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他の女が最優先の彼、婚約破棄で全て失った
私・清水知花(しみず ちか)の両親が、結婚相手である長谷川拓真(はせがわ たくま)の家族と婚約式についての打ち合わせをする日、拓真の家族...
Chương (1)
第1章
私・清水知花(しみず ちか)の両親が、結婚相手である長谷川拓真(はせがわ たくま)の家族と婚約式についての打ち合わせをする日、拓真の家族は約束の時間に遅れた。
電話を何度かけ直しても繋がらず、母は無理に笑顔を作って私を慰めた。
「道が混んでいるのかもしれないわ。きっと大丈夫だから、もう少し待とう」
そうして待ち続けて、気づけば3時間が経っていた。
両親の表情は、期待に満ちた笑顔から、次第に悲しげなものへと変わっていった。
父は、着慣れない窮屈なスーツの襟元を何度も直していたが、ついに耐えきれなくなった。目を赤くし、震える声で私に尋ねた。
「知花……どうしても、あの男じゃなきゃダメなのか?
君たちの邪魔をしたいわけじゃないんだ。ただ、ここは実家からあまりにも遠すぎるから心配で。
これから知花が悲しい思いをしても、俺たちは……すぐに駆けつけて慰めてやれないんだ」
私は手を強く握りしめ、なんとか笑顔を作って両親に言った。
「お父さん、お母さん、帰ろう。もうこの結婚はいいの!」
第1話
私・清水知花(しみず ちか)の両親が、結婚相手である長谷川拓真(はせがわ たくま)の家族と婚約式についての打ち合わせをする日、拓真の家族は約束の時間に遅れた。
電話を何度かけ直しても繋がらず、母は無理に笑顔を作って私を慰めた。
「道が混んでいるのかもしれないわ。きっと大丈夫だから、もう少し待とう」
そうして待ち続けて、気づけば3時間が経っていた。
両親の表情は、期待に満ちた笑顔から、次第に悲しげなものへと変わっていった。
父は、着慣れない窮屈なスーツの襟元を何度も直していたが、ついに耐えきれなくなった。目を赤くし、震える声で私に尋ねた。
「知花……どうしても、あの男じゃなきゃダメなのか?
君たちの邪魔をしたいわけじゃないんだ。ただ、ここは実家からあまりにも遠すぎるから心配で。
これから知花が悲しい思いをしても、俺たちは……すぐに駆けつけて慰めてやれないんだ」
私は手を強く握りしめ、なんとか笑顔を作って両親に言った。
「お父さん、お母さん、帰ろう。もうこの結婚はいいの!」
ひとまず両親を自分の家に連れて帰り、ひと息ついた頃、ようやく拓真から電話がかかってきた。
通話を繋げると、彼はうんざりした口調で、私を問いただした。
「俺たちは店に着いたぞ。なんで個室に誰もいないんだ?
結婚という大事な話をする日なのに、君の両親はいい加減すぎるんじゃないか?遅れるなんて」
私は一呼吸置き、感情を押し殺した声で答えた。
「拓真、私とお父さんお母さんは、3時間も待っていたのよ。来なかったのはそっちでしょ?
いい加減なのは私たちではないわ。今日の約束を軽んじているのは、あなたたちのほうよ」
拓真はしばらく言葉に詰まったあと、口調を和らげて言った。
「日和が大学院に合格してさ。彼女の両親が田舎からお祝いに来たんだ。
夫婦とも東都は初めてだし、日和は一人じゃ手が回らない。それで俺が駅まで迎えに行ってあげたんだよ。
ほら、うちの家族は13年も日和を支援してきただろ。もう妹同然だし、彼女の両親が来たら放っておけないよ」
めずらしく拓真が説明してくれたが、それを聞けば聞くほど、胸が締め付けられるように苦しかった。
昨日、私の親がこちらに来たとき、私は重要な会議に参加していて、どうしても抜け出せなかった。
仕方なく拓真に電話して、迎えに行ってほしいと頼み込んだのだ。
その時、彼はなんて言った?
