いつだって、花嫁は私じゃない

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いつだって、花嫁は私じゃない

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夫の帰りを待っていた時、スマホに通知が一件届いた。 結婚式のWEB招待状だった。 タップした瞬間、流れ出したBGMに私は息を呑んだ。 それは、...

Chương (1)

第1章

夫の帰りを待っていた時、スマホに通知が一件届いた。 結婚式のWEB招待状だった。 タップした瞬間、流れ出したBGMに私は息を呑んだ。 それは、愛し合っていた頃に彼が何度も歌ってくれた、あの曲だった。 ただ、結婚して三年。私たちにはまともな結婚写真一枚さえないのだ。 「いつか、こんな式を挙げてくれるはず」……そんな淡い期待を抱き続けてきた。 だが、招待状の新郎の欄を見た途端、思考が真っ白になった。 私と婚姻届を出した彼と同姓同名だった。 呆然と見つめた先にいたのは、白いタキシードを身にまとい、愛おしそうに微笑む私の夫だった。「大事な取引先の結婚式に行く」と言って家を出たあの男が…… そして隣に並ぶ新婦も、よく知る顔だ。 夫が事あるごとに口にしていた可愛い幼馴染。 写真の下には、小さい文字でこう添えられていた。 【待っていたよ。諦めなくてよかった】 第1話 夫の帰りを待っていた時、スマホに通知が一件届いた。 結婚式のWEB招待状だった。 タップした瞬間、流れ出したBGMに私は息を呑んだ。 それは、愛し合っていた頃に彼が何度も歌ってくれた、あの曲だった。 ただ、結婚して三年。私たちにはまともな結婚写真一枚さえないのだ。 「いつか、こんな式を挙げてくれるはず」……そんな淡い期待を抱き続けてきた。 だが、招待状の新郎の欄を見た途端、思考が真っ白になった。 私と婚姻届を出した彼と同姓同名だった。 呆然と見つめた先にいたのは、白いタキシードを身にまとい、愛おしそうに微笑む私の夫だった。「大事な取引先の結婚式に行く」と言って家を出たあの男が…… そして隣に並ぶ新婦も、よく知る顔だ。 夫が事あるごとに口にしていた可愛い幼馴染。 写真の下には、小さい文字でこう添えられていた。 【待っていたよ。諦めなくてよかった】 笑えるのは、三年前、高橋哲也(たかはし てつや)と結婚した時、ただ役所で籍を入れただけだったということ。 「今は起業したばかりで苦しい時期だ。我慢させて申し訳ない。いつか必ず豪華な式を挙げるから」 彼のその言葉を、私は信じた。 ウェディングドレスも指輪もなかったけれど、その思いだけで、私・高橋七海(たかはし ななみ)は三年間尽くしてきた。 そして今、彼は確かに豪華な式を挙げている。ただ、隣にいるのは私ではない。 招待状のBGMは、大学時代に彼が寮の下でギターを弾きながら歌ってくれた思い出の曲。 「七海、お前がドレスを着る日は、俺がこれを歌うよ」 音楽はまだ流れているのに、スマホすら手から滑り落ちそうになる。 喉の奥に冷たい塊が詰まったように、泣きたくても声が出なかった。 私は車のキーを掴んで外へ飛び出した。式場の場所なんて聞かなくてもわかっていた。半年前、私が哲也と下見に行き、手付金まで払ったあの場所だから。 あの時、哲也は言った。 「若菜が帰国したばかりで住むところがないんだ。この金は彼女の入居資金に使わせてくれ。式は延期しよう」 私は「いいよ」と答えた。 困っている人がいるなら助けたい、そう思ったから。 今思えば、私こそが、笑いものだった。 式場に到着すると、入り口に飾られた巨大なウェルカムボードが目に刺さった。 