99回の我慢、これでもう恩も愛も返し終えた

Đang tải thông tin quảng bá...

99回の我慢、これでもう恩も愛も返し終えた

GoodNovel Hoàn thành

オンラインゲームでエースアタッカーの座を譲ったら、彼氏の佐野陸(さの りく)は私・白川紬(しらかわ つむぎ)をいい子だと褒めてくれて、結...

Chương (1)

第1章

オンラインゲームでエースアタッカーの座を譲ったら、彼氏の佐野陸(さの りく)は私・白川紬(しらかわ つむぎ)をいい子だと褒めてくれて、結婚式を早めようと言った。 けれど式の当日、陸の初恋の人・橘愛莉(たちばな あいり)が嫉妬で自ら刃物で腕を傷つけてしまった。 「陸、私を置いていかないで。結婚なんて、しないで……」 いつも冷静な陸が顔色を変えて、必死になって愛莉を救ってほしいと私にすがった。 参列者が好奇の視線を向ける中、私は何も言わず静かに花嫁の座を譲った。 相変わらずの私の理解ある態度を見た陸は、申し訳なさそうに目を潤ませた。 「誓うよ。お前を泣かせるのはこれが最後だ。この結婚式が終わったら、すぐに入籍しよう」 けれど陸は忘れている。これが私を裏切る96回目だということを。 もう陸との未来なんていらない。祖母の命を救ってくれた恩を、あと3回の妥協で返し切ったら、私は迷わず彼のもとを去るつもりだ。 第1話 オンラインゲームでエースアタッカーの座を譲ったら、彼氏の佐野陸(さの りく)は私・白川紬(しらかわ つむぎ)をいい子だと褒めてくれて、結婚式を早めようと言った。 けれど式の当日、陸の初恋の人・橘愛莉(たちばな あいり)が嫉妬で自ら刃物で腕を傷つけてしまった。 「陸、私を置いていかないで。結婚なんて、しないで……」 いつも冷静な陸が顔色を変えて、必死になって愛莉を救ってほしいと私にすがった。 参列者が好奇の視線を向ける中、私は何も言わず静かに花嫁の座を譲った。 相変わらずの私の理解ある態度を見た陸は、申し訳なさそうに目を潤ませた。 「誓うよ。お前を泣かせるのはこれが最後だ。この結婚式が終わったら、すぐに入籍しよう」 けれど陸は忘れている。これが私を裏切る96回目だということを。 もう陸との未来なんていらない。祖母の命を救ってくれた恩を、あと3回の妥協で返し切ったら、私は迷わず彼のもとを去るつもりだ。 「なんだ、結局あっさり退場したのか?」 「しょうがないだろ?どうせ橘さんの代わりだったんだから。やっと本来の主役が戻ったのさ」 「見ろよ、やっぱりお似合いだな」 参列者の声を聞きながら、私は壇上を見上げた。二人で手を取り合い歩く姿は、まさに絵に描いたようなカップルそのものだ。 ただ、肝心の式はまだ始まっていなかった。式場スタッフたちがバタバタと動き回り、会場内の看板や写真の差し替え作業に追われている。 あまつさえ、参列者全員に新しい招待状まで配り始めていた。 なんと、私の手元にも届いた。 開いてみると、新郎の名前は陸のままだった。だが、花嫁の名前に、愛莉と記されていた。 陸はそのすべてを見ていた。 さっきの自傷行為が、ただ気を引くためのものだと陸も分かっているはずなのに、陸は甘く愛莉の頬をなでていた。 「愛莉、わざと困らせるようなことするなよ。もし本当に大怪我をしたらどうするんだ?」 陸にとって大事なのは、愛莉の指先がかすり傷ひとつ負わないことだけだ。 それが、私の競技人生と引き換えに与えられた結婚式だったことなど、陸はもう気にも留めていなかった。 彼は知らない。彼と結ばれたいという願いを、私は毎年の誕生日に紙へ書き、ガラス瓶へしまってきた。