「いい歳した大人だろ。子供じゃないんだから、タクシーでも使って来てもらえばいいじゃないか?迷子にでもなるのかよ」
私は必死に説明した。
「両親は遠出なんてほとんどしたことがないし、スマホの予約アプリも使いこなせないの。新幹線の切符も私が用意したくらいなんだから。
駅なら私たちの家の近くじゃない?車でちょっと迎えに行ってくれるだけで……」
私が言い切る前に、彼はイライラした様子で話を遮った。
「こっちだって仕事でくたくたなんだよ。退勤したのに君にこき使われるのは御免だ。
自分の親の面倒は自分で見ろよ。俺は知らないからな」
私の返事を待たずに、そこで通話がプツンと切れた。
結局、私は別の友達に連絡した。その子は嫌な顔ひとつせず、すぐに車を出して両親を迎えてくれた。
これから夫になるはずの男が、ただの友達よりもあてにならないなんて。
そう思うと、あまりにも馬鹿馬鹿しくて、思わず乾いた笑いが漏れた。
電話の向こうで、拓真が安心したように口を開いた。
「笑ったならよし。じゃあ、今の話は水に流すぞ。
知花、次からはこんな幼稚な行動はやめてくれよ。うちとは家柄も違うし、親が俺たちの結婚にあまり乗り気じゃないのも知ってるだろ。
また別の日に打ち合わせをしよう。その時はうちの両親に軽く謝ってから、また話を進めよう」
約束を破ったのはそっちなのに、そんな身勝手なことを平然と言えるなんて。
私はスマホをぎゅっと握りしめて答えた。
「もう結構よ。両親は、すぐに実家へ帰るから」
拓真は少し考えてから、特に気にする様子もなく言った。
「それもいいな。どうせ式は全部うちの両親の意向で進めるし、君の親じゃたいした意見も出せないだろうから」
そのとき、電話の向こうから小野日和(おの ひより)の甘ったるい声が聞こえてきた。
「拓真さん、お父さんたちがお料理を選び終わったよ!奢ってくれてありがとうね。早く中に入って一緒に食べよう」
そうして電話は、いつものように一方的に切られた。
リビングから、母がおずおずと近づいてきて私の手を握った。その顔はとても優しかった。
「知花、私たちのことは気にしなくていいのよ。私たちのために意地を張ることはないわ。
拓真さんがあなたを大事にしてくれるならそれでいい。式が終わったら私たちはすぐ帰るから、迷惑はかけないわ」
鼻の奥がツンとした。私は母に向き直り、その手を握り返した。
「お母さん、会社が実家の方に新しく支社を出すことになったの。もうそっちへの異動を願い出たよ。
3日後、一緒に実家へ帰るよ」
母はそう聞くと、パッと声を弾ませた。
「本当に?」
私は笑顔でうなずいた。
「本当だよ、嘘じゃない」
両親は急いで荷物を片付け始めた。私の結婚祝いにと、たくさん持ってきてくれた品々だ。
それを今、包みも解かずにそのまま持って帰る準備をしている。
拓真が家へ帰ってきたのは、日付が変わった後だった。
ベッドでうとうとしていると、誰かが後ろから私を抱きしめてきた。
「知花、どうして今夜は俺を待たずに寝ちゃったの?」
第2話
私は寝返りを打ち、彼の手を避けた。
「てっきり、今夜は一晩中、日和さんのそばにいるものだと思っていたわ。
なんといっても、彼女はまだ学生なんだし。あなたがいなきゃダメなんでしょ?」
パッと寝室の電気がついて、眩しさに思わず目を細めた。
拓真はベッドから起き上がると、苛立ちを隠さない声で言った。
「知花、どうしてそんな言い方をするんだ?
