最後の離婚。また復縁できると信じる妻へ

Đang tải thông tin quảng bá...

最後の離婚。また復縁できると信じる妻へ

GoodNovel Hoàn thành

俺は同じ女性と、7回も結婚した。 そして彼女も、忘れられない「あの人」のために、俺と7回離婚した。 最初の結婚のとき、新井楓(あらい かえ...

Chương (1)

第1章

俺は同じ女性と、7回も結婚した。 そして彼女も、忘れられない「あの人」のために、俺と7回離婚した。 最初の結婚のとき、新井楓(あらい かえで)はこう言ったんだ。「これからの人生、愛するのはあなただけ」って。 でも、松井克哉(まつい かつや)が帰国するたびに、楓は口ぶりを変えるんだ。「少しは物分かりよくしてよ。このままじゃ、克哉が人妻に手を出したって言われちゃうでしょ?」 最初の離婚のとき、俺は楓を引き留めたくて、手首を切った。救急車で病院に運ばれたけど、楓が見舞いに来てくれることはなかった。 3回目の離婚のとき、俺は楓の顔を少しでも見たくて、プライドを捨てて彼女の会社の秘書に応募した。 6回目の離婚のころには、もうすっかり慣れてしまっていた。俺は自分からおとなしく荷物をまとめ、ふたりの家から出ていった。 俺が感情的になっても、何度折れても、結局は同じことの繰り返し。楓は決まった時期に戻ってきて、そしてまた同じように俺を捨てるんだ。 だけど今回は、俺から動いた。克哉がもうすぐ帰国するという知らせを受けて、俺は自分から離婚届を差し出したんだ。 楓はいつもみたいに、また戻ってくる約束をした。でも、彼女は知らない。今度こそ、俺が完全にいなくなるってことを。 第1話 「克哉が帰国して来たの。離婚しよう」 俺は無表情のまま、すでにサインした離婚届を新井楓(あらい かえで)の手もとに差し出した。 楓は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに気を取り直すと、手慣れた様子で離婚届に自分の名前をサインした。 そして、これまでの6回とまったく同じように、いつもの約束を口にした。 「1か月して克哉が向こうへ戻ったら、また籍を入れ直すから」 以前の俺だったら、その言葉だけじゃ安心できなかった。きっと楓に誓約書でも書かせていたはずだ。 でも、今回は不思議と心が凪いでいた。だから、返事をする気にもならなかったんだ。 「達也(たつや)。ねぇ、聞いてるの?」 楓は眉をひそめた。俺が黙っているのが、よほど不満らしい。 俺はしかたなく、こくりと頷いた。 「ああ」 でも、手は止めない。服を一枚ずつたたんでは、スーツケースに詰めていく。 楓は、復縁すると言ったら必ずその通りにする。 彼女が約束を破らないのは、仕事関係者のあいだでも有名な話で、そこに疑いの余地はない。 もっとも、俺たちは夫婦というより、ビジネスパートナーに近かったけれど。 まるで、定期的に契約を結んだり解除したりする取引相手みたいに、決められた期間内に、結婚届と離婚届という名前の契約書へ事務的にサインしなくちゃいけない。 その契約書は年に2枚。これまで俺がサインしたのは、合計で12枚になる。 そういえば結婚式で、楓はこう言ったっけ。「結婚しているあいだは、絶対にあなたを裏切らない」って。 そして、その約束をちゃんと守った。 だって、離婚さえしてしまえば、誰と付き合おうと自由なんだから。 その代償として、俺は周りから楓の「都合のいいおもちゃ」だと思われてる。ただ、それだけのことだ。 だけど、今日の俺のいつもと違う態度に、楓は戸惑っているようだった。 これまでの離婚のたびに、俺はヒステリックに泣きわめいて、自分の体を傷つけさえしたから。その記憶が、まだ彼女の頭にこびりついているんだろう。 前回よりもずっと手際よく荷物をまとめる俺を見て、楓は少しばつが悪そうに口を開いた。 「それか、今回は私が出ていこうか……」 バタン、と大きなスーツケースを閉じる音が、楓の言葉をさえぎった。 「友達の家に、しばらく泊めてもらうことになってるんだ」 だが楓は、何かを思い出したように、さっきよりもさらに顔をしかめた。 