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冤罪で殺された私、二度目の人生で復讐する
夜勤中、私は義妹の担当患者の点滴を代わってほしいという頼みを断った。 目の前で、わずか7歳の男の子が点滴の誤投与によるアナフィラキシー...
Chương (1)
第1章
夜勤中、私は義妹の担当患者の点滴を代わってほしいという頼みを断った。
目の前で、わずか7歳の男の子が点滴の誤投与によるアナフィラキシーショックで息を引き取った。
前世では、私が点滴を終えた直後、激怒した家族がナースステーションに乱入し、私を半殺しにした。
「あんたが点滴を間違えて、私の可愛い孫が死んだ!」
だが、私が投与したのはただのブドウ糖であり、事故など起きるはずがなかった。
意識が遠のく中、誰かが通報してくれた。私は救いの手が差し伸べられたのだと信じていた。
しかし思いがけず、警察官である兄が私を床に押さえつけたのだ。
「点滴の瓶にお前の指紋が残っていたぞ。この人殺しめ」
法医学者である幼馴染みも、司法解剖の鑑定書を突きつけて私を告発した。
「死亡推定時刻は5時頃。ちょうどお前が点滴をした時間だ」
弁解の余地すら与えられず、最後は激怒する遺族にそのまま殴り殺された。
いつも私を可愛がってくれていた兄と幼馴染みが、なぜ私にこんな仕打ちをしたのか、死ぬ間際まで理解できなかった。
そして再び目を開けると、私はまた、あの夜に戻っていた。
第1話
「奈緒、美波が急に腹痛を起こしてな。どうせお前も夜勤に入っているんだから、代わりにやってくれないか」
電話越しに聞こえる兄、桜井健太(さくらい けんた)の温かい声に、私は全身をビクッと震わせた。
壁の時計に目をやると、針は深夜の2時を指している。
目の前で慌ただしく人が行き交うナースステーションの光景をじっと見つめ、私は自分が死に戻ったのだとようやく悟った。
家の養女、義妹の桜井美波(さくらい みなみ)は、ぼんやりしている私を強く小突くと、あからさまに苛立った表情を浮かべた。
「代わってくれるなら、私、もう帰るからね。
本当にお腹が痛くて、家に帰って休まないと無理なの。5時になったら、忘れずに6番ベッドの患者に点滴しておいてよ」
前世の私は健太の顔を立てて、美波の担当患者の点滴を代わることに同意してしまった。
患者のベッドの前に着いた途端、私は違和感を覚えた。
男児はほぼ全身を布団にすっぽりと覆われ、顔だけを出していたが、その顔色は月明かりの下でひどく青白かった。
「この子、いくらなんでも深く眠りすぎじゃない?なんだかおかしい、診てみないと……」
私は訝しんだ。
電話の向こうで、美波はたちまち激昂した。
「ちょっと、その子一日中騒ぎっぱなしで、やっと寝てくれたんだから!起こさないでくれる?」
それでも、私はやはり不安だった。
「じゃあ、親はどこ?どうして付き添いの人がいないの?」
「いいから放っておいてよ。どうせ針を刺し直す必要なんてないんだから、点滴瓶を交換するだけでしょ。点滴一つでグズグズ言って、どうしてもあの子を起こさないと気が済まないわけ?」
薬液のラベルを見ると、ただのエネルギー補給用のブドウ糖だったので、私はようやく安心した。
しかし、この時のたった一度の油断が、私に一人の命を背負わせることになったのだ。
翌日、私が交代の準備をしていると、6番ベッドの患者の家族が突然ナースステーションに乱入し、有無を言わさず私をボコボコに殴りつけた。
その時初めて、6番ベッドの男の子、佐藤翔太(さとう しょうた)がアナフィラキシーショックで亡くなったこと、そして私が最後に彼に点滴をした人間であることを知らされた。
だが、私が投与したのは彼が以前から点滴されていたブドウ糖であり、アレルギーなど起こるはずがなかった。
事件発生後、美波はすべての責任を私に押し付けた。
「点滴をしたのは奈緒なんだから、私には関係ないわ」
私は最も信頼している兄と幼馴染みが、真相を究明してくれると信じていた。
ところが、警察官である健太自らが私を告発したのだ。
「点滴の瓶から検出された指紋は桜井奈緒(さくらい なお)のものだ。犯人は間違いなくあいつだ」