誰にも見せられない、たった一つの願いだった。 ようやく会場から私の痕跡が完全に消えたのを見届けてから、式の幕が開いた。 指輪の交換の場面になっても、愛莉が頑として動こうとしなかった。 陸が何度も問いかけると、彼女はおずおずと口を開いた。 「私、もうずっと病気だったから友達がいなくて。リーダーにブライズメイドをお願いしたいんだけど、気を悪くさせちゃうかなって……」 会場中の視線が一斉に、突き刺さるように私に向けられた。 私は静かに、陸を見た。 こうして式を略奪された上、参列者の笑いものにされ、もはや立場などない。 そんな私を、陸は本気で壇上に上げようというのか?それどころか、自分が他の女と結ばれる瞬間を、この目で見届けろとでもいうのか。 かつての朗らかな少女が今はこうして恐る恐る尋ねる様子を見て、陸の瞳に悔しげな色が浮かぶ。彼は祈るような声で私に話しかけた。 「紬、結婚式まで譲ったんだ。ブライズメイド役くらい、拒んだりしないよな」 そうか。私はすっかり忘れていた。 愛莉は二人がお互いを一番求めていた時、突然の「死」を偽って姿を消した。 陸がいつまでも愛莉を忘れられなかったからこそ、私は都合のいい代用品としてそばにいただけなのだ。 今、愛莉が帰ってきた。 陸が、私を大切に思っているなんて……一体どの口が言えるのだろう? 込み上げる悔しさを抑え込み、私は陸に問い返した。 「これはあなたの頼みって捉えていいの?」 陸は煩わしげに眉間にシワを寄せ、何か忘れているような顔をした。 何か問い返そうとしたようだが、愛莉が泣き出しそうになっているのを見て諦めたのか、頷いた。 「ああ」 それを見て、私も頷いた。 「分かった。引き受けるわ」 昔、私と祖母二人だけでひっそりと暮らしていたころ、祖母は重い病気を患っていた。 その時、陸が天からの恵みのように現れて、最高の医療を手配し、不自由のない入院生活を支えてくれた。 祖母はそのおかげで一年長く生きることができ、穏やかな笑顔のまま旅立った。 祖母が息を引き取る前日、私は陸にどう恩返しをすればいいのか聞いた。 陸はじっと私の顔を見つめていた。 「側にいてくれればそれでいい」 その目は、私を見ているようで、決して見てはいなかった。 「佐野社長、さすがに期限は決めておくべきでは?」 「陸と呼べ」 陸は瞳に悲哀を漂わせ、淡々と言った。 第2話 「期限か。じゃあ無条件に俺の頼みを99回聞け。それが無理なら、俺がお前を99回傷つけた時点で、貸し借りは終わりだ」 陸がそんな約束をしていたことも、忘れてしまったんだろうな。 でも、もうどうでもいい。 これで97回目。あと2つで、陸との縁は完全に切れる。 大きく深呼吸をして、私はステージへと向かった。 ウェディングケーキのそばを通ったとき、愛莉が怪しく微笑んでいるのが見えた。 不思議に思った瞬間、後ろから凄まじい力が加わった。 体勢を崩した私はそのまま前につんのめり、運搬車をひっくり返してしまった。 ケーキは潰れ、膝が車輪に激しく打ち付けられ、激痛が走った。 会場がどよめき、壇上の愛莉は、わざとらしく溜息をついた。 「リーダー。ブライズメイドをやりたくないなら、そう言ってくださればいいのに。ケーキまで台無しにするなんて、少しやりすぎではないですか?」 一部始終を見ていた参列者たちも、見て見ぬふりをして嘲笑い始めた。 「リーダー、やっぱり人には向き不向きがありますね。その演技力で芝居をするのは無理がありますよ」 陸が心配そうに近寄ってきたが、その声を聞くと、失望した目で私を見た。 「服が汚れたな。着替えてくるといい」 愛莉は陸の腕にしがみついた。 「気にしないで。