心臓の七度目の震え

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心臓の七度目の震え

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桐谷七海(きりたに ななみ)が世界富豪慈善賞を受賞した日だった。 俺、瀬名遼(せな りょう)は人工心臓の交換手術を受ける金がもうなくて、...

Chương (1)

第1章

桐谷七海(きりたに ななみ)が世界富豪慈善賞を受賞した日だった。 俺、瀬名遼(せな りょう)は人工心臓の交換手術を受ける金がもうなくて、医者から余命を宣告された。 テレビの司会者は七海に、「いちばん心残りのある相手へ電話をかけてください」と促した。 彼女はためらいもなく、俺に電話をかけた。 俺は電話に出て、七海がそう尋ねるのを聞いた。 「昔、お金のために私を捨てたこと、後悔してる?」 交換用の人工心臓の莫大な請求書を見つめながら、俺はかすかに笑って言った。「七海、そんなに金があるなら、400万だけ貸してくれないか」 その瞬間、電話はぶつりと切れた。俺はテレビの中の七海が冷たく言い放つのを見た。 「これでもう、思い残すことはありません」 彼女は知らなかった。あのとき心不全に陥った彼女に、俺が黙って自分の心臓を提供したことを。 第1話 桐谷七海(きりたに ななみ)が世界富豪慈善賞を受賞した日だった。 俺、瀬名遼(せな りょう)は人工心臓の交換手術を受ける金がもうなくて、医者から余命を宣告された。 テレビの司会者は七海に、「いちばん心残りのある相手へ電話をかけてください」と促した。 彼女はためらいもなく、俺に電話をかけた。 俺は電話に出て、七海がそう尋ねるのを聞いた。 「昔、お金のために私を捨てたこと、後悔してる?」 交換用の人工心臓の莫大な請求書を見つめながら、俺はかすかに笑って言った。「七海、そんなに金があるなら、400万だけ貸してくれないか」 その瞬間、電話はぶつりと切れた。俺はテレビの中の七海が冷たく言い放つのを見た。 「これでもう、思い残すことはありません」 彼女は知らなかった。あのとき心不全に陥った彼女に、俺が黙って自分の心臓を提供したことを。 配信が終わったあと、俺の口座にはすぐに七海から400万が振り込まれた。 一瞬、呆然として、胸の内に複雑な思いが広がった。 その金で医療費を払うと、病室の外からふいに聞き覚えのある声がした。 俺はドアの隙間から、七海の姿を目にした。 七年ぶりに会ったというのに、彼女は少しも変わっていないように見えた。 相変わらず、眩しいほどに美しかった。 ただ一つ変わったのは、彼女の隣にいる相手が、もう俺ではないということだった。 授賞式が終わったばかりで、服を着替える暇もないまま、彼女は休む間もなく病院へ駆けつけていた。 それも、彼女の年下の恋人が少し胃の具合を悪くしただけで、だ。 七海が甘えるように柏木陽翔(かしわぎ はると)の腕に抱きつくのをを見て、俺は視線を落とし、見なかったふりをして、そっとドアを閉めようとした。 だが七海は勢いよくドアを引き開けた。 俺はぎょっとして、反射的に顔を上げ、彼女と視線がぶつかった。 七海の目には骨の髄まで凍りつかせるような冷たさが宿っていて、その視線は俺の全身を鋭く射抜いた。 「久しぶりなのに……私に挨拶の一つもしないの?」 俺は彼女を見つめ、わずかに唇を開いた。胸の中には言いたいことがいくつも渦巻いていたのに、口をついて出たのは、たった一言だった。 「七海、あと600万貸してくれ」 七海は一瞬言葉をなくし、その冷たい眼差しにかすかな怒りを宿した。 彼女は俺の手をつかんだ。 「七年ぶりに会って、私に言いたいのはそれだけ!?」 