家を出た全国トップ、逆転人生の幕開け

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大学入試の結果が出た日、私・一ノ瀬寧々(いちのせ ねね)はいつもの癖でリビングに向かって叫んだ。 「お父さん、お母さん!苦手だった教科...

Chương (1)

第1章

大学入試の結果が出た日、私・一ノ瀬寧々(いちのせ ねね)はいつもの癖でリビングに向かって叫んだ。 「お父さん、お母さん!苦手だった教科の自己採点が満点だったよ! これで東都の大学に行って、お兄ちゃんと冬馬に会いに行けるね!」 返ってきたのは、相変わらずの静寂だけだった。 ソファには、4つの小さな人形が座っていた。 父と母、兄・一ノ瀬駿(いちのせ しゅん)、そして幼馴染の藤代冬馬(ふじしろ とうま)。 彼らは丸い目で私を見つめ、いつもの夜と同じように、黙ったまま寄り添ってくれていた。 そこで、ふと思い出す。 1年前に、妹の一ノ瀬結衣(いちのせ ゆい)が倒れていたことを。 家族はこう言った。姉である私の成績が良すぎて、結衣は学業のストレスが原因で自殺未遂までしたのだと。 そうして私は家族の「恥」となり、このアパートに追いやられた。 引っ越した最初の夜、隣の部屋の酔っ払いが部屋を間違えて私のドアを叩いた。 私は布団の中で縮こまり、声を殺して泣くしかなかった。 何度、家族や冬馬に電話をかけても、受話器からは、ただ冷たい呼出音だけが流れていた。 第1話 大学入試の結果が出た日、私・一ノ瀬寧々(いちのせ ねね)はいつもの癖でリビングに向かって叫んだ。 「お父さん、お母さん!苦手だった教科の自己採点が満点だったよ! これで東都の大学に行って、お兄ちゃんと冬馬に会いに行けるね!」 返ってきたのは、相変わらずの静寂だけだった。 ソファには、4つの小さな人形が座っていた。 父と母、兄・一ノ瀬駿(いちのせ しゅん)、そして幼馴染の藤代冬馬(ふじしろ とうま)。 彼らは丸い目で私を見つめ、いつもの夜と同じように、黙ったまま寄り添ってくれていた。 そこで、ふと思い出す。 1年前に、妹の一ノ瀬結衣(いちのせ ゆい)が倒れていたことを。 家族はこう言った。姉である私の成績が良すぎて、結衣は学業のストレスが原因で自殺未遂までしたのだと。 そうして私は家族の「恥」となり、このアパートに追いやられた。 引っ越した最初の夜、隣の部屋の酔っ払いが部屋を間違えて私のドアを叩いた。 私は布団の中で縮こまり、声を殺して泣くしかなかった。 何度家族と冬馬に電話をかけても、受話器からは、ただ冷たい呼出音だけが流れていた。 夜が明ける頃、ようやく母から一通のメッセージが届いた。 【もう電話してこないで。あなたが連絡してくると結衣が苦しむから】 その日から、私は彼らを模した4つの人形を作った。 食事の時も、眠る時も、彼らと一緒だった。 成績が上がったことや、誰にも言えない悩みを聞いてもらった。 けれど今、頬を涙が伝ったが、もう彼らに慰めを求めることはなかった。 暗闇を一人で歩き続けた今、私にはついに、振り返らない勇気が宿ったのだ。 私はその場に立ち、1年間暮らしたこの部屋を改めて見回した。 壁紙は剥がれ落ち、そこからコンクリートが覗いていた。 カーテンは古びていて、カビの斑点ができていた。 天井のエアコンは鈍い音を立てるばかりで、夏になっても生ぬるい風しか送ってこなかった。 受験生の夏、私は毎日デスクに向かって入試対策問題を解き続けた。 問題用紙をめくるたび、全身が汗でびっしょりになっていった。 しかし、一ノ瀬家は別にお金に困っているわけではないのだ。 父と母、駿と結衣は、街の中心部にあるタワーマンションに住んでいる。 結衣には自分の書斎も音楽室もある。 ぬいぐるみや洋服を置くための専用の部屋さえあるのだ。 私が家を追い出される時、母はただ眉をひそめて言った。 「1年間だけ住むのよ。いい物件を借りる必要なんてないでしょ? 