Đang tải thông tin quảng bá...
寄生一家と決別、自由を手に入れる
結婚してわずか3日目。ハネムーンが、必ずしも二人だけのものではないのだと、初めて知った。 航空券は3ヶ月前、格安のセールで手に入れたもの...
Chương (1)
第1章
結婚してわずか3日目。ハネムーンが、必ずしも二人だけのものではないのだと、初めて知った。
航空券は3ヶ月前、格安のセールで手に入れたもの。行き先は澄京、予約した席も、当然二人分だった。
出発の前夜、夫の近藤誠司が言い出した。彼の母親・近藤和江が腰痛持ちだから温泉に連れていきたい、それから、仕事を辞めたばかりの妹・近藤千佳も気晴らしに同行させたい、と。
「いいよ、家族だもんね」と答えた。
現地の温泉旅館に到着すると、ツインルームが一部屋しか空いていないとフロントに告げられた。
てっきりエキストラベッドを追加するのだと思っていた。しかし、誠司は母親と妹に視線を走らせた後、こちらを振り返って平然と言い放った。
「フロントでデイユースの部屋が空いてるか聞いて、そこでシャワーだけ浴びてきなよ。今夜はロビーのソファで適当に横になればいいから」
その言葉と同時に、和江の荷物を甲斐甲斐しく運び始めた。スーツケースを手に廊下に立ち尽くしていると、部屋から千佳がひょっこりと顔を出した。
「お義姉さーん、ついでに下に降りてミネラルウォーター買ってきてくれない?部屋のやつ、冷えてないんで」
碧ノ湖の夜風が吹き抜けて、驚くほど頭が冷えていく。かつてないほど、思考がクリアになるのを感じる。
ロビーへと降りて、その足で帰りの航空券について調べ始めた。私は、一人で帰るのだ。
第1話
結婚してわずか3日目。ハネムーンが、必ずしも二人だけのものではないのだと、初めて知った。
航空券は3ヶ月前、格安のセールで手に入れたもの。行き先は澄京、予約した席も、当然二人分だった。
出発の前夜、夫の近藤誠司(こんどう せいじ)が言い出した。彼の母親・近藤和江(こんどう かずえ)が腰痛持ちだから温泉に連れていきたい、それから、仕事を辞めたばかりの妹・近藤千佳(こんどう ちか)も気晴らしに同行させたい、と。
「いいよ、家族だもんね」と答えた。
現地の温泉旅館に到着すると、ツインルームが一部屋しか空いていないとフロントに告げられた。
てっきりエキストラベッドを追加するのだと思っていた。しかし、誠司は母親と妹に視線を走らせた後、こちらを振り返って平然と言い放った。
「フロントでデイユースの部屋が空いてるか聞いて、そこでシャワーだけ浴びてきなよ。今夜はロビーのソファで適当に横になればいいから」
その言葉と同時に、和江の荷物を甲斐甲斐しく運び始めた。スーツケースを手に廊下に立ち尽くしていると、部屋から千佳がひょっこりと顔を出した。
「お義姉さーん、ついでに下に降りてミネラルウォーター買ってきてくれない?部屋のやつ、冷えてないんで」
碧ノ湖の夜風が吹き抜けて、驚くほど頭が冷えていく。かつてないほど、思考がクリアになるのを感じる。
ロビーへと降りて、その足で帰りの航空券について調べ始めた。私は、一人で帰るのだ。
「フロントに聞いたら、こんな真夜中にデイユースは無理だって。トイレで顔でも洗って、ロビーのソファで一晩我慢してくれ」
タクシーに乗り込んだ瞬間、誠司からボイスメッセージが届く。
「明日の朝は、母さんを連れてあの話題の朝食専門店に行って、母さんは胃が弱いから、ネギは抜きにするよう店員に伝えておいて」
