日はやっと念願叶ったわね」
確かに、私はそんなことを言ったことがある。
清美と一緒に、ある恋愛映画を観ていたときのことだった。
あの頃、私たちは、お互いのブライズメイドになろうと約束した。
その後、私が恋をしても、その約束だけは変わらなかった。
弘行は私をそっと抱き上げ、清美に言った。「彼女の面倒を見てくれてありがとう」
「それは私がやるべきことよ」清美の声が、ふっと低くなった。「だって……これが最後だもの」
そのときの私は、ひどく酔っていて、その言葉に込められた意味に気づかなかった。
翌朝、ホテルで目を覚ました私は、スマホに届いた、フォローしているアカウントの最新投稿を目にした。
ぼんやりしたまま、その投稿を開く。
その瞬間、二日酔いの頭痛が、一気に醒めた。
第2話
そのカップル垢を見つけたのは、本当に偶然だった。
その日、私は何気なくスマホをいじっていて、システムのおすすめで表示された投稿の中で、そのアカウントを見た。
アイコンは、私がとても好きなアニメキャラだった。
好奇心に駆られて、私は思わずタップした。
フォロワーは三千人あまり。最新の投稿は、三日前のものだった。
深夜のデスクを写した写真で、添えられていた言葉はこうだった。
【深夜まで残業。彼が『一緒に我慢しよう』って言ったのに、結局デリバリーを二人前頼んだ。ほんと、バカ】
私は無意識のうちに、指を滑らせた。
【彼は、私が最近あまり食事を取っていないことを気にして、ラーメンに入っているチャーシューを無理やり私に分けてくる。私はお肉が好きじゃないって言ったら、『大人になれない子どもだね』って笑われた】
【山頂で星を見ながら、彼は『この瞬間で時間が止まってしまえばいいな』って言った。実は、私も同じことを思ってた】
【風邪をひいたら、彼は仕事を抜けて看病に来てくれた。料理もできないくせに、無理やりお粥を作ってくれて。焦げてたけど、おいしかった】
……
そんなふうに、一つ、また一つと読み進めていくうちに、私の心は理由もなく揺り動かされていた。
ありふれた日常。ささやかで温かなやりとり。それは、かつて私が思い描いていた「理想の恋愛」そのものだった。
祝福の言葉を残そうとして、コメント欄が閉じられていることに気づき、私はフォローだけを押した。
けれど実は、彼らの幸せな記憶において、私はずっと、何も知らない脇役だったのだ。
彼女は【十年付き合った】と書いていた。けれど、私と弘行も、付き合って十年だった。
そして私は清美と知り合って二十年になる。
十歳のとき、彼女は私の家のそばに引っ越してきた。
初めて会った日、彼女はツインテールを結び、いちご味のキャンディを私に差し出した。
「私は清美。これから友だちね!」
小学校から大学まで、私たちはいつも一緒だった。
彼女は私の秘密をすべて知っていて、人生の大事な瞬間を、いつもそばで見届けてくれた。
大学二年のとき、私は弘行と出会った。
建築学科の人気者で、彼に想いを寄せる女の子は数えきれないほどいた。
一方の私は、取り柄もない、ごく普通の存在。彼に気づいてもらえるなんて、考えたこともなかった。
「何を怖がってるの。あなたは文学部のエリートでしょ」清美はそう励ましてくれた。
「よかったら、私が彼の連絡先聞いてこようか?」
やがて、私は弘行と付き合うことになった。
真っ先に清美に伝えると、彼女は私を抱きしめて、くるくると回った。私以上に喜んでいる様子だった。
「すごいじゃん!うちの彩織、ついに願いが叶ったね!」
あのときの彼女が、心から喜んでくれていたことは、間違いない。
ネットではよく、親友は「彼氏にとっての第二の義母」だ、なんて冗談が言われる。
彼氏がどれだけ頑張っても、自分の大切な親友には釣り合わない存在に見えてしまう、と。
清美も、まさにそうだった。
清美は私が恋人ができたと聞いたときは喜んでくれたのに、実際に弘行と会った途端、とても気に入らない様子だった。
清美と弘行が初めて顔を合わせた日、私はフルメイクで、弘行と食堂でデートをしていた。
