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裏切りの夜を抜けた
入江千代子(いりえ ちよこ)のこれまでの人生において、最も反逆的だった出来事。 それは、浅田辰彦(あさだ たつひこ)の実家が破産した際、...
Chương (1)
第1章
入江千代子(いりえ ちよこ)のこれまでの人生において、最も反逆的だった出来事。
それは、浅田辰彦(あさだ たつひこ)の実家が破産した際、誰もが彼を見放す中、全財産を抱えて彼と駆け落ちしたことだった。
千代子だけは、彼の再起に賭けた。
泥水をすするような三年の生活を経て、辰彦は日雇い作業員から、誰もが平身低頭するビジネス界の寵児へと這い上がった。
そして千代子を、以前にも増してわがままで傲慢な妻へと甘やかした。
どれだけ好き放題に振る舞おうと、辰彦は常に優しい笑みを浮かべて許してくれた。
人々は口を揃えて言った。
千代子はたった三年の苦労で、誰もが羨む理想の愛妻家を手に入れたのだと。
――あの「花屋の女」が現れるまでは。
結婚記念日、その女が浅田家に花束を届けに来たのが気に食わないというだけで、千代子は人を雇って女の店を徹底的に破壊させた。
だが今回ばかりは、辰彦がいつものように低姿勢で機嫌を取りに来ることはなかった。
彼はスマートフォンの電源を切り、姿を消した。
そして自分とあの女の親密な写真がネットのトレンドを埋め尽くすのを、ただ放置した。
ネット中がその話題で持ちきりになり、押し寄せたマスコミの嵐のようなフラッシュが、家の入り口を隙間なく埋め尽くしていた……
第1話
入江千代子(いりえ ちよこ)のこれまでの人生において、最も反逆的だった出来事。
それは、浅田辰彦(あさだ たつひこ)の実家が破産した際、誰もが彼を見放す中、全財産を抱えて彼と駆け落ちしたことだった。
千代子だけは、彼の再起に賭けた。
泥水をすするような三年の生活を経て、辰彦は日雇い作業員から、誰もが平身低頭するビジネス界の寵児へと這い上がった。
そして千代子を、以前にも増してわがままで傲慢な妻へと甘やかした。
どれだけ好き放題に振る舞おうと、辰彦は常に優しい笑みを浮かべて許してくれた。
人々は口を揃えて言った。
千代子はたった三年の苦労で、誰もが羨む理想の愛妻家を手に入れたのだと。
――あの「花屋の女」、安井典子(やすい のりこ)が現れるまでは。
結婚記念日、その女が浅田家に花束を届けに来たのが気に食わないというだけで、千代子は人を雇って女の店を徹底的に破壊させた。
だが今回ばかりは、辰彦がいつものように低姿勢で機嫌を取りに来ることはなかった。
彼はスマートフォンの電源を切り、姿を消した。
そして自分とあの女の親密な写真がネットのトレンドを埋め尽くすのを、ただ放置した。
ネット中がその話題で持ちきりになり、押し寄せたマスコミの嵐のようなフラッシュが、家の入り口を隙間なく埋め尽くしていた……
*
千代子は、群がる人垣をかき分けてようやく抜け出した。
髪も服も乱れたまま、秘書から送られてきた住所へ怒り心頭で向かった。
辰彦を問い詰めてやる腹づもりだった。
だが、ドアを蹴り開けようとした矢先、中から笑い声が漏れ聞こえてきた。
「辰彦さん、早く帰ってなだめたほうがいいんじゃないですか?奥さんが本気で怒って、また世間を騒がせても知りませんよ」
「そうだよな。車をボコボコにしたり、家に火をつけたり……この間なんて、メディアの前で辰彦さんを指差して、安っぽいのがお好みだって毒づいてたしな……」
言い終わる前に、声の主は失言に気づき、ハッとして口をつぐんだ。
グラスがドンと乱暴に置かれる大きな音が、室内の喧噪を一瞬にして凍りつかせた。
男はフッと鼻で笑い、その声には薄い嘲笑が滲んでいた。
「ああ。あの入江のお嬢様より高貴な人間なんて、いるわけがないだろう?
