後輩に実験サンプルを台無しにされ、婚約者がブチギレた

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後輩に実験サンプルを台無しにされ、婚約者がブチギレた

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研究室に入ってきた後輩が、大事な実験用のサンプルをダメにしてしまった。 そのせいで私は論文の提出ができなくなり、留学のチャンスもなくな...

Chương (1)

第1章

研究室に入ってきた後輩が、大事な実験用のサンプルをダメにしてしまった。 そのせいで私は論文の提出ができなくなり、留学のチャンスもなくなった。 3年間頑張ってきたのに、全部水の泡。もう何も残ってない。 腹が立って、警察を呼んでやろうかと思った。 なのに私の婚約者は、その後輩をかばって私を責めたんだ。 「たかが実験くらいで、そんなにいちいち気にするなよ」 私はうなずいて言った。 「ええ、そうね。あなたの全身性エリテマトーデスを治せるかもしれなかったサンプルってだけだもん。確かに気にすることじゃないわよね」 彼は、その場で凍りついた。 第1話 新人の後輩、遠藤凪(えんどう なぎ)が研究室の掃除を手伝ってくれた。しかし掃除の途中で、私、渡辺由理恵(わたなべ ゆりえ)の一番大事な実験サンプルを全部ゴミ箱に捨ててしまったのだ。 そのことを聞いて慌てて駆けつけたけれど、ゴミ箱の中はすでにぐちゃぐちゃになっていた。私のサンプルはどこにも見当たらなかった。 「私の――サンプルが!」 あまりのショックで、私はその場にへたり込んでしまった。震える手で必死にゴミ箱を漁ったけれど、何も見つからなかった。 あのサンプルは、3年近く研究して、ようやく手に入れたものだった。何日も徹夜して、数えきれないほど実験を重ねて、やっと形になったものだった。 それなのに、全部、台無しにされちゃった。サンプルのデータを残すことも、研究を発表することも、できなくなったのだ。 今はもう、ゴミ箱の中で、他のゴミと見分けがつかなくなってしまった。 凪は真っ青な顔でそばに立っていて、焦りとショックで涙目になっていた。 「ごめんなさい、渡辺先輩。研究室の掃除を手伝おうとしただけなんです。うっかり捨てたものが先輩の大事なサンプルだったなんて、知らなくて……」 彼女は目を真っ赤にして、しくしくと泣き出した。 知らなかった? 笑わせないで。 私のサンプルは、きちんと棚の一番奥に置かれてあって、棚の扉も閉まっていた。わざとじゃなきゃ、間違ってゴミ箱になんか捨てられるはずがない。 研究室の同僚たちも集まってきて、この状況を見てひそひそと話し始めた。 「凪ちゃんだって、掃除しようとしただけでしょ。まさかあれが渡辺の実験サンプルだなんて、わかるわけないじゃない」 「そうだよ。凪ちゃんって素直で良い子だもんね。怒ることじゃないって」 「凪ちゃんは本当に可哀想。親切で手伝ってあげたのに、こんなことになるなんてね」 …… みんな、この素直で可愛い後輩に同情していて、彼女を慰めている。 中には、私の方をじろりと見て、怒りをぶつける同僚もいた。 「あなたもそんなにカッとしないで。この子は善意でやってくれたんだからさ」 「そうよ。たかが実験じゃない?またやり直せばいいでしょ。凪ちゃんをいじめないであげて」 「先輩なんだから、あんまり後輩を怖がらせない方がいいんじゃない?」 凪が研究室で人気があるのは知っていたけれど、まさかこれほど好かれているとは思わなかった。 彼女は私の実験を台無しにしたっていうのに、周りのみんなは私に、「怒るようなことじゃない」と言ってくるなんて。 ちょうどその時、悲しそうに泣いていたはずの凪が、一瞬だけ、私の方を得意げに見た。 ほんの一瞬だったけれど、それを見て確信した。これは、事故なんかじゃない。 凪は、わざとやったんだ。 彼女は前から私を敵視していた。みんなの前ではいい子ぶっているけど、陰ではありとあらゆる手を使って私を蹴落とそうとしてきたのだ。 