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夜明けを待っても、真相は明かされなかった
親友の水城莉央(みずき りお)と、私の従兄、朝倉悠真(あさくら ゆうま)の結婚式で、5年付き合った私の婚約者、桐生怜司(きりゅう れいじ)...
Chương (1)
第1章
親友の水城莉央(みずき りお)と、私の従兄、朝倉悠真(あさくら ゆうま)の結婚式で、5年付き合った私の婚約者、桐生怜司(きりゅう れいじ)が新婦の投げたブーケを受け取った。
最近は未婚女性だけを前に呼ぶのが気まずいからと、私たちの周りでは、男性も混ざってブーケを受け取るのが半ばお約束になっていた。
ゲストたちは、次に何が起きるのかわかっているように私を見た。祝福の声と、楽しげな笑いが式場で広がっていく。
けれど、怜司は私を一度も見なかった。
ブーケを手にした瞬間から、その目は窓際に座る白いドレスの女性に釘づけだった。
怜司の初恋相手。つい最近、帰国したばかりの白石紗良(しらいし さら)だった。
第1話
親友の水城莉央(みずき りお)と、私の従兄、朝倉悠真(あさくら ゆうま)の結婚式で、5年付き合った私の婚約者、桐生怜司(きりゅう れいじ)が新婦の投げたブーケを受け取った。
最近は未婚女性だけを前に呼ぶのが気まずいからと、私たちの周りでは、男性も混ざってブーケを受け取るのが半ばお約束になっていた。
ゲストたちは、次に何が起きるのかわかっているように私を見た。祝福の声と、楽しげな笑いが式場で広がっていく。
けれど、怜司は私を一度も見なかった。
ブーケを手にした瞬間から、その目は窓際に座る白いドレスの女性に釘づけだった。
怜司の初恋相手。つい最近、帰国したばかりの白石紗良(しらいし さら)だった。
「紗良、俺と結婚してくれないか?」
会場がざわめいた。驚きと気まずさ、そして好奇の目が一斉に向けられる。
ゲストたちの視線が、私と紗良の間を何度も行き来した。
その視線には、下世話な好奇心がにじんでいた。
私はその場から動けなかった。
怜司が紗良だけを見つめる姿に、胸が締めつけられる。
私たちは5年間付き合ってきた。
つい数日前も、怜司は桐生家の当主である祖父に結婚を急かされ、笑ってこう言っていた。
「今年中には、ちゃんと結婚するよ」
そのとき、祖父は意味ありげに私を見ていた。
私も、ようやくその日が来るのだと思い、ひそかにウエディングドレスまで選んでいた。
婚約者は、私のはずだった。でも、怜司が本当に選んでいた花嫁は、私ではなかったらしい。
笑えるほど、私だけが勘違いしていた。
顔をこわばらせた莉央の腕をそっとつかみ、私は無理やり笑みを作った。
今日は莉央の結婚式だ。どれほどつらくても、親友の大切な日を壊したくなかった。
「大丈夫だから」
私は無理に笑ってみせたが、うまく笑えている自信はなかった。
紗良は目に涙を浮かべ、怜司が差し出した白いバラのブーケを受け取った。
「はい。喜んで」
2人は喜びを隠そうともせずに抱き合っていた。今日の主役が自分たちではないことなど、少しも気にしていないようだった。
とうとう我慢できなくなった莉央が、怜司の頬を平手で打った。
「正気なの?人の結婚式で何やってるのよ。美羽にこんな恥をかかせて、ただで済むと思わないでよ!」
私と悠真が止めに入っても、莉央の怒りは収まらなかった。彼女が会場のスタッフを呼び、2人を外へ出してもらおうとした、そのときだった。
紗良は震えるふりをして私の前に駆け寄ると、わざとらしく膝をついた。
「篠宮美羽(しのみや みう)さん、ごめんなさい。全部、私が悪いんです。あのとき、お金を受け取って海外へ行かなければ……怜司を置いていかなければ……。あのお金は、必ずお返しします」
たったそれだけで、私は権力と金で2人を引き裂いた悪女に仕立て上げられた。
怜司は、嫌悪を隠そうともせず私を見た。
「美羽、お前には本当に失望した。ここまで卑怯な女だとは思わなかった」
違う、と言おうとした。
けれど2人は、私に口を開く隙さえ与えなかった。怜司は涙ぐむ紗良の手を取り、そのまま出口へ向かった。
「歓迎されないなら、もう帰る。美羽、俺たちは今日で終わりだ」
せっかくの披露宴は台なしになり、招待客たちは目の前の騒ぎに呆然としていた。
莉央は怒りで顔を真っ赤にし、悠真も険しい表情を浮かべていた。
「怜司もずいぶん偉くなったものだな。俺たちの結婚式で、よくもあんな真似ができたな」
新郎新婦は顔を見合わせた。2人の顔には隠しきれない怒りがあった。
その直後、鈍い音が響いた。
2人が振り向いて床に倒れた私を見て、莉央の顔色が変わった。
「美羽!どうしたの?しっかりして!」
……
第2話
目を覚ますと、私は病院の個室にいた。
ベッドのそばには、心配そうに私を見つめる莉央がいる。私が目を開けると、彼女の目に涙がにじんだ。
「ごめんね、莉央。怜司があんなことをするなんて、私も……」
莉央は悔しさに歯を食いしばり、こらえきれず涙を落とした。小さく「最低……」と吐き捨てると、私の手をぎゅっと握った。その声には、痛いほどの心配がにじんでいた。
「美羽、妊娠してたの?あんた知ってた?」
その言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。
「妊娠……?私が?」
あの事故のあと、医師から妊娠できる可能性はほとんどないと言われていた。
それなのに、どうして?