手首にびっしり残った針の痕が、じわじわと鈍い痛みを伝えてきた。 俺は深く息を吸い、静かに言った。 「桐谷社長はそんなに金持ちなんだ。金を借りたりしたら、柏木さんに誤解されると困るからな」 七海は少し面食らったように目を見開き、その視線にわずかな複雑な感情がよぎった。 彼女が何か言おうとした、その時、陽翔が彼女の手をぐっと引いた。 「七海さん、この人が元旦那さん?」 陽翔は俺を見ながら、どこか哀れむような口調で言った。 「600万で何ができるの?七海さんが僕にスーツを一着買ってくれるだけでも1000万はするのに。 瀬名さんって、本当に人を大事にするってことがわからなかったんだね。あのとき瀬名さんが七海さんを冷たく捨てたりしなければ、僕が彼女に出会うこともなかったんだから」 俺は黙ったまま、意識を過去へと引き戻された。 俺と七海は大学で知り合い、その後恋に落ち、五年を共にした。 あの頃の彼女は、まだ資産何兆という企業家ではなかった。 そして俺の体も、今みたいにひどくはなかった。 同じ孤児で、貧しい学生だった俺たちは、初めて自分にとって何より大切な人に出会った。 いつか自分たちだけの家庭を持つために、俺たちは必死に頑張った。 ようやく仕事が軌道に乗り始めた頃、七海に深刻な心臓の病気が見つかった。 治療にも移植手術にも、莫大な金が必要だった。 俺たちは起業のために貯めていた金を、すべて使い果たした。 治療費をかき集めるために、俺は毎日いくつものバイトを掛け持ちし、一日一食で、一円たりとも無駄にできない生活を送っていた。 死にものぐるいで働いたのは、わずかな薬代を捻り出すためだった。 治療薬でさえ、俺たちはいちばん安く、効果も心もとない薬に切り替えるしかなかった。 それでも、適合する心臓はいつまでたっても見つからなかった。 日に日に痩せ衰えていく七海を見て、俺が絶望の淵に立たされていた、まさにその時だった。 医者が俺のもとへやって来て、適合したと告げた。 七海の心臓と適合したその相手は、俺だった。 第2話 あふれていた思いは、そこでふいに断ち切られた。 七海は親しげに背伸びして陽翔の額にそっと口づけし、その目に限りない優しさを滲ませながら言った。 「この人があんなに薄情じゃなかったら、私、あなたみたいな人に出会えてなかったものね。 あなたが欲しがってた600万の財布、帰ったら買ってあげる。今度はもっと高いのを選んでいいのよ。あなたのお願いくらい、私はいくらでも叶えてあげられるんだから」 二人を見ていると、手首の鈍い痛みがそのまま胸の奥に突き刺さってくるみたいで、苦しくて息もできなかった。 俺は最後まで手を離そうとしない七海の指を、強引に振りほどいた。 これ以上、この二人の仲を引き立てるための当て馬になる気はなかった。 立ち去ろうとしたその時、陽翔がわざとらしく足を伸ばして俺をつまずかせた。 「あっ、瀬名さん、大丈夫?そんなに不注意だなんて」 俺はその場に膝をつき、手にしていた診断書が七海の足元に散らばった。 俺が倒れるのを見るや、七海の顔色が変わり、反射的に手を伸ばして俺を支えようとした。 だが陽翔が彼女の手を引き止め、声を上げた。 「これ、何?」 七海の視線は床に落ちた書類へと向かった。 彼女はそれを拾い上げ、素早く目を通した。 「人工心臓の交換手術……」 七海の顔に怒りがよぎった。 彼女は診断書を俺の顔に叩きつけた。 「遼、まさかお金のために、こんな卑劣な真似までして私を騙そうとするなんて! やっぱりあなたは七年前と同じね。何もかも金、金、金……頭の中にはお金のことしかないのね!」 俺は立ち上がり、健康そのものといった七海の姿を見つめた。 口元にかすかな笑みを浮かべ、黙って診断書を拾い上げる。 「俺が金好きなのは桐谷社長もよく知ってるだろ。だったら、もう少し貸してくれないか?」 