愛より金。母を殺した夫と息子、一生許さない

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愛より金。母を殺した夫と息子、一生許さない

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年の瀬が迫ると、都心のセレブ妻の間では、福の神にお参りするくらいなら、私、松浦莉子(まつうら りこ)に願ったほうがいいなんて冗談が飛び...

Chương (1)

第1章

年の瀬が迫ると、都心のセレブ妻の間では、福の神にお参りするくらいなら、私、松浦莉子(まつうら りこ)に願ったほうがいいなんて冗談が飛び交っている。 なぜなら復縁後、私は都心で一番がめつい本妻として有名になったからだ。 松浦純一(まつうら じゅんいち)が愛人をどれだけ可愛がろうと、もうどうでもよくなった。 息子の松浦俊介(まつうら しゅんすけ)が愛人のことを「ママ」と呼んでも、私は何も言わなかった。 この家には、ただ一つだけ新しいルールができた。 愛人の栗原茜(くりはら あかね)の名前を一度言うごとに、私に200万円払うこと。 おかげで、2週間もしないうちに6億円も貯まった。 結婚記念日に、純一はまた俊介に茜の話をした。 二人の顔がこわばる中、私はただ、慣れた手つきで手を差し出した。 「200万円。口座に振り込んどいて」 とうとう俊介が我慢できなくなり、私を軽蔑するような目で見て言った。 「ママ、本当に俗っぽい。頭の中はお金ばっかりなの?そんな些細なことで金を要求するなんて、茜さんには大違いだよ」 私は言い返さず、ただ俊介にも手を差し出した。 「200万円。先に名前を出したのはあなただから、あなたも払って」 第1話 年の瀬が迫ると、都心のセレブ妻の間では、福の神にお参りするくらいなら、私、松浦莉子(まつうら りこ)に願ったほうがいいなんて冗談が飛び交っている。 なぜなら復縁後、私は都心で一番がめつい本妻として有名になったからだ。 松浦純一(まつうら じゅんいち)が愛人をどれだけ可愛がろうと、もうどうでもよくなった。 息子の松浦俊介(まつうら しゅんすけ)が愛人のことを「ママ」と呼んでも、私は何も言わなかった。 この家には、ただ一つだけ新しいルールができた。 愛人の栗原茜(くりはら あかね)の名前を一度言うごとに、私に200万円払うこと。 おかげで、2週間もしないうちに6億円も貯まった。 結婚記念日に、純一はまた俊介に茜の話をした。 二人の顔がこわばる中、私はただ、慣れた手つきで手を差し出した。 「200万円。口座に振り込んどいて」 とうとう俊介が我慢できなくなり、私を軽蔑するような目で見て言った。 「ママ、本当に俗っぽい。頭の中はお金ばっかりなの?そんな些細なことで金を要求するなんて、茜さんには大違いだよ」 私は言い返さず、ただ俊介にも手を差し出した。 「200万円。先に名前を出したのはあなただから、あなたも払って」 …… 俊介は、信じられないとでも言うように目を見開いた。まるで私のことが、まったく知らない人のように見えた。 それでも私は、ただ手をもう一度前に突き出した。「200万円。ママに何度も言わせないでくれる?」 パリン、と音がした。 純一がコップを叩き割り、俊介を背中にかばいながら、眉をひそめて私を見ていた。 「莉子、そんなことをして楽しいか?」 私は顔を上げて彼を見つめ、ふっと笑った。「どうして楽しくないの?俊介をあの女に会わせたのは、私じゃないもの」 純一の顔は一瞬こわばったものの、すぐに元に戻った。 彼は私の手を握りしめ、優しい口調で囁いた。 「俺が悪かった。今日は結婚記念日なんだ。怒らないで、な?」 昔は、純一が謝る言葉を聞くのを夢見ていたこともあった。 だけど今では、うんざりするだけだった。 「怒ってないわ。俊介の分、あなたが払ってちょうだい」 純一の我慢は、ついに限界に達した。 「ああ、そうか。結構だ。 