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山並みに響く木霊
国民的人気を誇るキャスターから、ネット中で非難の的となる尻軽女へ。白石雪乃(しらいし ゆきの)がその座から転落するのに、たった一晩しか...
Chương (1)
第1章
国民的人気を誇るキャスターから、ネット中で非難の的となる尻軽女へ。白石雪乃(しらいし ゆきの)がその座から転落するのに、たった一晩しかかからなかった。
理由はただ一つ。実の姉、白石琴音(しらいし ことね)の葬儀で、義兄の黒川蒼真(くろかわ そうま)に薬を盛ったからだ。
事が明るみに出ると、彼女のSNSアカウントには罵詈雑言が殺到し、職場でも同僚たちからの軽蔑の声が至る所で耳に入ってきた。
挙句の果てには、収録用のスピーチ原稿までもが下劣な言葉にすり替えられる始末だった。
しかし雪乃はそれを一瞥しただけで原稿を閉じ、顔色一つ変えずに全て暗記で収録をこなした。
スタジオを出る時、隣の芸能ニュース収録ブースのドアの隙間から、興奮したアナウンスの声が漏れ聞こえてきた。
「黒川グループのCEO、黒川蒼真が新人タレントの水野莉子(みずの りこ)と熱愛か?なんと水野さんは、黒川さんの隣に三ヶ月以上留まれないという歴代彼女のジンクスを打ち破っただけでなく、本日黒川グループの株式三十パーセントを贈与された模様です……」
廊下では、スタッフたちが声を潜めて噂話をしている。
「三十パーセント?じゃあ、雪乃の手元には何も残らないってこと?」
「あんな女に相応しいわけないでしょ。あいつがやった事を思い出すだけで吐き気がするわ」
第1話
国民的人気を誇るキャスターから、ネット中で非難の的となる尻軽女へ。白石雪乃(しらいし ゆきの)がその座から転落するのに、たった一晩しかかからなかった。
理由はただ一つ。実の姉、白石琴音(しらいし ことね)の葬儀で、義兄の黒川蒼真(くろかわ そうま)に薬を盛ったからだ。
事が明るみに出ると、彼女のSNSアカウントには罵詈雑言が殺到し、職場でも同僚たちからの軽蔑の声が至る所で耳に入ってきた。
挙句の果てには、収録用のスピーチ原稿までもが下劣な言葉にすり替えられる始末だった。
しかし雪乃はそれを一瞥しただけで原稿を閉じ、顔色一つ変えずに全て暗記で収録をこなした。
スタジオを出る時、隣の芸能ニュース収録ブースのドアの隙間から、興奮したアナウンスの声が漏れ聞こえてきた。
「黒川グループのCEO、黒川蒼真が新人タレントの水野莉子(みずの りこ)と熱愛か?なんと水野さんは、黒川さんの隣に三ヶ月以上留まれないという歴代彼女のジンクスを打ち破っただけでなく、本日黒川グループの株式三十パーセントを贈与された模様です……」
廊下では、スタッフたちが声を潜めて噂話をしている。
「三十パーセント?じゃあ、雪乃の手元には何も残らないってこと?」
「あんな女に相応しいわけないでしょ。あいつがやった事を思い出すだけで吐き気がするわ」
雪乃は足を止めることなく控室へ戻り、ドアに背中を預けてようやく重い溜め息を吐き出した。
五年前の薬物事件により、彼女は最も不名誉な形で蒼真と結婚する羽目になった。
そして、その一件を境に蒼真は彼女を深く憎むようになった。
芸能ニュースのトップには、常に彼と違う女たちの親密な写真が掲載される。その女たちは皆、琴音に似た顔立ちをしていた。
彼は最も露骨なやり方で、雪乃を侮辱し続けているのだ。
お前は琴音の髪の毛一本にも及ばない。琴音に似た身代わりを探すことはあっても、お前を一瞥することすらしない、と。
雪乃の心は、当初こそ抉られるように痛んだが、今やもう感覚を失い、麻痺していた。
スマホが二回振動した。
一通目は局長、上田文哉(うえだ ふみや)からのものだった。【山村のドキュメンタリー番組の企画が通った。期間は三年、一ヶ月後に出発だ。おめでとう】
二通目は蒼真からだ。【夜、本邸に戻れ。株式譲渡の書類にサインが必要だ】
彼女は数秒画面を見つめ、最後にどちらにも同じ短い返信を送った。
【了解】
本邸には煌々と明かりが灯っていた。
ドアを開けて中に入ると、蒼真の隣に座っていた女が顔を上げてこちらを見た。莉子だ。前回の親族の集まりで見かけた女だった。
所詮は蒼真が自分を不快にさせるために選んだ、身代わりの一人に過ぎない。そう信じていた雪乃だったが、その顔をはっきりと捉えた瞬間、衝撃に息が止まった。
琴音と瓜二つだったのだ。
しかし今、改めてその顔を見ても雪乃の心に波風は立たず、黙って株式譲渡契約書にサインをした。
「他にサインするものはある?」
蒼真は明らかに彼女のこの反応を予想しておらず、一瞬呆気にとられた後、鼻で笑った。
「今回は賢くなったな。殊勝なフリをして同情を引く作戦にでも変更したか?
