流れ星よ、この願いを君に届けて

Đang tải thông tin quảng bá...

流れ星よ、この願いを君に届けて

GoodNovel Hoàn thành

卒業旅行の夜、クラス委員長の高橋健(たかはし たけし)がくじ引きで部屋割りを決めようと提案した。 「誰と相部屋になるかは運命次第だぞ!...

Chương (1)

第1章

卒業旅行の夜、クラス委員長の高橋健(たかはし たけし)がくじ引きで部屋割りを決めようと提案した。 「誰と相部屋になるかは運命次第だぞ!男女関係なく、同じ番号を引いたやつ同士でペアな。ドキドキして最高じゃん!」 大学の四年間、そのうちの三年を私は瀬崎涼真(せざき りょうま)と付き合ってきた。そのことを、周りの誰も知らない。 私は段ボール箱に手を突っ込み、ボールをひとつ掴み取ってペアの発表を待った。 涼真の番が来て、彼が引いたのは「7番」だった。 健が、ひときわ大きな声を上げた。 「7号室のもうひとりは――白石莉桜(しらいしりお)!」 涼真がかつて猛アタックしていた女の子が、みるみるうちに頬を赤く染めた。 その場が一斉に沸き立った。運命の赤い糸だと、みんなが口々にはやし立てる。 声を上げなかったのは、私だけだった。 ゲームが始まる前、健が涼真にこっそり耳打ちしていたのを聞いていたのも、私だけだ。 「目印のついてるボールを探せ。お前と莉桜用に、わざと仕込んでおいたからな」 涼真は柔らかく笑い、莉桜のそばへ歩み寄って彼女のスーツケースを持ち上げた。 それを見て、私もふっと笑った。 三年付き合ってきても、彼の口から「俺たち付き合ってる」というひと言すら出てこなかった。 だから今度は、私のほうから身を引くことにした。 第1話 卒業旅行の夜、クラス委員長の高橋健(たかはし たけし)がくじ引きで部屋割りを決めようと提案した。 「誰と相部屋になるかは運命次第だぞ!男女関係なく、同じ番号を引いたやつ同士でペアな。ドキドキして最高じゃん!」 大学の四年間、そのうちの三年を私は瀬崎涼真(せざき りょうま)と付き合ってきた。そのことを、周りの誰も知らない。 私は段ボール箱に手を突っ込み、ボールをひとつ掴み取ってペアの発表を待った。 涼真の番が来て、彼が引いたのは「7番」だった。 健が、ひときわ大きな声を上げた。 「7号室のもうひとりは――白石莉桜(しらいしりお)!」 涼真がかつて猛アタックしていた女の子が、みるみるうちに頬を赤く染めた。 その場が一斉に沸き立った。運命の赤い糸だと、みんなが口々にはやし立てる。 声を上げなかったのは、私だけだった。 ゲームが始まる前、健が涼真にこっそり耳打ちしていたのを聞いていたのも、私だけだ。 「目印のついてるボールを探せ。お前と莉桜用に、わざと仕込んでおいたからな」 涼真は柔らかく笑い、莉桜のそばへ歩み寄って彼女のスーツケースを持ち上げた。 それを見て、私もふっと笑った。 三年付き合ってきても、彼の口から「俺たち付き合ってる」というひと言すら出てこなかった。 だから今度は、私のほうから身を引くことにした。 …… 部屋番号の発表はまだ途中なのに、その場の熱気はもう最高潮に達している。 健はふたりに赤いリストバンドを配りながら、声を張った。 「もう一回ルール言っとくぞ!同じ番号同士がペア、この二泊三日は完全ペア制だ。リストバンドの色が目印、単独行動は禁止!」 あちこちから口笛が飛び、わざわざ涼真の肩を叩きにいく男子もいる。 莉桜は耳まで真っ赤にしながらリストバンドをつけ、涼真の背中に隠れるように身を寄せた。 涼真は口元をゆるめ、片腕で彼女を庇うように前に出た。 