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死後3年目、ようやく私の冤罪は晴らされた
3年前、私・篠原澪(しのはら みお)は東都中央大学で最年少の考古学者として活躍していた。 新たな遺跡の調査に向かった私は、そこで思いもよ...
Chương (1)
第1章
3年前、私・篠原澪(しのはら みお)は東都中央大学で最年少の考古学者として活躍していた。
新たな遺跡の調査に向かった私は、そこで思いもよらない事実を知る。夫・篠原晴臣(しのはら はるおみ)が大切に想い続けていた女性である吉川紗奈(よしかわ さな)が、文化財密売組織と手を組み、遺跡からの出土品を海外へ持ち出そうとしていたのだ。
計画を私に知られた紗奈は、私を20回以上も刺したうえ、証拠を隠すために遺跡を爆破した。
さらに紗奈は晴臣に、私こそが文化財密売組織と手を組み、彼女を殺そうとした、という嘘を吹き込む。そして、彼女自身は命からがら逃げ延びた被害者で、私はすでに逃亡したのだと言った。
それを聞いた晴臣は、歪んだ正義感を振りかざし、私の身に覚えのない罪を上層部へ報告した。
その結果、私は国際指名手配犯として追われる身となり、「国を裏切った犯罪者」という汚名を着せられることになった。
そして3年後――再び発掘調査が開始されたあの遺跡から、白骨化した私の遺体が発見されたのだった。
第1話
「遺跡の再調査をめぐり、現在、全国で大きな注目が集まっています。
3年前、東都中央大学の最年少考古学者である篠原澪(しのはら みお)さんが、文化財密売組織と結託し、貴重な出土品を海外へ持ち出そうとしたうえ、事件の証人を殺害しようとしたという報道が、世間を大きく騒がせました。
さらにその後、この澪さんの夫である篠原晴臣(しのはら はるおみ)教授が自ら上層部へ彼女の罪を告発したことが、彼女の罪を裏付ける決定的な証言として扱われました。
かつては考古学界の期待の星として称賛されていた彼女でしたが、一転して世間から激しい非難を浴び、『国を裏切った犯罪者』という烙印を押されることになったのです。
そして3年が経った現在……この遺跡の再調査には、澪さんの夫だった篠原教授と、事件の証人が自ら調査隊を率いて参加する予定だそうです」
「……」
私は宙に浮かびながら、記者が淡々と読み上げる、私が3年前に犯したとされる罪を聞いていた。
そのニュースはライブ配信されていて、数百万人という人が見ていた。コメント欄には「国を裏切った犯罪者」という言葉が次々と流れていく。その一つひとつが、まるで刃物のように私の心をえぐった。
中には、文化財を不法組織に渡したのだから、きっと大金を受け取って海外へ逃げたに違いない。そうでなければ、3年もの間、捕まらないのはおかしい、と勝手な憶測をする人までいた。
私は今すぐにでも、彼らに向かって叫びたかった。私は文化財密売組織とも繋がっていない。「国を裏切った犯罪者」なんかじゃない、と。
でも、私にはもう何もできない。
私は3年前、すでに死んでいるのだから。
遺跡が爆破されたあの日、すべての真実は瓦礫と土の中に埋もれた。
そして私の魂もまた、遺跡の中に3年間閉じ込められていたのだが、遺跡の再調査が始まったことで、今日ようやく、私は外へ出ることができたのだった。
私は当初、今回の再調査は遺跡に残された文化財を探すためだけではなく、きっと私の遺骨を見つけるためでもあるのだと思っていた。
しかし違った。『年前、吉川紗奈(よしかわ さな)は私を殺しただけではなく、すべての罪を私になすりつけ、私を犯人に仕立て上げていたのだ。それどころか、10年間連れ添った夫までもが、彼女の嘘を信じ、私を告発していたなんて……
紗奈の言葉が人々に私への疑念を抱かせ、晴臣の証言が決定打となったのだろう。それによって私は、世間から永遠に許されない罪人としての烙印を押されていたのだ。
この3年間、どうやら私は濡れ衣を着せられ続けていたようだ。