何度も説明しただろ。俺は日和をただの妹だと思っているし、やましいことは何もない」
私は何も言わず、スマホを取り出して、日和のインスタを見せた。
そこには、本来私が予約していた個室で、拓真の家族と日和の家族が親しそうに写っていた。
写真の中で、拓真は日和と一緒にメニューを眺めていた。日和はそんな拓真の頬に、嬉しそうに手を添えていた。
二人の距離は、異様なほど近かった。
【両家の顔合わせ。ずっと私を支えてくれた人が、これからは私の夫になります!】
私はスマホを掲げたまま、彼を見つめた。
「本当に頭がいいわね。私が1週間もかけて選んだお店と個室が、そのままあっさりとあなたたちの婚約の場所になるなんて」
拓真は顔色を少し変えて、眉をひそめて言った。
「こんなものを載せているなんて知らなかったんだ。今すぐ電話して消させるから。
それに日和は、俺たちの結婚話を聞いて、面白がって適当に投稿しただけだろう。
子供のしたことだし、大して意味はないよ。君は年上だから、もう少し大目に見なさい」
私は鼻で笑った。
「23歳にもなる子供ね。いっそのこと赤ちゃんって呼んだらどう?」
拓真はイライラした様子で口を開いた。
「もうすぐ結婚するんだ。俺は喧嘩をしたくないんだよ。
今夜は書斎で寝る。君が頭を冷やして、わがままを言わなくなったら戻ってくる」
寝室のドアが大きな音を立てて閉まり、その音で両親が目を覚ましてしまった。
慌ててリビングに出てきた二人は、何があったのかと私に尋ねた。
私は首を横に振り、たいしたことないからとなだめて、二人を休ませた。
翌朝、私が早く起きると、リビングでは両親がすでに朝食を作って待っていた。
テーブルには、両親が実家からわざわざ持ってきてくれた手作りの漬物が並んでいた。私が子どものころから大好きな味なのだ。
書斎から出てきた拓真は、冴えない顔をしていた。
両親は少し気まずそうにしつつも、笑顔で彼を食事に誘った。
しかし、彼は話しかけられた瞬間に眉をひそめた。
「なんで二人がここにいるんですか?」
テーブルの漬物を一瞥すると、露骨に嫌そうな顔をして鼻をつまんだ。
「それに、なんだ、その変な食べ物は。部屋中が臭くてたまらない。
ここは東都ですよ。実家の田舎じゃないんですから、最低限のルールやマナーくらい守ってください。そんなものを持ち込まないでくれませんか?」
両親は気まずそうにその場に立ち尽くした。
母は慌ててテーブルから漬物の皿を引っ込めようとし、ひどく怯えた声を出した。
「ご、ごめんね、拓真さん。知花が昔から大好物だったから持ってきただけで、深く考えてなくて。
すぐに片づけるから。お、怒らないで……」
慌てたせいでお皿がテーブルから滑り落ち、床で割れて散らばってしまった。
母はびくっと体を震わせ、恐る恐る拓真の顔色をうかがった。そして頭が真っ白になり、その場で動けなくなった。
父は黙り込み、年老いて丸くなった背中をかがめて破片を拾おうとした。
それを見ていたら、私の目頭がどうしようもなく熱くなった。
実家にいた頃、両親の背筋はいつもピシッと伸びていた。
近所の人が都会で働く私のことを褒めるたび、両親は内心の喜びを隠しきれずに胸を張るのだが、口では「とんでもありません、まだまだですよ」と、いかにも謙虚な様子で答えていた。
けれど、私が拓真と付き合い始めてから、二人はずっとこんな風に怯えるようになってしまった。
私が実家にお金を送っても、「両親が貧しいと見下されてはいけないから」と言って受け取ろうとせず、そのお金はすべて拓真の両親への贈り物に使いなさいと言った。
お正月に帰省した帰り際にも、両親はたくさんの地元の特産品を持たせ、「これを拓真さんのご両親に渡して」と何度も念を押した。
そして、拓真の両親に約束を破られても決して怒ろうとはせず、ただひたすら、結婚したあとに私が肩身の狭い思いをしないか、それだけを心配していた。
私は二人に歩み寄った。複雑な思いで喉が詰まり、声はかすれていた。
「お父さん、お母さん、もういいからご飯を食べて。私が片付けるから。
それから、漬物はそのままでいいよ。私の好物なんだから」
二人はそれでも手伝おうとしたが、私は彼らを椅子へ強引に座らせた。
拓真は振り返って私を見ると、一瞬だけ決まりの悪そうな顔をして、言い訳するように言った。
