Đang tải thông tin quảng bá...
雪に耐えて梅花麗し
出張を予定より早く切り上げた私は、ボーナスの大半をはたいて、妹の冬柴杏里(ふゆしば あんり)がずっと欲しがっていたカバンを買って帰った...
Chương (1)
第1章
出張を予定より早く切り上げた私は、ボーナスの大半をはたいて、妹の冬柴杏里(ふゆしば あんり)がずっと欲しがっていたカバンを買って帰った。
だが、ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、結婚後の新居となるはずの家で睦み合う、杏里と私の婚約者、富永純次(とみなが じゅんじ)の姿だ。
私は涙を浮かべながら、なぜこんなことをするのかと杏里に問い詰めた。
しかし、彼女には罪悪感の欠片もない。あるのは、邪魔されたことに対する明らかな不快感だけだ。
「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?この18年間、ずっと何もかも譲ってくれたじゃない。今回も少しくらい譲ってくれてもいいでしょ?」
純次は私から視線を逸らし、小声で彼女の調子に合わせた。
「つい、魔が差したんだ……杏里ちゃんは君の妹なんだから、今回ばかりは許してやってくれないか」
その瞬間、私の心は完全に凍りついた。
18年にわたる尽くしも、七年間の愛情も、泥のように踏みにじられたのだ。
私は涙を拭い、静かに書斎へ向かうと、二枚の書類を印刷した。一枚は不動産売却の委任状、もう一枚は絶縁状。
――許してほしい?あり得ない。
私はただ、あなたたちという汚れた存在を捨て去るだけだ。
第1話
出張を予定より早く切り上げた私は、ボーナスの大半をはたいて、妹の冬柴杏里(ふゆしば あんり)がずっと欲しがっていたカバンを買って帰った。
だが、ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、結婚後の新居となるはずの家で睦み合う、杏里と私の婚約者、富永純次(とみなが じゅんじ)の姿だ。
私は涙を浮かべながら、なぜこんなことをするのかと杏里に問い詰めた。
しかし、彼女には罪悪感の欠片もない。あるのは、邪魔されたことに対する明らかな不快感だけだ。
「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?この18年間、ずっと何もかも譲ってくれたじゃない。今回も少しくらい譲ってくれてもいいでしょ?」
純次は私から視線を逸らし、小声で彼女の調子に合わせた。
「つい、魔が差したんだ……杏里ちゃんは君の妹なんだから、今回ばかりは許してやってくれないか」
その瞬間、私の心は完全に凍りついた。
18年にわたる尽くしも、七年間の愛情も、泥のように踏みにじられたのだ。
私は涙を拭い、静かに書斎へ向かうと、二枚の書類を印刷した。一枚は不動産売却の委任状、もう一枚は絶縁状。
――許してほしい?あり得ない。
私はただ、あなたたちという汚れた存在を捨て去るだけだ。
プリンターから二枚の書類が印刷された直後、ドアの向こうから遠慮がちにノックの音が響いた。
「小梅……」純次の声がした。
私は動かず、返事もしなかった。
純次は直接ドアを開けて入る勇気がなく、ドア越しにぶつぶつと言い訳を並べ始めた。
「小梅、開けてくれ。ちゃんと話し合おう、な?俺が最低だったのは認める。どうかしてたんだ!でも、杏里ちゃんは君のたった一人の妹だろ?