入試が終わったら、家に帰ってきていいわ」 けれど入試が終わって、すでに半月以上が過ぎていた。 誰も私を迎えに来なかった。 目線を落とし、人形たちをしまおうとしたその時、母から唐突にメッセージが届いた。 【寧々、今日は家に帰るように。出願について話があるの】 私は「家に帰る」という四文字を見つめ、しばらく立ち尽くした。 冷めきっていたはずの胸の奥に、かすかな期待が芽生えた。 もしかしたら、家族はまだ私のことを…… 私は我慢できず、すぐさまアパートを飛び出した。 バスを待つ時間さえ惜しくて、初めてお金の節約を忘れてタクシーを拾った。 家のドアを開けると、中から賑やかな声が聞こえてきた。 リビングには両親と駿、そして冬馬の姿があった。 結衣が彼らの真ん中に座り、彼女の前には豪華な包装が施された4つのプレゼントが置かれていた。 母が彼女の頭を優しく撫で、優しい声で言った。 「さすがね結衣。自己採点が今まで一番いい成績だなんて。これで結衣も東都の大学に行けるわ」 駿が嬉しそうに続けた。 「絶対、東都中央大学だよ。数学は俺が教えてたんだ。 この1年どれだけ結衣の勉強を見てきたと思ってるんだ?俺と同じ学校に出願しないのは筋が通らないぞ」 冬馬が眉をひそめて首を振った。 「だめだ。 英語と国語を叩き込んだのは俺だ。絶対に東都文華大学だろ」 二人は貴重な宝物を奪い合うように、一歩も譲らなかった。 玄関に立つ私は、まるで他人の家に間違って入ってしまったような気持ちになった。 長い時を経てようやく母が私に気づき、笑みが少し薄れた。 「寧々が帰ってきたのね」 楽しげな雰囲気が一瞬でなくなった。 結衣は私を一瞥して鼻で笑うと、プレゼントを抱えて部屋に籠もった。 残された彼らは私を見て、気まずそうに目を逸らした。 沈黙を破ったのは駿だった。 「立ってないで、そこに座れば?」 私は静かに歩み寄り、端のソファに深く腰掛けた。 父が咳払いをして言った。 「入試は終わった?」 私は小さく頷いた。 「うん」 「いい点数を取れそうか?」 私が口を開こうとする前に、母が私の言葉を遮った。 「点数なんて二の次よ。そんなことより大事な話があるの。 今日は出願の話をするために呼んだのよ」 彼女は心なしか視線を逸らした。「東都の大学だけはやめておきなさい。 結衣が1年間努力し続けてやっと今の点数になったのよ。あなたが同じ東都の大学に行けば、結衣がまた辛い思いをするでしょ」 爪が手のひらに食い込み、遅れて痛みがじわじわと広がっていた。 一番優れた教育を受けられる大学が東都にあることを、彼らは当然知っている。 それなのに、結衣の気分のためだけに、私の将来をいとも簡単に変えようとしているのだ。 私はすがるような思いで父を見た。 しかし父は母に賛同するように言った。 「お前のお母さんの言う通りにしろ。 ようやく結衣が落ち着いたんだ。これ以上刺激するのはやめろ」 続いて私は駿に視線を向けた。 駿は不服そうに言い切った。 「盛沢市にも良い大学はあるだろ。そこにしろ。家からも近いしな」 最後に、ずっと黙っていた冬馬を見つめた。 彼は目を伏せて、私と向き合おうとしなかった。 やがて、冬馬は絞り出すように小さく呟いた。 「寧々……お前は頭がいいから、どこの大学に行ってもきっと上手くやれるさ。 でも、結衣は違うんだ。彼女には、誰かの支えが必要なんだ」 第2話 頭がいい。 子どもの頃から、ずっと言われてきた言葉だ。 結衣は私より顔がかわいくて、愛嬌もあった。 私が唯一自慢できるのは、頭の良さだけ。 教科書を読めばすぐに公式を覚え、問題を見ればすぐ解ける。 でも、親たちはちっとも私を可愛がってくれなかった。 私と同じように頭のいい駿は、両親の誇りだった。 なのに私に対して、母はいつも困ったようにため息をついた。 「女の子なのに、そんなに賢くてどうするの? 結衣みたいに少し抜けているくらいが、可愛くていいのに」 いつしかこの言葉が、みんなが結衣をひいきする言い訳になっていた。 寧々は頭がいいから、一人でも大丈夫、だとか。 だから新しい文房具は、まず結衣へ。 