「やめろって。照れてんだから」 「おいおい、もう庇ってんのかよ。おまえら気をつけろよ、莉桜の機嫌損ねたら後で涼真に恨まれるぞ!」 はやし立てる声が、一気に大きな渦になった。 私は輪の外に立っていた。左手にボール、右手に重いスーツケースの取っ手を握ったまま。 出発前、涼真は自分の荷物を私のスーツケースに詰め込んできた。 「向こうに着いたら俺が荷物持つから。スーツケースふたつは引けないだろ」 そして、私が新しく買ったショルダーバッグを指さして言った。 「それ、ストラップ長めだし、俺が掛けても肩に食い込まなそうでいいな」 三年の付き合いで、彼が同級生の前で私に親しげに触れたこともなければ、バッグを持ってくれたことも一度もなかった。 だから、心の底から嬉しかったのだ。この旅行で、彼が私たちの関係を公にしてくれるのだと信じていた。 けれど旅行の初日、彼が手に取ったのは莉桜のスーツケースだった。 からかいから彼女を庇うその腕には、彼女の短いストラップのバッグまで提げられている。 スーツケースが重すぎて、その重みで体が片方に傾き、指先から肩にかけて痺れるような痛みが走っていた。 私は少し身をかがめて取っ手から手を離すと、軽く咳払いをして、震えそうになる声をぐっと喉の奥に押し込んだ。 そして、静かに手を挙げた。 「あの……」 全員の視線が一斉に私に集まった。健はまだ興奮が冷めやらない様子で言った。 「どした紬(つむぎ)。お前、莉桜のルームメイトだろ?莉桜の身内としてひと言あるか?」 莉桜がぎくりと固まり、ぎこちなく口元を動かした。 涼真ははっと顔を上げ、緊張と牽制の入り混じった目を私に向けてきた。 でも、彼が身構える必要はなかった。 私はただ手の中のボールを掲げ、淡々と訊いただけだ。 「3番、誰?」 健が周囲を見回すと、人だかりの反対側で一人、すっと手が上がった。 「俺」 クラスであまり目立たない男子だった。 健が笑った。 「五十嵐空(いがらし そら)か。おまえがフリーなのは知ってるけど、紬は?フリーならそのまま相部屋でいいし、彼氏いるなら女子と交換してやるけど……」 私は静かに言葉を遮った。 「フリーだよ」 視界の端で、涼真の眉がふっと緩み――そしてまた、かすかにひそめられた。 彼が空のほうへ顔を向けかけたが、健はすでにオレンジ色のリストバンドを取り出していた。 「ちょうどいいじゃん!ふたりともフリーなら、ここでもう一組カップル誕生かもな!」 私はリストバンドを受け取り、軽く頷いた。 「ありがとう」 ふたたびスーツケースの取っ手を握ったとき、視線がひとつ、背中に張りついているのを感じた。 今、彼がどんな顔をしているかはわからない。 でもきっと――ほっとしているのだろう。 部屋割りが決まり、チェックインの列ができた。 莉桜が実家に電話をかけにその場を離れると、涼真はわざとのろのろと時間を潰していた。 そして、列に残ったのが私だけになったところで、ようやくチェックインの手続きを始めた。 第2話 「健のところへ行って、男と同室は嫌だって言え。他の女子と代わるか、一人部屋にしてもらえ。差額くらい、自分で出せば済む話だろ」 涼真は声をぐっと落とし、正面だけを見たまま、こちらに目線ひとつ寄越さなかった。 私はスマホで両親に無事を知らせるメッセージを打ちながら、顔も上げずに訊き返した。 「どうして?」 「どうしてって、お前はフリーじゃないだろ。男と同じ部屋に泊まるなんてあり得ない」 「じゃあ、あなたは?あなたはフリーなの?」 フロントで手続きをしていた涼真の手が止まり、その声に得体の知れない苛立ちが混じった。 