君はいつだって心が広く、物分かりが良かったじゃないか。それに、姉なんだから妹に少しくらい譲ってやれないのか?本気で許さないなんて言って杏里ちゃんを追い詰め、もし彼女の身に何かあったら、君は寝覚めが悪くないのか?」
私は低く嘲笑った。胸の奥がどろりと塞がっているようだ。
――またこれか。いつだって同じ言い草だ。
「姉なんだから」
この言葉のせいで、私は生まれながらにして杏里に借りがあるかのように扱われてきた。
幼い頃から、良いものはすべて彼女に譲らなければならなかった。両親が生きていた頃は、おもちゃもお小遣いも、新しい服もそうだった。両親が亡くなった後は、成績の良かった私が自ら学業を諦め、必死に働いて彼女の学費を稼いだ。
――だが、もう限界だ。
あんな恩知らずな化け物を飼いならすために、これ以上自分の人生を捧げるつもりはない。
私は勢いよく立ち上がり、二枚の書類を握りしめた。
ドアを開け、この場で純次と決着をつけるつもりだ。だが、ドアノブに手をかけた瞬間――
二階から、杏里の憐れみを誘うかのような弱々しい声が降りてきた。
「純次さん、もうお姉ちゃんへの説得はやめて。そっとしておいてあげて。
お姉ちゃんは私が一番大切なんだから、本気で怒り続けたりしないよ。急にめまいがしてきたの。こっちに来て、付き添ってくれない?私、苦しくて……」
純次の足音には迷いがなかった。焦ったような返事を残し、彼は彼女のもとへ駆け出した。
「今行くから、待っててくれ!」
私の手はドアノブにかかったまま、動かずに止まっている。
伏せた視線の先には、二枚の薄い書類。
心は、完全に死んでしまった。
私はデスクに戻り、弁護士の武田広之(たけだ ひろゆき)に電話をかけた。
「武田先生、至急進めていただきたい件が二つあります。
一つ目。私が所有している西の町にある新居を急いで売却します。明日、仲介業者と委任状に署名する予定ですので、その後の手続きや金銭に関わるプロセスの立ち会いをお願いします。
二つ目。絶縁状を出したいのですが、どう進めるべきでしょうか」
広之は、私が送ったファイルをしばらく確認した後、答えた。
「冬柴様、絶縁状の内容に問題はございません。同時に、役所で分籍の手続きを行うこともお勧めいたします。妹様を冬柴様の戸籍から除籍することが可能です。分籍届を提出してから約一週間後に、新しい戸籍謄本を受け取ることができます。
一週間後には、妹様は赤の他人になります」
私はスマホを握りしめ、答えた。
「わかりました。その手続きもお願いします」
電話を切った後、窓の外に広がる深い夜空を見つめながら、私はゆっくりと溜まった毒を吐き出すかのように息をついた。
――あと一週間。一週間後、私は真に自分のために生きる。
第2話
翌朝、私は不動産仲介業者との打ち合わせのために外出の準備をした。階段を降りると、すでに純次と杏里が食卓についていた。
純次は私を見るなり立ち上がり、甲斐甲斐しくミルクの入ったグラスを私の前に差し出した。
「小梅、顔色が良くないぞ。まずはミルクを飲んで、落ち着きなさい」
私が断るよりも早く、隣にいる杏里がいつものように甘ったるい声で媚びを売った。
「お姉ちゃん、私もミルクが飲みたいわ。それ、譲ってくれない?」
彼女の手元に目をやると、すでに注がれたミルクが置かれていた。
彼女は上目遣いで私を見つめ、私が妥協するだろうと確信しているようだ。
「ダメよ」
杏里が聞き間違えないように、私は顔を上げて、もう一度繰り返した。
「ダメだと言ったの」
杏里は一瞬呆然とした。私が断るとは思っていなかったのだろう。すぐに口元を歪め、目を赤く腫らせて、まるで悲劇のヒロインのように振る舞い、今にも泣き出しそうな声で訴え始めた。
「お姉ちゃん、まだ許してくれないの?
