やり直した私は、迷わず角膜を手放した

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やり直した私は、迷わず角膜を手放した

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運転免許を取ったその足で、私は病院へ向かい、角膜の手術を受けた。 前世では、入学初日、恋人の藤原航(ふじわら わたる)の幼なじみである...

Chương (1)

第1章

運転免許を取ったその足で、私は病院へ向かい、角膜の手術を受けた。 前世では、入学初日、恋人の藤原航(ふじわら わたる)の幼なじみである高梨茉莉(たかなし まり)が、私の車を勝手に持ち出した。 クラスメイト3人を乗せ、学校近くのショッピングモールへ向かった茉莉は、市街地で暴走した。赤信号を何度も無視した末、横断歩道を渡っていた妊婦と高齢の男性をはね、2人の命を奪った。 ところが3人のクラスメイトは、逃げた運転手は私だったと口をそろえた。 警察に逮捕されたとき、私は必死に訴えた。 運転していたのは茉莉だ、と。 けれど茉莉は、航の腕の中に飛び込み、まるで被害者のような顔で言った。 「璃子さん、私のことが嫌いなのは分かってる。でも、だからって罪をなすりつけるなんて、ひどすぎるよ」 すると航は、私の車に取りつけてあったドライブレコーダーを差し出した。 映像の中で人をはね、うろたえながら逃げていた運転手は、どう見ても私だった。 「柳沢璃子(やなぎさわ りこ)。お前はまだ反省もせずに、他人に罪を着せるつもりか」 その映像を見た遺族は怒り狂い、私に刃物を向けた。 私は18回も刺され、その場で息絶えた。 そして再び目を開けると、私は茉莉が私の車を持ち出す前日に戻っていた。 第1話 「みなさん、浜凪市の学校へようこそ。私は地元ですので、歓迎の気持ちを込めて、明日みなさんをショッピングモールに連れて行きたいと思います。お土産はもちろん全部私がおごります。みなさんへの初めてのプレゼントということで」 高梨茉莉(たかなし まり)の聞き覚えのある声がした瞬間、私は全身を震わせた。 その瞬間、理解した。 私、柳沢璃子(やなぎさわ りこ)は、やり直したのだ。 クラスメイトたちはその言葉を聞くと、たちまち色めき立った。 「わあ、高梨さんって、本当に美人で優しいお嬢様って感じですね」 「高梨さん、うちのクラスって人数多いですよ。かなりお金かかるんじゃないですか?」 茉莉はにこりと微笑んだ。 「大丈夫です。せっかく浜凪に来てくださったのですから、地元民としてちゃんと歓迎したくて」 そのとき、誰かが私のほうを見た。 「そういえば、柳沢さんもこの辺りのご出身ですよね?名簿で拝見したのですが」 私はうなずいた。 「はい。みなさん、浜凪市へようこそ」 すると茉莉がふいに手を伸ばし、私の腕をつかんだ。 「璃子さん、私の車だけでは全員乗れません。あなた、最近免許を取ったばかりですよね?車を少しお借りしてもよろしいですか?」 その瞬間、私は凍りついた。 前世でも、茉莉は同じ口実で私の車を持ち出した。 そして市街地で暴走し、赤信号を何度も無視した末、横断歩道を渡っていた妊婦と高齢の男性をはねた。 それでも3人のクラスメイトは、逃げた運転手は私だったと口をそろえた。 警察が私を逮捕しに来たとき、私は必死に訴えた。 「車を運転していたのは茉莉さんです」と。 けれど茉莉は泣きながら、私の恋人・藤原航(ふじわら わたる)の胸に飛び込んだ。 「璃子さん、私のことが嫌いだからって、罪をなすりつけるのはひどいです」 航は私の頬を平手で打ち、車に取りつけてあったドライブレコーダーの映像を突きつけた。 映像の中で、猛スピードで走り、人をはねた運転手は、私そのものだった。 私が弁明する間もなく、映像を見て激昂した被害者の遺族に、私は18回も刺されて死んだ。 