私の研究があと少しで成功すると知って、わざと邪魔してきたんだ。 そう思った瞬間、全身の血が逆流するような怒りがこみ上げた。今までの凪のくだらない嫌がらせは、面倒だから見て見ぬふりをしてきたけど、今回だけは許せない。 このサンプルは、私にとって本当に、本当にかけがえのないものなんだから。 私の命と同じくらい、大事なものなの。 私はまっすぐ凪のところへ行くと、彼女の胸ぐらを掴み、ゴミ箱にその顔を押し付けた。 「うっかり、だったわよね? じゃあ教えてくれる?この研究室には、他にもたくさんサンプルがあったはずよね。なのに、どうして私のサンプルだけを、そんなに都合よく『うっかり』捨てられたのかしら?」 第2話 私の行動に、周りの同僚たちは息を呑んだ。 私が凪に掴みかかるなんて、誰も思っていなかったのだ。 凪は最初、可哀そうに泣きじゃくっていた。しかし、私が彼女の顔をゴミ箱に捨てられたガラスの破片にそのまま押し付けようとした瞬間、ついに化けの皮が剥がれた。凪は金切り声をあげて、私を罵倒した。 「気でも狂ったの?私の顔を傷つけるつもり?」 私は彼女を突き飛ばして、冷たく笑いながら見下ろした。 「あら、可哀そうなフリはもうおしまい?どうして泣き止んじゃったの?」 凪は込み上げてくる憎しみをぐっと堪えた。そして再び顔を上げた時には、罪悪感に満ちた表情に変わっていた。 「本当にごめんなさい……先輩の気が済むなら、どうぞ、この顔は好きにしてください。 先輩が、私のこの顔をずっと嫌ってたことも知ってます。私が先輩より可愛いですから……だったら、もういっそ傷を付けてください」 そう言うと、凪はガラスの破片を手に取り、自分の顔を傷つけようとした。 周りにいた同僚たちが、それを黙って見ているはずがなかった。みんなすぐに駆け寄って、彼女を止めた。 すると凪はさらに悲しそうに泣き崩れ、止めに入った男性の同僚の胸に倒れ込んだ。 美人を腕に抱いたその同僚は、すっかり舞い上がってしまったようだ。彼は私に向かって、怒りをぶつけてきた。 「渡辺、やりすぎだろ!凪ちゃんは、ただ間違ってお前のサンプルをこぼしちゃっただけじゃないか!それなのに、彼女にこんなことをさせるのか? 実験が心配なんじゃなくて、本当は凪ちゃんがお前より可愛いからって、嫉妬してるだけなんじゃないのか?」 彼の言葉で、周りのみんなが一斉に私に視線を向けた。その目には、軽蔑の色が浮かんでいた。 凪は、得意げな顔を隠そうともしなかった。 私は鼻で笑って、スマホを取り出した。 「みんなが私のことを疑うなら、警察を呼んで、これが一体どういうことだったのかはっきりさせて。 私の研究の価値は、上の方はご存じのはずよ。私のサンプルをわざと壊したら、どんな罪になるのか、ぜひ知りたいわ!」 私はそう言って、電話をかけようとした。 それを見た凪は、途端に慌てだした。周りの同僚たちも、「そこまでしなくても」と口々に私を責めた。 「どうしてよ?研究を台無しにされたのは私なのよ。そのせいで論文が出せなくなるのも私なの! 被害者は私よ!警察を呼ぶのは当然でしょ!」 そう返しながら、私は本当に110番に通報した。 しかし、通話が繋がるその瞬間に、後ろから誰かにスマホを奪われた。 振り返ると、騒ぎを聞きつけた上司たちが、いつの間にかそこに立っていた。 その先頭にいたのは、私の婚約者かつ上司である、横山智也(よこやま ともや)だった。 彼の顔を見た瞬間、私の目頭は熱くなった。今まで堪えていた悔しさと悲しさが、一気にこみ上げてきた。 誰も分かってくれない。この研究は、ただ論文を発表して、学位をもらうためだけのものじゃない。 これは、智也の病気を治すための、最後の希望なんだ。 3年前に智也が全身性エリテマトーデスにかかってから、彼がずっと苦しんでいる姿を見るのが、本当につらかった。 だから、博士課程の時から医学分野の文献を片っ端から調べて、有効な薬を開発しようと必死だった。 3年間、寝る間も惜しんで研究を続けて、ついに、大きな進展があった。