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夫が女の車仲間を新居に招いたので、離婚した
旦那の前田佑樹(まえだ ゆうき)が配車アプリの運転手を始めて三年目。 私たちはようやく、念願だった自分たちだけの小さな家を手に入れた。 ...
Chương (1)
第1章
旦那の前田佑樹(まえだ ゆうき)が配車アプリの運転手を始めて三年目。
私たちはようやく、念願だった自分たちだけの小さな家を手に入れた。
引っ越し祝いの日、彼は突然こう言った。
「今夜、友だちが何人か新居に来てご飯食べたいってさ。もういいって返事しといた」
私、望月詩織(もちづき しおり)はもともと他人との境界線をはっきり引くタイプで、外の人を自分の家に入れるのが好きじゃない。
親戚ですら、食事は店で済ませてもらっていた。
「お店じゃだめなの?」
彼は困ったように言った。「そうも言ったんだけど、優奈ちゃんが家のほうがにぎやかでいいって。
新居なんだから、盛り上がったほうがいいってさ。それに俺の料理がうまいの知ってるから、食べてみたいんだって」
私は嫌な予感がした。
山田優奈(やまだ ゆうな)――それは、この三年、彼が配車の仕事を始めてから、いちばん頻繁に口にしていた女の名前だった。
彼ら配車ドライバーのグループの中で、唯一の女性ドライバーでもあった。
第1話
旦那の前田佑樹(まえだ ゆうき)が配車アプリの運転手を始めて三年目。
私たちはようやく、念願だった自分たちだけの小さな家を手に入れた。
引っ越し祝いの日、彼は突然こう言った。
「今夜、友だちが何人か新居に来てご飯食べたいってさ。もういいって返事しといた」
私、望月詩織(もちづき しおり)はもともと他人との境界線をはっきり引くタイプで、外の人を自分の家に入れるのが好きじゃない。
親戚ですら、食事は店で済ませてもらっていた。
「お店じゃだめなの?」
彼は困ったように言った。「そうも言ったんだけど、優奈ちゃんが家のほうがにぎやかでいいって。
新居なんだから、盛り上がったほうがいいってさ。それに俺の料理がうまいの知ってるから、食べてみたいんだって」
私は嫌な予感がした。
山田優奈(やまだ ゆうな)――それは、この三年、彼が配車の仕事を始めてから、いちばん頻繁に口にしていた女の名前だった。
彼ら配車ドライバーのグループの中で、唯一の女性ドライバーでもあった。
私は唇をきゅっと結び、素知らぬ顔でそのまま荷物を片づけ続けた。「前にあなたが言ってたけど、彼女、離婚でもめてるの?」
佑樹と私は、引っ越し後の細々した荷物を一緒に整理していた。
彼は私の表情の変化にも気づかず、答えた。
「うん。半年前のあの件が原因でさ。
彼女の旦那、酔った勢いで昔好きだった相手の名前を口にして、あのとき告白しなかったのを後悔してるって言ったんだ。その頃ちょうど、その相手とこっそりメッセージしてたのを優奈ちゃんに見つかって、それ以来ずっと寝室も別。最近また揉めだして、離婚届まで出した」
私は皮肉っぽく言った。「離婚でもめてるくせに、あなたの新居祝いにわざわざ来て騒ぐ暇はあるのね」
彼は私の口調に気づいたらしく、すぐに笑って言った。
「ただの友だちだろ、何考えてるんだよ?
それにさ、新居祝いなんだから、にぎやかなほうがいいじゃん。お前の旦那がどんな人間か、お前がいちばんわかってるだろ?」
わかってる。
彼はかなりいい男だった。
料理もできるし、家事も進んで引き受けてくれる。稼ぎに対して少し向上心が足りないことを除けば。
完璧な夫と言っていいくらいだった。
彼は私にべったりするのが好きで、感情面の気づかいも上手かった。
ゲームで遊ぶ相手も男ばかりで、女は選ばなかった。
彼らのグループでは、誰もが彼が私を大切にしていることを知っていた。
私が料理できないから、彼は毎日昼にいったん家へ戻って食事を作ってから仕事に行っていた。
なのに、そんなできた男の口から、三年前に配車アプリの運転を始めてからというもの、ひとりの女友だちの名前が増えた。
胸のつかえが取れず、私の声は冷たく強張った。「私は賛成しない。他人をうちに入れるの、嫌なの」
それでも彼は私をなだめるように言った。
「でももうみんなには話しちゃったし、ただご飯食べるだけだよ。家のほうがにぎやかでいいじゃん。
ほら、新居祝いで人を招くのに、家に一度も来てもらわないっておかしいだろ?
