10年という愛を、私は売った

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10年という愛を、私は売った

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私は学生の頃から付き合っていた久保直樹(くぼ なおき)と、卒業と同時に籍を入れた。 一から直樹が会社を立ち上げるのを、ずっと隣で支えて...

Chương (1)

第1章

私は学生の頃から付き合っていた久保直樹(くぼ なおき)と、卒業と同時に籍を入れた。 一から直樹が会社を立ち上げるのを、ずっと隣で支えてきた日々は、本当に大変だった。 私たちの子供が白血病にかかった時でさえ、お金が無かった私たちは、ただ見ていることしかできなかった。 それから5年後、私は再び新しい命を授かった。 その時には、直樹も若手実業家として成功していた。 人生これからだと思った矢先、あるメッセージが2通、私の元に届いた。【直樹さんのこと好きになっちゃった】 【いくら欲しい?直樹さんと別れてくれるなら、言い値で払うからさ】 メッセージの送り主は、山田家の甘やかされて育った娘、山田佳奈(やまだ かな)だった。パーティーで直樹に一目惚れしたらしい。 一晩考えた私は、翌日佳奈から送られてきた小切手に金額を書き込んだ。「10億円。これで私と直樹の10年を買い取ってください」 第1話 私は学生の頃から付き合っていた久保直樹(くぼ なおき)と、卒業と同時に籍を入れた。 一から直樹が会社を立ち上げるのを、ずっと隣で支えてきた日々は、本当に大変だった。 私たちの子供が白血病にかかった時でさえ、お金が無かった私たちは、ただ見ていることしかできなかった。 それから5年後、私は再び新しい命を授かった。 その時には、直樹も若手実業家として成功していた。 人生これからだと思った矢先、あるメッセージが2通、私の元に届いた。【直樹さんのこと好きになっちゃった】 【いくら欲しい?直樹さんと別れてくれるなら、言い値で払うからさ】 メッセージの送り主は、山田家の甘やかされて育った娘、山田佳奈(やまだ かな)だった。パーティーで直樹に一目惚れしたらしい。 一晩考えた私は、翌日佳奈から送られてきた小切手に金額を書き込んだ。「10億円。これで私と直樹の10年を買い取ってください」 …… 夜、直樹が帰ってきた。 彼はスーツの上着を私の目の前に放り投げる。「若葉(わかば)、これ洗濯しといて。明日も着るからさ」 私がスーツの内ポケットに手を入れた、そのときだった。 中からレースのセクシーなショーツが出てきた。 きつい香水の匂いを放つそれは、明らかに誰かが履いたものだった。 その瞬間、場の空気が凍りつく。 しかし、直樹の顔に焦った様子は全くない。 彼はなんてことないように言い訳を始める。「会社に新しく入った子なんだけど、まだ若くてさ。 悪ふざけが好きだから、俺のポケットに勝手に入れたんだろ。だから、気にするな」 その言葉を聞いた瞬間、私の目には一瞬で涙がたまった。 私はただ直樹を睨みつける。 17歳から27歳まで私が愛し続けた人。そして、私に「ずっと大事にする」と言ってくれた男。 その男が今、他の女のために平然と嘘をついていた。 「そうなんだ?」私は声を詰まらせる。「直樹、いつからそんな人になったの? ただの新入りが、あなた相手にそんなことできるなんてさ」 私の問い詰めるような言葉に、直樹は眉をひそめた。 その目には不満の色が浮かび、声のトーンも低くなる。「俺は外で必死に働いてるんだよ。それに、お前の不機嫌な顔を見るために帰ってきたわけでもない。 若葉。最近どうしたんだよ。もしかして、更年期にでもなったのか?」 もう我慢の限界だった私は、手元にあったコップを掴み、床に叩きつけた。 「まだしらを切るつもりなの?」とうとう涙がこぼれ落ちる。「あの山田家の女から、もう連絡があったの。 