前世の苦しみを思い出しただけで、全身が抑えようもなく震えた。 まだ反応できずにいると、突然、私のバッグが誰かに奪われた。 航がバッグの中を勝手に漁り、車のキーを取り出して茉莉に渡した。 「茉莉、遠慮せず運転していいよ」 その言葉を聞いた瞬間、私ははっと我に返り、バッグとキーを奪い返した。 「ごめんなさい。明日は車を使う用事があるので、ほかの方に借りてください」 私がそう言うと、航はすぐに不機嫌な顔になった。 「璃子、お前に何の用事があるんだよ。どうせわざと貸したくないだけだろ」 私は冷ややかに彼を見返した。 「ええ、貸したくありません。それが何か?」 すると茉莉は、ひどく傷ついたような顔をした。 「璃子さん、私、どうしてそんなに嫌われているのか分かりません。でも私はただ、明日みんなにプレゼントを買ってあげたくて、車を少し借りたいだけなんです。どうしてそこまで私を困らせるんですか?」 思わず笑いそうになった。 自分のものを貸すのを断っただけで、彼女への嫌がらせになるらしい。 それを見かねたクラスメイトたちが、次々に口を開いた。 「柳沢さん、同じクラスの仲間なのに、ちょっと冷たすぎませんか?」 「茉莉さんは車を少し借りたいだけでしょう?どうしてそんな傷つけるようなことを言うんですか。そもそも茉莉さん、あなたに何かしたわけじゃないですよね」 航は私を強く突き飛ばした。 「璃子、お前さ、そのわがままで高飛車なお嬢様気質、少しは直せないのか?入学初日から茉莉をいじめるなんて」 私は床に倒れ、後頭部を机の角にぶつけた。 鋭い痛みに、思わず息をのむ。 以前の私なら、航の言葉に丸め込まれて、自分が悪かったのではないかと反省し始めていたかもしれない。 けれど今の私にあるのは、彼らへの憎しみだけだった。 とくに航だけは、八つ裂きにしても足りないほど憎かった。 第2話 私は痛みをこらえて立ち上がった。 振り返るなり、航の頬を思いきり打つ。 「航。茉莉のためなら、恋人にまで手を上げるの?忘れないで。あなたが今この学校に通えるのも、生活費に困らずにいられるのも、全部うちが援助しているからでしょう。 本当に、どこまで恩知らずなら気が済むの。だったら別れましょう。あなたはせいぜい、大事な幼なじみを守っていればいいわ」 私が別れを口にした途端、航の顔色が変わった。 「璃子、また何を大げさに騒いでるんだ。茉莉は俺にとって妹みたいなものだぞ。 それに、お前はいずれ俺の妻になるんだろ。だったら茉莉だって家族同然だ。少しくらい面倒を見るのが当然じゃないか。俺は、お前が俺の家族とうまくやれるようにしてやってるだけだ」 私は唇の端をわずかに引き上げ、冷たく言った。 「航、私を本気で馬鹿だと思っているの?私たちはもう別れる。あなたの家族に入る必要なんてない。あなたの大事な妹分だろうが何だろうが、私には関係ない」 そう言い捨てると、私はバッグをつかみ、そのまま振り返らずに教室を出た。 背後で、航が逆上して怒鳴り始めた。 「璃子、お前みたいなお嬢様気取りの女、俺以外に誰が相手にすると思ってるんだ。金をちらつかせて偉そうにすることしかできないくせに。人を見下して、尊重することも知らない。誰にも好かれなくて当然だ」 腹が立ちすぎて、思わず笑いが漏れた。 以前、航が私の家族カードを湯水のように使っていたとき、それを侮辱だとは思っていなかったはずだ。 私が数万円、時には数十万円のプレゼントを贈ったときも、航は当然のような顔で受け取っていた。少しでも不満そうな顔を見せたことなど、一度もない。 私はスマホを取り出し、航に渡していた家族カードをすぐに利用停止にした。 それから家の経理担当に連絡し、航が使った分の明細をまとめてもらうよう頼んだ。 侮辱だと言うのなら、その侮辱を全部返してもらえばいい。 その夜、どうしても胸のざわつきが収まらなかった。 いても立ってもいられず、私は車で家に戻った。 