「篠原教授、かつて爆破されてしまったこの遺跡を、なぜ今改めて調査することにしたんですか?」
紗奈を連れた晴臣が姿を現すと、すぐさま記者団が取り囲んだ。
「3年前は発掘技術が不十分で、遺跡の崩壊した部分を調査できませんでした。しかし、今は技術も向上し、遺跡に埋もれた残りの遺物と、例の文化財密売組織の手がかりを掴める可能性があると思ったんです」
晴臣は以前と変わらず、澱みのない冷静さで質問を返している。
「奥様である篠原澪さんは、3年間、篠原教授に一度も連絡を取っていないのでしょうか?」
私のことが出た瞬間、晴臣の表情が険しいものになった。まるで、私の名前自体が忌まわしいドブネズミだと言わんばかりに。
「彼女は国際指名手配犯です。きっと人目のつかない所に隠れてるのでしょうから、僕に連絡などできるはずがありませんよ。
それに……」
晴臣は一呼吸置き、その冷徹な瞳で真っ直ぐにカメラのレンズを覗き込んだ。
「彼女が少しでも僕に連絡をとってきたら、その時は迷うことなく警察に通報します。
この国を裏切った犯罪者を許してはいけませんから」
コメント欄には、まるで晴臣を崇めるかのような言葉、と私の裏切りを非難する言葉だけが溢れる。
私はただ呆然と晴臣の姿を見つめていた。なぜだか、彼がまるで知らない人のように思える。
告発したのが晴臣だということは、記者の読み上げる記事を聞いていたから知ってはいた。それでも、彼の口から直接語られる現実を目の当たりにした今、心臓が握り潰されるような痛みに襲われた。
晴臣と働いて6年間、結婚してからは4年。
10年も一緒にいたのに、どうやら私は彼からの信頼を得られていなかったようだ。
すると、紗奈が晴臣の横に立ち、記者に向けて穏やかに付け加えた。「篠原先輩の人柄は私たちが一番理解しています。彼は決して、犯人を匿うような人ではありません。
では、作業がありますので。失礼いたしますね」
晴臣は紗奈の顔を見て頷き、二人は息の合った様子で手袋をはめると、作業服を身につけ、遺跡へと向かって歩き出す。
その光景を見て、私は少し唖然としてしまった。
あの頃、私と晴臣は一番お互いを理解し合える最高の相棒だったのに。
私は今やただの彷徨える魂。そして晴臣の隣には、私を死に追いやった張本人が平然と立っている。
遺跡の奥へ進む晴臣たちのあとを追い、私も遺跡に入った瞬間、アシスタントの野口直也(のぐち なおや)が声を上げた。
「篠原教授、吉川さん!急いでこちらに!人骨を発見しました!」
第2話
それを聞いた晴臣はすぐに歩みを早めたため、彼のそばにいた紗奈の目に浮かんだ一瞬のうしろめたさには、まったく気づいていないようだった。
直也のもとへ駆けつけると、晴臣は目の前の白骨を覗き込み、眉をひそめて言った。「そこまで古くないから、この遺跡に埋められていたものじゃないだろう。
何者かがここに死体を遺棄した可能性が高い。まずは通報しよう」
晴臣が紗奈に目線で合図を送ると、紗奈は引きつった表情で小さく頷き、スマホを取り出した。
警察と検視官が現場に到着する頃、骨はすべて掘り起こされていた。
私はその無残な骨を見つめた。もし3年間、ずっと向き合ってこなかったら、きっと私自身でさえ、それが自分のものだとは気づけなかっただろう。
白骨化した遺体を注意深く観察した検視官が結論を出す。
「死亡時期はおおよそ3年前と見られます。直接的な死因はまだ不明ですが、強い衝撃か爆発があったのか、骨には多くの骨折痕が見られました。詳細は署へ持ち帰ってから、もう一度詳しく調べる必要がありますね」
その言葉に、現場が静まり返った。
直也は晴臣にちらりと目線を向けてから、意を決したように切り出した。「篠原教授、3年前この遺跡は何者かに爆破されましたよね。それに、澪さんもそれ以来ずっと行方不明です。もしかして……」
それ以上直也は言葉を続けなかったが、その場にいる全員が何を言いたいのか理解していた。
しかし、晴臣は皮肉な笑みを浮かべた。「あいつは罪から逃げるためにどこかへ隠れただけさ。ここで死んでいるはずがないだろ?
