大晦日の夜、婚約者は私の秘書の彼氏になった

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大晦日の夜、婚約者は私の秘書の彼氏になった

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今日は大晦日。 大晦日の夜ぐらい、婚約者と二人で過ごしたかったので、私は早く帰って年越しの準備をするために、会社の皆には、3時間早く仕...

Chương (1)

第1章

今日は大晦日。 大晦日の夜ぐらい、婚約者と二人で過ごしたかったので、私は早く帰って年越しの準備をするために、会社の皆には、3時間早く仕事を切り上げてもらった。 帰り支度をしていると、秘書の長谷川雪(はせがわ ゆき)がにこにこしながら話しかけてきた。 「社長が残業しないなんて、珍しいですね。 私はてっきり、今日も会議があるかと思っていましたよ。だから、デートに行けないなあ、なんて」 コートを羽織りながら、私は揶揄うように尋ねる。「彼氏さんとデート?」 雪はぱっと目を輝かせて、こくこくと頷いた。 「はい!付き合い始めたばかりなんですけど、なんだかすごく運命を感じる人で!」 雪はそう言って携帯の画面を見せてきた。「この人なんです」 画面には、街灯に照らされた雪の上に、長く伸びる二人の影が映っていた。 男の人は優しく微笑みながら雪の髪にキスをしている。 しかし、その顔を見た瞬間、私の指先はすうっと冷たくなった。 これって私の婚約者では? 第1話 今日は大晦日。 大晦日の夜ぐらい、婚約者と二人で過ごしたかったので、私は早く帰って年越しの準備をするために、会社の皆には、3時間早く仕事を切り上げてもらった。 帰り支度をしていると、秘書の長谷川雪(はせがわ ゆき)がにこにこしながら話しかけてきた。 「社長が残業しないなんて、珍しいですね。 私はてっきり、今日も会議があるかと思っていましたよ。だから、デートに行けないなあ、なんて」 コートを羽織りながら、私は揶揄うように尋ねる。「彼氏さんとデート?」 雪はぱっと目を輝かせて、こくこくと頷いた。 「はい!付き合い始めたばかりなんですけど、なんだかすごく運命を感じる人で!」 雪はそう言って携帯の画面を見せてきた。「この人なんです」 画面には、街灯に照らされた雪の上に、長く伸びる二人の影が映っていた。 男の人は優しく微笑みながら雪の髪にキスをしている。 しかし、その顔を見た瞬間、私の指先はすうっと冷たくなった。 これって私の婚約者では? 私が何か言うより先に、雪の携帯が鳴った。 電話に出た雪の声は、とろける飴のように甘い。 「もしもし?もう下に着いたの? うん、分かった!すぐ行くね!」 電話を切ると、雪は私に手を振った。愛されている幸せいっぱいの笑顔で…… 「社長、彼氏が迎えに来てくれたので、お先に失礼しますね。社長も、婚約者の方と素敵な大晦日をお過ごし下さい!」 そう言うと、雪は嬉しそうに小鳥みたいにぴょんぴょんと跳ねながら、エレベーターへと向かっていった。 私の足は勝手に動いていた。 はっと我に返ったときには、もう雪の後を追って下りのエレベーターに乗り込んでいる。 心臓が胸の中で重たく脈打ち、その一回一回が、言いようのない不安を煽る。 覚悟はしていたはずなのに、遠くに見える慣れた姿を目にした途端、心がぎゅっと痛んだ。 やはりそれは和田弘樹(わだ ひろき)だった。 弘樹は会社の前の街灯の下に立っていた。その立ち姿は、いつも通り、すっと背筋が伸びていてとても綺麗だ。 肩に雪が舞い落ちる中、弘樹は雪を優しく見つめていて、その横顔は非常に穏やかだった。 あんなに優しい表情、私には一度も見せてくれたことがないのに。 そして弘樹はごく自然に腕を広げると、雪を抱きしめた。 彼女の髪を優しく撫で、目元を幸せそうに細める。 雪が何か言ったのだろう。弘樹は笑いながら首を横に振り、愛おしそうに雪の鼻をツンとつつくと、彼女が車に乗るのをエスコートした。 私は追いかけもしないし、声も出さない。ただ、その場に立ち尽くしていただけ。 冷気が足元からじわじわと這い上がってきて、体を凍りつかせる。 手がひどく震えていた。携帯を取り出そうとしたが、するりと手から滑り落ち、地面に叩きつけられた。 画面が上を向く。