二人が別れたのは、六度目の冬のことだった

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二人が別れたのは、六度目の冬のことだった

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大晦日の晩、藤本朔(ふじもと さく)にメッセージを10通も送ったのに、返事はなかった。 そしたら、彼の女友達の入江綾子(いりえ あやこ)が...

Chương (1)

第1章

大晦日の晩、藤本朔(ふじもと さく)にメッセージを10通も送ったのに、返事はなかった。 そしたら、彼の女友達の入江綾子(いりえ あやこ)が年越しの様子をインスタにアップしていて、そこに朔も写っていた。 【もう最高!日付が変わった瞬間に年賀状手渡しされるなんて、この人には甘やかされてばっかり。クサいセリフはやめとくね。朔、一生の親友だよ!】 すぐに、その投稿に返信があった。【もともと子供みたいなもんだろ】 二人のやり取りを見ていたら、なんだか急に、すべてがバカらしくなった。 私は衝動を押し殺し、ただ静かに朔へメッセージを一件送った。 【忙しそうだから、私と杏はもう先におやすみするね】 それから私は、朔のことに一切口出ししなくなった。彼の好みの料理を作ることも、週に一度は娘の藤本杏(ふじもと あん)と遊ぶようにと頼むこともやめた。 朔は、私が彼の気を引くためにわざと距離を置いていると思い、特に気にも留めなかった。 そんな中、綾子が「ゲストルームはひとりで寂しいからイヤ」と言い出した。 私は物わかりのいい妻を演じて、嫌な顔ひとつせずに主寝室を譲った。 その様子を見て、朔もようやく事態のおかしさに気づいたのか、慌てて説明をし始めた。 「綾子の家が水漏れで大変なんだ。でも明日の朝にはすぐ帰ってもらうから。 ねぇ、今度、杏を連れて遊園地に行こうか? これからは、お前と杏との時間をもっと作るからさ」 私はただ微笑んで、何も答えなかった。 だって、私のこれからに、もう朔の居場所はないのだから。 第1話 大晦日の晩、藤本朔(ふじもと さく)にメッセージを10通も送ったのに、返事はなかった。 そしたら、彼の女友達の入江綾子(いりえ あやこ)が年越しの様子をインスタにアップしていて、そこに朔も写っていた。 【もう最高!日付が変わった瞬間に年賀状手渡しされるなんて、この人には甘やかされてばっかり。クサいセリフはやめとくね。朔、一生の親友だよ!】 すぐに、その投稿に返信があった。【もともと子供みたいなもんだろ】 二人のやり取りを見ていたら、なんだか急に、すべてがバカらしくなった。 私は衝動を押し殺し、ただ静かに朔へメッセージを一件送った。 【忙しそうだから、私と杏はもう先におやすみするね】 朔が家に帰って来たのは、私が娘の藤本杏(ふじもと あん)の夜のミルクをあげた頃だった。 彼は私のそばにしゃがむと、万円札を何枚か取り出し、杏の前に差し出した。 「杏、お年玉だよ。ほら、パパのところにおいで」 杏はにこっと笑うと、おぼつかない動作でそれをつかもうと手を伸ばした。 その手がお年玉に触れる寸前、私は朔を強く突き飛ばした。 尻もちをついた朔は、ハッとした顔で私を見つめた。 私は申し訳なさそうに説明した。 「お札はいろんな人が触るから、汚いと思って」 朔は眉をひそめて立ち上がった。 「急いで帰ってきたから、ポチ袋の用意がなくてな。明日ちゃんと準備して杏に渡すよ。 今夜遅くなったのは、綾子が台所で火事を起こしかけたからなんだ。知ってるだろ、あいつは不器用で、しかも今は一人だ。放っておけない」 私は杏のよだれを拭きながら、朔の言い分を飲みこんだ。 「大丈夫よ、わかってる」 綾子には手書きの年賀状まであげたのに、どうして杏にはお年玉袋すらないの、なんて聞かなかった。 少し気まずい沈黙が流れた後、朔が私の頭を撫でようと手を伸ばしてきた。 私は思わずその手を避けた。 すると、朔が断定して言った。 