5年もの隠れた恋の末、彼は本命彼女にプロポーズした

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5年もの隠れた恋の末、彼は本命彼女にプロポーズした

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20年間ずっと「いい子」として生きてきた私・蘇我思乃(そが しの)が、唯一犯した過ちは、母と継父の目を盗んで、神原俊行(かんばら としゆき...

Chương (1)

第1章

20年間ずっと「いい子」として生きてきた私・蘇我思乃(そが しの)が、唯一犯した過ちは、母と継父の目を盗んで、神原俊行(かんばら としゆき)とこっそり恋愛していたことだった。 昼間の私たちはよそよそしい義理の兄妹だったが、夜になると同じベッドで貪るように肌を重ねる。 その秘密の恋が5年目を迎えた頃、私は偶然、彼が友人たちと話しているのを耳にした。 「20歳で妹さんの初めてを奪って、もう5年も遊んでるんだろ?そろそろ恋愛関係を明かす気はないのか?」 胸がぎゅっと締めつけられ、私は俊行の返事をかすかに期待していた。 俊行はライターを弄びながら、どうでもよさそうに笑った。 「あんなの、所詮は『妹』だ。表に出せるような女じゃない。 そもそも最初から、あいつの母親が俺の家庭を壊したことへの復讐のためじゃなきゃ、俺があいつを選ぶわけないだろ。 もう若葉(わかば)にはプロポーズした。俺の妻になる資格があるのは、彼女だけだ」 私は取り乱して問い詰めたりはしなかった。ただ聞かなかったふりをして、その場を立ち去った。 俊行の結婚式の日、彼はわざわざ友人たちに会場をしっかり見張るよう言いつけていた。私が騒ぎを起こしに来ないようにするためだ。 けれど彼は知らなかった。私はすでに海外へ向かう飛行機に乗っていて、二度と戻ってくるつもりはなかったのだ。 第1話 神原俊行(かんばら としゆき)の誕生日パーティーで、私・蘇我思乃(そが しの)は彼に隣の人気のない個室へ連れて行かれた。 焼けつくような吐息とともに、貪るようなキスが降ってくる。 ドアの外からは、かすかに見知らぬ人たちの話し声が聞こえていた。 私は恥ずかしさで顔を真っ赤にし、覆いかぶさってくる彼を押し返そうとした。 だが、彼に両手首を掴まれ、頭上に押さえつけられて動けなくなった。 「思乃、拒まないで。頼むから」 いつも冷静な彼の声に、少し甘えるような響きが混じっていて、それだけで私は心が揺らいでしまった。 私はおとなしく彼の首元に腕を回した。 けれど、熱い掌がスカートの裾から少しずつ上へ這い上がってきて、身体が震えた瞬間、私は我に返った。 息を乱しながら、さらに先へ進もうとする俊行の手を掴む。 「こんなところじゃ……だ、だめ」 俊行はかすれた声で誘惑するように囁いた。 「誰も入ってこないよ」 私は彼の、人を惑わすような瞳を見る勇気がなくて顔を背けた。見つめたら、きっと断れなくなってしまうから。 「だめ。お母さんが帰りを待ってるの」 俊行の身体が一瞬固まり、それから丁寧に、外されたボタンを一つずつ留め直してくれた。 「こっちはまだ終わりそうにないから、先に運転手に送らせる。家に着いたら連絡して」 彼の失望した様子に気づき、私は唇を噛みしめながら、蚊の鳴くような声で呟いた。 「よ、夜……帰ってくるの待ってる。今日急いで出てきたから、プレゼントを寝室に置き忘れちゃって……」 俊行の動きがぴたりと止まり、目にからかうような笑みが浮かんだ。 「思乃が用意したプレゼント、当ててみようか。まさか……お前自身?」 