式が遅れる方が困るわ」 陸は何かを言いかけていたが、私がすでに立ち上がったのを見て、黙り込んだ。 痛む足を引きずりながら、私はステージの中心へと向かった。 それを見た陸が、眉を寄せた。 「その足、どうしたんだ?」 隣で愛莉が肩をすくめる。 「リーダーも芝居を打つならもう少し上手くやってくださいよ。そのチャンピオンの手を傷つければ、陸ももっと同情してくれたかもしれませんね。次は他の場所にした方がいいですよ」 陸は怒りを隠せず、それでも人目を気にして低い声で言った。 「そんな浅知恵はやめろ。これ以上醜態を晒すな。続きは家に帰ってからにする」 私は自嘲に満ちた笑いを浮かべた。 会場の参列者たちはみんな腰巾着ばかり。私が輝いていた頃は、誰もが愛想よく頭を下げていたのに。 今は愛莉の腰巾着になって、私を貶めることに必死だ。 みんなが彼女の味方をし、さらに陸までも庇っている。私が何を言ったところで、すべて無駄だ。 幸い、愛莉もそれ以上騒ぎを起こすことなく、式はつつがなく終わった。 参列者たちが帰り始め、私も会場を出る準備をした。 すると、愛莉が突然私を呼び止めた。 「リーダー、帰らないでくださいね。このあと二次会もあるんですから。昔なじみの『お付き添い』として、しっかり見ててくださいね」 私は思わずドレスの裾を強く握りしめ、陸を見た。 陸が珍しく不快げに愛莉をたしなめた。 「いい加減にしろ。お前は先に車に行ってろ」 愛莉がいなくなると、陸は申し訳なさそうに言った。 「愛莉の言うことは気にしないでくれ。単なる昔の友達との飲み会なんだ」 怪我をした私の足をちらりと見て、彼は言った。 「足が痛むんだろ。無理しないで、家に帰って休んでいてくれ。 この先、いくらでも会える。次回は必ず誘うから」 そう言って陸は背を向けた。 あとの数回をやり過ごしたら、私がもういなくなるなんて知りもしないで。 私たちにもう、この先なんてない。 陸は専用の車を差し回し、私を家に送らせた。 私はドレスを着替えて足を見ると、膝にはくっきりと青あざが広がっていた。 薬を塗っていると、陸から届け物があると連絡が来た。 箱の中には最高級品の真珠のネックレスと、ポルシェのキーが入っていた。 前者は式を譲った対価、後者は強引にブライズメイドにした謝罪だという。 私は表情を変えず、それらを持ってコレクションルームへと向かい、96番目と97番目のキャビネットに入れた。 使用人が羨ましげに呟いた。 「佐野様からのプレゼントは、毎回豪華になりますね。本当に白川様を心から大切にしていらっしゃるのでしょうね」 私はただ微笑んで何も言わなかった。 使用人は知らないのだ。これは陸が私を傷つけるたびに支払われる、代償に過ぎないことを。 壁一面のキャビネットの中で、あと空いているのは2つだけだった。 第3話 ここを出て行く日は、もうすぐそこまで来ている。 自分の部屋へ行き、私物だけを軽くまとめた。 陸から貰ったものは、何一つ持ち帰りたくなかった。 祖母が遺してくれた唯一の形見だけが、見つかればそれでよかった。 祖母は、陸が私たちを大切にしてくれることに恩を感じていた。私には内緒で、先祖代々の金のブレスレットを溶かし、ペアリングと男性用のネックレスを作っていたのだ。 ネックレスと陸用の指輪は、どちらも祖母が彼に贈ったものだ。 私は、私の指輪だけを取り返したかった。 この前、陸に貸したはずだ。返し忘れたのか、引き出しに適当に放り込んであるはず。 しかし、陸の部屋の隅々まで探しても、高級時計は山ほどあるのに、あの大切な小さな指輪だけが見つからない。 使用人に聞こうとした矢先、陸が愛莉を連れて帰ってきた。