101回目の求婚より、私は別れを選んだ

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101回目の求婚より、私は別れを選んだ

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私――水城美月(みずき みづき)は、国民的人気俳優の桐谷怜司(きりたに れいじ)と、ある約束を交わしていた。 SNSのライブ配信で、みんなが...

Chương (1)

第1章

私――水城美月(みずき みづき)は、国民的人気俳優の桐谷怜司(きりたに れいじ)と、ある約束を交わしていた。 SNSのライブ配信で、みんなが見ている前で彼に99回プロポーズすること。 そうすれば100回目のプロポーズで、彼が私との交際を公表してくれるはずだった。 ところが100回目のプロポーズの日、怜司は売り出し中の若手女優、篠宮沙耶(しのみや さや)とプライベートヨットに乗り、親しげに笑い合いながらキスシーンの練習をしていた。 私は、すっかり世間の笑いものになった。 後ろめたく思ったのか、怜司からLINEが届いた。 【101回目なら、今度こそみんなの前でちゃんと応える】 今度は、スーツをきっちり着こなした怜司が、私の配信に姿を現した。 けれど私は彼の目の前で、これまで怜司に宛てて書いた100通のプロポーズの手紙と、その中に忍ばせていた胃がんの診断書に火をつけた。 「101回目は、もうない」 第1話 私――水城美月(みずき みづき)は、国民的人気俳優の桐谷怜司(きりたに れいじ)と、ある約束を交わしていた。 SNSのライブ配信で、みんなが見ている前で彼に99回プロポーズすること。 そうすれば100回目のプロポーズで、彼が私との交際を公表してくれるはずだった。 ところが100回目のプロポーズの日、怜司は売り出し中の若手女優、篠宮沙耶(しのみや さや)とプライベートヨットに乗り、親しげに笑い合いながらキスシーンの練習をしていた。 私は、すっかり世間の笑いものになった。 後ろめたく思ったのか、怜司からLINEが届いた。 【101回目なら、今度こそみんなの前でちゃんと応える】 今度は、スーツをきっちり着こなした怜司が、私の配信に姿を現した。 けれど私は彼の目の前で、これまで怜司に宛てて書いた100通のプロポーズの手紙と、その中に忍ばせていた胃がんの診断書に火をつけた。 「101回目は、もうない」 …… 怜司は、少しずつ燃えていく手紙を見つめていた。 次の瞬間、怜司はとっさに上着を脱ぎ、燃えている手紙にかぶせて火を消そうとした。 目を真っ赤にした怜司は、何万人もの視聴者が見守る中、白いバラの花びらに覆われたソファに私を押さえつけた。 「何のつもりだ?俺をからかってるのか?」 怜司のマネージャー、黒川修一(くろかわ しゅういち)が慌てて配信を切った。 私は何も答えなかった。 怜司との距離は、あまりにも近かった。 沙耶と同じ香水の匂いが、怜司の身体にかすかに残っているのがわかるほどだった。 ふと、大学を卒業したばかりの頃を思い出した。怜司はまだ撮影現場を転々とし、エキストラや端役をこなしていて、私の手を握ると真剣な顔で言った。 「美月、俺が主演男優賞を取ったら、結婚しよう」 ところが、怜司が本当に主演男優賞を取ると、今度は新しい条件を出してきた。 ライブ配信で、みんなの前で100回プロポーズすること。それをやり遂げたら、人気俳優という立場も世間の目も気にせず、私との交際を公表すると言ったのだ。 私が配信で必死にプロポーズを繰り返し、そのたびに笑いものになっている裏で、怜司は次々と若い恋人を連れ、世界各地の高級ホテルや豪華ヨットで夜を共にしていた。 それどころか、海外ならではの婚姻文化を体験してみたいというだけで結婚までし、ほどなく離婚したことさえある。 私が夢にまで見たものを、ほかの女たちはいつも、いとも簡単に手に入れてしまう。 そう考えると、自嘲めいた笑みが口元に浮かんだ。 「怜司、101回目はもうない。もう疲れたの。全部、終わりにしよう」 怜司は一瞬、呆気に取られたように私を見つめた。 やがて何かを察したのか、鼻で笑った。 「100回目に俺が来なかったから、腹いせに手紙を全部燃やしたってわけか? あれだけ大勢の前で俺に恥をかかせておいて、婚約者なら俺の気持ちくらい考えろよ」 これで怜司は、望んでいた自由を手に入れられるはずなのに。 