それに……」
私は服をたたむ手を止めた。
そのあと彼が何を言ったのか、もう覚えていない。胸の奥に石でも詰まったみたいに重くて、息まで苦しくなった。
分かったのは、彼がほかの女の望みをかなえるために、私に自分の境界線を譲らせようとしていたことだけだった。
たぶん、私が考えすぎで、心が狭いだけなんだろう。
彼が話し終えるのを待って、私はうなずいた。「いいよ。呼べば」
彼はうれしそうに友だちへ電話をかけ、今夜、新居で集まってにぎやかにしようと話していた。
電話を切ると、今度は彼の両親に電話をかけて、娘のゆきを預かってもらうよう頼んだ。
それから私の手を引いて、一緒に食材を買いに出た。
口では、あの友人たちが好きな料理のことをあれこれぶつぶつ言っていた。
私はずっと黙ったままだった。
車に乗ると、かすかに甘い香りがした。
私は顔を横に向けて彼を見た。「香水つけたの?」
私は車酔いするから、彼はいつも車内に香りのあるものを置かなかった。
彼はうれしそうに香水のボトルを取り出し、私のほうへひと吹きした。「優奈ちゃんにもらったんだ。四万円もするんだぜ。
いや、違うな。正確には、俺が優奈ちゃんに欲しいって言ったんだ。彼女が新しい香水を買ったばっかりで、こっちはもうほとんど使い切りかけてたし。匂いがけっこう気に入ってさ、それでもらった。いい香りだろ?」
空気に広がったその香りに、胃の奥がむかむかし始めた。
気分の悪さをこらえながら、私は言った。「前にあなた、香水の匂いは好きじゃないって言ってたよね」
第2話
彼はへらっと笑い、大事そうにしまい込みながら言った。
「前はそういうのに出会ってなかっただけだよ。
配車アプリの運転手やってると、いろんな客を乗せるだろ。ああいう匂いってさ、香水でもつけてなきゃたまったもんじゃないんだよ」
でも前はたしかに彼がこう言っていたのだ。「香水なんかつけてどうすんだよ。お前だって好きじゃないし、もともと車酔いするだろ。車の中の匂いだけでも十分きついのに、そのうえ香水なんてあったら、お前絶対無理だって」
私は口の中の頬の内側を噛み、何も言わなかった。
買い物を終えて家に戻ると、何人かの友人はもう着いていて、下で彼を待っていた。
私は彼について迎えに行き、軽く視線を走らせた。
優奈は華奢な体つきで、私よりずっと細かった。
同じように結婚してゆきもいるのに、私は病気のせいで長年薬を飲み続けていて、そのうえ節制もできず、かなり太ってしまっていた。
エレベーターに乗ると、私は彼女のすぐ近くに立った。
彼女より、私のほうが少し背が高かった。
優奈の体から、ほのかな香りが漂ってきた。
その香りには覚えがあった。
夫の車の中にしていた、あの匂いだ。
私ははっと思い出した。彼が運転の仕事を始めて半年ほどたった頃、急に私にこう言ったことを。
「なんか、背が高くなった?」
抱きしめてきたかと思うと、私の体に鼻を寄せてくんくん嗅ぎながら、ふいにこうも言った。「やっぱり、お前も香水つけたほうがいいかもな」
優奈は私より背が低くて、しかも香水をつけるのが好きだった。
胸のつかえは、どんどんひどくなっていった。
それでも私は勝手に人を疑いたくなくて、家に入ると夫はそのままキッチンへ行き、忙しそうに動き始めた。
私は料理ができないので、ソファに座ってスマホをいじっていた。
彼の運転仲間たちは、私があまり社交的な性格じゃないと聞いていたのか、部屋をひと通り見たあとは勝手に盛り上がって話し始めた。
今日は引っ越し祝いだった。
私は朝五時から片づけをしていた。
昨夜はうれしくて一晩中眠れず、今日は新居で丸一日過ごしていたせいで、このときには眠気で頭が少しくらくらしていた。
話し声を聞き流しているうちに、視界の端からひとつ人影が消えた。
そちらを見ると、優奈がキッチンで夫と一緒に動いていた。
二人は楽しそうに笑いながら話していて、私は黙ってそれを見つめた。
