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再びあの日、皇帝を守るために
陛下が刺客に襲われたその日、禁軍統領である夫は、機嫌を損ねて立ち去った想い人を追いかけ、私のそばにはいなかった。 臨月の身でありながら...
Chương (1)
第1章
陛下が刺客に襲われたその日、禁軍統領である夫は、機嫌を損ねて立ち去った想い人を追いかけ、私のそばにはいなかった。
臨月の身でありながら、私は救援を呼ぶための信号花火を放たなかった。代わりに陛下の前へ進み出て、この身を盾にして、陛下をその場から逃れさせる時間を稼いだのだ。
そうしたのは、前世の記憶があったからだ。
かつて私は信号花火を放ち、夫を呼び戻した結果、彼は陛下を救った功により護国侯に封じられた。だがその裏で、彼が置き去りにした想い人、青玉煙(せい ぎょくえん)は罠にかかり、命を落としていた。
夫は何も語らなかったが、私が子を産むその日、彼は私を猛獣の巣食う穴へ投げ捨てた。
「陛下のまわりには護衛が大勢いたはずだ。なのに、なぜわざわざ俺を呼び戻した?お前は権勢と富に目がくらみ、わざと俺を陛下の救援に向かわせたんだろう。お前が信号花火さえ放たなければ、玉煙は死なずに済んだんだ!」
冷えきった声でそう言い放ち、彼は私に、玉煙が味わった以上の苦しみを、お前にも与えてやると告げた。
私は獣に喰い裂かれ、腹の中の子さえ守れぬまま、無惨な最期を迎えた。
――そして目を開けると、私は再び、陛下が刺客に襲われたその日に戻っていた。
第1話
「早く、陛下をお守りしろ!」
目の前に現れたのは、よく訓練された黒衣の刺客たちだった。私・落微(らく び)は反射的に一歩退いた。
――本当に私は再びこの時へ戻ってきたのだ。しかも、すべてが起こったまさにその時に。
我に返ると、私は固く握りしめていた信号花火へ視線を落とした。誰にも気づかれぬうちに、それを勢いよく傍らの湖へ投げ込む。
そして私は、刺客と斬り結ぶ陛下の前へ、渾身の力で身を躍らせた。陛下が愕然と目を見開く中、私は自らの身を盾とし、刺客の刃を一撃、また一撃と受け止める。
陛下の瞳に浮かんでいた戸惑いが、やがて感動と驚愕へと変わっていくのを見て、私は自分が賭けに勝ったのだと悟った。
夫の羅文州(ら ぶんしゅう)は禁軍統領で、ふだんなら片時も離れず陛下のおそばに仕えている。だが今日、陛下が刺客に襲われたというのに、彼はこの場にいなかった。
青玉煙(せい ぎょくえん)という、機嫌を損ねて立ち去った想い人を慰めていたからだ。
前世で、私は彼が咎めを受けるのを恐れ、信号花火を放って彼を呼び戻した。彼は陛下を護衛した功績により、確かな恩賞を手にしたが、青玉煙は罠にかかり、命を落としていた。
羅文州は私が虚栄をむさぼったせいで青玉煙が無惨な死を遂げたのだと思い込み、私をみずから用意した猛獣の巣食う穴へ投げ込み、私も子供も獣に喰わせた。
せっかく天が私にやり直しの機会を与えたのだ。今度こそ、前世と同じ轍は決して踏まない。
私は必死に陛下を庇った。刺客の刀剣が何度もこの身に突き立っても、歯を食いしばり、ひと言も洩らさない。
陛下の周囲には護衛が多い。援軍が駆けつけるまで持ちこたえさえすれば、私はきっと生き延びられる。
陛下もそれをよくわかっていた。どれほど本意ではなくとも、私の背後に退くほかなかった。
その時、刺客たちもようやく、私が陛下の肉壁になっていることに気づいた。彼らは目配せを交わすと、容赦なく私の腹へ刃を突き立てた。
――お腹には、まだ八か月の子がいるのに。
私はほとんど毎日のように、その子が胎内で動くのを感じていた。前世で死の間際にあった時には、その泣き声さえ聞いたほどだった。
この一刀は、前世で獣に喰われた時よりもなお、深く痛んだ。こらえきれない悲鳴が喉から漏れる。
視界は真っ赤に染まり、刺客たちがいよいよ私にとどめを刺そうとしているのがわかった。下腹に、ずしりと落ちるような痛みが走る。