「これは最初から決まっていたゲームのルールだ。俺は、くじの結果を尊重してるだけだ」 私の声は、自分でも驚くほど軽かった。 「うん、私も。くじの結果に従うだけだよ」 涼真が眉間に皺を寄せ、何か言い返すより先に、私はフロントからルームキーをひったくるように受け取って背を向けた。 数歩歩いたところで、健の弾んだ声がロビーに響いた。 「全員、三十分後にシアタールーム集合な!貸し切ってあるから、みんなで一年生のときのスポーツ大会の映像を見るぞ。ちょっと昔話に浸ろうぜ!」 私は足を止めず、ショルダーバッグのストラップを握り直しただけだった。 一年生のときのスポーツ大会の記録映像。それは、涼真が莉桜に派手に猛アプローチしていた頃の記録でもある。 …… シアタールームのテーブルには、スナック菓子やフルーツが所狭しと並んでいた。 涼真は腰を下ろすなり、イチゴの皿をすっと莉桜の前へ滑らせた。 隣の女子が、くすくす笑いながら冷やかす。 「涼真ってば、ほんと莉桜に甘いよね。イチゴ好きって知ってるから、独り占めさせてるじゃん」 他のみんなもすぐに便乗して冷やかし、莉桜は頬を染めながら皿を押し戻した。 「みんなで食べよ。涼真がいっぱい買ってきてくれたんだし。足りなかったら、また涼真に部屋まで取りに行かせるから」 けれど涼真はまた皿を莉桜の方へ引き寄せ、柔らかく笑った。 「うん、俺が取りに行くよ。先に食べてて」 涼真が立ち上がって部屋を出ていくと、シアタールームはどっと沸いた。 「莉桜の一言で即パシリとか、完全な尻に敷かれっぷりじゃん!」 莉桜はイチゴをつまみながら小さく笑い、ふと私の名前を呼んだ。 「紬、あとで涼真が持ってきたら、紬もいっぱい食べてね。イチゴ好きだったよね?」 ちょうどそのときドアが開き、涼真がイチゴの皿を二つ抱えて戻ってくると、その両方を莉桜の前に並べた。 涼真だって、知っているはずなのに。 この三年間、私が数えきれないほどイチゴを買ってきたことを。そのたびに、彼が眉をひそめてこう小言を言うのを何度も聞いてきた。 「ちょっと控えろって。こんな甘いのばっか食べてたら、またニキビができても知らないぞ」 私は何気ないふりでみかんに手を伸ばした。ちょうどそのとき、健が私を呼んだ。 「紬、空は?」 みんなの視線が一斉に集まる中、私はみかんの皮をむき続け、顔を上げずに答えた。 「ちょっと急ぎの用事ができたみたい。そっちを先に片付けに行ったよ」 健は「そっか」と肩を落とした。 「じゃあお前らのペアは見込み薄か。でもまあいい、もう片方のペアは確実にくっつくだろうしな!」 涼真の視線が一瞬だけ私で止まり、それからすぐに逸れた。 「ほら、映像が始まるぞ」 彼がため息まじりにそう声をかけると、慣れた手つきで莉桜にイチゴを差し出した。 記録映像はたっぷり二時間あった。 みんな食い入るように画面を見つめ、二人が映るたびに笑い混じりに冷やかした。 「ほらまた涼真が莉桜の汗拭いてる。たかが五十メートル走なのに、カメラマンより張りついてんじゃん」 「見ろよ、水に携帯扇風機に日焼け止めまでフル装備!」 「莉桜、あのとき涼真、学校中の話題になるくらい猛アプローチしてたのに、よく我慢して断り続けたよね?おかげでこいつ、四年間ずっとフリーで、卒業間近の今までずっと未練タラタラじゃん」 莉桜は涼真を見つめ、目にうっすら涙をにじませた。 「学生のうちの恋愛って、なんだか不安定な気がしてて。卒業するまでは様子を見たかったの。こんなに長く待ってくれるなんて、私も思ってなかった」 男子のひとりが茶化すように声を上げた。 「涼真、この四年間、待たされてしんどかったろ?」 