娘が死んだ日から、私は夫を捨てた

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娘が死んだ日から、私は夫を捨てた

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トランジットで待っている時、娘の学校から電話が入った。 「牧野さん、大変申し訳ないんですが、娘さんの死亡を確認できる書類を学校までご提...

Chương (1)

第1章

トランジットで待っている時、娘の学校から電話が入った。 「牧野さん、大変申し訳ないんですが、娘さんの死亡を確認できる書類を学校までご提出いただけませんか。 お父さんのほうがずっと電話に出てくださらなくて……本日中に来ていただければ助かるのですが」 私は航空券の行き先に目を落とし、そのまま振替手続きで東都へ戻る便に変えた。 三年ぶりに、娘が通っていた小学校の門をくぐった。 あいにく、今日は親子参観日だった。 水島英一郎(みずしま えいいちろう)が、一人の小さな女の子と写真撮影コーナーに立ち、ドレスの背中のリボンを丁寧に直してやっている。 祥子(しょうこ)という子だ。私の娘ではない。英一郎の恩師の遺族の子どもだった。 三年前、うちの娘を廃棄された倉庫へ突き飛ばした、まさにその子だった。 周りの保護者たちが、声をひそめて囁き合う。 「水島社長の元奥さんじゃない?よりによって親子参観日に来るなんて」 「未練に決まってる。親権と財産を狙ってるのよ」 ざわつきに気づいた英一郎が顔を上げ、私を見つけた。 とっさに祥子を背中にかばい、不快そうに眉を寄せる。 「牧野絵美(まきの えみ)、子どもも大勢いるんだ。学校で揉め事を起こすな」 祥子を守るその手が、やけに目に障った。 そこへ学校の先生が書類を手に駆け寄り、小声で急かすように言った。 「牧野さん、遥(はるか)ちゃんの死亡診断書のコピーはお持ちでしょうか」 一瞬、あたりが水を打ったように静まり返った。 英一郎の顔色がさっと変わる。鋭い眼差しで私を睨みつけた。 「死亡診断書だって……?」 私は彼のほうを見もせず、落ち着いた手つきで書類を先生に差し出した。 「できるだけ急いでください。 親権を争いに来たんじゃない。娘の学籍の手続きに来ただけ」 第1話 トランジットで待っている時、娘の学校から電話が入った。 「牧野さん、大変申し訳ないんですが、娘さんの死亡を確認できる書類を学校までご提出いただけませんか。 お父さんのほうがずっと電話に出てくださらなくて……本日中に来ていただければ助かるのですが」 私は航空券の行き先に目を落とし、そのまま振替手続きで東都へ戻る便に変えた。 三年ぶりに、娘が通っていた小学校の門をくぐった。 あいにく、今日は親子参観日だった。 水島英一郎(みずしま えいいちろう)が、一人の小さな女の子と写真撮影コーナーに立ち、ドレスの背中のリボンを丁寧に直してやっている。 祥子(しょうこ)という子だ。私の娘ではない。英一郎の恩師の遺族の子どもだった。 三年前、うちの娘を廃棄された倉庫へ突き飛ばした、まさにその子だった。 周りの保護者たちが、声をひそめて囁き合う。 「水島社長の元奥さんじゃない?よりによって親子参観日に来るなんて」 「未練に決まってる。親権と財産を狙ってるのよ」 ざわつきに気づいた英一郎が顔を上げ、私を見つけた。 とっさに祥子を背中にかばい、不快そうに眉を寄せる。 「牧野絵美(まきの えみ)、子どもも大勢いるんだ。学校で揉め事を起こすな」 祥子を守るその手が、やけに目に障った。 そこへ学校の先生が書類を手に駆け寄り、小声で急かすように言った。 