法医学者である幼馴染みの橘涼真(たちばな りょうま)は、司法解剖の鑑定書を私の顔に叩きつけた。
「死亡推定時刻はお前が点滴をした直後だ。まだ何か言い訳があるのか?」
私は弁解の余地すら与えられず、最後は警察署の入り口で激怒した遺族に取り囲まれ、健太と涼真が冷ややかな目で見下ろす中、生きたまま殴り殺された。
いつも私が敬愛していた健太と涼真が、なぜ私にこんな仕打ちをしたのか、死ぬ間際まで理解できなかった。
体が焼けるように痛み、肉が裂けるような苦痛がまだ生々しく残っている。
再び命を与えられた今、同じ悲劇が二度と私の身に降りかかることなど、絶対に許しはしない。
第2話
電話の向こうで焦る健太の声が、私の回想を遮った。
「おい、はっきり返事してくれ。美波を迎えに行くんだ」
前世では気づかなかったが、健太がこんなにも急いで私に頼み事を押し付けようとし、その後も焦るように私を犯人に仕立て上げようとしたのは、まるで美波が巻き込まれるのを恐れていたかのようだ。
もしかして、このすべてに健太も関与していたのだろうか。
そう考えると、寒気で全身の震えが止まらなくなった。
横目で美波をちらりと見ると、彼女は隠しきれないほどの焦りを顔に浮かべており、視線をしきりに302号室へ向けていた。まるでそこに何か秘密が隠されているかのように。
私は咳払いをして、わざと冷静を装った。
「無理よ。さっき救急の応援から戻ってきたばかりで、今は死ぬほど疲れてるの。それに、私も自分の患者さんを診なきゃいけないから、代われないわ」
私が断るとは思っていなかったらしく、美波は驚いて振り返り、たちまち顔を真っ赤にした。
「はあ?点滴一つにどれだけの手間がかかるっていうのよ。それくらいも手伝ってくれないわけ?」
電話の向こうの健太までもが、私を鋭い声で怒鳴りつけた。
「奈緒、それくらいの小さな頼みも聞けないのか?今までお前を可愛がってきたのに、裏切られた気分だよ」
私は彼らと無駄話をする気にもなれず、電話を切って別の仕事に取り掛かった。
美波は白目を剥き、ブツブツと文句を言った。
「本当にケチなんだから。あなたなんかに期待した私がバカだったわ」
前世の私は躊躇うことなく彼女を助けたが、その結果、彼女から蹴落とされただけだった。
こんな頼み、引き受けるものか。
美波はナースステーションの中で他の人たちに聞いて回った。
彼女は普段から横暴で、よく他人に仕事を押し付けていたため、ナースステーション内で私以外に彼女を相手にする者はほとんどいなかった。
結局、彼女は腹痛も治まったらしく、悪態をつきながらトイレへ向かった。
なぜ彼女はあんなに急いで他人に仕事を押し付けようとしたのか。まさか、翔太はこの時点ですでに事故に遭っていたのだろうか。
自分の推測を確かめるため、美波が立ち去った後、私は手袋をつけて302号室へと向かった。
月明かりの下、翔太の顔色はひどく青白かった。
布団をめくって体温を確かめようと触れた瞬間、私は恐怖のあまりその場に立ち尽くした。
体はすでに氷のように冷たく、死後硬直すら始まっており、少なくとも死後1時間は経過していた。
1時といえば、ちょうど美波が点滴をしに行った時間だ。
まさかあの時、彼女は自分が誤投与で人を殺してしまったことに気づき、必死に身代わりを探していたのだろうか。
そう考えると、全身が粟立ち、後から後から恐怖が押し寄せてきた。
私の最初の反応は、すぐに病院へ報告することだった。
だが一歩踏み出した途端、その考えを自ら打ち消した。
今、私が理由もなく自分の担当ではない病室にいることが知れれば、責任逃れが得意な美波のことだ、好機とばかりに私へ罪をなすりつけるのではないか。
可能性の話ではない、絶対にそうするはずだ。
誰にも見られていないことを確認すると、私は急いで病室を離れた。
ナースステーションに座り、しばらくして落ち着きを取り戻した頃、私はある非常に重要な点に気づいた。
患者が1時頃にはすでに死んでいたというなら、なぜ涼真の司法解剖の鑑定書には、死亡推定時刻が5時から6時の間と記載されていたのか。