しかも、わざわざ食べ物をテイクアウトまでして。 残り物ではない。ちゃんと私のために用意されたものだ。 どれも私の好きなものばかりだった。 陸はいつもこうやって細かなところで私を気遣うから、つい彼が本当に私を愛してくれているのだと勘違いしてしまう。 だが、食事には目もくれず、私は真っ直ぐに聞いた。 「私の指輪は?」 愛莉が先手を打ち、手につけた金の指輪を見せつけてきた。 「あの指輪のことですか?陸がいつも外さずにつけているので、どんなものか気になってもう片方を借りて遊びでつけてみたんです。 今は2つとも溶かして、この指輪に作り替えてしまいましたけど。 勝手なことをしてすみません。いくらお支払いすればいいですか?」 胸が締め付けられた。 「陸、あれは婚約指輪よ!」 陸は少し言い淀んだ。 箸を手に取ると、私の好物を取り分け、「食べてみろよ」と差し出してきた。 「ただの形だけのものだろ。好きなやつをまた買い直せばいいだろう?」 陸は忘れていたのだ。それが、私にとって唯一の祖母の形見だということを。 何物にも代えられない宝物だということを。 鼻の奥がツンとして、差し出されたお皿を避け、冷淡に言い放つ。 「もういい。いらない」 愛莉はたちまち声を震わせ、指輪を外した。 「私が悪いんです。急におかしくなって、このペアリングを溶かさないと気が済まなくて……。陸を怒らないであげてください。 もし私のせいで二人の仲が壊れるなら、いっそ死んでしまったほうがいいです」 愛莉はその指輪が私にとって大切なものだと知った上で、わざとやっているのだ。 しかしあろうことか、陸はそのあざとい魂胆に気づかない。 本来は私に謝るつもりだったのに、愛莉の泣き崩れる様子を見て慌てて箸を投げ出し、陸は必死になだめ始めた。 「ただの古臭い指輪だろ?謝る必要なんてない。こんな指輪、溶かしてもっといいものを作ってやるよ」 愛莉が立ち去ろうとする私の背中を指さす。 「でも……」 「気にするな。そのうち補填してやる」 二人の会話を聞き流し、私は2階の部屋に戻ってドアを閉めた。 両親を早くに亡くした私を、祖母はたった一人で育ててくれた。 それなのに、その最後の形見さえ守れなかった。 これもきっと、天国の祖母からのメッセージなんだ。この間違いだらけの恋を、もう終わらせろということなのだ。 ノートの間に挟んでおいた紙を取り出す。そこには、数字がびっしりと書かれている。 最後に私は、98という数字を記した。 陸がいつの間にか音もなく背後に立っていた。 隠す間もなく、紙をひったくられる。 陸がその紙を手に眉間にしわを寄せ、得体の知れない不安を顔に出した。 「こんなものを書いてどうする気だ?」 私は慌てて取り返す。 「なんでもないわ。適当に書いただけ」 私の変な挙動に驚いたようで、陸は何かを察したのか問いかけてくる。 「前の……何度やっても景品が取れなくて悔しがっていたこと、まだ根に持ってるのか?」 街中での、あの些細なゲームのことだ。 あの時、気まぐれに陸が「この人形はお前に似ているから連れて帰ろう」と言った。 私たちは一緒になってゲームに挑んだ。 私たちは何度も挑戦したが、結局クリアすることができず、最終的に手ぶらで帰ることになったのだ。 第4話 陸は勘違いしているようだったが、私はあえて訂正もせず適当に頷いておいた。 楽しかった頃を思い出したのか、氷のように冷たい彼の表情も、少しだけ和らいだ。 「ただの人形だろう?買えないわけじゃないんだから、そうムキになるなよ。ほら、プレゼントだ」 陸がパシッと指を鳴らす。 すると、屈強な男たちが純金のトロフィーを担いで現れた。 