籠の鳥は飛び立つ、私は自由な夢路をゆく

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籠の鳥は飛び立つ、私は自由な夢路をゆく

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誕生のお祝いの日、私は幼き世子・陸今安(りく きんあん)が届けさせた煎じ薬を飲み干した。 股の間から血がどっと溢れ出し、腹の子は、瞬く...

Chương (1)

第1章

誕生のお祝いの日、私は幼き世子・陸今安(りく きんあん)が届けさせた煎じ薬を飲み干した。 股の間から血がどっと溢れ出し、腹の子は、瞬く間に汚らわしい血塊と化した。 陸今安は、もがき苦しみ助けを呼ぶ私を冷ややかな目で見下ろしており、その顔には悪意が満ちていた。 「母上に似た顔といって、母上に取って代われるとでも思ったか? この浅ましい毒婦め!その顔を剥ぎ取り、八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」 生温かい血が体外へ流れ出ると同時に、私の心に残っていた最後の情けも流れ去った。 私は手塩にかけて育てた幼き世子を見つめる。 心には怨みもなければ、悲嘆もなかった。 「ご安心を、これから消えます。もう目障りにはなりません」 第1話 誕生のお祝いの日、私は幼き世子・陸今安(りく きんあん)が届けさせた煎じ薬を飲み干した。 股の間から血がどっと溢れ出し、腹の子は、瞬く間に汚らわしい血塊と化した。 陸今安は、もがき苦しみ助けを呼ぶ私を冷ややかな目で見下ろしており、その顔には悪意が満ちていた。 「母上に似た顔といって、母上に取って代われるとでも思ったか? この浅ましい毒婦め!その顔を剥ぎ取り、八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」 生温かい血が体外へ流れ出ると同時に、私の心に残っていた最後の情けも流れ去った。 私は手塩にかけて育てた幼き世子を見つめる。 心には怨みもなければ、悲嘆もなかった。 「ご安心を、これから消えます。もう目障りにはなりません」 「その言葉、二言はないな!」 陸今安は嘲りを浮かべ、私の言葉を信じておらぬ様子であった。 侍女の手を借り、ようやく身を起こすと、私は激痛に耐えながら重い足を引きずった。 「父上に言いつけようなどと、ゆめゆめ思うなよ。 たとえ知られたところで、父上が俺をお咎めになるはずがない」 背を向けた瞬間、彼は鼻で笑った。 「たかが形も成さぬ胎児ごときが、父上の御心にある俺の地位に及ぶとでも?」 痛みで血の気を失いながらも、私は強いて笑みを作った。 「分かっております、あなたは厲王(れいおう)家唯一の世子、やがては天下の皇太子となられる御身。 厲王殿下が心から重んじるのは、あなたという跡継ぎだけでございますもの」 私がこれほど素直に認めるとは思わなかったのだろう。 彼は顔立ちがまだ幼いのに、凶暴な眼差しで私を睨みつけ、その瞳は疑いと憎しみで満ちている。 私はいつものように膝を折って彼をあやし、機嫌を取ることなどせず、一歩一歩、自分の屋敷へと歩き出した。 部屋の扉を開けた途端、力が抜けてその場に崩れ落ちた。 侍女たちは慌てふためき、侍医を呼びに飛び出していった。 朦朧とする意識の中、寝台に寄りかかり、敷物が血に染まりゆく様を見つめた。 視界は赤一色であった。 あの時、私はこのように真っ赤な晴れ着を抱きしめ、許婚のもとへ嫁ぐ日に憧れを募らせていた。 だが輿入れの直前、私は厲王家に連れ込まれ、おくるみに包まれた赤子を手渡されたのだ。 「一族の中で、亡き王妃に瓜二つなのはそなただけだ。 厲王殿下に仕え、世子のお世話をするのだ。 そなたの光栄だと思え」 まさか一族から追放されかけていた分家の私が、周(しゅう)家の嫡女と似ているとは、誰も思わなかっただろう。 