涼真は莉桜と目を合わせ、小さく頷いた。 「まあな」 そのたった一言に、四年間積み重ねた想いと我慢が詰まっているように、みんなには聞こえたらしい。 感嘆の声があちこちから上がる中、心の中で冷たく笑っていたのは、私だけだった。 何が「しんどい」だ。 涼真は半年間、莉桜に派手にアタックしても実を結ばず、すぐにテニスに夢中になっていた。 私は大学のテニスサークルのレギュラーで、彼に頼まれて半年間コーチをした。そして二年生の春、彼は私に告白してきたのだ。 涼真にとっての「まあな」なんて、その程度のものだ。 私たちの交際は周りには秘密だったけれど、それなりに楽しくて、ちゃんと幸せだったのに。 第3話 あるいは、それが幸せだと思っていたのは、私だけだったのかもしれない。 私が俯いてみかんをひと房口に運んだとき、隣の女子が突然画面を指さして声を上げた。 「紬、なんで体育委員があんたにだけ日傘さしてんの?もしかして口説かれてた?」 話題が急にこちらへ飛んできた。 私が首を横に振って「違うよ。たまたま一緒のところを通っただけ」と答えると、彼女は続けざまに言った。 「体育委員、今日来てないのマジ残念。でもあれ、どう見ても紬のこと好きでしょ。ちょっと考えてみなよ、けっこうお似合いだと思うけど」 向こうの席では、涼真が莉桜のコップにジュースを注いでいた。その流れるような動きは、まるでこちらの会話などまったく耳に入っていないかのようだった。 私はかすかに笑った。 「やめとくよ。実は私、彼氏いるから」 その瞬間、涼真の背中がびくりと強張り、コップを握った指にぎゅっと力がこもるのが見えた。 私は彼のことをよく知っている。今の一言で、私が余計なことを口走らないかと身構えているのだ。 けれど隣の女子はお構いなしに、私の腕をつかんで大声を上げた。 「えっ、誰?クラスの男子?」 何十もの視線が一斉に集まる中、私は笑顔のまま小さく頷いた。 「うん」 その場の空気が一気に熱を帯び、「誰?」「どの人?」と矢継ぎ早に問いが飛んできた。 涼真の顔色はみるみるうちに曇り、彼は視線を落としたままスマホをいじり始めた。 私のスマホが二度震えたけれど、私は画面を見ないまま答えた。 「今日は用事があって来られなかったんだ」 今日の旅行に参加していない男子は、七、八人いる。 健は肩を落としてさらに聞き出そうとしたが、そのとき莉桜が「あっ」と小さく声を上げた。 彼女のコップが倒れ、ズボンの裾を濡らしてしまったらしい。 涼真は慌ててティッシュをつかんで水を拭き取り、莉桜は顔を赤くして謝った。 「ごめん、手が滑っちゃって」 「平気。着替えたほうがいいから、部屋に戻ろう。冷えたら厄介だ」 涼真がそう言って二人で部屋を出ていくと、みんなの記録映像に向けられていた興味もすっかりしぼみ、三々五々その場を離れていった。 私が部屋へ戻ると、スーツケースの蓋が開けっぱなしになっていた。 中に入っていた涼真の荷物は、きれいさっぱり消えていた。 その夜、私はずっとスマホの画面を見ていた。 表示されている未読メッセージは、彼から届いていたたった二行だけだった。 【余計なことは言うな】 【雰囲気ぶち壊すな】 そうだ。彼女である私は、彼と他の女の子が作る甘い空気を壊してはいけないのだ。 二年生のときのチャリティーバザーで、私がいちばんの売り上げだったのに、クラスのマドンナの顔を潰さないよう、彼に言われて表彰状を莉桜に譲らされたときみたいに。 三年生のときのテニス大会で、莉桜が「試合に出てみたい」と言った一言のせいで、彼女のやる気を折ってはいけないからと、彼に私の出場を辞退させられたときみたいに。 