「また変な駆け引きするつもりじゃないでしょうね?秘書のふりでもして、会社で私を見張るつもりなんでしょ? 達也。少しは自立したらどうなの?女がいないと生きていけないわけ?」 だけど俺には、楓の言いたいことがすぐにわかった。要するに、俺が会社に来て、松井克哉(まつい かつや)といちゃつく邪魔をされたくないだけだ。 せっかく克哉が帰ってきたんだ。楓は、彼に自分の側近として、ずっとそばにいてほしいんだろう。 第2話 二度目の離婚後、俺は楓の秘書になった。楓のお気に入りのラテを手に、わくわくしながら社長室のドアを開けた。 でもそこで見たのは、克哉の膝の上でキスしている楓の姿だった。 俺はカッとなって克哉に殴りかかった。でも、すぐに楓に蹴り飛ばされて、床に倒れてしまった。 社長室の外は、あっという間にやじ馬でいっぱいになった。 みんな俺がまだ社長の夫だと思っていたので、そろって軽蔑の目で克哉を見ていた。 克哉が悪い噂を立てられないように、楓は泣きながら首を横に振る俺を無視して、俺のバッグをひったくると、中身をぜんぶ床にぶちまけた。 離婚届の控えが、俺と楓がもう夫婦じゃないことを、みんなの目の前にこれでもかと見せつけた。 それからというもの、楓は離婚するたびに、インスタでそれを公表するようになった。 楓が愛しているのは克哉だということ。 そして、俺がみっともなく楓のそばを離れようとしない男だということを、誰もが知っていた。 でも、今回ばかりは、楓の心配はまったくのムダだった。 俺はためらうことなくスーツケースを手に取った。 「安心して。もうお前たちの邪魔はしないから」 楓はしばらく疑うような目で俺を見ていたが、俺がドアを開けて一歩外に出たとき、慌てて声をかけてきた。 「来月の13日にまた結婚するの、忘れないでよ」 俺は一瞬、ハッとした。 なんて偶然なんだろう。 俺がA国へ発つ日も、ちょうど13日に決めていたから。 …… 克哉が帰ってきてから、案の定、楓は俺のことなど一度も思い出すことはなかった。 俺のほうも、これまでの離婚後とは違った。楓の動向を探って、彼女が行きそうな場所で待ち伏せするような執着はもうやめた。 親友の谷口聡(たにぐち さとし)と、毎日のようにおいしいものを食べて、夜は焼き鳥をつまみにビールを飲む、そんな最高の日々を送っていた。 あっという間に、出国まであと十数日になった。 その日、俺と聡がレストランで料理を待っていると、思いがけず楓と克哉にばったり会った。 楓は克哉の腕に手を絡めながら、二人は楽しそうに笑いながら入ってきた。すごくお似合いに見えた。 「達也?」 楓の視線が、すぐに俺を捉えた。 克哉は親しげに楓の首に腕を回して、うれしそうににっこり笑う。 「達也、奇遇だね。そっちも食事かい?」 俺の視線が克哉に向いているのに気づくと、楓はとっさに一歩前に出て、克哉をかばうように立った。 楓が心配しているのは分かっていた。俺がまた前みたいに、克哉に殴りかかるんじゃないかって。 でも俺はそんなことはしなかった。それどころか、俺のために言い返そうとしてくれた聡を引き止めたくらいだ。 俺は平気な顔で笑ってみせた。 「ああ、すごい偶然だね」 俺が折れたことに気づいたのか、克哉はもっと意地悪な笑みを浮かべた。 「悪いね、達也。今日は楓が俺と二人きりで食事するって約束してくれたんだ。だから、悪いけど君たちは別の店に行ってくれるかな」 克哉は楓の腕を揺さぶりながら、甘えた声を出す。 「ね、楓?ちゃんと君が言ってくれないと、達也が俺にいじめられたって誤解しちゃうよ」 楓は勝ち誇った顔で俺にあごをしゃくり、目でこう訴えてきた。 まるで、「克哉の言う通りにしなさい。さもないと、復縁してあげないからね」と。 聡はもう腕まくりをしていたが、俺はそっと手で彼の腕をおさえた。 「気にしないで。俺たちは別の店に行くから」 譲ってやったわけではない。 もうすぐ国を出るから、元妻との無意味な争いに時間を使いたくなかっただけ。 ちゃんとした元夫なら、楓なんてもうこの世にいない人として扱うべきじゃないか? レストランのマネージャーが状況を読んで、すかさず楓と克哉のもとへ歩み寄った。 「お二人は本当に仲がよろしいんですね。