「篠宮さん」
莉央が病室を出てしばらくすると、いつの間にか、紗良が病室の入口に立っていた。
泣いたせいか、目の縁が赤い。白い首筋には、わざと見せつけるように赤い跡が残っていた。
「本当にごめんなさい。でも、私には怜司しかいないんです。篠宮さんには、立派なお家柄も、支えてくれる人たちもいるでしょう?でも私は……」
最後まで言わせず、私は冷たく笑った。
「だからって、私から婚約者を奪って、私を悪者にしてもいいとでも言うの?」
私に言い返されて、紗良は顔を真っ赤にした。すると次の瞬間、彼女は自分の頬を思いきり平手打ちした。
突然のことに、私も言葉を失う。
「美羽!何をしてるんだ!」
次の瞬間、怒鳴り声とともに、怜司が病室へ入ってきた。
怜司は紗良の赤くなった頬を見るなり、事情を確かめようともせず、私を責め立てた。
「紗良は、お前が倒れたと聞いて見舞いに来たんだ。それなのに、よくもこんなことができたな」
怜司は私の腕をつかみ、ベッドから無理やり引き起こした。
「紗良に謝れ!」
腹の奥から吐き気がこみ上げた。急に起こされたせいで目も回り、私は耐えきれず、その場で吐いてしまった。
そこへ、家政婦の大橋香代(おおはし かよ)が駆け込んできた。
「美羽さんに乱暴しないでください。妊娠しているんですよ!」
怜司と紗良は、その場で凍りついた。
次の瞬間、紗良がこらえきれないように泣き出した。
怜司は慌てて私から手を離すと、泣き出した紗良をなだめに向かった。支えを失った私は、ベッド脇に崩れるように座り込んだ。
直後、下腹部に激しい痛みが走った。
意識が遠のきそうになるのをこらえながら、私はベッド脇のナースコールへ手を伸ばした。
医師たちが慌ただしく駆け込んできた瞬間、私はもう耐えきれず、そのまま意識を失った。
……
第3話
次に目を覚ましたとき、莉央は泣きながら私の手を握っていた。
「美羽、ごめん。もっとそばにいてあげればよかった」
私はかすかに笑い、大丈夫だと伝えた。
ベッドの前では、怜司の祖父・桐生泰造(きりゅう たいぞう)が、怒りに任せて杖を床へ打ちつけていた。
「怜司、お前は何を考えている!どこの誰ともわからない女のために、美羽と腹の子を捨てるつもりか!」
「紗良を悪く言わないで」
怜司は紗良を背中にかばい、祖父をにらみ返した。
「その子が本当に俺の子かどうかも、まだわからない。美羽は昔から、人を思いどおりに動かすのがうまい。紗良だって、美羽に追い詰められて、海外へ行くしかなかったんだ。そうじゃなきゃ、俺たちが何年も離れ離れになるはずないだろ」
私は責め立てる怜司を、呆然と見つめるしかなかった。心の中で何かが崩れ去り、ただ虚しさだけが広がっていく。
以前の怜司は、こんな人ではなかった。
あれは、私が大学3年になったばかりの頃だった。怜司は、私に下品な冗談を言った同級生と殴り合いになり、一か月もベッドから起き上がれなかった。ようやく歩けるようになったのは、そのあとだった。
あのとき怜司は、泣き腫らした私の目元に、そっと口づけてくれた。私を少しでも怯えさせないよう、話しかける声さえ小さくしていた。
「美羽を悪く言うやつは、誰だって許さない」
けれど、あれからまだ3年しか経っていない。たったそれだけの時間で、怜司はもう、あの頃の人ではなくなっていた。私を痛いほど大切にしてくれた、あの怜司は、もうどこにもいなかった。
私は唇を震わせ、やっとの思いで「私はやってない」と絞り出した。
人のうわさは止められない。
まして今の私が、どれだけ言葉を尽くしたところで、怜司が耳を貸すはずもない。今の彼の心には、隣にいる初恋の人、紗良しかいないのだから。