私にとって世界で唯一の身内なのに、お姉ちゃんに怒られると、本当に悲しくなっちゃう……」
その見え透いた芝居が始まってから数秒。
隣にいる純次は、杏里の涙を見てたまらなくなったようだ。以前、争っている私たちを「仲直り」させた時と同じように、私の手からミルクを奪い取り、杏里に手渡した。場を収めるためという大義名分を掲げて。
そして、私をしつけるかのように付け加えた。
「杏里ちゃんが飲みたいなら、飲ませてやればいい。たかがミルクじゃないか。
小梅、君は姉なんだから、少しは譲ってやれないのか?」
杏里はミルクを受け取ると、指先で純次の手の甲をなぞった。彼女は顔を上げ、勝ち誇ったような挑発的な笑みを浮かべながら、ミルクを一口啜った。
私はもう、この二人と向き合う気力も起きない。
カバンを手に取ると、そのまま背を向けて家を出た。
対応してくれた仲介業者の担当者、斎藤凪(さいとう なぎ)は非常に手際がいい。物件の書類を確認すると、彼は名残惜しそうに私を説得してきた。
「冬柴様、この物件は立地も間取りも申し分ありません。
ただ、結婚後の新居用として購入され、内装も整えたばかりのようです。このタイミングでの売却は価格面でかなり損をしますが、もう一度ご検討されてはいかがでしょうか」
私は無表情のまま、最も説得力のある理由を告げた。
「再考の余地はありません。婚約者が私の妹と浮気をしたので、結婚はなくなりました。
ですから、この家は一刻も早く手放したいんです。相場より10%安くても構いません。現金一括での早期売却を希望します」
凪の営業スマイルが凍りついた。彼は気まずそうに、しかし真剣な表情で頷いた。
「承知いたしました。責任を持って、早速進めさせていただきます」
私は少し間を置いて、最も重要な条件を付け加えた。
「現在、その家には二人の人間が住んでいます。私は彼らと一切関わりたくありません。買い手との調整を含め、彼らを強制的に退去させる手続きについても、そちらで責任を持って行ってください」
凪はすぐに私の意図を察し、委任状への署名も速めに済ませた。
その直後、弁護士の広之からメッセージが届いた。
【冬柴様、本日、役所に分籍届を提出いたしました】
すべてが順調に進んでいる。
カフェを出た私は、そのまま会社へ向かい、長期休暇を申し込んだ。
ついでに航空券も手配した。自分をゆっくり休ませてあげるために。
だが、会社のロビーを出たところで、私を待ち伏せていた純次に呼び止められた。彼は私の手首を掴み、急かすように言った。
「早く、一緒に来てくれ!
母さんが急に来たんだ。今、家で待ってる。俺たちの結婚の話を進めるんだってさ」
第3話
純次に無理やり家へ連れ戻されたとき、彼の母・富永聡美(とみなが さとみ)は杏里の手を親しげに握り、熱心に話し込んでいる。
「杏里ちゃん、海外で大学院生をしてたなんて、きっと勉強ができるのね。
どっかの誰かさんとは大違いね。高校も卒業せずに働きに出たって聞いたわ。教養がないというか……純次も、どうしてあんな女を選んじゃったのかしら」
杏里は恥じらいながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべ、さらに火に油を注いだ。
「そんなふうにおっしゃらないでください。私が純次さんに出会うのが遅すぎただけなんです。そうでなければ、今ごろ私もお義母さんと呼んでいるはずなのに」
聡美はそれを聞いて高ぶり、惜しそうに自分の膝を叩いた。
「まあ、あなたも純次のことを……
ああ、本当にもったいない!妹のあなたが嫁に来てくれたら、どんなに良かったことか!」
玄関にいる純次はそれを聞いて、少し気まずそうな表情を浮かべたが、反論はしなかった。
ただ私に向けて、なだめるような視線を送るだけだ。
だが、私はすでに怒る気力さえ失っていた。無表情のまま中へ入った。
聡美は昔から私に冷たかった。初めて会ったときから、私の学歴が低いと言い放ち、博士号を持つ純次には不釣り合いだと毛嫌いしていた。昨年、私が会社の管理職になり、大学講師である純次を遥かに凌ぐ収入を得るようになって、ようやく目に見える嫌がらせが止まった程度だ。
そもそも、杏里の共通テストの点数は散々なものだった。あの海外留学も、私が必死に貯めたお金で箔を付けさせてやったに過ぎない。
純次がわざとらしく咳払いをすると、聡美はようやく顔を向け、入ってきた私を横目で見やり、相変わらず言葉遣いが悪い。
「あら、もう帰ってきたの?あなたもあなたよ。義理の母親が来るっていうのに、仕事だなんて。女というものはね、いくら稼いでも最後は家庭に入るものよ。もう遅いんだから、早く台所に行ってご飯の支度をしなさい」
その横柄な物言いに、私は無意識に純次を見た。
結婚したら絶対に台所仕事はさせないと、あれほど断言していたのは彼だった。
しかし、私が問いかける目線を向けると、純次は困ったような表情を浮かべた。庇ってくれるどころか、私の袖を引っ張り、声を潜めて急かしてきた。
「小梅、母さんがわざわざ来てくれたんだ。ここは折れて、母さんのためにご飯を作ってくれないか?
俺の顔に免じて、頼むから」
私は鼻で笑った。
――あなたの顔に免じて?今のあなたに、そんな資格があると思っているの?
