妻のボロ家、愛人の豪邸

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妻のボロ家、愛人の豪邸

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【今月の管理費は3万円です。お支払いをお願いします】 食卓に置いてあった夫の加藤涼太(かとう りょうた)のスマホが光り、私はちらっと見て...

Chương (1)

第1章

【今月の管理費は3万円です。お支払いをお願いします】 食卓に置いてあった夫の加藤涼太(かとう りょうた)のスマホが光り、私はちらっと見て手に取った。 「管理会社が計算を間違えたんじゃない?うちの団地、管理費は月1万円くらいでしょ?」 涼太はさっと立ち上がると、スマホを奪い取ろうとした。 「きっと向こうの間違いだよ。俺から言っておくから」 でも、私はもうリンクを開いて詳細画面を見てしまっていた。 【物件名、夕凪の丘。所有者、菅原恵(すがわら めぐみ)】 今、台所で料理をしている若い家政婦の名前が、恵だった。 頭の中が、真っ白になった。 私たち家族3人は古くてせまい団地で暮らしているのに、夫の涼太はうちの若い家政婦に、豪邸を買ってあげていたなんて。 第1話 【今月の管理費は3万円です。お支払いをお願いします】 食卓に置いてあった夫の加藤涼太(かとう りょうた)のスマホが光り、私はちらっと見て手に取った。 「管理会社が計算を間違えたんじゃない?うちの団地、管理費は月1万円くらいでしょ?」 涼太はさっと立ち上がると、スマホを奪い取ろうとした。 「きっと向こうの間違いだよ。俺から言っておくから」 でも、私はもうリンクを開いて詳細画面を見てしまっていた。 【物件名、夕凪の丘。所有者、菅原恵(すがわら めぐみ)】 今、台所で料理をしている若い家政婦の名前が、恵だった。 頭の中が、真っ白になった。 私たち家族3人は古くてせまい団地で暮らしているのに、夫の涼太はうちの若い家政婦に、豪邸を買ってあげていたなんて。 涼太はスマホをひったくると、さっと画面をロックした。 私は彼の動きをじっと見つめ、冷たい声で言った。 「夕凪の丘の名義人は、恵さん。なのに、管理費の催促はあなたに来るのね。 どれから説明してくれるつもり?」 涼太はスマホを画面が下になるようにテーブルに置くと、水を一口飲んでから話し始めた。 「田舎の親戚が、家のことでちょっと特別な事情があってさ。それで菅原さんから名義を借りたんだよ。その親戚、最近海外に行ったから、俺が代わりに管理を頼まれてて」 「どの親戚?」 「お前は知らない人だよ。田舎の叔父」 涼太は、嘘をついている。 結婚して10年。涼太の親戚には全員会ったけど、そんな叔父はいなかった。 もっと問い詰めたかったのだが、涼太は困ったような顔で言った。 「まさか、俺が家を買って菅原さんにあげたなんて思ってないよな? 俺の給料、知ってるだろ?そんな大金があったら、とっくに都心に引っ越してるって」 涼太は平然とした様子で、話しながら息子の加藤充(かとう みつる)に味噌汁をよそってあげた。 台所の換気扇が止まり、恵が豚の角煮を運んできた。 「梓(あずさ)さん、お料理はこれで全部です、どうぞゆっくり。私は娘のことがあるので、先にお暇しますね。 食べ終わった食器は、台所に置いてくだされば大丈夫です。明日の朝、私が片付けますから」 恵はさっきのやり取りを知らない様子で、黙々とエプロンを外し、靴を履き替えて帰っていった。 その間、涼太とは一度も目を合わせなかった。 私を避けるようにして、豚の角煮をまっすぐ涼太の前に置いた。 これは恵の得意料理だ。 昔、十数人の家政婦と面接したが、涼太の好きな豚の角煮と、私と充の好きな肉じゃがの両方を作れたのは、恵だけだった。 恵は田舎の出身で、これといった学歴もなくて、私より4つ年下。それに、シングルマザーだと言っていた。 私は恵を気の毒に思った。それに、お給料も相場の半額でいいと言うので、迷わず雇うことにした。 