「そういう意味で言ったんじゃないんだ。俺、鼻炎持ちだから、きつい匂いが苦手なんだよ。知っているだろ?」
私は彼に言葉を返すことなく、黙々と床に散らばった割れた皿を拾い集めた。そして、怪我をしないよう厚手の紙で包み、それをゴミ袋に入れた。
拓真は私の後ろをついて回り、何かを言いたそうに口をもぐもぐさせていたが、私は彼を振り返ろうとしなかった。
食事が終わったら両親を近場の観光地へ連れていくつもりだったが、そこへ突然会社から緊急の電話が入った。
私の担当するプロジェクトで問題が起きて、とても深刻な状況らしい。
すると、拓真が自ら進んで声をかけてきた。
「仕事に行ってきなよ!俺が二人を観光地に案内しておくから。ちょうど今日は、うちの会社は休みなんだ」
私が彼をじっと見つめると、拓真はバツが悪そうに話を続けた。
「さっきのは言い方が悪かった。昨日の喧嘩を引きずっていたんだ。
結婚すれば君の親は俺の親なんだから。安心して、俺がちゃんと二人の面倒を見るよ」
両親はせっかく東都に来てくれたのに、このまま何もせずに帰るのは勿体ないと思った。私は仕方なく頷いた。
仕事を終えた頃、すでに深夜になっていた。
二人が無事に帰ってきたか確認するために電話をかけようとスマホを手にした瞬間、母からの電話がかかってきた。
急いで電話に出ると、母のひどく混乱した泣き声が響いた。
「知花、は、早く病院に来て。お父さんがケガをして、意識を失っちゃって……」
頭の中が真っ白になり、立ち上がろうとしたけれど、足元がショックでふらついていた。
第3話
それでも急いで病院へ駆けつけると、母は父のストレッチャーの傍らに立ち、静かに涙を流していた。
私はすぐ父に駆け寄り、その頭に大きな傷口が開いていることに気づいた。
傷口は簡単な応急処置がされているだけで、まだ出血が止まらなかった。
「医者は?病院の先生はどこなの?まだ血が出てるのに、どうして手当てしてくれないの?」
母は少しためらってから、おそるおそる口を開いた。
「救急の先生が一人しかいなくて、空いているベッドもあと一つしかなかったの。それで拓真さんが、他の人を先に助けてやってくれって……」
私は目を大きく見開いた。立ち上がって医者を探そうとしたその時、ちょうど後ろの病室のドアが開いた。
日和が拓真に抱きつき、目を赤く潤ませながら、弱々しい声で囁いていた。
「拓真さん、ありがとう。知花さんのお父さんたちを置いて私のところに来てくれなかったら、私、どうしていいか分からなかった」
拓真は彼女の背中を優しく撫で、慰めた。
「君の両親は俺にとって家族同然だよ。水臭いことは言わないで。ほら、もう泣かないで、目が腫れちゃうぞ」
私は我慢できずに駆け寄り、拓真の頬を力いっぱいひっぱたいた。
体は震え、どうしても止めることができなかった。
「拓真、うちの両親の面倒をちゃんと見るって言ったよね?これはどういうことなの?」
叩かれた本人は黙っているのに、隣にいた日和が悲鳴を上げ、大げさに傷を気遣い始めた。
そして彼女は私を見て、今にも泣き出しそうな顔をした。
「知花さん、私のお母さんが足を挫いちゃったの。後遺症が残ったら困るからって、拓真さんが先に診てもらうよう頼んでくれただけなの。
叩くなら私を叩いて!拓真さんを責めないで。
拓真さんも母のことで必死で、車のドアに知花さんのお父さんの服が挟まっているのに気づかなかったの。それで引きずられて頭を打っちゃって……」
拓真は一歩前に出て、日和を後ろに庇った。そして、冷たい視線で私を見つめた。
「知花、君が焦る気持ちは分かるから、今の平手打ちは黙って受けた。
でも冷静に話そう。そんなにみっともない真似をするな。
お父さんの怪我は医者が診て、ただの擦り傷だって言ったから外で待たせたんだ。
でも、日和のお母さんの足の問題は深刻だ。もし骨に異常があったら一生の後遺症になるんだぞ」
背後から、突然父が弱々しい声で、私の名前を呼んだ。
「知花、父さんは……父さんは大丈夫だ。俺のことで拓真さんと揉めるんじゃない。
俺たちみたいな田舎者は頑丈だからね。都会の繊細な人とは違うんだから」
拓真は口調を和らげ、近づいてきて私を抱きしめようとした。
「ほら、お父さんもそう言っているだろ。大したことないに決まっている。
もう怒るなよ。朝になったら、すぐに別の病室を手配するから」