この三年間、涼真は私に対してとても優しかった。 夏には容赦ない日差しから私を庇い、冬には刺すような風の盾になって受け止めてくれた。 付き合っていることを秘密にしていること以外は、彼氏らしいことはほとんど全部してくれた。 ただ、莉桜が関わるときだけ、私は必ず後回しにされるのだった。 夜が明けて空が白み始めても、私のスマホが鳴ることは一度もなかった。 窓の外でゆっくりと昇っていく太陽を眺めていると、私の胸の内は不思議なほど静かになっていった。 この日の予定は、観光スポットを巡ることだった。 涼真と莉桜は赤いリストバンドをつけたまま、終始並んで歩いていた。 彼は私が買ってあげたカメラを手に、映えスポットに着くたびに彼女の写真を撮り、名所の前では二人並んで自撮りをした。 橋のたもとで一息ついているとき、同級生たちが私の今後について尋ねてきた。 「紬、卒業したら鳴海市に残るの?それとも蒼都市のほうに戻る?」 私は淡々と答えた。 「蒼都市に戻るつもりだよ」 涼真はミネラルウォーターのキャップをひねって莉桜に手渡しながら、わざとなのかどうなのか、ちらりと私のほうへ視線を向けた。 健が肘で涼真をつついた。 「莉桜は地元が鳴海市でしょ?お前も鳴海市に残る気なんだよな?」 涼真は考えるそぶりも見せずに、すぐさま口を開いた。 「もちろん」 莉桜の目がぱっと輝き、彼女はさりげないふりをして涼真の肩にぴたりと身を寄せた。 その様子を見ていた同級生が、不思議そうに首を傾げた。 「紬って、鳴海市での就職先もう決まってたよね?なんで戻るの?」 私は笑って答えた。 「内定、断ったんだ。両親の近くにいたくて」 「マジか、それって親のため?それとも彼氏のため?」 みんなが野次馬根性丸出しで身を乗り出してくると、私の笑みはさらに深くなった。 「両方かな。親も離れるの寂しがってるし、彼も……蒼都市で落ち着くって決めたから」 誰なのかと冷やかし半分の追及が続いたけれど、私はただ首を横に振るばかりで、最後まで名前は出さなかった。 次の観光スポットに着いたところで、トイレの入口で涼真が私を呼び止めた。 「本当に、内定断ったのか?」 彼の声色には、はっきりと焦りが滲んでいた。 無理もない。あの就職先は、私たちが一緒に探した場所だ。先方は私の成績を高く評価してくれていたからこそ、私が自分の入社を条件に「彼も一緒に採用してほしい」と直談判して、ようやく彼を押し込んだのだから。 第4話 私が内定を辞退した以上、彼もあの会社には残れない。 私は小さく頷き、落ち着いた声で言った。 「うん。働き口は、もう両親が蒼都市で用意してくれたの。仕事が落ち着いたら、婚約する話になってるんだ」 「紬」 涼真は思わず声を荒らげそうになったが、ハッとして周りを気にすると、顔を引きつらせて声を押し殺した。 「なんで勝手に、俺の将来まで決めてんだよ!」 怒りをあらわにしたまま、彼は踵を返した。 ばらけた列の先頭へ向かい、莉桜の手を引いて進んでいく。 私は一番後ろに残り、クラスメイトたちと他愛もない話をつないでいた。 ホテルに戻って夜のビュッフェになり、同じテーブルについた莉桜が弾んだ声を上げた。 「ペルセウス座流星群のこと、みんな知らない?涼真が教えてくれたんだけど、この近くに観測スポットがあるんだって。一時間に多いときは百個以上も流れ星が見えるらしいよ」 その場の空気が一気に色めき立ち、みんな口々に「行こうよ」と盛り上がった。 そこで健が、やれやれという顔をして口を挟んだ。 「お前らさ、ちょっとは空気読めよ。流れ星なんてホテルからだって見えるんだからさ。