あと少しで、智也の病気を治せるはずだったのに。 しかし、凪のせいで全部めちゃくちゃになった。 智也は白衣を着て、全員の前に立っていた。その姿は、いつもと変わらず知的で素敵だった。しかし、彼のハイネックのシャツの下に、病気に苦しめられた痕が全身に広がっているなんて、誰も知らなかった。 そのことを思うと胸が苦しくなって、私は智也に抱きつこうと一歩前に出た。 しかし、私より一歩先に、泣きじゃくりながら彼の胸に飛び込んだ人がいた。 「智也先輩、やっと来てくれたんですね。あと少し遅かったら、私は渡辺先輩に顔を傷つけられるところでした。本当に怖かった……」 第3話 私はその場に、立ち尽くしてしまった。 智也は、愛おしそうに凪を抱きしめた。それから、彼女の涙をそっと拭って、優しく声をかけた。 「大丈夫だ。俺がいるから、誰もお前に手出しはさせないよ。 由理恵、謝れ」 智也は冷たい目で私を見た。何を言われたのかのを理解した瞬間、全身から血の気が引いた。 凪は勝ち誇ったように、私のことを見ながらにやりと笑った。 私は強く拳を握りしめた。彼の態度を、信じたくなかった。 「いま――なんて?」 「謝れって言ったんだ」 智也の声は、イラついていた。 「たかが実験ひとつで、そんなに騒ぐのか? この子だって、悪気があってやったわけじゃないんだ。お前は人の親切をなかったものにするつもりか?」 彼の言葉は、鋭いナイフのように私の胸に突き刺さった。 智也は、私がこの実験に全てを捧げてきたことを、誰よりも知ってるはずなのに。 それにもかかわらず、彼はサンプルがなくなったことにまるで関心がないようだった。しかも、すべてを台無しにした凪の肩を持つなんて。 以前にも、仕事で智也が凪を庇うことは何度もあった。そのたびに、私は彼と喧嘩になった。 しかし、智也はいつも困った顔で弁明するだけだった。「凪はまだ若いからね。自分がミスばっかりしてた研修医だった頃を思い出して、つい気になっちゃうんだ」って。 苦しい言い訳にしか聞こえないことは、心のどこかで想っていた。それでも、智也とは長年の付き合いだから、私は彼を信じる方を選んだ。 しかし、この瞬間、彼を信じたことは間違っていたと、思い知らされた。 もう、我慢の限界だった。私は駆け寄って、自分のスマホを取り返した。 「どうして彼女がちょっと泣いただけで私が全てを許さなきゃならないの?あれは私の実験で、私の論文で……私の未来だったのに! 警察を呼ぶ!絶対に許さないから!」 私の言動に驚いたのか、他の上司たちが、落ち着くように私をなだめ始めた。 「まあまあ、渡辺。君の実験が大事なのは、よくわかるよ。でも、一番大事なのは、人だろう?」 「そうだよ。警察沙汰になったら、遠藤の将来はどうなる?そこまで考えてあげないと」 「こうしよう。時間は多めにあげるから。もう一回、実験をやり直せばいいじゃないか?」 冗談を言わないでほしい。たった一度の実験で成功するような簡単なものなら、あの病気が今でも難病として、患者や医者たちを悩ませているわけがないのに。 みんなが口々に言うのを聞いて、私はやっと理解した。この人たちは、全員、凪の味方なのだと。 理由は、とてもシンプルだった。 みんな、智也の背景を知っている――彼が、この研究室のスポンサー、横山家の御曹司だということを。 智也が守りたいと思った人間には、ここの上司たちはみんな協力するように庇うのだ。 でも、もし智也が知ったらどうするだろう?必死で守っている可愛い後輩こそが、彼の病気を治せるたった一つのチャンスを、めちゃくちゃにした犯人だっていうことを。 気まずい沈黙が流れた。周りの人たちは私を軽蔑したような目で見ていて、凪はやはり勝ち誇った表情をしていた。 智也はゆっくりと私の前に来て、私の肩をぽんと叩いた。 「まあまあ、由理恵、どのみち、この実験には時間を使いすぎてたよ。これをいい機会だと思って、少し休んだらどうだ? それに結婚したら、お前は俺の世話にもっと時間を使えるようにならないといけないだろ?」 