「怜司、いいかげんにして!」
泰造の前だからか、莉央は怒鳴りたい気持ちをこらえ、低い声で釘を刺した。
私は莉央の袖をそっと引いて制し、できるだけ静かな声で怜司に告げた。
「ここまで言われたら、もう無理よ。婚約は解消しましょう。あなたと紗良さん、お幸せに」
私は力なくうつむいた。もともと弱っていた体は、激しく感情を揺さぶられたせいで、さらに力が抜けていく。
視界がちらつき、私は少しでも楽になろうと、崩れるようにシーツをつかんだ。
「婚約解消?勝手なことを言うな」
怜司は冷ややかに笑った。
「お前の腹の子が本当に俺の子かは分からない。だが、俺の子かもしれない以上、外で野放しにはできない。だから産んで、親子鑑定が済むまでは大人しくしていろ。紗良にも、もう二度と嫌がらせをするな。逆らうなら、篠宮家の会社がどうなっても知らんぞ」
脅しだった。
あの会社は、亡くなった両親が私に残してくれたものだ。私が黙って見過ごすことなどできないと、怜司は知っている。
泰造も、今の怜司を止められないようだった。深いため息をつくと、私に休むよう言い残した。
「美羽、少しでも食べなさい。今はお腹の子のためにも、体を大事にしないといけない」
莉央に支えられ、泰造は病室を出ていった。怜司に促され、紗良も不満げにそのあとを追う。
病室に怜司と2人きりになると、私は彼を見た。
「結局、私を手放すつもりはないのね」
怜司は否定しなかった。
ベッドの端に腰を下ろし、私のお腹へ手を伸ばした。
「美羽、紗良に謝ってくれ。自分の非を認めるなら、お前と結婚してやってもいい。ネットや記事の噂も、俺が全部片づける」
彼は私に折れろと言っているのだ。
その手を払いのけ、私は冷たく言い放った。
「出ていって!それを愛だと思ってるなら、本当に気持ち悪い」
……
第4話
退院の日。
私が病院を出た途端、待ち構えていた記者たちに取り囲まれた。
「篠宮さん、今回の妊娠についてお聞かせください」
「以前から、桐生社長と白石さんの交際を妨害していたという話は事実ですか?」
「桐生社長が白石さんのために『永遠の愛』というネックレスを購入したことを、どう思われますか?」
「篠宮さんにも別の交際相手がいるという噂は本当でしょうか?」
永遠の愛。
怜司が、いつか結婚の日に贈りたいと言っていたネックレスだった。
私は足を止めた。
「桐生社長と白石さんのために、身を引くおつもりはありませんか?」
その質問に、急に何もかもが馬鹿らしくなった。
私は記者のマイクを借り、周囲を見渡して言った。
「この場を借りて、いくつかはっきりさせてください。まず、私はすでに桐生怜司さんへ婚約解消を申し入れています。応じていないのは、彼のほうです。
それから、私が誰かの交際を壊したとか、白石さんを海外に追いやったという話は事実ではありません。
最後に……」
私は周囲を見渡し、ふいに、何もかもがひどく滑稽に思えた。
「報道に携わる皆さんには、噂や憶測ではなく、まず事実を確かめていただきたいです」
私はそう言ってマイクを置き、護衛に守られながら、迎えの車に乗り込んだ。
ようやく家に戻ってひと息つけると思ったのに、その安堵も一本の電話で跡形もなく吹き飛んだ。
画面に表示された「怜司」の名前を見て、私はわずかに眉をひそめる。
本当に、少しも気を休めさせてくれない。
怜司の性格はよくわかっていた。電話に出なければ何度でもかけてくるし、それでもだめなら今度は家まで押しかけてくる。
仕方なく、私は電話に出た。
「記者に何を言った!あんな真似をしたら俺たちにどれだけ……」
私はその言葉を遮り、鼻で笑った
「桐生さん。私たちなんて、もうないわ」