前世で腹を獣に裂かれた時の痛みとはまた違う。自分にとって何より大切なものが、この身から離れているのが、はっきり感じられる。
私は手を伸ばして掴もうとした。けれど指先に触れたのは、血に染まった陛下の龍袍(りゅうほう)だけだった。
騒然とした足音が近づいてくる。そして私は、陛下の慌てた怒号を耳にした。
「御医はまだか!御医はどこだ!これは誰の家の者だ、早く参れ!」
私は口を開いたが、吐き出せたのはひと口、またひと口とあふれる血ばかり。それでも陛下は嫌な顔ひとつせず、私のそばへ身を寄せてくださる。
私は全身の力を振り絞り、ようやくいくつかの言葉を押し出した。
「私は……禁軍統領、羅文州の妻にございます……」
第2話
そう言い終えたところで、私はついに力が尽き、そのまま意識を手放しかけた。だが御医が、すかさず私の体に鍼を打ち込む。
額の冷や汗を拭いながら、御医は切迫した声で告げた。
「夫人、お眠りになってはなりません。ここで眠れば、もう二度と目を覚ませなくなりますぞ。ご夫君のことを、そしてお子のことをお考えください。皆、あなたを待っておられるのです!」
陛下も傍らから言葉を重ねる。
「そうだ、そのとおりだ。そなたは朕を救った功ある身。傷が癒えた暁には、朕自らそなたを護国夫人に封じよう。栄華も富貴も思うままだ。腹の子が女子であれば皇子妃に、男子であれば高官に取り立ててやる。ゆえに気をしっかり持て。朕はすでに人をやって羅文州を呼びに行かせている!」
その言葉を聞き、私はかすかに口の端を引いた。
私は愚かではない。陛下のために身を挺したあの時から、腹の子がもう助からぬことくらい、とうにわかっていた。
それに、羅文州が来るはずもない。案の定、その時になって、陛下が羅文州を呼びにやった宦官が慌ただしく戻ってきた。
その者はどさりと地にひざまずいたまま、どうしても陛下の顔を見上げようとはしない。陛下は眉をひそめ、怒りを抑えきれぬ声で問いただした。
「羅文州はどうした!」
宦官は震えながら答えた。
「羅様は……おいでになりませぬ。それどころか、その……そのような手立てで同情を買おうとしても無駄だ、と……」
そう言うと、宦官は額が砕けんばかりに床へ頭を打ちつけた。けれど私は知っていた。
羅文州の吐いた言葉は、きっとそれだけでは済まなかったのだろう。ただ宦官は、陛下の御前で口にするのを憚っただけだ。
それも当然だった。羅文州の心の中では、私は青玉煙の足元にも及ばぬ存在なのだから。
だが私は、羅文州の正室だ。青玉煙は、ただの妾にすぎない。
それなのに彼は、妾を追うために陛下の安危すら顧みず、禁軍まで率いて青玉煙を慰めに向かったのだ。あの信号花火でさえ、彼が立ち去る前に、私がひざまずいてようやく持たせてもらったものだった。
前世では信号花火を放てば、私を虚栄に目のくらんだ女と罵った。今生では陛下の召しがあっても、なお意に介そうとしない。
そこまで青玉煙を愛しているのなら、なぜあの時、私を妻に迎えたのか。怒りが胸の奥からこみ上げ、私はまたひと口、血を吐いた。
御医は今にも落ちそうな冠を押さえながら、戦々恐々として陛下をうかがう。
「陛下、羅夫人はあまりにも気が昂っております。このような時に身内が傍らにおらねば、恐らく本当に持ちこたえられませぬ!」
陛下は私をひと目見ると、胸中の怒りをどうにか押し殺した。そして腰に下げていた玉佩を外し、宦官へ投げ渡す。
「朕の印だ。行け。これは朕の命令だと伝えよ。それでもなお来ぬというなら――朕はやつを斬る!」
陛下は本気で怒っていた。陛下の身辺には、ふだんなら護衛が幾重にも控えている。
それが、よりによって刺客に襲われたこの日に限って、ひとりとして側にいなかったのだ。私が命を懸けて陛下を救ったというのに、当の私の夫すら呼びつけられぬ。
至尊たる陛下にとって、それはまさしく耐え難い屈辱だった。私の容態では身動きもできず、御医の鍼でかろうじて命を繋ぎながら、薬が煎じ上がるのを待つしかなかった。
そのため、宦官が再び復命した時も、私はまだその声を耳にしていた。だが今度は、宦官はひとりではなかった。
