サヨナラ、99回私を捨てた人

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サヨナラ、99回私を捨てた人

GoodNovel Hoàn thành

婚約者は98回も結婚式をすっぽかした。 花嫁を迎えにくる道中、彼の初恋の人はいつも、彼が必ず通る道で事故に遭う。 そして彼は、彼女を病院...

Chương (1)

第1章

婚約者は98回も結婚式をすっぽかした。 花嫁を迎えにくる道中、彼の初恋の人はいつも、彼が必ず通る道で事故に遭う。 そして彼は、彼女を病院へ運ぶために迷わず式を延期するのだった。 99回目の式当日、また彼から電話が来た。 「夏海(なつみ)、ごめん。陽可(ひより)がまた事故だ。式を遅らせてくれ」 スピーカー越しの救急車のサイレンは、過去98回と全く同じだった。 私は淡々と答えた。 「わかったわ」 彼は一瞬呆気にとられた。私がこれほど平静だとは予想していなかったのだろう。 「今回が最後だ」彼は必死に約束した。「式が終わったら、埋め合わせにスイスへ雪を見に行こう」 彼は知らない。スイスなんて、私はもうとっくに行っているのだ。 それに、100回目の結婚式で私が選んだ新郎は彼ではない。 第1話 婚約者は98回も結婚式をすっぽかした。 花嫁を迎えにくる道中、彼の初恋の人はいつも、彼が必ず通る道で事故に遭う。 そして彼は、彼女を病院へ運ぶために迷わず式を延期するのだった。 99回目の式当日も同じ。 結婚式の時間が過ぎても、陸田大輔(りくだ だいすけ)は一向に姿を現さなかった。ゲストたちの間では彼への不満が高まっていた。 私は胸が締め付けられる思いを我慢しながら、笑顔で皆をなだめた。 なぐさめの言葉が終わるやいなや、大輔から電話が入った。 案の定、迎えに来る途中で彼の初恋の人がまた事故に遭ったという。 電話の向こうからの言い訳を聞きながら、私の気持ちは徐々に冷めていった。 彼の謝罪と約束、私は98回も聞いてきた。 最初は悲しく、やがて慣れ、今となってはただばかばかしく思える。 電話を切り、ゲストたちを送り出した。 ゲストが去った後のホールはひどく空虚で、メインテーブルに飾られた真っ白なカサブランカの芳醇な香りが、皮肉にも私の惨めさを引き立てていた。 何度も夢見た結婚式。けれどその期待は、彼の欠席のたびに削り取られ、今では何も残っていない。 片付けを終えた頃、大輔がやってきた。 オーダーメイドのスーツに身を包み、申し訳なさそうな顔で言った。 「夏海(なつみ)、すまない。陽可(ひより)が急に飛び出してきた原付にぶつけられて……病院まで付き添って、今ようやく戻れたんだ」 私は冷静に答えた。 「わかったわ。彼女の命の方が大事だものね」 大輔の瞳には驚きが満ちており、彼は探るように尋ねた。 「……本当にそう思っているのか?」 彼はきっと、私がいつものように目を真っ赤にして問い詰めるか、拗ねるのを待っていたのだろう。 「今まで私がこだわりすぎてただけ。命に関わることだもの、優先して当然だわ」 彼は安堵し、近づいて私を抱きしめた。 その腕の温度には相変わらず馴染みのある温かさだったけれど、今の私には温かさなど少しも感じられなかった。 「夏海、俺が悪かった。いつも辛い思いをさせて……でも、陽可には身寄りがいない。放っておけないんだ」 言い終わらぬうちに、ポケットの中のスマホが鳴った。 「わかった、すぐ行く」 電話を切ると、彼はためらいがちに私を見た。 「陽可が病院で暴れてる。誰にも止められないらしい」 私は微笑んで言った。「行ってあげて。