割り勘夫に、大富豪の娘という正体を明かす

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割り勘夫に、大富豪の娘という正体を明かす

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それは、私の娘の内田奈々(うちだ なな)百日祝いの席でのことだった。 夫の内田彰人(うちだ あきと)が連れてきた女性秘書・藤堂紬(とうど...

Chương (1)

第1章

それは、私の娘の内田奈々(うちだ なな)百日祝いの席でのことだった。 夫の内田彰人(うちだ あきと)が連れてきた女性秘書・藤堂紬(とうどう つむぎ)が、平然と彼の腕に手を絡ませながら言う。 「ねえ、見て見て、彰人。ネイル変えたんだ。それに、あなたが買ってくれたダイヤの時計もつけてきたの。 それと、何だか喉が乾いちゃった。でも、ここには私が飲みたいものがないの。彰人、ちょっと買ってきてくれない?」 その場にいた内田家の親族たちは、驚いて彰人を見つめる。 しかし彰人は何ひとつ文句を言わず、紬のために飲み物を買いに席を立った。 その瞬間、私の心の中で何かがぷつりと切れた。 自分の何年も着古した服と、ガサガサになった自分の手を見つめる。 紬のために飲み物を買って帰ってきた彰人が、冷たい声で私に言った。 「妻は夫の顔っていうだろ?それなのに……なんだ?お前のその冴えない様子は。 外で働いて稼ぐわけでもないし、俺の世間体も気にしてくれない。この家に何の役にも立ってないじゃないか。 まあ、そういうことだから、明日から生活費は全て折半にしよう。お前に金を使うくらいなら、投資に回した方が断然いいからな。その方が有意義な使い方だろ?」 私は何も言い返さず、ただ静かに「わかった」と答えた。 そしてそのまま、兄の加藤琉生(かとう るい)に電話をかけた。 「お兄ちゃん、彰人の会社への出資を引き揚げて。 私、もう離婚することにしたから」 第1話 娘の内田奈々(うちだ なな)の百日祝いのために用意された料理は、ほとんど冷め切ってしまっていた。 私は眠った奈々を抱き、隅で座っていたのだが、周りは私の姑である内田千春(うちだ ちはる)を持ち上げるのに必死だった。 彼らは口々に、千春の育児の苦労を労う。 そして、夫の内田彰人(うちだ あきと)にも昼は仕事、夜は育児で大変だと言っていた。 だが、私に対して何か労いの言葉をかけてくれる人は誰もいなかった。 奈々が生まれてから今まで、千春と彰人は何一つしてくれていないのに。 私は産後の肥立ちがかなり悪かったのだが、毎日家事と育児に追われ、さらには、足の悪い千春の食事まで用意していた。 部屋のドアが開き、彰人が入ってきた。隣には秘書の藤堂紬(とうどう つむぎ)の姿もある。 紬は限定モデルの新しいバッグを背負い、親しげに彰人の腕に絡みついている。 私を見つけた紬は、笑ってこう言った。 「このあと社長とパーティーに出る予定なんですけど、せっかくの百日祝いだから、挨拶だけでもって、わざわざ連れてきてもらったんです」 紬は大袈裟に身ぶり手ぶりを繰り返す。 すべては、自分の手首に巻かれた新しい時計を見せるためだろう。 ダイヤモンドの装飾された時計が、電気の下でこれでもかというほど輝いている。 「梓さん、別に変な意味はないですから、心配なさらないでくださいね。パーティーに出席する私が恥をかかないようにって、社長が買ってくれたんです。 全部仕事のためですから」 紬の言葉を聞いた周囲の人々が、彰人に労いの言葉をかけ始めた。 「仕事のために、娘さんの百日祝いすら出られないなんて、本当に頑張ってるな」そんな声が聞こえる。 誰も疑問に思わないのだろうか? 秘書には高価な時計や限定バッグを買い与える夫が、自分の妻には何年も着古され、色褪せた服しか着させていないことを。 これは、明らかに変なことなのに。 皆に色々言われいい気になったのか、彰人は誇らしげな表情を浮かべながら言った。 「俺はもう行くから。誰かさんみたいに家で贅沢して暮らしていられればいいんだが、残念なことに、俺には仕事があるからな。 