彼は業界で天才法医学者と称賛されており、死亡推定時刻を1時間単位で正確に割り出すことができ、これまで一度もミスを犯したことがなかった。
プロの法医学者が、どうしてあんな重大なミスを犯すというのだろうか。
第3話
頭が割れるように痛み、私は頭を抱えたが、いくら考えても理解できなかった。
私と涼真は、幼馴染みとしての情で結ばれていたはずだ。
何年もの間、彼はまるで騎士のように私を守ってくれたのに、なぜ私を死に追いやるような真似をしたのか。
その夜、私は自分の仕事に没頭し、わざと美波を無視し続けた。
彼女はナースステーションをウロウロと歩き回り、居ても立ってもいられない様子だった。
時計の針が5時を指そうとしていたが、彼女は治療用のトレイを手に持ったまま椅子に座り、点滴をしに行くそぶりを全く見せなかった。
他の同僚たちが自分の仕事で席を外し、ナースステーションに私と彼女の二人きりになるまで。
彼女は私をちらりと見ると、何も言わずに302号室へと向かった。
そろそろ家族が騒ぎ出す時間だと計算し、私は立ち上がって身を隠す場所を探した。
まもなくして、302号室から前世と同じように悲痛な泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「早く目を覚まして!おばあちゃんを脅かさないでちょうだい!」
「翔太、目を開けてパパとママを見てくれ。どうしたっていうんだ?」
「ああ、翔太……先生はあと数日で退院できるって言っていたのに、どうして突然逝ってしまったの!パパとママはこれからどうやって生きていけばいいのよ!」
ひとしきりの騒ぎの後、家族がどっとナースステーションに押し寄せてきた。
父親である佐藤正雄(さとう まさお)は青筋を立てて、当直の看護師は誰か、そして誰が点滴をしたのかと怒鳴り散らした。
美波は隅に縮こまって名乗り出ようとしなかったが、その目は周囲を泳ぎ、私の姿を探していた。
他の看護師たちが怯えた顔で美波を指差した。
「6番ベッドの患者さんは、ずっと桜井美波さんが担当していました」
美波が何かを言う間もなく、正雄が突進し、美波の顔面を力いっぱい殴りつけた。
美波がよろめきながら何とか持ち直したところへ、今度は母親の佐藤真知子(さとう まちこ)が足を振り上げ、美波の腹を蹴り飛ばした。
左右からの挟み撃ちに遭い、美波は床に倒れ込んで苦痛に呻いたが、今度は翔太の祖母に馬乗りになられ、狂ったように髪を毟り取られた。
「あんたが私の可愛い孫を殺したんだね!前からあんたのことが気に入らなかったのよ!
この人殺しめ!孫の命を返して!ぶち殺してやる!」
私が歩み寄ってくるのを見た血だらけの美波は、まるで地獄に仏とでも言わんばかりに私を指差し、大声で叫んだ。
「私が当直だったけど、点滴をしたのは奈緒よ!あいつが薬を間違えたに決まってるわ!」
前世では、一晩中働いて疲労困憊し、退勤して休もうとしていた矢先に、家族にナースステーションで取り囲まれた。
家族の詰問に対し、美波は即座に私を指差した。
「昨夜の当直は奈緒で、点滴をしたのも彼女、私には関係ない!」と。
私は釈明する間すら与えられず、家族にボコボコに殴られたのだ。
翔太は今年まだ7歳で、一家の唯一の跡取りだった。
父親は見るからに裏社会の人間のような風貌で、母親は弁護士、祖母は近所でも有名なクレーマーだった。
まだ25歳だった私は全く太刀打ちできず、まな板の上の鯉と同然だった。
しかし今世では、美波に同じ手を使って責任転嫁させることなど、絶対に許さない。
第4話
翔太の家族が私を睨みつけた瞬間、私はすぐに手を挙げて制した。
「美波、私に濡れ衣を着せないで。
昨夜、私は彼女の代わりに点滴なんてしていません。皆が証明してくれます」
他の看護師たちも次々と前に出た。
「確かに昨夜、美波さんは奈緒さんに頼んでいましたけど、奈緒さんは断りました。美波さん自身が点滴をしに行ったんです」
「嘘よ!最後に私がもう一度頼み込んだら、引き受けてくれたの。5時の時、あなたたち誰もいなかったじゃない!」
血まみれの顔で金切り声を上げる美波の姿は、極めて凄惨だった。
「これは人命に関わることなのよ!私が点滴をしたって、あなたたちの誰が証明できるって言うの!?
