消えゆく愛の行方

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消えゆく愛の行方

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国岡佳之(くにおか よしゆき)と付き合って8年、私たちはすでに新居となるマンションを買っていた。 大学院を卒業したら、すぐに籍を入れるつ...

Chương (1)

第1章

国岡佳之(くにおか よしゆき)と付き合って8年、私たちはすでに新居となるマンションを買っていた。 大学院を卒業したら、すぐに籍を入れるつもりだった。 今日、夜遅くまで図書館で勉強していて、ようやく家に帰ろうとしたその時、SNSで見知らぬ女の子からDMが届いた。 アイコンの画像を見ると、とてもきれいな子だ。 その子から何枚もの写真が送られてきた。 すべて彼女と佳之のツーショット。しかも撮影場所は、私と佳之の大切な思い出の場所ばかりだ。 彼女はメッセージを送ってきた。 【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】 第1話 今年の梅雨入りは、例年よりもずっと早かった。 肌にまとわりつく湿気で息が詰まりそうになり、国岡佳之(くにおか よしゆき)はこういう天気が嫌いだと言っていた。落ち着かず、胸がざわつくのだと。 図書館から外に出ると、私・会田亜矢(あいだ あや)の後れ毛にきらきらとした小さな雨のしずくがいくつか止まっている。 こんな天気は佳之のぜんそくを引き起こしやすい。毎年この時期、私はいつも神経を尖らせ、部屋の隅々まで徹底的に除湿している。 彼はいつも、自分の体はそんなに弱くないと言っている。 ある日、小雨の降る中へ飛び出しては、服が濡れるのも構わずに向かいに来た彼に、私は怒りで目が真っ赤になった。 すると、背中から名前も知らない白い小さな花束を不意に差し出してきた。黄色いおしべがちょこんと覗いていた。 「ほら、近くの花屋で新しく仕入れた花。お前みたいにきれいだ。お店の人がよかったらどうぞって、ただでくれたんだ」 あの頃の私たちは二人とも貧乏学生だったので、ただでもらった花束でも私の心は踊るほど満たされていた。 財布はすっからかんだったが、愛だけは溢れていた。 去年、佳之は起業に成功して自分の小さな会社を持ち、先月、私たちは新居を買ったばかりだった。 実家にはすでに話を通してあり、来月卒業したらすぐに婚姻届を出す予定だった。 SNSで突然、見知らぬ人からDMが届いた。 アイコンの画像を見ると、とてもきれいな女の子だと分かった。 写真が、津波のように押し寄せてきた。 どれもこれも、彼女と佳之がぴったりと寄り添っているツーショットばかりだ。 【L公園って、会田先輩が告白された場所ですよね?彼、ここでも私に告白してくれたんです!】 【ここ、見覚えありますか?先輩の大学のグラウンドですよ。彼とここでキスしました!】 私は凍りつき、指先がちくちくと痛んだ。 【それから二人の新居で……あのベッドにもう一緒に寝ちゃいました!】 挑発的な最後の一言。 【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】 その場に立ち尽くし、何度も何度も写真を拡大して見返した。 そして、ようやくその顔を思い出した。 学部を卒業した時のこと。写真部の部員である橘川枝実子(きつかわ えみこ)が、私と佳之の記念写真を撮ってくれたのだ。 「先輩たち、本当にラブラブですね!末永くお幸せにお過ごしください!」 彼女は佳之に向かって、「浮気なんかしたら許しませんよ。一生一途に先輩を愛し続けてくださいね」と諭しさえした。 心臓が太い縄で思いきり締め付けられ、粉々に砕け散りそうだ。 これらの写真は激しい嵐のように、骨の髄の隙間へ容赦なく突き刺さってくる。 乱暴にスマホの画面を消すと、不意に雨が止んだ。 小さな花柄の傘が霧雨を遮り、どこかで嗅いだことのあるフリージアの香りが漂ってきた。 「こんなところで、ぼさっと立ち尽くしてどうしたんだ?」 佳之はショップバッグを提げたまま、手を伸ばして私を抱き寄せた。大きな手のひらで、乱れた私の髪を優しく撫でた。その口調はこれ以上ないほど優しい。 「今日も俺に会いたかった?」 まるで、私たちが本当に愛し合っている恋人同士であるかのように。 