「早く行って並んどけよ。母さんが起きたら腹が空くかも」
耳元からスマホを離す。車内は静まり返っている。
「お客さん、どちらまで?」バックミラー越しに運転手が尋ねてくる。
「空港までお願いします」
「便名は分かりますか?ターミナルを調べますよ」ハンドルを切りながら運転手が言う。
「南城市行きの始発便です。着いてからチケットを買うので」
少し驚いた様子を見せる運転手。「こんな真夜中に……もしかして、彼氏と喧嘩でもしちゃいました?」
「喧嘩じゃありません」窓の外を流れていく街灯を見つめながら答える。「空港へ、急いでいただけますか」
スマホがまた震えた。今度は千佳からのボイスメッセージ。
「水買うのにどんだけ時間かかってるの?」
「あ、もう買わなくていいよ。お兄ちゃんがデリバリーでスムージー頼んでくれたんで、すぐ届くし」
「お義姉さんはロビーでしっかり荷物の見張り番してね。私のブランドバッグ、盗まれたら困るから」
続いて一枚の写真が送られてくる。そこには、床に屈んで和江の足をマッサージする誠司と、水滴のついたおしゃれなグラスを手に鏡越しに自撮りをする千佳の姿が写っている。
背景は、広々とした露天風呂付きの部屋だ。画面をタップして、二文字だけ返す。
【うん】
送信を終えて、薬指から結婚指輪を外す。誠司が選んだ、小さなメレダイヤがあしらわれた安物。
「将来生まれてくる子供の教育資金のために、今は節約しよう」
あのときは、なんて堅実で頼もしい人なのだろうと思ったものだ。私は指輪を外して、運転席へ向かって差し出す。
「すみません、これ、適当に処分しておいていただけますか?」
「えっ?」受け取った運転手が、ギョッとしたように声を上げる。「お、お客さん、これ……本当に捨てちゃっていいんですか?」
「もういりません」きっぱりと告げる。「サイズも合わないし、つけてると痛いので」
静まり返った深夜の空港ロビー。カウンターへと歩み寄る。「すみません、南城市行きの一番早い便は何時ですか?」
スタッフが手際よく端末を操作する。「深夜2時半の便がございますが、あいにくファーストクラスしか空きがございません。かなり割高になってしまいますが……」
「それでお願いします」運転免許証を差し出す。
キーボードを叩く音が響く。「かしこまりました。近藤凪(こんどう なぎ)様ですね。お会計は88,000円になります。お支払いはどうなさいますか?」
「カードで」と言って、給与受取のカードを手渡す。紛れもない、自分名義の資産。
誠司のカードは和江が握っている。「年寄りに管理してもらった方が安心だから」というのが彼の言い分だ。
これまでは別にどうでもいいと思っていた。私のほうが圧倒的に稼いでいたから。でも今なら分かる。確かに、自分のお金はやはり自分で管理したほうが安心だ。
搭乗券を手に、待合室の冷たいベンチに腰掛ける。不意に画面が明るくなって、誠司からの着信を告げた。通話ボタンを押す。
「お前一体どこだ!」スピーカーから、苛立ちを隠そうともしない大声が響く。
第2話
「ロビーに誰もいないって、配達員が言ってるぞ。荷物の見張りもまともにできないのか?
母さんがやっと寝たところなんだ。これ以上、俺をイライラさせるなよ」
スピーカーに切り替える。
「おい、聞いてんのか!またそうやって黙り込んで不機嫌アピールか?
言っておくけどな、今回のことで俺に八つ当たりするなよ。
母さんは腰が悪いし、千佳だって仕事辞めたばかりで落ち込んでるんだ。長男の嫁として、少しは気を遣ってやれないのか?
