あなたの優しさに、終わりを告げた日

Đang tải thông tin quảng bá...

あなたの優しさに、終わりを告げた日

GoodNovel Hoàn thành

早瀬淳弥(はやせ じゅんや)と付き合い始めて八年目、私たちはついに婚約を交わした。 その夜、彼は会社に泊まり、酔いつぶれて帰ってこなか...

Chương (1)

第1章

早瀬淳弥(はやせ じゅんや)と付き合い始めて八年目、私たちはついに婚約を交わした。 その夜、彼は会社に泊まり、酔いつぶれて帰ってこなかった。 真夜中、私は、彼の酔いが少しでも冷めるようにと、温かい飲み物の入ったポットを手に会社を訪れた。 ――けれど、そこで耳にしたのは、彼が隣に座る美しい女性部下に向けて放った、あまりにも冷たい言葉だった。 「あいつは、お前みたいに向上心があるわけじゃない……一生、あんなもんだろうよ。 でもまあ、八年も一緒にいたからね。プロポーズなんて、正直、成り行きみたいなものさ」 長い時間を経て、ようやく結ばれたのだと信じていた。 けれどそれは、彼の情けによる「施し」でしかなかった。 私は手にしていたポットを静かに床へ捨て、その場で婚約を破棄した。 それからしばらくして―― 雪が降りしきる中、玄関先に立ち尽くす淳弥は、荒れた声でこう言った。 「夏希(なつき)……俺が間違っていた、後悔している」 第1話 早瀬淳弥(はやせ じゅんや)と付き合い始めて八年目、私たちはついに婚約を交わした。 その夜、彼は会社に泊まり、酔いつぶれて帰ってこなかった。 真夜中、私は、彼の酔いが少しでも冷めるようにと、温かい飲み物の入ったポットを手に会社を訪れた。 ――けれど、そこで耳にしたのは、彼が隣に座る美しい女性部下に向けて放った、あまりにも冷たい言葉だった。 「あいつは、お前みたいに向上心があるわけじゃない……一生、あんなもんだろう。 でもまあ、八年も一緒にいたからね。プロポーズなんて、正直、成り行きみたいなものさ」 長い時間を経て、ようやく結ばれたのだと信じていた。 けれどそれは、彼の情けによる「施し」でしかなかった。 私は手にしていたポットを静かに床へ捨て、その場で婚約を破棄した。 それからしばらくして―― 雪が降りしきる中、玄関先に立ち尽くす淳弥は、荒れた声でこう言った。 「夏希(なつき)……俺が間違っていた、後悔している」 …… 婚約披露パーティーが終わると、淳弥はそのまま会社へ戻っていった。 ところが真夜中、彼の部下から「早瀬さんが酔い潰れた」という連絡が入った。 私はすぐに体が温まるものを用意し、車を走らせて会社へと急いだ。 オフィスに到着し、部長室の少し開いたドアに手をかけたその時――中から甘く潤んだ女性の声が聞こえてきた。 「淳弥さん、婚約しちゃったんだね……」 粘りつくようなその口調。私は瞬時にその声の主に気がついた。 さっき私に連絡をよこした部下であり、少し前にデザイン部に異動してきたチームリーダー、篠田莉奈(しのだ りな)だ。 私は反射的に、ドアノブにかけていた手をそっと離した。 淳弥の声は微かに酔いを帯び、少し掠れていた。 「ああ、婚約したよ」 その淡々とした口ぶりに、莉奈はたちまち目元を赤くした。 「ひどい……二人で一緒に頑張って、まだ見ぬ景色を一緒に見に行こうって言ってくれたのに。 結婚なんてされたら、私はどうしたらいいの?」 声は次第に弱まり、切なさを滲ませていった。 淳弥は身を起こすと、優しく莉奈の頭を撫でた。 「結婚しようがしまいが、俺たちの関係は変わらないさ」 それでも唇を尖らせる莉奈を見て、彼は困ったように笑い、手元の引き出しから美しい小箱を取り出して彼女に手渡した。 「ほら、やるよ。お詫びの印だ」 莉奈が手を伸ばして受け取ったその箱は、照明の下で煌びやかに輝いていた。 だが、私はその場に立ち尽くし、心は凍りついていた。 あれは本来、私が目をつけていたネックレスだったはずだ。 数日中に買ってあげると、淳弥はそう言っていた。それなのに今、彼はそれをあっさりと他の女に与えてしまったのだ。 莉奈も当然、それが私への贈り物だったことを知っているはずだ。けれど彼女は何も言わず、ただ満面の笑みを浮かべた。 