そうだ。私と智也は、今年の年末に結婚する約束をしていた。 この実験は、本来、結婚を記念して彼に贈るプレゼントになるはずだった。 しかし今はもう、何もかも無くなってしまった。 私は鼻で笑うと、智也の手を振り払った。 「結婚は、他の誰としてください。私には、その資格はなさそうなので」 第4話 私はすぐに、智也に別れを告げた。 智也からもらったプレゼントはすべてそのまま残して、自分の荷物をまとめて同棲していた部屋を出た。とにかく一日でも早く、彼との縁を切りたかったのだ。 しかし智也は、私がふざけているだけだと思っていた。しつこく連絡してきては、文句ばかり言ってくる。 「ただの実験のひとつで、別れるなんて言い出すか、普通? プロポーズしようと思って、ダイヤモンドの指輪まで用意してたんだぞ。こんなことで騒いで、俺の気持ちをなんだと思ってるんだ?」 その言葉を聞いて、私はつい可笑しくなった。 私が台無しにされたあの実験が、智也の病気を治せる唯一の希望だったと知っても……それでも彼は、「ただの実験ひとつ」なんて言えるのだろうか。 私は智也の連絡を全て無視した。論文の締め切りが迫ってきたのに、実験データがないから提出できない。当然、留学の話も白紙に戻るだろう。 しかし、そんな途方に暮れている私に、国内の最先端の研究所から突然連絡が入った。私の実験にとても興味があるとのことだった。 もし自分たちの研究所に来てくれるなら、今よりもっといい条件を約束するという、破格のオファーだった。 この誘いに、私の心が動いた。 だって、私が今の研究室に残ったのは、ほとんどが智也のためだったのだ。 横山家がこの研究室に出資して、各地から教授たちを集めたのも、すべては彼の病気を治すためだった。 私も、智也の病気を治すために少しでも力になりたかったけれど、もうその必要もなくなった。 私はすぐに、詳しい話を聞くために面談を約束した。そして、これまでの実験データを整理するために、一度研究室に戻った。 研究室のドアの前まで来ると、聞き覚えのある声がした。甘ったるい、凪の声だった。 「智也先輩、私は渡辺先輩の実験を台無しにしちゃったけど、結果的には良いことしたかもしれません。 この前、渡辺先輩が海外の研究所と電話してるの、聞いちゃったんです。実験は成功したから、もうすぐそっちに行きますって! 結婚も考えてるはずなのに、留学なんて……きっと渡辺先輩は、病気のあなたが重荷になって、とっくに捨てるつもりだったんですよ!」 智也の顔が険しくなった。凪の言葉を真に受けたようだ。 凪はさらに続けた。 「智也先輩、実験がなくなれば、渡辺先輩は留学できなくなりますよね。そしたら、その留学の枠、私に譲ってくれるように上の人に頼んでくれませんか? そうすれば、渡辺先輩はおとなしくあなたと結婚するしかないし、私も時々あなたに会いに帰って、あなたの寂しさを紛らわせてあげられますから」 そう言いながら、凪の細い指が智也の足の間へと、ゆっくりと這っていく。その誘いは、あまりにも露骨だった。 智也は低く声を漏らした。快感に身を任せながら、何かを決心したようだった。 彼は勢いよく立ち上がると、凪を実験台に押し倒した。そして彼女のスカートをめくってから、その場にいない私に当てつけるように言った。 「由理恵が俺から離れる?そんなこと、させるもんか! さあ、可愛がってやるから、おとなしくしろよ。留学の枠は、お前にくれてやる」 …… その後聞こえてきたのは、聞くに堪えない男女の交わる声だった。 これで、全てが繋がった。私の実験が台無しようとした凪の思惑に、智也も一枚噛んでいたんだ。 私が彼より成功するのが許せなかった。私がもっと広い世界へ羽ばたいていくのが嫌だった。だから、こんなひどいやり方で、私をここに縛り付けようとしたんだ。 しかし、智也は思いもしなかっただろう。彼が壊したのは、私の研究だけじゃない。彼は、自身の病気が治るはずだった未来も、一緒に壊してしまったのだ。 この事実を、絶対に智也に突きつけてやる。