それとね、直樹……私、妊娠してるんだ」 そう告げて、私は目を閉じた。 脳裏に亡くなった1番目の子の顔が浮かぶ。 青白く痩せこけて、病室のベッドで泣く力もなかった、あの子の姿。 お金がなかったせいで、私たちは白血病がその子の命を少しずつ奪っていくのを、ただ見ていることしかできなかった。 あのどうしようもなかった絶望は、私と直樹が共有する心の傷だと思っていた。 それに、あのお産のせいで私の体は妊娠しにくくなってしまった…… それでも、私はこの数年間ずっと不妊治療を続けてきた。 あのときの無念をどうしても晴らしたかったから。 なのに、直樹の心が先に離れていってしまった。 そのとき、直樹の顔色がついに変わった。 一瞬動揺したようだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。 「若葉、怒らないで。本当に、お前を裏切るようなことは何もしていないんだ。 ただ、山田家はうちの会社の一番のスポンサーなんだよ。それに佳奈は昔から甘やかされて育ったから、ああいういたずらが好きみたいでさ。 安心して。明日、ちゃんと彼女に言っておくから。もう二度とこんなことはさせないよ」 そのとき、直樹の携帯が突然鳴り出した。 画面に表示されているのは佳奈の名前。 電話が繋がった瞬間、甘ったるい女の声が聞こえてくる。「直樹さん、会いたいな……」 直樹は慌てて電話を切ると、とぼけたように言った。「若葉、会社で急用ができたみたいで、ちょっと戻らないといけなくなった。 妊娠してるんだろ?ゆっくり休んでて」 そして、直樹は私の方を振り向きもせずに、足早に部屋を出ていってしまった。 ドアが閉まった瞬間、私はもう立っていられなかった。 ずっと溜め込んできた悲しさと悔しさが、一気に溢れ出す。 どれくらい泣いただろうか。私は、あの知らない番号から届いたメッセージを開く。 そして、その番号をもとにラインの友達申請を送った。 【山田さん。直樹の件で一度お会いしたいのですが、ご都合いかがでしょうか】 第2話 佳奈はすぐに私の友達申請を承認した。 【明日の夜8時。夜色レストランで】と、短いメッセージが届いた。 私は【わかりました】とだけ返す。 そして、佳奈のインスタを開いた。 佳奈は私を警戒していないようで、インスタには鍵がかかっていない。 というよりも、私のことなんてライバルだとも思っていないのだろう。 私は目を伏せ、佳奈のカメラの向こうで生き生きとしている直樹を見つめる。 もう何年もこんな直樹の姿は見ていない。 直樹は佳奈に子供みたいに笑いかけたり、心を込めてプレゼントを用意したりもしていた。 手作りの指輪までプレゼントしていて、そこには二人のイニシャルも刻まれている。 その瞬間、昔のことを思い出してしまった。 直樹と入籍した時、私たちには結婚式を挙げるお金もなかったので、ラーメン一杯を二人で分け合い、缶コーラを2本買った。 湯気の向こうで、直樹は缶のプルタブを私の指にはめる。「若葉。いつか必ず、本物の指輪を贈るから」 若い頃の直樹は無一文だったが、その瞳の真剣さはどんな宝石よりも輝いていた。 私はそれを信じた。 だからあのプルタブを2つ、10年もの間大切にしまっておいた。 その後、直樹の仕事はどんどん大きくなっていった。 しかし、指輪を買うという話を直樹の口から聞くことは二度と無かった。 私は自分自身に必死に言い聞かせた。 「直樹は忙しいだけ。心が私にあれば、それでいい」と。 しかし今、その幻想はすべて打ち砕かれた。 私は皮肉な笑みを浮かべる。直樹は全部分かっていたのだ。 私に対して、もう機嫌をとる必要がないということを。 携帯を閉じると、私は荷物をまとめ始めた。 直樹のものを全部まとめ終わった頃には、もう夜の11時になっていた。 【若葉、俺のことは待たなくていいから。先に寝てて】そんな彼から来たラインも無視をする。 私は佳奈に住所を聞いた。【直樹の荷物、全部あなたのところに送りますから】 すると、佳奈はとある高級住宅街の住所を送ってきた。 