陽翔は感極まったように涙を浮かべ、泣きながら七海の腕を揺さぶった。 だが俺を見るその目には、嘲りと悪意があからさまに満ちていた。 「七海さん、本当かもしれないよ? それに……あの時、瀬名さんが君のもとを去ったからこそ、善意の提供者から心臓をもらえたんだろ? 助けてあげようよ、ね?」 その言葉は、かつて俺が金のために七海を捨てたという事実を、あらためて彼女に思い出させたらしかった。 七海の目に浮かんだ怒りと迷いは、一瞬で氷のような冷たさに塗り替えられた。 「どれだけ善意で提供された心臓をもらったって、薄情な人間まで救えるわけじゃない。この人にはそんな資格、ないわ」 七海は陽翔の手を引いて背を向けた。陽翔はなおも何かをねだるような声を上げていた。 けれど、振り返って俺を見たその瞬間、その口元には皮肉と悪意に満ちた笑みが浮かんでいた。 俺は陽翔の靴跡だらけになった診断書を拾い上げた。 すると機械の心臓が、本来あるはずのない震えをふいに伝えてきた。 瞳の焦点が揺らぎ、二人の背中が少しずつ霞んでいった。 どれくらい経ったのか、俺は口元からこぼれた血を拭い、「人工心臓交換」という文字を見つめた。 指先で、胸に刻まれた七年もの傷跡をなぞる。 七海は今になっても知らない。 彼女の胸の中で鼓動しているのは、俺の心臓だということを。 七年前、いつまで待っても適合する心臓は見つからなかった。 七海の体は日に日に弱っていった。 人工心臓の技術はまだ未成熟で、理論上は最低限の生命維持ができるという程度だった。 その代わり、抱えるリスクもあまりに多かった。 適合が判明したあと、俺は自分の心臓を彼女に移植した。 そして俺自身は、理論上の寿命が七年という人工心臓に入れ替えた。 金を節約するために、いちばん安いやつだった。 あの日からずっと、胸の奥には断続的な痛みが走るようになった。 日常的に血を吐くことも、突然体から力が抜けることも、いつしか当たり前になっていた。 それに金もなくて、人工心臓を新型に交換する手術は先延ばしにするしかなかった。 そして今、もう七年が経った。 俺の胸の中にある人工の心臓は、七度目の激しい痛みを刻んでいた。 もうとっくに限界寸前なのだと、俺にはわかっていた。 …… 病院を出たあと、俺は借りている部屋へ戻った。 広くもない部屋で、湿っぽくてじめじめしていて、冬になればひどく寒い。 夏になれば今度は息が詰まるほど暑いが、そのぶん家賃だけは安かった。 昔、俺と七海はここに一緒に住んでいて、この場所で未来のことを語り合った。 自分の心臓が彼女に適合すると知ったあと、俺は金に目がくらんだ男を演じ、離婚届を取り出して七海と別れようとした。 第3話 七海は俺と五年を共にした。 どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても、俺は一度だって弱音を吐かず、ずっと彼女のそばを離れなかった。 彼女は、俺がどれほど自分を愛しているかを痛いほどわかっていた。だからこそ、俺が自分から去るはずがないと、どうしても信じられなかった。 俺もまた、彼女が俺を深く愛していることを知っていた。 すべてを知れば、彼女はきっと、自分の命の代わりに俺の命を差し出すことなど許さない。 彼女を救うためには、俺が心を鬼にして、もう何もかも嫌になったふりをするしかなかった。 彼女のそばで、この先も終わりの見えない苦しみに耐え続けることにうんざりした、と。 彼女のそばで、何の希望もない毎日を送るのはもうたくさんだ、と。 安い薬を飲み、一日一食で、喉が渇けば水道水を飲み、腹が減ればパンをかじり、一円だって無駄にできないような暮らしにはもう耐えられない、と。 俺は彼女に、何もかももう限界だと告げた。 あの日のことは、今でもはっきり覚えている。 