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前世の関係には戻れなくても、それでいい
あの夜、酔った黒沢颯(くろざわ はやて)は、ちょうど元恋人と別れたばかりで、私と一線を越えた。 責任を取るという理由で、颯は私と結婚し...
Chương (1)
第1章
あの夜、酔った黒沢颯(くろざわ はやて)は、ちょうど元恋人と別れたばかりで、私と一線を越えた。
責任を取るという理由で、颯は私と結婚した。
結婚生活はいつでも穏やかだった。
私は、それが永遠に続くものだと思っていた。
だが、颯の元恋人――柾木瑠璃(まさき るり)が病で亡くなった。
弔いに行った颯が初めて知ったのは、瑠璃があの夜のことを知ってしまったことで心が折れ、彼のもとを離れていたということだった。
ちょうどその頃、私の片想いを書いた日記も颯に見つかった。
颯は、二人の関係を壊したのは私だと思い込み、私を骨の髄まで憎むようになった。
私は何も持たずに離婚させられ、追い詰められ続けた。
死にかけたとき、耳元で響いたのも、颯の冷たい声だった。
「お前の愛は、本当に気持ち悪い」
再び目を開けると、私はあの夜――颯が酒に溺れていた、すべての始まりの二時間前に戻っている。
私は上着を掴んで部屋を飛び出し、瑠璃の家のドアを叩いた。
第1話
あの夜、酔った黒沢颯(くろざわ はやて)は、ちょうど元恋人と別れたばかりで、私と一線を越えた。
責任を取るという理由で、颯は私と結婚した。
結婚生活はいつでも穏やかだった。
私は、それが永遠に続くものだと思っていた。
だが、颯の元恋人――柾木瑠璃(まさき るり)が病で亡くなった。
弔いに行った颯が初めて知ったのは、瑠璃があの夜のことを知ってしまったことで心が折れ、彼のもとを離れていたということだった。
ちょうどその頃、私の片想いを書いた日記も颯に見つかった。
颯は、二人の関係を壊したのは私だと思い込み、私を骨の髄まで憎むようになった。
私は何も持たずに離婚させられ、追い詰められ続けた。
死にかけたとき、耳元で響いたのも、颯の冷たい声だった。
「お前の愛は、本当に気持ち悪い」
再び目を開けると、私はあの夜――颯が酒に溺れていた、すべての始まりの二時間前に戻っている。
私は上着を掴んで部屋を飛び出し、瑠璃の家のドアを叩いた。
私の顔を見て、瑠璃は一瞬きょとんとする。
彼女の目は赤く腫れていて、明らかに泣いたばかりだった。
「美枝(みき)?どうして……」
「瑠璃さん」
自分の声を落ち着いて聞こえるようにする。
「少し、入ってもいい?」
リビングは散らかっていて、コーヒーテーブルの上には食べかけのケーキが置かれている。
柔らかく笑って、私はそのまま本題に入る。
「兄さんの代わりに謝りに来たよ。瑠璃さんの誕生日を忘れたのは、彼の過ちよ」
瑠璃は唇を噛みしめて、何も言わない。
「でも、瑠璃さんのことを愛していないわけじゃない。あの人、小さい頃から不器用で、自分の気持ちを上手く伝えられないだけなのよ。瑠璃さんが別れを告げた今、兄さんはきっと一人でバーで飲んでるよ」
少し間を置いて、私が話を続けた。
「瑠璃さん、会いに行ってあげて」
前世では、颯は私と結婚したあとも、毎年瑠璃の誕生日に一人で酒を飲んでいた。
結局、彼女を手放すことができなかったのだ。
瑠璃は私を見つめ、ふっと笑ったが、涙はますます落ちている。
「颯みたいな人が、どうやって美枝みたいな優しい妹を育てたのでしょ。
今から行くね。
ありがとう、美枝」
颯のいるバーの場所を伝えると、瑠璃はすぐに着替えて家を出ていく。