私は大丈夫だから」 物分かりのいい私を見て、彼は安堵し、手を伸ばして私の髪を撫でながら言った。 「ありがとう。戻ったら、お前の好きな和菓子を買ってくるよ」 急ぎ足で去っていく背中を見つめながら、私の笑みは徐々に消えていった。 彼はいつだって、穴埋めのプレゼントをくれる。 けれど、そんな軽々しい埋め合わせで、何度も台無しにされた式や裏切られた期待が償えると思っているのだろうか。 99回目。 もう、彼を信じることはできない。 私はスマホを取り出し、陸田大輝(りくだ だいき)へメッセージを送った。 【次の結婚式、新郎になってくれないかしら?】 返信はすぐに来た。 【喜んで】 陸田家との縁談は、もともと私が熱望したものだった。 幼馴染の大輔は、一生の安らぎをくれる場所だと信じていたから。 けれど、陸田家の息子は彼一人ではない。 その夜、大輔は帰ってこなかった。予想通りだ。 翌朝、SNSを開くと、陽可が写真をアップしていた。 キャプションには【愛してくれる人は、決してあなたを置いていかない】と書かれていた。 写真には、男がうつむいて彼女の足に薬を塗っている様子が写っていた。その横顔は私の婚約者の大輔だった。 私は画面に向かって小さく笑い、コメントを残した。 【その通りね】 スマホをしまい、私は大輝に会いに行った。結婚式の段取りを一つずつ詰めていく。 日程は変わらず、来月のまま。あと20日しかない。準備はすべて整っているから、新郎を入れ替えるだけだ。 余計な波風を立てないよう、大輔には内緒にするよう念を押した。 もっとも、大輔があの日に時間通りに来るはずなんてないけれど。 会社へ向かおうとすると、大輔から電話がかかってきた。 「夏海、陽可の投稿にコメントしただろ?」 彼の口調は甘やかしたようで、まるで昨日の私の平静さが強がりだったと確信しているかのようだった。 「やっぱり怒ってたんだね。深く考えないで。今夜、郊外のリゾートホテルで待ってるから、絶対に来てね」 私が返事をする間もなく、彼は電話を切った。 行くつもりはなかったが、大輝が「ついでにあの辺でウェディングフォトを撮り直そう」と提案してくれたので、足を運ぶことにした。 第2話 夜、リゾートホテルに到着した私は、目の前の光景に息を呑んだ。 建物全体が花で飾り付けられ、ピンクと白のバラが柱を絡み、暖色のライトが花びらに降り注ぎ、まるで夢のようなお城のようだった。 入り口の広場に着いた途端、ドローンがいっせいに夜空へ舞い上がり、「結婚してください」の文字を描き出した。 続けて、鮮やかな花火が夜空を彩った。 周囲からは次々と感嘆の声が上がった。 「陸田家の御曹司がプロポーズだって!ロマンチックすぎ!」 「大輔様と夏海様でしょ?お似合いよね、まさに王子様と王女様の恋」 空に咲く花火を見上げ、私はふと昔を思い出した。 いつだったか、大輔の胸の中で「プロポーズは花火とドローンがいい」とはしゃいだ私に、彼は笑って「お前の言う通りにするよ」と約束してくれた。 花びらが敷き詰められた小道を進むと、その先に立つ影を見て足が止まった。 大輔は大きな赤いバラの花束を抱えており、彼の前に立っていたのは、白いワンピースを着た陽可だった。 距離はあったが、彼の声が微かに聞こえてきた。 「陽可は俺にとって特別だ。絶対に離さない……」 私は自嘲気味に口元を歪め、背を向けて立ち去ろうとした。 「夏海さん?」 大輔の友人が私に気づき、声を上げた。 大輔ははっと振り返り、私を見ると、その瞳に一瞬うろたえたが、陽可が先手を打った。 「夏海さん、大輔さんがプロポーズの練習に付き合ってほしいって。