新しい服も、まず結衣へ。 両親の愛情まで、先に結衣に向かうのだ。 駿なら褒められるはずの賢さが、私にとっては愛されない原因となった。 そんなある日、私は一つ上の先輩、冬馬と出会った。 その時の彼はまだ、結衣に会ったことがなかった。 私の話を聞いて、彼は眉をひそめて言った。 「頭が悪い方が可愛がられるなんて、変な理屈だろ? 寧々、賢いことは悪いことじゃない」 そしてそのあと、彼は結衣と知り合った。 それから、彼は何度も私の前で笑顔で言った。 「お前の妹は、なんだかドジで可愛いね」 それでも私は、冬馬が好きだった。 彼は唯一、賢いことは悪いことじゃないと教えてくれた人だったから。 なのに今は、彼までもがそんなふうに言うなんて。 リビングが静まり返った。 駿が真っ先に沈黙を破り、いらだたしげにテーブルを叩いた。 「寧々、なんか言えよ。 お父さんとお母さんは家族のためを思って言ってるんだ。お前を困らせようなんて思ってない」 私は目を伏せ、喉の奥が詰まった。 しばらくして、小さく「うん」とだけ言った。 みんなは安堵して、それぞれ背後に隠していたプレゼントの袋を出した。 「よし、もうそんな顔をするな。 ほら、卒業祝いだ。 結衣にもお前にも準備したんだ。これで、もうひいきだなんて言うなよ」 目の前の4つのプレゼントを見て、目頭が熱くなった。 何なの、これ。 一度ひどいことを言って、あとからプレゼントで喜ばせるの? しかも、私は一目で分かってしまった。 結衣の目の前には最新のスマホ、ノートPC、限定品のバッグ、そして行きたがっていたコンサートのチケット。 それに対して私に手渡されたのは、安物の万年筆と本、普通のトートバッグ、タグが外された服1枚だけ。 私はそれらを受け取ると、すぐ席を立った。 「寧々」 母が呼び止めて、迷った末に言った。「ごはん、今日はみんなと一緒に食べていかないの?」 思わず心の中で笑った。 ここは、私の家なのに。 家族と一緒にご飯を食べることさえ、特別なことのように言われるなんて。 込み上げる思いを飲み込んで、私は首を振った。 「ううん、大丈夫」 家を出ると、プレゼントをすべて近くのゴミ箱に投げ捨てた。 そして帰りのバスの中で、結衣のインスタを見た。 【邪魔者がいなくなって、やっとご飯が美味しく食べられる】 投稿の写真には、楽しそうに食卓を囲む家族と、冬馬の姿があった。 テーブルの上にはカニやエビ、海鮮料理がずらりと並んでいた…… それら全て、私がアレルギーで食べられないものだった。 この瞬間、お母さんの誘いを断って正解だったと思った。 もし一緒に食卓を囲んでいたら、それこそ笑いものにされるだけだった。 テーブルの料理の中で、私が食べられるのは白米一杯だけだから。 アパートに戻ると、荷物の整理を始めた。 リビングに置いた人形の向きを変え、壁のほうを向かせた。 壁の目立つ場所に、一枚のハガキが貼られていた。 結衣と会う前に、冬馬が私にくれたものだ。 そこには東都文華大学の図書館の写真が印刷されていて、その下には彼の綺麗な筆跡があった。 【寧々、大学で待ってるからな】 私はそれを壁から引き剥がし、真っ二つに破り捨てた。 第3話 翌日、私はいつものようにアルバイト先のカフェへ向かった。 いつもの仕事は、着ぐるみを着て店の前でチラシを配ることだ。 真冬だというのに、着ぐるみの中は蒸し暑く、私はだんだん息苦しくなった。 もう限界だった。私は頭の部分を外し、隅のほうへ移動して水を飲んだ。 「お姉さん?」 すると聞き慣れた声が後ろから聞こえた。 私は体をこわばらせ、ゆっくりと振り返った。 両親と駿、それに冬馬と結衣が近くに立っていた。 冬馬の両親までいたのだ。 駿と冬馬の手には、買い物袋がいっぱいぶら下がっていた。 結衣のために買ったものだと、聞かなくてもわかる。 汗だくの私を見ても、母の目には少しの気遣いもなかった。 そこにあったのは、冷ややかな怒りだけだ。 「寧々、お小遣いはあげているでしょ? そんな姿でチラシ配りをして、一ノ瀬家があなたを粗末に扱っていると思われたいの?」 