私は一歩後ずさりし、彼の手を避けた。
拓真の表情が一瞬で曇った。しかし私は彼を無視して、すぐに父を転院させるために他の病院へ電話をかけた。
私は一晩中両親に付き添い、翌日、荷物をまとめるために家に戻った。
ドアを開けると、リビングからは楽しげな笑い声が聞こえ、鼻につく匂いが漂っていた。
昨日「鼻炎持ちだ」と言っていた張本人が、日和の両親が持ってきた強烈な匂いのする発酵漬物を嬉しそうに食べていた。
そしてゴミ箱の脇には、見覚えのある大きな包みが二つ置いてあった。私の両親が背負ってきた荷物だ。
私は拓真を真っ直ぐ見つめて、静かに問いかけた。
「これ、どういうこと?」
第4話
私に気づくと、拓真は立ち上がり、少し黙ってから話し始めた。
「日和の両親が、しばらくうちに泊まることになったんだ。
君の親はもうすぐ帰る予定だったろ?だから、彼らの荷物を先にまとめて運び出しておいたよ」
私は皮肉っぽく笑った。
「拓真、前は気づかなかったけれど、本当に『立派なお婿さん』ね」
リビングから向けられる三人の冷ややかな視線を無視して、私は一人で寝室に戻った。
拓真が後を追ってきて、いつものように機嫌を取ってきた。
「知花、怒らないでくれよ。君の両親のために高級ホテルを予約してあるんだ。後で車で荷物を運んでおくから。
日和たちは客なんだし、失礼なことはできないだろ」
私は何も言わず、荷物をまとめ続けた。
拓真はべったりとくっついてきて、私の服を畳みながら言った。
「知花、なんだか最近、俺に冷たくなった気がするよ。
日和は無事に大学院への進学が決まったんだ。もし本当に嫌なら、これからは彼女と会う回数を減らすよ。それでいいだろ?」
彼は得意げに、引き出しからネックレスを取り出した。
「ほら、君がずっと欲しがっていたネックレスだ。お詫びに買ったよ。
それに、この数日で婚約式の式場も決まっていて、招待客も呼び終えたんだ。
明日は綺麗に着飾って出席するだけでいいよ」
私は動きを止め、振り返って彼に尋ねた。
「決めたって?いつの間に?どうして私に相談しなかったの?」
彼は他人事のように平然と言い放った。
「君は忙しそうだったからさ。女の子の好みなんて大体同じようなものだし、日和に相談したんだ」
私は彼の最後の言葉を、ゆっくりと繰り返した。
「日和に相談した、って?
じゃあ、式場選びも、式の演出や装飾も、招待状の発送も、婚約式の準備は全部二人でやったの?
拓真、おかしいとは思わないの?」
彼はいつものように言い返そうとしたが、なんとか我慢して弁解した。
「知花、もうそのことで揉めたくないんだ。俺が愛しているのは君だけだし、心変わりは絶対にしない。これで納得だろ?」
彼は微笑みながらネックレスを掲げ、私の首につけようとした。
「知花、もう意地を張るのはやめろ。
夜、君の隣じゃないと眠れないんだ。俺へのお仕置きとしては、もう十分だろ?」
私が彼を避けると、拓真の表情はみるみる険しくなっていった。
彼を数秒間見つめたあと、私は口を開いた。
「式場の場所を、教えておいて」
その言葉を聞いて、拓真の顔に再び余裕のある笑みが戻った。
「知花、やっぱり俺と結婚したいんだね。怒っていても、俺を置いて行くなんてできないくせに」
それから彼は、私のスーツケースに視線をやり、機嫌良さそうに言った。
「よし、これで安心した。家出で俺の気を引くとか、もうしなくていいよ。
これまで何度も荷物をまとめていたけど、本当にこの家を出て行ったことなんてなかっただろ?
それに、君の実家までは相当遠いんだ。俺に不満があるからって、簡単には帰れないだろうしね」
私は拓真を通り過ぎて、スーツケースを引っ張りながら外へ出た。
彼はドア枠にもたれかかり、全く焦る様子もなく、微笑みながら私を見送った。
「気が済んだら、明日は遅れずに婚約式に来いよ!」
私は振り返り、微笑んで言った。
「安心して。とっておきのサプライズを用意しておくから」
翌日、私は両親の荷物を運ぶのを手伝い、一緒に新幹線に乗った。
発車のアナウンスが流れた時、私のスマホが激しく震え出した。
四度目の着信がかかってきた時、私はようやく電話に出た。
電話の向こうから、拓真の母親のうろたえた声が聞こえてきた。
「知花、今どこにいるの?拓真が、拓真が大変なことになったの!早く来て……」