この数年、私は恵を本当の妹のように思ってきた。いいものがあればおすそ分けし、充に何か買えば、恵の娘の分も用意してあげた。 それなのに今、恵の名前が300平米もある豪邸の権利書に載っているのだ。 雇い主である私たち家族は、古くて狭い部屋に住んでいるというのに。 「梓、食べないのか?冷めちゃうぞ」 涼太は豚の角煮をほおばりながら、私に声をかけた。 でも、テーブルを見渡すと、涼太の好きなものばかりが並んでいた。 私と充が好きな肉じゃがは、もう1年以上も食卓にのぼっていない。 その日の夕食は、まったく味がしなかった。 夜、私が充の宿題を見ている間に、涼太はお風呂に入った。 私はこっそり涼太のタブレットを見つけ、ラインのやり取りと支払い履歴を同期させた。 最新の履歴は、あの3万円の管理費の支払いだった。 その前にはこまごまとした支払いが続いていて、ほとんどが化粧品や子供のおもちゃ。 でも、そんな化粧品もおもちゃも見たことがない。それに、涼太の給料は全部私が管理しているのに、どうして口座に数千万円も残っているの? 履歴をさかのぼると、数日前に30万円の振込があった。しかも、毎月同じ額を、もう9年も送り続けているのだ。 受取人は、恵だった。 私は息をのんだ。自分の目を疑いながら、歯を食いしばって涼太の収入明細を開いた。 結婚2年目に息子が生まれると、涼太は「会社の業績が悪い」と言って、給料が手取りで20万円に減ったと私に告げた。 涼太は1円たりとも無駄遣いするなと私に言い続けた。新しい服は買えず、充の絵本は電子書籍。たまに肉を少し多めに買うだけで、嫌味を言われた。 私はそんな生活に耐えられなくなり、働きに出ることにした。 でも、私が働くとなると、充の面倒を見てくれる人が必要だった。 第2話 涼太の両親は都会暮らしが嫌いだと言うし、私の親が来たいと言っても、涼太は家が狭くて無理だって言った。 そのあと涼太が、昼間だけでも家政婦を頼んだらって。でも生活はこんなにカツカツなのに、雇うお金なんてあるわけないじゃない。 すると涼太は肩をすくめて、「じゃあお前が働きに出るのをやめて、専業主婦を続ければいい」って言った。 私は観念して、恵にお願いすることにした。 でも、お給料をあまり払えないので、充のお世話と昼ご飯と晩ご飯だけお願いして、朝ご飯と家事は私がやることにした。 今では、私の月収16万円のうち8万円は恵の給料、4万円は充の教育費。涼太がくれる20万円で家族の生活費をまかなっていて、裕福じゃないけど、なんとかやっていけてた…… 給料、100万円。 一瞬、なんだか頭がくらくらした。 涼太は毎月100万円も稼いでいるのに、私に渡すのはたったの20万円なんだ。 画面に通知がポップアップして、たった今、20万円の振り込みがあったことがわかった。 送り先は涼太の母親・加藤睦月(かとう むつき)。これも毎月のことで、もう9年も続けていた。 じゃあ涼太は毎月睦月に20万、恵に30万を渡して、自分は30万円のお小遣い。私にはたった20万円で、家族3人の生活をさせてたってこと? この家で、涼太にとって私と充は一番後回しだったっていうこと? 唇を噛みしめ、ほかの記録を探そうと画面を戻したとき、いくつかの最新チャットが目に入った。 【母さん、いつも通りお金は貯めといて。お正月に恵母娘にアクセサリーを買ってあげるから】 手が震え、タブレットをベッドの上に落としてしまった。 水の音がする洗面所に目をやると、すりガラスのドア越しに、涼太がうつむいてメッセージを送っているのが見えた。 心にあった最後の希望も、これで消え去った。 私は服のすそを、きつく、きつく握りしめた。 どうやら、あの夕凪の丘には行ってみなくちゃいけないみたい。 翌日、涼太はいつも通り、朝6時に仕事へ出かけていった。 涼太が出かけた後、私は充を友人にお願いして、一人で夕凪の丘へ向かった。 そこはお城のような豪邸だった。1階にはお庭、2階にテラス、3階にはサンルーム。おまけに地下室まであった。 夢にも見られないような、本当に素敵なおうちだった。 