今の体を見てみろ?ん?あまり食いすぎるなよ」 彰人が奈々の百日祝いの席にいたのは、たった5分だったが、彼の放った数少ない言葉の全てが、冷たい刃物のように私の心を突き刺した。 出産したばかりの私は、まだ体が元の状態に戻っていない。 それに加え、眠れない日々で、体中がむくんでいて太って見えるのだ。 結婚前と比べてたった2キロしか太ってないのに。 愛していた頃は全てが良く見えていたみたいだが、今は何をやっても粗探しばかりされる。 質の良さそうなスーツを着こなす彰人と、華やかな紬。 そんな二人を見ていると、心底情けない気持ちになった。 それから数日後のある晩、酒の匂いを漂わせた彰人が帰ってきた。 帰ってくるなり、彼はスリッパを出せ、上着を脱がせろ、風呂を沸かせなどと次から次に指示を出す。 まるで雇い主が、召使いをこき使っているようだった。 第2話 だが、私たちは夫婦だ。上下関係なんてあるはずない。 それなのに、彰人は私たちを不平等な関係だと思っている。 私は彰人を無視し、奈々の寝かしつけに使ったおもちゃを黙々と片付けた。 「お前に話しかけてるんだよ。聞こえてんのか? そうだ。妊娠してからもう1年以上経つよな?その間、お前は仕事もしてないしこの家に金だって入れていない。この家でなんの役にも立ってないんだ。 俺がこんな疲れるほど仕事して、暇人のお前をずっと養うなんておかしいと思わないか? だから、明日から生活費は折半にしよう。自分が使うお金は、自分で稼ぐ。公平だろ?」 彰人がさらりと口にしたこの言葉で、私の妊娠と出産、そして育児の苦労は完全に踏みにじられた。 妊娠中、私は切迫流産の恐れがあると診断されたうえに、つわりもひどかったので、家でじっとしているしかなかった。 そんな私を見た千春は、世話をしにきてくれると言った。 しかし、餓死しない程度に食事を出してくれるだけ。 つわりがひどく、私が食べられずにいると、自分が作ったものだからわざと食べない、なんて難癖もつけてきた。 また、お腹が重く思うように家事ができないでいると、そんなのはわがままだとも罵られた。 彰人が仕事から帰ると、千春は決まって私のことを告げ口する。 嫌気がさした彰人は、帰宅時間が遅くなり、ついには帰ってこなくなった。 そして今、彰人が私を見下ろして「折半にしよう」と言い放っていた。 妊娠を知った時、泣いて喜んでくれた男とはまるで別人だった。 心の底から、冷えていく。 なんだか、もうすべてがどうでもよくなった。 私は無表情で彰人を見つめる。 彼が言った提案に、反発する気さえ起きなかった。 「折半にするなら、私も働いて稼ぐから。 でも、奈々のベビーシッター代もミルク代も、おむつ代も。かかる費用はすべて折半。 私は完全に公平でいたい。折半と言いつつ、私だけが損をするのはごめんだから」 彰人にはそこまで考えていないのかもしれない。 あるいは誰かに言われたことを、何も考えずに言っているだけかも…… 彰人は深く頷いた。 「ああ、いいさ。奈々にかかる金は全て折半だ。 ベビーシッター代の半分を払うほうが、暇人に食わせるよりずっとマシだしな」 すると、部屋の中で眠っていたはずの奈々が、急に泣き出した。 あわてて様子を見に行くと、奈々はひどい高熱を出していた。 一刻の猶予もないと判断し、私は彰人を引き止める。 「奈々が熱を出したの。今すぐ病院へ行かなきゃ」 彰人は眉をひそめた。 「熱くらいで騒ぐなよ。薬飲んで汗でもかけば治るだろ。こっちは仕事でクタクタなんだよ。 病院に行きたいなら、自分で行け」 まさか、ここまで身勝手な人間がいるなんて。 実の娘の命よりも、自分の休息を優先するのか。 愛しているかどうかなんて、自分の気持ちの問題だと思っていた。 まさか、こんな形で娘を巻き込むことになるなんて。 「分かった。行きたくないって言うなら、それでもいい。でも、折半なんでしょ?まず10万円ちょうだい。私が自分で奈々を病院へ連れて行くから。清算は後でする」 しかし、金銭の話をした途端、彰人は激昂した。 「金、金、金って……金の話ばっかり。