十八の時、親の援助も実家の財産も全部捨てるなんて言って、実の父親をショックで入院するほど激怒させ、浜野から駆け落ち同然で、無一文の俺のボロアパートに転がり込んできたんだよ。
最近、俺が頭痛で参ってるのを見て、典子が気を利かせてリラックス効果のあるラベンダーを贈ってくれただけなのに、あいつはヒステリーを起こして典子を安っぽい女呼ばわりした。
じゃあ、あいつはいったい何なんだ?自分をタダで安売りした女かよ?」
数日前まで優しくなだめてくれていた声が、今は胸をえぐるような冷酷な言葉を放っている。
千代子はその場に足が縫い止められたように立ち尽くした。
室内の空気も一瞬にして張り詰めた。
しばらくして、誰かが愛想笑いを浮かべてとりなした。
「辰彦さんまで怒りに任せてそんなこと言わないでくださいよ……奥さんが一人で北上して、自分の全財産を投げ打って、辰彦さんと二人三脚でゼロから今の地位を築き上げたことなんて、誰だって知ってますって。お二人は東都でも有名なオシドリ夫婦じゃないですか……」
言葉は途中で遮られた。
「怒りに任せて言ってるんじゃない」
辰彦の横顔は薄暗がりに沈み、指先に挟まれた煙草の赤い火だけが、瞳の奥にある冷淡さと疲れを映し出していた。
「俺は本当に、もう疲れたんだ。
あいつが出してくれた二億のせいで、付き合って三年、結婚して四年、丸七年愛し続け、なだめすかしてきた。
喧嘩するたび、どちらが悪かろうと、最後は俺が頭を下げて謝らなきゃならない。
取引先の娘が俺をチラッと見ただけでヤキモチを焼き、俺は莫大な違約金も顧みず、数億の契約をフイにした。
夜中に栗羊羹が食べたいと言い出せば、どしゃ降りの雨の中を車を飛ばして買いに行った。たとえ三日徹夜して一睡もしてなくてもな……」
大きく息を吸い込み、冷たく言い放った。
「俺だって人間だ。疲れるんだよ」
そこで言葉を区切り、目を伏せた。
「……過労で道端に倒れたあの日、俺を病院へ運んでくれたのは典子だった。二日二晩、付きっきりで看病してくれて、疲れが和らぐようにとずっと頭をマッサージしてくれた……
家ではいつも俺が世話をする側だった。だが、典子のそばでは……久しく忘れていた、家庭の温もりと、安らげる時間を取り戻せた気がしたんだ……」
ぽつりともらしたその言葉は、重いハンマーのように千代子の心を打ち砕いた。
そのあとの会話は、もう耳に入ってこなかった。
今年の冬は肌を刺すように冷たい。
ふらふらと家に帰り着いて初めて、手足がとうの昔に凍えて麻痺していることに気がついた。
家の中は照明が落ちていた。
月明かりが差し込む暗がりの中、かつて愛の証だと信じていた品々が部屋を埋め尽くしているのを、ただ静かに見つめた。
ギネス記録を塗り替えた盛大な結婚式の写真、目が眩むほど高価な宝石の指輪、お百度参りして手に入れた縁結びのお守り……
辰彦が事業を立て直して最初にしたことは、かつて千代子に我慢させた分を、何百倍、何千倍にして返すことだった。
贅沢に慣れきった千代子でさえ、やり過ぎだと感じるほどだった。
しかしあの時の辰彦は、愛おしそうに唇にキスをして言った。
「俺と一緒にたくさん苦労してくれたね。君にはどんなに尽くしても、まだ足りないくらいだよ。分かっているだろう?
君を、昔以上にお姫様のように甘やかしたいんだ。ヤキモチを焼いたら文句を言えばいい。わがままを言って当たり散らしてもいい。俺の前では、いつだって好き勝手にしていいんだ。俺がずっと甘やかして、味方でいるからな。分かったかい?」
あの瞬間の甘い温もりを、千代子は今でも覚えている。
だから結婚してからの四年間、ずっと味方でいるという言葉に甘え、愛される女の子たちが皆そうするように、わがままを言い、腹を立ててみせた。
だが、夢にも思わなかった。
四年が経ち……辰彦が疲れたとこぼし、別の女のところで家庭の温もりを感じていたなんて……
あろうことか、あの典子をかばうためにあんな言葉まで口にするとは。
「じゃあ、あいつはいったい何なんだ?自分をタダで安売りした女かよ」
昔、どれほど多くの人にそう陰口を叩かれても、何とも思わなかった。
しかし今、辰彦の口からその言葉を聞かされ、胸を力任せに引き裂かれたような痛みが走った。
長年育んできた深い愛情も、ある日突然腐り落ちてしまう。
ならば、自由にしてあげよう。
喉の奥にこみ上げていた嗚咽を飲み込み、秘書に電話をかけた。その声は、恐ろしいほど静かで淡々としていた。
「離婚届を用意してちょうだい。あとの手続きは任せるわ。それから、飛行機のチケットを一枚……来月、浜野へ戻るから」
第2話
電話を切ると、全身から残りの気力さえも抜け落ちてしまったようだった。
その夜は、一睡もできなかった。
秘書は仕事が早く、翌日には離婚届を用意してくれ、いつものように辰彦の動向を報告し始めた。
「旦那様は、安井様の花屋が荒らされたお詫びとして、繁華街の一等地にある店舗を契約されました。
さらに、安井様のご家族を湾岸の高級タワーマンションへ移し、生活費として六千万円をお渡しになったそうです」
秘書は千代子の顔色を窺い、ためらいがちに言葉を継いだ。
「ここ数日のネットの炎上ですが……どうしても火消しができません。メディアがこぞって書き立てておりまして……
旦那様は、その安井様に対し、どうやら特別な感情を抱いているのではないかと」
震える指先から力が抜け、ペン先が離婚届の上に無残なインクの染みを作った。
……もみ消せない?