わざわざくっついて行って、二人のお邪魔虫になりに行くなって」 みんなは、すぐに健の意図を察したようだった。 「確かにな。よく見える場所は、いちばん必要な奴らに譲んないとな」 涼真は莉桜の皿に料理を取り分けながら何も言わなかったが、その口元の笑みが答え代わりだった。 莉桜は頬を赤らめた。 「みんなも、一緒に行けばいいのに……」 ここのビュッフェに並ぶ料理は、今の私には味付けが濃すぎた。 シーフードを二口ほど噛んだところで、濃厚なソースが喉に張りつき、どうしても飲み込めなくなる。 私はうつむいて紙ナプキンにそっと吐き出し、何かあっさりしたものを求めて席を立った。 すると健がついてきて、声を落として話しかけてきた。 「紬、お前この前のSNSでさ、流星群見に観測スポットまで行くって書いてたろ。悪いんだけど、今回はやめといてくれないか。涼真と莉桜の邪魔、したくなくてさ」 私は頷いた。 「わかってる」 「さすが成績トップ、話が早いな。じゃあお返しに、お前が知らなそうなこと教えてやるよ。あの二人が同じ番号のボール引いたの、あれ、俺の仕込みだから」 私はもう一度頷いた。 「涼真に話してたの、聞こえてたよ」 健は意外そうに目を丸くしたが、背後から仲間に呼ばれて振り返り、そのままテーブルへ戻っていった。 シチューのコーナーで私がクリームシチューの蓋を開けると、ちょうど涼真が、莉桜のためにかぼちゃシチューをよそいに来たところだった。 彼は、何事もなかったかのように口を開いた。 「さっきは悪かった。お前に八つ当たりするなんて筋違いだった。 お前が、俺と莉桜が同じ部屋になったのに腹立ててるのはわかってる。でも安心してくれよ。昨日は彼女がベッドで、俺は床で寝た。 ちょっと話しただけだ。同じ部屋なのはゲームのルールのせいなだけで、変なことなんて絶対に起こさないから」 私はお玉を動かしながら、「うん」とだけ答えた。 涼真は顔を上げないまま、言葉を続けた。 「お前もさ、ご両親にちゃんと言ってくれよ。俺たちは、鳴海市に残るのが一番だって。わざわざ蒼都市に行く必要なんてない。仕事が落ち着いたら、この街に腰を据えよう」 今度は、何も返さなかった。 彼がシチューをよそい終えて立ち去ろうとしてから、ためらいがちに私を呼び止めた。 「紬……莉桜がさ、今夜の流星群すごく楽しみにしてて。俺、一緒に見るって約束しちゃったんだ。流星群なんて毎年見れるし、お前とは来年、また一緒に見に来よう」 私は彼に背を向けたまま、熱いシチューの入った器の底に手のひらをぴたりと押し当てていたのに、何ひとつ温かさを感じなかった。 口を開くと、自分の声がひどく軽く聞こえた。 「うん」 涼真はほっと息をつき、私の横を通りすぎながら、忘れずに莉桜のためのイチゴの皿までちゃっかりと手に取って去っていった。 夕食を終えた私は、部屋に戻って荷物をまとめた。 この日のためにコーディネートまで考えて、流星群の下で着るつもりだった服を取り出し、観測スポットのパンフレットと一緒にゴミ箱へ放り込んだ。 ファスナーを引き上げると、中身が減ったスーツケースはさっきよりずっと軽くなっていた。 帰りの飛行機のチケットは、その場ですぐに取った。今夜の便だ。 離陸の十分前、窓の外の夜空をペルセウス座流星群が横切っていった。 周囲の乗客が歓声を上げて動画や写真を撮る中、私はスマホを取り出し、一件の未読メッセージに気づいた。 【全部段取り済ませた。ご両親には先に休んでもらってる。俺は空港で待ってるから】 機体がゆっくりと高度を上げていく。 座席の背もたれに身を預け、私はそっと目を閉じた。 涼真。私たちに、「来年」なんてもうないよ。