通りすがりのさよなら

Đang tải thông tin quảng bá...

通りすがりのさよなら

GoodNovel Hoàn thành

小山湊(こやま みなと)の車の後部座席に、白いストッキングが落ちていた。それは、彼の部下の陣内直美(じんない なおみ)のものだと、すぐに...

Chương (1)

第1章

小山湊(こやま みなと)の車の後部座席に、白いストッキングが落ちていた。それは、彼の部下の陣内直美(じんない なおみ)のものだと、すぐにわかった。 湊がバックミラー越しに、ちらりと私のことを見た。 「昨日はどしゃ降りだっただろ。残業してた部下を二人、家まで送ったんだ。二人とも全身ずぶぬれで、だから……」 「信じてるよ」 私は湊の言葉をさえぎった。 この色のストッキングは、直美のお気に入りだ。 直美と湊があまりに親密なせいで、私はこれまで何度も泣いて、ケンカをくり返してきた。ついには、「死ぬ」とまで言って、彼を追い詰めたこともある。 最終的に湊が折れてくれて、両家の親の前で誓ったのだ。もう二度と、直美とは個人的に会わない、と。 第1話 小山湊(こやま みなと)の車の後部座席に、白いストッキングが落ちていた。それは、彼の部下の陣内直美(じんない なおみ)のものだと、すぐにわかった。 湊がバックミラー越しに、ちらりと私のことを見た。 「昨日はどしゃ降りだっただろ。残業してた部下を二人、家まで送ったんだ。二人とも全身ずぶぬれで、だから……」 「信じてるよ」 私は湊の言葉をさえぎった。 この色のストッキングは、直美のお気に入りだ。 直美と湊があまりに親密なせいで、私はこれまで何度も泣いて、ケンカをくり返してきた。ついには、「死ぬ」とまで言って、彼を追い詰めたこともある。 最終的に湊が折れてくれて、両家の親の前で誓ったのだ。もう二度と、直美とは個人的に会わない、と。 私は窓の外に目を向けた。でも、湊がバックミラー越しに、何度も私の反応をうかがっているのが分かった。 しばらくして、彼がおそるおそる口を開く。 「本当に、大丈夫か?」 この人にもう少しだけ気にかけてほしくて、昔はあんなに頑張ったのに。 でも今は、彼のうわべだけの心配が、馬鹿らしくて仕方がなかった。 …… 私は静かに首を横に振って、そっと目を閉じた。 車がゆっくりと止まると、湊は我慢できないといった様子で振り返った。その瞳には、私の知らない感情が浮かんでいる。 「どうして何も聞かないんだ?」 私は彼に視線を上げた。 「信じてほしいって、いつも言ってたのはあなたでしょ?」 湊は眉をひそめ、疲れたような声で言った。 「昨日送ったのは直美だけじゃない。それにすごい豪雨だったんだぞ。女の子二人だったんだし、少しは……」 彼はそこまでしか言わなかった。でも、自分の立場を理解してほしい、と言いたいのは分かっている。 「直美とは、もうできるだけ距離を置いてる。 仕事の話以外では、ほとんど関わりはないんだ。知ってるだろ、直美のお父さんは、うちの会社の大事な取引先なんだ。 だから、関係をこじらせるわけにもいかないんだよ」 湊の呆れたような声に、私は思わずフッと笑ってしまった。 「分かるわよ。早くそのストッキング、彼女に返してあげたら?そうしないと、あの親子は心配するんじゃない?」 湊の顔がこわばった。直美は以前、彼女の父親・陣内暁(じんない あきら)を口実に、湊を深夜に呼び出したことがあった。 その時、直美は大事な企画書を間違えて湊のカバンに入れてしまったらしく、夜中に泣きながら電話をかけてきたそうだ。「父が急いで見たいそうですので、家まで届けていただけませんか」と。 不思議なことに、湊が帰ってきた時、なぜか服がびしょ濡れだった。 それについて彼は、直美の家の水道管が壊れたから、ついでに直してあげただけだと、あっさり言った。 私は胸の不安を必死に抑えつけて、湊のすることは全部仕事のためなんだと、自分に言い聞かせた。 