うらやましい限りです」 それを聞いて、楓は複雑な表情で俺を見た。俺が何を言い出すか警戒しているようでもあり、何を言いたいのか探っているようでもあった。 でも俺は何も聞こえないふりをして、聡を引っ張って席を立った。 まさか俺が何の反応も示さないとは思わなかったのだろう。楓は、去っていく俺の後ろ姿を呆然と見つめていた。 第3話 克哉が何度も彼女を呼び、しまいには声にいらだちが混じり始めた。 それで楓も、やっと名残惜しそうに視線をそらした。 レストランで会ったのが、俺がA国へ発つ前に楓と顔を合わせる最後になるだろう。そう思っていた。 ところが、楓の秘書を正式に辞めた、ちょうどその日の夜。なんと楓本人からビデオ通話がかかってきた。 こんなことは今まで一度もなかった。だから反射的に通話を切りそうになるのを必死でこらえ、かわりに音声だけで応答した。 電話の向こうの楓の声は、明らかに不満そうだった。 「なんでカメラ切ってるの?」 俺は適当にごまかした。 「いま、ちゃんとした服じゃないから。ビデオはちょっと……」 それを聞くと楓は笑いだし、急に機嫌が良くなったようだった。 「何をいまさら。あなたのどんな姿だって、私はとっくに見てるのに」 まるで誘うような口調がひどく不快で、俺は冷たく問い返した。 「何の用だ?」 楓は俺の声の冷たさにすぐ気づいたらしい。だらっとした姿勢をやめて、体を起こして聞いてきた。 「人事から聞いたんだけど、辞めたって本当?」 俺は「ああ」とだけ返事して、それ以上は何も説明しなかった。 電話越しに、気まずい沈黙が流れた。 楓はわざとからかうように言ったが、無理に話をつなげようとしているのが見え見えだった。 「ま、辞めて正解かもね。『社長の夫』っていう身分があるのに、わざわざ秘書なんてやるからよ。そんなの、しなくてもいい苦労じゃない? でもまあ、あなたの働きぶりも大概だったけど。会社でほとんど顔も見ないのに、お給料は払わなきゃいけないんだから。おかげで社内のみんなにコネだって噂されて、『社長は身内びいきだ』なんて陰口も叩かれたのよ」 俺はうんざりして、楓の言葉をさえぎった。 「松井のそばにいなくていいのか?」 楓は、思わずといった感じでぽつりとつぶやいた。 「べつに、克哉とは何でもないんだから。かまってあげる必要なんてないわ」 でも、そう言った後で楓は黙りこんでしまった。ふと、気づいたからだろう。 目の前にいる俺だって、もうただの元夫でしかないということに。 楓は、急に気まずそうな声になった。 「離婚のこと……ごめんなさい。私が悪かったわ。 離婚しないと、克哉が変に噂されちゃうんじゃないかって、心配で……」 俺はうなずいた。 克哉が陰口を叩かれるのはダメ。 だから俺は笑いものになって、周りの奴らの酒の肴にでもなれと。そういうことか。 俺の声は、自分でもわかるくらいに冷たくなっていった。 「用がないなら、もう切る」 「待って!」 楓は焦ったような声を出した。 「12日は、私たちの結婚記念日でしょ。その日、あなたの好きなアーティストのコンサートがあるじゃない?あなたが行きたがってたの、知ってるから……一緒に行かない?ね?」 一瞬、このまま本当のことをすべてぶちまけてやろうかと思った。 だが俺が口を開くより先に、電話の向こうから、少し離れた場所にいる克哉の声が聞こえてきた。 「楓、ごめん、バスタオル忘れたから取ってきてくれないかな?」 楓はすぐには返事をしなかった。ただスマホの画面に表示された俺の名前をじっと見つめて、どうすべきか迷っているようだった。 俺は無表情で促した。「早く行ってあげて」 楓はそれでようやく、のろのろと立ち上がった。だが、スマホはまだ手にしたままだ。 「達也、待ってて。すぐ戻るからね」 そう言って、楓はバスルームのほうへ歩いていった。 案の定。楓と克哉がキスをする音が聞こえてくる。楓のくぐもった吐息に続いて、バスルームのドアが勢いよく閉まる音がした。 俺は、心底ばかばかしくなって通話を切った。 ちょうどその時、聡からバーにでも行こうと、誘いの連絡が入った。 俺は迷わずスマホを置いて立ち上がった。 世界には、楽しませてくれるものが他にもたくさんある。 