これくらいのことで文句言うなんて、そんなんじゃ将来いい母親になれないぞ」
ただ静かに、その言葉を聞き流した。そのとき、ロビーにアナウンスが流れた。
「南城市行きをご利用のお客様にご案内いたします。ただいまより、ご搭乗を開始いたします」
電話の向こう側が一瞬、静まり返る。「今どこだ?今の、何のアナウンスだ?」
「空港」短く答える。
「空港って、何しに行ってんだ」
「部屋を空けてあげたの」
「は?何寝ぼけたこと言ってんだ!こんな真夜中に家出のつもりかよ!」
「誠司」冷ややかにその言葉を遮る。
「何だよ」
「あの温泉旅館のロビーで一晩過ごせって言ったのが私たちの最後の会話だ」
言い終えると同時に、通話を切る。そのまま彼のアイコンをタップして、迷わずブロックリストに放り込んだ。続いて千佳、そして和江……
一連の作業を終えて、スマホを機内モードに切り替えてバッグに収めた。スーツケースを引いて、搭乗口へと向かう。
CAさんが笑みを浮かべてチケットを確認する。「近藤凪様、ご搭乗ありがとうございます」
軽く会釈をして、ゆったりとしたファーストクラスのシートに身を沈める。差し出された温かいおしぼりを受け取る。「ありがとうございます」
手を拭いて、バッグの奥から書類を取り出す。あらかじめ用意していたものの、署名するのをずっと躊躇っていた離婚協議書だ。
万年筆のキャップを外して、署名欄に迷いなく名前を書き込む。凛とした、ぶれない筆跡。その紙の上に、涙が一滴たりともこぼれることはない。
……
飛行機が着陸した頃、外はうっすらと白み始めていた。
新居のマンションのドアを開ける。閉め切られた室内には、どんよりとした空気が満ちていた。
玄関には、誠司の何足ものスニーカーと、和江が趣味のダンスで履く派手な赤いパンプスが脱ぎ散らかされている。
リビングのテーブルの上には、出発前に誠司が脱ぎ捨てていった洗濯前の靴下。そのすぐ傍らに、一枚のメモ用紙が置かれている。
和江が手書きした旅行のお土産リストだ。そこには細かい文字がびっしりと並んでいる。
【近所の鈴木さんへ、老舗の高級梅干し:2箱】
【佐藤さんが欲しがっていたシルクのスカーフ:3枚】
【千佳が気に入ったネックレスとブレスレット:1セット】
一番下に、小さな字でこう付け加えられていた。【すべて凪に払わせる。嫁としての親孝行】
鼻で笑って、そのメモを容赦なくゴミ箱に放り込む。
特大サイズの黒いゴミ袋をいくつか引っ張り出してくる。ソファに放置された汚れ物、テーブルの上のゴミ、和江がベランダに溜め込んでいた大量の段ボール。それらを片端から袋の中へ叩き込む。
スマホのWi-Fiが自宅の回線に繋がって、いくつかの未読メッセージが通知された。
LINEをブロックされたため、千佳がわざわざ電子メールでスクリーンショットを送りつけてきたらしい。それは和江からのメッセージだった。
【素敵なパールのネックレスを見つけたの。五十万円よ】
【すぐに誠司の口座にお金を振り込みなさい。親孝行だと思ってね】
【こっちは手塩にかけて育てた息子をあんたに譲ったんだから、これくらい当然の義務よね】
銀行のアプリを開く。そのカードは、私名義で発行した家族カードで、誠司に自由に使わせていたものだ。迷わずカード利用停止のボタンをタップする。
そして、処理完了のスクリーンショットを千佳へ送信した。
【カードは利用停止だ。誠司に買ってもらいなさい】送信後、そのメールアドレスも即座にブロックする。
五分もしないうちに、見知らぬ番号から誠司の着信が入った。通話に応じるが、こちらは一言も発しない。
「いい加減にしろ、いつまでワガママ言ってるつもりだ!」向こうから、誠司の怒号が響き渡る。
「なんで俺のカードを止めたんだよ!母さんが今、レジの前でネックレス持って待ってんだぞ!」
第3話
「店員がどんな目でこっちを見てるか分かってんのか!
早くカードを使えるようにしろ!外で恥をかかせるな!」
クローゼットの扉を開ける。「あんたのカード?」冷ややかに問いかける。
「お前のカードは俺のと同じだろ!つべこべ言わずに早くしろ!」
上着を数着、ベッドに放り投げる。「慈善事業をやってるわけじゃないの」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ」
電話の向こうから、和江がヒステリックに割って入る。
「いい気になってんじゃないわよ!結婚したんだから、あんたのお金はうちのものよ!