そこには、私が設定している待ち受け画面が表示された。 夕日を背景に、弘樹と私が手をつないでいる後ろ姿の写真。 あれは私がこっそり撮ったもので、弘樹の繋がれた手は少しこわばっていた。 ある記憶が、突然鮮明に蘇る。 3年前のある雨の日。残業でかなり遅くなった私は、おそるおそる弘樹に電話をかけた。「会社まで迎えに来てくれないかな?」と。 しかし、弘樹の声は不機嫌そのものだった。 「こっちも疲れてるんだ。自分でタクシー拾って帰ってくればいいだろ?いつまでも甘えるなよ」 それ以来、私は二度とそんなお願いはしなかった。 弘樹も、私の会社のことを聞いたり、「仕事は大変か」なんて心配してくれたりすることは、一度もなかった。 恋人同士みたいではなかった私たち二人。 私たちの関係は、ほとんど私一人の努力で成り立っていた。 弘樹と出会ったのは、大学の時。 彼はクールで、まるで学園の王子様みたいな人で、私は一目惚れだった。 2年間ずっと追いかけ続けた結果、ようやく彼が「試してみる?」と言ってくれたのだった。 しかし、条件が一つだけあった。 それは、私たちの関係を誰にも言わないこと。 その時の私は、弘樹がただ内気な性格なんだと、何の疑いもなく信じていた。 そして私がもっと頑張れば、いつか弘樹の心も溶かせるって思っていた。 いつか弘樹が喜んで私の手を取って、皆の前に連れて行ってくれるんだ、と。 しかし、弘樹は内気な性格などではなかった。ただ、相手が私ではなかっただけで。 冷たい涙がぽろりと頬を伝う。 私はしゃがみ込んで携帯を拾った。指先が触れた冷たい画面では、今でも二人の後ろ姿がぼんやりと幸せそうに光っている。 何かに憑かれたように、私はラインを開いた。トークリストの一番上は、今も弘樹だった。 最後の惨めな確認作業みたいに、私は一文字ずつ、メッセージを打ち込む。 【今夜は早く仕事が終わったから、一緒に年越しでもしないかな?】 どれくらい経っただろう。ようやく携帯が小さく震えた。 【残業するから。俺のことは待たなくていい】 たった二行の素っ気ない返信。 その短いメッセージを見ていたら、なんだか滑稽に思えてきた。 これまでの自分の幸せな勘違いも、こんなに惨めな今でも、まだ痛む自分の心も…… 足はもう、感覚がないくらいに痺れていた。 壁に手をついて、ゆっくりと立ち上がる。ガラスに映った私の影は、頼りないたった一人の孤独なもの。 …… 家に帰り着くと、ちょうど12時の鐘が鳴った。 窓の外で打ち上げられる花火が、リビングを照らす。 第2話 私は冷たい壁に背中を預けて、ずるずると床に座り込んだ。 暗闇の中、携帯の画面だけが、やけに眩しい。 自分を傷つけるだけだと分かっているのに、何度も雪のインスタを見に行ってしまう。 しかも雪のアイコンは、固く指を絡め合った二人の手に変わっていた。 男の人の人差し指には、白く薄い傷跡があった。 あれは大学2年の時、私に向かって飛んできたバスケットボールを、弘樹が躊躇わずに腕で庇ってくれた時、ゴールで切ってしまった傷跡だった。 心配で、私が絆創膏を貼ってあげたのだ。 弘樹は「かすり傷だから平気」って言っていた。 私はあの傷跡を、弘樹が私を愛してくれている証拠なんだと、勝手に思い込んでいた。 今思えばなんて皮肉なことなのだろう。 雪のインスタは、弘樹との幸せそうな毎日で埋め尽くされていた。 最初の投稿は交際宣言で、日付は6月3日。 私の心がずしりと重くなる。 その日は私の誕生日だった。 私は弘樹が好きだった、予約がなかなか取れないレストランを頑張って押さえた。 夕方からずっと弘樹を待っていると、彼は閉店間際やっと慌ててやってきた。 髪が少し乱れていて、会社で急な残業が入ったのだと言って。 私は怒るどころか、弘樹のことを大変だな、可哀想だなって心配していた。 あの夜、弘樹はひっきりなしに携帯の画面を気にしていて、私には分からないような笑みを浮かべていた。 何か面白いものでも見てるのかなと気になり、私は覗き込もうとした。 しかし弘樹は、さっと画面を消して、氷の刃みたいな鋭い目つきで私を睨んだ。 その声も氷のように冷たい。 「人の携帯を勝手に見るやつが、俺は一番嫌いなんだ。付き合ってるからって、何でもかんでも報告する義務はないだろ。分かるか?」 その時の私は言いたいことは全部喉の奥に詰めこみ、ただ「ごめん」と謝ることしかできなかった。 