だがお前が何をしようと、結果は同じだ。雪乃、これはお前が自ら招いた報いだ」
雪乃は何も言い返さず、背を向けて外へ歩き出した。
車が本邸から離れた時、再びスマホが振動した。
母親の白石芳江(しらいし よしえ)からの音声メッセージだった。再生すると、ヒステリックな声が車内に響き渡った。
「蒼真があの泥棒猫に株を譲ったって聞いたわよ!どうしてサインなんかしたの!あれは白石家のものよ。琴音がいない以上、あなたのものになるべきでしょ!
いいこと、すぐに戻りなさい。どんなに騒いででも、サインを撤回させるのよ。そうじゃないと私……」
雪乃は音声を切り、ハンドルを握る手を微かに震わせた。
怒りではなく、ただ疲れ果てていたのだ。
騒いだことはあった。蒼真が初めて莉子に株を譲ると言った時、二人は大喧嘩になり、彼女はドアを乱暴に閉めて飛び出した。
だが、車を走らせている途中で息子の顔を思い出し、子供のために彼ともう一度ちゃんと話し合おうと引き返した。
しかし書斎の外で、彼と秘書の会話を聞いてしまった。
「社長、本当に宜しいのですか?本来は奥さんが受け取るはずの株式を、すべて莉子さんに譲渡するなんて……いくら何でも、それは……」
「いくら何でも、何だ?」蒼真がその言葉を遮った。声に感情の色は微塵も浮かんでいない。
秘書は数秒の沈黙の後、声を潜めて言った。
「……ただ、奥さんがあまりにも不憫で、見ていられなかったのです。社長もご存知のはずです。あの時の薬の件は、奥さんの仕業ではありません。
白石家が黒川家との縁を繋ぎ止めたいがために、奥さんを送り込んできたに過ぎないことを……それなのに、世間からの謗りをすべて背負わされているのは奥さんです。
奥さんが本気で社長を慕っていらしたことも、ご存知のはずです。あの日記を公表すべきではありませんでした」
書斎に、長い沈黙が降りた。
もう蒼真は口を開かないのではないか――雪乃がそう思い始めた頃、蒼真の声が響いた。氷のように冷酷な響きを帯びていた。
「それがどうした?白石家が俺を陥れたんだ。雪乃がそれを知っていようがいまいが、俺には関係のないことだ。
本気だと?両親に言いくるめられて俺のベッドに潜り込むような女が、本気などと口にする資格があるのか?
それに、俺が気にかけるのは琴音だけだ。他の人間など――」
彼は一拍置き、その一文字一文字が、雪乃の心臓を容赦なく打ち据えた。
「どうでもいい」
彼は最初から、すべてを知っていたのだ。
薬を盛ったのが彼女の両親であることも、彼女が身代わりに矢面に立たされただけの存在であることも。
だから何だというのか?
彼は全く気に留めていなかった。
彼女が五年間も汚名を着せられ、ネット中から辱めを受けるのをただ黙って見つめていた。それどころか――
自らの手で「日記流出」事件を仕掛け、彼女をさらに深い奈落の底へと突き落とした。
騒動が起きた当初、世論はまだ完全に彼女を切り捨ててはいなかった。一部の視聴者やファンは彼女を庇い、事の不自然さを指摘して、彼女自身も被害者かもしれないと声を上げてくれていた。
彼女の日記が公にされるその時までは。
そこに綴られた義兄への道ならぬ恋慕の一句一句が、薬を盛ったのは彼女の計画的犯行であるという決定的な証拠となり、彼女に「稀代の悪女」という消えない烙印を押し、永遠に逃げ場を奪った。
真実を知ったあの日、彼女はテレビ局に山村でのドキュメンタリー収録企画を自ら志願した。この場所から離れたかった。
車はいつの間にか、川沿いに停まっていた。
雪乃はハンドルに突っ伏し、押し殺した呼吸と共に華奢な肩を震わせていた。
誰もが口を揃えて彼女を「恥知らず」と罵った。姉が世を去ってからろくに日も経たないうちに義兄を誘惑し、すっぱ抜かれたあの日記こそが、彼女が以前から義兄を虎視眈々と狙っていたという何よりの罪の証拠だと。
でも本当は。最初から蒼真と愛し合っていたのは雪乃の方だったのに。
第2話
あれは、ずいぶんと昔のことだった。
海市大学の桜並木で、十八歳の雪乃は蒼真に一目惚れをした。
後になって知ったことだが、彼は大学のカリスマ的存在だった。家柄、容姿、成績、すべてが完璧で、彼を追いかける女子学生の列はキャンパスを五周できるほどだと言われていた。
しかし雪乃は怯まなかった。思い立ったら迷わず突き進む彼女は、これまで挫折というものを知らなかった。
そうして全校の知るところとなった。ジャーナリズム専攻の雪乃が蒼真に猛アタックしていると。
初めこそ礼儀正しく断っていた蒼真だったが、やがて呆れて逃げ回るようになり、最後には二人は結ばれた。
その期間は、彼女の人生で最も幸せな日々だった。しかし大学四年のある日。蒼真からプロポーズされるはずだったその日、彼女は海辺で日が暮れるまで待ったが、彼が姿を現すことはなかった。