以前、ある新聞社が根も葉もない噂から自分の醜聞を報じた時は、トレンド入りしてわずか三分で削除された。
その新聞社の社長もろとも、容赦なく法的責任を追及され、会社ごと潰されたのだ。
それなのに今は、自分の名前が悪妻という言葉とともに三日三晩ネット上に晒され、叩かれ続けているにもかかわらず、何の対応もとられていない。
誰がそれを黙認しているのかなんて、痛いほど分かっていた。
空気が急激に重みを増し、息苦しさが胸を圧迫する。
「分かったわ」
爪が手のひらに深く食い込む。血が滲むような痛みを堪えながらも、必死に平静を装った。
「これからは……そういう報告はしなくていい」
秘書はハッとして、頷いた。
室内に再び静寂が戻った。
千代子は一人、長いこと椅子に腰掛けていたが、やがて立ち上がり、報告にあった新装開店の花屋へと向かった。
今日が、まさにその開店日だった。
店先には色鮮やかな花々が飾られ、客足が絶えない。
かつて自分が滅茶苦茶にした古ぼけた小さな店に比べ、規模も大きく、内装も洗練されている。
人垣の隙間から、一目で辰彦の姿を捉えた。
電話の電源を切って無視を決め込んでいた男が、今は典子の隣で底抜けに優しい顔をして立ち、耳元にかかったおくれ毛を愛おしそうにかき上げてやっている。
典子の瞳には甘い慕情が溢れていた。
辰彦にすがりつこうとした瞬間、歩み寄る千代子の姿を目ざとく見つけた。
だが、その目には微塵も後ろめたさはなく、むしろひどく物分かりの良さそうな様子で、隣の男の服の裾を引いた。
「辰彦さん、千代子さんがいらっしゃったわ。早く一緒に帰ってあげて。ここは私一人で大丈夫だから」
そう言って、背後からみずみずしい真紅のバラの花束を取り出し、千代子に差し出した。
「千代子さん、この前は私の配慮が足りず、あなたにもお花を贈るのを忘れていたせいで、誤解を招いてしまいました。
今回は特別に見繕って包ませていただきました。これ以上、辰彦さんに腹を立てないであげてくださいね」
その瞳は清らかで優しげでありながら、どん底から這い上がってきたような芯の強さを帯びていた。
まさにその態度が、千代子をどこまでも理不尽な悪女に仕立て上げていた。
千代子は冷ややかな視線を落とすと、容赦なく花束を傍らのゴミ箱に放り捨てた。
「悪いけれど、こんな安物の花は好きじゃないの」
言い終わらないうちに、手首を乱暴に掴まれた。
辰彦は声を押し殺し、隠しきれない疲労を滲ませた口調で言った。
「今日は典子にとって大切な日なんだ。いい加減にしてくれないか」
胸の奥に広がる苦いものを押し殺し、千代子は無理に笑みを作って、手にしていた紙を辰彦の目の前に突きつけた。
「いいわよ。これにサインしてくれたら、すぐに出て行くわ」
辰彦は突きつけられた紙に目を落とし、眉をひそめた。
「また何を企んでいるんだ?」
「別に」
千代子は少し間を置いた。
「喧嘩するたび、いつもプレゼントを買って機嫌をとってくれたわよね?