彼らは私の縁談を破棄し、私を鳥籠のような屋敷に押し込め、これが私の光栄だと? あっという間に十年も過ぎたが、私があの光栄を望んでいるかどうか、誰も聞いてはくれなかった。 十年か…… 部屋の中は騒然とし、侍医が行き来する足音が響く。 誰かが泣き、誰かが去っていく。 全てが静寂に包まれた時、私は重い瞼を開け、枕元に立つ厲王・陸景行(りく けいこう)の姿を目に入れた。 血は争えぬというべきか、厲王と世子はよく似ている。 特に黙っている時は瓜二つだ。 その目元、その冷淡で他人行儀な様子……二人の面影は、恐ろしいほど重なって見えた。 「話は聞いた。腹の子は……残念だった。 今安に悪気はない。あいつも母を想うがゆえのこと、決してそなたの子を恨むでないぞ」 私が黙り込んでいると、彼はため息をついた。 「恐らく膳房の者が粗相でもしたのだろう。追って調べさせ、処分を下してやる」 処分だと?どうせ誰かを身代わりにして罪を被せるだけに過ぎぬ。 「今安はまだ幼い。そなたもそう根に持つな」 侍女が私を支え起こし、血の匂いが漂う寝具を替えている間、彼は思わず眉をひそめた。 この父子は雲上の人、俗世の汚らわしさなど無縁なのだ。 この数年、私が彼らの衣食住を取り仕切り、何一つ不自由なく世話をしてきた。 彼らがこのような穢れた光景を目にしたことなどあるはずもない。 何と滑稽なことか。私が腹の子を失ったばかりだというのに、彼は微塵も悲しんでおらず、ただ血の匂いを嫌がっているだけなのだ。 私の顔があまりに憔悴していたのか、陸景行は少し躊躇した後、私を抱き寄せた。 「そう悲しむな。無念なのは分かるが、子ならまたできる」 彼は私の唇の端に軽く口づけし、ゆったりとした口調で言った。 「この数年、そなたが良く仕えてくれたこと、余は見ておったぞ。 養生して体を治せ。そうすれば、必ずやまた子を授けて遣わそう」 夜は更け、月明かりは淡い。部屋にはまだ濃厚な血の気が漂っている。 授けて遣わそうって……なんと上から目線の言葉だろうか。 当初、厲王家に入った時も、彼は同じようなことを言っておった。 「余が生涯愛するのは亡き妻ただ一人。 世子が成人するまでは、他の女に余の子を産ませることなど、断じて許さぬ。 余と世子に尽くせ。時が来れば、そなたに子を授けて遣わそう」 その時を待ち続け、十年が経った。 その目に浮かぶ自得の笑みを見て、私は背筋が寒くなるのを感じた。 分かっている。 彼は私がひざまずいて恩に感謝し、涙を流して喜ぶのを待っているのだ。 しかし私は、痛む体で強いて立ち上がり、頭を下げた。 「殿下は間もなく帝位に就き、世子も皇太子となられます。 当初の約束は果たされました。私も、お暇を頂く潮時でございましょう」 第2話 和やかだった空気は、瞬く間に凍りついた。 陸景行の顔から笑みが消え、怒りの色が浮かび上がる。 「今安はまだ子供だ。なぜ、そなたはそう執拗に責め立てるのだ。 女子の身でありながら、夫に逆らい、子を教え導けず、あまつさえ腹の子さえ守れぬとは。 自ら徳を失い、礼を欠いておるのだぞ。 余が罪を問わぬだけでも有り難いと思え! なのに、何をそう騒ぎ立てておる?」 私が、騒ぎ立てているだと? 心は冷え切り、ただただ滑稽でならなかった。 この厲王家で、薄氷を踏む思いで過ごした十年。 私はひたすら身を低くして仕えてきた。 騒ぐなど、できようはずもない。 皇帝陛下は未だ皇太子を立てておられないが、厲王殿下が最も帝の覚えがめでたいことは、誰の目にも明らかであった。 そして厲王・陸景行と、周家の嫡女・周嘉月(しゅう かげつ)は、おしどり夫婦として京の語り草になるほどだった。 周家の勢いは、飛ぶ鳥を落とすほどであった。 皆、やがて厲王が即位し、周嘉月が皇后となる日を待ち望んでいたのだ。 だが天は味方せず、周嘉月は難産による出血で倒れた。 一命は取り留めたものの、病に伏せることが多くなり、ほどなくしてこの世を去った。 幼い世子は人見知りを始め、母の姿が見えぬと泣き叫ぶばかり。 