月に60万も稼いでおいて、50万のネックレスも買えないわけ?
お金を振り込まないなら、帰ってからタダじゃおかないわよ!」
最後まで聞く気にはなれず、通話を切る。ついでにこの見知らぬ番号も着信拒否に設定する。
二つのスーツケースを引きずり出して、自分の衣類や運転免許、大事な書類をまとめ始める。荷物はそれほど多くない。
この家の大部分は、和江の怪しげなサプリメントや、千佳がネット通販で買い漁ったもので埋め尽くされている。私個人のものといえば、数着のオフィスカジュアルと、最低限の日用品くらい。
パッキングを終えて、スーツケースをリビングへと運ぶ。壁には、大きなウエディングフォトが飾られている。写真の中で、誠司は満面の笑みを浮かべて、私はその肩に寄り添っている。
キッチンへ向かって、ハサミを取り出す。ソファの上に立って、ハサミの刃先を写真の中央に向ける。思い切り、切り裂く。
キャンバスがバリバリと鈍い音を立てて破れる。誠司が写っている半分を引きちぎって、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ放り込む。私だけの半分は、そのまま壁に残しておく。
手の埃をパンパンとはたく。スマホを取り出し、ある番号にかける。
「もしもし、不動産屋の三浦さんですか?」
「あ、近藤様!お世話になっております!」仲介担当の三浦の声は弾んでいる。
「以前、売りに出したいと相談していたあの人気の文教地区のマンションですが、いつでも内見できるように手配をお願いします」
「本当ですか!?助かります!あそこはかなりの人気物件ですからね」
「条件が一つだけあります」一呼吸置いて、告げる。
「現金一括で支払える方に限らせてください。以前、お子さんの入学に合わせて急いで物件を探しているとおっしゃっていたお客様がいましたよね。その方に打診してみてください。手続きを急いで進めてくれるなら、三日以内に引き渡します」
「それは……」三浦が少し言葉を濁す。「キャッシュ一括で、しかも超短期の引き渡しとなると、価格はかなり買い叩かれるかと思いますが……」
「構いません。相場より400万円下がってもいいです。手続きの特急料金が必要なら私が持ちます。とにかく、スピード重視で」
「分かりました!あのお客様、ずっとこのエリアを狙っていたんです。さっそく今日にでもご案内します!」
電話を切る。このマンションは、私が結婚前に一括で購入したもの。当時、誠司は実家の経済事情が厳しくて、頭金も出せないと言っていた。
「大丈夫、私が払うから」そう伝えたとき、彼は涙を流して感動して、これからは絶対に大切にする、お姫様のように甘やかしてやると誓った。
半年前、入籍した翌日には、和江と千佳が大量の荷物を抱えて転がり込んできた。都会の方が環境が良くて、千佳の就職活動にも便利だからという理由だった。それから、ずるずると半年以上。
三日前にようやく結婚式を挙げて、ハネムーンに出かけるまで、その同居生活は続いた。
スーツケースを引いて、玄関へ向かう。かつて心を込めて整えた我が家を、最後に見つめ直す。
リビングのテーブルの花瓶は空っぽで、ソファクッションも処分した。壁のウエディングフォトは、無惨にも半分だけ。
ドアを閉める。鍵は、植木鉢の下に置いていく。
午後、ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいると、親友からSNSのスクリーンショットが送られてくる。誠司が投稿した、何枚もの旅行写真。
【大切な二人とバカンス。わがままなやつは、一人で反省してろ】というキャプションが添えられている。
写真の中の和江はサングラスをかけて、千佳は花柄のワンピースを着ている。二人とも両手いっぱいにお土産の袋を抱えて、これ以上ないというほどの満面の笑みを浮かべている。