私の視線に気づいたのか、夫はエプロンで手を拭いながらこちらへ来て、私の腕をつかむと部屋の奥へ引っぱっていき、小声で言い含めた。
「優奈ちゃんの離婚のことは言うなよ。
俺に話したとき、お前には言わないでくれって頼まれてたんだ。せっかく新居祝いなのに、自分が離婚したなんて話、縁起悪いってさ」
私は思わず口にした。「縁起悪い?縁起悪いなら、なんでわざわざ私の新居に来て騒ぎたいの?」
彼は言葉に詰まった。「いや、その……友だちが家でにぎやかにしたいってだけで」
私は深く息を吸った。「あの人は客なんだから、キッチンに入るのはおかしいよ」
すると彼は気にも留めないふうに笑った。「友だちなんだし。料理できるから手伝ってくれてるだけだって。別にいいだろ」
そう言い残すと、彼はまた慌ただしくキッチンへ戻っていった。
でも私がああ言ったせいで、彼は優奈をキッチンから追い出した。「客なんだから、キッチンで動かなくていいって。向こうでゆっくりしてろよ」
優奈は私をちらりと見て、笑いながら言った。「大丈夫だよ、みんな友だちなんだし。
奥さんは料理できないでしょ。私はできるから、ちょっと手伝うくらい平気だよ」
何気ない一言のはずなのに、私にはやけに引っかかった。
夫に何度も促されて、ようやく彼女はソファに腰を下ろした。
そして私のほうへ身を寄せ、目元をやわらかく弧にして言った。
「詩織ちゃん、こんにちは。
引っ越したばっかりで、きっと大変でしょ。何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね。
それに、あなたと佑樹が一緒に四万円の香水をくれて、元気づけてくれたでしょう。私、まだどうお礼をしたらいいかわからなくて」
その瞬間、頭の中でぶん、と音がしたみたいに真っ白になった。
第3話
ほかの運転仲間たちはその言葉を聞くと、口々にからかい始めた。
「うわ、四万円の香水かよ。さすが佑樹さん、優奈ちゃんには気前いいなあ」
「ほんとそれ。前に俺が香水くれって言ったら、失せろって言われたのに、ははは」
「優奈ちゃんはみんなの愛されキャラだしな。佑樹が甘やかしてても不思議じゃないだろ?」
優奈はあわてて手を振った。「もうもう、やめてよ。これ以上言ったら、詩織ちゃんが気を悪くしちゃうよ」
そう言って、彼女は振り向き、不安そうに私を見た。
「詩織ちゃん、怒ってないよね?」
ひとりの運転仲間が言った。
「何を怒るんだよ。佑樹の奥さんがいちばん気立ていいの、みんな知ってるだろ。
前なんか、俺ら毎晩遅くまでゲームしてて、うちの嫁はやきもち焼いてたのに、詩織さんは全然焼かなかった。それが器ってもんだよ」
「そうそう。お前と佑樹がペアアイコンにしても、車の後ろにおそろいのカップルチャームぶら下げてても怒らなかったしな。お前が離婚して落ち込んでるからって、わざわざ香水まで買って慰めるなんて、その友情ほんと羨ましいわ」
私は優奈を見つめ、一語一語区切るように言った。「離婚って?何の離婚?」
彼女はしまったというふうにあわてて口を押さえ、気まずそうな顔をした。
「ごめん、ごめん、うっかりしてた。
私が離婚したこと、あなたには言わないでって、佑樹には頼んでたの。よくないと思って。
そのこと、すっかり忘れてた」
彼女は私の前で、いかにも後悔しているような顔を作っていた。
でも、その態度で知るべきことは全部、私の目の前にさらしてしまっていた。
ほかの運転仲間たちは、面白がるような顔で私を見ていた。
私はひそかに手を握りしめた。指先が掌に食い込み、針で刺すような痛みが走った。
四万円。
彼は、形だけの記念日なんて好きじゃないと言っていた。私が花が好きだと知っていても、花屋の前を通りかかれば平然と見ないふりをした。
それなのに、女の車仲間には、ためらいもなく四万円もする香水を贈っていた。
彼には向上心がなく、仕事もすぐ油を売っては休んでしまうような調子で、月給だってどうにか15万円に届く程度だった。
そんな高い香水を買う余裕なんて、どこにあるの?