それなのに、どうして少しも肩の荷が下りたように見えないのだろう。 以前の私なら、こんなふうに責められた途端、必死になだめて、許してもらおうとしていただろう。 けれど今は、傷つきすぎたせいか何も感じず、言い返す気力すら湧かなかった。 それに、残された時間はもうわずかだ。これ以上、怜司のために使いたくはなかった。 「100回目のプロポーズはもう終わった。私たちも、これで終わり」 その言葉を聞くと、怜司はふっと表情を緩めた。どうせ本気じゃないと思っているのだろう。 「意地を張るなよ、美月。7年も一緒にいたんだぞ。本気で別れられるわけないだろ。 わかったよ。101回目こそ、ちゃんと応えてやる」 私は黙ったまま、昔、怜司が手作りしてくれた指輪を外し、彼の目の前でごみ箱に投げ捨てた。 それから怜司に背を向け、その場を立ち去った。 修一が言いにくそうに口を開いた。 「怜司、水城さんは今度こそ本気なんじゃないか?」 怜司は遠ざかっていく私の背中にちらりと目をやり、冷たく言った。 「3日もすれば、また泣きついてくるさ。 今までだってそうだっただろ。あいつは俺から離れられない」 第2話 修一はうなずいた。 「まあ、そうだな。水城さんが君と別れられるとは思えない。君に夢中で、これまでどれだけ無茶してきたか、みんな知ってるしな」 確かにそうだった。 この数年、私は怜司のことで何度も取り乱し、自分を大切にすることさえ忘れていた。そんな中、がんまで見つかった。 怜司があれほど好き勝手できたのも、私が何をされても離れないと思っていたからだ。 けれど、それも今日までだ。 私は乾いた笑いをこぼし、足早にその場を離れた。 翌日、怜司は新恋人と噂されている沙耶を連れ、事務所にデートしにやって来た。 同僚たちは心配そうに私を見ていた。 けれど私は何事もなかったように、退職届を提出した。 人事部長は驚いたように私を見た。 「水城さん、急にどうしたんだ?優秀なマネージャーなのに、辞めるなんてもったいないじゃないか。桐谷さんに新しい恋人ができたからか?」 私は力なく唇を結んだ。 誰もが、私がここにいるのも、ここを去るのも、すべて怜司のためだと思っている。 自分のために選んだことだとは、誰も考えてくれない。 「……まあ、そんなところです」 「でも、君が辞めると知ったら、桐谷さんはかなり怒るんじゃないか?」 人事部長はそうつぶやきながらも、退職届に受理印を押した。 ようやく自由になれた。 自分のデスクに戻ると、沙耶の肩を抱いた怜司がこちらへ歩いてきた。 「美月、俺の新しい彼女、どう思う?」 私は怜司の隣にいる沙耶へ目を向けた。 「きれいね」 私の答えが意外だったのか、怜司は一瞬たじろぎ、顔をこわばらせた。 「美月、お前……変わったな」 確かに、私は変わった。 以前の私は独占欲が強く、怜司に女の噂が出るたび、黙っていられなかった。 すぐに嫉妬し、嫌われたのではないかと不安になっては、周りが見えなくなるほど取り乱していた。 怜司は沙耶を外へ出すと、探るような目で私を見た。 「美月、もう2日も経ってるんだぞ。いつまで怒ってるつもりだ? 100回目のプロポーズに顔を出さなかっただけだろ。そんなに怒ることか?家にまで帰ってこないなんて、さすがにやりすぎだろ。 何年一緒にいると思ってるんだ。最後にはちゃんとけじめをつけるって言っただろ。それでも俺を信じられないのか?」 ここ数日、体調が悪く、流動食でしのいでいた。 何を食べても吐いてしまっていたからだ。 体調のせいなのか、それとも怜司の言葉に心底うんざりしたせいなのか。急に吐き気がこみ上げ、私はその場で吐いてしまった。 怜司は顔を引きつらせ、歯を食いしばった。 「美月、何なんだよ。結局、俺と結婚したいのか、もうしたくないのか、どっちなんだ?」 私はティッシュを取り出し、口元を拭った。 「ちょっと気分が悪くなっただけ」 怜司は一瞬言葉を失い、苛立ったように背を向けた。 「もういい。勝手にしろ!」 その背中を見送っても、胸は少しも痛まなかった。 仕事の引き継ぎに追われ、気づけば夕方になっていた。 修一が私のデスクまで来て、リバイバル上映中の名作アニメ映画のチケットを一枚差し出した。 「怜司が口下手なのは、君も知ってるだろ。