「どうして何も言わないのか?今日は付き合って8周年の記念日だぞ。 ほら、何を持ってきたか当ててみてくれ」 鮮やかなオレンジ色のショップバッグが目の前でゆらゆらと揺れている。嫌でも目に入る華やかなロゴマーク。 私がずっと欲しかった、憧れのハイブランドのバッグだ。 佳之は本当に気の利く男だ。毎年の記念日には、いつも趣向を凝らしたサプライズを用意してくれる。 これほど高価な贈り物をくれるのは、特別な日だけだ。 ふと思い出した。 あの送られてきた写真には、数え切れないほどのブランドロゴが入った紙袋が写っていたことを。 ――佳之、あの子と過ごした毎日は、そんなに手の込んだサプライズが必要なほど特別な日だったの? 「いつまでも本ばかり読んでないでさ。まさか本当に博士課程まで進むつもり? それよりも、俺を支えてくれる妻になって、のんびりとした生活を送ってほしい」 顎をくいっと持ち上げられ、顔を上に向けられると、唇にそっとキスが落とされた。 佳之は気づいていなかった。自分の手がうっかりスマホの画面に触れてしまったことに。 枝実子とのトーク画面が、まだ閉じられないまま表示されている。 【わかった。明日はお前のところに行くからな。俺が愛してるのはお前だけだ】 これ以上見ていられず、私はきしむ胸を押さえながら視線を逸らした。 ――佳之、一体いつからだったの? 愛しているふりさえ、こんなに完璧に演じられるなんて。 昔のあなたは、ほんの小さな嘘をついただけで、耳たぶまで真っ赤にしていたのに。 …… 第2話 今住んでいる古いアパートに戻ると、佳之は無造作にショップバッグをソファへ放り投げた。 私はその時初めて、ショップバッグの表面にほんのわずかにマニキュアがこすれた跡があるのに気づいた。 その跡を見つめたまま、立ち尽くした。 着信音が鳴り響き、佳之はそこでようやくスマホの画面が点きっぱなしだったことに気づいた。 電話に出ながら、私の様子をうかがうように、恐る恐る視線を送ってくる。 「わかった、すぐ行く。仕事の話なら次からは仕事用の番号にかけてくれ。 今は家で彼女の相手をしてるんだ。俺が恐妻家だって知ってるだろ?」 けれど、画面に表示された【橘川実】という登録名が、すべてを裏切った。 先月、佳之が何気なく「新しい秘書を雇ったんだ」と言い、その名前を見せてくれたことがあった。 「実(みのる)」という名前は男性に多い印象があるため、私は深く考えもしなかった。 けれど、それが本当は「枝実子」の略だった。 そして、秘書なんて最初から存在しなかったのだ。 「会社の連中からだ。勤務時間外は連絡してくるなって言ってるのに、まったく融通が利かないんだから。 明日会社に行ったら、たっぷり絞ってやるからさ」 佳之は平然と言い放った。 あまりにもあっさりとしたその口ぶりに、信じざるを得なかった。 私はかろうじて口元を引きつらせた。胸の奥がひっくり返るように激しく波立ち、酸っぱいものがこみ上げてきて、吐き気に襲われている。 佳之は私のそんな変化に気づかず、まだべらべらと喋り続けている。 「佳之」 私はたまらず言葉を遮った。 彼が振り返った。 「どうしたの、亜矢?」 「明日、新居に引っ越そう。住むところを変えたいの」 濡れた髪を拭き取りながら呟いた私の声は、ほとんど喉の奥に消えかかっている。 佳之の手がピタリと止まった。 「亜矢、前に話し合っただろ?新居には結婚式を挙げてから入るって。それでもっと結婚の実感ができるって言ったのは、お前じゃないか」 彼には、いつも私を諦めさせるための完璧な理由があった。 けれど、私がまだ足を踏み入れてさえいないあの場所は、とうの昔に他の女に踏み荒らされていたのだ。 佳之は手慣れた様子で私の手からタオルを奪い取り、優しい手つきで髪のしずくを拭いてくれた。 口を開けば甘い言葉で呼びかけ、誰に会っても私の自慢をし、私が怒っていても忘れずに機嫌を取る。 だから私も、この男が心から自分を愛してくれていると錯覚してしまっていた。 「少し具合が悪いから、今夜は別々に寝よう」 私は冷ややかにそう言い残し、部屋へ入って鍵をかけた。 佳之がドアを叩き、どこが悪いのかとしつこく尋ねてくる。 私は無視して、布団を頭から深くかぶった。 それなのに、涙が止めどなく頬を濡らしていく。 おかしくてたまらない。 丸2年もの間、何一つ気づいていなかったのだ。 