執着の果て、私は光を掴む

Đang tải thông tin quảng bá...

執着の果て、私は光を掴む

GoodNovel Hoàn thành

篠原蒼真(しのはら そうま)の実家で開かれた食事会に参加した際、私、結城泉緒(ゆうき みお)はそろそろ結婚して家庭を持ちたいと自ら切り出...

Chương (1)

第1章

篠原蒼真(しのはら そうま)の実家で開かれた食事会に参加した際、私、結城泉緒(ゆうき みお)はそろそろ結婚して家庭を持ちたいと自ら切り出した。 すると彼は、私が篠原家の財産を狙い、金目当てで嫁ごうとしているのだと決めつけ、皆の面前で私に十発以上も平手打ちを食らわせた。 そして、嫉妬して席を立った幼馴染を追うため、すぐさま私に背を向けた。 私は彼の手を掴み、行かないでと懇願したが、激高した彼に階段から突き落とされ、両脚と頭蓋骨の骨折の重傷を負った。 ICUで一ヶ月間治療を受け、ようやく意識を取り戻した。 今回、私は泣き喚いて騒ぐような真似はせず、自ら海外に住む母に連絡を取った。 「お母さん、この前話していた遺産相続の件、引き受けるわ」 第1話 篠原蒼真(しのはら そうま)の実家で開かれた食事会に参加した際、私、結城泉緒(ゆうき みお)はそろそろ結婚して家庭を持ちたいと自ら切り出した。 すると彼は、私が篠原家の財産を狙い、金目当てで嫁ごうとしているのだと決めつけ、皆の面前で私に十発以上も平手打ちを食らわせた。 そして、嫉妬して席を立った幼馴染を追うため、すぐさま私に背を向けた。 私は彼の手を掴み、行かないでと懇願したが、激高した彼に階段から突き落とされ、両脚と頭蓋骨の骨折の重傷を負った。 ICUで一ヶ月間治療を受け、ようやく意識を取り戻した。 今回、私は泣き喚いて騒ぐような真似はせず、自ら海外に住む母に連絡を取った。 「お母さん、この前話していた遺産相続の件、引き受けるわ」 …… 一人で退院手続きを済ませると、私はタクシーを拾い、蒼真の会社へ向かった。 会社のビルの前に立った時、九年間も働いてきたこの場所が、急に自分とは縁もゆかりもない、よそよそしい場所のように感じられた。 たった一ヶ月離れていただけなのに、社内システムから私の情報は跡形もなく消去されており、警備員にも行く手を阻まれて中に入れてもらえない。 仕方なくスマホを取り出し、蒼真に電話をかけたが、一向に出る気配はなかった。 代わりに、星野莉乃(ほしの りの)からビデオ通話がかかってきた。 画面の向こうで、彼女は口角を上げ、少し申し訳なさそうな口ぶりで言った。 「泉緒さんがこんなに早く退院するとは思わなかったわ。蒼真ったら私の身の安全を心配して、今は見知らぬ人を会社に入れないようにしているの。でも心配しないで、今すぐ警備員に入れてもらうように伝えるから」 莉乃の指示により、固く閉ざされていたゲートが私のために開かれた。 私は数秒間その場に立ち尽くした後、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。 蒼真のオフィスのドアはあえてなのか、隙間が開いたままだった。中へ入ると、肌もあらわなキャミソール姿の莉乃がソファに腰かけ、勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を迎え入れた。 傍らにいる蒼真は上半身を剥き出しにしており、二人の間にはひときわ艶めかしい雰囲気が漂っていた。 私は一瞥しただけで視線を戻し、躊躇することなく退職届をデスクの上に置いた。 私に無視されたのを見て、蒼真は眉をひそめ、私の前に立ち塞がって釈明した。 「莉乃は帰国したばかりなんだ。