やることはめちゃくちゃだけど、君のことを大事に思ってるのは本当だ。 前からこの映画を見たいって言ってただろ。あいつ、それを覚えてて、すぐにチケットを取ったんだ。 今夜9時、映画館の入り口で待ってる。……行ってやってくれないか」 私はしばらく、そのチケットを見つめた。 これが怜司なりの仲直りの合図で、私への埋め合わせでもあることはわかっていた。 少し迷った末、私はチケットを受け取った。これくらい受け取る権利はあると思ったからだ。 夜9時、約束の時間ぴったりに映画館へ着いた。 帽子を目深にかぶり、マスクで顔を隠した怜司が、私の隣に現れた。 ところが、その後ろには、同じような格好で顔を隠した沙耶もいた。 私が沙耶に目を向けると、怜司はかすれた声で言った。 「俺たちの新作、もうすぐ公開だろ。宣伝には話題作りも必要なんだ」 私は気にすることもなく、そのまま中に入り、自分の席に着いた。 第3話 付き合って何年たっても、私は何度も、普通の恋人みたいに怜司と映画を観に行きたいと言った。そのたびに怜司は私の頭を軽く撫で、決まってこう言った。 「今の俺は芸能人だ。一緒にいるところを撮られたら、仕事に響くだけじゃない。お前までネットで特定されるかもしれない。 そんな目に遭わせたくないんだ」 けれど売れてからの怜司は、共演女優との親密ぶりをアピールしたかと思えば、今度は別の女性歌手と海外のリゾートへ出かけていた。 そのたびに聞かされた言葉が今になって耳の奥によみがえり、信じ続けた自分がひどく滑稽に思えた。 映画の途中、沙耶が甘えるように怜司の耳元へ顔を寄せた。 「怜司さん、映画館の外、記者でいっぱいです。少し早めに出ませんか?」 「俺たちは先に出る。お前は少ししてから出てきてくれ」 怜司は私の返事も待たず、沙耶を連れて先に出ていった。 私はそのまま席に残り、エンドロールが終わるまで静かに映画を観た。 もう、私を愛していない男のことで、苦しんだり不安になったりはしない。 これからは、残された時間を自分のために使い、怜司に注いできた気持ちも自分に向けよう。 久しぶりに最後まで映画を楽しみ、そのあと病院へ向かった。 胃がんの痛みでまともに眠れず、楽になるには病院で痛み止めの点滴を受けるしかなかった。 鼻をつく消毒液の匂いの中、テレビに流れる芸能ニュースをぼんやり眺めていた。 【人気俳優と注目の若手女優が映画館デート。街中で熱いキス……】 ニュースを眺めているうちに、いつの間にか眠っていた。浅い眠りの中、胸元に置いたスマホが何度も震えているのだけは、ぼんやりわかった。 家に戻ったのは、深夜になってからだった。 家の前まで来ると、玄関先に背の高い人影が立っているのが見えた。 怜司だった。 これまでは、怜司が外で酔いつぶれたり、撮影が深夜まで長引いたりするたび、酔い覚ましのお茶や胃にやさしいおかゆを手に、バーや撮影所の前で夜遅くまで待つのはいつも私だった。 けれど、怜司はそんな私の気遣いをいつも煙たがっていた。 私が心配を口実に彼を見張り、私生活にまで口を出していると思っていたのだ。 まさか、その怜司が私の帰りを待つ日が来るなんて思わなかった。 私を見つけるなり、怜司は駆け寄ってきて、強く抱きしめた。 「映画はとっくに終わってるだろ。どこに行ってた?どうしてこんな時間まで帰ってこなかったんだ。俺がどれだけ心配したと思ってる。 今日出てるニュースは気にするな。そう見えるように撮られて、勝手に騒がれてるだけだ。本当じゃない」 一瞬何の話かわからなかったが、少し考えて、ようやく映画館のニュースを指しているのだと気づいた。 「平気。ああいうのには、もう慣れたから」 私の反応があまりに薄かったからか、怜司はこれまで自分がしてきたことを思い出したらしい。珍しく、ばつの悪そうな顔をした。 やがて怜司は小さな箱を取り出し、私に差し出した。 中には、大粒のダイヤが輝く指輪が入っていた。 私は思わず、その指輪を見つめた。 何度も夢に見た光景だった。 怜司が自分の手で私の指に指輪をはめ、これから先も一緒にいると誓ってくれる日を、ずっと待ち続けていた。 けれど今は、目の前の指輪を見ても、胸は少しも高鳴らなかった。 私は何でもないもののように、指輪の箱を玄関の靴箱の上に置いた。 その反応に怜司は顔色を変え、眉をひそめたまま私のあとを追って部屋に入ってきた。 