彼女の背中を見送り、私は大きく息を吐いた。
今回の人生では、あの夜みたいな出来事はもう起こらない。
家に戻ると、クローゼットの奥に隠していた日記を取り出す。
十歳のとき、路頭に迷っていた私を拾ってくれたのは、十八歳の颯だった。
颯は他人に冷たかったが、私には優しかった。
初めて恋を知ったとき、私は彼を好きになっていると気づいていた。
しかし、それは決して口にできない片想いだった。
日記を手に取り、ページを一枚一枚裂いて捨てる。
紙片はトイレに落ち、そのまま流された。
二時間ほど経って、玄関のドアが開く。
瑠璃が、泥酔した颯を支えて入ってくる。
颯は瑠璃を抱きしめ、ろれつの回らない声で繰り返す。
「瑠璃……別れるな……悪かったのは……俺だ……」
瑠璃は困ったように何度も「分かった、分かった。別れないよ」と答える。
私に気づくと、ほっとしたように口を開く。
「美枝、悪いけど、しじみの味噌汁とかを作ってもらえる?」
「いいよ」
瑠璃は颯を支えて寝室へ入っていく。
キッチンでお湯が沸くのを待ちながら、私は寝室からの音に耳を傾ける。
颯の甘えるように声と、瑠璃の笑い声。
前世で、颯が初めて私を瑠璃に紹介したとき、すぐに分かった。
この二人は、よく似合っている。
瑠璃は明るくて、家柄もよく、育ちも良い人だった。私のことも妹のように大切にしてくれた。
本当にいい人だった。
もし私がいなければ、彼女は死ななかったし、二人はきっと幸せだった。
今回の人生は、必ずすべてをやり直すのだ。
……
瑠璃は一晩中、部屋の中で颯の世話していた。
翌朝、階下に降りると、颯がキッチンで朝食を作っている。
目玉焼きを焼いて、ミルクを温めて、トーストを三角に切って皿に並べる。
準備ができると、瑠璃の前に運び、やわらかい声で言う。
「温かいうちに食べて」
瑠璃は笑いながら颯をつつく。
「いつからこんなに気が利くようになったの?」
颯は瑠璃の顔を見つめたまま、何も言わない。ただ、口元がわずかに緩む。
前世でも、私たちが結婚したあと、颯は料理をしてくれた。
生理中にも、不器用ながらホットココアを作ってくれた。
私は階段の途中で、足を止める。
「美枝、一緒に朝ごはん食べて」瑠璃が声をかける。
颯が淡々とした視線で私を見る、そこに余計な感情はない。
テーブルの席に着くと、颯が立ち上がり、私との間に距離を空けて座る。
第2話
颯からの視線は、まるで見知らぬ他人を見るようだった。前世の私を何も持たせずに追い出したときの残忍さを思い出させる。
パンを一口かじると、私は立ち上がる。
「もうお腹いっぱい。授業あるから、先に行くね」
「そんなに急ぐの?まだミルク飲んでないのに……」瑠璃がそう言う。
「時間ないから」
私はバッグを掴んで、家から飛び出す。
一日中、図書館で留学の資料を調べ、申請書などを書いている。
前世は、颯のそばにいたくて留学を諦めた。
今回の人生は、私はもっと遠くへ行きたい。自分のために生きたい。
夜は寮に泊まるつもりだったが、瑠璃から電話がかかってくる。
「美枝、家でご飯食べよ?大事な話があるの!」
家に着くと、ドアを開けたのは颯。
私を見ると、颯の眉をひそめる。
「なんで戻ってきた?」
明らかに、彼が呼んだわけじゃない。
「瑠璃さんが、用事あるって」私は小さく声で答える。
キッチンから瑠璃が顔を出す。
「美枝、帰ってきたの!」
瑠璃は私をソファに押し込んで、リモコンを手渡す。
「テレビ見てて、すぐご飯できるから!」
颯はキッチンで彼女を手伝っている。
ガラス戸越しに、颯が頭を下げて瑠璃の話を聞いている姿が見える。