あの時弘樹があんなに嬉しそうにしてたのは、告白が成功したからだったのだ。しかも、それは私に向けてのものではなく、別の女性への…… だが、それならどうして、さっさと私と別れてくれなかったのだろう。 私は弘樹のことを愛してたのに…… 好きな人ができたと言ってくれさえすれば、私は絶対に引き下がった。 目尻から涙が伝う。 さらにスクロールすると、投稿は3ヶ月前のものになった。 3ヶ月前といえば、弘樹が2週間ほど出張に行っていて、しかも、その時は会社の都合で外部と連絡を取ってはいけないと言っていた。 私は彼の身を案じながらも、邪魔してはいけないと思い、連絡を控えていた。 しかし、雪のインスタには海に沈む夕日と、二人分のディナーの写真が投稿されていた。位置情報はあるリゾート地。 写真の中の弘樹は、とても穏やかな笑顔を浮かべている。それは私がずっと見ていなかった表情だった。 弘樹が出張から帰ってきた、あの夜のこと。 彼のシャツの襟元に、ショッキングピンクの口紅がべったりとついているのを見つけてしまった。 私はその証拠を握りしめ、震える指で「これ、何?」と尋ねた。 その時、私は弘樹に初めてあんなにも怒鳴られた。そして、弘樹はシャツを私から奪い取り、床に叩きつけたのだった。 「凪(なぎ)、お前、頭おかしいんじゃないのか? こんなくだらないことで俺を疑いやがって。そんなに俺を信用できないって言うんなら、いっそ別れよう」 「別れよう」という言葉が、まるで巨大な岩みたいに私にのしかかってきた。 一瞬でパニックになった私は、問い詰めたい気持ちを全部飲み込み、惨めにも弘樹にすがりついていた。 私が悪かった、考えすぎてただけなの、と。 私は自分にもそう言い聞かせた。そして自分の手で心の棘を深く押し込み、何でもないふりをした。 喉の奥がツンと痛んで、自分の心臓が砕ける音が聞こえるようだった。 どうしても諦めきれなくて、最後の望みをかけるように、私は弘樹に電話をかける。 しかし、2回コール鳴っただけで切られてしまった。 もう一度かけると、やっと繋がった。しかし、電話の向こうからは、ひどく苛立った声がする。 「何なんだよ?こっちは残業中だって言っただろ?しつこいぞ」 私は必死で涙をこらえて、声が普通に聞こえるように努めた。 「だいぶ経ったから、そろそろ帰ってくるのかなって思って……」 今、帰るって言ってくれさえすれば。この家に、帰ってきてくれさえすれば…… 今夜見たものなんて、全部知らないふりができるのに。 6年も付き合ってきた。 私の青春は全て弘樹に捧げてきたと言っても過言ではない。 だから、最後はちゃんとした結末を迎えたい。 それなのに電話の向こうから聞こえてきたのは、眠たそうな、それでいて甘ったるい女の声だった。 「弘樹、誰?こんな遅くに」 私の言葉は、喉の奥で凍りついた。 弘樹は雪の言葉には答えず、ただ私に「もうかけてくるな」と冷たく言い放ち、一方的に電話を切った。 ツーツーという無機質な音が、私の愚かさをあざ笑っているように響く。 ほとんどそれと同時に、雪のインスタが更新された。 弘樹が雪を抱きしめている写真。 【あなたと二人で毎日ごはんを食べて、季節を重ねていきたいな】 その投稿に、弘樹が「いいね」をしている。 私はその「いいね」をじっと見つめた。急に全身が冷たくなって、もう涙さえ出てこなかった。 これは一体どういうつもりなのだ? もうばれてもいいと言うことなのだろうか? 弘樹が何を考えているのか、私にはさっぱり分からなかった。 携帯を握る手はひどく震えているのに、弘樹を問い詰める勇気なんて私には全くない。 この6年間で、弘樹の前では、ちっぽけな存在でいることに慣れすぎてしまったのかもしれない。 裏切られたと分かっても、最初に感じたのは、弘樹に捨てられることへの恐怖だった。 第3話 でもまさか、心が壊れるより先に、本物の災難がやってくるなんて思いもしなかった。 私の住んでいるマンションで、突然火事が起きたのだ。 瞬く間に濃い煙が流れ込んできて、鼻をつく匂いに息が詰まる。我に返った私は、急いで逃げようとした。 口と鼻を押さえて階段へ向かったが、そこはもう火の海だった。燃え盛る炎から吹きつける熱波に、私は押し戻されてしまう。 部屋の隅に縮こまることしかできない。 