でもその数日後、湊がお風呂に入っている時、彼のスマホに直美からのメッセージが届いたのが、偶然見えてしまった。 【社長、この間はプールに飛び込んで助けてくれてありがとうございました。でも私、ほんとは泳ぐの得意なんですよ。あの日はたまたま足がつっちゃっただけです。見くびらないでくださいね】 次のメッセージは、セクシーな水着姿の直美が、プールで楽しそうに泳いでいる動画だった。 私は怒りで全身が震えた。そしてその時、初めて直美のことで湊と激しく言い争った。 湊は私の向かいに座り、ヒステリックに叫びた。 「優香(ゆうか)!俺やまわりの人間が、お前みたいに恋愛のことしか頭にないと思うな! 直美は有名大学を出てて、仕事もできるし、気も利く。見ている世界が、お前とは違うんだ!」 私はまるで氷水に突き落とされたかのようだった。湊はもう、一言も説明しようとしなかった。 はっと我に返ると、湊が運転席から出て、私の隣に座っていた。 彼は私の手を握った。その声は少し震えていて、どこか期待しているようでもある。 「優香、覚えてるか?今日が、俺の誕生日だってこと」 第2話 正直、スマホのリマインダーが鳴らなかったら、すっかり忘れてた。 湊は支社長になってから、毎年、誕生日はほとんど会社で過ごしてた。 去年の今日のこと。私は張り切ってキャンドルディナーを用意したけど、湊には何度電話してもつながらなかった。 いてもたってもいられなくて会社まで探しに行ったら、ちょうど直美たちが、湊の誕生日を祝っているところだった。 直美は、わざわざ選んだっていうネクタイを湊にプレゼントしてた。親しそうに結んであげようとして、湊もされるがままに屈んでた。 オフィスの中は和やかで、テーブルには食べかけの料理が並んでいる。そんな光景をドアの外から見てる自分が、なんだかすごく惨めだった。 それで湊と大喧嘩になった。結局、彼は家に帰らずに会社に泊まった。 そんなことを思い出して、私はわざと素っ気なく言った。 「覚えてない」 湊は何か言いたそうに私を引き留めようとしたけど、それを振り切って、先に車を降りて家に入った。 その夜中、階下から聞こえる物音で目が覚めた。そっと部屋のドアを開けると、直美のすすり泣く声が聞こえてきた。 「社長、どうしてずっと私を避けてるんですか? もし、奥さんが……私のことを誤解してるなら、私、ちゃんと説明しますから! それとも……最近、父の会社からの発注が少ないからですか?だとしたら、私が父に言ってきます!ちゃんと言いますから!」 湊の声は、どこか直美をいたわるような響きがあった。 「そんなことないよ、直美。お前はよくやってくれてる」 「じゃあ、どうして……どうしてわざと私と距離を置くんですか?直々に指導してくれたプロジェクトまで、他の人に任せたりして……」 湊の返事が聞こえなかったので、私は気になって階段を少しだけ降りてみた。 すると、直美が湊の胸に顔をうずめて、悲しそうに泣いているのが見えた。 湊と目が合った瞬間、彼はやましいことでもあるみたいに、慌てて直美を突き放した。直美も、急いで手の甲で涙をぬぐっていた。 「優香、違うんだ!お前が思ってるようなことは何もない!彼女とは何でもないんだ……」 私は顔色一つ変えずにくるっと背を向けて、階段を上がろうとした。 「信じてるよ。私は部屋に戻るから、お二人でごゆっくり」 私の意外な反応に、直美は信じられないって顔で湊を振り返った。 私はそのまま部屋に戻った。でも、すぐにドアをノックする音がした。 「優香、ちょっと話そう」 湊の声は、なんだか疲れて聞こえた。ドアは開けたけど、部屋には入れなかった。 「話って何?ここで聞くよ」 湊は一瞬きょとんとして、驚いた目で私を見た。 「陣内さんのことなら、話す必要はないと思うけど。 わかるよ。大事な取引先の娘さんなんでしょ。それに、仕事のできる部下でもあるんだから、他の人より気にかけるのは当然じゃない」 湊は私の顔をじっと見つめてた。私の本心を探ろうとしてるみたいだったけど、無駄だったみたい。 そのとき、電話の着信音が鳴って、気まずい沈黙が破られた。