私は気持ちが暗くなる。 これほどの資産があれば、直樹も会社も10年は安泰だろうから、彼が断らないのも無理はない。 配送サービスに頼んで荷物を送った後、私は疲れ切ってベッドに倒れ込んだ。 その夜は一睡もできなかった。 翌朝、私は真っ赤に充血した目で、家を出ると病院へと向かった。「この子、いらなくなっちゃいました」 医師と私は面識があったし、この医師は私が不妊治療でどれだけ苦労したかも知っていた。 見るに見かねた医師は、私を説得する。「もう少し考えてみてください。この子を諦めたら、もう二度と産めなくなるかもしれないんですよ? あんなに子供を欲しがっていたのに、どうしてこんな簡単に諦められるんですか?」 私はお腹に手を当てる。やはり、まだ迷いを捨てきれない。 最後のチャンスをあげようと思った私は、直樹にラインを送った。 【山田さんと別れて。そうしてくれたら、何もなかったことにしてあげるから】 【私とお腹の子のために、山田さんを会社から追い出してよ】 しばらくして、返ってきたのはたった一言。【いい加減にしろ】 その瞬間、私の心はずしんと重く沈んでいった。 「先生、もういいんです。手術をお願いします」 …… 1時間後、私は病室のベッドに横たわっていた。 虚ろな目で天井を見つめる。 ごめんね、赤ちゃん。ママを恨まないで。ママもすっごく辛いの。 でも、愛してくれない父親のもとに、あなたを産むわけにはいかない。 だって、山田家にも佳奈にも、私は絶対に勝てないから…… 私は病院で夜まで休むと、タクシーを拾って約束の場所、夜色レストランへと向かった。 上座に座った佳奈は、私を上から下まで値踏みするように見つめてくる。「決まった?お金、いくら欲しいの? それにしても、案外聞き分けがいいんだね。自分で堕してくれるなんてさ。こっちの手間が省けたよ」 思ったとおりだ。佳奈は人を遣って、ずっと私を見張っていたのだ。 私は力なく笑う。「山田さん。あなたは若くて綺麗なのに、どうして直樹なんですか? 私と直樹が10年も一緒にいたこと知ってますか?」 「もちろん知ってるよ」佳奈は憐れむような目で言った。「あなたは直樹さんと共に苦労してきたんだろうけど、最後に彼の隣に立つのは、私だけだから。 直樹さんはうちの父が一番目をかけている期待の星だし、すごく私のタイプなんだもん。だから絶対に手に入れる」 そう言って佳奈は、白紙の小切手を私に滑らせる。 「好きに金額を書いて」 第3話 直樹とのこれまでの日々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。 最後に、私はペンを手に取り、小切手にサインをする。「10億円。これで直樹との10年間を買い取ってください。 3日後にお金を受け取ったら、私は東都を離れますから。あなたたちの前から、きっぱりと姿を消します」 私の言葉を聞いた佳奈は、軽蔑したような目を私に向ける。「10億だなんて、よくそんな大金を口にできたね。 結局、あなたもお金が大好きな女ってことね」 それでも、佳奈は結局そのお金を払ってくれた。 小切手を受け取ってレストランを出ると、外の夜風が冷たくて、全身が震えた。 だけど、私は無理にでも喜ぼうとした。 心の中で繰り返す。10年で10億なら、儲けものじゃないか、と。 なのに、どうしてだろう。涙が勝手にこぼれてくるのは…… 私は一歩、そしてまた一歩と家へ歩いた。 この東都の景色を目に焼き付けようと、名残惜しく見渡す。 10年も暮らしていたのだ。すっかり見慣れたものだった。 しかし3日後には、もうこの景色とも別れなければならない。 そう考えると、やはり少しだけ寂しい気持ちになる。 家に帰ると、珍しく直樹がいた。 彼は不機嫌な顔で言った。「若葉、俺の荷物はどこだ?俺を追い出そうとでも? 一体、何がしたいんだ?」 私は答えずに、離婚届を取り出す。 そして、直樹の目の前に置いた。「これにサインして。 