奈緒が点滴を間違えて、責任を逃れるために全部私に押し付けてるに決まってるわ!」
人命に関わると言われ、他の看護師たちは誰もそれ以上口出しできなくなった。
家族の私を見る目が次第に怒りに染まっていくのを見て、私は口を開いて潔白を主張した。
「信じられないなら、監視カメラを確認してください」
「廊下の監視カメラは壊れてるのよ!あなたはただ責任逃れがしたいだけでしょう」
美波の口角がわずかに上がり、誰にも気づかれないような微かな笑みを浮かべた。まるでとっくに勝利を確信しているかのようだった。
どうりで。彼女は廊下のカメラが壊れていることを最初から知っていて、わざと看護師が誰もいなくなるのを待ってから病室に入ったのだ。
濡れ衣を着せる算段は、とうの昔に済んでいたというわけだ。
正雄は、私たちが押し問答を繰り返しているのを聞き、とうに忍耐の限界を迎えていた。
彼はナースステーションのパソコンを蹴り飛ばし、ガンガンと机を叩いた。
「どっちがやったにしろ、やった奴が息子の命を償え!」
人混みの中から誰かが「警察が来たぞ」と叫んだ。
胸が強く締め付けられた。人混み越しに、健太の見慣れた顔が見えたからだ。
彼はやはり来てしまった。
床に倒れているのが美波であることに気づいた瞬間、彼はひどく驚いた表情を見せた。
「どうしてお前が殴られたんだ?」
美波は傷口を押さえ、顔中を涙で濡らしていた。
「お兄ちゃん、点滴をしたのは本当に私じゃないの。どうか私を助けて!」
おかしい。事件は突然起きたもので、現場では誰も通報していなかったはずだ。なのにどうして健太はこんなに早く到着できたのだろうか。まるで、ここで人が死ぬことをあらかじめ知っていたかのように。
私が疑念の目を向ける中、健太は歩み寄り、有無を言わさず私の頬を平手打ちした。
その一撃は非常に重く、打たれた後も耳鳴りがやまなかった。
「奈緒、お前にはがっかりだ。自分が犯した過ちなら、勇気を持って認めるべきだ」
その声はどこか歪んで聞こえ、目の前の健太が完全に別人のように感じられた。
そう言い捨てると、彼は遺族に向き直り、愛想の良い顔に切り替えた。
「妹の奈緒に代わって、ご家族の皆様に深くお詫び申し上げます。まだ若い彼女の身を案じ、どうかこれ以上の暴力はお控えください。
必ず私の手で彼女を逮捕し、法の裁きを受けさせますから」
実の兄が、真相を究明することもなく、大勢の前で急き立てるように私を犯人と断定したのだ。
この瞬間、私の心は冷え切るどころか、完全に死んでしまった。
第5話
私は赤く腫れ上がった頬を押さえたが、とめどなくこぼれ落ちる涙を止めることができなかった。
「私は点滴なんてしていない。やったのは美波よ!点滴瓶に私の指紋なんてないわ!信じないなら調べてみて!」
美波は一瞬呆然としたが、ひどく無念そうな顔で私を見た。
「私はあなたの身代わりになって殴られたのに、まだ私を陥れるつもりなの?」
最後に、真知子が進み出て口を開いた。
「いいでしょう。それなら警察にしっかり調査してもらいましょう。私も翔太を殺害した真犯人を突き止め、翔太の無念を晴らしたいの」
その間、全員が焦燥感に駆られながら指紋鑑定の結果を待っていた。
私は全く慌てていなかった。薬の瓶には触れていないのだから、私の指紋が出るはずがないからだ。
だが、結果が出た時、私は再び絶望の淵に突き落とされた。
警察署には涼真もいたが、彼はまるで傍観者のように振る舞い、一切口出ししなかった。
健太は鑑定結果の書類を手に持ち、全員を見渡した後、最後に私を見据えた。
「瓶から検出された右手の指紋は、間違いなく奈緒のものです。これが決定的な証拠です」
その言葉が終わるや否や、全員の視線が私に向けられた。
涼真は顔を曇らせ、ひどく心を痛めているかのような表情を浮かべた。
「あり得ないわ!」
薬の瓶に私の指紋が残っているはずがない。健太が職務上の立場を利用して偽造でもしない限り。