しばらくすると、ドアが開いた。 恵がおしゃれな服を着て、私立の小学校の制服を着た小さな女の子の手を引いている。 そして女の子のもう片方の手は涼太が握っていて、後ろにいる人たちに向かって手を振っていた。 「おじいちゃん、おばあちゃん、いってきまーす!」 涼太の両親がそばに駆け寄り、優しい顔で女の子の腕にお菓子を抱えさせていた。 とつぜん、息が詰まった。 充は今年9歳。でも、祖父母に会ったのは、たったの2回だけ。 「畑仕事が忙しいから」と言って、子育てを手伝いに来てくれることもなく、私たちが田舎に帰るのも断られた。 私は毎日ヘトヘトで、涼太に訴えたこともあった。でも、彼はこう言って私を説得するんだ。 「俺、親と仲が悪いんだ。もしこっちに来たら、絶対ケンカになるからさ」 でも、その仲が悪いと言っていた田舎のご両親は、こんな豪邸に住んで、よその子の祖父母をしていたなんて。 みんな、私をだましていたんだ。 少し向こうで、涼太が女の子に優しくシートベルトを着けさせ、車を発進させた。 私は、その場で身動きもせずに立っていた。やがて涼太が急ブレーキを踏み、怯えた目で私を見た。 「あ……梓、どうしてここに……」 涼太の両親と恵も固まって、どうすればいいか分からないという顔で涼太を見ていた。 涼太は車から降りると、焦ったように私のもとへ駆け寄ってきた。 「これがあなたの言う、仕事が忙しくて充の世話もできないって状況?」 「違うんだ、話を聞いてくれ!女手一つで大変だから、手伝ってくれって頼まれたんだ……」 「あなたのご両親もいるじゃない?どこが大変だっていうの?」 涼太は言葉に詰まった。 助手席から、女の子が叫んだ。 「パパ、学校に遅刻しちゃうよ!」 その場の空気が、しんと凍りついた。 恵が慌てて女の子の口をふさぎ、涼太の両親も悔しそうに足を踏みならした。 涼太の顔が、さっと青ざめた。 私は拳を握りしめた。手のひらがじっとりと汗ばんでいる。 「涼太、あなたは朝6時に出勤して夜8時に帰るって言ったわよね。だから充の世話は、ずっと私の役目だった。 それは、あなたの仕事が大変だと思って、私が気を遣っていたからよ。 まさかその大変さが、赤の他人のために向けられていたなんてね」 涼太は、慌てて首を横に振った。 「違う、誤解だ」 「誤解って?あなたの気持ちは、全部こっちの奥さんと娘さんにあるくせに」 私の声の温度が、すうっと下がっていった。 「私、自分の立ち位置を間違えてたみたい。私と充のほうが、他人だったのね」 第3話 涼太の背筋が凍りつき、顔からサッと血の気が引いた。 「俺の妻はお前だけだ。この子は……」 「この子が自分の娘じゃないなんて、よく言えるわね?涼太、私をずっと騙しておきながら、肝心な出生届の控えひとつ隠しきれないなんて!」 私がスマホの写真を突きつけると、涼太の息が乱れた。 【子の名前、加藤直美(かとう なおみ)。母、菅原恵。父、加藤涼太】 昨日の夜、涼太が寝てる間に、スマホもタブレットも全部くまなく探った。 この出生届の控えを見つけた時、思わず唇を強く噛みしめてた。そうでもしないと、衝動のままに涼太を刺してしまいそうだったから。 後ろで物音に気づいた恵が、涼太の両親に直美を部屋へ連れて行くよう頼んで、こちらへ歩いてきた。 恵はうつむいて、か細い声で言った。 「梓さん、涼太さんのことは怒らないでください……」 涼太はすぐさま恵の前に立ちはだかった。私が恵に何かすると思ったんだろう。 「先に中へ。俺が説明するから」 「だめよ。あなた一人に任せるわけにはいかないわ」 お互いをかばい合う二人を静かに見ていると、急に自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。 昨日の夜、あの管理費の通知が来るまでは、私たちは幸せな3人家族だと思ってた。 それなのに今日は、目の前で他人の夫婦が絆を確かめ合うところを見せつけられてる。 心の痛みはだんだん麻痺してきて、今はもう怒りしか残ってない。 