それと、子供はもう堕したから。私たち、終わりにしようよ」 部屋の中が死んだように静まり返った。 直樹の目はどんどん赤くなり、信じられないという顔で私を見つめている。 「なんだって?子供を堕した……だと?」 次の瞬間、直樹は私の目の前まで駆け寄り、手を振り上げた。 そして、私の頬を思いきり平手で打った。 「若葉、なんで勝手に子供を堕したんだ?佳奈とは何もないって言っただろ? お前はなんて最低な女なんだよ!その上、俺と離婚までしようっていうのか?」 直樹の目が涙が光っている。 まるで、悪いのは私のほうだと言わんばかりに。 私は叩かれた衝撃で倒れ込み、痛みで顔が真っ青になった。 心の中では、ただ馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。 体の関係を持たなければ、何もなかったことになるとでも? 悔しさと怒りがこみ上げてきて、私は言い返した。 「もうあなたのことなんて愛してないからだよ、直樹。 山田さんから慰謝料としてもう10億円もらってるから。だから離婚しようよ。私たちは、これで終わり」 直樹は固く拳を握りしめ、私のそばにあったテーブルを力任せに殴りつけた。 その勢いで、手からは血が流だす。 長い沈黙の後、直樹がようやく口を開いた。「分かったよ。お前がそこまで言うなら、望み通りにしてやる」 直樹は離婚届にサインすると、ドアを叩きつけるようにして出て行った。 去っていく直樹の背中を見つめていると、私の目から光がすうっと消えていった。 同時に、下腹部の痛みがどんどんと激しくなっていく。 手で触れてみると、べったりと血がついていた。 パニックになりながらも、最後の力を振り絞って救急車を呼んだ。 そして、そのまま意識を失った。 次に目を覚ました時、私は病室のベッドの上にいた。 直樹は私に背を向けて、黙って煙草を吸っていた。 私が動いたのに気づいた直樹が、煙草の火を消す。 「若葉、何か食べたいものはある?」 直樹の目はもう落ち着きを取り戻していた。「買ってくからさ」 この男が何を考えているのか分からなかったので、私はただ黙って直樹を見つめる。 「佳奈とはもう終わったから」直樹は一方的に話し始めた。「だから、やり直そう。 俺はお前を傷つけた。お前は子供を堕した。これでお互い様だろ?」 前の私であれば、こんな言葉を聞いたら許してしまっていたかもしれない。 だが今は違う。私は病室の外に立っている人影に目をやった。 いつからそこにいたのか、佳奈が苦々しい顔でドアの前に立っている。 私は目を伏せた。「私にはもうあなたとやり直す気はないの。絶対に離婚する。 帰って。もう顔も見たくないから」 プライドが高い直樹は、滅多に自分から折れるようなことはしない。 これまでの喧嘩でも、いつも私から謝っていた。 そんな直樹だから、私の言葉に我慢の限界が来たようだ。「本気で言ってるのか?意地を張っている場合じゃないだろ。 これが最後のチャンスだ。さもなければ……」 直樹が言い終わる前に、佳奈がその言葉を遮った。 「直樹さん!」 佳奈はにこやかな顔をつくると、持ってきていた栄養のありそうな食事を私のテーブルに置いた。「若葉さん。これ、食べるでしょ?あなたの為に、わざわざ作ってきたんだもの」 第4話 「私のせいで二人が気まずくなっちゃったかなって思って。謝りたくて、わざわざ来たの」 佳奈はもともと、儚げで可憐な雰囲気の子だった。 そんな彼女がわざとしおらしく謝るので、直樹の口調も少しだけ和らぐ。「もういいよ、佳奈のせいじゃない。 若葉が自分でことを大きくしただけなんだからさ」 私は何も言い返さなかった。 私は黙って二人交わす視線を見ていた。そのやりとりだけで、二人の間にある特別な感情が伝わってくる。 直樹が狙っているのは、山田家の財産やコネだけでは無かったと、分かってしまった。 直樹は本気で佳奈に惹かれているらしい。 だって、あの優しい目は、直樹がまだ私のことを愛してくれていた頃に、見せてくれていた目だったから。 