「ありがとうございます、部長」 そう言うなり、彼女は彼に口づけを落とした。 淳弥はまんざらでもない様子で、口数も多くなっていた。 「夏希は、お前ほど努力家でもないし、向上心もない。まあ、あんなもんだろうよ。 でもまあ、八年も俺についてきたんだから、プロポーズは仕方なくなんだよ。この歳になればケジメとして身分を与えてやる必要がある。まあ、妻なんて大した肩書きでもないさ、心配するようなことじゃない」 彼の言葉は漫然としていたが、毒を塗ったナイフのように、私の胸を深く抉った。 私は自分たちが、紆余曲折を経てようやく結ばれたのだと思っていた。 けれどそれは、彼からのただの「施し」に過ぎなかったのだ。 手元にある温かい飲み物を見つめ、私は自嘲せずにはいられなかった。 それでも湧き上がる感情を必死に抑え、震える指でLINEを開き、淳弥に【いつ帰ってくるの?】とメッセージを送った。 部屋の中から、淳弥のスマホの通知音が聞こえた。 しかし、いつまで経っても返信は来ない。 二人の会話はまだ続いている。 私は続けて二通、メッセージを送った。 その時、莉奈の声がした。 「きっと夏希さんでしょ?返さなくていいの?」 淳弥はそっけなく相槌を打っただけで、スマホを見ようともせず、彼女を抱き寄せた。 莉奈は慌てて彼を押し返し、声を曇らせた。 「二人がケンカするのは嫌……私が代わりに返しておくね」 次の瞬間、私の画面にメッセージが表示された。 【もうすぐ終わる、帰る準備をしてるよ】 あろうことか、語尾にはキスマークのついた可愛らしいスタンプが添えられていた。 無機質な淳弥が、こんな可愛らしいスタンプを使うはずがない。 その画面を見たであろう淳弥が、不機嫌そうに言った。 「誰が送っていいと言った?」 彼が眉をひそめたのを見て、莉奈は目に涙を浮かべた。 「ごめんなさい……」 その涙を前にしても、淳弥の声は少しも和らがない。むしろ、わずかに苛立ちを含んでいた。 「そんなに俺を帰らせたいのか?」 そう、淳弥が気に食わなかったのは、莉奈が勝手にスマホを触って私に連絡したことではなく、彼女が自分を家に帰そうとしたことだったのだ。 その一瞬、彼の本心を悟り、莉奈はふっと笑った。 「だって、今日は婚約したばかりでしょ。彼女が乗り込んで来たら怖いもん」 以前彼が酔いつぶれた時、私が迎えに来たことを知っているのだ。 その可能性に思い至ったのか、淳弥は微かに眉を寄せた。 「……悪かったな」 莉奈は口元を綻ばせ、甘えるように言った。 「来月、城南寺でお祭りがあるんだ。連れて行ってください。今日のお詫びとして、ね?いいでしょ?」 城南寺という言葉を聞いた瞬間、私は思わず拳を握りしめた。 けれど、淳弥の短く、軽い承諾の言葉が聞こえた瞬間、目頭が熱く滲んだ。 彼は覚えているはずだ。そこが、私たちが愛を誓い合った場所だと。 一生、相手しか連れて行かないと約束した場所だと。 それなのに今、彼はこうも簡単に、他の女との約束を交わしてしまった。 八年積み重ねた約束が、一夜にして崩れ去った。 まるで、最初からなかったかのように。 第2話 どうやって家に帰り着いたのか、記憶が定かではない。 ただ、果てしなく長い時間だけが、じりじりと削り取られていった。 空が白み始めた頃、ようやく淳弥が帰ってきた。 リビングに座り込んでいる私を見て、彼はあからさまに眉を寄せた。 「どうしてまだここで待ってるんだ?」 その声はあまりに淡々としていた。 まるで私が婚約者ではなく、どうでもいい赤の他人であるかのように。 「……夜が明けたからよ」 私は込み上げる苦い感情を飲み込み、素っ気ない態度で返した。 私の冷ややかな雰囲気を察したのか、淳弥は小さく嘆息し、言い訳がましく口を開いた。 「今度のプロジェクトは重要なんだ。お前を後回しにして悪かった」 もちろん、この案件が淳弥にとってどれほど重要かは理解している。 この商談さえ成立すれば、彼はデザイン部の責任者にとどまらず、支社全体を統括する立場へ昇進する。 ――でも、私には分からなかった。 彼にとって本当に大切なのは、プロジェクトなのか。それとも、莉奈なのか。 私が何も答えないでいると、淳弥は私を抱き寄せ、機嫌を取るように背中を撫でた。 