地下駐車場に車を停めたとき、ようやくほっと息を吐く。 これで、茉莉に車を持ち出されることはない。 夜、眠る準備をしていると、病院から電話がかかってきた。 「柳沢さん、目の検査結果が出ました」 その声を聞いて、入学の数日前から目に痛みがあり、視界もぼやけることが増えていたため、検査を受けていたことを思い出した。 次の瞬間、医師の声が耳に届く。 「柳沢さん、角膜の損傷がかなり進んでいます。このまま放置すれば、視力を失う危険があります。早急に手術が必要です」 その言葉を聞いた瞬間、体が震えた。 医師は私の動揺に気づいたのか、少し声をやわらげた。 「もちろん、病院としてもできる限りドナー角膜の確保に努めます。ただ、今の状態では、まず損傷した角膜を切除して、症状の進行を止める必要があります。放置すればするほど状態は悪化し、手術の難度も上がります」 電話を切ったあと、私は両親に連絡し、自分の状態を伝えた。 母はすぐに、怖がらなくていい、ドナーは全力で探すからと慰めてくれた。 電話を切ってから、私は一睡もできなかった。 翌日、外に出ようとしたとき、ふと気づく。 昨日、駐車場に停めておいたはずの車が消えていた。 胸の奥に、不吉な予感が走る。 私はすぐにスマホを取り、病院へ電話をかけた。 「決めました。今日、手術を受けます。これ以上、悪くなるまで引き延ばしたくありません」 両親にも、今日手術を受けると伝えた。 すると2人はすぐに眼科の専門医を4、5人呼び、手術の準備を整えてくれた。 2時間後、私は手術室のベッドに横たわっていた。 麻酔が効き始めたその瞬間、手術記録用のカメラがこちらを向いているのが見えた。 口元が、ほんの少しだけ上がった。 5時間後、私は目を覚ました。 目の前は、一面の闇だった。 心の底から恐怖が湧き上がる。 手を伸ばした瞬間、その手を誰かが握ってくれた。 「璃子、気分はどう?」 母の声だと分かり、私はすぐに安心した。 「大丈夫。ただ、見えないことにまだ慣れないだけ」 母が私を抱きしめる。 「璃子、大丈夫よ。もうドナーを探してもらっているから、角膜はきっとすぐ見つかるわ。病院の先生も、3か月後ならもう一度手術をして、元の生活に戻れるはずだって言っていたの」 私はうなずいた。 母は私の口元へ食事を運びながら、不思議そうに尋ねた。 「璃子、どうして急にそんなに急いで手術を受けようと思ったの?」 私は一瞬だけ固まった。 それから、何でもないことのように笑って答える。 「早めに手術したほうが影響も少ないし、回復も早いと思ったから」 母は静かにうなずいた。 その夜、私は少し外に出て新鮮な空気を吸いたいと伝えた。 主治医は、看護師が付き添うなら病院の中庭までなら出てもいいと許可してくれた。ただし、なるべく早く戻って処置を受けるようにと言われた。 私は看護師に支えられながら、病院の中庭まで歩いていった。 第3話 隣の部屋から、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。 その声につられて、私も思わず小さく笑った。 看護師さんが言った。「ちょっとトイレに行ってくるので、ここで少し待っていてください」 私はうなずき、椅子に腰を下ろした。 数分後、周囲がざわつき始めた。近づいてくる足音と抑えた声から、人が集まってきたのだと分かった。見えなくても、皆が私を見ているような気配だけははっきり感じた。 「柳沢さん、どうしてここにいるんですか」 「本当にあなたなんですね。事故を起こして逃げたんじゃなかったんですか?警察が学校まで来たのに、よくこんなふうに平然と現れるなんて」 私は眉をひそめ、落ち着いて答えた。 「私は何もしていません。どうして捕まえられなきゃいけないんですか」 その瞬間、誰かに腕をつかまれ、無理やり立たされた。 「璃子、やっぱりお前だったのか。もう逃げるな。