私は冷たくその手を振り払い、聡美を冷ややかな目で見据えた。
「作りません。
ここは私の家です。作りたくない時は、作りません」
聡美の顔色が激変した。勢いよく立ち上がり、怒鳴り散らそうとした。
すると隣にいる杏里が、これ幸いとばかりに割って入った。
「富永さん、怒らないでください。
お姉ちゃんは昔からこういう性格なんです。へそを曲げると、実の妹の私だって放ったらかしにするんですよ。ちょうど良かったです。私、お料理は得意なんです!腕を振るわせてくださいね」
彼女は言い終えると、得意げに私をちらりと見た。
純次はそれを聞くや否や、何度も頷いた。その目には杏里への愛おしさが一層募っている。
「そうだね、母さん。怒る必要なんてない。杏里ちゃんの料理は絶品だから!」
そう言うと、彼は私に顔を向け、眉をひそめて明らかな嫌悪と非難を込めた声で荒げた。
「小梅、最近の君は目に余るぞ!
杏里ちゃんとのことは、俺が悪い。不満があるなら俺にぶつけろ。母さんに当たるな。姉なんだから、少しは分別を持て。杏里ちゃんを見習って、人としてのあり方を学んだらどうだ?」
私は怒りを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
カバンをソファに放り投げ、腕を組んで座り込んだ。普段は「指一本汚さない」お姫様生活を送っている杏里が、今日どんな料理を並べるのか見物だ。
杏里はしおらしくエプロンを締め、台所へと消えていった。
だが、十分も経たないうちに彼女はひょっこり顔を出し、リビングに向かって叫んだ。
「野口さん、中に入って手伝ってもらえませんか?ちょっと手が回らなくて」
家政婦の野口友香(のぐち ゆか)が応じようとした時、私は立ち上がって彼女を呼び止めた。含みを持たせて釘を刺した。
「行くのは構いませんが、自分の本分を忘れないでください。手伝いと言われたら、手伝いだけをすればいいんです。
毎月、誰があなたの給料を払っているのか、よく考えて動いてくださいね」
友香は察しのいい人だ。彼女は即座に頷いた。
「ええ、承知しております」
第4話
そう言い残し、友香は台所へ入っていった。
その後、台所からは杏里の不機嫌そうな叱りがかすかに聞こえてきたが、友香は黙々と作業を続け、時折曖昧な相槌を打つだけだ。
たっぷり二時間近くかかって、ようやく杏里が料理を運んできた。
正直なところ、見た目は悲惨だ。野菜は炒めすぎて黄色くなり、焼き魚は真っ黒に焦げて目玉だけが浮いている。肉料理は生っぽく白く、火が通っているのかさえ疑わしい。
だが、聡美は私に嫌がらせをするために、わざとらしく箸を動かし、杏里をしきりに褒め称えた。
「杏里ちゃんは本当に何でもできる女の子ね。どこかで不機嫌を撒き散らすだけの誰かさんより、何百倍も立派よ!
純次が杏里ちゃんと結婚できたら、それこそ最高の夫婦になるよ!」
純次も慌てて一口を口に運び、数回噛んだ。眉をひそめ、飲み込むのに苦労している様子だ。
味は明らかにひどいが、それでも彼は私に向かって厳しい表情を浮かべ、聡美に同調した。
「小梅、君も君だ。本当に杏里ちゃんから学んだほうがいい。これ以上わがままを通すなら、結婚式の延期も真剣に考えさせてもらう」
純次のその顔を見て、私は生まれて初めて心の底から嫌悪を覚えた。
これ以上付き合うのも馬鹿らしくなり、箸もつけずに二階へ上がって、デリバリーを頼んだ。
その夜、家は苦しげなうめき声に包まれた。聡美が急病を発症し、緊急搬送された結果、診断は食中毒。続いて純次と杏里にも嘔吐や下痢の症状が現れた。
騒がしくて眠れず、私が様子を見に降りていくと、顔色が真っ白な杏里が真っ先に純次の腕を掴み、泣き叫んだ。
「純次さん、お姉ちゃんよ!お姉ちゃんが野口さんに指図して、食材に細工をしたに違いないわ。じゃなきゃ、どうして私たち三人だけが当たって、お姉ちゃんは一口も食べなかったの?
私たちのことを恨んで、わざと復讐したのよ!」
正直なところ、純次とは長年の付き合いがあるので、彼がこんな馬鹿げた言いがかりを信じるとは思えない。
しかし、信じがたいことに純次はそれを鵜呑みにし、かすれた声で私を問い詰めた。
「冬柴小梅(ふゆしば こうめ)、君がやったのか?