「牧野さん、遥(はるか)ちゃんの死亡診断書のコピーはお持ちでしょうか」 一瞬、あたりが水を打ったように静まり返った。 英一郎の顔色がさっと変わる。鋭い眼差しで私を睨みつけた。 「死亡診断書だって……?」 私は彼のほうを見もせず、落ち着いた手つきで書類を先生に差し出した。 「できるだけ急いでください。 親権を争いに来たんじゃない。娘の学籍の手続きに来ただけ」 英一郎は、私の手にある書類を穴が開くほど見つめていた。 数秒の沈黙のあと、彼はふっと笑った。 「絵美、俺を屈服させるために、そんな嘘まででっちあげるのか」 その口調には、確信と、上に立つ者の傲慢さがありありと滲んでいた。 俺の気を引こうとしているのが手に取るようにわかる、とでも言いたげな顔だった。 「前から言ってるだろ。美佳子と祥子を受け入れさえすれば、いつでも俺のもとに戻ってこられるって。 三年も姿を消しておいて、今度は遥を使って脅しか」 私は顔を上げ、感情のない目を彼に向けた。 彼の目には、私がいつだって手段を選ばず彼を繋ぎとめようとする、狂った女にしか映っていない。 そこへ久保美佳子(くぼ みかこ)が、ヒールの音を響かせながらホットコーヒーを二つ持って近づいてきた。 彼女はその片方を、優しい手つきで英一郎に差し出す。 「英一郎、どうしたの?」 美佳子は私に気づくと、驚きと怯えを浮かべてみせた。 「絵美さん、どうしてここに……」 猛獣に狙われた獲物を庇うように、美佳子は慌てて祥子を自分の胸に抱き寄せる。 「もし、英一郎が今日祥子に付き添ったことを怒ってるなら、私に当たって。 学校で騒ぐのはやめて。祥子は怖がりだから、びっくりしちゃう」 本当に、できた人間だ。 三年前も、彼女はそうやって少しずつ、私の家庭を壊していった。 私は二人を無視して、まっすぐ学校の受付窓口へ向かった。 そして死亡診断書のコピーを職員に差し出した。 「手続きをお願いします」 英一郎は私に無視されたことで、みるみる表情を険しくした。 大股で近づいてくると、乱暴に私の手首を押さえつける。 骨が軋むほどの力だった。 「いい加減にしろ! ここがどういう場所か、わかってるのか。東都で一番の学校だぞ。お前、遥の将来を潰す気か」 苛立ちと怒りがありありと目に浮かんでいた。 「シングルマザーで生活が苦しいからって、子どもの学業を盾に俺を脅そうってのか! 絵美、お前は母親失格だ」 母親失格だと? とっくにかさぶたになっていた心の傷が、その言葉で無理やり引き剥がされた。 三年前、遥は旧校舎の廃棄倉庫に閉じ込められていた。 その日、あの倉庫に火の手が上がった。 煙に巻かれて咳き込みながら、腕時計型の電話で泣きじゃくり、英一郎に助けを求めた。 でも、そのとき英一郎は、雷を怖がる祥子を抱きしめてあやしていた。 おまけに、遥からの電話が祥子の眠りを妨げるからといって、彼女の番号を着信拒否にしたのだ。 遥は、息を引き取るまで、その腕時計型の電話を握りしめていた。 私は力を込め、英一郎の掌から手首を引き抜いた。 「余計なお世話よ。 遥は、もう学校に行かなくていいの」 英一郎の目が大きく見開かれる。 その声には、彼自身も気づかない冷たさが混じっていた。 「いったい、どうしたっていうんだ」 私は答えず、代わりに死亡診断書のコピーを手元に引き戻し、机の上にきっちりと広げた。 声は大きくない。けれど一言一言がはっきりと空気を震わせた。 「私の娘は、もう死にました。 除籍の手続きを、至急お願いします」 第2話 教務主任は震える手で、その死亡診断書のコピーを受け取った。 廊下が、恐ろしいほど静まりかえっている。 英一郎は書類を穴のあくほど見つめ、瞳孔が激しく縮まった。 