今回は、これが欲しいの。サインしてくれたら、もう騒がないわ」
その声があまりにも静かだったためか、辰彦の目に一瞬、驚きが走った。
だが、彼が口を開く前に、店外からどっと喧噪が巻き起こった。
どこで情報を嗅ぎつけたのか、記者たちが大挙して押し寄せ、店の入り口をすっかり塞いでしまった。
典子は人波に揉まれ、困惑の表情を浮かべている。
辰彦の意識は一瞬にしてそちらへ向いた。
紙の中身も確かめず、適当にサインを書き殴って千代子の胸元へ押し返すと、大股で外へ飛び出し、典子をかばうように抱き寄せて声を荒らげた。
「警備員!」
典子を守るのに必死で、千代子もまた記者たちに取り囲まれていることには、微塵も気づいていなかった。
フラッシュの光で目が眩む。
混乱の中、誰かに突き飛ばされ、千代子は無様に地面に倒れ込んだ。
背中に激痛が走り、思わず声が漏れた。
「辰彦……」
次の瞬間、その叫びは人々のざわめきに掻き消された。
辰彦が典子を大切そうに車に乗せ、一度も振り返ることなくドアを閉めるのが見えたからだ。
車はエンジンを激しく唸らせて、猛スピードで走り去った。
一瞬の躊躇いもなかった。
第3話
辰彦は千代子を見捨てた。
四年前の結婚の時、あんなに固く真摯に誓ってくれたのに。
「千代子、俺がいる限り、君には決して悲しい思いはさせないよ。
俺にとって、君はいつだって一番なんだ」
だがたった四年で、その誓いは破られた。
胸の奥からこみ上げてくる惨めさ。
千代子は歯を食いしばり、背中の焼けるような痛みに耐えて立ち上がると、フラッシュと容赦ない質問を浴びながら、逃げるようにその場を後にした。
帰宅した途端、こらえていた涙があふれ出した。
暗闇の中でどれくらい座り込んでいただろうか。やがて、玄関のドアが開く音がした。
ソファでうずくまっている千代子の姿を見つけ、続いて服の背中に血が滲んでいるのに気づいた辰彦は、顔をしかめた。
「背中をどうしたんだ?」
慌てて駆け寄り、使用人に向かって声を荒らげた。
「これほどの怪我だぞ!なぜすぐに知らせない?早く救急箱を持ってこい」
そう怒鳴ってから、今度は心配そうに千代子を見つめた。
「あの時、外で転んだのか?なぜ俺を呼ばなかったんだ……」
「呼んだわよ。聞こえなかったの?」
千代子の声は静かだった。
辰彦は言葉に詰まり、後ろめたさと動揺で目を泳がせた。
「すまない。あの時は人が多すぎて、聞こえなかったのかもしれない……」
こめかみを揉み、声のトーンを落とした。
「今日の記事はすべてもみ消しておく……今回の喧嘩は、これでおしまいにしよう。
明日、奥村のおじさんが一緒に食事でもと誘ってきた。おそらく契約更新の件だろう。君に似合いそうなドレスをいくつか見繕っておいたから、後で選んでみてくれないか?」
彼が軽く手で合図すると、背後に控えていた使用人が、高級ドレスの収まった箱をいくつも運び入れてきた。
千代子はそれをじっと見つめていたが、今回は何も言い返さず、ただ静かに頷いた。
「分かったわ」
奥村和男(おくむら かずお)は千代子の両親の旧友であり、ここ数年、何かと気にかけてくれていた。
千代子自身も、和男に話しておきたいことがあった。
食事の場所は、五つ星ホテルの個室だった。
席上は和やかな笑いに包まれ、辰彦は時折千代子の皿に料理を取り分け、温かいお茶を注いでやる。
端から見れば、誰もが羨む良き夫だ。
ところが食事の最中、その平穏はけたたましい着信音によってぶち壊された。
辰彦が電話に出る。
相手が何と言ったのかは分からないが、顔色をサッと変え、失礼とだけ言い残して足早に席を立った。
千代子はその後ろ姿には目もくれず、箸を置いて向かいに座る和男に目を向けた。
「おじ様、来月でアサダ建設との契約が切れますが、もう更新していただかなくて結構です。
辰彦とは離婚することにしました。来月には……浜野へ戻ります」
個室は水を打ったように静まり返った。
しばらくの沈黙の後、和男は気遣わしげに尋ねた。
「本当に、いいんだね?」
千代子が頷くのを見ると、長いため息をつき、隠しきれない安堵の色を目に浮かべた。
「千代子ちゃん、ようやく目が覚めたんだね!
昔、あの巨大プロジェクトを彼に任せたのは、君が苦労するのを見ていられなくて、一肌脱いだだけなんだ。でなければ、当時の彼の立場で、たった三年で今の地位に登り詰められるはずがない。
浜野へ帰ると知ったら、ご両親もきっと喜ぶだろう」
父親である入江東輔(いりえ とうすけ)のことを思い出し、千代子は思わず目頭が熱くなった。
駆け落ちしたあの日、東輔は怒りで血圧が上がって倒れ、病院に運ばれた。
それ以来、今日に至るまで絶縁状態が続いている。
今回戻ったら、父親にきちんと頭を下げて詫びよう。
和男は用事があると言って先に席を立った。
千代子が見送りに出ようと部屋を出た矢先、ホテルのマネージャーが血相を変えて駆け寄ってきた。千代子の姿を見るなり、地獄で仏にでも会ったかのように、すがるような声で訴えた。
「奥様、大変です!浅田社長が他のお客様と大立ち回りを起こされ、誰も止められないのです。早く来てください!」
千代子はハッとして、慌てて後を追った。
一階へ降りると、すでに黒山の人だかりができていた。人々の視線の先を追うと、ロビーの中央に辰彦の姿があった。
パリッとしたスーツ姿とは裏腹に、その動きは荒々しく容赦なかった。見知らぬ男を壁に押さえつけ、何度も拳を叩き込んでいる!