周家は頼みの綱を失い、絶望の淵で、周嘉月と瓜二つの私に白羽の矢を立てたのだ。 嫁ぐ喜びに満ちていた私を強引に厲王家へ連れ込み、その夜のうちに片隅の部屋で寵愛を受けさせた。 「これがそなたの光栄だ」 厲王は私の顔に亡き人の面影を求め、周家は皇室との縁を引き続き繋ごうと図っていた。 両家の思惑は一致し、私は身代わりとして、陸今安が成人するまで世話をすることとなった。 私の意向など、誰も気にも留めなかった。 私の実の両親でさえ、本家からの手付金に目を輝かせ、満ち足りた顔だった。 滑稽なことに、厲王家にいた十年の間、私には名分もなければ正式な婚書もなく、まともな側室とさえ呼べぬ扱いだ。 私は帳に描かれた秋の景色をぼんやりと見つめ、しばらくしてようやく口を開いた。 「騒いでなど……おりませぬ。 奥向きに引きこもる身とはいえ、皇帝陛下の御寿命が残りわずかであることは存じております。 殿下は間もなく即位され、世子も立派に成長されました。 私など、もう用済みでございましょう。 それに……私は、殿下の側室ですらございません。 名も無き存在に過ぎぬのですから」 少し前までなら、腹の子を案じ、去るべきか否か迷っていたかもしれない。 だが、腹の子を失った今は、もう迷う理由など何もない。 「何事かと思えば」 陸景行は鼻で笑った。 「余に甘えて、側室の位をねだっているのか」 彼は私の腹に目をやった。 「まあよい。失った子の埋め合わせをしてやらねばな。 養生せよ。これより先、余の子を産むことを許してやる。 将来、そなたに嬪の位を授けて遣わそう……」 「……ご無用にございます」 嬪が何だと言うの。妃が何だと言うの。所詮は慰み者に過ぎない。 人としての尊厳など、微塵もない。 他人の身代わりとなり、性欲の捌け口とされ、息子の守り役をさせられる。 なぜ彼のために子を産み育て、このような惨めな日々を続けられようか。 私は腹の痛みを堪え、枕元の箱を開けた。 「この中には私が記した手記が入っております。 世子の幼き頃からの好みや禁忌、衣食住の全てを書き記しました。 これからは、より相応しい方がお世話をなさるでしょう。 殿下の仰る通り、私では教え導くことなどできませぬゆえ」 「周凌萱(しゅう りんせん)、余の寵愛を笠に着て図に乗るなよ!」 彼は箱を床に払い落とした。箱は音を立てて割れた。 「今安がいるにも関わらず、そなたに子を産ませてやるなど、余の格別な恩情があってこそだぞ!」 寵愛を笠に着る、だと? その言葉を聞いた瞬間、極めて汚らわしいものを食わされたかのように、耐え難い吐き気が込み上げた。 「おえっ――」 私は身を屈め、吐き気を催し、えずいた。 「子を失ったばかりゆえ、大目に見てやる」 彼は口と鼻を覆い、嫌悪も露わに私を一瞥した。 「自室で頭を冷やすがよい」 私は赤くなった目で、怒って立ち去る彼の背中を見つめ、ついに涙がこぼれ落ちた。 厲王家に来た時、私も自分の運命を受け入れ、連れ添っていこうと思ったこともあった。 けれど…… 「周家の祖母様の仰った通りだ。 父上の即位が近いと見て、よからぬ気を起こし、子を成し、地位を得ようと企んだのだな」 陸今安が戸口に立ち、冷ややかな眼差しを向けていた。 「母上の顔をして俺を世話してきたのは、このためだったのか。 この身の程知らずが!」 彼の言葉は刃のように、最大の悪意を持って深く突き刺さった。 私が十年、苦労して育て上げたことなど、完全に忘れ去っている。 私を厲王家に送った時、周家の夫人は誠実そうに言ったものだ。 「同じ周家の人間ではないか。そなたは分家とはいえ、嘉月とよく似ている。 心を込めて世子を育てれば、将来あの子は必ずやそなたを実の母のように敬うでしょう」 だが今、彼らは世子にこう吹き込んでいる。 「人の心とは分からぬもの。あの女はそなたの母君の顔をして、母君のものも、そなたのものも奪おうとしている」 夫は夫にあらず、子は子にあらず。 