両家が昔から親しいのは知ってるだろ。両親からも彼女と親睦を深めるように言われていてね。それに、彼女のほうがお前よりこのポストに適任なんだ」 「理由はそれだけじゃないわ。泉緒さん、まだ知らないのね。私、蒼真と婚約するの」 莉乃は蒼真の言葉を遮ると、これみよがしに指先のダイヤの指輪をこちらに向けた。蒼真の指にも全く同じ指輪がはめられていた。 蒼真は婚約の件についてこれ以上の弁解はせず、ただ静かに私を見つめていた。 私は彼を見上げ、軽く頷いた。 「わかった」 私は問い詰めることも、釈明を求めることもせず、逆にデスクの上の書類を指差した。 「退職届はもう提出済みよ。手続きも進めているし、業務の引き継ぎもすべて終わらせてあるから」 蒼真は私がそんな言葉を口にするとは思いもしなかったようで、驚きに目を見開いた。 私は二人の怪訝な視線を背に、迷わずその場を立ち去った。 一歩踏み出すごとに、脚の痛みが神経を鋭く突き刺す。 実家の食事会で、嫉妬した莉乃を追いかけるため、蒼真が私を階段から突き落としたあの光景は、今でも鮮明に思い出せる。 彼への愛など、ICUで必死に生を求めていた一ヶ月の間に、とっくに消え失せていた。 蒼真はいつの間にか追いかけてきており、私のすぐ後ろに立っていた。 彼は背後から包み込むように私を抱きしめると、項に顔を埋め、甘えるように頬を私の首筋にすり寄せてきた。 「俺と莉乃は幼馴染だ。俺が結婚すると知ったら、彼女が嫉妬するのは無理ないんだ。婚約のことはあまり気にしないでくれ。篠原家と星野家は釣り合いが取れているし……」 「気にしていないわ」 私は蒼真の言葉を遮り、突き放すように彼との距離を置いた。 九年という歳月を共にし、これ以上に親密なことだって幾度となく重ねてきたはずなのに。 今の私にとって、彼の親しげな振る舞いは生理的な嫌悪感でしかなかった。 蒼真の顔が一瞬にして苦々しく歪み、納得がいかないとでも言うように、その場に立ち尽くした。 第2話 蒼介彼は私の本心を探るかのように、じっとこちらを見つめていた。 「彼女とは幼馴染で、私よりも付き合いが長いし、婚約もご両親の意向なんでしょう?文句を言わないわ。 安心して、本当に辞めるから。やきもちを焼いてるわけでも、意地を張ってるわけでもないのよ」 蒼真はまだ何か言いたげに口を開きかけた。 だがその時、莉乃がひょっこりと顔を出し、オフィスの中から声をかけてきた。 「蒼真、私の下着どこにやったの?ほら、あのレースのやつ……」 彼女は私と視線がぶつかると、わざとらしくハッとした顔を作り、いかにも悪気がないといった様子で言った。 「ごめんなさい、まだいたのね。私、蒼真と一緒にいる時間が長すぎるから、あなたが彼の恋人だってこと、つい忘れちゃってたわ」 私は適当に相槌を打ち、そのまま会社を後にした。 翌朝早く、私が退院したと聞きつけた母から電話がかかってきた。 「泉緒、体の具合はどう?お母さんももう歳だし、早くこっちへ来て一緒に暮らしてほしい。この何年も、ずっと蒼真の後ろをついて回るばかりで、奥さんとしての立場も何も与えられないまま、あちらのご家族には散々見下されてきたんでしょう。 遺産の件、納得してくれて本当によかった。正和の遺産は飛び抜けて多いわけじゃないけど、あなたが残りの人生を不自由なく暮らしていくには十分よ。もう毎日、ビクビクしながら肩身の狭い思いをする必要もないのよ」 一条正和(いちじょう まさかず)は母の再婚相手であり、私の継父にあたる人だ。 以前の私なら、母の言葉を遮って反論していただろう。 愛する人と一緒にいられれば、それだけで十分なのだと。 お金なんて、ちっとも重要じゃないのだと。 だが今は、一言も言い返すことができなかった。 