辰彦がこれまでの人生で唯一暴力を振るったのは、四年前の会食で千代子が酒を強要され、体を触られそうになった時だけだ。
しかもあの時でさえ、警告代わりに数発殴った程度だった。
今回は、相手を殺しかねないほどの狂気だった。
千代子は止めようと駆け寄り、その腕を掴んだ。
「辰彦、やめて!殺す気?」
次の瞬間、すがりついた手は乱暴に振り払われた。
力が強すぎたせいでよろめき、背中を激しく壁に打ち付けた。昨日の擦り傷が焼けつくように痛み、一瞬目の前が真っ暗になった。
しかし体勢を立て直す間もなく、細身の影が彼女の横を通り抜け、激昂する男の腕にすがりついて震える声で哀願した。
「辰彦さん、もう十分よ……!軽く触れられただけだから。私のために怒ってくれてありがとう、もうやめて!」
第4話
典子の声は震え、瞳にはすでに涙が滲んでいた。
辰彦はハッと我に返ったように手を放し、振り返って典子を抱き寄せると、その涙を指先で拭った。
「もう大丈夫だ。怖がらなくていい」
千代子はよろめきながら体勢を立て直した。
目の前で睦み合う二人の姿。それはまるで、まともに平手打ちを食らったかのような屈辱と惨めさを、千代子の心に刻みつけた。
ちょうどその時、秘書が足早に駆け寄り、辰彦に告げた。
「社長、お調べしました。安井様にこの場所へ花を届けるよう手配したのは……奥様でした」
ほぼ同時に、辰彦の瞳に抑えきれない驚愕と怒りの炎が燃え上がった。
一歩踏み出し、千代子の手首をきつく掴んで、苦渋に満ちた声を絞り出した。
「どうしてこんな真似ができるんだ!
君自身、四年前の会食の席であいつに乱暴されそうになっただろう。それなのに、典子に花を届けさせるなんて。
あんな危険な場所に行かせるなんて、あいつらに襲ってくださいと言っているようなものじゃないか!
もし俺の到着が遅れていたら、典子がどうなっていたか分かっているのか?典子に謝れ!」
手首に確かな痛みが走る。
千代子は突然の詰問に頭が真っ白になったが、すぐに我に返り、辰彦の手を乱暴に振り払った。
「花を届けさせるなんて、何も知らないわ!どうして謝らなきゃいけないの!」
辰彦はこれまで千代子を腫れ物に触るように大切に扱い、きつい言葉一つ投げかけたことなどなかった。
だが今、無実の罪を着せて、大勢の面前で怒鳴りつけている。
千代子は目を真っ赤にして、胸を締め付ける悔しさを隠すように声を張り上げた。
「あの女に何かするつもりなら、こんなこそこそした真似はしないわ!言いがかりはやめて、花を注文した人間をここに連れてきなさいよ!」
空気は張り詰め、周囲の誰もが息を呑んだ。
その静寂を破ったのは、典子が慌てて床に膝をつく音だった。
顔は涙に塗れ、すがるような口調で哀願した。
「千代子さん、ごめんなさい……私が注文書をよく確認しなかったのが悪いんです。千代子さんのせいではありませんから、謝らないでください。ただ、これ以上辰彦さんと喧嘩しないで……
辰彦さんの手に怪我をさせてしまったわ。まずは病院へ連れて行かせて……」
辰彦がまとっていた険しい怒気は、その一言ですっと解かれた。
典子を助け起こし、その目には深い痛ましさと、そして微かな……安堵の色を浮かべた。
「こんな時だというのに、まだ俺のことばかり考えるんだ」
深いため息をつき、果てしない倦怠感を瞳に漂わせて千代子に向き直った。
「千代子、確かに君は悪くない。
俺が、君をここまで傲慢でわがままに甘やかしてしまったのはいけないんだ。
口で謝るのが嫌なら、典子に土下座して詫びろ。そうすれば、今日のことは水に流そう」
その瞬間、耳元で雷鳴が轟いたような気がした。
千代子は信じられない思いで、かすれ声を漏らした。
「……私に、あの女へ土下座して謝れと言うの?」
入江家のお嬢様である彼女に、他人が跪くことはあっても、誰かに跪く日など来るはずがなかった。
身を翻して立ち去ろうとしたが、辰彦の連れてきた黒服たちに取り押さえられ、無理やり床に跪かされた。
その弾みで背中の傷が引きつり、苦痛のうめき声が漏れた。
だが辰彦は意に介する様子もなく、淡々と命じた。
「千代子を押さえつけて、典子に土下座させろ。手加減してやれよ、千代子は痛みに弱いんだ」
千代子は彼を見上げ、声を震わせた。
「辰彦!やっていないと言ったらやっていないのよ!本気であの女のために、私にこんな屈辱を味わわせるつもり?」
しかし辰彦は顔を背けた。
千代子が黒服たちに力ずくで頭を抑え込まれ、床に額を擦りつけられるのを、ただ黙って見過ごした。
額に伝わる床の冷たさは、肉体的な痛みなど比べものにならないほどの屈辱として、千代子のプライドを根元から粉々に打ち砕いていく。