「次はもっと早く帰るよ」 その腕の温もりは変わらないはずなのに、鼻をつくのは甘ったるい香水の匂い。 吐き気が込み上げた。 私は思わず彼を押しのける。その拍子に、彼の首筋にある鬱血した赤い痕が目に飛び込んできた。 喉まで込み上げた無数の問いは、結局、嗚咽に変わるだけだった。 昨夜、彼が莉奈に言った言葉が脳裏をよぎる。私は震える声で尋ねた。 「淳弥……私、家庭に入るべきじゃなかったのかな。 学生時代、約束したじゃない。二人で一緒に、まだ見ぬ景色を一緒に見に行こうって」 かつてはロマンチックに響いたその言葉。 けれど、彼がその言葉を共有したい相手は、もう私一人ではなかった。 私の言葉を聞いた瞬間、淳弥の声色は冷たく沈んだ。 「まだ早い時間だ。もう少し寝たら?」 そう言い終えると、彼は背を向けて二階へ上がっていった。 ――もう、私の言葉を一言も聞こうとしなかった。 その背中を見送った瞬間、心の中で張り詰めていた糸が、音を立てて切れた。 私はスマホを取り出し、画面には、書きかけの退職届が表示されている。 しばらく見つめた末――それを削除した。 午後、私はいつも通り出社した。 同僚たちは婚約を祝福してくれつつも、意外そうな顔をした。 「結婚したら辞めると思ってたよ。まさか来るなんてね」 「まあ、女も自分のキャリアを持っていた方がいいしな」 そんな同僚たちの言葉に、私は曖昧に微笑むだけだった。辞めるのを踏みとどまって本当によかったと、心の底から思った。 挨拶を済ませて振り返ると、そこに莉奈が立っていた。 一目で分かった。彼女の華奢な首元で輝いているのは、あのネックレスだ。 胸の奥がずきりと痛む。私は彼女を無視して通り過ぎようとしたが、手首を強く掴まれた。 莉奈は満面の笑みを浮かべていた。 「夏希さん、昨日はさぞかし忘れられない一日になったでしょうね」 私を動揺させようという魂胆が見え透いていた。無言でその手を振り払い、その場を後にした。 …… 定時になるまで、淳弥と莉奈の姿を見ることはなかった。 帰ろうとしたその時、二人が肩を並べて歩いてくるのが見えた。私といる時よりもよほどお似合いのカップルに見える。 淳弥は淡々とした口調で告げた。 「明日から、高橋社長から依頼されている案件だが、担当は篠田に任せる」 その言葉に、周囲の空気が凍りついた。 誰もが知っている。このプロジェクトは私が二ヶ月も奔走し、ようやく契約まで漕ぎ着けたものだ。 準備はすべて整っている。それなのに、淳弥はおいしいところを全て莉奈に譲ろうとしているのだ。 血の気が引いていく私の顔を見て、同僚の一人が恐る恐る口を開いた。 「その案件、夏希さんの担当じゃ……」 その時、ようやく私に気づいた淳弥が、怪訝そうに眉をひそめた。 「お前、辞めたんじゃなかったのか?」 そうか。彼は最初から最後まで、私が目の前にいることにすら気づいていなかったのだ。 静まり返るオフィスで、私は唇を歪めて笑った。 「急に、辞めたくなくなったの」 けれど結局、彼が前言を撤回することはなかった。 プロジェクトは、莉奈のものになった。 人が散り、二人きりになると、莉奈が近づいてきた。 「夏希先輩、プロジェクトを譲っていただいてありがとうございます」 彼女は私の耳元に顔を寄せ、低く湿った声で囁いた。 「それと、八年もかけて彼氏をここまで育ててくれて、ありがとうございます……彼のこと、すごく気に入っちゃいました」 その瞳に宿る挑発的な光を見て、私は冷ややかな軽蔑を込めて言い返した。 「人の男を寝取って、そんなに誇らしいの?」 第3話 一瞬、莉奈の顔が不快そうに歪んだ。しかし背後に立つ男の存在を思い出したのか、彼女は私の手を掴み、わざと強く自分のほうへ引き寄せた。 次の瞬間、莉奈は後ろに倒れ込み、駆け寄ってきた淳弥がその体を受け止める。 彼は莉奈をかばうように抱きしめ、非難の色を湛えた瞳で私を射抜いた。 「お前にとってはこの程度のプロジェクト、造作もないことだろう。莉奈はまだ新人なんだ。何をそんなに意地になっているんだ!」 事情を確かめようともせず、彼は最初から私が莉奈をいじめていると決めつけた。 「この案件の担当は決まったことだ。