緊張しちゃうからって、私が相手役をしてたの。誤解しないでね?」 無垢な笑顔を浮かべているが、その瞳には挑発の色が透けて見えた。 大輔も我に返り、「夏海、これは全部お前のために用意したものなんだ」と取り繕った。 私の視線は、陽可の指先へと向かった。大きなダイヤの指輪が煌々と輝いており、思わず笑ってしまった。 「……練習にしては、気合が入ってるわね」 陽可は手を揺らし、軽々しい口調で言った。 「これ?大輔さんがくれたの。小道具よ、小道具」 本物か偽物かくらい、私にだってわかる。何十カラットもあるダイヤを、小道具に使うわけがない。 大輔がアシスタントに合図を送った。 「夏海、もう一度やり直させるから」 私は穏やかに、けれど冷淡に遮った。 「いいえ、結構よ。 もう十分に見たわ。手の込んだ演出ね」 ただ、このロマンチックなプロポーズのヒロインは、私ではなかったというだけ。 大輔が何か言いかけた時、陽可が胸を押さえて苦しそうに呼吸を乱した。 「……ゲホッ、花火の煙が……苦しい……」 大輔はすぐに彼女を抱きかかえた。 「陽可!大丈夫か?すぐ休もう」 その茶番劇を黙って見送り、私はその場を去った。 このリゾートホテルは私の実家が経営するもので、私専用の部屋がある。 シャワーを浴びてバスローブ姿で出てくると、ソファに大輔が座っていた。 私の最初の感想は、「電子ロックの暗証番号を変えなきゃ」だった。 だって、私の結婚相手はもう、彼ではないのだから。 大輔が私を振り返り、わざとらしい言い訳を始めた。 「夏海、変なふうに思うなよ。陽可は来月には実家に帰るんだ。彼女は国内に友達がいないから、最近ずっと俺について回ってただけで…… 今日の会場も、彼女が自ら手伝ってくれた」 「そう。お疲れ様」 私は淡々と返事をし、ベッドに座って髪を拭いた。 私の冷たさに気づいたのか、彼は立ち上がって近づき、そのまま私の足元にしゃがみ込み、顔を上げて私を見つめた。その瞳には幾分かの熱意が宿っていた。 「夏海、来月の式が楽しみで仕方ないんだ。最高にワクワクしてる」 私のための花火とドローンを使って、他の女に愛を誓いながら? そんな言葉は飲み込んで、「結婚式の準備で疲れてるから」と言って彼を追い出した。 翌朝、大輔は仕事があると言って早々に去っていった。 それからの半月、彼からは頻繁にメッセージが届いた。結婚式に関する質問だったり、結婚式にふさわしいと思う曲をシェアしたりしていた。 私は【いいと思う】【任せるわ】とだけ短く返した。 以前のように、目を輝かせて準備のあれこれを嬉々として彼に話したり、新婚生活を夢語りしたりすることは、二度となかった。 大輔は仕事が忙しくて会えないと言ったが、陽可からのメッセージが次の瞬間には彼の嘘を暴いてしまった。 第3話 陽可から送られてきたのは、大輔と海辺で撮ったウェディングフォトや遊園地でのツーショット、あるいは絵画展やSNS映えするカフェを巡る写真ばかりだった。 その一つひとつが、どれも私がやりたいと言って、「面倒だ」と彼に一蹴されたことばかりだった。 どうやら、彼は面倒だと思っていたわけではなく、ただ私が、彼に時間と手間をかけたいと思える相手ではなかっただけなのだ。 陽可からの最後のメッセージには、剥き出しの敵意が込められていた。 【夏海さん。当ててみて。大輔さんの100回目の結婚式、花嫁は誰かしら?】 無視した。少なくとも、私ではないことは確かだ。 式の数日前、リビングで引き出物を小分けにしていた時、玄関のドアロックから、何度か暗証番号が間違ったというエラー音が何度も聞こえた。 立ち上がってドアを開けると、やはりドアの外には大輔が立っていた。 