蒼真のルームメイトが目を真っ赤にして駆け込んでくるまでは。「蒼真が、ここへ来る途中で事故に遭って……!」
「手術は無事に終了しました。幸いにも一命は取り留めましたが、意識がいつ戻るかについては、まだわかりません」と、医者はこう告げた。
それからの時間はあまりにも長く、黒川家の人々でさえ次第に絶望の淵に沈んでいったが、彼女だけは決して諦めなかった。
八ヶ月後。蒼真はついに目を覚まし、そして最初の一言を放った。
「お前は誰だ?」
その瞬間、世界が静止した。
医師の下した診断は、選択的記憶喪失。家族のことも、友人のことも、過去のあらゆる出来事も覚えているのに、唯一、雪乃のことだけがすっぽりと抜け落ちていた。
最初、彼女は信じられなかった。二人で撮った写真を取り出し、三年間も愛し合っていたのだと必死に訴えかけた。
しかしその度に、蒼真は頭が割れるような痛みに襲われ、最も酷い時にはそのまま意識を失い、昏睡状態にまで陥ってしまうほどだった。
「これ以上の刺激は、彼の命に関わります」医師は厳しく警告した。
蒼真の母、黑川照代(くろかわ てるよ)は泣きながら雪乃に懇願した。「雪乃、あなたの辛いお気持ちは痛いほど分かるわ。でも、蒼真の体はもう耐えられないの。二人は別れたということにしてくれないかしら……お願い」
あの日、雪乃は涙を見せなかった。ただ静かに頷き、そして蒼真の人生から完全に姿を消した。
それから二年後。琴音の婚約パーティーで、琴音が婚約者として「自分の夫となる男」を紹介するまでは。そこに立っていたのは他でもない、蒼真だった。
……
後方から響いたクラクションの音で、雪乃は過去の記憶から引き戻された。彼女はアクセルを踏み、再び車を走らせた。
家に着くなり、息子の黑川隼人(くろかわ はやと)が駆け寄ってきて胸に飛び込んできた。
「お母さん!明日はお楽しみ会なんだ。僕、バイオリンを弾くから、絶対に見に来てね」
彼女は隼人の頭を撫でた。「ええ、もちろんよ」
「お父さんも来てくれるかな?」
雪乃の手がピタリと止まった。「お父さんに来てほしい?」
隼人は唇を噛み締めた。「ずっと会ってないから、少し会いたいなって」
そして慌てたように付け加えた。「でも、お母さんが来てくれるだけで僕、すごく嬉しいよ!」
隼人の健気さに、彼女は鼻の奥がツンと痛むのを感じた。彼女のせいとはいえ、蒼真は隼人に対しても冷淡そのもので、幼稚園の行事に参加するなど到底あり得ないことだった。
お父さんも来るわよ、と嘘をついてあげたかった。だが、一生隠し通せることではない。
「隼人」雪乃は隼人をしっかりと抱きしめた。「もしこれから、お母さんと二人だけで暮らすことになっても……いい?」
腕の中の体が、一瞬だけビクッと強張った。そして、小さな両腕で彼女を抱き返してくれた。「お父さんにも会いたいけど、僕はお母さんが一番好きだよ」
雪乃は強く何度か瞬きをして、込み上げる涙をぐっと堪えた。
「いい子ね……」
翌朝早く、雪乃は照代の元を訪ねた。
彼女の姿を見るなり、照代は少し驚いたようだった。「雪乃?こんな朝早くにどうしたの?」
「お義母さん」雪乃は静かに呼びかけた。「少し、ご相談したいことがあって参りました。
私と蒼真が結婚した際、実は婚姻届を出していませんでした」
照代のティーカップを運ぶ手が止まり、雪乃の顔を見つめた。
「ですから、隼人は私が連れて行きます」雪乃は淡々と告げた。「テレビ局で三年間の長期プロジェクトがありまして、隼人を連れてそこへ行くつもりです」
長い沈黙の後、照代はティーカップをテーブルに置いた。
「どうしても行かなければならないの?蒼真があなたたちを蔑ろにしているのは分かっているけれど……あなたと隼人は、私が認めた大切なお嫁さんと孫よ」
雪乃は微笑んだが、その眼差しに温度はなかった。「お義母さん。私はもう、こんな生活を続けたくないんです。
もしあの時、私がすべてを隠し通し、世間からの罵声と屈辱を一人で引き受けた恩を少しでも感じてくださるなら。どうか、この唯一の願いを聞き入れてください」
その場の空気がふっと静まり返る。やがて照代は手を伸ばし、雪乃の手の甲を優しくポンポンと叩いた。
「わかったわ。約束する。でも、どこへ行こうと、いつになろうと、帰りたくなったら戻っていらっしゃい。ここはいつでもあなたたちを歓迎するわ」
雪乃はその手をそっと握り返した。「……ありがとうございます、お義母さん」
……
幼稚園の正門前には、すでに大勢の保護者が集まっていた。
色とりどりの風船で作られたアーチの下で、子供たちがはしゃぎ回っている。
雪乃が門に足を踏み入れた途端、担任の佐藤先生が笑顔で駆け寄ってきた。「隼人お母さん、いらっしゃい!さあ、中へどうぞ。実は隼人お父さんがもう中にいらっしゃいますよ。ご案内しますね」
第3話
雪乃はふと足を止めた。
蒼真が来ている?