私は彼と同じ家で暮らしているのだ。私の指紋を手に入れることなど造作もない。
しかし生憎なことに、今の私には彼に反論するだけの証拠がなかった。
警察官でありながら、常に公平無私で悪を憎むと自称していた彼の姿が空々しい。
前世の私は、自分が過ちを犯したせいで健太をあそこまで失望させてしまったのだと、愚かにも思い込んでいた。
どんなに彼から冷酷な態度をとられても、私は一度も彼を恨まなかったのに。
最初から、彼と美波が結託して仕掛けた罠だったのだ。私が飛び込むのを待っていただけなのだ。
記憶の中にある健太の優しさが、鮮明に思い出される。
しかし、私と美波のどちらかを選ばなければならない時、私はいつも切り捨てられる側だった。
こんな兄なら、もういらない。
翔太の両親が激昂しようとした瞬間、私はすぐに異議を唱えた。
「ご家族の皆様、疑ったことはありませんか?皆様が発見された時、翔太くんにはすでに死斑が現れていたんです。どう見ても亡くなったばかりの様子ではありませんでした!
死斑が現れたおおよその時間から推測すれば、彼は2時前にはすでに亡くなっていたことになります。その時間、私は救急で応援に入っていて、手術室の先生たちが私の証人になってくます」
翔太が2時頃に死んだことさえ証明できれば、このすべては私とは無関係であると確証される。
「本当に真犯人を見つけ出したいなら、司法解剖をするべきです。そうすれば翔太くんも草葉の陰で報われて、安らかに眠れるはずです」
翔太の両親は悲痛な顔つきでしばらく沈黙していたが、やがて頷いた。
「司法解剖に同意する」
美波はまるでこうなることを予想していたかのように、そばにいた涼真と視線を交わした。
「それなら、橘涼真先生に解剖をお願いしましょう。必ず真犯人を見つけ出してくれるわ」
第6話
真知子はパッと目を輝かせ、目に見えて安堵の表情を浮かべた。
「その方が、あの天才法医学者なのね?ああ、それなら安心だわ。
これでようやく、息子を殺した犯人が見つかるのね。可哀想な翔太……」
前世の私も同じように期待に胸を膨らませていたが、涼真の鑑定書によって判決を下されたのだ。
この手口はもう知っている。それに、私はあの時の私ではない。
私が躊躇していると踏んだのか、美波が皮肉交じりに言った。
「奈緒、まさかまた解剖を渋ってるわけ?いったい何を恐れてるの?」
私はスマホに打ち込んでおいたメッセージを確認し、送信ボタンをタップした。
顔を上げ、かつては私だけを映していた涼真の瞳をじっと見つめ、真剣な面持ちで尋ねた。
「涼真、あなたの腕なら、必ず真相を突き止めて私の無実を証明してくれるわよね?」
涼真は眼鏡を押し上げ、誠実さを装いながらも、どこか見下すような視線を私に向けた。
「善良な人間を冤罪に陥れることはないし、悪人を見逃すこともない」
いいだろう。これが私から彼への最後のチャンスだ。
もしこれでも彼が真実を捻じ曲げるなら、自滅するだけのこと。
「橘涼真さんによる司法解剖に同意します」
鑑定結果が出るまでの間、健太が私を呼び止めた。
彼は言葉巧みに、いかにも私のことを思っているかのように語りかけた。
「奈緒、兄貴の言うことを聞け。結果が出る前に自首して、情状酌量を狙うんだ。医療事故の致死罪なら刑期はせいぜい3年だ。もし刑務所に入ることになっても、俺が手を回して面倒を見てやる。戻ってきたら、また家族みんなで可愛がってやるから」
そばで美波がしきりに頷き、期待に満ちた顔をしている。
前世では、初めての死亡事故にパニックになっていた私は、健太の言葉をあっさりと信じ込んでしまった。
あの時は、兄が私のためにそこまで考えてくれていると、馬鹿みたいに感動すらしていたのだ。
だが、判決を待つまでもなく、私は警察署の入り口で遺族に生きたまま殴り殺された。
要するに美波の身代わりになれということだ。ふざけるな!