付き合ってもう5年になるというのに、彼のこんな大胆な言葉には、私は今でも顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなってしまう。 私は慌てて乱れたスカートを整え、「帰ってきたらわかるよ」とだけ言い残して、逃げるように個室を飛び出した。 背後から俊行の低い笑い声が聞こえた。 私は思わず足を速めた。 初春の夜はまだ少し肌寒く、クラブの外で冷たい風に吹かれてようやく激しく高鳴っていた心臓が落ち着いていった。 あのプレゼントを思い出すと、胸に甘い気持ちが込み上げた。俊行が今夜それを見た時、どんな顔をするだろうと期待していた。 車に乗り込み、俊行にメッセージを送ろうとしてスマホを取り出そうとした時、彼に隣の個室へ引っ張られた際にソファへ置き忘れてきたことを思い出した。 私は仕方なく個室へ引き返した。 ドアの前に着いた時、からかうような声が聞こえてきた。 「20歳で妹さんの初めてを奪って、もう5年も遊んでるんだろ?そろそろ恋愛関係を明かす気はないのか?」 ドアを開けようとした私の手が止まった。 胸がぎゅっと締めつけられ、呼吸まで浅くなった。 俊行と5年間、秘密の恋を続けながら、私はずっと彼と堂々と人前に立てる日を夢見ていた。 個室の中が静まり返り、全員の視線が隅へ向けられた。 俊行は鼻で笑い、ライターを弄びながら、赤い火がその彫りの深い横顔を照らしていた。 「お前だって、妹って言っただろ。その関係を明かすわけがない。 もう若葉にはプロポーズした。俺の妻になる資格があるのは、彼女だけだ。 昔、あいつの母親が愛人になって俺の母親を死に追いやった時、自分の娘が俺の下で喘ぐことになるとは思ってもみなかっただろうな」 私の血が一瞬で凍りついた。 期待で激しく高鳴っていた心臓も、その瞬間すべての力を失ってしまった。 誰かが面白がるように言った。 「長く一緒にいれば情が移るなんて言葉、俊行には通じないな。5年一緒にいても、まったく情が湧いてないとは」 俊行はタバコの煙を吐き出し、嘲るように笑った。 「復讐のためじゃなきゃ、気持ち悪さを我慢してまであいつと付き合うわけないだろ。 可愛い娘が俺の愛人になっていたって知った時、あの女はどんな顔をするのか、もう楽しみで待ちきれない。絶対面白い」 ほんの数分前まで私に甘い言葉を囁いていた男が、煙の向こうでまるで別人に見えた。 俊行の瞳には、ほんの欠片の愛情もなかった。 そこにあるのは、底知れない冷たさと、長年の復讐が叶うことへの期待だけだ。 個室には次々と口笛が響き、皆が囃し立てた。 「さすが俊行だな、そんな完璧な復讐思いつくなんて」 「でも損はしてないだろ。蘇我ってダンス専攻だし、あのスタイル……たまんねえよな」 「さっき、蘇我を慌てて隣の部屋に連れ込んだだろ。何してたか、俺らがわからないとでも思ってんのか?」 「こんな早く戻ってきたのは、毎晩やりすぎて身体壊したんじゃね?若葉お嬢様が可哀想だな」 …… 耳を塞ぎたくなるような言葉が、一つ一つ心臓に突き刺さった。 私は必死に手のひらを握りしめ、息が詰まりそうなこの場所から慌てて逃げ出した。 第2話 家に帰ると、母は早くからソファに座って私の帰りを待っていた。 私の真っ赤になった目元を見るなり、慌てて立ち上がった。 「思乃、誕生日パーティーで俊行に嫌な思いをさせられたの?」 母はため息をつき、痛ましそうに私の頬へ手を添えた。 「こんなに時間が経っても、俊行はまだ私への誤解を解いてくれないのね。私たち母娘にずっと敵意を抱いたまま。 私は岳雄がそばにいてくれるから大丈夫。