佐藤先生は彼女の動揺に気づく様子もなく、熱心に奥へと案内した。「隼人くん、今日はもう朝から大はしゃぎなんですよ。朝から『今日はお父さんもお母さんも来るんだ』ってずっと言っていたんです。子どもたちは多目的ホールにいます、もうすぐお楽しみ会が始まりますから……」
雪乃は佐藤先生の後に続きながらも、頭の中が真っ白になっていた。
まさか本当に彼が来るなんて――昨晩送ったあのメッセージすら、彼が目を通すとは期待していなかったのに。
最前列の保護者席まで来ると、そこに見慣れた人影があった。
ダークグレーのシャツに身を包んだ蒼真が通路側の席に座り、うつむき加減でスマホの画面を見つめている。
雪乃は彼の隣の空席に腰を下ろした。
気配に気づいた彼が視線を上げた。彼女だと分かると、すぐさま冷ややかに目を逸らした。
「お母さん!」小さな人影が舞台裏のカーテンから顔を出し、飛ぶように駆けてきた。
隼人は雪乃の胸に飛び込んでから、くるりと向き直って蒼真の手を握った。「お父さん、本当に来てくれたんだね!」
蒼真は「ああ」とだけ短く応え、隼人に手を引かれるがままにしていた。
「次が僕の番だよ」隼人は目をきらきらと輝かせ、二人を交互に見つめた。「その後に表彰式があるんだ!僕、満点を取ったから賞状がもらえるの。先生が、お父さんとお母さんも一緒にステージに上がってくださいねって。だから、二人とも帰っちゃダメだからね!」
雪乃の心に渦巻いていた複雑な感情は、隼人のその無邪気な笑顔の前にふっと溶けていった。
彼女は隼人の頭を撫でた。「ええ、お母さんはずっとここで見ているわよ」
隼人は再び蒼真を見上げた。
蒼真は隼人の期待に満ちた眼差しを見つめ、数秒の沈黙の後、ようやく頷いた。「……行ってこい」
隼人は歓喜の声を上げ、小躍りしながら舞台裏へと戻っていった。
お楽しみ会が始まり、雪乃はスマホを取り出して録画ボタンを押した。画面越しに見る隼人の真剣な表情に、目頭が熱くなる。
「そんなものを撮ってどうするつもりだ?」不意に隣から、いつものように冷ややかに嘲る蒼真の声がした。「将来金に困った時、隼人をダシにして同情でも引く気か?」
雪乃の指先が一瞬止まった。だが彼を見ることはせず、そのまま録画を続けた。「ただの記念よ」
「何の記念だ?」蒼真が鼻で笑う。「どうやって子どもを道具にして、黒川家を縛り付けてきたか、その記念か?」
雪乃はようやく顔を向け、彼を真っ直ぐに見た。
「蒼真、あなたが私をどう思おうと勝手よ。でも、隼人の前でそんなことを言うのはやめて」
蒼真は彼女を数秒睨みつけ、不快げに眉をひそめた。何かを言い返そうとしたその時、彼のスマホが振動した。
画面を一瞥するなり、彼は立ち上がってそのまま出口へと向かい始めた。
「どこへ行くの?」雪乃は無意識に問いかけた。
「用ができた」彼は振り返りもしない。
「後で一緒に表彰式に出るって、隼人と約束したじゃない」
蒼真の足が止まった。彼はわずかに横顔を向け、冷淡に言い放った。「なら、お父さんは仕事で忙しいとでも言っておけ」
そう言い残すと、保護者の群れをすり抜け、そのまま扉の向こうへと消えていった。
雪乃はその場に座ったまま、スマホを握る指先にぎゅっと力を込めた。
お楽しみ会がお開きになり、隼人の落胆した顔を見てどう慰めようかと思案していると、隼人は自らバイオリンを片付け始めた。
「隼人……」彼女は優しく呼びかけた。
隼人は顔を上げ、彼女に向かって無理に笑ってみせた。「お母さん、僕お腹空いちゃった。ご飯食べに行こう?」
雪乃はしゃがみ込み、彼の目を見つめた。「お父さんはね……」
「大丈夫だよ」隼人は彼女の言葉を遮り、大人のように小さな手で彼女の肩をポンと叩いた。
「こんなの初めてじゃないもん。僕にはお母さんがいれば十分だよ」