「どこに帰るって?管理費だけで3万円もする、あなたたちの家に? 恵さん。あんないい家に住んでるくせに、わざわざうちに来て掃除して……『梓さん』なんて呼びながら、心の中では私のこと、見下してたんでしょね」 恵はさらに深々と頭を下げた。「そんなこと……」 涼太は眉をひそめた。 「梓、嫌味を言うのはやめろ。何かあるなら俺に言え。 とにかく家に帰ろう。二人になったらちゃんと説明するから」 怒りが一気に頭にきて、私は思わず涼太をひっぱたいていた。 「どの家に帰るの?100万の給料は全部こっちにつぎ込んでるんでしょ!ここがあなたの本当の家じゃないの?」 涼太は叩かれて呆然としていた。恵は悲鳴をあげ、心配そうに彼に駆け寄って頬に手を当てた。 でも、涼太は目を見開いて私を見ていた。 「知ってたのか……いや、違うんだ。俺は恵に申し訳なくて、あのお金は埋め合わせで……」 「じゃあ私には申し訳なくないわけ?」 涼太はゴクリと唾を飲み込んで言葉を失った。私は荒い息をつきながら尋ねる。 「あなたたち、いつから付き合ってるの?」 恵がもじもじと指をいじりながら涼太を見つめる。涼太はもうどうにでもなれ、とでも言うように話し始めた。 「お前と結婚する前だ。実家の親戚の紹介でお見合いして……」 「じゃあ、騙して結婚したってこと?」 「違う!結婚したときにはもう別れてたんだ。でも、そのあと恵がこっちに働きに出てきて……」 それからのことは、涼太は言いよどんだ。 あまりにみっともなくて、口にできないんだろう。 直美の誕生日から数ヶ月さかのぼると、ちょうど私のつわりがひどい時期だった。 あの頃、私はつわりで毎日トイレに駆け込んでは吐いてばかりいた。 なのに涼太は仕事が忙しいと言って、半年も長期出張に行った。 涼太が帰ってきた頃には、私はもう臨月だった。 出張じゃなかったんだ。 つわりで苦しむ私にうんざりして、お見合い相手とよりを戻すために逃げ出したんだ。 結婚して10年。夫は9年間、浮気していたことになる。 涼太が黙り込むと、今度は恵が勇気を振り絞って口を開いた。 「梓さん、涼太さんを責めないでください。私が無理に直美を産んだんです。涼太さんも、そんな私を哀れに思って、助けてくれてるだけで……」 呆れてものも言えない。 でも、笑えるはずもなかった。 「どこが可哀想なの? 私の夫の月収は100万。私に渡すのはたったの20万円。あなたには30万円。おまけにお母さんに20万円渡して化粧品や子供のおもちゃを買わせて、残りの30万円でブランド品まで買ってあげる。 それだけじゃない。あなたにこの家を買い与えて、娘さんを年間の学費が数百万もする私立に通わせてる。おまけに自分の両親まで呼び寄せて、あなたの子育てを手伝わせてるじゃない? それにひきかえ私は?ワンオペで子育てして、たった20万円で家族3人の生活を切り盛りしてる。私の稼いだお金の大半だって、あなたの給料になってるのよ。充を公立の小学校に通わせるのがやっとなのに。そんなことも知らず、バカみたいに愛人を家政婦として雇い入れて。 それで、可哀想って?本当に可哀想なのは、あなたと私のどっちだと思う?」 恵は目に涙をいっぱいためて、私の手首を掴んだ。 「申し訳ございません、梓さん。全部、私が悪いのです……」 気持ち悪くて腕を振り払おうとしたら、恵はよろけて、数歩あとずさり倒れそうになった。 涼太は慌てた。 彼は慌てて恵を抱きとめて支えると、怒りのこもった目で私を睨みつけた。 第4話 「危ないじゃないか! 恵は妊娠してるんだぞ!」 その瞬間、張りつめていた私の神経が、ぷつんと切れた。 私の知らないところで、二人目の子供まで作っていたなんて。 涼太は失言に気づいたのか、しゃくりあげて泣く恵を、そそくさと帰らせた。 そして、私には優しい声で話しかけてくる。 「梓、今回は俺が酔ってたんだ。恵をお前だと勘違いした。本当に悪かった」 私は黙ったまま、涼太を見つめた。 私の視線に、涼太は居心地が悪くなったみたい。もっと声をひそめて言った。 「本当に反省してる。