折半は明日からって言っただろ? 今月の生活費はもう渡してあるんだ。自分でなんとかしろよ」 寝室のドアが、大きな音を立てて閉められた。 私は泣き続ける奈々を抱きかかえ、立ち尽くす。 すべてを捨ててまで嫁いだ男が、まさかこんな人だったとは信じられなかったのだ。 彰人と結婚する前、私は何不自由なく大切に育てられてきた、いわゆる箱入り娘だった。 そして、彼と恋に落ちた時、母は「恋愛ならまだしも、結婚だけは許さない」と、言った。 兄の琉生も、彰人はやめた方がいいと言っていた。 それでも私は、彰人の誠実さを信じたかった。 それでも私は、どうしても言うことを聞く気になれなかった。自分の気持ちだけを信じて、ついには家族とぶつかり、気まずいまま家を出た。 第3話 そのツケが、今になって全部自分に返ってきている。見る目がなかった報いだろう。 そのせいで奈々にまでつらい思いをさせている。愛されることもなく、私と一緒に苦労まで背負わせてしまった。 病院に一晩入院し、奈々の熱はようやく下がった。 家に戻ってきたのは、もう翌朝のことだった。 ちょうど週末で、千春が家にいた。 だが、奈々のことを心配して来たのではない。 私と彰人の折半生活を、確実にさせるために来たのだ。 千春は私にびっしりと文字で埋まっている書類の束を突きつける。 「梓(あずさ)、これが生活費を折半するためのルールよ。目を通しておいて。それで、問題がなければサインをしてちょうだい。 後になって、内田家から嫌がらせを受けたなんて言わせないためにも、ね?」 千春の言い方は、有無を言わせないものだった。 「光熱費に水道代、それに管理費まですべて折半。 食費も細かく記録して、月末に精算するから、そのつもりでいてちょうだい」 私は熱の下がった奈々を抱きしめたまま、その紙にざっと目を通す。 トイレットペーパーから食器用洗剤まで、ありとあらゆる雑費が記載されているのも関わらず、ベビーシッター代含めた、これからの奈々の養育費に関する記載が一切無かった。 私は冷静に口を開く。 「ベビーシッター代と奈々の養育費も折半にすると、彰人と決めたはずなんですが」 私がそう言った途端、千春の表情は険しくなった。 「たかが娘一人に、ベビーシッター? あなた、どうせ家にいるんだから自分で見なさいよ。無駄なことにお金を使わないでちょうだい。 それに、彰人がお金を稼ぐのだって簡単じゃないんだから、負担をかけないで」 私は鼻で笑ってしまう。 「『折半』と決めたんです。だったら、完全に折半にしないと不公平ですよね? ベビーシッターを頼まないと言うのなら、奈々の養育費は全額請求しますから。 それと、光熱費や水道代などは半分出しますけど、他の私的な支出には一切干渉しないでください。 もちろん家事も折半です。もし、私にやらせると言うなら、ちゃんとお金をもらいますからね」 千春と彰人が不愉快そうに眉をひそめている。 いつもは弱気な私がいきなり反論してきたことが、想定外だったのだろう。 今まで私が何も言わずにいたのは、彰人を愛していたから。 しかし、相手が先に私の心を踏み躙ったのだから、もう大人しく言うことを聞いている必要もない。 「私が今言った条件を書き加えてくれるならサインします。 もしそれを拒否すると言うのであれば、離婚届にサインしてもらって、私がこれまで彰人にあげてきたものも全て返していただきますので」 そう言い残し、私は奈々を抱いて自分の部屋へ戻った。 ドアを閉めた瞬間、握りしめていた拳の力を緩める。 全身から力が抜けていくのを感じた。 これまで私がしてきたすべての譲歩は、彰人たちが好き勝手に踏み込んでくる口実に変わってしまっていた。 今はもう、失望しかない。 これ以上、遠慮などするつもりはなかった。 琉生に電話をかけ、今の状況をすべて話す。 「お兄ちゃん、彰人の会社への出資を全部引き揚げて。 あと、取引先にもお願いして、彰人への協力体制も全部打ち切っていいから。 私、離婚することにしたの」 これまでずっと、実家は私が苦労しないようにと、影ながら彰人の会社を助けてくれていた。 もしそれがなかったら、人脈づくりだけでも10年以上はかかるはずだった。 