典子の口元に浮かんだ冷笑が、さらに千代子の心を鋭く抉った。
土下座が終わると、辰彦は全身を震わせる彼女を床から助け起こし、その目尻の涙を指先で拭った。
「典子は危うく乱暴されるところだったんだ。君に謝らせただけなのに、どうして泣くんだ?」
千代子は彼の手を振り払い、一度も振り返らずに背を向けた。
取り巻く人々の視線が肌を焼き尽くしそうだった。
家に帰り着いてようやく、まともに息を吐くことができた。
その時、見知らぬ番号からメッセージが数件届いた。
文面は穏やかだが、そこには隠しきれない憐れみと挑発が滲んでいた。
【千代子さん、浅田夫人があんな姿を晒すなんて、本当にお可哀想です】
【男性が求めているのは、いつでも好き勝手に振る舞い、機嫌をとらなければならないお姫様ではありません。温もりを与え、安心できる心の拠り所なのです】
【あなたと辰彦さんは、本当に似合いませんね】
続いて送られてきた写真には、典子が身を屈め、辰彦の傷ついた手に薬を塗っている姿が写っていた。
注がれる男の眼差しは深く優しく、そこには微かな……自分が帰るべき場所を見つけたような安堵さえ漂っていた。
それは、千代子の傍では決して見せたことのない表情だった。
胸が張り裂けそうで、頭の中が真っ白になった。まるで全身の血の気が引いていくように、指先まで冷え切っていく。
普段なら、容赦なく言い返していたはずだ。
しかし今はただ、沈黙のまま相手をブロックした。
それから、家の中の荷物をまとめ始めた。
荷物を箱に詰めて、送り出す。
かつて温かかった家が、少しずつ空っぽになっていく。
あんなに気に入っていた結婚式の記念写真でさえ、壁から外して叩き割り、ゴミ箱へ捨てた。
辰彦への想いは消え失せ、心は静かに冷え切っていった。
数日後、秘書が血相を変えて飛び込んでくるまでは。
第5話
秘書が声を震わせた。
「ここ数日の帳簿を確認いたしましたところ、お嬢様名義の口座に異常が見つかりました……
おじい様が遺されたあのご遺産から、先日、多額の資金が引き出され、安井様の口座へ送金されています……お手続きを行われたのは、旦那様です。
急ぎ追跡いたしましたが、すでにその大半が使い果たされております。こちらがその明細です……」
頭を強く殴られたような衝撃が走り、千代子はしばらく茫然自失となった。
それは祖父が生前に遺してくれた、最後の贈り物だった。
孫娘が苦労せぬよう案じ、これからの生活に困らないよう、特別に用意してくれたものだった。
辰彦が、よりにもよってその金に手を付けるなどと……!
明細をひったくるように奪い、目を皿のようにしてその記述を追った。呼吸は荒くなり、両手の震えが止まらない。
明細には、生々しい記録が克明に刻まれていた。
典子はその金で両親に家を何軒も買い与え、海外旅行へと送り出し、さらに……避妊具までいくつも購入していた。
購入日時は、一週間前。
まさに千代子が無理やり土下座を強いられた、あの夜だった。
二人が何に耽っていたかは、火を見るより明らかだった。
自分が屈辱にまみれ、一睡もできなかったあの夜、辰彦は祖父の遺した金をあの女に貢ぎ、ベッドで肌を重ねていたというのか。
激しい吐き気が千代子を襲った。
トイレへ駆け込み、胃の中が空っぽになるまで何度も激しく吐き戻した。
秘書が悲鳴を上げ、慌てて医者を呼ぼうとしたが、千代子がそれを手で制した。
「いいから……」
荒い呼吸を整えようとするその声には、冷酷な響きが混じっていた。「弁護士に連絡して訴状を準備して。あの金、一円たりとも残さず、すべて取り返すわ!」
祖父が遺してくれた金が、典子のような女に少しでも汚されるなど、絶対に許さない。
秘書は深く頷き、すぐさま手配に動き出した。
千代子は目を固く閉じ、胸に渦巻く激しい感情をどうにか押さえ込んだ。
再び目を開いた時、その瞳にはすっかり冷徹な光が戻っていた。
あと数日で浜野へ帰る。今はまさに一番忙しい時期だ。
自分の計画を、こんな薄汚い連中のために狂わせるわけにはいかない。
翌日、千代子は車を駆って近くの高級デパートへと向かった。両親のためにオーダーメイドしておいた贈り物を受け取るためだ。
高級ブランド店の店員が愛想よく出迎えてくれた。
要望通りに仕上がった精巧な品々を目にして、わずかに心の憂鬱が晴れた。
会計を済ませようとした矢先、辰彦から着信があった。
受話器から聞こえる声は怒気をはらんでおり、もはやかつての穏やかな響きは微塵もなかった。
「典子を訴えて、さらに法外な賠償金まで要求しただと!?