「紬、来シーズンの優勝を祈っているよ。 例の指輪の件はすまなかった。これは、そのお詫びだ」 周囲はみんな、憧れの眼差しでそれを見つめていた。 しかし、私は淡々と言い放つ。 「コレクションルームにでも入れておいて」 喜ばない私を見て、陸には少し予想外だったようだ。 「紬、俺についてきたのは、こういう物が欲しかったからだろう? これだけあれば豪邸も買える。何が不満なんだ?」 陸を鋭く見つめると、どっと疲労感が押し寄せてきた。 結局、陸の目には、私は金目当ての女としか映っていないのだ。 道理で送られてくるプレゼントが、どんどん派手で高価なものになっていくわけだ。 私にもう少し細やかな愛情があれば、陸も気づいてくれたはずだ。私が彼の贈る品を一度も使ったことがないことに。 煌びやかな暮らしを好む人はいるかもしれないけれど、私が欲しかったのは、ただ心からの愛情だけだった。 満足な反応が返ってこなかった陸は、しばらく沈黙した後、激怒して鼻を鳴らし、そのまま愛莉を連れて出て行ってしまった。 その夜のことだ。 愛莉から絶え間なく、あてつけのような写真や動画が送りつけられた。 私はスマホをマナーモードにして、ぐっすりと眠ることにした。 翌朝早く、陸から無機質なメッセージが届き、どこかへ呼び出された。 陸が戻らなかったことに対し、私もあえて追及しなかった。 彼は相当腹を立てているに違いない。 罠なのは明らかだったが、これが最後だと思えば、むしろ解放される気がして、私は足を運んだ。 迷うことなくタクシーに乗り込む。 人目につかない寂れた場所に着いたが、そこに陸の姿はなかった。 確認しようとスマホを取り出した途端、愛莉が数人の黒服たちを連れて現れた。 「探さなくていいですよ。呼び出したのは私ですから」 私は冷ややかに愛莉を見つめ、嫌な予感が確信に変わる。 「何のつもり?」 「エースの座だけじゃなく、リーダーの座も私がもらうわ」 「陸がそうしろと言ったの?」 あそこまで愛され、望むものをすべて捧げられている愛莉が、わざわざこんな小芝居を打ってまで私を陥れる必要があるのか? バカバカしくなり、私は背を向けて立ち去ろうとした。 しかし、黒服たちが私の行く手を塞ぐ。 「あなたが辞めないと、エースの座を手に入れても落ち着かないんです」 黒服たちは私を組み伏せ、右手に向け木刀を振り下ろした。 私は激痛を噛み締めながら言い放つ。 「橘さん、狂ったの?私の手を潰して、陸にどう言い訳する気?」 愛莉は私の折れた手を無慈悲に踏みつけた。 「陸は私の言葉しか信じないですから。 それに、価値がなくなったあなたを、陸がいつまでも傍に置くと思いますか? ほら、続けて!」 黒服たちは容赦なく、私の右手を狙い続けた。 どれくらい時間が経っただろうか。痛みで意識が遠のきかけた頃、彼らはようやく去っていった。 足元では、わざとらしく服に砂をつけ、血糊を口に含んだ愛莉が倒れ込んでいる。 その直後、空から激しい轟音と共に直視できない風圧を感じ、ヘリが降りてきた。 陸が駆けつけ、鮮血に染まった私を見るなり瞳に涙を溜めて叫んだ。 「一体誰がやったんだ!返事をしろ!すぐに病院へ連れて行くからな!」 陸が私を抱えようとすると、愛莉がすがりついてきて弱々しく呟いた。 「陸……私が悪いの。あの人たちが襲ってきたの。私が狙われていて、リーダーは私を庇って…… いいから行って。私のことは気にしないで。私は今日ここでどうなってもいい。でも、リーダーの優勝をつかむその手だけは、絶対に守らないと!」 第5話 ようやく陸は、血を吐いている愛莉に気づき、慌てて声を上げた。 「紬はこれまで十分な実績を残してきた。