琉生は電話の向こうで数秒黙った後、心配そうな声で話し始める。 「もっと早くこうするべきだったのに。 今すぐ迎えを送るよ。奈々ちゃんと一緒に帰っておいで」 そうしてくれるのは、ありがたい。 ただ、彰人たちとの戦いを早く片付ける以上に、彼らが報いを受ける様を、自分の目でしっかり見届けたいのだ。 「お兄ちゃん。先に離婚のこと、弁護士に頼んでもらえるかな? 徹底的にやらないと、気が済まないから」 琉生は即答した。 「ちょうど母さんたちが、奈々ちゃんの百日祝いをもう一度やり直してやりたいって言ってたところなんだよ」 第4話 「なんたって、家のお姫様だからね。 梓、覚えておいて。俺も親も、いつでも梓の強力な味方なんだよ」 兄の言う通りだ。血のつながっている家族こそ、私の一番の頼りなのだ。 もう以前のように、家族全員分の料理を用意する必要はないので、昼は自分の分だけ出前を取ることにした。 千春が不愉快そうにテーブルを叩く。 「自分一人だけ?私の分はどうしたのよ?」 私は冷ややかに千春を一瞥した。 「生活費は折半にしたんですよね?食べたければ自分で作るか、私みたいに出前でもとったらいかがですか? 自分たちで決めたことなんだから、私に注文させたり作らせようとしたって、それは違うと思いますよ?」 千春は言葉を詰まらせた。 まるで自分が被害者かとでもいうのように、ブツブツと不平を言っている。 「ああ、私はなんて不幸なんだろう。一生懸命働いて息子を育てて来たのに、まさか嫁がこんななんて。 食事すらろくに出してもらえず、ましてや嫌がらせまで……」 これはもう聞き飽きた、千春の決まり文句だった。 本当に不幸なのは私の方だというのに。 愛があれば何もいらないと信じ、結婚式も挙げなかったのに。 一生守ってくれると誓った彰人の言葉だって、ずっと信じていた。 私は、ソファーに座りつまらなそうにスマホをいじっている彰人を見る。 庇ってもらおうなんて、期待するだけ無駄。 「もういいだろ。出前だってもう頼んだから。ここ数年梓を養ってきた金なんて、ドブに捨てたと思えばいいんだよ。 これからはお互い勝手するんだ。もう無駄な出費は無くなるからさ」 彰人がそう冷たく言い終えると同時に、玄関のチャイムが鳴った。 配達員が書類の入った封筒を彰人に渡す。 封筒を開けた彰人は、金色の招待状を一目見るなり、勝ち誇ったような表情を浮かべた。 「加藤家のお孫さんの百日祝いパーティーの招待状だ。家族全員で参加していいって。 こんな大富豪の加藤家に招待されるなんて、俺の名前も東都で売れてきたってことだな」 千春も招待状をのぞきむと顔を輝かせたが、すぐに冷たい視線を私に向ける。 「そんな格式高い場に梓なんて連れて行けないわ。野暮ったくて恥をかくだけよ。 家で子守でもさせていればいいんじゃない?だって、元から違う世界の人間なんだもの」 実家の動きは本当に速かった。こんなにも早く、招待状が彰人の手に届くなんて。 私は淡々と招待状に視線を送るだけで、何も言わなかった。 二人の調子に乗りきったこの顔。結局、結婚前はうまく取り繕っていただけだったのだろう。 恋は盲目というのは本当かもしれない。当時の自分は、確かに何も見えていなかった。 「贈り物は絶対にいいものにするぞ。加藤家に取り入れさえすれば、俺たちだっていい思いができるだろうからな」 彰人は、有力な家に取り入ろうとする甘い夢を見ている。 千春も嬉しそうに頷く。 「どっかの誰かさんなんて、人の息子の金で好き勝手してるだけだしね。 彰人が加藤家とうまく関係を築けたら、その時はあなたも、その娘もまとめてこの家から追い出してやるわ」 私は小さく頷いた。 もうすぐそうなるだろう。 しかし、その甘い目論見は叶わないのだけれども。 加藤家での奈々の百日祝いは、華やかで豪華なものだった。 私は奈々をベビーシッターに任せると、自分は高級なドレスを身に纏い、客の対応に向かう。 使い古した服で台所に立ち、育児に追われる生活とはもうおさらばだ。 彰人は紬と千春を連れて現れた。 私の姿を見つけると、瞬時に表情を凍り付かせる。 