それから、まるで途方もない冗談を聞いたかのように、冷たく言い放つ。 「これは偽物だ。 遥は先月、知らない番号で俺にメッセージを送ってきた。最新のおもちゃがほしいってな。 絵美、俺に罪悪感を抱かせるために、偽の書類までつくるなんて、そんな汚い手を使うのか」 胸がぎゅっと締めつけられた。 先月、遥の古い携帯を処分する前に、最後に一度だけ電源を入れた。 すると、中に設定されていた予約メッセージが、そのまま送信されてしまったのだ。 彼は、まだ遥が生きていると思いこんでいる。 あまりにも馬鹿げている。 美佳子が横から書類をのぞきこみ、そっと口もとを押さえた。 「英一郎、この診断書、死因は重度の熱傷による窒息死だって書いてあるわ」 彼女の目はみるみる赤くなり、私に向けられた視線は非難に満ちていた。 「絵美さん、私を恨んでいるのはわかるけど。 自分の実の娘に、そんなむごい死に方をでっちあげて呪うなんて、やりすぎよ。 英一郎の同情を引こうとしたにしても、これはひどすぎるわ」 周りの保護者たちがひそひそとささやきはじめる。私を見る目は、まるで頭のおかしい人間を見るようだった。 そのとき、ずっと美佳子の後ろに隠れていた祥子が、突然飛び出してきた。 私のそばを通りざま、何気ないふりで足を出すと、床に置いてあった私のバッグを思いきり蹴り倒した。 中身が床にぶちまけられる。 着替えの服のほかに、ふちが焼け焦げた一冊の絵本があった。 祥子はキャッと悲鳴をあげ、すぐさま英一郎に飛びついた。 「英一郎おじさん、こわい。あのおばさんのバッグ、まっ黒で汚いものが入ってる!」 私はかまっている余裕などなかった。 すぐに床に膝をつき、その絵本を慎重に拾いあげる。 それは、遥が亡くなる前に、たった一つ残したものだった。 英一郎は祥子を叱るどころか、逆に腰をかがめて抱きあげると、背中をやさしくトントンと叩いてあやしている。 彼はしゃがみこんだままの私を見おろし、その目にありありと嫌悪を浮かべていた。 「絵美、いまのお前の姿を見てみろよ。まるで気がふれたみたいだ」 美佳子はため息をつくと、エルメスのバッグからカードを一枚取りだし、私の前に差し出した。 「絵美さん、英一郎と別れてから、お金に困ってるんじゃない? このカードに五百万入ってるから、それで遥においしいものでも買ってあげて。娘にまで芝居をさせるのは、もうやめなさい」 彼女の言葉の一言一言が、勝利と寛大さを見せびらかしていた。 英一郎の金で、私に施しをしているのだ。 私はそのカードを受け取らなかった。 ただ絵本のほこりをそっと袖でぬぐい、立ちあがる。 その間に、教務主任はこの茶番のなかで、コピーの受け取り手続きを済ませていた。 「牧野さん、受領書です」 私は書類を受けとり、バッグに入れた。 英一郎は私を見つめ、眉間のしわをいっそう深くする。 たぶん、私が昔のように、美佳子の挑発で感情を爆発させ、わめき散らすとでも思ったのだろう。 だが、返ってきたのは死んだような静けさだけだった。 「騒ぎたいだけ騒いだんなら、もういいよ。家に帰れ。 今週の金曜は祥子の誕生日だ。謝りに来い。そうすれば、これまでのことは許してやる」 私は顔をあげ、かつて十年間愛したその顔を、静かに見つめた。 三年の時間が、憎しみさえも、いつのまにか消えてなくなっていた。 「英一郎」 私は一歩あとずさり、二人のあいだに距離をつくった。 「私たち、三年前に離婚したのよ。 あなたが誰かの父親になろうと、あの女のATMになろうと、私にはもう一切関係ない。 今日ここへ来たのは、娘のこの世での最後の手続きを終わらせるためだけ」 そう言い終えると、バッグを手に取り、背中を向けて校門へ歩きだした。 そして、もう二度と振り返らなかった。 