背景は、碧ノ湖の有名な映えスポット。
第4話
SNSのコメント欄は随分と賑わっていた。
誠司の伯母:【誠司君は本当に親孝行ね。お母さんを旅行に連れて行ってあげるなんて】
誠司の従姉:【これこそ親孝行だよ。結婚したのに親族を蔑ろにするどこかの誰かさんとは大違い】
誠司が従姉のコメントに返信している。【仕方ないよ。自分勝手な人には、少し冷たくして反省させるしかないからね】
親友からボイスメッセージが届いた。「あのバカ家族、何やってんの?凪が自腹で予約したハネムーンに便乗しておいて、この嫌味ったらしい投稿は何?」
私は文字で返信する。【私のお金じゃない】
【?】
【家族カードは止めたし、航空券を変更して先に帰ったから、今あいつらが使ってるのは、誠司がカードローンで借りた金のはず】
親友から大爆笑のスタンプが連打で送られてくる。【よくやった!ついにあいつらの金づるになるのをやめたんだね!】
スマホをテーブルに置いて、コーヒーを一口すする。再びスマホが震えて、不動産屋の三浦からメッセージが入った。
【例のお客様ですが、現金一括で問題ないそうです。ご自身で特急で登記手続きを進められるとのことですが、今日中に内見して契約書を交わしたいそうです】
【ご案内をお願いします。鍵は植木鉢の下に置いてあります】
【ご本人は立ち会われないのですか?】
【ええ。向こうが気に入ったら、そちらで直接契約します】
【承知いたしました!】
三十分も経たないうちに、三浦から電話がかかってきた。
「お客様が大変気に入られました!値下げ交渉もほぼなしです。特急で名義変更の手続きができるなら、今日中に手付金を振り込むと仰っています」
「分かりました。すぐ向かいます」バッグを手に取って、ホテルを出る。
不動産会社に着くと、買い手である地味な身なりの五十代の男性が待っていた。
「あのマンションは立地が最高ですね。単刀直入に言いましょう」と男性が口を開く。
「現金一括で、今日契約して手付金を支払います。最速で所有権移転登記を済ませたいのですが、よろしいですか?」
「構いません」と頷く。
三浦が手際よく契約書をプリントアウトする。ペンを取って、署名欄に名前を書き込む。実印を押す。手付金はすぐさま私の口座に振り込まれた。
「良い取引ができました」と男性が右手を差し出す。
「ええ、こちらこそ」その手をしっかりと握り返した。
不動産会社を出た途端、スマホが鳴り出した。登録されていない番号だ。電話に出る。
「あんたってホント性悪ね!」千佳の金切り声が鼓膜を刺す。
「私の家族カードまで止めるなんて!
さっきブランドショップのレジでカードが切れなくて、後ろに十人以上も並んでたのに……恥かかされたじゃない!」
うるさいのでスマホを少し耳から離す。「あのカードの名義は、私よ」と淡々と告げる。
「それが何よ!お兄ちゃんも言ってたわ、あんたのものは全部私たちのものだって!
今すぐカードの利用停止を解除して!じゃないと、家に帰ったらあんたの服、全部捨ててやるから!」
道路を行き交う車の波をぼんやりと見つめる。「ご自由に」
「本気でやらないとでも思ってるわけ?」
「好きにすればいいわ。でも一つだけ忠告しておく。あんたたちのタダ飯食らいの生活は、もう終わったのよ」通話を切る。
一分もしないうちに、今度は誠司から電話がかかってきた。表示された番号からして、旅館のフロントの電話を使っているようだ。
「お前一体何がしたいんだ?」誠司の声は低く押し殺されていたが、歯軋りするほどの怒りが伝わってくる。
「大勢の人がいる前で、母さんや千佳に恥をかかせて、追い詰める気か!
千佳がさっき、店の中でどれだけ泣いたか分かってんのか?