いつだって気が強く、苦しみも流血も恐れなかったあの子が、初めて涙を流し、泣きながら離婚届に名前を書いた。 そして俺も、臓器提供の同意書に自分の名を書いた。 手術のあと、俺はすべての罵声を背負ったまま七海の前から完全に姿を消し、かつて彼女と五年を過ごしたあのアパートへ戻った。 自ら招いた死が訪れるのを、ただ静かに待っていた。 ただ、まさかもう一度七海と会う日が来るとは思ってもいなかった。 今の彼女はどんどん遠くへ進み、俺たちがかつて一緒に思い描いた理想そのものになっていた。 けれど俺は、もう二度とあの場所へは戻れない。 ニュースの中で輝いている彼女の姿を見ながら、胸の奥にふいに苦い痛みが広がった。 それでもどこか、安堵している自分もいた。 スマホの着信音が、俺の回想を断ち切った。 電話に出ると、銀行からだった。 銀行から、先ほどの400万円の振り込みは相手の振込ミスによるものだと連絡があった。 すぐに返金しなければ、刑事責任を問われる可能性があるらしい。 電話を切ったあと、俺は苦笑いを浮かべたが、それ以上何も言えなかった。 しばらく黙ったあと、親友に電話をかけ、借金を返すための仕事を探してくれと頼んだ。 七海はあれほど俺を憎んでいる。俺のことを金しか頭にない男だと思っているのだから、分割で返済することになれば、きっと喜んで受け入れるだろうし、俺が死にものぐるいで借金を返していくのを、冷ややかに見ているに違いない。 心臓のせいで、俺の体はしょっちゅう力が入らず、できない仕事が多かった。 たまに見つかる日雇いで、どうにか食いつないでいるだけだった。 親友の高木翔太(たかぎ しょうた)は俺の体のことを知っていて、宴会場の給仕の仕事を見つけてくれた。 仕事自体は比較的楽で、日当は一万円だった。 給仕の制服に着替え、マスクをつけて会場で酒を運んでいた時、俺はまたしても七海と顔を合わせた。 彼女は高級なドレスをまとい、しなやかで上品な立ち姿のまま、華やかな風格を漂わせていた。 陽翔は贅沢なスーツを着こなし、背筋を伸ばして隣に立っていた。 二人は腕を組み、まるで理想そのものの恋人同士のように、誰からもちやほやされ、もてはやされていた。 俺は一目見ただけで、すぐに視線を落とした。 酒を手にした七海は俺だと気づかなかった。俺が背を向けようとしたその時、陽翔が唐突に口を開いた。 「おい、君、どういうつもりだ?酒が僕の服にこぼれてるのが見えないのか?」 俺は足を止め、そこでようやく陽翔のスーツの裾が少し濡れていることに気づいた。 何も言わず、ただ頭を下げたまま、俺は紙ナプキンで陽翔の服の汚れを拭った。 七海は俺を見つめ、眉をわずかに寄せ、唇を真一文字に結んだ。 陽翔は目に剥き出しの悪意を宿した次の瞬間、いきなり俺の胸を蹴りつけてきた。 激痛が走り、俺はその場に倒れ込み、思わずうめき声を漏らした。 「その汚い手で僕に触るな。警備員、こいつをつまみ出せ!」 陽翔の顔には怒りが浮かんでいたが、口元の得意げな色はどうしても隠しきれていなかった。 マスクで目元しか見えていなかったのに、一瞬の視線の交錯だけで、七海は俺だと気づいた。 彼女の唇がかすかに震え、瞳には一瞬だけ痛みがよぎったが、すぐに冷たい嘲りへと変わった。 彼女は手を上げて警備員を制し、俺のマスクを引き剥がした。 「遼、元妻の私に会ったのに、挨拶の一つもしないの?」 第4話 陽翔は今さら俺だと気づいたような顔をすると、慌てて俺を引き起こした。 「瀬名さん、どうしてここにいるの?君、七海さんの元夫なんだろ?それなのに、こんなところで給仕なんかしてるの?」 ホール全体が、まるで突然音を奪われたみたいに静まり返った。 その場にいた全員の視線が、一斉に俺へと注がれた。 そして次の瞬間、会場いっぱいに嘲笑が広がった。 「聞いたことあるわ。