恵には養育費を払って、きれいさっぱり縁を切るから。 これからは給料も全部お前に渡す。庭のある家が欲しいって言ってたろ?豪邸を買って、お前の名義にする。家族みんなでそこに引っ越そう……」 謝っているのは分かった。でも、ちっとも心に響かなかった。 私は涼太の目をじっと見つめる。 「涼太、私があなたを問い詰めてから、まだ1時間も経ってないのよ。 10年も私をだましてきた人が、たった1時間で反省して、きっぱり別れる決心なんてつくわけないじゃない? 私のこと、そんなにバカだと思ってるの?あなたを許して、また家でいいように使われるとでも?私たちのお金で、愛人と隠し子を養わせるつもり?」 涼太は顔を青くして、首を横に振った。 「お前をそんなふうに思ったことない。ただ、恵には申し訳ないから、償いがしたいだけで……」 「じゃあ、私と充には申し訳ないと思ってないの?」 「思ってるさ……」 「いまさら謝ったって遅いのよ。恵さんにお金や家を与え、あなたのご両親まで協力させていたくせに。私の給料の大半を持っていって、私と充に節約させてた時、どうして悪いなんて思わなかったの?」 私が問い詰めると、涼太はどんどん気まずそうな顔になった。そしてついに、焦ってとんでもないことを口走った。 「でも、お前にも生活費は渡してただろ!この数年、お前と充を路頭に迷わせたわけじゃない!」 まったく、よくもまあ開き直れたものだ。 ふっと嘲笑いがもれた。それを見て、涼太は慌てふためく。 「いや、そういう意味じゃなくて、梓、俺は……」 「その女に、ごちゃごちゃ言い訳するんじゃないよ!」 突然、涼太の母親の睦月が怒りに満ちた顔で駆け寄ってきた。 「何よ、偉そうに!涼太はずっとあなたと離婚したがってたのよ!あなたがしつこくまとわりついてるだけじゃない!」 「母さん!俺がいつ離婚したいなんて言ったんだよ!」 涼太は慌てて睦月の口をふさぐ、でも逆に怒られた。 「だから言ったでしょ、都会の女はろくなもんじゃないって!恵が身ごもった時に、さっさと離婚しなさいって何度も言ったのに!結局あなたは、梓が跡取りの男の子を産んだからって、息子が大きくなるまで待つなんて言い出して…… もう恵は二人目がお腹にいるのよ!一体いつまで待たせる気なの!」 私は、呆然と立ち尽くした。 さっき知ったのが全てだと思っていた。まさか、こんな裏側まであったなんて。 「涼太……私のこと、子供を産むための道具だとでも思ってたの?」 「違う!あとでちゃんと説明するから!母さんはでたらめ言うなよ!俺がずっと愛してるのは梓だけだ!離婚なんて考えたこともない!」 でも睦月は、もう止まらない。さらに声を張り上げて叫んだ。 「でたらめなのはあなたの方でしょ!本当に愛してるなら、梓が二人目を妊娠した時に薬なんか盛って、流産させるわけないじゃない!」 その瞬間、風さえも止まったような気がした。 数年前の妊娠を思い出す。わかってからまだ数週間だったのに、眠っている間に流産してしまった。 あの時は、仕事のしすぎだったんだって自分を責めた。何日も泣いて、心が壊れて、死ぬことまで考えたのに。 そんな時、涼太は恵に休みをとらせて、ずっとそばにいてくれた。包丁を握りしめる私を、後ろから抱きしめて止めてくれた。 そして、何度もこう言ってなだめてくれたんだ。「あの子とは縁がなかったんだよ。俺たちには息子がいるじゃないか」って。 それなのに、本当は。涼太自身が、私に二人目を産ませなかったなんて。 なのに今は、恵に二人目を産ませて、私が傷つけやしないかと必死に彼女をかばっている。 私が産んだ最初の子が男の子だったから、涼太は離婚をためらった。 一方、恵が産んだのは女の子だったけど、涼太は彼女を甘やかし、お金を渡して面倒を見ていた。 私のこの10年は、なんて滑稽な笑い話だったんだろう。 「涼太」 必死で睦月を引き離そうとしていた涼太が、はっと動きを止めた。その顔が、みるみるうちに焦りで歪んでいく。 「お望み通り、離婚しよう。 でも、充は私が引き取る。家の財産も、あなたには一円だって渡さないから!」