「美月、お前、本当に変わったな。前なら、もっと……」 怜司が言いたいことはわかっていた。 怜司は、指輪を見せれば私が泣いて喜び、そのまま抱きついて、これまでのことを全部忘れると思っていたのだろう。 そう思うと、口元がわずかにゆがんだ。私はわざと明るい声を出した。 「わあ、ダイヤの指輪。すごく大きいね」 「気に入ったか?」 怜司は返事を待つように、じっと私を見た。 私は笑ったまま答えた。 「まあ、気に入ったかな」 以前の私なら、たとえ怜司が手作りしてくれた安いシルバーリングでも、宝物みたいに毎日欠かさずつけていた。 これだけ大きなダイヤなら、気に入らないはずがない。 第4話 怜司はふっと表情を緩め、笑った。 「気に入ったならよかった。約束どおり、101回目にはちゃんと応える。会場も演出も全部俺が用意するから、お前はウエディングドレスで来ればいい。 もう全部手配してある。だから、そろそろ機嫌を直してくれよ」 私は真剣な顔で話す怜司を見つめた。 「……わかった」 その気のない返事に、怜司はようやく違和感を覚えたようだった。 怜司が私の手を取ろうとしたそのとき、スマホがけたたましく鳴った。電話に出て少し言葉を交わしたあと、怜司は申し訳なさそうに私を見た。 「監督からだ。何カットか撮り直すことになったらしい。悪い、行かないと」 私は嘘だとわかっていたが、何も言わなかった。 電話の向こうから、沙耶の声がはっきり聞こえていたからだ。 「わかった。行ってきて」 私が何も聞かずにいると、怜司の目にかえって焦りが浮かんだ。唇をきゅっと結び、少し言いよどんでから続けた。 「明日の夜は、ウエディングドレスで来いよ。今度こそ、盛大なプロポーズにしてやる。 人気俳優とマネージャーの7年越しの恋が実ったって、きっと話題になる。少しは楽しみにしてろよ」 そう言い残すと、怜司は慌ただしく出ていった。 マネージャー、か。 怜司は、私がもう辞めたことさえ知らない。 そんな人に、いったい何を期待しろというのだろう。 私は苦笑し、指輪のことはもう考えずに、シャワーを浴びてベッドに入り、そのまま眠った。 翌日、インターホンが鳴った。 ドアを開けると、そこにいたのは沙耶だった。 私はわずかに眉を上げた。 「何しに来たの?」 「今夜、プロポーズすることになってるんですって?」 沙耶はやわらかな声で切り出した。 「昨日の夜、私が電話したら、怜司さん、すぐに会いに来てくれたんです。本当に美月さんを愛してるなら、私のところへ来たりしませんよね?」 沙耶は目を細めて、かわいらしく笑った。その笑顔が、若い頃の私によく似ていた。 私は淡々と返した。 「そんなに大事にされてるなら、どうして結婚してもらえないの? 昨日会ったとき、あの指輪でプロポーズしてって頼めばよかったじゃない」 沙耶の笑顔がこわばった。痛いところを突かれたのか、声を落として言い返した。 「怜司さんに愛されてないのは、美月さんのほうでしょう?私たちの邪魔をしてるのも、美月さんじゃないですか? 昔の恩があるから、怜司さんも仕方なく結婚するだけでしょう?もう若くもないし、きれいでもない美月さんが、私に勝てると思ってるんですか?」 これ以上相手にする気もなく、私は玄関の靴箱の上に置いてあった指輪を手に取り、沙耶に差し出した。 「この指輪、あげる。今夜のプロポーズも譲るわ。怜司が本当にあなたを選ぶか、試してみれば?」 沙耶は驚いたように私を見た。 「じゃあ、そうさせてもらいます」 沙耶は歯を食いしばると、私の手から指輪をつかみ取り、怒ったまま帰っていった。 沙耶が帰ると、私はようやく息をつき、荷物をスーツケースに詰めて空港へ向かった。 飛行機に乗る直前、スマホに怜司からのメッセージが届いた。 【今夜の101回目は、俺からプロポーズする。必ず来てくれ】 私は笑って、怜司の番号を着信拒否にし、SNSもすべてブロックした。ほかの人たちの連絡先も消し、この街を離れた。 午後8時、予定どおりプロポーズの生配信が始まった。 私を笑うつもりで集まっていた視聴者たちは、画面に現れたのが怜司本人だとわかると、一気にざわついた。 怜司は片膝をつき、ウエディングドレス姿の女性が近づいてくるのを待っていた。 やがて足音が近づき、相手の顔が見えた瞬間、怜司は目を見開いた。勢いよく立ち上がると、目の前の女に怒鳴った。 「なんでお前なんだ?」