桐谷社長がいちばん苦しい時に、この人、お金のために彼女を捨てたんでしょう……」 「ふん、自業自得ってやつだな」 「桐谷社長を捨てて、今じゃ給仕にまで落ちぶれたのか。まったく、いい気味だ」 誰かが赤ワインを俺の頭からぶちまけた。 まるでそれが合図だったかのように、四方八方から酒が飛んできた。 グラスが次々と俺の体に叩きつけられ、砕け散る。 暗い赤のワインと鮮やかな血が混じり合い、床一面に広がっていった。 どうやら七海に取り入ろうとしている連中が、彼女の代わりに鬱憤を晴らそうとしているらしかった。 額から流れた血が、頬を伝って落ちていく。 それでも俺は、少しの痛みも感じなかった。ただ黙ったままだった。 七海はそんな俺を見つめ、目の奥に冷えきった光を隠そうともしなかった。 「遼、どうして黙ってるの?それとも、あなたは口を利くだけでもお金が必要なのかしら?」 七海は冷たく笑い、それに合わせるように周囲でも嘲りの声が上がった。 「給仕なんかしてるのも、どうせ私に金を借りに来たからでしょう?いいわ、望みどおりにしてあげる」 彼女は人を呼びつけ、高級ワインを十数本運ばせて、一本ずつ栓を開けさせた。 「これを全部飲み干したら、600万あげる」 彼女は600万の現金を床へ叩きつけた。そのせいで、床に広がる酒と血の赤がいっそう生々しく見えた。 七海の顔には、溶けることのない冷たい表情が張りついていた。 部屋にいる全員が嘲るような顔で、この見世物を冷ややかに眺めていた。 …… 人工心臓に換えてからというもの、俺の体はますます弱っていった。少し重い物を持つことすらできなくなった。 もう走ることも跳ぶこともできない。少し多く歩いただけで、息が上がってしまう。 普通の人間なら気を紛らわせるために飲む酒も、俺は少しでも口にすれば、人工心臓が止まってしまうかもしれなかった。 俺は顔を上げて女を見つめ、口元をわずかに歪めて、ようやく声を出した。 「じゃあ、あの400万も返さなくていいんだな」 七海ははっとしたように目を見開き、その冷えきった眼差しの奥に怒りを燃え上がらせた。 続いて、食いしばった歯のきしむ音が漏れた。 「いいわ!」 その返事を聞いて、俺は笑った。そしてすぐに瓶をつかみ、そのまま酒をあおった。 俺の体はもうとっくに限界だったし、医者からも酒は一滴たりとも飲むなときつく言われていた。 刺激の強い液体が口の中いっぱいに広がり、喉が反射的にえずいて、今にも吐き出しそうになった。 それでも俺は不快感を押し殺して飲み込み、さらに一本、また一本と口をつけていった。 その場にいる全員が、皮肉げな目でこの茶番を眺めていた。 ただ一人、七海だけは、みるみるうちに表情を暗く曇らせていった。 さらに一本を流し込み、俺がまた酒を手に取ると、七海はついに堪えきれず俺の手をつかんだ。 「遼、お金がなければ、あなた死ぬの!?」 血走った彼女の目を見て、俺はうなずいた。 「その通りだ。金がなければ、俺は死ぬ」 彼女は怒りにまかせて俺を突き放した。 「いいわ。だったら全部飲みなさい。死ぬほど飲めばいい!」 体の中に鉛でも詰め込まれたように重かった。 胸の中の人工心臓も、もう動きを止めかけているようだった。 俺は笑って、かすかに息を吸い、また瓶をつかんで口へ運ぼうとした。 七海はもう我慢できず、俺の手から酒瓶をひったくると、金切り声で叫んだ。 「もうやめて!」 俺の体はついに支えを失い、その場に崩れ落ちた。 細かなガラスの破片が体に食い込み、床をさらに赤く染めていく。 騒ぎを聞きつけた親友の翔太が慌てて駆けつけ、蒼白な顔で俺を抱き起こし、七海に向かって叫んだ。 「遼は心臓をあんたに渡したんだ!自分は人工心臓で生きてるんだぞ、酒なんか飲めるわけないだろ!このままじゃ死ぬんだよ、わかってるのか!?」