清美は前日までグループワークに追われ、何日も徹夜したせいで、目の下には濃いクマを浮かべている。
数日洗っていない髪に、ルームウェアとビーチサンダルという格好で現れた。
彼女はそのまま弘行を押しのけ、どさっと私の隣に腰を下ろした。
弘行は一瞬戸惑い、仕方なく向かいの席に座り直した。
清美は遠慮なく彼を値踏みするように眺め、露骨に嫌そうな顔をした。
「……人気者ってこの程度なの?ねえ、急に思ったんだけど、私、喜ぶの早すぎたかも。彩織はもう一回考し直さない?」
容赦のない言い方に、弘行の表情も曇った。
あとで私が、彼に私の親友のことをどう思うかと聞くと、彼も少し鼻で笑うように言った。「まあまあ……」
私は笑いながら、彼の肩を軽く叩いた。「彼女は私の一番大切な親友で、あなたは私が愛している恋人なんだから。ちゃんと仲良くしてよ」
社会人になってから、私は弘行と小さな部屋を借りて同棲を始めた。
清美はよくご飯を食べに来て、遅くなると、そのままソファで泊まっていった。
「なんかさ、私、二人に飼われてる娘みたいじゃない?」彼女は冗談めかして、そう言ったことがある。
すると弘行も、わざと厳しい父親の顔をして言った。「じゃあ、お利口な娘さん。食べてばかりいないで、早く皿洗いしてきなさい」
部屋の中は、いつも三人の笑い声で満ちていた。
まさか、その幸福が、嘘の上に築かれたものだったなんて、思いもしなかった。
第3話
私はよろめきながら浴室に飛び込み、冷たい水で何度も頬を洗ったが、どうしても落ち着けなかった。
明日は、私の結婚式なのだ。
招待状はすでに送った。ホテルも予約済み。ウェディングドレスはクローゼットに掛かっている。すべては準備万端だった。
私は震えながら、弘行に電話をかけた。
一度、二度、三度……
応答はない。
しばらく呆然とした後、なぜか清美の番号を入力した。
同じく、繋がらなかった。
私の胸が一気に沈み込んだ。
彼らは私を欺き、共に喜びを分かち合っていた時、果たして一瞬でも私に対する罪悪感を覚えただろうか?
それともただ刺激を感じ、浮気の快感を味わっていただけなのか?
清美が旅行ブロガーで、行く先々で写真を撮り、各プラットフォームに足跡を残していることを、私は知っている。
また、SNSで活動する人はサブアカウントを複数持つことも知っている。
私はホテル名で検索し、関連するIPの投稿をひとつずつ確認した。
そしてついに「愛されない人こそ離れるべき」というアカウントで一枚の写真を見つけた。
写真には、男性の細く長い指がシャンパンを開ける様子が写っている。腕時計は、去年私が彼に送った誕生日プレゼントだった。
そう、弘行だ。
キャプションは短く、ただ一行だけ。
【盗み取った時間は、カウントダウンしていく】
すでに多くのコメントがついている。真実の愛を祝福する者もいれば、【愛人なのでは?】と疑う者もいる。
震える手でホームページを開くと、そのアカウントは以前のカップル垢とはまったく対照的だった。
フォロワーは十数万人、登録もずっと以前だった。
そのアカウントでは、彼女が私たち三人の物語を記録している。
最初の投稿は、私を皮肉する内容だった。
【人気者ってこんなに簡単に落ちるんだ、私も狙えばよかった。まさか親友に先を越されるなんて。
しかも、彼氏とデートするなら前もって教えてくれればいいのに、わざわざ私がすっぴんでパジャマ姿で彼女を引き立てる役をさせられるなんて、本当に困るわ】
コメント欄では【偽りの親友だね】と茶化す者に、彼女はニヤリと笑う絵文字で返していた。
その後、私が風邪をひいて熱を出すと、弘行が看病に来た。彼女はこう書き残した。
【あの人、本当にお姫様気質ね。熱を出しただけで世話してもらわないと気が済まないんだから。
でも、おかげで、彼と二人きりの時間ができた。あの人は結構うまくチャンスを作るわね】
私の目の届かないところで、清美と弘行はとっくに密かに繋がり合っている。
その後、清美はこう書いた。【私たち、揃ってサブアカウントで友達追加したのも偶然じゃない、心が通じ合ってるってこと?】