これ以上選手生命にこだわる必要はない。今は何よりお前の命が一番だ」 そう言い放つと、陸は私に申し訳なさそうな目を向けた。 「愛莉は命の恩人なんだ。放っておくことはできない」 愛莉のあざとい言い方なんて、少し考えればすぐに見抜けるはずなのに。 陸はあえて彼女の嘘を信じているのだ。 これもすべて陸なりの言い訳だと分かった私は、もうこれ以上聞く気になれなかった。 「陸、これが最後よ」 光を失った私の目に、陸は思わず胸を締め付けられたようだった。何か大切なものを永遠に失うような気がした。 陸が問いかけようとした、その時だった。 愛莉が突然血を吐き、膝をついて泣き叫び始めた。 焦って冷や汗を流す陸の頭から、先ほどの疑惑など綺麗さっぱり消え去った。 「愛莉の傷がひどい。病院に送ったらすぐ戻るから、待っててくれ」 私はヘリが遠ざかっていくのを、ただ黙って見送った。 辺鄙な場所でタクシーも捕まらない。 私がしばらく待っていると、スマホに愛莉から返信が来た。 【陸が私を選んで、あなたを見捨てることだってできるんですよ?】 そのメッセージの直後、陸から着信があった。 「愛莉の怪我が深刻で離れられない。タクシーで戻ってきてくれ。運賃は経費で落とすし、カードも好きに使っていいから……本当に悪い!」 電話の向こうから緊迫した治療の音が聞こえ、陸はそのまま通話を切った。その後、彼からの連絡はなかった。 すべて自分一人で解決するしかないと悟った。 私は長い道を歩き、通りすがりの人に頼んで病院まで送ってもらった。 手当てが遅れたせいで、手の機能は戻っても、二度と競技に復帰することはできない体になった。 テレビでは、愛莉の治療のために陸が市内の名医を集めているというニュースが流れていた。 世間は二人の「真実の愛」に感動しているらしい。 私は一人、チームの事務所へ向かい、退職届を出した。 本来、所属選手が簡単に辞めることは許されない。 しかし、かつて陸は私に特別優しかった。違約金なしで退職できる特権を私に与えていたのだ。 当時、役員たちは全員反対していた。 最終的に、私が「永久引退」することを条件に加えることで納得したのだ。 あの頃は、私たちがこんな結末を迎えるなんて思ってもいなかった。 私の引退を惜しんでくれたマネージャーが最後を見送ってくれ、引退声明の作成を引き受けてくれた。 「リーダー、これからの予定は決まっているの?」 私は微笑んだ。 「世界一周の旅に出ようかと思って」 どこへ行ってもいい。そこに陸さえいなければ。 マネージャーと別れ、私は家に帰った。 手元には、陸からのプレゼントが99個目となって届けられていた。 この邸宅の所有権を示す書類だった。 私はそれをキャビネットに入れて鍵をかけた。 一枚の紙に【99】と書き、裏面には陸へのメッセージを書いた。 【これでもう、貸し借りなしよ。陸、別れよう】 わずかな荷物だけを持ち、私は家を出た。 航空券を購入したあと、古いスマホをゴミ箱へ投げ捨て、出国ゲートへと向かった。 陸、もう一生、二度と会うことはないでしょ。 …… 飛行機が飛び立ったその頃、トップクラスの医療チームを率いて陸が寝室に飛び込んだ。 「紬、戻ったよ。傷を見せてくれ」 しかし、部屋には誰もいなかった。 陸がキャビネットに向かい、置かれていた1から99まで書かれた紙を手に取り、嫌な予感がよぎったその瞬間だった。 使用人が駆け込んできた。 「佐野様、大変です!白川様が退役声明を発表しました。しかも、怪我の診断書まで公開しています!」」 陸が驚愕し、持っていた紙が手から滑り落ちた。 ちょうどその裏側に、2行の言葉が見えていた。