当時、あいつは文化財密輸組織とつるんでいたって紗奈から聞いたんだ。だから、これはその構成員か何かの死体だろう。おそらく澪のやつが捜査を撹乱するために、わざと身代わりにしたに違いない」
私のことについて話していた晴臣は深く息を吐き出し、嫌悪感を露わにする。まるで、名前を口にするだけで吐き気がするという態度だ。
「直也、あいつは金のためなら何だってやる。人の命さえなんとも思わない女なんだよ。
それと、もう二度とあんな犯罪者の名前を出すな。聞くだけで気分が悪くなる」
その最後の一言が、長年積み上げてきた私のすべてを砕いた。
考古学を人生そのものだと思ってきた私が、今では世間から犯罪者扱いされている。ましてや、自分の夫にまで「犯罪者」と呼ばれ、あんなにも毛嫌いされているなんて……こんなにも皮肉なことがあるだろうか。
直也は唇を噛み締め、ただ黙ってうつむいた。
すると、晴臣を憂うような表情をした紗奈が、彼の肩をそっと叩く。
「先輩、大丈夫よ。澪さんはきっと捕まるから」
晴臣は拳を強く握りしめた。「ああ。あんなやつはそれ相応の罰を受けなければならない」
私は自分の透明な身体を見つめながら、力なく笑みをこぼした。
罰?
それはもう受けている気がする。
しかしそれは、違法行為に対する罰ではなく、紗奈を、そして晴臣を信じきってしまったということへの罰。
第3話
かつて晴臣は、私のことを誇らしげに語ってくれていた。東都中央大学で最年少の考古学者として認められていた私は、実力も実績もあった。だからこそ晴臣の心を射止めることができたし、やがて私たちは結婚して、考古学者夫婦として注目されるようにもなったのだ。
私たちの夫婦生活はいつもべったりというようなものではなかったが、平穏で、喧嘩ひとつしたことがなかった。
そんな私たちが初めて激しくぶつかったのは、私が死ぬ半年前のこと。晴臣が突然、「考古調査隊に新しいメンバーを加えたい」と言い出した。そして、その人物こそが、海外から戻ってきたばかりの彼の後輩――紗奈だったのだ。
しかし、東都中央大学の考古調査隊は、毎年個人の能力を基準に選抜されるため、特別扱いや推薦枠などは、これまで一度も認められたことはなかった。そのうえ、その年の選考はすでに終わっていた。
私は晴臣と、結婚して以来初めてとなる激しい口論をし、晴臣を、紗奈に何か特別な感情でもあるのか、と問い詰めた。
そう問い詰める私に、晴臣は「疑い深すぎる」と私を罵り、紗奈はただの後輩で少し気にかけてやっているだけだ、と言った。
結局、その口論は晴臣が何も言わずにドアを強く閉め、出て行くことで終わった。
あんなにも感情をむき出しにする晴臣を見たのは、それが初めてだった。
普段の彼は、私に対しても周囲の人間に対しても、いつも淡々としていた。だから周りの人たちも、彼を感情に流されない落ち着いた人、だとよく褒めていた。
でも今なら分かる。それは冷静だったわけではなく、ただ、私のことをそれほど大切に思っていなかっただけなのだ。
結局、紗奈は考古調査隊に加わった。晴臣が上層部をどう説得したのかは分からないが、そうなった以上、私も受け入れるしかなかった。
それからの半年間、私と晴臣との関係は氷のように冷え切った。
私は紗奈に対して好感を抱いてはいなかったが、特に意地悪をするつもりもなかった。それに、紗奈には才能があると感じたため、私自身のプロジェクトに参加させるなど、正当に評価しようと努めた。
そして3年前、あの新たな遺跡が発見された。私はいつものように調査隊を率いて初期調査を終えると、いくつかの出土品を東都中央大学へ持ち帰り分析を進め、本格的な調査を1週間後に始める予定でいた。
だが翌日、私はふと、もう少し詳しく調べるために、追加でいくつかの出土品を持ち帰ろう、と思い立ち、誰にも告げず、一人で遺跡へ向かった。
そこで、まさかあんな現場に遭遇するとは思いもしなかった。
数人の男たちが、遺跡から出土品を運び出していて、少し離れた場所では、紗奈がその男たちのリーダーと思われる人物と話をしていたのだ。
考古学者である私は、紗奈が出土品を文化財密売組織に流そうとしているのだと、一瞬で理解した。