莉子、お前のこと、本当に見損なったよ」 彼はカバンから手形を取り出し、400万円と書き込んで私の顔に叩きつけ、すぐに俊介を抱き上げて背を向けた。 私はかがんで手形を拾った。二人がどこへ行こうが、もうどうでもよかった。 だって、どうせ茜が答えを言い出すから。 スマホを開くと、案の定、茜からメッセージが届いていた。 今日、純一たちは彼女と遊園地に行ったようだ。写真の中の三人は、まるで本当の家族みたいに見えた。 だって、こんなありふれた日常を、純一と俊介が私と一緒に過ごしてくれたことは、一度もなかったから。 遊園地どころか、写真を撮ろうとするだけで、二人はいつも嫌そうな顔をしてカメラから逃げていた。 その次の瞬間、スマホが鳴った。 純一と茜が隠し撮りされた写真が何枚か、目に飛び込んできた。 週刊誌の記者から、悪意のある脅迫めいたメッセージが送られてきたのだ。 【松浦さん、旦那さんの不祥事がネットニュースで騒がれるのはお嫌でしょう?復縁したばかりですし、足場を固めませんと】 返事をするのも面倒で、私はその記者をそのままブロックした。 あの二人が犯した過ちの後始末を、どうして私がしなきゃいけないの? 1時間後、二人の不祥事はあっという間にネット中に広まった。 家に帰ってきた純一は、抑えきれない怒りを込めた目で、私を睨みつけていた。 「一体なんてことをしてくれたんだ?」 私は純一のスマホの画面に目をやった。 どうやら記者は彼からもお金を取れず、逆上して記事を公開したらしい。 純一の様子から、私がわざと情報を漏らしたと信じ込んでいるのが一目瞭然。 私は落ち着いた声で答えた。「私じゃないわ。あの記者が、お金をもらえなくて八つ当たりしただけよ」 純一は鼻で笑うと、私の顎をぐいと掴んだ。 「金?この世にお前以上に金が好きな人間がいるとでも? 復縁してからすぐに家と金を要求して、子供の無邪気な一言にまで金をせびる。 そんなお前が何を言ったところで、説得力なんてないんだよ。恥ずかしいと思わないのか?」 爪が食い込むほど拳を握りしめ、私は純一の手を振り払った。 純一が言っていることはすべて事実だった。それなのに、胸が痛くて息苦しかった。 私が母の病気で大金を必要としていることを、彼は知っているはずなのに。 それでも純一は、私がお金で彼の気を引こうとする、嫉妬深い女だとしか思っていない。 私は自嘲するように、ふっと笑った。 もがいた際に、純一の腕時計のベルトで手の甲を切ってしまった。 私の手から流れる血を見て、俊介は顔色を変え、駆け寄ってきて私の手を取った。 小さい頃のように、傷に息を吹きかけてくれるかと思った。 でも次の瞬間、彼は私の傷口を力いっぱい押さえつけたのだ。 思いがけないことに、痛みのあまり涙が溢れ出した。 俊介は手柄を自慢するように、茜にビデオ通話をかけた。 「茜さん、見てる? 悪いママがあなたを泣かせたから、僕が仕返しにママを泣かしてやったんだよ。 パパが言ってたみたいに、僕があなたのこと、ずっと守ってあげるからね」 私は呆然とし、涙を流す気力さえ失ってしまった。 純一は慌てて俊介の口を塞ぎ、申し訳なさそうに私に視線を向けた。 「子供の無邪気な言葉だから、大人がいちいち気にするな」 数秒間呆然として、やっと彼の言葉の意味を理解した。 涙を拭こうとしても、止まらずに溢れ出してくる。 純一の目に、ようやく戸惑いの色が浮かんだ。そして、ハンカチを差し出してきた。 「ほら、拭けよ。泣くな……」 私も同時に手を差し出した。 「200万円。今、俊介があの女の名前を言ったわ」 純一の動きが、ぴたりと止まった。 数十秒後、彼はやっと我に返った。 私を見る純一の目には、まず驚きが浮かび、そしてそれが怒りへと変わっていった。 ガシャン。 彼はテーブルを蹴り倒した。 「もういいだろ、莉子!いい加減にしろ!」 第2話 「金、金、金って……俺の妻じゃ不満か?お前はもう、金の話しかしないんだな。 どうしてお前はそんな人間になってしまったんだ? こんなお前とよりを戻したのは、間違いだったかもしれないな」 間違い、だって? ええ、私もそう思っているわ。 