警察に行って、自分のしたことを話せ」 声で、相手が航だと分かった。 私は腕を振り払う。 「航、どうかしてるの?私がどうして自首しなきゃならないの」 茉莉が私の腕をつかむ手に力を込め、いつになく真剣な声で諭した。 「璃子さん、もうこれ以上間違いを重ねないでください。三人も亡くなっているんです。きちんと説明すれば、私たちも情状酌量を願えます。少しでも罪が軽くなるように」 私は彼女の手を振りほどいた。 「何を言っているんですか。私は何もしていません。説明なんてできません」 そのとき、誰かが私の襟を強くつかんだ。 「昨日、あんな無茶な運転をして、赤信号まで無視して……俺の妻を…… ふざけるな!妻は、まだ妊娠が分かったばかりだったんだ。これから家族みんなで喜ぶはずだったのに……全部、お前が奪ったんだよ。俺の家族を返せ。返せよ!」 私は地面に叩きつけられ、全身に痛みが走った。 必死に叫ぶ。 「人違いです!今日はずっと病院にいました。車なんて運転していません。それに、車はなくなったあと、盗難届を出しています!」 男は、私が患者着を着ているのに気づき、わずかに手を止めた。 しかし茉莉が、すぐに口を開いた。 「璃子さん、あなたの家が裕福で、顔も利くことは知っています。病院に頼めば、診断書くらいどうにでもなるでしょう。でも、多くの命が失われているんです。どうして認めないんですか」 航も私を指さし、声を荒げる。 「璃子、お前は人を殺しておいて、よく平然としていられるな。前にお前が言っているのを聞いたんだ。免許を取ったら、市街地でスピードを出して、赤信号を無視してみたいって。刺激が欲しいって。どうせ家に金も権力もあるから、何があっても怖くないって。止めたのに、本当にやるなんて」 その言葉をきっかけに、周囲のざわめきが一気に荒くなった。見えなくても、皆の怒りがますます燃え上がっていくのが分かった。 誰かが手に持っていた物を私に投げつける。 「世の中に、どうしてこんな腐った人間がいるんだ。人を殺しておいて、まだ偉そうにするなんて」 「金持ちは、私たち庶民を踏みにじっても、人の命まで軽んじるのか。あんたなんて死ねばいい」 男が私の首をつかみ、怒りに震える声で叫ぶ。 「金と権力があれば、俺たちの命なんてどうでもいいのか。お前にも同じ目に遭わせてやる」 喉が締めつけられ、息ができない。 そのとき、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、警察官の怒声が響いた。 「何をしているんです!すぐ手を離しなさい!」 男は悔しそうに叫ぶ。 「俺は妻と子どもの仇を取りたいだけだ。こいつのせいで家族を失ったのに、どうしてこいつは無事なんだ!」 警察官が男をなだめ、手を離させた。 首の痛みで声がかすれていたが、私は必死に言った。 「警察の方、間違いです。今日は一日中病院にいました。車なんて運転していません!」 警察官は冷たい目で私を見下ろす。 「柳沢璃子さん、あなたが罪を恐れて逃げ、通報もしなかったせいで、妊婦の救助が遅れ、命を落としたことを理解していますか」 私はかすれ声で答える。 「証拠はありますか?私は運転していません。本当に違います」 警察官はため息をつき、隠しきれない嫌悪をにじませた。 「事故を起こした車は、あなたの家のものです。事故当時の防犯カメラやドライブレコーダーには、あなたが運転して人をはね、そのまま逃げる様子が映っています。目撃者も大勢います」 私は呆然とした。 行っていないのに、どうして映像の中の犯人が私に? 「今ここで素直に罪を認めれば、減刑される可能性もあります」 そのとき、少し離れたところから誰かの声がした。 「これは何の騒ぎですか?」 すぐに、別の人が答えた。 「この女が車で人をはね殺して逃げたんだ。今、警察が逮捕しているところだよ」 誰かが私を引っ張った拍子に、目を覆っていた包帯が外れた。