口元にほのかな笑みが浮かび、瞳の奥にも、溢れるほどの優しさがある。
颯は、私のためにも料理をしてくれたことがある。
熱を出したときは一晩中そばにいてくれて、朝にはお粥を作ってくれた。
誕生日には他の予定を断って、家でたくさん料理を作ってくれた。
「ぼーっとしてどうしたの?」
瑠璃が私の様子に気づき、颯をキッチンから押し出す。
「美枝と話してあげて。最後のスープは私がやるから」
颯は仕方なさそうに手を拭いて、斜め向かいの一人掛けソファに座る。
距離は遠い。
沈黙が広がる。テレビではつまらないバラエティが流れていて、笑い声がやけに耳につく。
「美枝」
颯が不意に口を開く。その声に、私は顔を上げる。
「ちゃんと勉強しろ。地に足をつけろ。余計なこと考えるな」颯は私を見つめ、低い声で言う。
心臓が痛むように苦しい。
余計なこと。
颯にとって、私の気持ちは「考えてはいけないもの」だ。
前世で日記を見つけられたとき、彼が言ったのは——
「美枝、お前、本当に気持ち悪い」
私がわざと二人の関係を壊した、欲張りな人間だと思い込んでいた。
でも私は、颯のことが好きだっただけだ。
瑠璃に、二人の関係を壊すようなことなんて、一度も言っていない。
それでも、颯は信じなかった。
「分かった」
自分でも驚くほど落ち着いた声が出る。
「そんなこと、ないよ」
食事のとき、瑠璃が頬を赤らめて、大ニュースを発表する。
「颯がね、今日プロポーズしてくれたの!」
左手の薬指のダイヤがきらめいている。
「おめでとう」
私は心から笑う。
「ふたりとも、お幸せに」
颯は箸を持つ手がわずかに止まり、私を見る。
私はご飯を食べて、気づかないふりをする。
食事が終わると、自分から食器を片付ける。
リビングのところから笑い声が聞こえる。瑠璃が結婚式の話をして、颯が低く甘い声で相槌を打つ。
食器洗いを終えて手を拭き、学校に戻ると伝えようとする。
リビングの入口で、颯の声が耳に入る。
「……卒業したら、家を出させよう。学校の近くに部屋を用意する。女の子だし、ずっと一緒に住むのもよくない」
瑠璃が反対する。
「でも、一人暮らしは心配じゃない?
それに兄妹なんだから、一緒に住んでてもいいでしょ?」
「もう大人だろ。自分の生活が必要だ。俺たちにも二人の時間がいる」颯は淡々と言う。
私はその場に立ったまま、それ以上聞かない。
向きを変え、静かに階段を上がってバッグを取り、家を出る。
少し離れてから、瑠璃にメッセージを送る。
【瑠璃さん、学校で急用ができて先に戻る。兄さんも、瑠璃さんも、おやすみ】
深く息を吸う。
出ていくのも悪くない。
離れれば離れるほど、安全だ。
……
三日後、図書館で資料を調べているとき、ふと前世のことを思い出す。
瑠璃が亡くなった原因は、骨のがんだった。
発覚したときには、すでに末期だった。
つまりこの時点で、瑠璃の体の中には、すでにがん細胞がある可能性が高い。
第3話
私ははたと立ち上がり、椅子を倒してしまう。周りの視線もこちらに集まる。
謝る余裕もなく、図書館を飛び出す。走りながら瑠璃に電話をかける。
「瑠璃さん、今日の午後って時間ある?お茶でもどうかな」
カフェで、一緒に健康診断に行ってほしいと言うと、瑠璃は思わず笑い出す。
「美枝、急にどうしたの。体調悪いの?」
その場で、できるだけそれらしい理由をでっちあげる。
「学校の健診なの。瑠璃さん、一人だとちょっと怖くて。付き合ってもらえない?」
瑠璃は少し怪しむように私を見る。
「ほんと?」
「ほんと。それに、瑠璃さんも一緒に受けておいたほうがいいと思って。いわば……ブライダルチェックみたいなもの?もうすぐ兄さんと結婚するし」