篠原家で過ごしたこの九年間、私の居場所など最初から最後までどこにもなかったのだ。 「いつ頃こっちへ来るつもり?迎える準備をしておきたいから」 カレンダーに目をやると、一つの赤い丸がひときわ目立っていた。 あと十日で、私と蒼真が付き合い始めて丸十年になる。 「あと十日経ったらね。こっちの用事を全部片付けたら、そっちへ行くわ」 電話を切った直後、いつの間にか蒼真が私の背後に立っていることに気づいた。 彼は微かに眉をひそめ、私のスマホに表示された着信名を覗き込もうとしていた。 「十日ってなんだ?誰と話してたんだ」 私はスマホの画面を下にして机に置くと、言葉を濁した。 「友達が新しい仕事を紹介してくれた」 「会社にはまだお前の居場所がある。そんなに急いで辞める必要はないだろう。お前のポストに莉乃が就くとしても、他の部署ならいくらでもあるんだから」 蒼真は苦々しく口元を歪めた。なぜ私がこれほど頑なに辞めたがっているのか、彼にはどうしても解せないようだった。 「もう必要ない」 私の素っ気ない態度に、彼もいら立ちを隠せないようだった。だが、彼が口を開くよりも先に、階下から莉乃の急かすような声が響いた。 「蒼真、今日はご実家で食事なんでしょ?みんなをお待たせしちゃ駄目よ」 その言葉を聞いた瞬間、だらりと下げていた私の指先が微かに震えた。 蒼真と付き合い始めたばかりの頃、彼の両親は私のことをひどく毛嫌いしていた。 どこの馬の骨とも知れない田舎娘が、名門の篠原家の跡取りである蒼真に釣り合うはずがないと見下されていたのだ。 だが実家へ戻る際、蒼真は必ず私を連れて行き、一切の迷いなく私を庇い、両親に立ち向かってくれていた。 彼は私に約束してくれた。 俺がいる限り、篠原家には必ずお前の居場所がある、と。 だが今回、蒼真はこちらと目を合わせようとせず、不自然な口調で言い訳を並べた。 「この前あんなことがあったばかりだしさ。俺の両親もあまり体調が良くないから、お前を見たらまた腹を立てるかもしれないだろ。 誤解しないでくれ、婚約の件はまた彼らに話しておくから。莉乃は彼らにとっては小さい頃から見てきた子だし、身内同然の情があるんだ。ほとぼりが冷めれば……両親も気にしなくなるさ」 蒼真の言葉は、端々から莉乃を優先する本音が透けて見えていた。 私との約束を忘れたわけではないのだろう。ただ今の彼の目には、私以上に守る価値のある人間が映っているというだけのことだ。 私はいつものように、ふわりと笑みを浮かべてみせた。 第3話 反論することも、騒ぎ立てることもしなかった。 莉乃がさらに何度か急かすと、蒼真の私に対する我慢も完全に底を突いたようだった。 彼は振り返ることもなくその場を立ち去り、去り際に冷淡な声で言い捨てた。 「泉緒、毎日お前をなだめるのにもほとほと疲れ果てた。頼むから、少しは聞き分けを持ってくれないか」 蒼真と喧嘩になるたび、彼はいつもひどく疲れた顔をしてこの台詞を口にする。 すると私は胸を痛め、自分がわがままだったのではないかと反省し始める。 そうやって自分を納得させては、またこの何の価値もない感情の泥沼に沈んでいく。 高級なスーツに身を包んだ蒼真と、オートクチュールのドレスを纏った莉乃。 肩を並べて歩き去る二人の姿は、皮肉なほどにお似合いだった。 遠ざかっていく彼らの背中を見つめながら、私も心を落ち着け、自分の荷物をまとめ始めた。 この九年間で、私と蒼真は数え切れないほどの思い出を残してきた。 昔の私は、彼が私を愛してくれていると固く信じていた。 邸宅の内装はすべて私の好みに合わせてくれた。 彼は窓ガラスのない開放的なバルコニーを好んだ。将来は子供と一緒にひなたぼっこをしたいから、と。 