しかも、彼らの手際の良さを見る限り、こんなことをするのは今回が初めてではないということも明らかだった。
この半年間、なぜか出土品の記録と数が合わなかったことに、私は違和感を抱いていたのだが、その理由も瞬時に判明する。
私は静かに遺跡から抜け出し、警察へ通報するつもりだったのだが、不注意にも物音を立ててしまい、彼らに気づかれてしまった。
紗奈は密売組織の人間たちと共に私を拘束した。そして――20回以上も刃物で私のことを滅多刺しにしたのだった。さらに、彼らは私から身元の特定ができるものはすべて奪い、それだけで終わらず、遺跡の中心部に爆薬まで仕掛けた。
「人は金のために命を懸けるもの。あなたが私の邪魔をするなら、容赦する理由なんてないのよ」
紗奈はそう言い残すと、男たちを先に逃がし、自分だけが奇跡的に脱出したように見せかけた。そして、私がすでに逃亡したという、あの嘘を作り上げたのだ。
あの時の私は、もうわずかに息が残っているだけで、その後すぐに起こった爆発の衝撃で意識を失い、次に目を覚ました時には、もう肉体を失った魂になっていた。
土の中に埋もれたまま、私は3年もの時を過ごした。
そして今日、ようやく私の遺骨は日の光の下へ戻ってきたのだった。
第4話
私は紗奈が憤りに満ちた表情を浮かべ、まるで私の行いを心の底から憎んでいるかのように、晴臣に同調する姿を眺めていた。
正直に言うと、今の私の心に渦巻いているのは、紗奈への恨みではなく、彼女が文化財密売組織と結託し、この国の文化財を海外へ不正に流出させたことに対する憤りだった。
考古学の道に進む者は、多かれ少なかれこのような志を持っているような人々だろう――命を懸けて文化財を守り、後世へ残す、と。
それは単なる言葉ではなく、私たち考古学者にとって、決して揺らぐことのない信念でもあった。
たとえ私が考古学者ではなかったとしても、自国の貴重な文化財が海外へ流れていく姿を見れば、胸を痛めずにはいられないだろう。
一体どれほど冷酷になれば、こんなことができるのだろう。
今、遺跡の周囲に残されている前回被害にあわずに済んだ出土品を見つめていた私は、みんなに叫びたかった。紗奈こそが本当の裏切り者だ、彼女をこれらの文化財に近づけてはいけない!
しかし、私の声が届くことはない。
私はただ宙を漂いながら、彼女が誰にも疑われることなく、自由に遺跡へ入っていく姿を見ていることしかできなかった。
警察が私の遺骨を持ち帰り、鑑定を進めた後も、私はなぜかこの世から消えることはなく、それどころか、晴臣のそばについて行くことができた。
その日の調査を終えた考古調査隊は、出土品を東都中央大学へ持ち帰って分析することになったため、私は晴臣と共に大学へ戻った。
懐かしい研究室を目にした瞬間、思わず鼻の奥がつんとした。3年ぶり……ようやく、私はここへ帰ってくることができたのだ。
紗奈は研究室に入ると、すぐに椅子に腰を下ろし、自分の両脚をさすり始める。
それを見た晴臣は、すぐに彼女の前にしゃがみ込み、大きな手で優しく足を揉みながら、心配そうな表情を浮かべた。
そんな表情を、私はほとんど向けられたことがなかった。
かつて私が出産時に難産となり、生死の境をさまよった時でさえ、手術室から出てきた私を見ていた晴臣の表情は、まるで私がただ眠りから目覚めただけだというように、いつもと変わらず淡々としていた。
「いつになったら良くなるんだろうな……3年前、澪が遺跡を爆破しなければ、落ちてきた瓦礫で君が怪我をすることもなかったのに」
紗奈は小さく笑った。「先輩、私は大丈夫。あの出来事があったからこそ、私たちは彼女の本性を知ることができたんだから」
その時、小さな体がよちよちと紗奈に駆け寄ってきた。そのまま彼女の脚にしがみつくと、可愛らしい声で、「ママ」と呼ぶ。そして晴臣の方を振り返り、「パパ」と言った。
3年前、地下深くへ埋められた時、私は泣かなかった。
冤罪をなすりつけられ、3年も罪人にされていたことを知った時も、私は泣かなかった。
しかし今、「ママ」というその声を聞いた瞬間、私は涙をこらえることができなかった。
この子は私の娘、篠原希美(しのはら のぞみ)。
なのに、私を殺した女のことを、希美はママと呼んだ。
なんて惨めなのだろう。