昔の俺はどうかしていただけ。もう完全に過去の女のために、いつまでもくよくよしてるなんて時間の無駄だ。 …… 楓のいない日々は飛ぶように過ぎていき、気づけば、A国へ発つ日まであとわずかになっていた。 楓と会うことはなかったが、彼女と克哉がどうしているかは、聡から少しだけ耳にしていた。 なんでも、楓は克哉と大げんかしたらしい。パーティーの最中だというのに、克哉のメンツもかまわず、すごい剣幕で会場を飛び出していったそうだ。 第4話 おまけに、楓と克哉が喧嘩した原因は俺だっていう噂まであった。 それを聞いても、俺は「ふーん」って、ただどうでもよさそうに笑った。 もう昔みたいに、純粋に楓だけを追いかけたりはしない。一日中インスタをチェックして、楓や克哉、それに周りの人たちの投稿から二人の動向を探ったりとか。 そして二人の間に少しでもひびが入れば、すぐさま楓のところに駆けつけて「俺がいちばん愛してる」って伝える……なんて真似はもうしない。 恋人同士の喧嘩なんて、結局はすぐに仲直りするものだ。 原因が俺だったからって何だっていうんだ?どうせ俺は、いつもあの二人の恋愛ごっこを盛り上げる道具でしかないんだから。 でも、それ以来、楓から電話がかかってくる回数は日に日に増えていった。 残念ながら、俺はすぐ電話を切るか、いろんな理由をつけて会うのを断ったけど。 A国へ発つ前日、楓からコンサートに誘われた。 「チケットはもう取ってあるから。今夜、会えるよね? 今日は私たちの結婚記念日なんだから。もう断ったりしないよね?」 楓が、こんなに下手に出て何かをお願いしてきたことは一度もなかった。 いつもは楓が気軽に1歩を踏み出して、話題を振ってくるだけで、俺は彼女の気を引きたくて、残りの99歩を全力で駆け寄っていた。 でも結局、そのたった1歩でさえ、楓は克哉のために引っ込めてしまうんだ。 だけど、俺は何も言い返せなかった。 だって、今日は俺たちの結婚記念日なんかじゃない。 本当は、4回目に復縁した日だ。 何度もくっついたり離れたり……楓に関することは全部、ひとつ残らず覚えているのは、きっと俺だけだ。 それでも、俺は結局頷いてしまった。 あのコンサートには、本当に行きたかったから。 でもその夜、コンサート会場の入り口でいくら待っても、楓は現れなかった。 楓から届いたばかりのボイスメッセージを開いた。申し訳なさそうな声と一緒に、コンサート会場のざわめきが聞こえてくる。よく聞くと、克哉の笑い声も混じっていた。 「ごめん、達也。克哉が急に具合悪くなっちゃって。病院に連れてきたの。 記念日は、これからいくらでも一緒に過ごせるから。明日、克哉が帰ったら、あなたのしたいこと何でも付き合うから。ね?」 やがてコンサートが始まり、きれいな歌声が会場から流れてきた。 「特別なご招待ありがとう。君の愛を見届けるために。 逃げるなって、俺は自分に言い聞かせる」 俺はトーク画面を閉じて、1か月ぶりにインスタを開いた。 数分前に更新された克哉の投稿。コンサート会場で撮った、楓とのツーショット写真が、まっさきに目に飛び込んできた。 「思い出はすべて置いてきた。君の恋をかなえるために。 だけど信じたくないんだ。これが運命だなんて」 歌はまだ続いている。楓の誘いに乗った時も、ここへ来る時も、心のどこかで彼女に最後の期待をしていた俺を、あざ笑っているかのようだった。 そして今、その最後の期待は、きれいさっぱり消え去った。 7回目の離婚だ。とっくに分かっていたはず。そうじゃないのか? でも、よかった。これで、本当に最後だから。 もう未練はひとかけらもなかった。俺は踵を返して空港へ向かい、そこで一晩中座って過ごした。 そして、朝7時になると、チェックインを済ませた。 楓から【いつ復縁する?】とメッセージが来たけど、返信せずに友達から削除した。 朝8時、搭乗の列に並んでいた。 楓から電話がきたけど、出なかった。そして、彼女の番号を着信拒否した。 朝9時、俺は飛行機の席に座っていた。 スマホを機内モードにするようアナウンスが流れた、ちょうどその時、聡から電話がかかってきた。 電話の向こうから、ひどく焦った楓の声が聞こえてきた。 「達也、どこにいるの?」