レストランでアイスクリームを頬張る隼人は、表彰式での寂しさを一時的に忘れたようだった。
雪乃が目の前のステーキをゆっくりと切り分け、ふと顔を上げた時――「用がある」と言って出て行ったはずの蒼真が、莉子を連れて店に入ってくるのが見えた。
向こうもこちらに気づいた。
莉子の視線が雪乃と隼人の間を値踏みするように往復する。莉子は蒼真の袖を引き、こちらへ向かって歩いてきた。
「あら、奇遇ね。雪乃。
隼人とお食事?ええ、今のあなたには、もうその子くらいしか縋りつけるものがないでしょう」
雪乃は両手で隼人の耳を塞いでから、莉子を見据えた。
「あなたの言う通りよ。私には確かに何もないわ。ただ『蒼真の妻』という肩書があるだけで、あなたのような『都合のいいだけの愛人』には到底敵わないわね」
「あなた!」莉子は眉を吊り上げたが、すぐに口元に意地悪な笑みを浮かべた。その視線は、耳を塞がれてきょとんとしている隼人へと注がれた。
「相変わらず口だけは達者ね。でも、この子が大きくなって、自分の母親が体を武器にして男を罠に嵌め、血の繋がりで相手を縛り付けるような女だと知った時……一体、あなたのことをどう思うのかしら?」
第4話
雪乃は周囲から突き刺さるような視線を肌で感じていた。詮索、嘲笑、そして剥き出しの悪意。
蒼真は莉子の背後に立ち、無表情でこの一幕を眺めていた。
雪乃の指先はさらに冷え切り、唯一の熱源は掌に包み込んだ隼人の小さな耳だけだった。彼女はふと両手を離すと、隼人の手を引いて足早にその場を後にした。
あの日を境に、雪乃と蒼真の間に一切の連絡はなくなった。
芸能ニュースのトップは、相変わらず蒼真と莉子の話題で連日持ちきりだった。海外でのバカンス、高級レストランでのディナー、チャリティーパーティーへの出席……
どの写真も、メディアによって華々しく取り上げられていた。
しかし雪乃はもうそんなものに目もくれなかった。
彼女は全精力を最後の番組収録に注ぎ込んだ。テーマは「都市の境界線」――社会から見落とされがちな人々に焦点を当てる企画だ。
ホームレス、貧困家庭。世間から忘れ去られようとしている彼らの声を、彼女はカメラに収めたかった。
ところが、収録を目前に控えた矢先、出演者にトラブルが発生した。
「雪乃さん、健一さんが急に来られないと言ってきました」アシスタントが慌ててドアを開けて飛び込んで来た。「電話も繋がらないし、家に行っても留守なんです」
雪乃は山積みの資料から顔を上げた。「健一さん?最終回に出演していただく、あの靴職人の方?」
「そうです、高架下で三十年間も靴の修理をしてきた健一さんです。彼が今回の番組のキーパーソンなのに、もし来てもらえなかったら、放送に穴が開いてしまいます」
彼女はファイルをパタンと閉じた。「住所を教えて。私が探しに行くわ」
「でも、西郊の治安はあまり良くないので、スタッフを数人連れて行った方が……」
「平気よ」
西郊は、想像以上に荒廃していた。
雪乃は住所を頼りに田中健一(たなか けんいち)の家を見つけ出したが、近所の人に尋ねても、彼がどこへ行ったのか誰も知らなかった。
仕方なく付近を探そうとしたその時、背後から聞き覚えのある声がした。
「あなた、ここで何してるの?」
振り返ると、路地の入り口に莉子が立っていた。莉子はこの周囲の環境とは全く不釣り合いな、オフホワイトのカシミヤのコートを身に纏っていた。
「仕事よ」
莉子の視線が雪乃の手に握られたファイルに落ちると、それを強引にひったくった。
「何をするの?」雪乃は眉をひそめた。
莉子はファイルをパラパラと素早くめくり、みるみるうちに血相を変えた。「あなた、私を調べてたの?」
雪乃は言い争うのも面倒だった。「何のことか分からないわ」
「白ばっくれるんじゃないわよ!」莉子は金切り声を上げた。「私の実家がここにあるって知ってたんでしょう?