私は力を振り絞って目を開ける。そこに立っていたのは、前世で嫌というほど見覚えのある女――青玉煙の侍女、翠児(すいじ)だった。
もとはといえば、翠児は私付きの侍女だった。だが私が身ごもってからというもの、あの女は私の食事に毒を盛り、発覚した時には、私はすでに命の瀬戸際に立たされていた。
私は翠児を許すつもりなどなく、その場で打ち殺そうとした。するとそこへ、羅文州が青玉煙の腰を抱き寄せて入ってきた。
あの時の羅文州の目を、私は今も忘れられない。あまりに冷えきっていて、まるで私が彼の妻ではなく、仇であるかのようだった。
青玉煙は傍らで声も立てられぬほど泣きじゃくり、翠児の手を握りしめながら、哀れを誘う目で私を見た。
「奥さま、どうしてそこまでお情けがないのですか。あなたは死なずに済んだのではありませんか。なのに、なぜ侍女ひとりの命まで奪おうとなさるのですか。あまりにもむごうございます。
文州さま、よろしければこの侍女を妾にお預けくださいませ。妾はしがない側室の身ではありますけれど、侍女ひとりの命くらいはお守りできますわ」
第3話
羅文州は青玉煙のほうへ向き直ると、どうしようもないといったふうに、ひとつ溜息をついた。
「お前は相変わらず善良すぎる。落微、玉煙の言うとおりだ。お前は死ななかったのだから、いつまでも根に持つ必要はない。翠児は玉煙に預けてしまえ。今後は、こんな些細なことで騒ぎ立てるな」
私は信じられない思いで羅文州を見つめた。私は彼の子を身ごもり、あやうく毒殺されかけたのだ。
それなのに彼は、死ななかったのだから咎めるなと言う。そんな理屈が、この世のどこにあるというのか。
けれどその頃の私は、まだ羅文州を慕っていた。彼は青玉煙に惑わされているだけで、私は正室なのだから、人を受け入れる度量を持つべきだ――本気でそう思っていたのだ。
だが、ある時私は目にしてしまった。羅文州が青玉煙と語らっているところを。
羅文州は目を細め、甘やかな眼差しを向けていた。
「まったく、お前は。次に毒を盛る時は、もう少しうまくやれ。今度また見つかったら、さすがに俺も庇いきれん」
青玉煙は羅文州の腕にしなだれかかり、甘えるように声を上げた。
「わかりました。今回は本当にありがとうございました、文州さま」
傍らでは翠児まで笑っていた。三人はこのうえなく睦まじく、その光景を目にした私は、全身の血が凍る思いだった。
最初から最後まで、羅文州はすべて知っていたのだ。それどころか、意図して許していた。
何ひとつ知らされず、蚊帳の外に置かれていたのは、私ひとりだった。
……
胸の内で憎しみが荒れ狂い、再び翠児の姿を目にしただけで、感情は抑えようもなく波立った。
だが、そんな私の様子は、翠児の目には怯えと後ろめたさとして映ったらしい。先ほどまでの遠慮がちな態度は消え失せ、たちまち得意げにまくし立て始めた。
「奥様、羅様からの伝言です。今、うちの青様のお側にいたいのだと。あなたのことなど、死ななければそれでよいとのことです。もしこれ以上お煩わせするようなら、離縁状を突きつけて追い出すと仰せです。しかも、お腹の子には青様を『お母様』と呼ばせるとも仰っておりますのよ。
それだけではありません。羅様は、そもそもあなたなどお好きではないのです。当初あなたを娶ったのも、ご実家に権勢があり、ご自身の出世の役に立ったからにすぎません。今や羅様は禁軍統領。あなたをまだ置いておいてやるのは、羅様が情けをかけておられるからです。これ以上騒ぎ立てるなら、あとは死を待つばかりですよ!」
翠児が言い終えた時には、陛下の顔色はすでに真っ青になっていた。手にしていた茶碗を床へ叩きつける。
その物音を聞きつけ、侍従たちは一斉にひざまずいた。それでも翠児は、何ひとつ気づいていなかった。
彼女は牙をむくような勢いで私の前へ躍り出ると、あざけるように言った。
「奥様、もういい加減おやめなさいませ。そんな苦肉の策、羅様には通じません!それに、そこの野卑な男で羅様の嫉妬を煽れるなどと思っているなら、大間違いです。お腹の子を顧みもせず、この男と密通していたと、私がそのまま羅様に申し上げたら――あなたは八つ裂きにされるでしょうか、それとも車裂きでしょうか?」