元カノと切れずにいるような男だって知ってたら、絶対に結婚なんてしなかったのに。 私は思わず笑って、また純一にお金を催促するジェスチャーをした。 「ええ、私はこんな浅はかな女だよ。茜さんのように上品じゃない。だから、早く金をくれよ」 純一は呆然とした。 俊介がスマホの画面を消して駆け寄ってきた。そして、小さな両手を広げて、純一をかばうように私の前に立ちふさがった。 「ママの意地悪!パパをいじめないで。 200万円でしょ?僕があげるよ」 次の瞬間、一枚のキャッシュカードが私の顔に投げつけられた。 子供は力の加減が分からないから、カードの角で私の頬を切ってしまった。 そのやり方は、かつて純一が私に手形を投げつけた時とそっくりだった。 さすがはお金持ちの親子ね。私が離婚した時、親戚中に頭を下げても借りられなかったお金を、こんな小さな子供でも簡単に差し出してくるんだから。 血が頬を伝い、床にぽたぽたと落ちた。 でも私は気にせず、まず床に落ちたカードを拾った。 この200万円があれば、母にもっと良い薬を使ってもらえる。 俊介は私が血を流すのを見て慌てたようだ。無意識に、「ママ……」と声を漏らした。 彼が私に手を伸ばそうとしたけど、大きな手に阻まれた。 純一は俊介を片腕で抱き上げると、複雑な表情で私を見下ろした。 「俊介、よく見ておくんだ。君が大きくなったら、こうやって金をせびってくる貧乏人がいくらでも寄ってくるぞ。 しっかり気をつけろ。たとえ実の母でもな」 そう言うと、彼は俊介を連れて行ってしまった。 一度も、こちらを振り返ることはなかった。 傷の手当てを済ませると、私は部屋に戻ってぐったり眠ってしまった。 次に目を覚ましたのは、階下から聞こえてくる楽しそうな笑い声が原因だった。 ソファでは、茜が俊介と夢中になって遊んでいた。 私の視線に気づいた純一は、悪びれる様子もなく、当たり前のように言った。 「茜が、お前がネットの噂のうまく対処しなかったせいで大泣きしたんだ。何かあったら心配だから、ちょっとうちで休ませてるんだ。 気にしないでくれ」 私は何も言わず、ただじっと俊介を見つめた。 この子がこんなに楽しそうに笑うのを、どれくらい見ていなかっただろう。 私が黙り込んでいるのを見て、純一は気まずそうに表情を曇らせ、少し口調を和らげた。 「もし、お前が嫌なら……」 「別に、かまわないわ」 私の言葉に純一は一瞬詰まったが、すぐに表情を立て直した。 「駆け引きのつもりか?つまらないな。 どうせ俺を止められないと分かって、やり方を変えたのか? 昔のお前は、こんなんじゃなかった」 確かにそうね。昔の私は、純一と茜が一緒にいるのを見ただけでおかしくなりそうだった。彼の服から知らない女の香水の匂いがすれば、家中のものをめちゃくちゃに壊してたんだ。 昔の私は、ほんの少しの嘘も裏切りも許せなかった。 でも今の私は、少し賢くなった。 愛なんて何の役に立つの?やっぱり金の方が大事よ。 だから、私はまた純一に手を差し出した。「さっき、彼女の名前を2回呼んだわね。400万円、ちょうだい」 純一は鼻で笑うと、何度も頷いた。 「いいだろう。くれてやるよ。 もっと金になる話があるが、乗るか?」 私は顔を上げて、彼をまっすぐに見つめた。 この男が、そんなに親切なはずがない。 私の考えを読み取ったように、純一は気だるげに口を開いた。 「記者会見を開いて、ネットの動画はお前が茜に嫉妬して、記者に金を渡して造った偽物だと言え。 それが済んだら、4億円やる」 「狂ったの?」私は思わず言い返した。「あのネットの噂、すぐにあなたが押さえたじゃない」 意味が分からない。純一自身が招いた騒ぎなのに、どうして私が悪者にされなくちゃいけないの? 純一の声は、氷のように冷たかった。 「ああ、押さえたさ。だが、この一件で茜は深く傷ついたんだ。お前が謝罪するのは当然だろう?」 私は怒りを超えて笑い出した。「どうして私がその条件に応じると思ってるの?」 純一はゆっくりとスマホを取り出し、集中治療室にいる母の写真を私に見せつけた。 「これを盾にするのさ。