弁護士が典子の店に突然やってきて、裁判所の通知書を貼り付けていったせいで営業どころじゃない!
おまけに、両親に買った家まで不正資金の回収を理由に差し押さえの手続きが進められてるんだぞ!
今、典子は行方不明だ。お前は一体何を企んでいるんだ!」
彼の詰問に対し、千代子の対応は異様なほど落ち着き払っており、その声にはむしろ微かな悦びすら滲んでいた。
「自分の金を取り戻して何が悪いっていうの?お爺様が遺してくれた金をあの女に汚されて、吐き気がしてるのはこっちの方よ!」
「本当に話が通じないな」
辰彦の声が冷たくなる。
「あの日、典子はお前のせいで精神的に深く傷ついたんだ。だから俺は、慰謝料としてまとまった額を渡してやったというのに」
「慰謝料?」
千代子は鼻で笑い、爪を手のひらに深く食い込ませた。
「私の金で浮気相手に慰謝料を払う権利が、あんたにあるとでも?辰彦、あんたなんかを選んだ私の目が曇っていたのよ!
私の二億がなかったら、あんたは今頃道端で野垂れ死にしていたところよ!あの安っぽい花売りの女がお似合いね!
離婚よ!あんたたち最低のクズ同士、一生くっついてればいいわ!」
その言葉に、電話の向こうが水を打ったように静まり返った。
辰彦は息を詰まらせた。
「……離婚を盾にして俺を脅すつもりか?」
しばらくして、彼は怒りを通り越したのか、フッと鼻で笑った。
「いいだろう。千代子、今回はいくらなんでも度が過ぎた。俺もこれ以上、情けはかけないからな」
そう言い残して、電話は一方的に切られた。
数分後、店員がカードを手に、困惑した面持ちで千代子に声をかけた。
「申し訳ございません、浅田様。こちらのカードはすべて利用停止となっており、ご利用いただけないようです。
お会計は四百八十万円でございますが、いかがなさいますか?」
……カードが止められた?
誰の仕業か即座に悟り、千代子は歯を食いしばって辰彦に電話をかけた。
だが、一回、二回、三回……合計十九回かけても、一度も応答はなかった。
延々と続く呼び出し音の中、店員の表情から少しずつ愛想が消えていく。
最後の通話が切れた後、店員は気まずそうに口を開いた。
「浅田様、こちらのオーダーメイド商品はすでに完成しておりますため、契約上キャンセルや返品はお受けいたしかねます。もし本日のお支払いが難しいようでしたら、ご家族の方にご連絡をいただけませんでしょうか」
第6話
辰彦が差し向けた黒服の男たちがデパートに現れて残金を清算すると、千代子は人けのない古い別邸へと連行された。
黒服の男によれば、主人はここで頭を冷やしてしっかり反省しろと命じたらしい。
千代子は道中、必死に抵抗し訴え続けたが、傍らの男は冷たく言い放った。
「奥様、私どもは旦那様のご意思で動いております。
旦那様はこう仰せです。『今の暮らしはすべて俺が与えたものだ。離婚したいと喚くのなら、俺から離れたお前がどうなるか、思い知らせてやる』と――」
頭から氷水を浴びせられたように、千代子の反抗心は急速に冷え込んでいった。
辰彦は、自分が先ほど直面した窮地を知っていながら、すべてを静観していたのだ。
……あの女から自分の金を取り戻そうとしただけで、すべてのカードを止め、こんな真似まで?
経験したことのない絶望が波のように押し寄せ、千代子を飲み込んだ。
手足は鉛のように重く、指先すらわずかに動かすこともできない。
この古ぼけた家で、地獄のように陰鬱な三日間を過ごすことになった。
大切に育てられた令嬢が、長く放置されていた薄暗く湿った埃まみれの部屋に閉じ込められた。
見張りの男たちからは冷たい目を向けられ、嘲笑され、乱暴に突き飛ばされた。
まともな食事など一度も用意されず、床に投げ捨てられたカチカチに乾いたおにぎりがいくつかあるだけだった。
三日後、ようやく男たちによって部屋から出された。
これで終わりかと思ったのも束の間、古い家の門を出た途端に再び車へと押し込まれ、一時間後にはバラ畑へと放り出されていた。
目の前に立つ、三日間自分を監視していたあの黒服の顔を見て、ついに千代子の感情が爆発した。
「辰彦は一体何がしたいの!?あの部屋に三日間も監禁しただけでは気が済まないの?」
全身が震え、涙で視界が滲む。
だが黒服の声には、微塵の感情もこもっていなかった。
「奥様。旦那様はこう仰っています。『典子の花屋を台無しにしたのはこれで二度目だ。だから、典子へのお詫びとして、自身の手で九百九十九本のバラを摘み取れ』と」
……一人に、九百九十九本も?