湊のスマホの画面をのぞき込むと、相手は直美だった。 私が部屋に戻ろうとすると、湊は腕をつかんで引き止めて、スピーカーモードにして電話に出た。 「社……社長、家の近くにいるんですけど、誰かにつけられてるみたいで……お願い、来てもらえませんか……」 直美の声は必死で、すごく怯えているのが伝わってきた。 「落ち着いて。警察には電話した?すぐにお前のお父さんに連絡するから」 電話を切ると、湊はすぐに暁に電話して、事情を簡単に説明した。 「あなたが行ってあげなくていいの?」 「いや、いいんだ。あの子のお父さんがなんとかしてくれるだろ」 私は小さくうなずくと、ドアを閉めて部屋に戻った。 しばらくして、外で車のエンジンがかかる音がした。やっぱり、湊は直美のところへ行ったんだ。 第3話 二階の窓からカーテンを開けて、黒いベンツが夜の闇に走り去っていくのを見つめてた。 湊の心の中では、やっぱり直美はまだ特別な存在なんだ。 私と湊の出会いは、ある商談の場だった。二人の会社はライバル関係だったのに、私は彼のことがすごく気になってしまったんだ。 そのころの湊はまだ普通の社員だった。でも、私は彼と付き合いたくて、会社のルールを破ってまでアプローチした。そのせいで、会社をクビになっちゃったけど。 それでも結婚してからは、私たちの関係はずっと順調だった。 それに、湊も持ち前の人当たりの良さと努力で、どんどん出世して支社の社長にまでなったんだ。 会長にもすごく気に入られていて、湊の毎日は仕事でいっぱいいっぱいだった。 私は、彼を支える良い妻でいようって決めてた。外で一生懸命働くのがどれだけ大変か、分かっていたから。 だから、湊が忙しくて記念日を忘れちゃっても、病院に付き添ってくれる時間がなくても、私はなるべく文句を言わないようにしてた。 でも、直美が現れて、すべてが変わってしまった。 湊は胃が弱かったから、私はよく彼の職場にお弁当を届けていた。そこで、直美と湊がやけに親しげに話していることに気づいた。 直美は見た目も綺麗で、話し方もすごく感じがいい人だった。 仕事にはすごく真面目な湊なのに、直美だけは特別。彼女が仕事の報告をするときに、プライベートな雑談を長々としても許していた。 だからある晩、湊が直美に資料を届けるって言い出したとき、私たちは激しい言い争いになった。 湊は、「お前はそんなことばっかり考えてる」って呆れてた。直美は仕事のできる人で、私とは違うんだって。 それから、私たちは同じことで何度も喧嘩を繰り返した。そうするうちに、二人の間の溝はどんどん深くなっていったんだ。 あの頃の、湊に対する私の愛情は、だんだんとおかしな方向に向かっていった。彼を束縛したいっていう、狂った独占欲になっていたんだ。 湊のスマホにこっそり位置情報アプリを入れて、夜中に寝ている彼のメッセージを盗み見るようになった。 少しでも湊と連絡がつかないと、すぐに直美と浮気してるんじゃないかって疑ってしまう。 ある時、位置情報アプリに表示された湊の現在地は、ホテルだった。 私は気が狂ったみたいに何度も電話をかけ続けた。そしたら、ついに彼のスマホの電源が切られた。 家を飛び出してホテルに行こうとした、ちょうどその時。突然、直美から電話があった。 「私は今、社長と二人きりでホテルにいるんです。ちょっと立て込んでるんで、終わったら彼から電話させますね。 余計なお世話かもしれませんけど、そんな風に時と場所を考えずに電話ばっかりしてたら、どんな男の人だって嫌になりますよ?」 電話の向こうの声は、ねっとりとした嫌味な口調だった。わざと「二人きり」って言葉を強調して。 今までずっと溜め込んできた怒りが、一気に爆発した。私は我慢できなくて、直美にメッセージでひどい言葉をたくさん送ってしまった。 まさか、そのやり取りが直美に利用されるなんて。彼女は私が送ったメッセージを湊に見せて、涙ながらに私がいかにひどい人間かを訴えた。 そして、帰ってきた湊と、また大喧嘩になった。 「優香!