私はホールへと突き進んだ。 哲也は私に背を向け、司会者と進行の確認をしていた。私に気づいた瞬間、彼の顔から笑顔が凍りついた。 哲也は顔色を変えて駆け寄ってくると、私を角へと引きずり込んだ。その目は動揺で泳いでいる。 「七海!何しに来たんだ! 勘弁してくれ!今日の式は重要なんだ!」 その姿を見て、私はただ虚しさだけを感じた。 「哲也……忘れたの?私があなたの妻だってこと」 私はボードを指差した。 「他の女と結婚式を挙げながら、よくもそんな口が叩けるわね」 哲也の顔に一瞬だけ気まずさが走ったが、すぐに開き直ったような表情になった。 「若菜とは形だけの結婚だ。本気にするな」 彼はさも自分が被害者であるかのように、深く溜息をついた。 「彼女のおばあさんの容態が良くないんだ。最期に孫の晴れ姿を見せてあげたいって…… 若菜には恋人もいないし、頼れるのは俺だけなんだ。死に際の老人の願いを無下にするのか?」 助ける? タキシードを着て、披露宴の準備をして、招待状までバラまくことが「助ける」ことなの? 「七海、そんな器の小さいことを言うなよ」 哲也は不機嫌そうに眉をひそめた。 「ただの形式だろ?籍も入れてないし、そこまで怒ることないだろ?」 そこへ、木村若菜(きむら わかな)が歩み寄ってきた。 彼女が着ているドレスは、私がデザインしたものだった。 デザイン画を嬉々として哲也に見せた時、彼は「高すぎる。金ができてからにしよう」と一蹴した。 第2話 なのに若菜のこととなれば、手間も暇も金も惜しまない。 若菜は目を赤くし、まるで私が悪者であるかのように震えている。 「哲也くん、もうやめて。七海さんがもっと嫌いになっちゃう…… 私、一人で何とかなるから。だって、おばあちゃんがいなくなったら、もう誰も私のこと……」 哲也が突然、怒鳴り声を上げた。 「七海!彼女を追い詰めて満足か? 聞き分けがない!なんでこんな日に無理難題を押し付けるんだ!」 その言葉に、鼻の奥がツンと熱くなった。 でも、涙を見せたくなかった。 私はスマホを取り出し、哲也の目の前に突きつけた。 画面には、七回分もキャンセルされた結婚式の記録が映し出されていた。どれも、私一人だけが取り残されたものばかりだった。 「七回よ。七回もあなたとの結婚式を待ち続けたのに、その度にこの女のせいで台無しにされた! その度にあなたは、私が聞き分けがないと言い、彼女が可哀想だと言った。 そして今日、あなたはついに式を挙げた。私ではなく、彼女と」 私は彼を真っ直ぐに見据えた。 「哲也、あなたに人間の心はあるの?」 -- ホールは水を打ったように静かになった。 次々と入場してくる招待客たちは、私に気づき、ひそひそと囁き始めた。 床に落ちたスマホを見つめる哲也の顔は、青くなったり赤くなったりと忙しい。 七年前に哲也と出会った時のことを思い出した。 彼はバーで泥酔していた。 若菜が金持ちの男と駆け落ちするために、哲也の貯金をすべて持ち逃げして捨てたからだ。 彼をアパートへ引きずって帰り、顔を拭き、味噌汁を飲ませたのは私だった。 あの時、彼は私を抱きしめて泣きながら言った。「もう女なんて信じない」と。 屋台で安上がりな食事を共にしたのも、ボロアパートで寄り添ったのも、全財産を投げ打って彼の起業を支えたのも、全部私だ。 それでも、あの頃は幸せだった。 「七海、俺が成功したら、世界一豪華な式を挙げる。若菜みたいな金目当ての女を見返してやる」 苦しい生活の中で、彼はそう誓ってくれた。 やがて彼は本当に成功した。 私たちは最初の結婚式を準備した。 その結婚式の前日、若菜が帰国した。 「闇金に追われて、身売りさせられる」と、若菜の泣き声ひとつで、哲也はドレスを試着していた私を置いて飛び出した。 