でも、あなたにはつらい思いをさせてしまってるわね」 私と俊行の秘密の交際は、母ですら知らなかった。 これまでの5年間、母が私を慰めるたびに、私は心の中で密かに喜んでいた。 俊行と恋人同士になれたことが嬉しかった。 いつか私が二人の間の潤滑油となり、俊行が母を完全に受け入れてくれる日が来るはずだという期待。そして近い未来、私たち四人が本当の家族になれる日を夢見ていた。 けれど今となっては、そのすべてが私一人の幻想だったのだとわかった。 今夜、俊行の口から語られた残酷な真実が、私の未来への幻想をすべて粉々に打ち砕いた。 私は乱暴に涙を拭った。 「ううん、ただ目にゴミが入っただけ」 母と継父である神原岳雄(かんばら たけお)の仲はとても良い。 だから私は、自分と俊行のことで母の幸せな生活を壊したくなかった。 母はほっとしたように息をつき、私の背中を軽く叩いた。 「それならよかった。あなたと俊行が穏やかにやっていけるなら、私も安心できるわ」 私は込み上げる涙を必死に堪え、母に異変を悟られないよう「おやすみ」とだけ告げて急いで2階へ上がった。 部屋に入り、外の世界をすべて遮断すると、私はドアにもたれたまま力なく床へ滑り落ちた。 そしてついに、堪えていた涙が溢れ出した。 まさか、俊行との5年間の恋愛が、彼が最初から仕組んでいた復讐だったなんて、一度も想像したことがなかった。 第3話 12歳の時、母は私を連れて継父と再婚した。 その頃、俊行はすでに15歳だった。 私たちを見る彼の瞳には、冷たい光が浮かんでいた。 彼が私と母を歓迎していないことは、誰の目にも明らかだった。 私は服の裾をぎゅっと握りしめ、母に促されるまま勇気を振り絞って彼を「お兄ちゃん」と呼んだ。 けれど俊行は、ただ冷たく私を一瞥し、鼻で笑った。 「勝手に親しく呼ばな! 愛人の子どもの分際で……!」 侮辱そのものの言葉に、私はその場に縫い付けられたように動けなくなった。 私は屈辱をこらえながら説明した。 母が継父と付き合い始めたのは、俊行の実母が亡くなった後であり、母は決して愛人ではない。 けれど俊行は信じようとしなかった。 私と母への態度は相変わらず冷たく、継父が何度叱ってもまったく効果はなかった。 母を困らせたくなくて、私は普段からなるべく俊行を避け、彼を怒らせないようにしていた。 私は、自分と俊行の関係はこのままずっと悪いままなのだと思っていた。 けれど17歳の時、その関係は変わり始めた。 夜の自習を終え、一人で帰宅していた時だった。 曲がり角で、酔っ払った男がふらふらと近づいてきた。 その口からは卑猥な言葉が飛び出していた。 私は慌てて鞄を抱きしめ、通行人に助けを求めようとした。 しかし、誰もいなかった。 私は少しずつ絶望していった。 男の手が私に触れようとした瞬間、大きな手が勢いよく私をその背後へ庇った。 次の瞬間、鈍い音と共に男が地面へ叩きつけられた。 私は呆然と、目の前に立つ背中を見つめていた。 いつも私を嫌っていた俊行が、まさか助けてくれるなんて思いもしなかった。 俊行は手首を軽く振りながら、相変わらず不機嫌そうな目で私を見た。 それでも、その瞳の奥に宿るわずかな心配を、私は見逃さなかった。 「車があるのに乗らないとか、危ない目に遭いたいのか?まるで神原家がお前を虐待してるみたいじゃないか」 継父は、私と俊行の通学のために専属の運転手を手配していた。 でも私は、自分が彼の前に現れるだけで不快にさせてしまうと思い、一度も一緒に登下校したことがなかった。 彼と目が合った瞬間、私は慌てて俯いた。 何を言えばいいのかわからなかった。 俊行は苛立ったように舌打ちし、私の手首を掴むと、そのまま車へ押し込んだ。 