私はなるべく誠実そうに見える。
瑠璃の顔が赤らめて、小さく「もう……」とこぼす。
ちょっとそのとき、瑠璃のスマホが鳴る。相手は颯だ。
「今どこ?」
「美枝とお茶してるよ」
通話の向こうで、少しだけ沈黙が流れる。
「早めに帰ってきて」
通話を切ったあと、瑠璃はくすっと笑う。
「ほんと、甘えん坊なんだから」
私は口元だけで笑い、授業があると言ってその場を離れ、週末に会う約束をする。
校門まで来たところで、颯の車が停まっているのが目に入る。
颯は車から降りると、いきなり私の手首を掴み、壁の隅まで引きずる。
そして、何が起きたのか理解する前に突き放される。
足元がふらつき、地面に倒れ込む。
膝と肘に焼けるような痛みが走る。見下ろすと、皮膚が擦りむけて、血がにじんでいる。
颯は上から見下ろし、氷みたいに冷たい目を向けてくる。
「黒沢美枝、忠告しておく。瑠璃さんに近づくな。
余計なことも言うな。余計なこともするな」
「何もしてないよ」
私が腕で体を支えながら立ち上がり、声が少し震える。
「ただ、一緒に健康診断に行ってほしかっただけ」
颯は一瞬だけ動きを止める。
「病気なのか?」
ほとんど反射的に出た言葉だった。
私は言葉に詰まり、首を振る。
「違う。学校の決まりだから」
颯はじっと私を見つめて、表情がゆっくり変わっていく。
何かを思い出したような、あるいは確かめているような目だった。
しばらくして、颯はしゃがみ込み、私の膝の傷を見る。
「乗れ」
私を連れて薬局へ行き、消毒液とガーゼを買うと、道端でしゃがんで手当てを始める。
あまり優しくはない。でも、とても丁寧だ。
「週末、俺も行く。一緒に検査受けるぞ」
颯は低い声でそう言う。
私は足先を見つめたまま、視界がぼやける。
検査結果が出た日、瑠璃は震えながら泣いている。
骨肉腫、初期だった。
「かなり早期に発見されていますので、治癒率は高いです」
医者はそう言う。
颯はわずかに震えている手で瑠璃を抱きしめる。
瑠璃は目を赤くして私を見る。
「美枝、ありがとう……ほんとに」
私は首を横に振り、瑠璃の背中を軽く叩く。
颯の視線が、瑠璃の肩越しにこちらへ向く。
その瞳は、とても深く、重苦しいほどの圧を湛えている。
前世の思いを出す。
瑠璃が亡くなったあの日、大雨が降っていた。
あの夜のことを知って瑠璃が去ったと知った颯は、墓の前に一日中立ち尽くし、全身びしょ濡れになっていた。
帰宅後、手当たり次第に物を壊し、机の奥に隠していた私の日記も見つけた。
それで、すべて私のせいだと思い込んだ。
どれだけ説明しても、信じてもらえなかった。
何も持たずに離婚させられ、追い詰められ続け、仕事すら見つからなくなった。
最後は、狭いアパートで一人きり、病気で死んだ。
今なら、まだ間に合う。
瑠璃は生きる。
颯も、もう私を恨まない。
そして私は、ここから離れる。
胸のつかえが、ようやく取れる。
病院を出る頃には、夕日が沈みかけている。
颯は入院手続きをしていて、私と瑠璃はロビーで待つ。
「美枝、怖いよ」
瑠璃は私の肩にもたれ、小さな声で言う。
私は瑠璃の手を軽く叩く。
「大丈夫。兄さんがいるでしょ。ずっとそばにいるよ」
……
瑠璃は入院する。
手術は成功し、これからは抗がん剤治療に入る。
颯はすべての仕事を後回し、毎日病院に泊まり込む。
私は学校と病院を行き来しながら、留学の準備も進めて、目が回るほど忙しい。
その日、病院から帰る途中、颯に呼び止められる。
第4話
「美枝」
振り返ると、颯が立っている。
颯は手にした鍵を一つ、差し出してくる。
「大学の近くにマンションを買った。2LDKで、内装も済んでる……早めに引っ越せ」