目の前の黒服をきつく睨みつけた。
「もし、断ったら?」
黒服は予想していたかのように、冷ややかな声で答えた。
「ならば、先ほどの部屋にお戻りいただき、反省を続けていただきます。すべて摘み終えるまで、解放はいたしません」
千代子は目の前に広がる果てしないバラの海をじっと見つめたが、その視線の焦点はどこにも合っていなかった。
この花畑は、四年前の結婚の時に、辰彦が手ずから植えてくれたものだ。一株数万円もする代物だった。
あの時の辰彦は目を細めて笑い、千代子をきつく抱きしめてくれた。
「千代子、ここにある花の一つ一つが、君への愛の証なんだ」
だが今、彼は千代子自身の手でそのバラを引き抜かせ、あの浮気相手への謝罪の品にしようとしている。
心が一度粉々に砕け散り、無理やり繋ぎ合わされたかのような錯覚を覚えた。
だがその後には、ただ空っぽの虚無感だけが残っていた。
愛も、憎しみも、もう何もない。
ただ這うようにして立ち上がり、淡々と呟いた。
「……ええ、分かったわ」
バラの棘は鋭く尖っているというのに、小さなハサミ一つ与えられていない。
素手で折り、引き抜くしかなかった。
時間の感覚が薄れていく中、手のひらだけが少しずつ血に染まっていった。
早朝から夕暮れまで、千代子はこの拷問のような作業をただ黙々と続けた。
手のひらの痛みはとうに麻痺し、ついに全身の力が抜け落ちた。
目の前が真っ暗になり、そのまま糸が切れたように気を失った。
再び目を覚ました時、そこは病院のベッドの上だった。
まぶたが重くて開けられない。
二度ほど咳き込むと、誰かの手がそっと額に触れた。
しばらくして、男が安堵したように息をつく音が聞こえた。
「ようやく熱が下がったな……もう大丈夫だ」
辰彦は包帯を巻かれた千代子の手をそっと握り、少し掠れた声で言った。
「たった数日、少しばかり花を摘ませただけで、こんな姿になってしまうなんて……
もう騒ぐのはやめにしよう。いいな?」
彼は俯き、手の甲に自分の額を押し当てた。
「典子が君の立場を脅かすことはない。千代子は正妻だ。だからこそ、典子に引け目があって、つい庇ってしまうんだ。君も……」
どうか大目に見てくれないか。
だが彼が言葉を言い終える前に、千代子はその言葉を遮った。
「分かったわ」
千代子は淡々と答え、そっと手を引き抜いた。
そしてもう一度、静かに繰り返した。
「これからは、もう騒がないわ」
目を伏せた。
いつもは勝ち気で華やかなその顔には、今は蒼白な中にもどこか大人しく従順な影が落ちていた。
辰彦の胸にふと一抹の不安がよぎった。
だが深く考える間もなく、秘書からの着信が彼の思考を断ち切った。
電話越しの声は途切れ途切れで、傍らにいる千代子の耳にははっきりと聞き取れなかった。
ただ「安井様がみつかりました……」という言葉の端々だけが微かに漏れ聞こえ、辰彦の顔がパッと明るくなった。
電話を切って、彼はようやく傍らの千代子の存在を思い出した。
「少し急用ができた。戻ってきたら、埋め合わせにプレゼントを買ってくるから。大人しく待っているんだぞ」
そう言い残し、そそくさと病室を立ち去った。
ほぼ同時に、千代子のスマートフォンに秘書から電話が入った。
「お嬢様、離婚届の提出と受理が完了いたしました。すぐに受理証明書をお持ちします」
「必要ないわ」
千代子は静かに言った。
「捨ててちょうだい。今はもう……あの人に関わるものは何も見たくないの。車を手配して。空港へ向かうわ」
*
一時間後、彼女は空港の搭乗口に立っていた。
飛行機の搭乗アナウンスと、辰彦からの着信を知らせるバイブレーションが、ほぼ同時に鳴り響いた。
だが千代子はその画面の名前を数秒間静かに見つめた後、ためらいなく着信を切り、スマートフォンの電源を落とした。
その端末を、傍らに控える秘書へと無造作に差し出した。
「これ、処分してちょうだい。もう必要ないわ」
そして、大股で搭乗ゲートをくぐり抜けた。
これから先、辰彦と二度と会うことはない。