たかが痴話喧嘩のために、こんな真似をするなんて。君の心は、どうしてそんなに醜いんだ!」
目の前の男を見て、私の心は氷のように冷たく凍りついた。
「純次、もしあなたに少しでも脳みそがあるなら……」
言い切る前に、感情を高ぶらせた杏里が飛びかかってきて、私の顔を引っ掻こうと手を伸ばした。
「黙れ!私たちをこんな目に遭わせておいて、まだ言い逃れする気?」
私は無意識に身をかわそうとした。
その様子を見て、杏里がやられると思った純次は、咄嗟に間に入った。彼は杏里を止めるどころか、思い切り手を伸ばし、私を突き飛ばしたのだ。
「彼女に触るな!」
純次は忘れている。私たちが立っているのが階段の吹き出し口であることを。
突き飛ばされた衝撃は凄まじく、無防備だった私は足を踏み外した。悲鳴は喉に詰まり、バランスを崩したまま階段を転げ落ちた。
頭と体が段差に激しく打ちつけられ、私は瞬時に意識を失った。
再び目を覚ましたのは、翌日の午後だ。
病室のベッドの脇には純次がいる。私が目を開けるとすぐに、彼は泣きそうな声で縋り付いてきた。
「小梅、目が覚めたんだ!
ごめん、俺が悪かった。あの時は焦ってて、わざとじゃなかったんだ……」
私は目を閉じ、彼の顔を見ることさえ拒んだ。
枕元のナースコールを押し、駆けつけた看護師に伝えた。
「すみませんが、この方を外に出してください。静かに休みたいんです」
純次は追い出された。
それから数日間、同じことが繰り返された。
彼は毎日現れ、罪悪感と悔しさを口にしたが、私は一言も返さなかった。後から杏里もやってきて、しぶしぶ「お姉ちゃん、ごめんね」と言った。
それも無視した。まるで何も聞こえていないかのように。
そして、退院の日。
ちょうど弁護士の広之から、新しい戸籍謄本を受け取ったとの連絡があった。仲介業者の担当者・凪からも、昨日物件の売却が成立したという嬉しい知らせが届いた。現在、スタッフたちが私の荷物をまとめるために向かっているところだという。
一人で退院手続きをすべて済ませ、私は空港へ向かおうとする。
出発の間際、私はあえて純次と杏里に【退院の迎えに来てほしい】とメッセージを送った。
しばらくすると、廊下から聞き慣れた足音が響いてきた。
純次の得意げな声が混ざっている。
「小梅は元々扱いやすい人だから、そんなに長く怒っていられないだろうと思ってた!」
続いて、杏里の相槌が聞こえた。
「そうよ、純次さん。お姉ちゃんが私を許さないわけないじゃない。この18年間だってそうだったでしょ。いつも口先だけで怒るけど、最後には妹の私を甘やかしてくれるんだから!」
二人は笑いながら、病室のドアを勢いよく開けた。しかし、病室はもぬけの殻だ。
ただ一人、スーツを着こなした広之がベッドの傍らに立っている。
純次の笑顔が凍りつき、無意識に杏里を背後に庇いながら尋ねた。
「君は誰だ?小梅はどこだ?」
広之は振り返ったが、その問いには答えなかった。
一歩前に出て弁護士バッジを指さし、事務的な口調で告げた。
「富永純次様、冬柴杏里様。私は小梅様の代理人を務めております、武田と申します」
そして、二枚の書類を彼らに突きつけた。
広之は純次に目を向けた。
「まず、小梅様が所有されている西の町の住宅は、昨日をもって売買契約が締結されました。現在お住まいの御二方には、本日中にご退去いただく必要があります。こちらが退去届です。お受け取りください」
そして、顔色が青白くなり始めた杏里の方へ向き直った。
「次に、杏里様。小梅様は本日、あなたとの姉妹関係を正式に解消されました。役所での分籍手続きも完了しております」
広之はアタッシェケースを閉じ、最後の仕上げをした。
「最後に、小梅様からの伝言です。『すべての関わりはこれでおしまい。今後の連絡はすべて私の弁護士を通すように』とのことです。
彼女は、あなたたちと二度と会うつもりはありません」