「やっぱり、怒ってるじゃないか。 わかったよ。次は絶対に、お前と杏と一緒に家で過ごすから」 朔は全てお見通しだという顔で笑いながら、私がいつものように嫉妬して拗ねているだけだと思い込んでいた。 そろそろ杏が寝る時間だったから、朔とこれ以上揉めたくなかった。 だから私は、彼の言葉に頷いてみせた。 「別にいいのよ。なにより入江さんの安全が一番大事なんだから」 言い終わってすぐ、朔の暗い表情に気づいて、私は心の中で余計なことを言ってしまったと後悔した。 きっとまた、私が皮肉を言っていると思われたに違いない。 でも、本当は怒ってなんかいなかった。 もう、そんな必要すらないから。 私と綾子、朔がどちらを取るかなんて、目に見えたからだ。 例えば、杏の百日祝いの日。 朔をめぐって、私は綾子と言い争いになった。 喧嘩の途中、杏は綾子にお酒をかけられ、アルコールが口に入ってむせたせいで、危うく窒息死するところだった。 その時、綾子は気が動転して発作を起こしていた。 ひどく取り乱していて、綾子を落ち着かせられるのは朔だけだった。 だからなのか、私が杏を病院に連れて行ってと朔に必死でお願いした時、朔は冷たい顔で、きっぱりと断ったのだ。 「瑠奈(るな)、俺にとって綾子の安全は何よりも大事だ」 結局、杏は1週間も入院することになった。 あの出来事があってから、私は杏の食事に少し神経質になった。 そして、この苦い経験から、私は誰と揉めようと、綾子だけは敵に回してはいけないと悟った。 第2話 今度の三連休は、義母の藤本明美(ふじもと あけみ)のところへ新年の挨拶に行くことになっている。 私が自分と杏の荷物を準備をしていると、朔が申し訳なさそうな顔でやって来た。 「中山に用事を頼まれてさ。悪いけど、杏と二人でタクシー捕まえて母さんのところに行っててくれないか。 遅くても2時間後にはそっちに合流できるから。帰りはちゃんと俺の車で帰ろう」 中山仁(なかやま じん)というのは、朔の大学時代の友人だ。 朔は私に知られて都合が悪いことがあると、いつも仁の名前を言い訳に使った。 私が黙っているのを見て、朔はだんだん焦りだし、一方的に話を打ち切った。 「じゃあ、そういうことで」 そのまま背を向けて出て行こうとする朔を呼び止めると、彼はうんざりした様子で振り返った。 「瑠奈、引き止めても無駄だ。今日は絶対に行かないといけないんだ」 そのピリピリした様子に呆れながら、私は玄関に置いてある荷物を指さした。 「忘れ物があるって、言いたかっただけよ。 この二つは中山さんへの手土産で、残りはお母さんへのだから、車に運んでおいて」 朔は何とも言えない顔で私を数秒見つめた後、荷物を抱えて出て行った。 元日の朝、タクシーを捕まえるのは簡単ではなかった。 幸い、行き先が似た近所の人が、藤本家の実家の近くまで送ってくれた。 暗くて寒い冬の日で、地面は小雨で濡れていた。 気をつけて歩いていたのに、足を滑らせて転んでしまった。幸い、杏は無事だった。 ふらつきながら朔の実家に着くと、明美にひどく叱られた。 「朔はどこ?自分の奥さんと子供の送り迎えもしないなんて、どういうつもり? あなたも人が良すぎるわよ。こんな寒い日に、無理して来なくたっていいのに!」 明美は私の手当てをしながら、杏を抱いて隣に座った。 「正直に言いなさい。朔と何かあったんでしょ?」 私は笑顔で何でもないと説明した。 明美はそんな私をちらりと見てから、朔に電話をかけた。 それでも朔はすぐには帰ってこなかった。 彼が帰ってきたのは夕方の5時で、あろうことか綾子を連れていた。 綾子は私には目もくれず、にっこりと笑って、明美だけに挨拶した。 「明美さん、私一人で行くあてもなくて……今日は厚かましくも、夕飯をごちそうになりに来ちゃいました」 明美は不機嫌そうな顔で、朔に言った。 「いったい誰を連れてきたの。人の家に来て挨拶もできない人なの?」 綾子は顔をこわばらせ、朔をちらりと見ると、いやいや私に挨拶をした。 