お前の母の主治先生を紹介したのは俺だし、あの病院のスポンサーも俺だ」 画面に映る母の青白い顔を見て、久しぶりに恐怖で全身が凍りつくのを感じた。 ぎゅっと握りしめた拳を、私はゆっくりと開いた。 「……わかったわ。同意する」 頷いた瞬間、力が抜け、冷たい汗が全身に渡った。 そばにいた俊介は、大喜びで飛び跳ねた。 私が邪魔だったのだろう。俊介は私を押しつき、茜に抱きついた。 「やったあ!意地悪なママが、やっと茜さんに謝るんだ。 茜さんのほうがお姫様みたいで好き」 茜は声を立てて笑い、得意げな視線を私に向けた。 「ごめんなさいね、莉子さん、俊介くんは、私のほうにもっと懐いてるみたいです」 私は自嘲気味に口角を上げた。「そうね、私とは親子とは思えないものね」 私が背を向けてその場を離れた時、純一が複雑な表情で私を見ていたことには、気づかなかった。 第3話 記者会見の控え室。 美容師の仕事は、私をやつれて見せることだった。 その一方で、隣のドレッサーでは茜が有名な美容師たちに囲まれていた。彼女は、いつも以上に輝いて見えた。 俊介は茜の周りを飛び回りながら言った。「わあ、茜さん、すっごくきれい」 でも、私の方を振り向くと、途端に嫌な顔になった。「ママは意地悪な魔女みたい」 純一が電話をするために席を外すと、茜の甘い笑顔はすっと消えた。 「どんな気持ち?旦那さんに愛されず、息子にも嫌われるなんて気持ち、どう? 純一と復縁したって何の意味もないわ。彼が愛しているのは、今も私だけなんだから」 茜は私の目の前に、スピーチ原稿を投げつけた。 「これを見て。純一が、あなたのためにわざわざ書いてくれた罪状なんだから。 前もって、じっくり味わってみない?」 私はうつむいた。原稿には、びっしりと書き込まれた修正の跡があった。 かつての純一は、私のメッセージに返信することすら、時間の無駄だと思っていたのに。 私はうつむいて自嘲気味に笑うと、顔を上げて茜をまっすぐ見つめた。 「私が共倒れの覚悟で、ステージであなたが不倫相手だと暴露したらどうする?怖くないの?」 茜の笑顔が一瞬固まったが、すぐにまたお腹を抱えて笑い出した。 「あなたの母が死んでもいいなら、やってみればいいじゃない」 彼女は手にしたブラックカードをひらひらさせた。 「純一がね、あなたの母の入院費が引き落とされる家族カードを、私にくれたの。 もし、私がうっかりこの支払いを止めちゃったら、どうなると思う?」 言葉が喉に詰まって、胸がぎゅっと苦しくなった。 純一は、母の命で私を脅すだけじゃなかった。その決定権まで、この女に渡していたなんて。 頭から冷や汗が流れ、もうプライドなんてどうでもよくなった。 私は会見のステージに上がり、ただ早くこの場を終わらせたい一心で、機械のように原稿を読み上げた。 記者たちの無数のカメラが、顔に突き刺さりそうなほど近かった。 茜の熱狂的なファンたちからは、非難の言葉が次々と投げつけられた。 会見が終わる頃には、私の名前がネットニュースのトレンドで一位になっていた。 スマホには、「クソ女」「悪女」といった言葉がひっきりなしに届いた。 私はすぐにスマホの電源を切ると、純一の元へ駆け寄ってお金を要求した。 「あなたの言う通りにしたわ。今度は、あなたが約束を守る番よ」 純一は冷たく鼻で笑うと、後ろにいた医師を呼んだ。 「こいつを診てやれ。ずいぶん顔色が悪い」 そして私に目をやると、吐き捨てるように言った。「勘違いするなよ。こんなところで死なれて、縁起が悪いだけだ」 私が顔を上げると、茜が得意げにカードをちらつかせているのが目に入った。 頭の中の理性の糸がパッと切れた。 「触らないで」 私は目を真っ赤にして、純一の腕を掴んだ。 「お金をちょうだい。早く、お金を!」 このお金さえあれば、もう脅されることもないし、彼らの言いなりにもならなくて済む。 母を連れて、ここから出ていくんだ。 私が言い終わってないうちに、体は強く突き飛ばされた。 純一は手を振って、医者を退かした。 「診なくていい。