だからわざわざ後をつけてきて、私の粗探しをしようとしたのね!言っておくけど、私の実家の事情を知ったからって、それがどうしたっていうの?
そうよ、母親はギャンブル狂いで、父親はアル中、おまけに金の無心しかしない弟がいる。全部事実よ!でも私は後ろ暗いことなんて一つもしてない。陰でコソコソ他人を陥れようとするあなたとは違う!」
雪乃は深く息を吸い込んだ。「莉子、誤解よ。私は……」
「いい加減にして!」莉子は雪乃の言葉を遮り、あろうことか目を赤くして泣き出した。「雪乃、あなたが蒼真の前で私の生い立ちをバラしたって無駄よ!少なくとも、私の彼への気持ちは本物なんだから!」
「莉子」
路地の反対側から、低く響く男の声がした。
二人が同時に振り向くと、そこには取り巻きを連れた蒼真が立っていた。いつからそのやり取りを見ていたか分からない。
莉子は雪乃を一度キッと睨みつけると、顔を覆って走り去ってしまった。
蒼真は雪乃の前に歩み寄るなり、事情も聞かずに、莉子に謝るよう命じた。
雪乃はあまりの理不尽さに鼻で笑った。「どうして?」
「お前が理由もなく莉子をつけ回し、嫌がらせをしたからだ」蒼真は彼女を見下ろして冷たく言い放った。「莉子に謝れ。さもなければ……」
「さもなければ、何?」長年抑え込んできた感情が限界を超え、彼女は顔を上げ、氷のように冷たい声で返した。「私にこれ以上、失うものなんてあるの?」
蒼真が何かを言い返そうとしたその時、部下の一人が慌てて報告に来た。「社長、莉子さんが感情を昂ぶらせて、そのまま気を失われました!」
彼は雪乃を一瞥することすらなく、取り巻きを連れて足早にその場を去っていった。
「雪乃さん……」いつの間にかアシスタントが駆けつけていた。「健一さん、まだ探しますか?」
雪乃は静かに目を閉じた。「……探すわ」
深夜二時、最終回の番組収録が無事に終わった。
すべてのゲストを見送った後、彼女は文哉からの電話で局長室に呼び出された。
「雪乃、番組のキャスターを変えることになりそうだ」
雪乃は呆然とした。
文哉は眉間を揉みほぐしながら言った。「君、黒川社長との間に何があったんだ?上層部からお達しがあってね。うちの局としては、黒川グループを敵に回すわけにはいかないんだ」
彼女は沈黙し、視線を台本に落とした。
そこに書かれた一文字一文字は彼女が魂を込めて書き上げたものであり、各回の企画も彼女とチームが徹夜で話し合って絞り出したものだ。どれだけの汗と涙を流し、このプロジェクトを磨き上げてきたことか。
「……分かりました」
テレビ局のビルから出た雪乃は、エントランスの階段に立ち、その巨大な建物を仰ぎ見た。
ふと、何年も前の、今日と同じような夜のことを思い出した。
あの頃、彼女はまだ一介の記者だった。
第5話
雪乃は三ヶ月かけてある悪徳食品工場に潜入取材し、自身初となる調査報道を書き上げた。
記事が世に出るや否や、世間を大きく騒がせる大反響を呼んだ。
しかし、その工場の黒幕が琴音の親友、伊藤玲奈(いとう れな)だとは思いもしなかった。
雪乃が喜ぶ間もなく、編集長にオフィスへ呼び出され、遠回しに「君は記者に向いていない」と告げられた。
「雪乃、君には才能がある。だが報道の世界では、空気を読み、立ち回りを考えることも必要なんだ。時には真実が一番重要ではないこともある。黒川社長の逆鱗に触れた君を雇ってくれる新聞社など、もはやどこにもない」
その時初めて知った。琴音がこの件でショックを受け、心労で倒れて入院し、蒼真が報復として、雪乃の記者の夢を握り潰したのだと。
彼女は異動を余儀なくされ、裏方のライターから始め、一歩一歩、キャスターの座まで這い上がってきた。
周囲は皆、彼女が「運が良かった」「コネでのし上がった」と噂した。
しかし、徹夜で原稿を書き上げた日々や、喉が枯れるまで鏡の前で練習した昼夜を、どうやって血の滲むような思いで乗り越えてきたかは、彼女自身しか知らない。
そして彼女は覚えている。十八歳の時、満開の桜の木の下で、蒼真に弾むような声で言ったことを。
「私、将来は絶対に記者になる!世の中の理不尽を全部暴いてみせるんだから!」
蒼真は彼女の頭をくしゃっと撫でて、微笑みながら見つめた。「ああ。雪乃なら、きっと最高の記者になれるよ」