私の給料を全部、彼が握っていたからに決まってる。
私が甘やかしすぎたんだ。
彼女は私の様子をうかがうようにして言った。「詩織ちゃん、私が離婚してるのにあなたの家に来たの、縁起悪いって思ったりしないよね?」
鼻の奥がつんとして、たまらなくなった。
ちょうどそのとき、夫の佑樹がキッチンから出てきた。「ほら、食べよう!」
「詩織ちゃん、ちょっと手伝って。食器出してくれ」
すると優奈がすぐ立ち上がった。「私が手伝うよ。詩織ちゃんはもう少し休ませてあげなよ」
ほかの運転仲間たちも、それに続いてテーブルのほうへ向かった。
私は拳を握りしめたまま、無理やり怒りを押し込み、気持ちを立て直した。
人に気づかれないよう何度も深呼吸して、ようやく骨の奥まで食い込むような痛みを押さえつけた。
私は忘れ物を取りに行くのを口実にして、下へ降りた。そして優奈の車の後ろを見た。
クレヨンしんちゃんに出てくるネネちゃん。
佑樹がクレヨンしんちゃん好きで、自分の車にクレヨンしんちゃんのチャームをつけていることは、ずっと前から知っていた。
でも私は知らなかった。
彼が優奈のために、おそろいのカップル仕様まで買っていたなんて。
私はネネちゃんとクレヨンしんちゃんのチャームを一気にもぎ取り、そのままゴミ箱へ放り込んだ。
忘れ物を手に取ったところで、一本の手が伸びてきて、それを私の手から取っていった。「待ってろって言ったのに、なんで先にひとりで降りてきたんだよ」
私は黙って足元を見つめ、それから笑った。「大丈夫」
上に戻ると、もう酒盛りが始まっていた。
飲むつもりらしかった。
私はキッチンに入り、彼のスマホを持ち出して、そのままトイレに入って中を確認した。
私たちはこれまで、お互いのスマホを見たことがなかった。互いを信じきっていたからだ。
だから彼も、私を少しも警戒していなかった。
私は簡単にロックを解除し、彼らのグループチャットを開いた。
内容は雑多だった。乗客の愚痴、どこまで送ったか、何に出くわしたか、そういうことをみんなでグループに流していた。
彼のメッセージアプリのアイコンは、ペアアイコンではなかった。
逆に、優奈は別の誰かとペアアイコンにしていた。
心臓が激しく鳴り始めた。
そういえば彼には、もうひとつ裏のアカウントがあったと思い出し、そちらにもログインしてみた。
やっぱりペアアイコンだった。
第4話
普段使っているほうのアカウントでは、彼はあまり誰ともやり取りしていなかった。私とのチャットだけが一番上に固定されていた。
けれど裏のアカウントには、友だち枠が優奈の二つのアカウントしかなかった。
個別チャット。この三年間、ほとんど毎日のようにやり取りしていた!
とくに最近、彼女が離婚でもめ始めてからは、元夫への不満を延々とこぼし、彼はひと言ひと言それを慰めていた。
ドンドンドン!