真夜中、ドア越しに、佳之が電話で話す声がかすかに聞こえてきた。どこか甘えたような響きだ。 その後、何度も深いため息をつく気配があり、リビングの明かりは一晩中点いたままだ。 …… 第3話 朝、目を覚ました時には、佳之はすでに会社へ向かった後だ。 テーブルの上には、私のために買ってきてくれた朝食が、何種類もきれいに並べられている。 洋食の朝ごはんは嫌いだと何度もはっきり伝えたのに、彼は相変わらず和食も洋食も取り混ぜて、欠かさず用意してくれる。 「いつか好みが変わるかもしれないだろ?先に用意しておくに越したことはないさ。それに、このくらいの小銭はどうってことないし」 そんな風に語る姿にはあまりにも真心がこもっており、まるで今すぐにでも私の手を取ってバージンロードを歩き出しそうなほどだった。 まだお金がなかった頃も、彼は同じだった。 ただ、貧乏なら貧乏なりのやり方があった。月に一度のフルーツ盛り合わせや、よく買ってくれた100円ショップのヘアピン。それで十分だと思っていた。 お金のことで言い争いをしたこともあった。 全財産を賭けて起業なんてするべきじゃない、私たちの家柄じゃ、負けたらおしまいなんだからと私は責めた。 佳之は黙り込んだ。 部屋の隅にしゃがみ込んだ姿は、まるで迷子の子供のようだった。 あまりにも寂しげな後ろ姿。 そんな姿を見せられて、どうして心を鬼にできただろう。 けれど彼が慌てて忘れていったリュックの中に、黒いストッキングと胸元が深く開いたロングドレスを見つけてしまった。 佳之は、私がそういう服を着るのを嫌がっていた。もうそれなりの年齢なんだから落ち着いた格好をするべきだし、そもそも自分の好みじゃないから、と。 つまり、今はそういうのがお好みになったというわけだ。 私は何も言わずにそれらを引っ込め、ジッパーを閉めた。 【亜矢、俺、リュックを忘れていかなかった?触っちゃダメだぞ!中には会社の書類ばかり入ってるから】 佳之からメッセージが届いた。 【うん、触らないよ。会社まで届けようか?】 いつも通りに返信を打ちながらも、私の手はガタガタとひどく震えている。 本当は、問い詰めたくてたまらない。一体どうして、と。 浮気をしているくせに、どうして私を一途に愛しているような振る舞いができるのか。 けれど、彼の言葉を聞くのが怖い。 「あの子のことも愛してるけれど、お前のことも愛してる」なんて。 さらに昔のように下手に出て、必死に許しを請うのだろう。 そうなれば、私はまた絆されてしまうかもしれない。 …… 第4話 佳之はリュックを届けるのを断り、家でゆっくり休んでいてくれ、昼休みに自分で取りに帰るからと言った。 それなのに、私は学校のキャンパスで、彼の車を見つけてしまった。 銀色のマセラティ。周囲の学生たちが物珍しそうに足を止めている。 道を挟んだ向こう側で、仕立ての良いスーツに身を包んだ佳之が車から降りてきた。 そこへ、講義棟から一人の女の子が走り出てきて、彼の胸に飛び込んだ。 枝実子だ。 思い出した。学部の卒業式の後にも、彼女に会ったことがある。昨年の新入生歓迎の親睦会で、指導教授の山本泰士(やまもと やすし)が私を彼女に紹介したのだ。 彼女は羨ましそうな眼差しを向けてきた。 「先輩って本当にすごいです!山本先生が、これまでの教え子の中で唯一見込んだ天才だって仰っていました。このまま研究を続ければ、博士課程なんて余裕だし、将来はこの分野のトップになれますよ!」 私のような優秀な人間になりたい、と彼女は言っていた。 そして確かに、彼女は言った通りにした。私と同じ男を、自分の恋人にしたのだから。 DNAまで、まったく同じ男を。 不意に佳之が口元を押さえ、苦しそうに身をかがめた。 私の心臓が跳ね上がり、思わずカバンの中でぜんそくの薬を探そうとした。 けれど、枝実子の方が一歩早かった。大慌てで講義棟へ駆け込み、薬を取ってきたのだ。 佳之は薬を受け取り、吸入するとすぐに落ち着きを取り戻した。 そして顔を上げ、枝実子を愛おしそうに見つめた。 心配のあまり涙ぐんだ枝実子が、怒ったように、けれど嬉しそうに佳之の胸をポカポカと叩いた。佳之はそんな彼女の頭を、優しく撫で回している。 私の心は、すっと冷めていった。 彼が着ているすべての服の内ポケットには、私が前もって忍ばせておいたぜんそくの薬が入っているというのに。 男の体の弱さは、女の守りたいという気持ちを掻き立て、心を縛り付けるための最高の武器だ。 