お前が俺のスマホに位置情報アプリを入れてること、気づいてないとでも思ったか!俺は何もやましいことなんてない!好きに調べろよ! だけど、直美のような何も悪くない若い子に、どうしてあんなひどいことが言えるんだ? 直美が物分りのいい子で助かったよ。もし彼女が、お前が送ったメッセージを会社の誰かに見せでもしたら、俺たちがどんな噂をされるか分かってるのか!」 湊は私の言い分をまったく聞こうとしなかった。すべては、私の神経質な独占欲が原因だって決めつけた。 感情が激しく高ぶって、私はそのまま意識を失ってしまった。 次に目が覚めたとき、私は病院のベッドにいた。そこで、医師の口から告げられたのは、すでに妊娠一ヶ月を過ぎているという事実だった。 でも、とても不幸なことに、その赤ちゃんは結局、助からなかった。 第4話 次の日、湊の姿は見えなかった。 聞いた話では、直美は誰かにつけられているのに気づいて、すごく緊張して足をひねってしまったらしい。それで湊に病院へ運ばれたとか。 たいしたことはなかったみたいだけど、湊はほとんど毎日、直美のところへお見舞いに行った。 しかも、普段は家事なんて一切しない彼が、直美のために自分で料理までするようになった。 私はそんな様子を静かに見ていたが、心にはもう何の感情もわかなかった。 そんなある晩、湊が珍しく早く帰ってきて、私の部屋のドアをノックした。 彼は私を見て、少し目をそらした。 「直美のことだけど、うちから帰ったあとでケガをしたんだし、会社としてもお見舞いしないと……」 私は湊の言葉をさえぎった。 「わかってるわ。あなたもここ数日大変だったでしょ。早く休んで」 そう言ってドアを閉めようとした。でも湊は、ついに我慢できなくなったみたいに、ドアをぐっと押さえてきた。 「優香!いつまでそんな態度を続けるつもりだ!」 私はため息をひとつ吐いた。 「私が何をしたっていうの?あなたのこと、ちゃんと信じてるじゃない」 湊は一瞬言葉につまって、ためらいがちに言った。 「お前は……まだ、子どものことで俺を責めてるのか?」 私は冷たく笑った。 「じゃあ聞くけど、私があなたを責めちゃいけないっていうの?」 あの日、湊とケンカしたあと、急にお腹がものすごく痛くなった。だからすぐに彼に電話して、病院に連れて行ってほしいって頼んだ。 でも湊は、私の話を最後まで聞こうともしないで電話を切った。直美を家まで送っていかないと、って急いでいた。 それで、私がひとりで痛みをこらえながら救急車を呼んで、病院に運ばれたときには、もう手遅れだった。 医師は、ため息をつきながら私と湊にこう言った。 「あと数分でも早く来ていれば……はぁ……」 湊は私のベッドのそばで震えながらひざまずいた。そして何度も自分の顔を叩いて、許してくれって泣きついた。 その日から、湊は直美とわざと距離を置くようになった。 それどころか、自分からスケジュールを報告してきたり、誰と一緒にいるかまで教えたりするようになった。 でも私の心の中には、もうひとつの思いしかなかった。湊と別れて、この家を出ていこう、と。 私は海外行きの飛行機のチケットを買った。 私が出発する日、湊のいる支社は大きなプロジェクトを成功させて、本社で表彰されることになっていた。 一方、私はひとりでタクシーを呼んで、空港へ向かった。 飛行機に乗る直前、湊から電話がかかってきた。 しばらく迷ったが、結局電話に出た。 電話の向こうは、どうやらお祝いのパーティーをやっているみたいで、とてもにぎやかだった。 声はとぎれとぎれだったが、湊は昇進した喜びを伝えたかったようだ。 そこへ、タイミングよく直美の声が割り込んできた。 「社長、本当にすごいですね!尊敬しちゃいます。お祝いに一杯、私に注がせてくださいよ」 直美の声は、いかにも若い女の子っていう感じの、甘えた声だった。 何も言わず、私は電話を切った。本当は、湊とちゃんとお別れを言おうと思っていた。でも、もうその必要はなさそうだ。 私はわざと、離婚協議書を湊の会社のオフィスに直接送りつけた。