「詩織ちゃん、なんでまだ出てこないんだ?お腹でも痛いのか?」
心臓の鼓動が一気に速くなった。怒りと胸の痛みが絡み合って、ぐちゃぐちゃになっていた。
耳の奥では鼓のように心臓が鳴り続け、頭の中では今すぐ飛び出して、このクズ二人の口を引き裂いてやりたい衝動が暴れていた。
それでも、私はこらえた。
「すぐ出る」
私は彼のスマホを操作し、やり取りの一部始終を証拠として動画にも残した。
何も知らないふりをして、スマホを何気なくソファに放り出す。
それから食卓へ向かったが、みんなすでに席についていた。
佑樹の左隣は空いていた。
右隣には優奈が座っていた。
一人一杯ずつ酒が注がれていて、佑樹はいつもの間の抜けた笑顔を向けてきた。「詩織ちゃん、みんな、酒が入ったほうがにぎやかだってさ」
優奈は目を輝かせながら、テーブルに並んだ料理を見ていた。
「佑樹、料理うまいじゃん。見た目も香りも味も完璧だね。詩織ちゃんはほんと幸せ者、私、うらやましい。
ほら、一杯飲もうよ。手料理のお礼に!」
彼女がグラスを掲げる。
ほかの運転仲間たちもそれに続いてグラスを上げた。
私は腰を下ろし、黙ったまま、彼らが楽しそうにグラスを重ねるのを眺めていた。
ひとしきり盛り上がったところで、私は口を開いた。「みんなお酒飲んでるけど、車は誰が運転するの?」
ほかの数人は手を振りながら、自分たちは奥さんが迎えに来ると言った。
そう言い終えると、視線がいっせいに優奈へ向いた。
優奈はすでに一杯飲み干していて、その言葉を聞くとこう言った。「大丈夫、大丈夫。タクシーで帰るから。車はここに置いといて、明日お酒が抜けてから運転すればいいし」
すると佑樹はすぐにグラスを置き、自分の酒を私の前へ押してきた。
「じゃあ詩織ちゃん、俺の代わりにこれ飲んでよ。酒飲んだら運転できなくなるし。
そのあと俺が優奈ちゃんを送ってくよ。こんな遅い時間に一人でタクシー乗せるの、心配だし」
私は運転ができない。だから誰かを送ることもできなかった。
数人の運転仲間がそれに合わせて囃し立てた。
テーブルの下で、私は手をますます強く握りしめていた。
やがてみんな食べ終わり飲み終え、ほかの運転仲間たちはそれぞれ奥さんに迎えに来てもらって帰っていった。
残ったのは優奈だけだった。
彼女は酔いつぶれて体をぐらぐらさせながらソファにしがみつき、泣きながら元夫のろくでなしぶりを罵っていた。
私はただ静かに見ていた。夫がそばへ寄り、やさしい声で慰めるのを。
かすかに、優奈が佑樹にこう言うのが聞こえた。
「佑樹、ほんと優しいね……あなたのお嫁さんになれる人は、前世で世界でも救ったんじゃないかな……
だめ、だめ、やっぱり私ひとりで帰るね。あなたと詩織ちゃんの仲にひびを入れたくないし。
あなたが私を一人で送ったら、奥さんがやきもち焼くかもしれないし」
口ではそう言いながら、その手は佑樹の手をしっかり握っていた。
気持ち悪くてたまらなかった。
佑樹はなだめながら言った。「大丈夫、大丈夫。うちの詩織ちゃんはそういうことでやきもち焼くような人じゃないから。俺が送ってくよ」
私は唇を引き結び、彼に一杯の水を差し出した。「ここに泊まってもらえばいいよ」
彼は少し気まずそうにしながら、優奈があんなに飲むとは思わなかったと言い、それから彼女を連れてゲストルームへ入っていった。
それからほどなくして、優奈は酒癖の悪さを発揮し始め、そのまま私と佑樹の寝室にまで入り込んできた。
ベッドに横たわると、そのままぴくりとも動かなかった。
佑樹は彼女の世話で汗だくになり、部屋を出てきたあと、ぼんやりしたまま私に言った。
「詩織ちゃん、テーブルはそのままでいいから。起きたら俺が片づける。ちょっと眠い……」
そう言い終わった途端、彼はソファに突っ伏して眠ってしまった。
あの水には、少し細工をしておいた。
私は彼のスマホを取り上げ、これまで何年も彼に使ってきた金を全部自分の口座へ移した。
それから電話をかけ、家族を全員呼んだ。
「私、離婚する」