彼は驚いた顔で言った。 「どうして番号を変えたんだ?」 「定期的に変えることにしてるの。防犯のためにね」 さらりと受け流し、私は作業を続けた。 大輔は深く追求せず、机の上の引き出物を見て、一瞬体が固まった。 それからお世辞を言うように私の肩を揉み、「苦労をかけるな。仕事が片付いたら、新婚旅行はたっぷり時間を取るから。最初はスイスに行こう、な?」と微笑んだ。 「スイスなら、もう行ったわ」 大輔は絶句し、数秒後、何かに気づいたように顔を青くした。 「……夏海、すまない」 それは大輔が56回目となる結婚式延期を告げた時だった。繰り返される失望に押しつぶされそうになり、私は航空券を買ってスイスへ飛んだ。 運悪く、あの時は雪崩に巻き込まれ、山の中で一晩中閉じ込められた。 救助された後に知ったのは、その時大輔がずっと病院で陽可に付き添っていたという事実だった。 「いいの。もう気にしてないから」 大輔の心の中に、私の居場所なんて最初からなかったのだと、もう理解している。 けれど彼は急に私を抱きしめ、必死に誓った。 「夏海、今度の式は必ず行うんだ。式が終わったら、残りの人生をかけて償う。二度と悲しませないから」 どうやら、私が悲しんでいたことを、彼は知っていたのだ。 彼のために用意した祝儀の飾りを前に、私が一人で泣いていたことも知っていて、それでも陽可を選び続けてきたのだ。 式の直前、大輔が珍しく打ち合わせに現れたが、新郎の名前を書く書類や席次表からは、うまく彼を遠ざけた。 式の前夜、彼からメッセージが届いた。 【おやすみ、夏海。明日、やっとお前を妻に迎えられる】 私は返信しなかった。陽可がさっき投稿したSNSの投稿を思い出したからだ。 【明日は私の人生で最も大切な日になる!】 この二人が何を企んでいようと、もうどうでもいい。 私の結婚式に、大輔はもうどうでもいい人間なのだから。 当日。ウェディングドレスを纏い、鏡の前に座る私の心は、久々に高揚していた。 過去99回とは違い、今回の新郎は、大輝なのだから。 案の定、大輔から電話が入った。 「夏海、本当に申し訳ない」 聞き飽きた謝罪の声だった。 「急用ができて、どうしても手が離せない。迎えの儀式はカットして、直接会場で合流しよう。式は予定通り挙げるから、いいな?」 合流しようがしまいが、私には関係ない。 私は平静に答えた。 「いいわ」 電話の向こうの大輔は安堵したようで、口調が一瞬で軽やかになった。 「夏海、俺の花嫁。後で会おう!」 電話を切った途端、大輝が部屋に入ってきた。仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、その瞳には優しさが満ちていた。 これまで、一度も叶うことのなかったファーストミートが、ついに本番を迎え、部屋は楽しげな笑い声で溢れた。 かつては、大輔が真っ直ぐに私のもとへ歩み寄り、ドレス姿の私を愛おしそうに抱きしめてくれる姿を夢見ていた。「これからはずっと一緒だ」なんて言葉を添えて。 けれど、その夢が叶うことはなかった。 人生なんてそんなものだ。確信するものほど、思い通りにはいかない。 大輝が私を抱きかかえた時、私は彼の肩にそっと寄り添った。 大輔とは、これですべて終わり。 私の手が無意識に大輝のスーツを掴むと、大輝は優しい声で慰めてくれた。 「怖がらなくていい。僕がいるよ」 車が式場へと進む。その道中、巨大な車列が前方から現れ、道の真ん中で鉢合わせになった。 相手の先頭車両のドアが開き、例の男が降りてきた。 正装した大輔だった。 彼はまっすぐ私たちの車へ歩み寄ってきた。