十年も尽くした私に、これが、その報いだというのか。 第3話 私がここを去ることは、誰にも隠してはいなかった。 翌日、荷物をまとめ、出立の準備を整えていると、庭先で怒りに震える実母と鉢合わせになった。 「殿下が間もなく即位なさるという、この大事な時に家出するつもり? 若いうちに子を儲け、地位を固めねばならぬ。それが家のためにもなるよ! 弟の科挙(かきょ)も間近に迫っているのだから、あの子の将来は、全てそなたにかかっているのよ!」 その浅ましくも必死な様が、私には何とも滑稽に映った。 十年前もそうだった。弟の将来のため、周家からの見返りのため。 私を厲王家に送り込み、私の人生を犠牲にしたのだ。 「それに、世子はまだ幼いじゃないか。これから皇太子になれば、そなたの世話が必要になる」 私が黙り込んでいるのを見て、母は口調を和らげた。 「親兄弟を見捨てるとしても、世子のことまで見捨てる気? 十年も育ててきた子じゃない?腹を痛めた子と何の違いがあるというの?」 ふっ…… 「私は世子を我が子同然に、十年も心血を注いで育てましたが、あの子が私を母として慕ったことなど、一度でもありまして? 母上も同じです。弟の出世ばかりに現を抜かし、私もあなたの腹を痛めた娘だと、一度でも思い出してくださったことはありますか?」 母は言葉を失い、立ち尽くした。 遠くから、楽しげな笑い声が風に乗ってほのかな香りと共に漂ってきた。 数人の側室たちが東屋で詩を詠んでおり、その傍らには陸今安が座っていた。 「今日は吉事が重なりましたこと。世子様、私の詩はいかがでございましょう?」 「柔(じゅう)夫人は才色兼備、父上も絶賛される才女だ。 詩の出来も当然良い。どこぞの誰かのように、才も徳もなく、ふしだらで破廉恥、夜のお伽と厨でしか能のない女とは雲泥の差だ」 私は凍りついたように動けなくなり、胸がえぐられるようだった。 近しい者こそが、どこを刺せば最も痛いかを知り尽くしているものだ。 その卑俗で下劣な言葉は、これまで何度も耳にしてきたものだ。 「亡き王妃様と似た顔を良いことに、殿下を寝室から離さないなんて、恥知らずな」 「所詮は野暮な田舎娘、夜のお伽と、世子のために料理を作るくらいしか取り柄がございませぬ」 「女としてそこまで尽くしても、結局は側室すらもなれずにただの居候でしょう?」 あの頃、まだ物心つく前の陸今安は私の元へ駆け寄り、頬に口づけしてくれたものだ。 「あいつらは意地悪だ……義母上が好きだよ」 あの時「好きだ」と言ってくれた子が、今日、これほど軽蔑した目で私を見るとは、夢にも思わなかった。 才も徳もなく、ふしだらで破廉恥…… 夜のお伽と厨でしか能がない…… 私は滲む涙をこらえ、静かに母を見据えた。 「ご覧の通りです。殿下の寵愛を失い、世子にも疎まれる始末。私はもう役に立てませぬ。 母上の望みは叶えられませぬ、もうこれ以上、厲王家に留まるつもりは……」 パァン――― 乾いた音が響き、頬に痛みが走った。 口を開く間もなく、もう一発、平手打ちが飛んできた。 パァン! 「殿下の御心ひとつ、繋ぎ止められぬとは。 この役立たずめ!育てた甲斐もない!」 三発目が振り下ろされようとした瞬間、私は母を強く突き飛ばした。 母はよろめいた。 「この二発、甘んじて受けました。 一つは、十月十日の苦労への返礼。二つは、私を産み落とした恩への返礼。 あなた方の私欲のために、この厲王家で過ごした十年は、育ててくれた恩はもう返しました」 実家のために、親兄弟のために、私は女としての幸せをなげうち、尊厳など欠片もない生活を強いられた。 昼は誠心誠意、世子の世話をし、夜は抵抗することなく、慰み者にされ。 今まで、殿下と世子のために、心身の全てを捧げて参った。 もう誰にも何ひとつ負い目はございませぬ。 「ただ一人、申し訳が立たぬ相手がございましたら…… それは、私自身でございます」 第4話 母は怒りに袖を払って立ち去っていった。 私はその背中を長く見つめていた。 