その時の具体的な状況は、もう私の記憶の中で少し曖昧になっていた。 それでも、俊行が私の前に立って守ってくれた時、胸から伝わってきた激しい鼓動だけは、今でも忘れられない。 物心ついた頃から、私には母しかいなかった。 母は仕事で十分苦労していたから、これ以上心配をかけたくなかった。 だから、外で嫌なことがあっても、私は一度も母に話したことがない。 あの夜は、私が初めて「誰かに守られる」という気持ちを知った瞬間だった。 それ以来、私と俊行の関係は微妙に変わっていった。 私は無意識のうちに彼へ視線を向け、こっそり彼の日常を気にするようになった。 自分ではうまく隠しているつもりだった。 この密かな想いは、俊行に気づかれていないと思っていた。 しかし20歳の誕生日の夜、あの熱く濡れたキスが、私の秘めていた想いをすべて俊行の前へ晒してしまったのだった。 第4話 20歳の誕生日、継父はわざわざ私のために盛大な成人式を開いてくれた。 来客も多く、勧められるまま私は赤ワインを何杯か飲んだ。 これまで一度もお酒を飲んだことがなかった私は、数杯飲んだだけで頭がぼんやりしてしまった。 来客たちを見送った後、私はふらつく足取りで自分の部屋へ戻った。 ベッドへ倒れ込んだ瞬間、隣に温かな身体があるのに気づいた。 目の前に大きく映る俊行の顔を見ても、私は夢だと思い込み、ぼんやり呟きながら寄っていった。 「誕生日っていいなぁ……こんな幸せな夢まで見られるなんて」 柔らかな感触が唇へ伝わった瞬間、私は一気に酔いが覚め、目を丸くして飛び起きた。 「ご、ごめんなさい……夢だと思ってて、そんなつもりじゃ……」 けれど俊行は、まるで最初からわかっていたかのように少しも怒らなかった。 それどころか、一歩ずつ私へ近づいてきた。 「夢にまで見るくらい……思乃は俺のことが好きなのか?」 それが、俊行が初めて私を「思乃」と呼んだ瞬間だった。 家族や友達が何度も呼んでいたその2文字なのに、俊行の口から出ると妙に甘やかで、耳の裏まで熱くなった。 否定の言葉なんて、とても口にできなかった。 私はただ、彼に追い詰められるまま、ベッドの端へ後退していった。 俊行は私の腰を抱き寄せ、身体を隙間なく密着させた。 「思乃、夢を現実にしてやろうか?」 熱い腕の中で、私は全身から力が抜けていった。 そしてぼんやりしたまま、頷いた。 次の瞬間、激しいキスが降り注いだ。 その後、その夜は一睡もできなかった。 翌朝目を覚ますと、私の両足は筋肉痛でまともに歩けないほどだった。 それでも胸の中には、甘い幸福感が何度も押し寄せていた。 好きな人も、自分を好きでいてくれたのだ。 その日から、私と俊行の秘密の恋が始まった。 人前ではよそよそしい兄妹だが、夜になると、同じベッドで貪るように肌を重ね合った。 私はいつか、この恋が皆に知られ、祝福される日が来ると信じていた。 しかし今日になって、ようやく知った。 俊行は、一度も私を好きだったことなどなかったのだ。 彼にとって私は、ただ復讐の対象でしかなかった。 だから私が何度「関係を公表したい」とせがんでも、彼はいつも「もう少し待って」と答えるだけだった。 何を待っていたのか? それは、彼が本当に結婚したい相手を見つけた後で、私に「お前は人前に出せない愛人に過ぎない」と突きつけるためだった。 それによって、彼の復讐は完成する。 認めるしかない。 俊行の復讐は、完全に成功していた。 第5話 私は布団の中で身体を丸め、寝返りを繰り返し、眠れなかった。 涙はとっくに枕を濡らしている。 目を閉じるたびに、あの言葉たちが悪魔の囁きのように脳裏へ蘇った。 