私は持っていたペットボトルを強く握りしめた。 「月5万円のお小遣いで、家賃と水道光熱費で全部なくなるのよ。 バイトをしなきゃ、生きていけないでしょ?」 駿は眉をひそめ、私を乱暴に突き飛ばした。 「ふざけるな!親に対してその口のきき方は何だ!」 冬馬は結衣の隣で、困ったような表情を浮かべた。 やがて、彼は非難するように口を開いた。 「寧々、お前は少し敏感すぎるんだ。結衣だってお小遣いは月5万円だ。足りなければ家族に頼めばいいだろ。お前の母親はいつもちゃんと出してくれているだろう? お前が言わないから、足りていると思われているだけじゃないか。 今日のことはお前が悪い。ちゃんと謝らないと」 言葉が喉につかえて、何も言えなかった。 結衣のお小遣いは、母が毎月決まった日に、なんなら前倒しで彼女にあげていた。 でも私のお小遣いは、何度も催促してもなかなかもらえない月がほとんどだった。 月末ギリギリになって、ようやく施しのように渡されるだけだ。 本当に頼めば、お金を出してくれるの? このようなことは何を言っても無駄だとは、わかっている。 返ってくるのは「欲張りだ」「わがままだ」という責める言葉だけだから。 私は冷たい表情で、再び着ぐるみの頭を被り直した。 「みんな帰って。仕事の邪魔よ」 重たい頭部をすっぽりとかぶると、視界は一気に暗くなった。 その瞬間、背中に強い衝撃を感じた。 「お母さんをいじめないで!」 分厚い着ぐるみの中で、少しぶつかるだけでも痛かった。 勢いよく押されたせいで、私は前のめりに転びそうになった。 額を着ぐるみの硬い部分に打ちつけ、一瞬目が眩んだ。 壁にすがりついても、なかなかめまいが治まらなかった。 しかし誰も私の心配などしてくれなかった。 母は結衣の手を取り、焦ったように声をかけた。 「結衣、手は痛くない?」 駿も顔をしかめた。 「あんな格好の奴を突き飛ばすなんて、結衣が怪我したらどうするんだ?」 冬馬は低い声で結衣をなだめた。 「大丈夫だよ。誰も結衣を責めないから」 皆が結衣を囲んでいる隙に、私はよろけながらその場を去った。 頬に何かが伝った。 それが汗なのか、涙なのかはわからなかった。 夕方には、打ちつけた額が大きく腫れあがっていた。 幸い、今日は給料日だった。 受け取ったばかりの給料袋を握りしめ、近くの屋台へと向かった。 温かいおでんを食べるのが楽しみだった。 考えるだけで、お腹が鳴りそうになった。 私は思わず口角を上げて、薄暗い屋台の明かりの中で店主にお金を差し出した。 しかしその瞬間、店主は私の手首を掴んだ。 「おい、冗談じゃないよな!」 店主は札を高く掲げ、不愉快そうな顔を見せた。 「身なりはいいのに、こんな子供だましでタダ食いしようってのか!」 第4話 私は驚き、何を言われているのか理解できなかった。 すると、店主は受け取った札束を机に叩きつけ、周囲に人が集まってきた。 皆が呆れたように札を見て、首を横に振った。 「なんだ、おもちゃの札束じゃないか」 その夜、私はおもちゃの札束を抱えたまま、店の入り口に一晩中座り込んだ。 翌朝、カフェが開くのと同時に中へ駆け込み、カウンターに札を叩きつけた。 「どうして騙したんですか? これ詐欺ですよ。給料の10万円を返してください。じゃないと、警察を呼びますから!」 でも、店長はまったく動じなかった。 「私のせいじゃない。 昨日、あなたのお母さんが給料を全部預かっていって、代わりにこれを置いていったんだ。 『娘に世の中の厳しさを教えるための教育です』って言っていたよ」 頭の中が、真っ白になった。 震える足でバスに乗り、帰宅するなり目を赤くして尋ねた。 「私の給料を勝手に取ったの?」 母は後ろめたいどころか、むしろ得意げだった。 「これでお金を稼ぐことの大変さがわかったでしょ? 結局、親が一番支えになるのよ。困った時は家族に頼りなさい。 それにいざという時は、冬馬さんに頼んでもいいんだから」 怒りで全身が震え、涙があふれて止まらなかった。 