明美はふんと鼻を鳴らすと、私を座らせて、台所へ向かった。 私は二人に会釈して、足を引きずりながら杏のいる部屋に戻った。 しばらくして、朔がドアをノックし、話があると言ってきた。 彼は傷がついた私の手のひらを見つめながら、心から申し訳なさそうに謝った。 「ごめん。俺がちゃんと送るべきだった」 その仕草に私はびくっとして、急いで手を引っ込めた。 「大丈夫よ、大した怪我じゃないから」 朔は手をあげたまま、長い間黙り込んでいた。私が何か言い訳を見つけてその場から逃げ出したいと思うほど、長い時間だった。 ようやく朔が口を開いたと思ったら、綾子を連れてきた理由を語り始めた。 「来る途中で綾子から電話があったんだ。年始に一人で家にいるって言うから、一緒に連れてきただけだ。入江先生は俺の恩師でもあるからな」 ベッドで起き上がろうとしている杏をちらりと見て、私は生返事をした。 「わかってるわ。彼女はあなたの恩師の娘で、妹のようなものでしょ。その入江先生が亡くなる前に面倒を見てやってくれって頼んだしね。お正月に食事くらい、当たり前じゃない」 朔と言い合いになる度、彼はいつもその言葉で私を言いくるめてくるから、もう目をつぶっていても暗唱できるくらいだった。 でも、いざ私がその言葉をそっくりそのまま返すと、朔は面白くなさそうな顔をした。彼は突然、声を荒げた。 「怒ってないなら、なんで怪我したって俺に言わないんだ? お前は痛がりで、髪でちょっと指を切っただけでも泣いてたじゃないか。なのに今日は転んでも、俺に教えもしない!」 私は頭を抱えたくなった。 今さら過去の話を蒸し返して、何をしたいのか分からなかった。 きっと朔は、彼自身が昔したことなんて忘れてしまったのだろう。 あの頃、両親を亡くしたばかりの綾子は海外から帰国することになった。 朔は特に綾子を心配し、彼女の面倒を見ていた。 私はその様子が気に食わなかったけれど、事情が事情で、口を出すこともできなかった。 ある日、友人たちと食事をして店から出たところ、道端ではしゃいで走ってきた子供たちが、自分たちの集まりにぶつかりそうになった。 朔はその時とっさに綾子をかばい、私は看板にぶつかって腰を痛めてしまった。 私は3日間入院し、朔はその間ずっと付き添ってくれた。 朔の行動に腹を立てていた私は、腹いせに、彼に3日間綾子との連絡を禁止した。 その場所での、朔の氷のように冷たい声は今でも忘れられない。 「誰かと話すことすら駄目なのか?お前のそれは異常な束縛だ。 ちょっとぶつかっただけで、もう歩けるじゃないか。大げさに騒ぐなよ」 その時の私は怒りのあまり、朔と大喧嘩した。 でも、今となってはもう喧嘩する気にもなれなかった。 これ以上話すのは、ただ時間の無駄だとしか感じられなかったからだ。 私は黙り込んだまま、何も言わなかった。 朔がゆっくりと近づいてきて、声を低めて言った。 「俺と綾子はただの友達だ。昔からの付き合いで、もし本当にその気があったら、とっくの昔に……」 彼の言葉を遮るように、部屋の奥で杏が起きたのかわっと泣き始めた。 私はすぐ朔の隣を離れて、早足で杏の様子を見に行った。 「杏、大丈夫よ。ママが来たからね」 第3話 食事の間、朔は私の隣に座っていた。 彼が私の前に置いてくれた豆腐の小皿を見て、少し迷ってから、それを自分から遠ざけた。間違って豆腐に触った箸も、キッチンから新しいのに替えた。 顔を上げると、朔が目を大きくして私を見つめた。 「どういうつもりだ?」 私はなるべく穏やかな声で説明した。「豆腐は食べられないの。大豆アレルギーだから」 朔はきょとんとして、信じられない様子だった。 「なんで……なんで教えてくれなかったんだ?」 明美が鼻を鳴らした。「自分に聞いてみたらどうだい。嫁のアレルギーも知らないなんて」 私は何も言わず、ただ黙ってご飯を口に運んだ。 朔が私のアレルギーを忘れていたのは、これが初めてではなかった。 前に、綾子が朔のために豆乳を使ったお菓子を作った。彼は全部食べるのがもったいないらしく、残りを私が食べるはずだったクッキーの缶詰に突っ込んだのだ。 