同時に公開されたのは、モザイク処理された大量のチャット記録。
彼らは音楽や理想など、弘行が私には理解できないと思う話題を語り合っていた。
清美は絶妙に持ち上げ、弘行は彼女との会話がいつも楽だと言った。
バレンタインデーには、清美が手作りチョコを彼の会社に送ったが、弘行からのプレゼントは受け取らなかった。無駄遣いをさせたくないという理由だった。
弘行は感動し、「彼女は本当に特別な女の子だ」と言った。
二人は慎重に曖昧な関係を維持し、投稿を更新するたびに「親友からもらったインスピレーション」と強調した。
私が清美に贈り物をするのは、世話をしてくれた感謝を表すため。食事に誘うのは料理の味見を手伝ってもらうため。
私はわがままで気弱、理解力のない存在として描かれている。
そんな嘘に包まれながら、彼らは背徳の快感を存分に楽しんでいた。
第4話
清美の誕生日に、私は彼女がずっと欲しがっていた限定版のバッグを贈った。
翌日、彼女はそのバッグを背負い、弘行と「偶然」出会った。カフェでの自撮りの際、「うっかり」彼も写真に写り込んでしまった。
彼女は三人で映画を観るときの写真も撮っている。肘掛けの下で交差する清美と弘行の手が映っている。
弘行が私にプロポーズした日、清美は長文を投稿し、自分の苦しみと無念さを綴った。
【今夜、答えが欲しい】と彼女は書いた。
【もし彼も私を愛しているなら、このチャンスを逃すべきじゃない】
彼女は、それを成し遂げた。
その夜、弘行は彼女のキスに、拒否の意思を示さなかった。
二人は結婚前に一度だけ狂騒の旅行をすることを約束し、弘行は私に「一週間出張だ」と告げた。
私の胃の中は、まるで波が逆巻くようだった。
残業、接待なんて、すべて彼らのデートの口実だったのだ。
七日間、清美は無数の動画を更新した。
彼女は、私と弘行のすべての記憶を塗りつぶし、彼の未来を自分の影で満たすつもりだった。
私はまるで自虐的に投稿を読み続けた。レストランからホテル、遊覧船から山道まで、同じ風景の中に映るのは別の二人だった。
見ているうちに、最初は心が切り刻まれる思いだったのが、やがて麻痺し、最後には滑稽ささえ感じるようになった。
心が死んだ後では、憎しみさえも余計なものだったのだ。
夜が明けようとするとき、私は決断した。
結婚式は、絶対に中止する。
私はパソコンを開き、招待客に送るメールの下書きを始めた。
一文字打つたびに、心が痛んだ。
十年の恋、二十年の友情が、この瞬間に消え去る。
送信する前に、私は清美に電話を掛けた。
「彩織?こんな時間にどうして電話してきたの?」声は軽やかで自然だった。
「もうすぐ一番美しい花嫁になるんだから、夜更かししちゃだめよ」
私は口を開いたが、声は出なかった。
おそらく私の様子がいつもと違うことに気づいたのだろう。彼女はすぐに心配そうに尋ねた。
「彩織、大丈夫?結婚前で緊張して寝られないの?
弘行は?なんであなたのそばにいないの?また仕事で忙しくて電話も出ないの?
もう、この男には本当に呆れるわ。明日結婚するんじゃなかったら、今すぐ電話して怒鳴ってやるのに!」
なんと皮肉なことか。
つい先ほど、彼女はあれほど断固たる覚悟の投稿を更新したばかりなのに、今はこんなに落ち着いて私を慰めている。
「だ、大丈夫」私はようやく声を絞り出した。
「少し緊張してただけ、急にあなたの声を聞きたくなったの」
「……バカね」彼女は呆れたように笑った。
「安心して、明日はすべてが完璧になるわ、私が保証する。
今あなたにすべきことは、ぐっすり眠ることだけ。他のことは全部私に任せて」
そのとき、電話の向こうで低く驚く声がした。弘行の声だった。
私は涙をこらえた。「清美、何か私に隠していることはない?」
向こうは一瞬沈黙し、しばらくして慌てた声でごまかした。「彩織、何言ってるの?どうしたの?」
私は言った。「スマホをスピーカーモードにして」
清美は少しためらったが、従った。
「清美、弘行」
私の声は、はっきりと、そして揺るがずに響いた。「結婚式は中止することにした」
「幸せになってね、二人とも」