「蒼真は?私のこと、応援してくれる?」
「当然だ」彼は少し身をかがめて彼女を見た。「やりたいことをやれ。俺はいつだって、お前の味方だ」
――「いつだって」なんて、こんなにも短いものだった。
……
雪乃は視線を戻し、階段を降りた。
スマホが短く震えた。航空会社からのメッセージだった。
【お客様のご予約便は、七日後に出発いたします。三時間前までに空港にて搭乗手続きをお済ませください】
荷造りをしている時になって、雪乃は隼人の身分証明書が見当たらないことに気づいた。
引き出しや戸棚をくまなく探して、ようやく実家に置き忘れたことを思い出した。
白石家の邸宅は旧市街に位置している。
顔を見るなり、芳江が尋ねた。「蒼真は?一緒じゃないの?」
「彼は忙しいから」雪乃は身をかがめて靴を脱いだ。
「忙しいだと?」父の白石泰三(しらいし たいぞう)が鼻で笑った。
「そりゃあ忙しいだろうよ。亭主一人まともに繋ぎ止めておけない情けない女だと、この街の誰もが指をさして笑っているぞ!このままじゃ、黒川家は遅かれ早かれ、あの莉子とかいう女に乗っ取られるぞ!」
「どうせ私の評判なんて、五年前のあの一件でとっくに地に落ちているわ」雪乃は体を起こし、淡々と答えた。「『夫を繋ぎ止められない妻』という汚名が一つ増えたところで、どうってことない」
「お前!」泰三は激しく立ち上がり、彼女を指差して怒りで顔を真っ赤にした。「一体どうしてこんな恥知らずな娘が生まれたんだ!あの時、お前――」
「あの時、私が何だって言うの?」雪乃は冷ややかに泰三を見据えた。「私から蒼真のベッドに潜り込んだとでも言うの?それとも、あなたたちが薬を仕込んだ酒を私に持たせ、彼の部屋へ届けさせたこと?」
芳江はさっと血の気を引かせた。「何をでたらめ言ってるの!
今の自分の惨めな姿をよく見なさい!琴音には足元にも及ばないわ!琴音は小さい頃から、私たちにこんな恥をかかせたことなんて一度もなかったのに!
こんなことなら、いっそあの時――」
「いっそ何よ?」雪乃は足を止めた。「あの交通事故で、お姉さんの代わりに私が死ねばよかったって?」
その場が水を打ったように静まり返った。
彼女はゆっくりと振り返り、階下にいる両親を見下ろした。「そんなにお姉さんが恋しいなら、墓地にでも行けばいいじゃない。そういえば、最後にお参りしたのはいつ?もう半年も前のことでしょう」
「出て行け!」泰三はローテーブルの上の灰皿を掴み、床に力任せに叩きつけた。「今すぐ出て行け!お前のような娘は持った覚えはない!」
雪乃は何も答えず、背を向けて二階へ上がった。
身分証明書を見つけた後、彼女の視線はデスクの上の家族写真に止まった。
写真の中では、純白のドレスを着た琴音が両親の真ん中に座り、雪乃は泰三の半歩後ろに立っていた。
幼い頃から、いつもこうだった。
琴音は素直でいい子で、成績も優秀。両親にとって「自慢できる」娘だった。
対する自分は頑固で反抗的、何事にも白黒をつけたがる「手のかかる」次女だった。
ある作文コンクールで市の一等賞を取り、走って家に帰って両親に報告した時のことを覚えている。
芳江はただ「そう」と冷淡に返事をしただけで、すぐにピアノの練習を終えたばかりの琴音に向き直り、「琴音はすごいわね、この曲、どんどん上手に弾けるようになっているわ」と褒め称えた。
高校時代、いじめられていた同級生を庇って不良たちと喧嘩になり、親が学校に呼び出された日のことも覚えている。
学校に駆けつけた泰三は、先生の目の前で彼女の頬を思い切り張り飛ばし、こう言った。「少しは琴音を見習って、大人しくしていられないのか?」
その後、彼女は少しずつ理解していった。世の中には、努力では手に入らないものがあるのだと。
例えば、理不尽なまでの偏愛や、無条件の信頼といったものが。
けれど、もうどうでもよかった。
第6話
実家を出る頃には、すっかり日が暮れていた。
スマホの画面が突如としてせわしなく点滅し始め、通知が次から次へとポップアップした。そこには目を刺すような見出しが躍っていた。
#大学時代の旧写真発覚!白石雪乃と黒川蒼真は元恋人同士?
#大どんでん返し!実は白石琴音こそが泥棒猫?