第3話 私は学校を出た。 東都の風が骨まで凍みるように冷たい。 三年前も、こんな日だった。 英一郎の恩師が、交通事故で亡くなった。 葬儀の場で、泣き崩れて意識を失った美佳子をじっと見つめながら、英一郎は目を真っ赤に腫らし、皆の前で誓った。 「先生が亡くなられた。これからは、俺が美佳子と祥子の支えになる」 最初は、恩返しのつもりなのだと思っていた。 英一郎が起業したばかりの頃、久保先生の力添えがなければ、今の水島グループは存在しなかったからだ。 私から進んで彼女たちを受け入れ、遥が一度も着ていなかったドレスも、祥子に譲った。 だが、ほどなく二人は一線を越えてきた。 美佳子は、自分は重度のうつ病で、誰かがそばにいなければならないと言い出した。 真夜中、彼女は英一郎に電話をかけ、眠れないと訴えた。 英一郎は、高熱を出している遥を置き去りにし、車を三十分も走らせて彼女のマンションへ向かった。 そのことで彼を問い詰めると、英一郎は私が理不尽に騒いでいるだけだと言い放った。 「絵美、彼女は夫を亡くしたばかりで、うつ病でもあるんだ。お前は健康なのに、どうして病人を責めるんだ」 その後、英一郎のひいきは、ますますあからさまになっていった。 遥の授業参観には、いつも顔を出さない。 英一郎は平然と言った。 「祥子には父親がいない。俺が行ってやらなきゃ、同級生に笑われる。遥にはお前がついてるじゃないか」 遥が海を見たいと言い出し、私は航空券を手配した。 すると出発直前になって、美佳子がSNSにこう投稿した。 【ディズニーの花火が見たいのに、一緒に行ってくれる人がいなくて残念】 英一郎はすぐさま航空券をキャンセルし、美佳子と祥子を連れてディズニーランドへ行ってしまった。 遥はスーツケースを抱えたまま、リビングで一晩中泣きじゃくった。 何よりも許せなかったのは、祥子が階段でわざと遥を突き飛ばしたことだ。 遥は額を階段の角にぶつけ、大怪我をした。 私は震えながら、祥子に謝るよう強く求めた。 しかし美佳子は祥子を背中にかばい、涙をこぼしながら言った。 「祥子はただ遥と遊びたかっただけなの。愛情が足りなくて、だから極端なことをして気を引こうとした」 英一郎は美佳子の涙にひどく胸を痛め、私に向かって怒鳴った。 「絵美、お前は娘にどういう教育をしてるんだ。少しは思いやりを持てないのか。祥子があんなにかわいそうなのに、ちょっと譲ってやれないのか」 その瞬間、私はすべてを諦めた。 離婚協議書に署名し、遥を連れて水島家を出た。 だが、私が身を引いたことが、遥の命を奪うことになるとは、夢にも思わなかった。 その日は、ひどい雨だった。 遥がアパートの部屋で、絵本を探して泣きじゃくっていた。 「ママ、あれ、パパに送りたい誕生日プレゼントなの。古い校舎の美術室に忘れちゃった。明日はパパの誕生日なのに……」 私は根負けして、学校へ一緒に戻ることにした。 学校前のコンビニで傘を買うあいだ、遥に先に絵本を取ってくるよう言った。 ところが、廊下でばったり美佳子と祥子に出くわした。 祥子は遥に「絵本なら廃棄倉庫にあるよ」と嘘をつき、古いスポンジマットが積まれた倉庫へ誘い込むと、外から鍵をかけたのだ。 老朽化した配線が雨でショートし、火が出た。 異変に気づき学校へ駆けつけたときには、火はもう燃え広がって手がつけられない状態だった。 警備員に必死に取り押さえられながら、絶望のなか英一郎に電話をかけた。 一度目は、切られた。 二度目も、切られた。 三度目で、ようやく彼は出た。向こうからは、美佳子がそっと子守唄を口ずさむ声が聞こえる。 私は声を張り裂けさせるように叫んだ。 「英一郎!倉庫が火事なの!遥が閉じ込められてる!