夜も更け、ようやくうとうとし始めた頃、外の冷気を帯びた身体が、背中からぴたりと寄り添ってきた。 「スマホ、個室に置きっぱなしだったぞ。なんで誰かのスマホ借りて連絡くれなかったんだ?電話しても出ないから、どれだけ心配したと思ってる」 私は一瞬で目が覚め、彼の腕から逃れようとした。 「家に帰ったら眠くて……忘れてたの」 俊行は両腕で私の腰を強く抱え込み、逃がそうとしない。 「思乃、俺は一晩中お前のこと心配してたのに、お前はぐっすり眠ってたんだな。 夜、俺を待っててプレゼントくれるって約束しただろ。プレゼントは?」 引き出しに大切にしまってあったあのプレゼントの箱が私の脳裏に浮かび、また目頭が熱くなった。 「なくしちゃったの」 俊行はそれ以上追及せず、私の耳を軽く噛んだ後、熱い吐息が首筋にかかった。 「別にいい。お前が俺にとって一番のプレゼントだから。ずっと俺のそばにいてくれればそれでいい」 彼の意図に気づいた私は、力いっぱい彼の手の親指の付け根に噛みついた。 俊行は痛みに低く呻き、すぐに手を離した。 私はその隙に彼から距離を取った。 「今日は……具合悪いの」 まだ神原家で暮らしている以上、私は俊行と真正面から決裂するつもりはなかった。 俊行は眉をひそめ、暗闇の中でしばらく私を見つめていた。 やがてため息をつき、再び私を腕の中へ引き寄せた。 「わかった。何もしない。寝よう」 今夜の誕生日パーティーで疲れていたのか、ほどなくして隣から彼の規則正しい寝息が聞こえ始めた。 その時、ベッドサイドに置かれた俊行のスマホが突然震えた。 私は何かに導かれたかのようにスマホのロックを解除した。 そこにはグループチャットが表示されていた。 次々と写真が送られてきた。 そして、どの写真にも同じ人物が写っていた。 俊行と、全身に洗練された雰囲気を纏う若い女性がいた。 呼吸が止まりそうになる。 きっと、この人が俊行の言っていた結婚相手――小林若葉(こばやし わかば)なのだろう。 写真の中で、俊行は若葉の腰に腕を回し、夜空に広がる花火の下で情熱的にキスをしている。 グループではなおもメッセージが飛び交っている。 【俊行って本当に若葉さんのこと愛してるんだな。自分の誕生日なのに、若葉さんのために花火ショーまで用意するなんて】 【わかってないな。それは本命のために心を砕くってことだよ。例の『妹』にはこんな待遇ありえねえだろ。あっちはただの性欲処理係だしな、ははは】 【蘇我が早く帰ってて助かったな。もし若葉さんと鉢合わせしてたら気まずかっただろ】 【何を怖がる必要ある?どうせ二人は4月8日に結婚するんだし、あと2週間だ。今日真実を知られても、十分復讐になるだろ】 …… 彼が言っていた「一晩中心配してた」というのは、婚約者のために花火を打ち上げていたという意味だったのか。 私の心臓が引き裂かれ、そこから血が流れ続けているようだ。 私は涙を拭い、眠る俊行を起こさないよう慎重に避けながら、自分のスマホを手に取った。 ロックを解除すると、すぐに不在着信が表示された。 俊行からだった。 私は再び泣きそうになるのを堪え、その履歴を削除した。 そしてメール画面を開いた。 すでに書き終えていたのに、送る暇のなかった断りメールを見つめたまま、しばらく呆然と立ち尽くしていた。 やがて、1文字ずつ消していく。 そして新たに別の文章を打ち込んだ。 【お世話になっております。ダンスカンパニーからの海外公演のご招待、ぜひお受けしたいと思います】 そこまで書いて、私は一度手を止めた。 視線を俊行のスマホ画面へ向ける。 それから再び入力を続けた。 【4月8日に出発いたします】