雪乃は一瞬ためらったものの、思い切ってそのリンクをタップした。
スレッドのトップにあったのは、少し画質の粗い古い写真だった。
桜が舞い散る並木道。写真の中の彼女は背伸びをし、満面の笑みで一枚の桜の花びらを蒼真の耳元に飾っている。
投稿者は大学時代の同窓生らしく、文章には懐かしさが溢れていた。
【卒業から何年も経って、荷物の整理をしてたら出てきた。当時ジャーナリズム専攻だった雪乃と経営学部の蒼真は、キャンパスでも公認の美男美女カップルで、いつもイチャついてたのにな。まさかその後あんなことになるなんて……はぁ】
コメント欄は、すでに蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
【うわ、この見つめ合う目、絶対にガチじゃん!】
【え、じゃあ琴音の方が妹の彼氏を寝取ったってこと?】
【蒼真はずっと琴音一筋だって言ってなかった?この写真、どう説明するんだよ】
【よく考えたら怖すぎ。もしこの写真が本物なら、雪乃がこの五年間叩かれ続けてきたのは何だったんだ?】
心臓がギュッと締め付けられる。決して触れてはならないと封印してきた過去が、こうして無防備に引き剥がされ、白日の下に晒されてしまった。
雪乃は息が詰まるような感覚に陥った。
これを目にした時の蒼真の反応は容易に想像がついた。苛立ち、嫌悪、そして彼女に対する一層深い憎悪。
スマホが短く震えた。
蒼真のSNSアカウントが更新されていた。そこにはこう記されていた。
【琴音は俺が愛した唯一の女性であり、略奪の事実など一切存在しない。古い写真の真偽も定かではなく、故人への悪意ある憶測は控えていただきたい。これ以上根も葉もないデマを拡散する者に対しては、黒川グループの法務部が徹底的に法的責任を追及する】
添えられていたのは、彼と琴音の婚約パーティーでのツーショット写真だった。
世論の風向きは、一瞬にして逆転した。
【本人が全否定きた!やっぱり雪乃の自作自演じゃん!】
【亡くなった実の姉をダシにして炎上商法とか、マジで底辺だな!】
わずかに上がっていた疑問の声も、瞬く間にさらに激しい罵倒の波に飲み込まれていった。
悪意に満ちた言葉を見つめているうち、彼女はふと、ひどい疲労感に襲われた。
まあいい。もうどうでもいい。
スマホの電源を切ろうとしたまさにその時、一通の匿名メッセージが飛び込んできた。本文はなく、音声ファイルだけが添付されていた。
彼女はそれをタップした。
莉子の声だった。「蒼真、もしあの写真が本物だったら?もしあなたが本当に雪乃と付き合っていて、彼女を愛していたとしたら……私はどうすればいいの?」
短い沈黙の後、蒼真の氷のように冷たい声が響いた。
「だから何だ。忘れられるような過去は、重要じゃないってことの証明だろ」
そこで録音は途切れた。
雪乃はスマホを握りしめたまま、長い間微動だにしなかった。
やがて、彼女はぽつりと呟いた。
「あなたの言う通りね」
忘れられるような過去は、重要じゃない。
家に戻ると、彼女はまっすぐに書斎の隅にある古いキャビネットへ向かい、一番下の引き出しから、縁のすり切れた革表紙の日記帳を取り出した。
彼女は暖炉の前に座り込んだ。それは何年も前、二人が一緒になってソファに丸まりながら本を読んでいた場所だった。
「これからは毎年冬になったら、こうやって過ごそう」当時、彼はそう言っていた。
彼女は日記を開き、一ページずつ破り取っては、まだ火の気が残る暖炉の中へと放り込んだ。
書き込まれた文字は炎の中で丸く縮れ、黒く焦げ、やがて灰へと変わっていった。
【今日、蒼真が手を繋いでくれた】
【私をオーロラを見に連れて行くって言ってくれた】
【私たちは永遠に一緒だよね?】
……
最後のページには、二人の唯一のツーショット写真が貼られていた。
あの頃、彼がこの日記を利用し終えた直後、そのまま燃え盛る火の中に放り込もうとしたことがあった。
彼女がなりふり構わず飛びつき、燃え上がる炎で腕を赤く火傷してまで、必死に奪い返したものだ。
あの時の彼女は、こんな惨めな思い出でも守り抜きたいと思っていた。いつかまた、二人の仲が良くなる日が来ると信じて疑わなかった。
今、彼女はその写真を指でつまみ、数秒間見つめた後、静かに手を離した。
写真はひらひらと舞い落ち、灰の山の上に重なった。
――これで終わり。
もう、何も未練はない。
一日後。海市国際空港。
雪乃は片手でスーツケースを引き、もう片方の手で隼人の手をしっかりと握りしめていた。
隼人は巨大なターミナルビルを少し興奮気味に見回し、顔を上げて尋ねた。「お母さん、僕たちが行くところには、お星さまある?」
「あるわよ」彼女は隼人に優しく微笑みかけた。