けれど、子供を授かるどころか、彼は私への愛さえも失ってしまった。 まだ家政婦も雇っていなかったあの頃、私の胃が弱いのを知っていて、蒼真は毎日自ら栄養満点の手料理を振る舞ってくれた。 だが、そんな温かな日々も、今では遠い記憶の彼方へと霞んでしまっている。 かつての彼は、私が通勤途中で寒がるのではないかと心配し、私に内緒でこっそりマフラーを編んでくれたこともあった。不器用な編み目だったけれど、そこには確かな愛情が宿っていた。 「他の人が持っているものは、お前にも持っててほしいからね」 彼は私にマフラーを巻いてくれた後、頬にキスを落とした。 私の頭を優しく撫で、猫がじゃれつくように私の首筋に顔をすり寄せて甘えてくる。 「仕事が終わったら早く帰っておいで。心配するからさ」 いったいいつからだろうか。蒼真が私たちの関係に飽きてしまったのは。 初めて私からプロポーズした時、蒼真はこう言った。俺たちはまだ若すぎるし、早くに結婚すれば他の夫婦みたいに、すぐにお互い顔を合わせるのも嫌になるだろう、と。 二度目のプロポーズでは、サプライズを用意していたが、思いがけず彼と友人たちの会話を耳にしてしまった。 「泉緒への新鮮味はもうなくなったな。つまらない。でも俺に尽くしてくれるから、別れたくはないんだ。 女からプロポーズしてきてるのに、男がこれだけ無反応なんだぞ。俺が愛してないって、本当に気づかないのか?」 そして最後の一回…… 私は自分のすべてを懸け、彼の両親の前で蒼真と結婚したいと申し出た。結納金すらいらないとまで伝えた。 しかし、その場にいた莉乃がそれを知り、嫉妬して腹を立てた。 蒼真は目に見えて狼狽した。かつて私に注いでくれた愛も、誰にも私を傷つけさせないという誓いもすべて忘れ去り、あろうことか自らの手で私を階段から突き落としたのだ。 幾度となく拒絶され、現実に打ちのめされて、ようやく悟った。蒼真が心の底で待ち続けていたのは、いったい誰だったのかを。 目尻から不意に溢れた涙が、使い古されたマフラーにポツリと染み込んだ。 乱暴に顔を拭い、私は深く息を吸い込む。 業者を呼び、あの開放的だったバルコニーに窓を取り付けさせ、完全に塞がせた。 この九年間、蒼真のためだけに書き綴ってきた日記を無残に引き裂いた。 あのマフラーも、ライターで火をつけ、灰になるまで燃やし尽くした。 それから一週間、蒼真からは一度も連絡が来なかった。 私も早々に、邸宅からすべての荷物を運び出していた。 蒼真は私がただ機嫌を損ねているだけだと思い込み、気にも留めなかったようだ。 しかし時間が経って、ようやく私という存在を思い出したらしい。 出国まであと三日という日、珍しく蒼真から電話がかかってきた。 「泉緒、十周年の記念日が近いな。レストランを予約したから、ゆっくり話し合おう」 言葉と同時に、彼から場所を記したメッセージが届いた。 そのレストランは、私と蒼真が恋人として付き合い始めた思い出の場所でもあった。 いつもと変わらず、私は今年の記念日にも蒼真へのプレゼントを用意していた。 第4話 だが、今年でそれも最後だ。 私はレストランの席に座り、刻一刻と過ぎていく時間を見つめていた。 約束の時間をとうに三十分も過ぎているのに、蒼真の姿は一向に現れなかった。 彼に電話をかけようとしたその時、レストランの外の夜空に突然、次々と花火が打ち上がった。 火花が夜空に形作ったのは、【莉乃、誕生日おめでとう】という文字だった。 その場にいた全員の視線が、その光景に釘付けになった。 そして私もようやく、ずっと姿を見せなかった蒼真を見つけた。 彼は仕立ての良いスーツを着て、バラの花束を抱え、莉乃の前に片膝をついてプロポーズをしていた。 