言葉に詰まりながらも、私は鍵を受け取り、静かに頷く。
「わかった」
問いただすことも、ためらうこともない。
颯は私の顔をじっと見て、何かを探るような目をしている。
私はただ静かに鍵をしまい、背を向けて階段を上がる。
翌日から、荷物の整理を始める。
ほとんどの物は、処分するか寄付するつもりだ。
新しい部屋では、全部買い直す、新しい生活を始める。
帰宅の時間は日に日に遅くなって、食卓で顔を合わせることもほとんどなくなる。
部屋の中の物は、少しずつ減っていく。
本棚もクローゼットは空になる。ドレッサーの上には、小さなジュエリーボックスだけが残る。
その夜、私が家に帰り着いたのは十時を過ぎてからだった。
颯がリビングのソファに座っていて、灯りはついていない。
暗闇の中で、煙草の火だけが明滅している。
「遅いな。何してた」
低く冷たい声。
靴を脱ぐ私の手がわずかに止まる。
「学校で用事があって」
靴を履き替えの後で、私はそのまま部屋へ向かう。
背後で、ガラスがテーブルに当たる音が響く。
……
瑠璃の抗がん剤治療は順調に進んでいる。
三か月後、回復は良好で、自宅療養と定期検査で問題ないと告げられた。
退院の日、私も病院へ行った。
瑠璃はだいぶ痩せているが、顔色はいい。
颯は退院手続きをしていて、私と瑠璃は病室で待つ。
「美枝」
瑠璃がふいに口を開く。
「美枝と颯……最近、喧嘩したの?」
私は一瞬、動きが止まる。
瑠璃はため息をつく。
「最近、颯はほんとに機嫌悪くて。
会社でもみんな避けてるよ」
私は何も言わない。
瑠璃は私の手を握る。
「引っ越しのこと、聞いた。
ちゃんと颯を叱っておいたから。大丈夫、あの家はずっと美枝の家だよ」
「瑠璃さん、私もう大人だから。自分の生活を持つべきだと思ってる。
それに、今は留学の手続きも進めてて……たぶん来年には行く」
私はその手を握り返し、まっすぐに言う。
瑠璃の目が大きく見開かれる。
「留学?どこに?どのくらい?」
「イギリスの大学院。二、三年くらいかな」
瑠璃の目がまた赤くなる。
「そっか……一人になるんだから、ちゃんと自分のこと大事にしてね。何かあったら、絶対連絡するんだよ」
「うん」
瑠璃は涙を拭き、ふっと笑う。
「そうだ、美枝に誰か紹介しようか。後輩で、建築の仕事してる子なんだけど、すごくいい人だよ」
私は首を振る。
「大丈夫」
「なんで?一人だと寂しいでしょ」
「……実は、今ちょっといい感じの人がいる」
少し迷ってから、瑠璃に正直に言う。
「えっ?」
瑠璃の目がさらに大きくなる。
「留学の手続きのときに知り合って、同じ大学を受ける予定の人」
瑠璃の顔がぱっと明るくなる。
「よかった!颯にも言わなきゃ。ちゃんと相手見ないとダメだよ、変な人だったら困るし」
「そんな必要ない……」
止めようとする前に、瑠璃はもうスマホに手を伸ばす。
「……あ、戻ってきた」瑠璃はスマホを置き、ドアの方を見る。
颯が手には書類で扉を開けて入ってる。
私と瑠璃の手が握っているのを見ると、彼の目がわずかに沈む。
「ずいぶん楽しそうだな」
そう言いながら近づき、自然で瑠璃の肩を抱く。
瑠璃は顔を上げ、楽しそうに言う。
「今ね、美枝にいい男を紹介しようと思ってたの。でもどうなったと思う?」
颯はちらりと私を見る。
「どうせ断ったんだろ」
「正解。断られた」
彼は淡々と頷く。
「昔から俺にべったりだったしな。大学も寮に入りたがらなかったくらいだ。
恋愛なんてするわけない」
瑠璃は笑いながら続ける。
「でもね、美枝はもう気になる人がいるんだって。それも一緒に留学する予定なんだよ」