妹にバッグ一つ買ってやれないのか。お前はケチすぎる!」
横断歩道の前で立ち止まる。信号が青に変わった。
「誠司」マイク越しに静かに呼びかける。「カードローンの残高が、帰りの航空券を買えるくらい残っているといいわね」
「どういう意味?」
「言葉通りの意味。あんたたちには、もう一円たりともお金は出さないってこと」そう言い捨てて、通話を切った。
第5話
さっきの番号も、着信拒否リストに追加する。そのまま、行きつけのレストランへ足を運ぶ。二人前の料理を注文する。
以前、誠司と一緒にここへ来るたび、彼は料理のエビをすべて千佳の皿へ移していた。一番柔らかい牛肉は和江の皿へ。最後に私の前に残されたのは、野菜の切れ端と白米の入ったお茶碗だけだった。
彼はいつもこう言っていた。「ダイエット中だろ、野菜をたくさん食えよ」
箸を手に取って、エビをすべて自分のお皿に移す。一つ残らず、きれいに平らげた。
……
それからの3日間、誠司たちはまるで意地になったかのようだった。親族のLINEグループには、彼らからのボイスメッセージが絶え間なく投下される。
誠司の伯母が長々としたボイスメッセージを送ってきた。「最近の若者は本当に礼儀を知らないわね。お義母さんがバカンスに行って何が悪いっていうの?カードを止めるなんて、年寄りを餓死させる気かしら」
すかさず彼の従姉も同調する。「そうよ。誠司みたいに真面目な人が、あんなにいじめられるなんて可哀想に」
誠司本人は、グループトークにため息のスタンプを送信した。【まあいいよ。身内の恥を外に晒すのもなんだし、帰ったら俺がゆっくり躾け直すから】
画面に並ぶ文字を冷ややかに眺めて、返信は一切しない。そのまま「グループを退会」をタップする。登録されている近藤家の親族のアカウントを、まとめて削除した。
この3日間で、買い手との所有権移転手続きはすべて完了した。残金も全部私の口座に振り込まれていた。
7日目の夕方、ホテルの部屋で荷造りをしていると、スマホの画面が点灯した。誠司からのメッセージだ。
【今夜8時に家に着く】
【ご馳走を作って待ってろ。母さんと千佳に土下座して謝れよ】
【じゃないと、これ以上お前とはやっていけないからな】
文面を一瞥して、スマホを伏せる。私がこれまでのように、黙って言うことを聞くとでも思っているらしい。
署名済みの離婚協議書を封筒にしまって、宅配便を手配する。「すみません、これをこの住所に届けてください」配達員に封筒を渡す。
「宅配ボックスに入れますか?それとも玄関先がよろしいですか?」
「ドアの郵便受けに挟んでおいてくれれば結構です」
スーツケースを引いて、エレベーターに乗り込む。
……
夜8時10分、南城駅のタクシー乗り場へ向かって、誠司たち三人は大量の土産袋を引きずりながら、意気揚々と歩いていた。
「母さん、あいつが謝っても、簡単に許しちゃだめだよ」と誠司が言う。
和江は鼻で笑う。「当たり前よ?私に刃向かおうなんて、ただじゃ済まさないわ」
千佳も横から口を挟む。「そうよ、今日は絶対に私のカードの限度額を引き上げさせるんだから。じゃなきゃ許さないわ」
30分後、彼らは見慣れたマンションのドア前に立っていた。
「あの役立たず!早く出てきて荷物を持ちなさいよ!」和江が大声でわめき散らす。
誠司が鍵を取り出して、シリンダーに挿し込む。回そうとするが、ピクリとも動かない。
「鍵が壊れたのか?」眉をひそめながら、バンバンと乱暴にドアを叩く。「開けろ!居留守使ってんじゃねえぞ!」
突然、内側から勢いよくドアが開け放たれる。無防備だった誠司は、ドアに弾き飛ばされて数歩後ずさった。
そこには、タトゥーだらけで上半身裸の大男が立っていた。片手には、食べかけのスイカを握っている。
「あぁ?夜中に大騒ぎしてんじゃねえ!」大男がドスを効かせた声で怒鳴る。
誠司は呆然と立ち尽くす。慌てて部屋番号のプレートを見上げるが、間違いなく自分の家だ。
「あんた誰だ?なんで俺の家にいるんだよ!」声を張り上げて問い詰める。
男はスイカの皮をゴミ箱へ放り投げた。
「お前の家?酔っ払ってんのか?
この部屋は一昨日、俺が買った。権利証も届いたばっかりだ」
誠司は、その場に凍りついた。