不満があるなら、辞めてもらっても構わない」 吐き捨てて莉奈を連れ去る彼の言葉は、氷のように冷たかった。 二ヶ月もの間、夜を徹して取り組んできた私の苦労は、彼にとっては「造作もないこと」でしかなかったのだ。 かつて誰にも奪えなかったこのプロジェクトが、今、淳弥の手によって莉奈の華々しい経歴のための踏み台として献上された。 あの日を境に、私と淳弥の間には冷戦状態が続いた。 莉奈はといえば、ショックのあまり心悸亢進で入院したという。 同僚たちの同情に満ちた視線を浴びながら、私は確信していた。 淳弥は今、病院で彼女に付き添っているのだと。 理屈では関わらない方がいいと分かっていても、胸の奥から広がる痛みは制御不能なほどに全身の隅々まで侵食していた。 そこへ、淳弥から電話が入った。 「夏希、病院へ来て莉奈に謝るんだ。手持ちのプロジェクトもすべて彼女に譲れ。そうすれば、今回だけは許してやる」 声には凍りつくような冷たさと――恩を着せるような傲慢さが滲んでいた。 会社では、半月成果が出なければ解雇される。 彼はそれを知りながら――遠回しに、私に退職を迫っていた。 意識の底で、高校時代の記憶がふいに蘇る。 家庭の事情を理由に、私はクラスのグループから孤立させられ、いじめを受けていた。 彼女たちは私の身なりを嘲笑い、私に与えられるはずだった機会を奪い、家柄について心ない噂を撒き散らした。 幼くして母を亡くし、父の再婚相手の家庭で、息を潜めるように生きていた自信のない臆病な少女。 根も葉もない噂は瞬く間に広がり、ついにはクラス全員による「クラスを変えさせろ」と嘆願書まで作られた。先生の顔にさえ迷いが生じ、署名用紙にびっしりと並んだ名前は、私を窒息させる呪詛のように思えた。 その時、澄んだ声が教室に響いた。 「先生、少しでも事実を確認すれば、彼女たちの話が全部嘘だと分かるはずです。 浅沼(あさぬま)さんは自分の力で高得点を取って入学した。成績も優秀で、何の落ち度もない彼女を、どうして追い出す必要があるんですか? もし先生がこんな馬鹿げた嘆願書を認めるなら、俺も彼女と一緒にクラスを変えます」 当時の淳弥は学校中の注目を集める有名人で、私とは住む世界が違った。それでも彼は周囲の視線を厭わず私に手を差し伸べ、泥沼から救い出してくれた。 だというのに、今の淳弥は、あの頃私を虐げていた者たちと一体何が違うというのか。 「……どうして私が、そんな要求を飲まなければならないの?」 私は皮肉を込めて言い返さずにはいられなかった。 「能力のある者が座に就く。それだけのことだ」 淳弥の声には苛立ちが混じり始めていた。 「一生養ってやると言っているだろう。夏希、あまり強欲になるな」 昔、彼は私に「自分のものは勇気を持って守れ」と教えてくれた。 それなのに今、彼はそれを「強欲」だと切り捨てる。 かつての救済者は、今や自らの手で私を奈落の底へと突き落とした。 八年に及ぶ歳月が、音を立てて根こそぎ引き抜かれていく。 「……分かったわ」 私は短く答えた。 「聞き分けてくれて助かるよ。そうすればお前も苦労せずに済む。俺がずっと養って……」 淳弥の言葉が終わる前に、私は通話を切った。 席に戻ると、すぐに退職願を書き上げ、今日までの業務の引き継ぎ準備を終えた。 その夜はホテルに泊まり、翌日、退職の手続きのために出社したが、淳弥は不在だという。 昼時になると、同僚たちの視線がさらに痛々しいものに変わっていることに気づいた。 やがて私の元にも、社内で拡散されている写真が回ってきた。 淳弥と莉奈だった。 二人は肩を並べて立ち、あの城南寺の木の下で、敬虔に祈りを捧げている。その姿は、残酷なほどにお似合いだった。 社内はこの話題でもちきりになり、二人の関係を囁く噂が渦巻いた。 そこへ、再び淳弥から電話がかかってきた。 「夏希、まさか尾行して盗撮までしていたのか?俺はただ莉奈の付き添いで来ただけだ。彼女とは何もない。婚約者の立場は守ってやると言っているのに、一体何を騒いでいるんだ!」 相変わらずの決めつけと詰問。だが、もう反論する意欲さえ湧かなかった。 「淳弥、退職願をメールで送っておいたわ。それから婚約指輪も、あなたのデスクに置いてある」 「……夏希、どういう意味だ?」 「婚約は破棄。私たち、終わりよ」