彼らは詰め寄ってきて、千春が真っ先に声を荒らげた。 「どうしてここにいるの?家にいろって言ったでしょ?」 彰人も眉をひそめ、見下すような口調で言う。 「ここはお前みたいな奴が来ていい場所じゃないんだ。恥晒しにも程があるぞ」 彼らは、私が客に対応しているのにも関わらず、怒声を浴びせ続けてきた。 第5話 恥さらし……か。 彰人たち以上に恥晒しな人間などどこにいるのだろうか。 紬も彰人の腕にぴたりと絡みつき、私を馬鹿にするような目で見てくる。 「梓さん。社長を責めないであげてくださいね。こうした格式高いパーティーに、梓さんが慣れていないんじゃないかって、心配してくれているんですよ。 それに、社長が私を連れてきたのは仕事のためなんです。梓さんみたいに家でだらだらして、何の役にも立たないのは違いますから」 これみよがしに彰人へとまとわりつく紬を見て、私は呆れた。 誰もかれも、揃いも揃って全く困ったものだ。 「私の記憶が確かなら、加藤家からの招待状には『家族で参加するように』とあったはず。 失礼ですが、藤堂さんは彰人とどういう関係なのかしら? お手伝いさん?恋人?それとも愛人? 本来なら隠されるはずの立場の藤堂さんでさえ堂々と来られるのに、なんで正妻の私がここにいちゃいけないの?」 紬は悔しげに唇を噛み締めると、彰人に泣きついた。 このわずかな瞬間に、彼女は目から涙をこぼす。 「社長。私は社長のお仕事の付き添いで来たのに、こんなことを言われるなんて……梓さんは私のことをよく思ってないんですね。 今日のためにって、せっかく社長がドレスやネックレスを買ってくださったのに……」 またしても、見え透いた虚勢の芝居。 こんなことで私の心を乱し、騒ぎを起こさせるつもりなのだろう。そうして彰人に、完全に見限らせようとしている。 それに便乗し、自分の立場を確立しようという魂胆のようだ。 だがあいにく、今の私にとってそんな紬の言葉は痛くも痒くもなかった。 彰人に対する気持ちが完全になくなった瞬間から、それは無意味なものになっていたのだから。 それでも紬は、まだしつこく皮肉を浴びせてくる。 「それより梓さん。食事にありつくために、家に子供を置き去りにしてまで、こんな所にくるなんて…… 一人で家族を養わなければならない社長が、本当にかわいそう」 注目の視線はどんどん増えていくばかり。 さらにその彰人たちを見る視線には、どこか面白がるような気配が含まれている。 まるで喜劇を見物しているかのようだった。 しかし、それにまだ気づいていない彰人は、私に恥をかかされたと言って逆上した。 大きな声で私を怒鳴りつける。 「お前に渡してる奈々の養育費は、お前がドレスで着飾って、こんなとこに飯を食いに来させるためのものじゃない。 汚す前に早く返しに行ってこい!」 そばにいた千春も一緒になって声を荒らげた。 「まったく。来るなって言ったのに、本当に図々しい。 彰人の稼いだお金を使うことと、迷惑をかけることしかできないの? 出て行かないっていうんだったら、警備員を呼んで追い出してもらうからね!」 千春は会場の警備員を呼び寄せると、得意げに私を見下ろす。 私を言い負かし、侮辱することが、そんなに誇らしいことなのだろうか。 千春は私が内田家に嫁いだその日も、こうやって追い詰めてきた。 今思い返せば、私があまりに愚かだった。 しかし、駆けつけた警備員たちは、私に深々と頭を下げる。 「梓様、何かございましたか?」 彰人は一瞬唖然としたが、何を誤解したのかすぐに嘲りの表情を浮かべた。 「人を雇ってまで金持ちの真似事なんて。 最初から生活費はきっちり折半にしておくべきだったな。そうすれば、お前に金を取られた上に、金持ちぶるなんて真似もされずに済んだのに」 私は冷たく鼻で笑い、記入済みの離婚届を彰人に叩きつけた。 「よく見て?今回の加藤家主催の百日祝い、スクリーンに写っているのは誰の写真? 私の旧姓が『加藤』だってこと……もしかして、もう忘れちゃった?」 彰人は、真っ青になった顔を覆っている。ようやくことの大きさに気付いたのだろう。 パーティー会場に溢れるのは、自分の娘である奈々の写真。