3年前の希美は、まだ10ヶ月の、抱っこなしでは生きていけない赤ん坊だった。
今では自分の足で歩き、背も随分と伸びている。
この3年、私はずっと晴臣と希美を思い焦がれてきた。
なのに、晴臣の中で、私は犯罪者となり、娘の希美は紗奈を母親だと思い込んでいる。
紗奈は慣れた手つきで、希美の頬をつまんだ。
「希美、なんでここにいるの?今日、パパとママはお仕事だから、一緒にいられないのよ」
その言葉を聞く晴臣の態度はとても穏やかで、この現状を彼自身が許容しているのがよくわかった。
この3年間、数え切れないほど繰り返されてきたのだろう。だからこそ希美も紗奈を母親だと信じ切り、ここまで懐いているのだ。
この光景を眺めていた私の教え子である森川拓也(もりかわ たくや)が、冷やかしを飛ばした。「篠原教授、紗奈さん、いつになれば結婚式に呼んでもらえるんですか?希美ちゃんだって紗奈さんのことママって呼んでいるんですから、そろそろ夫婦になってもいいと思いますけど」
紗奈が恥ずかしそうに晴臣へと視線を向ける。
「それは……先輩が決めることだから」
第5話
その紗奈の言葉に、考古調査隊のメンバーたちも囃し立てた。
「篠原教授、早くはっきりさせてくださいよ」
「そうですよ。紗奈さんのことそんなに待たせちゃ駄目ですよ?誰かに奪われちゃっても知りませんからね」
「……」
私がかつて大切に育てたメンバーたちが、私の夫と私を殺した犯人をくっつけようとしている。
私の娘でさえ、何が起きているのかも分からないまま、紗奈の手にすがりついて、「ママ」と呼んでいた。
研究室全体が笑い声に包まれ、かなりの盛り上がりを見せていた。
彼らの軽薄な言葉を聞くたび、心臓を巨大な手でぐいと握りつぶされるように、私は息もできなかった。
晴臣が困ったように笑う。
「もういいだろ?まだ澪は見つかっていないから、まだ籍が入ったままなんだ。みんな、そんなこと言って紗奈を困らせないでくれ」
どうやら、晴臣が紗奈と一緒にならないのは、まだ私との離婚が成立していないかららしい。
すると、拓也が嫌悪感を露わにして吐き捨てた。
「まったく、国を裏切ったあの犯罪者が、前は自分の先生だったなんて、信じられません!本当、考古学界の恥ですよ!
当時、篠原教授が身内だからといって庇わず、正しく告発してくれたおかげで、みんなあの女の本性に気づけました。
どうせ自分が指名手配されたと知って、海外に逃げたんですよ。まったく、とんでもない人間です。篠原教授や紗奈さんの人生までめちゃくちゃにして……」
私は、かつて一言一言、時間をかけて指導してきた教え子が、ためらいもなく私を侮辱する言葉を聞いていた。胸の奥がすーっと冷えていく。
私が濡れ衣を着せられたと知った時、考古調査隊の中にはきっと私を信じてくれる人がいると思っていた。
長年共に仕事をしてきた仲間たちなら、私がどんな人間なのか分かっているはずだと信じていたから。
だが現実は、私の期待をあっさりと裏切った。
長年連れ添った夫も、苦労して育てた教え子も、誰一人として私を信じてはくれなかった。
それもそうだろう。私を告発したのは、ほかならぬ晴臣なのだから。
普通、夫が妻を理由もなく陥れたりするはずがない。
だから、私が余程許しがたい悪事を働いたからこそ、夫である晴臣がやむを得ず告発した、と思っているのだ。
今やみんなの目には、私が国を裏切り、私腹を肥やすために殺人にまで手を染めた罪人として映っている。
紗奈が白々しく溜息をついた。
「澪さんは若くして優秀な考古学者だったのに、どうして道を踏み外してしまったのかしら……」
私は紗奈の嘘に塗れた表情を見て、その仮面を今すぐにでも引き剥がしてやりたくなった。
晴臣も眉をひそめ、露骨な不快感を見せる。
「強欲な人間っていうのは、際限を知らないものなんだよ。あいつの本性を見抜けずに、結婚したことを心底後悔してる」
その言葉が終わるのと同時に、直也がドアを叩き割るような勢いで研究室に入ってきた。スマホを握りしめ、焦りからか肩で息をしている。
「篠原教授、例の白骨死体の鑑定結果が出ました!
DNAデータベースと照合した結果、あの遺体は……澪さんのものでした。
3年前に失踪した、現在国際指名手配犯の……あの澪さんです」