濡らしたタオルで必死に口と鼻を押さえたが、恐怖で体は震えるばかり…… 濃い煙で視界はぼやけ、室温はどんどん上がっていく。意識が遠のき始めた。 もう、ここから出られないのかもしれない。 死の恐怖の中で、真っ先に頭に浮かんだのは、やはり弘樹の顔だった。 最後の力を振り絞り、私は弘樹の番号を呼び出す。 呼び出し音はいつまでも鳴り続けた。 しかし、相手が出る前に通話は切れてしまった。 それでもいい。 口の端をかすかに持ち上げる。私の意識は、そこで完全に煙に飲み込まれた。 次に目を開けた時、そこは病院だった。真っ白な天井と鼻をつく消毒液の匂いがする。 充血した弘樹の目の下には隈ができていた。 「やっと起きたか。大丈夫か?」 弘樹を見た瞬間、これまで抱えていた寂しさや不安が、一気に溢れ出す。 私は声は詰まらせ、夢中で彼の胸に飛び込んだ。 「弘樹!」 私が口を開きかけたその時、ドアの方からも声が聞こえた。 「社長?弘樹も?」 弘樹の体が一瞬にしてこわばる。 そして私が反応するより早く、躊躇うことなく私を突き放した。 弘樹はドアの向こうにいた雪に歩み寄ると、彼女の手を握った。 雪と二人で病室に入ってくる姿は、まるで絵に描いたようなお似合いのカップル。 そして今、弘樹が私に向ける視線には、さっきまでの心配そうな色はもうなかった。ただ、私を牽制するような強い光だけが宿っている。 この瞬間、もう痛まないと思っていたボロボロの心が、それでもやはり痛んだ。 雪はベッドのそばにやって来て、心配そうな顔をする。 「社長、大丈夫ですか?本当にびっくりしましたよ。 社長のマンションが火事だって聞いた弘樹が、私を引っ張って飛んできたんですよ。来るまでもすごく慌てていて」 その声は無邪気だが、言葉はナイフのように私の心を抉った。 口を開いても、苦い塊が喉につっかえて、声が出なかった。 雪は首をかしげて、私と弘樹の顔を交互に見る。 「社長のマンションが大変だって聞くやいなや、弘樹はベッドから飛び起きて……知らない人が見たら、社長が彼女なのかって思っちゃいますよね。 そういえば、さっきお二人は何をしていたんですか?」 その声には、明らかに私を探るような響きがあった。 弘樹はすぐさま、淀みない口調で話を合わせる。 「雪、誤解だよ。西村社長が、目を覚ましたばかりで動揺していたから、落ち着かせていたんだ。 俺の目にお前しか映ってないの、知ってるだろ?」 その言葉は一本の針のように、さっと私の心の奥深くを突き刺した。 大学の卒業パーティーでの出来事。 私は王様ゲームで「ここにいる異性とキスをする」という罰ゲームを引き当てた。 酔ったふりをした私は、一生分の勇気を振り絞って弘樹を見る。 それなのに弘樹は、視線をそらすと携帯をいじり始めた。 まるで私が、赤の他人であるかのように。 結局、親友が「代わりに私が飲むから」と、一気飲みをして助けてくれた。 その帰り道、弘樹は冷たく私の顎を掴んで、こう言った。 「凪、あんな小細工はやめろ。俺たちの関係が周りに知られたらどうするんだ?」 思い出と現実が重なり、指先が震えるほど体が冷えていく。 目の前で雪を甲斐甲斐しく世話する男。 やっと、私は自分の声を取り戻した。 「和田さんの言う通りだよ。目が覚めたばかりで、少し混乱してしまって」 雪はほっとしたように、ぱっと顔を輝かせた。 そして、彼女は甘えたように、弘樹の胸をぽんと叩く。 「それでこそ私の弘樹だよね。でも、本当にひどいんだから。社長が大変だって聞くやいなや、私を置き去りにして走って行っちゃうんだもの。知らない人が見たら、社長が本命の彼女かと思っちゃうよ?」 雪は拗ねたように弘樹を睨んだ。 弘樹も愛おしそうに雪の頭を撫でる。 「分かってるって。お前がいつも西村社長にはお世話になってるし、姉さんみたいなもんだって言ってただろ?だから、お前が悲しむんじゃないかと思って焦ったんだよ」 私の目の前でイチャつく二人の姿が、目に焼き付いて痛かった。 布団の下に隠した手を、手のひらに爪が食い込むほど強く握りしめる。その痛みだけが、私の最後の理性を保ってくれた。 その時、雪がふと不思議そうに口を開いた。 「社長。昨日、婚約者さんに会うからって早上がりしてませんでしたっけ?その婚約者さんは、来てないんですか?」 その言葉を最後に、病室は水を打ったように静まり返った。