「若葉さん。ここ数日は私に看病させてもらえないかな?お詫びってことで」 そして、佳奈はそのまま病院に残ることになった。 だが、彼女に人の看病なんてできるわけがなかった。 私がアレルギーのある食材を使ったスープを3回も作ってきて、私は吐きすぎて倒れそうになった。 しかし、直樹は佳奈をかばった。「佳奈は何も知らないし、善意でやってくれたんだから、彼女を責めるなよ」 私は悔しさをこらえ頷くだけで、何も言わなかった。 明日になれば、退院できるのだから。 そうすれば、もうこんな辛い思いをしなくて済む。 夜、そろそろ寝ようかと思っていたら、突然変な物音が聞こえてきた。 目を開けると、なんと直樹と佳奈が隣のベッドでキスをしていたのだ。 「佳奈、やめろよ。もし若葉が起きちゃったらどうするんだ?」 「大丈夫だよ。若葉さんの食事に睡眠薬を混ぜておいたから……」 強烈な屈辱感が、私を飲み込んでいく。 しかし、私は一言も声を出すことができない。 ただ無理やり目を閉じて、物音を立てないように耐えるしかなかった。 二人はしばらくいちゃついた後、ようやく眠りについた。 翌朝早く、私は静かに起き上がると、一人で退院した。 荷物をまとめて、飛行機でこの街を離れようとしたその時だった。 突然、路上で車に行く手を阻まれた。数人の黒服の男たちに、無理やり車に引きずり込まれ、気づいたときには、崖のそばで縛られていた。 口にはボロ布まで詰め込まれている。 抵抗もできず、崖の外に吊るされるのをただ受け入れるしかない。 そして、私のすぐ近くには佳奈も縛られていた。 パニックになっている私とは対照的に、佳奈は落ち着いた顔をしている。 「まだ自分の気持ちに気づいていない直樹さんには、こうでもしないとあなたのことをきっぱり諦めてくれないから。 安心して。下にはセーフティネットが張ってあるから、本当に死ぬわけじゃない。 でも、これから先、あなたは『存在しない』ことになるの」 私はほっと息をついた。 私は大人しく、佳奈が考えた「二人のうち一人を選ぶ」という芝居に付き合うことにした。 直樹が駆けつけた時、彼はひどく慌てていた。 そして、直樹は躊躇うことなく、私のほうへ駆け寄ってきて、「俺は若葉を選ぶ!」と叫んだ。 その言葉を聞くと、犯人たちは佳奈を崖から突き落とすふりをした。 「それでいいんだな。こっちは全部録画してるから、これを山田社長に送ることになるんだぞ…… 自分の娘がお前のせいで死んだと知ったら、お前もお前の会社も、ただじゃ済まないだろうな?」 直樹は仕方なく考えを変え、まずは佳奈を助けることにした。 そして彼は犯人たちに懇願する。「身代金は十分に持ってきたんだ。だから、二人とも解放してくれないか? それか、もっと金が必要なのか?俺はいくらでも払うぞ」 だが次の瞬間、私を吊るしていたロープが切れた。 私はそのまま崖の下へ真っ逆さまに落ちていく。 直樹が血を吐くような叫び声をあげて、崖の縁に駆け寄ってくるのが見えた。「若葉!若葉!」 だが、私にはもう応える力は残っていなかった。 意識は再び、暗闇の中へと沈んでいく。 …… 今にも崖から飛び降りようとする直樹を、佳奈が必死で引き止めた。「全部嘘なの! これは私を追い出すために、若葉さんが仕組んだ罠なの。あなたの中には自分しかいないってこと、私に見せつけたかったんだよ」 犯人たちもやって来て証言する。「奥さんの言われた通り、下にはちゃんとセーフティネットを設置してあるから」 その証拠写真を見た直樹は、この話を信じてしまった。 彼の目は嫌悪感に満ち、冷たく言い放つ。 「俺は人に騙されるのが一番嫌いなんだ。若葉がこんなことをするなら、好きにさせておけ」 そう言うと、直樹は佳奈を連れてその場を去っていった。 そして部下全員に、「もう若葉の行方も生死も気にするな」と命じた。 「若葉に、自分のしたことをよく反省させろ。 3日以内に俺のところに謝りに来なければ、今度こそ本当に離婚だとな……」