金目当ての女なんて、誰よりも命が惜しいから」 彼は、床に倒れた私を見下ろしていた。 「4億円は、お前の口座に振り込んである。 他に用は?なければどけ、子供に悪影響が出る」 大通りに出ても、タクシーは一台も止まってくれなかった。 私は病院まで、夢中で走り続けた。 母はとっくに手術室に運ばれているのに、なぜか医師も看護師もその前に立っているだけだった。 全身の血が、頭に逆流している気がした。 私はそばにいた看護師の手を掴んで、問い詰めた。 「どうして母の手術をしてくれないんですか!」 第4話 「どうしてですか? 母の顔が真っ青ですよ」 看護師はごまかしながら口を開いた。「申し訳ありません、患者様の前払い費用は既に使い果たし、先ほどどなたかが引き落とし経路を凍結させました。規定により、費用がなければ手術はできません」 お金がない? 「だったらなんで、私に電話くれなかったんですか!」 状況を聞いている暇なんてない。私は震える手で自分のキャッシュカードを取り出し、看護師に押し付けた。 「この中に6億円あります。お金ならありますから、早く母の手術をしてください!」 しかし、会計に行った看護師はすぐに戻ってきて、カードを突き返した。 「このカードは凍結されています。残高が使用できない状態です」 そんな……まさか…… 頭の中が、真っ白になった。 復縁してから、純一が私にくれたお金は全部この中に入っているのに。どうしてお金がないの? ピコン、とスマホにメッセージが届いた。 純一からだった。 【さっき、茜のために真珠のセットを買ってあげたんだけど、部下のミスでお前の家族カードからお金を引き落としちゃったみたいだ】 【ごめん。あとで倍にして返すから】 震える手で、もうスマホを握っていられなかった。 母の呼吸がどんどん弱くなっていくのを見て、内臓が粉々に引き裂かれるような気がした。 ふと、視界に入った手元のバッグを見て、最後の希望が湧いた。 「息子が買ってくれた、限定品のバッグです。最低でも数百万円はします。先に手術をしてください。すぐにこれを売ってお金を作りますから。お願いします!」 これは、茜が帰国する前に、俊介がお年玉で買ってくれたバッグだ。 離婚した時、あれほど生活に困っていても、売ることだけはできなかった。 でも、ブランド物に詳しそうな別の看護師が、同情するような顔で私のバッグを指さした。 「あの……すみません、これってたぶん偽物じゃないですか?ロゴの色、褪せてますよ」 彼女の視線の先を見ると、バッグのロゴは笑ってしまうほど安っぽかった。 スマホに、俊介からボイスメッセージが届いた。 「ごめんね。茜さんがママのバッグをきれいだって言うから、本物はあげちゃったんだ。 どうせママには本物と偽物の区別もつかないでしょ。これは精巧な偽物だから、これで我慢してよ。気にしないでね」 手からバッグが滑り落ちた。 全身から、一瞬で力が抜けた。 私は、母の顔に白い布がかけられるのをただ見ていることしかできなかった。涙は一滴も出てこなかった。 どれくらい時間が経ったでしょ。純一から、明るい声で電話がかかってきた。 「お金、5倍にして返しておいたから。もう怒るなよ。今夜は俊介の誕生日なんだから、お前も来い。みんなを待たせるな」 私は感情を押し殺して、「わかった」とだけ答えた。 電話を切ってから、凍結が解除された口座の30億円という残高を見つめた。 心は、何も感じなかった。 私は、かつて自分を脅してきた週刊誌の記者の電話番号を呼び出した。 「こっちに30億円の価値がする、どでかいスクープがあるんだけど、興味ありますか?」 夜のパーティーで、茜は派手なドレスで着飾り、俊介に何か話しかけようとしていた。 しかし、俊介は彼女の手を振り払い、落ち着きなく周りを見回している。 「ママは?なんでまだ来ないの?」 純一はイライラと時計を見ながら、焦ったように歩き回っていた。 「あいつ、まだ来ないのか?まだ機嫌が悪いのか?」 次の瞬間、会場の巨大スクリーンが、ぱっと明るくなった。 スクリーンに映し出されたものを見た途端、純一の顔色が一瞬にして変わった。