涙を拭い、振り返ると、そこには陸景行が立っていた。 いつからそこに居られたのか、どこまで聞いておられたのかはわからない。 だが、何を聞いておられようと、もはや私には何のかかわりもないことであった。 「凌萱、そなたは賢い女だ。 長年、爪を隠して耐え忍んできたのだ。 何が己がためになるか、分かるはず」 私が背を向けて歩き出すと、彼は鼻で笑った。 「そなたに薬を盛った者は追放した。これで気は済んだであろう。 今安はまだ子供ゆえ、無礼な口を利いたのだ。 後でしっかり言い聞かせておく、これでよいな?」 彼は傲然と顎をしゃくり、私がひざまずいて礼を言うのを待っていた。 だが今の私の心は、さざ波ひとつ立たぬほどに冷え切っていた。 「私など、何の値打ちもございませぬ。 殿下がご満足なら、それでよろしゅうございます」 私の投げやりな態度を見て、陸景行は冷笑した。 「足るを知らぬ女め」 「あら、私なら殿下に対して、そのような口を利くなど恐れ多くてできませぬわ」 東屋にいた側室が、媚びた笑みを浮かべて近づいてきた。 「まあ、なんと果報者でございましょう。 顔が亡き妃殿下に似ているというのは、やはりお得でございますね」 陸景行は私の沈黙に苛立ちを募らせたのか、その側室を抱き寄せると、彼女の体に触れ始めた。 側室は嬌声を上げ、だらしなく彼の胸に凭れかかる。 白昼堂々、情欲を露わにするその姿。 私や世子の目など、微塵も憚る様子はない。 「顔が似ているだけで何になるというのだ。 夜の伽も石地蔵のように無反応で、つまらない」 彼は手に力を込めながら、瞬きもせず私を見つめていた。 「あの顔に生まれていなければ、余に仕える光栄になど浴せなかったであろう」 光栄って、その言葉には、もううんざりだ。 「周嘉月に似ていることは、私の光栄なのか、それとも前世の業なのか!」 私は怒りで全身を震わせた。 「そのような光栄、こちらから願い下げにございます!」 「母上の諱を口にするとは!やはり邪心を抱いておったな!」 陸今安が怒りも露わに私を睨みつけた。 「その顔で父上をたぶらかし、惑わせたな。 父上の即位が近いと見て、自分の子を産み、俺の地位を奪う魂胆であろう! この浅ましい毒婦め!その顔を剥ぎ取り、八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」 私はよろめき、後ずさった。 耳の奥で何かが鳴り響いた。 これが、手塩にかけて育てた我が子の言葉なのか。 「本気で、そう思うておられるのですか?」 私は血の気を失い、呆然と彼を見つめた。 「私を……殺したいと申すのですか?」 私が手ずから慈しみ育てた子なのに。 この子がかつて、重病になり、侍医もさじを投げた時。 私は豪雨の中、京中の寺社を巡り、額を擦りつけて祈った。 ただ、この子の無事な成長だけを願って。 無事に育ったというのに、今、私の命を奪おうとしている。 私は溢れる涙をぬぐいもせず自室へ戻り、まとめてあった荷物を手に取り、一歩一歩、厲王家の外へと歩き出した。 「真に出て行くつもりか?」 厲王と世子が、冷ややかな面持ちで門前に立ち塞がった。 「立ち去るのは勝手だが、厲王家の物を持ち出すことは許さぬ!」 陸今安は私の荷物をひったくり、地面に投げ捨てて蹴り飛ばした。 「卑しい育ちの者は、これだから手癖が悪くて困る」 包みの中身が古着一枚だと見て、彼は一瞬言葉を詰まらせた。 「何も持っていない?まさか、懐に隠しておるのでは?」 私は無表情のまま、両手を広げて見せた。 「世子様自ら、お改めになりますか?」 彼らは厲王家の地位と権力しか見ていないが、ここにある塵一つでさえ、私にとっては屈辱なのだ。 厲王家の物など持ち出すはずがない。 荷物を拾い上げ、厲王家の門をまたごうとした、その時。 陸景行が冷然と言い放った。 「嘉月の顔をしたまま、ここを出て行くことなど断じて許さぬ」 次の瞬間、冷ややかな光を帯びた短刀が、私の顔めがけて振り下ろされた。