私は顔を上げ、美波を横目で睨みつけて声を掛けた。
「美波、聞こえた?今ならまだ自首に間に合うわよ」
健太は勢いよく椅子から立ち上がった。
「その態度はなんだ!俺はお前に自首しろと言ってるんだ。いつ美波に身代わりになれと言った!」
私は両手を広げ、肩をすくめてみせた。
「解剖の結果が出れば、すべてはっきりするわ」
美波は怒りで胸を大きく上下させていた。
「お兄ちゃんのせっかくの好意を無下にするなんて!いいわ、自業自得の結末を待つことね」
自業自得の結末を迎えるのは、果たしてどちらだろうか。
2日後、関係者全員が再び警察署に集められた。
涼真はもったいぶって鑑定書を開き、私を真っ直ぐに指差した。
「死亡推定時刻は5時から6時の間。死因はペニシリンアレルギーです。つまり、桜井奈緒が薬を間違えて投与し、アナフィラキシーショックで死亡させたということです」
第7話
前世と全く同じ言葉は、隕石のように私の心に重くのしかかった。
覚悟はしていたものの、心臓はやはり痛くなる。
美波のためなら、実の兄も幼馴染みも、職業倫理に背いてまで人殺しの罪を私になすりつけるというのか。
8歳までは、私は健太と涼真が目の中に入れても痛くないほど可愛がられていた。
美味しいものは真っ先に私にくれ、私がいじめられないか常に気にかけ、いつも私の周りで世話を焼いてくれていた。
だが、美波がこの家にやって来てから、すべてが変わった。
私は、いてもいなくてもいい透明人間のような存在になったのだ。
それなら、兄も幼馴染みも、もう私には必要ない。
事件のさらなる調査のため、私は一時的に拘留された。
しかし、焦りなど微塵もなかった。
静かな日々は長く続いていなかった。翔太の家族が再び警察署に乗り込んできて、金と命で償えと騒ぎ立てたのだ。
前世では、署の警察が任務で出払っている隙を狙い、美波が遺族に直接謝罪するよう私に提案してきた。
そして最後は、健太と涼真の目の前で、私は激怒した家族によって警察署の入り口で殴り殺された。
今世でも、美波は同じ手を使おうとしていた。
「ご家族があんなに騒いじゃって、このままじゃまずいわよ。奈緒に直接謝罪させて、世間体を保った方がいいんじゃない?
そうしないと、警察の面子が丸潰れになるわよ」
私に遺族の怒りをぶつけさせ、死人に口なしを狙っていることは火を見るより明らかだった。
ところが、この提案は健太と涼真のあっさりとした同意を得た。
彼らは私の抵抗を無視し、私を無理やり警察署の入り口へと引きずり出した。
大柄で屈強な男たちが顔を真っ赤にして青筋を立てており、私の姿を見るや否や突進してきた。
危機一髪の瞬間、人混みの中から突然大声が響き渡った。
「佐藤翔太くんを死なせたのは、桜井奈緒さんではありません!」