彼はかつて、同じ手口で私をハラハラさせた。 心の底から同情を寄せさせるために。 私は本当に薬を忘れたのだと無邪気に信じ込み、正気を失うほど取り乱してしまった。 踵を返し、研究室へと向かった。そして、博士課程への進学を申請したいと申し出た。 博士課程の応募期限はすでに2ヶ月過ぎていたが、教授の泰士は喜んで力になると言ってくれた。 彼は喜びを噛み締めながら、メガネを押し上げて真剣な目で問いかけてきた。 「本当に決めたのか?」 私は力強く頷いた。 卒業したらすぐに家庭を築き、子供を産み、夫を支えながら子育てに専念しようと考えていた。 自分の修士としての教養があれば、子供を立派な人間に育て上げられるはずだと。 何度も夢にまで見た。佳之と一緒に空港に立ち、世界トップクラスの大学に進学するために海外へ旅立つ我が子を見送る姿を。 私が今世では叶えられないかもしれない夢を、その子に託すのだと。 泰士は私を連れて様々な手続きを済ませ、大学の偉い人たちに引き合わせながら、「自分の教官人生の中で、初めて出会った最高の天才だ」と絶え間なく自慢して回った。 オフィスの外のベンチに腰掛けていると、スマホが鳴った。 【ご予約いただいておりましたお品物を、当初のご住所へ発送してもよろしいでしょうか?】 私はその画面を見つめたまま、ほんの少し呆然とした。 今日は佳之の誕生日だ。一ヶ月も前から、彼のためにカフスボタンをオーダーメイドしていたのだ。世界に一つしかないデザインで。 【はい、お願いします】と返信した。 私は物事を中途半端に投げ出すのが嫌いな性分だ。 あれほど真心を込めて愛し合ったのだから、何も言わずに消えてしまうような真似はしたくない。 だから、彼にはこれからの人生、一生後悔を抱えて生きていってもらう。 せめて骨の髄まで沁みるほどの悔しさを、存分に味わわせてやる。そうしなければ、私の気が済まないのだ。 レストランを予約し、出発直前にその住所を佳之に送った。 【また俺のためにサプライズを用意してくれたのか?すぐに会社を出るから、待っててくれ!】 そのメッセージを受け取った時、私は窓辺から彼と枝実子が名残惜しそうに激しくキスを交わし、長い時間をかけてようやく離れる様子を見下ろしている。 カフスボタンは花束の中に隠されていた。 赤と青の配色がとても上品で、新進気鋭のデザイナーに依頼し、長い時間を待ってようやく作ってもらったオーダーメイド品だ。 第5話 今、私は無表情のままそのカフスボタンを外し、別のものを花束の中に差し込んだ。 佳之は息を切らせながらやって来ると、上着のスーツを隣の席に放り出し、テーブルの上で両手を組んで、いかにも私を労わるような目を向けた。 「誕生日なんて気にしなくていいって言っただろ? 次からは無理しなくていいからさ。ほら、卒業前の準備でこんなに痩せちゃって」 服を着替える暇さえなかったのだろう。彼のネクタイには、うっすらと口紅の跡が残っていた。 私は顔を上げ、至って冷静に告げた。 「博士課程への進学を決めたわ」 佳之の瞳が一瞬だけ陰り、その後まつ毛がかすかに震え始めた。 「どうして?修士を卒業したら、すぐに結婚するって約束したじゃないか」 彼の目が赤くなり、掠れた声で震えながら私の手を強く握りしめた。 「亜矢、俺の何がいけなかった?今や会社の経営も軌道に乗って、これからはもっと不自由させないし、俺は……」 私は冷たく手を引き抜いた。 まるでそれが合図だったかのように、彼の言葉が途切れた瞬間、傍らに置かれていた花束がバタリと倒れた。 中から、彼と枝実子の写真がテーブルいっぱいに散らばっている。 佳之の体が硬直していった。何度もその写真に視線を落としたが、ついに一言も発することができなかった。 「佳之、私たち、もう8年も一緒にいるのね」 私は眉をひそめた。胸が張り裂けるほどの痛みに襲われるかと思った。 けれど、そんなことはなかった。 ただ、底知れぬ失望だけを感じている。 「亜矢……」 佳之は必死に口を動かしたが、どんな言葉を紡げばいいのか分からないようだ。 私は視線を落とし、写真を一枚ずつ拾い集め、彼の目の前に丁寧に並べた。 「佳之、別れよう」 彼は呆然と私を見つめている。 何度も言葉を詰まらせ、結局、まともな弁明すら一つも口にできなかった。 けれど、もうそんな言い訳を聞くつもりは毛頭ない。だから、私は問いかけた。 「佳之は今でも私を愛してるの?」