少し離れたビルの大型ビジョンにも、蒼真と莉乃の婚約を祝うポスターが映し出されている。 「篠原社長も気前がいいよな。一分間で二千万円もする大型ビジョンを借り切るなんて」 「でも、篠原社長の彼女ってあんな顔じゃなかったと思うけど?」 「彼女? お金持ちの火遊びなんて、所詮は『愛人』止まりだろ。こっちこそが本命なんだよ。幼馴染で、いよいよ結婚ってわけさ」 周囲の嘲笑うようなささやき声が耳に届くたび、何もかもが滑稽で、皮肉にしか思えなかった。 十周年記念なんかじゃなかった。今日は莉乃の誕生日であり、彼女のためのプロポーズパーティーだったのだ。 私は静かにため息をつき、用意していたプレゼントをゴミ箱に投げ捨てた。 そして、この場所から立ち去ろうとした。 その時、いつの間にか本日の主役である莉乃が私の目の前に立ち塞がっていた。 彼女は蒼真の隣で見せる大人しくて無邪気な顔を一変させ、私に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「今日はあなたと蒼真の十周年記念日らしいわね?教えてあげるけど、彼、そんなことこれっぽっちも覚えてなかったわよ。ただ私の誕生日だったから、ついでにあなたの存在を思い出しただけ」 以前の私なら、とっくに彼女と取っ組み合いの喧嘩になっていたかもしれない。 「そう。それじゃあお幸せに」 私は冷たく口角を上げ、彼女を押しのけてその場を離れようとした。 だが、莉乃はわざと足をもつれさせて床に尻餅をついた。その弾みで、テーブルの上のシャンパンがすべて彼女の頭上から降りかかった。 私が反応する間もなく、駆けつけた蒼真がその光景を目撃した。 「泉緒!いい加減にしろ!」 彼は有無を言わさず私の襟首を掴むと、テーブルの角に向かって力任せに突き飛ばした。 割れたグラスの破片が手のひらに深く突き刺さり、どくどくと鮮血が溢れ出す。 「婚約の件は俺がうまく処理するって言っただろう!なのに、どうして莉乃を傷つけるんだ!」 手のひらに破片が残ったまま、鋭い痛みが全身を駆け巡った。 私が弁明する間もなく、かすり傷一つ負っていないはずの莉乃が、突然胸を押さえて苦しげに肩で息をし始めた。 蒼真はすっかり血相を変え、震える手で運転手に電話をかけながら、あろうことか目を赤くして涙ぐんだのだ。 「莉乃が喘息持ちだってこと、知ってるだろう!彼女は箱入り娘で脆いんだ。お前みたいに、放っておいても勝手に生きていけるような女とは違うんだ!」 彼は私に向かって怒鳴り散らし、すべての怒りと不満を私にぶつけた。 「そんなに結婚したいなら、他の誰かとでも結婚すればいいだろ!俺は絶対にお前とは結婚しない!出て行け、二度と俺の目の前に現れるな!」 周囲の客たちは誰もが私を嘲笑うような好奇の目を向け、手のひらの激痛はやがて鈍い痺れへと変わっていった。 遠ざかっていく二人の背中を、私はただじっと見送る。 これほど酷い仕打ちを受けてもなお、胸の奥がズキリと痛むのを止められなかった。 私は深呼吸をし、消え入りそうな声で呟いた。 「蒼真、別れましょう。……十周年の、この日に」 私の最後の言葉が彼に届いたのかはわからない。返ってきたのは、彼を乗せた車が非情に巻き上げる土埃だけだった。 私は一番早く出発する便の航空券を予約した。 この忌々しい場所には、もう一秒だって居たくない。 搭乗口へ向かう間も、蒼真からのビデオ通話は執拗に鳴り響いていた。 連絡先を削除して着信を拒否しても、彼は見知らぬ番号を使い、次々とメッセージを送りつけてきた。 【どこにいるんだ?いい加減、子供みたいな真似はやめろ。いつまで拗ねてるつもりだ?】 空港のゴミ箱にスマホを投げ捨てるその瞬間まで、画面の通知が止むことはなかった。