翠児は得意満面だった。陛下は龍袍を汚したあと、今は粗末な麻の衣に着替えておられた。
そのせいで翠児は、陛下を私が連れ込んだ間男だと思い込んだのだ。
陛下の表情は、もはや見ていられぬほど冷えきっていた。冷笑をひとつ漏らすと、駆けつけてきた侍衛に命じ、翠児をその場で取り押さえさせた。
翠児はようやく異変に気づいたらしく、たちまち顔色を失う。何か言おうと口を開きかけたが、その前に宦官が口を塞ぎ、外へ引きずっていく。
「その者を車裂きの刑にせよ。屍は羅文州の前へ投げ捨てろ!朕も見てみたいものだ、その羅文州とやらに、いったいどれほどの貫禄があって、落夫人にここまでの辱めを受けさせたのかを!」
陛下のその呼び方に、私は思わずまばたいた。陛下はすでに、私と羅文州を切り分けて見ておられる。
――これでよかったのだ。少なくとも、この一手は間違っていなかった。
第4話
御医の薬も、ようやく煎じ上がった。それを飲み下すと、私はようやく安堵し、そのまま深い眠りへ落ちていった。
再び目を覚ました時、見知らぬ侍女が慌てて私の体を支え、上半身を起こしてくれた。
「夫人、陛下が襲われた件は重大事にございますので、陛下はすでに先に宮中へお戻りになりました。ただ、陛下は特にお言いつけになり、こちらで安心してご静養なさるよう仰せでございます。事が一段落なさいましたら、あらためてお見舞いにいらっしゃるとのことです」
私はうなずいた。前世でも、陛下が刺客に襲われた件は大きな騒ぎとなり、羅文州への恩賞も、すべての調べが済んでから下された。
陛下ご自身もお疲れの身だ。それでも私のことを気にかけてくださっているだけで、十分すぎるほどだった。
私はただ、陛下がこの件を処理し終えるのを、安心して待てばよい。そう思って気を緩め、口を開きかけたその時だった。
突然、慌ただしい足音が近づいてきた。振り向く間もなく、荒れた大きな手が私の顎を乱暴に掴み上げる。
――羅文州だった。彼は顔を険しく曇らせたまま、私を睨みつける。
「お前は本当に度胸があるな。まさか俺に隠れて、翠児を惨たらしく殺したとは!玉煙が翠児の亡骸を見て、どれほど心を痛めたか、お前にわかるか!この毒婦め!お前を妻にしたあの時の俺は、よほど目が節穴だったよ!」
私は打たれ、顔を横へ弾かれた。頬が焼けるように熱く痛む。
「そう。でしたら、私たちはここで別れましょう」
涙を拭いながら、私は言った。この言葉は、ずっと胸の奥に押し込めてきたものだった。
本当は、陛下の沙汰が下りてから、しかるべき形で羅文州のもとを離れるつもりでいたが、もう耐えられなかった。
前世の怨みも悔しさも、今生の痛みも、すべてがいっせいに押し寄せてくる。まるで分厚い繭の中に閉じ込められたように、息もできず、もがくことすらかなわなかった。
それまで威圧的に振る舞っていた羅文州も、私の言葉を聞いた瞬間、ふいに動きを止めた。眉をひそめ、値踏みでもするように私を上から下まで見回す。
この男が何を考えているのかと訝しんだ、その時だった。青玉煙が姿を現した。
昨日の騒ぎなど、まるで彼女には何の影も落としていないかのようだった。相変わらず、息をのむほどに美しい。
彼女がひとたび姿を見せれば、羅文州の目にはもう、ほかの誰も映らなくなる。彼は青玉煙を壊れものでも扱うように腕の中へ抱き寄せた。
ついさっきまで私を打ったその手が、今度は青玉煙の頬をやさしく撫でている。
「どうして来た?まだ体調が戻りきっていないだろう」
青玉煙は首を横に振った。
「妾は、文州さまのことが案じられて、様子を見にまいりました。けれど門の外まで来たところで、文州さまと奥さまが言い争っておられるのを耳にいたしました。それも、妾のことで。
妾は、お二人につらい思いをしてほしくはございません。いっそ、妾を追い出してくださいませ。そうすれば、文州さまももうお心を煩わせずに済みますもの」
そう言うそばから、青玉煙はぽろぽろと涙をこぼし始めた。その涙がひと粒、またひと粒と羅文州の衣に落ちる。