私が今まで、何度家族に頼ろうとした? 不審者に後をつけられた時、震えながら電話したでしょ。 なのに父はこう言っただけ。 「お前が後をつけられるような真似をしたからだろ」 賃貸アパートのエアコンは熱風しか出なくて、夏の夜に一晩中眠れなかった時に頼んだことだってある。 母はこう言った。 「何よ、そんなことで連絡しないでちょうだい? 苦労を知らなきゃ、人は成長しないでしょ?」 大学受験の直前、39度の熱で意識が朦朧として駿に電話した。 彼は一言こう返した。 「結衣が今不機嫌なんだ。ただの風邪だろ、一人で何とかしろ」 他にも、夜中にアパートが停電した時、私は怖くて、冬馬に何十件もメッセージを送った。 返事が来たのはずっと後だった。 【戸締まりしておけばいいだろ。今日は結衣の勉強を見てるんだから、邪魔するな】 私が困っている時、誰一人助けてくれなかった。 私はつい叫んでしまった。 「返してよ!私の大事な給料なの。必死に稼いだお金なんだから!」 父の表情が一瞬で険しくなった。 大股で歩み寄ると、私の腕をつかんでドアの外へ放り出そうとした。 「金、金って!お前はそればっかりだな! これまで食わせてやった金がいくらだと思ってるんだ!お前の1か月の給料なんて安いもんだろ! 頭がいいんじゃなくて、ずる賢いんだな!金しか目に入ってないなんて!」 バタンと、目の前でドアが勢いよく閉まった。 私は涙を流しながらエレベーターへ向かった。 するとエレベーターの扉が開き、駿、冬馬、そして結衣が一緒に出てきた。 結衣が小さな髪飾りを手に、眉をひそめて文句を言った。 「こんな小さな飾りなのに、10万円もするなんて」 駿は笑顔で答えた。 「結衣がほしいと思ったのなら、買うべきなんだ」 冬馬も優しく言った。 「いつもより多くお小遣いをもらっただろ?好きなように使えばいいじゃないか」 陰からそのやり取りを見た私は、涙がますます止まらなくなった。 私は休日、毎日朝から夜遅くまで、一日8時間、着ぐるみに入って働いていた。 1か月かけて稼いだ10万円だった。 結衣が適当に買い求める髪飾りのひとつと同じ金額だなんて。 彼らに自分の惨めな姿を見せたくなくて、私は階段のほうへ逃げた。 階段を駆け降りて一階までたどり着くと、ようやく涙が止まった。 幸いなことに、入試が終わった後、家庭教師の依頼が舞い込んできた。 私は快諾し、最後にこう付け加えた。 「報酬は口座振り込みでいいでしょうか?」 相手は不思議そうな顔をしたが、それでも首を縦に振ってくれた。 あの大喧嘩以来、両親、駿、そして冬馬も、私に連絡をしてこなくなった。 私も、家族のことで落ち込むことはなかった。 淡々と授業の準備をして、働いて、貯金する毎日だ。 大学の合格通知が届いた日、私は自分のために好きな料理を作った。 そして久しぶりに、4つの人形を出して、向かい合わせに座らせた。 「これが私の合格祝いね。 みんなで一緒に食卓を囲むのも、これが最後よ」 私は人形の丸い目を見つめ、静かに笑った。 「もう私の傍にいなくても大丈夫なの。 これからは、一人で突き進むから」 食後、私は部屋をきれいに片づけた。 スーツケースを引いて、1年過ごしたアパートを後にした。 私は東都には行かなかった。 けれど、彼らが押し付ける盛沢市の大学にも行かなかった。 はるか南の土地にある大学を選んだのだ。 列車が動き出す直前、止まっていた家族のライングループが動き出した。 母が結衣の合格通知を貼り付けた。 【結衣が東都文華大学に合格よ!寧々、あなたも合格通知書をもらったでしょ?みんなで合格祝いするわよ】 駿がすぐに付け加えた。 【もう喧嘩はなしだからな。合格祝いなんだから絶対に来い】 冬馬からも連絡があった。 【俺が迎えに行く】 私はスマホをじっと見つめて、返信はしなかった。 そのまま設定画面へ進み、退会ボタンを押した。 窓の外では、日が少しずつ沈んでいった。 スマホをしまい、椅子に腰を下ろした。 ここから先、私にもう帰る場所なんてない。