すぐに校長に連絡して、合鍵を借りて!」 一瞬、電話の向こうに息をのむ気配があった。 だが、すぐに心底うんざりしたような英一郎の声が返ってきた。 「絵美、いい加減にしろ。そんなくだらない芝居はもう飽きた。 外は雷だ。祥子が驚いて、やっと寝ついたところなんだ。邪魔をするな」 第4話 英一郎は電話を切ると、私の番号を着信拒否にした。 消防士が鉄の扉をこじ開けたとき、隅にうずくまった、見分けもつかないほど変わり果てた遺体があった。 その手には、ふちが焼け焦げた絵本が、まだしっかりと握りしめられていた。 絵本の最初のページには、たどたどしい字で【パパ、お誕生日おめでとう】と書いてある。 病院で娘の死亡が確認された後、私は区役所に向かった。そこには、古びたインクの匂いが染みついていた。 私は死亡診断書と死亡届を窓口の職員に差し出した。 「死亡届の手続きをお願いします」 職員は情報を確認し、受理証明書に判を押した。 それからハサミを取り出すと、私がこの世に遺した最後のつながりを、ためらわずに断ち切った。 その死亡届受理証明書は、重いハンマーのように、十年分の愚かさを粉々に打ち砕いた。 ずっと耐えさえすれば、いつか英一郎の心を動かせて、遥にちゃんとした家族をあげられる。そう思い込んでいた。 けれど、結局、私はとんでもなく思い違いをしていた。 受理証明書をバッグにしまい込んだ。 その瞬間、遠い昔の英一郎の姿が、ふと脳裏に蘇った。 まだ起業したばかりで、家賃も払えないほど貧しかった頃、まともな婚約指輪さえ買えなかった。 彼は、缶ジュースのプルタブを私の薬指に通し、目を真っ赤にして誓ったのだ。 「絵美、誓うよ。もう二度と、お前にも俺たちの子どもにも、辛い思いは絶対にさせない。 もし誰かがお前たちをいじめる奴がいたら、俺が真っ先にぶっ飛ばしてやる」 あの言葉はまだ耳に残っている。なのに彼は、自分が言う責任や恩人のために、実の娘を自ら死へと追いやった。 区役所を出て、葬儀場へタクシーで向かった。 三年前の離婚で、私は何も受け取っていない。遥の葬式を終えたあと、お墓を買う金さえなくて、冷たい納骨堂に骨壺を預けるしかなかった。 今日、ようやくまとまったお金が貯まったのだ。 職員が、小さな骨壺と写真立てを差し出してきた。 写真立ての中の遥は、小さな八重歯を見せて、優しく微笑んでいる。 私はその骨壺をぎゅっと胸に抱きしめた。ひんやりとした感触が伝わってくる。音もなく涙がこぼれ落ちた。 「遥、怖くないよ」 私は小さくささやいた。 「母さんが迎えに来たよ。 大好きな海に行こうね。もう誰にも、いじめられたりしないからね」 私は午後三時発の、東都を出る片道の新幹線の切符を買っていた。 もう二度と、戻るつもりはなかった。 待合ロビーは人であふれ、喧騒に包まれている。 スピーカーからは、無機質な女性アナウンスが流れてきた。 「西京府行きの新幹線をご利用のお客様にご案内いたします。まもなく改札を開始いたします……」 私はスーツケースを引っ張り、手に持ったリュックを抱え直し、改札へ向かおうとした。 そのとき、コートのポケットに入れたスマホが、突然震え始めた。 見知らぬ番号だ。 無視して切ったが、同じ番号がまたかかってくる。 通話ボタンを押した。 つながった瞬間、英一郎の荒い息遣いが聞こえてきた。 その声には、魂が引き裂かれるような、かつてない錯乱と恐怖がにじんでいる。 「絵美。祥子がさっき言ったんだ。三年前の大雨の日、遥を旧校舎の倉庫に閉じ込めたって。 あの日、あの倉庫が火事になったんだ……」 彼は、取り乱した様子で問い詰めてきた。 「今どこにいる!嘘だと言ってくれ! 絵美!遥はどこだ!俺の娘はどこにいるんだ!」