私はそんなことを知らないままそれを食べてしまい、その日のうちに病院に運ばれた。 そのことを知った朔は、なぜ彼の分を勝手に食べたのかと私を責めた。 結婚して長かったけれど、あんなに怒った朔を見たのは初めてだった。 最初は本当に悪いことをしてしまったと思い込んで、馬鹿みたいに謝った。 惚れっぽい女が嫌われるのは、本当にその通りだと思った。だって、馬鹿すぎるから。 家に戻ると、ソファに座って、昔の同級生の木下心美(きした ここみ)にメッセージの返事をした。 子供を産んでから、働きたいという気持ちがずっと頭から離れなかった。 でも、どこに履歴書を送っても、何の反応もなかった。 そんな時、心美から連絡があった。芸能事務所を立ち上げたから、うちで新人のマネージャーをやってみないかと、誘ってくれたのだ。 私はその申し出を受けることにした。 心美は気前がよく、私が出産したばかりだと知ると、すぐに入社手続きを済ませてくれた上に、2ヶ月の有給休暇までくれたのだ。 さすがに悪いと思い、担当するタレントの資料を送ってくれるよう頼んだ。休み中に今後の計画を練っておこうと思ったからだ。 資料に夢中になっていると、朔が隣に座ってきた。 私は無意識にスマホの画面を消して、少し彼から離れた。 「何か用?」 「瑠奈、最近なんだかおかしいぞ。俺、何か怒らせるようなことをしたか?」 朔が心配そうにこちらを見てきた。整った顔が、なんだか可哀想に見えた。 でも、私の心は少しも揺れなかった。むしろ、少し面倒だとさえ思った。 「別に怒ってなんかないわ。用がないなら、お風呂に入ってくるね」 私が立ち上がると、朔に腕を掴まれた。 「瑠奈、今回ケガさせたのは俺が悪かった。お詫びに何かさせてくれないか? ずっと海に行きたがってただろ?杏も一緒にどうだ?それか、遊園地とか。この前、写真を撮りに行きたいって言ってただろ!」 それを聞いて、私は思わず口を挟んだ。 「でも、その二つって、もう入江さんと一緒に行った場所じゃない?よく飽きないわね」 昔は、朔と一緒に出掛けるのを、すごく楽しみにしていた。 でも、私が一生懸命考えた出先のプランは、いつの間にか、朔と綾子のための旅行ガイドになっていた。 それ以来、朔とどこかへ行くことに、すっかり気が滅入ってしまった。 朔は口を開けたまま、何も言えずにいた。その瞳からは、悲しみが溢れ出しそうだった。 私は彼の手を振りほどいて、真剣に考えた。 「本当にお詫びしたいって言うなら、私の頼みを一つ聞いてくれる? 今はいいの。何か欲しくなったら、その時に言うから」 例えば、離婚する時に切り出せば、慰謝料を上乗せできるかもしれない。 第4話 朔は最近のところ、様子がおかしかった。 仕事が終わっても遊びに行かず、杏に絵本を読んであげたり、私のためにご飯を作ってくれたりした。 なんだか気味が悪くて、落ち着かない。 そんなある日、心美が海外から帰ってきた。 私は久しぶりに会う心美と仕事の話を片付けるつもりで、杏を明美に2日ほど預かってもらうことにした。 キッチンから出てきた朔が、私が身支度をしているのを見て、眉をひそめた。 「どこへ行くんだ?朝ごはん作ったから、先に食べろよ」 私は振り向かず、鏡の前で髪を整っていた。 「いらない。友達と約束があるから。夜には帰るわ。 後で杏をお母さんのところに連れていくから。ちょうど杏に会いたがってたし」 朔がこちらに歩いてくる。 「どの友達だ?今日は時間があるから、送っていくよ」 私は首を振って、その申し出を断った。 「相手が迎えに来てくれるから。じゃあ、もう行くね」 朔が突然手を伸ばしてきたので、私は反射的にそれをかわした。 彼は宙に浮いた自分の手を見て、悲しそうに口の端をゆがめた。 「ただ送っていきたいだけなのに、それもダメなのか? 瑠奈、俺が一体何をしたって言うんだ?教えてくれよ!」 「あなたは何も悪くないわ。本当に、もう行かないと」 私は彼の話に興味がなかったし、身支度を急いでいた。