羅文州は胸を締めつけられたように狼狽え、慌てて青玉煙をなだめた。
「何を馬鹿なことを言う。わかっているだろう、俺の心にはお前しかいない。
落微が俺の子を身ごもっているから、少し情けをかけてやったにすぎん。
だが、このような女に子をきちんと育てられるはずがない。子が生まれたら、お前に預けよう。そしてお前を正室に封じる」
第5話
私はもがくようにして顔を上げた。
「正室だって……?子どもだって……?文州、あなたに心はないの?あの子はもう死んだのよ!あなたという父親のせいで死んだの!」
息も絶え絶えになりながら、私は声を振り絞って羅文州を責め立てた。だが彼は、鬱陶しげに眉をひそめるばかりだった。
「何をわけのわからぬことを言っている。翠児を殺しただけでは飽き足らず、今度は自分の子まで呪うつもりか。落微、お前は気でも触れたのか」
私はすっかり冷えきった心のまま、わずかに口元を歪めた。
「よくも子どものことを口にできるわね。あなたに、いったい何の資格があるというの。あの子は、あと少しで生まれてこられるはずだったのよ。あなたの身勝手のせいで、この世に生まれてくることすら許されなかったのよ。
文州、あの子の恨みが、夜ごとあなたを苦しめるとは思わないの?」
私は叫んだ。羅文州は愕然とし、信じられないというように青玉煙から手を離すと、ふらつく足取りで私の前へ歩み寄った。
「そんなはずは。もう八か月だったのではないのか?」
私は冷ややかに笑い、掛け布団をはねのけて、すでにしぼんでしまった腹をさらした。結局、あの子は助からなかった。
女御医にこの身の内から取り出された時には、全身が傷だらけだった。
羅文州の手が震えながら、私の腹へ伸びかけた、その時だった。
青玉煙が鋭く声を上げた。
「文州さま、ここまで来ては、もう隠してはおけません。実は妾、あの場を離れたのは、奥さまが間男と白昼堂々逢引きしているところを目にしてしまったからなのです。お腹の子も、二人が密通しているうちに、とうに失われておりました。妾が逃げ出さなければ、奥さまはきっと妾を殺していたはずです!
文州さま、よくお考えくださいませ。どうして翠児が死んだのか、そして奥さまが命懸けで守ったのが、いったい何者だったのか。つまり、奥さまはとうに子を失っていたのに、それを文州さまのせいにして、罪悪感を抱かせようとしているのです!」
青玉煙の言葉は、羅文州の耳元で雷のように響いた。彼は一歩後ずさりし、何かに気づいたように目を見開く。
「……そうだ。玉煙の言うとおりだ。お前は身ごもってからというもの、ずっと俺を遠ざけていた。あれは、心に決めた間男がいたからなのだな!」
私は笑った。羅文州のあまりにも愚かな思い込みに、怒りを通り越して笑うしかなかったのだ。
「今日は陛下の巻き狩りの日だった。私が子を失ったのは、陛下を庇って刺客の刃を受けたからよ。では、陛下をお守りするはずのあなたは、その時どこにいたの?あなたが玉煙のもとへ行かなければ、私たちの子が死ぬこともなかった!」
取り乱したまま、私は目元の涙を乱暴にぬぐった。
「わかっているの?私たちの息子は、もう少しで無事に生まれてくるはずだったのよ」
だが羅文州は、私の言葉を少しも信じなかった。彼の目には殺気が満ち、腰の剣を抜き放つと、そのまま私の喉元へ突きつける。
「何が陛下だ。そんなもの、間男に決まっている!白昼のもとでよくもそこまで汚らわしい真似ができたものだ。俺にバレないとでも思っていたのか!
今日、お前がその間男の居場所を吐かなければ、妓楼へ売り飛ばしてやる。そうなった時、お前が今のように口をつぐんでいられるか、見ものだな。その間男も、必ずこの手で殺してやる。しかも、八つ裂きにしてな!」
冷たく鋭い刃が喉に食い込み、血は熱く流れているのに、私の心は少しも温まらなかった。その時、不意に、重く力強い足音がゆっくりと近づいてきた。
「無礼者。羅文州、朕こそが、そなたの言うその極悪非道の間男だ。どうした――朕を八つ裂きにするのではなかったか?」