私はブライダルショップで朝まで一人、待ち続けた。 そして、式も中止になった。 「命がかかってたんだ。七海は優しいから、わかってくれるよね?」 私は彼を許した。 二回目は式中の出来事だった。 誓いの言葉を言おうとした瞬間、入院着を着た若菜が乱入し、バージンロードで倒れた。 哲也は狂ったように若菜を抱き上げ、列席者の好奇の目に晒される私を置いて去った。 「若菜はうつ病なんだ。刺激に弱いんだよ。七海、次は必ずやるから」 三回目、四回目……そして七回目。 もう結婚式なんて贅沢は言わない。ただ穏やかな生活が欲しかった。 戸籍上の妻でいられれば、毎晩帰宅してくれるだけで、我慢できると思っていた。 彼はただ情に脆いだけだと、自分に言い聞かせて。 けれど、目の前のこの豪華な結婚式を見て、若菜が着ている私のドレスを見て、ようやく気づいた。 私の譲歩は、哲也の傲慢さを育て、若菜の図々しさを付け上がらせただけだった。 私の七年の人生は、ドブに捨てられたのだ。 若菜が黙り込んだ哲也を見て、私の袖を掴もうと近寄ってきた。 「七海さん、哲也くんを責めないで。全部私のせいなの」 私は冷たく彼女を見据え、手を振り払った。 第3話 「ええ、あなたのせいよ。 悪いと思ってるなら、消えてもらえる?」 若菜の顔が強張り、涙が溢れ出した。彼女はふらりとよろめき、ひどいショックを受けたふりをした。 哲也は慌てて若菜を支え、私を睨みつけた。 「七海!なんて酷いことを言うんだ!若菜の体が弱いことを知ってるだろ!」 「酷い?」 かつて深く愛したこの男に対し、今は吐き気しか感じない。 「哲也、あなたの中では、愛人を守るのが義理で、正妻が抗うのは悪なのか? いいわ、よく分かったわ」 私は頷き、一歩下がった。 「こんな茶番劇、もう付き合っていられない」 私は背を向けた。 こんなクズ男、欲しい奴にあげればいい。 私が立ち去ろうとした瞬間、哲也はハッとした。 彼の顔に、初めてパニックが浮かんだ。 この七年、私がどんなに騒いでも、最後には必ず許してきた。彼は私の妥協に慣れきっていた。 「七海!待て!説明させてくれ!」 彼の手が私に触れようとした、その時、背後で若菜が短く悲鳴を上げた。 「哲也くん……痛い……っ」 哲也の動きが止まった。 振り返ると、若菜が腹部を押さえて床に座り込み、顔を青ざめさせていた。 彼女はか細い声で、哲也に、そして私に言い放った。 「哲也くん……私、赤ちゃんができたみたい」 私は足を止め、ゆっくりと振り返った。 周囲の客が息を呑み、ざわめきが広がる。 「妊娠?とんでもない修羅場だな」 「形だけの式じゃなかったのかよ。子供までいるなんて」 「奥さん、あまりにも惨めすぎるわ……」 私の声は、驚くほど冷静だった。 「彼女と、寝たの?」 哲也は手を伸ばしたまま、固まった。目は泳ぎ、唇を震わせるが、言葉にならない。 哲也の沈黙が、すべてを物語っていた。 私の胸がひどく締め付けられた。 妊活のために吐き気副作用がある排卵誘発剤を飲み、あの「家」を守るために耐えていた時、彼は他の女と肌を重ねていたのだ。 私は一歩ずつ、哲也の前へと戻った。 「七海、あれは事故なんだ。飲みすぎて、俺……」 パチン! 乾いた平手打ちの音が、ホール中に響き渡った。 全身の力を込めた一撃だった。 哲也は呆然として私を見た。 「殴ったのは、あなたが汚らわしいからよ」 一文字ずつ、声にこれ以上ない平静さを込めて言った。 「哲也、明日、役所で会いましょう」 若菜が哲也の腕の中で、さらに甲高い声を上げた。 「哲也くん、お腹が……赤ちゃんが……助けて、私たちの赤ちゃんを!」 その声で哲也は我に返った。 