そんな態度が朔をさらに怒らせた。 彼はしばらく私を見つめた後、ドアを乱暴に閉めて出て行った。 私は気にせず、杏を連れて明美の家へ向かった。 夜、家のドアを開けると、私の上着を着た綾子が、ソファに座って脚を組み、いちごを食べていた。 キッチンから出てきた朔が、私を見て冷たく言った。 「綾子の家が水漏れで住めないらしいから、何日か泊めてやることにした」 ちょうどその時、綾子がこちらを振り向いた。 私は彼女にうなずいて見せた。「いいわよ。自分の家だと思ってくつろいで」 綾子は笑顔を作ると、襟元を緩めて鎖骨をのぞかせた。 「瑠奈さん、服が濡れちゃったから、朔が貸してくれたの。気にしないわよね?」 私はその上着を見て、首を振った。 「それは朔が買ったものだし、私はあまり着てないから。あなたによく似合ってるわ」 私がなんともない顔をしているのを見て、綾子はさらに調子に乗ってきた。 「人気がしないゲストルームって嫌いなの。瑠奈さん、主寝室を譲ってくれない?」 私はまたうなずいた。 バタンと大きな音を立てて、朔がテーブルにグラスを叩きつけた。 私は何も聞かず、そのままゲストルームに入った。 心美は、私のことを高く評価してくれていた。 昔にスターを一人育てられたんだから、二人目だってもちろんいけるはずだと。 でも、界隈から長く離れていたから、慎重に計画を立てないといけない。 コン、コン―― ドアがノックされたかと思うと、次の瞬間には綾子が勝手に入ってきた。 「瑠奈さん、ちょっと分からないことがあるから、教えてもらいに来たの。 この写真、見てくれる?」 綾子は私の目の前にスマホを突きつけた。 そこには、あまりにも生々しい写真が写っていた。 朔と綾子が、キスをしている写真だ。 「瑠奈さん、これ、どう思う? それとこっちは?」 彼女はこちらの反応を待たずに、写真を次々と切り替える。 どれくらい時間が経っただろう。綾子は満足げにスマホをしまった。 「別に見せつけたいわけじゃないの。朔が言い出せないから、私が代わりに言いに来ただけ。 話が分かるなら、さっさと朔と離婚してよ。子供の親権を争わないように言ってあげるから。 あなたもまだ歳ってわけじゃないし、自分を愛してない男と一緒にいるなんて時間の無駄でしょ?」 浮気の写真を見せられ、綾子の挑発と自慢を聞いても、私の心は不思議と落ち着いていた。 もともと、仕事が安定してから朔と離婚の話をするつもりだった。 娘の親権を勝ち取るには、安定した収入が必要だから。 でも、綾子がそう言ってくれるなら、もう心配することはない。 私は簡単に荷物をまとめ、スーツケースを引いて家を出ようとした時、朔が私の前に立ちはだかった。 「どこへ行くんだ?」 「杏に会いたくなったから、今夜はお母さんの家に泊まるわ」 そう言って朔の横を通り抜けようとすると、スーツケースを掴まれた。 朔は怒った顔で、声を荒げた。 「母さんの家に泊まるのに、なんでスーツケースなんか持っていくんだ? 怒ってるのか?綾子が家に来たから、それで怒ってるのか? 瑠奈、お前がそう言うなら、今すぐ彼女を追い出す!」 朔の声は焦っていて、その目にはなぜか期待の色が浮かんでいた。 彼が何をしたいのか分からなかった。奪われたスーツケースを見ながら、私は考えた末、いっそのことすべてをハッキリさせることにした。 「本当はもう少し後にしようと思っていたけど。あなたたち二人とも、隠す気がなくなったみたいだし、私が折れるわ。 あなたの都合のいい時でいいから、離婚届を出しに行こう」 朔の高ぶった表情が固まり、呆然と聞き返してきた。 「離婚届ってなんだ?俺と離婚するってことか!?」 私は眉をあげて、綾子がいるバスルームを指さした。 「今日、入江さんを連れてきたのは、二人の関係を私に知らせるためでしょ? あなたからは言い出しにくいだろうから、自分が悪役になるって、入江さんが言ってたわよ。 そんな面倒なことしなくてもよかったのに。私は別に構わないから、時間がある時にでも役所に行こう」