彼は若菜を抱きかかえ、私に向かって怒鳴った。 「いい加減にしろ!殴っただろ、罵っただろ、これ以上どうしたいんだ! 若菜は妊娠してるんだ!命がかかってるんだぞ!少しは大人になれ!」 私はもう何も言わず、ホールを出た。 私も妊娠している。悪阻で胆汁を吐き、夜中に足が攣って痛みで飛び起きる日々。検診の度に、一人で冷たい椅子の並ぶ病院に座り、幸せそうな夫婦を眺めてきた。 けれど今、若菜を抱えて外へ飛び出していく哲也の背中を見て、私はすべてを失った。 振り返ることなく、私は自分の腹部をそっと撫でた。 ごめんね、パパがいなくても、ママと二人で頑張って生きていこうね。 第4話 自宅に戻ったのは午後だった。 だが、ドアを開けた瞬間、私は言葉を失った。 玄関には二足の靴。 一足は哲のもの。もう一足は赤いハイヒール。 ドアは開けっ放し。 リビングからはテレビの音と、女の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。 寝室に入ると、若菜が私のクローゼットの前に立っていた。 彼女は私のシルクのネグリジェを羽織り、帯を緩く結んで、白い肌を露出させている。 手には、黒いレースのランジェリー。 私が記念日のために用意し、まだ着る機会のなかったものだ。 若菜は私を見て、少しも恥じる様子もなく、意地悪く笑った。 「あら、七海さん、お帰り~」 手を離すと、ランジェリーは床に落ちた。 彼女はその上に足を乗せ、思い切り踏みにじった。 「気持ち悪い。まともな女がこんなもので男を誘うなんて。哲也くんがあなたを抱かないわけね」 血が頭に上った。 ここ全部、私の家、私の服、私のプライドだ。 私は寝室へ駆け寄り、外を指さしながら叫んだ。 「服、脱いで出てって!」 若菜はわざとらしく驚いて後退し、後ろの人の胸の中に飛び込んだ。 いつの間にか哲也が戻っていたのだ。 彼は若菜を庇うように立ちふさがり、不機嫌そうに私を見た。 「七海、また何を騒いでるんだ? 若菜の服が汚れただけだろ?借りるくらい、いいじゃないか。家族なんだから、ケチくさいこと言わないでよ」 家族?愛人と私が家族? あまりの論理破綻に、笑いが出てきた。 「哲也、頭がおかしくなったの?誰が彼女と家族だって?」 哲也は私を若菜から遠ざけ、声を低めた。 いつもの、人を煙に巻くような甘い言葉で宥めてきた。 「七海、聞いてくれ。若菜の状況を考えてくれ。子供に父親が必要なんだ。 それに、未婚で子どもを産むなんて、世間体が悪すぎる。彼女の人生、台無しだろ?」 彼は深く息を吸い、私の目を見つめた。そして、私が生涯忘れられない言葉を口にした。 「七海、お前が俺を一番愛してくれてることは知ってるよ。 一旦、離婚してくれないか。そして、お腹の子を下ろすんだ」 私の頭の中が、バッと白くなった。 信じられない思いで彼を見た。 「……今、なんて言ったの?」 声が震えて止まらない。 哲也は視線を逸らしたが、開き直って続けた。 「若菜の子を俺たちの子として世間に発表する。お前は母親としてこの子を育てるんだ。若菜と俺が結婚すれば、すべて丸く収まる。 まだ若いんだ。子供なんてまた作ればいいだろ」 私は彼を見て、全身が氷のように冷たくなった。 初恋相手のため、嘘か真かもわからない子供のため、彼は実の我が子を殺せと言った。 その上、愛人の子供を育てろと! 私は一言も発さず、書斎へと向かった。 哲也は私が折れたと思い、安堵したように後ろから声をかけた。 「七海、やっぱりお前は物分かりがいいな」 私は書斎から離婚届を持ち出し、哲也の顔に叩きつけた。 「望み通りにしてあげるわ」 机の上の離婚届を見て、哲也は完全に固まった。