禁欲系の彼を諦めた後、彼は後悔した

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禁欲系の彼を諦めた後、彼は後悔した

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禁欲系御曹司である陸奥俊彦(むつとしひこ)を追い求めて三年、私は結局、彼と結婚することはできなかった。 仏教を信仰している陸奥家には代...

Chương (1)

第1章

禁欲系御曹司である陸奥俊彦(むつとしひこ)を追い求めて三年、私は結局、彼と結婚することはできなかった。 仏教を信仰している陸奥家には代々のしきたりがある。陸奥家の人間と結婚するためには、自ら「大吉」の御籤を引かなければならない。 だが、私が引いた九十九回の御籤は、すべて「大凶」だった。 そして百回目を引く直前、私はこの目で、俊彦が籤筒の中身をすべて入れ替えるところを見てしまった。 「何度引こうと、彼女は必ず大凶しか引けないさ」 その瞬間、私はようやく悟った。彼は確かに私を愛していないのだ。 もういい。私だってもう彼と結婚したくない。 私は籤筒を投げ捨て、振り返って両親に電話をかけた。 「葉山(はやま)家との縁談、私、承諾するよ」 第1話 仏教を信仰している陸奥家には代々のしきたりがある。陸奥家の人間と結婚するためには、自ら「大吉」の御籤を引かなければならない。 だが、私が引いた九十九回の御籤は、すべて「大凶」だった。 そして百回目を引く直前、私はこの目で、陸奥俊彦(むつとしひこ)が籤筒の中身をすべて入れ替えるところを見てしまった。 「何度引こうと、彼女は必ず大凶しか引けないさ」 その瞬間、私はようやく悟った。彼は確かに私を愛していないのだ。 もういい。私だってもう彼と結婚したくない。 私は籤筒を投げ捨て、振り返って両親に電話をかけた。 「葉山家との縁談、私、承諾するよ」 寺を出るとき、私は再び俊彦に出会った。 彼の視線が私の腫れているまぶたに二秒ほど留まると、すぐにいつものように視線を逸らした。 代わりにその隣にいる、彼の友人である木村隼也(きむらしゅんや)が沈黙を破った。 「江崎さん、もう帰るの?」 私は泣き腫らした喉が声を出すのも辛く、ただうなずいた。 そして私は切符売り場へ行き、ケーブルカーで下山するつもりだ。 すると、隼也の少し訝しむ声が響いた。 「江崎さん、ケーブルカーで下りるの?歩かないの?」 振り返れば、隼也と俊彦の不思議そうな目があり、私は胸の奥がひどく苦くなってきた。 この三年間、私は九十九回もおみくじを引いてきた。私は毎回、膝をついて山を登り、その後、足を引きずりながら下山していた。神様に誠意を示し、一日も早く「大吉」を授かりたい一心だった。 だが結局、私がどれほど誠意を示しても、俊彦が与える気のない「大吉」は得られなかった。 ならば、なぜこれ以上苦しむ必要がある? 私はケーブルカーのチケットを買いながら、何気なく答えた。「疲れたの。歩きたくない」 私のかすれた声が落ちるや否や、隼也は手の中の車のカギを揺らした。 「ちょうど俊彦と一緒に下山するところだ。よかったら乗っていく?」 私が断る前に、俊彦の冷たい声が響いた。 「これから人を迎えに行くんだ。暇はない」 すれ違う瞬間、彼の足が止まり、私の蒼白な顔を見て、彼は結局口を開いた。 「疲れるなら、次からは跪いて登るのはやめろ」 彼は常に私に冷たい。その低い声色もまた冷たさを帯びている。かつては、どんなに辛辣な言葉でも、私は、彼の口から出れば心地よく感じたものだった。 その頃の私は、彼の口から紡がれる優しい言葉も、熱を帯びた吐息も、きっともっと美しいに違いないと思っていた。 今思えば、結局それだけのものだろう。 山を下りた私は焼肉屋へ直行した。 三年間、あの馬鹿げた「大吉」のために、私は肉や魚に一切口をつけず、無理やり菜食主義者のように生きてきた。 私が肉を頬張っている最中、扉が開き、耳障りなほどに、ある馴染んだ声が響いた。 「わあ、この匂いだけで涎が出そう!海外にいた間、ずっとこれが恋しかったの!」 顔を上げると、少し離れたところに江崎心美(えざきここみ)が立っている。 私はさらに気分が悪くなった。早く食べ終えて出よう。 次の瞬間、俊彦の、少し困ったようで甘やかす声が聞こえてきた。 「唐辛子は控えろ。胃に悪い」 私は驚き、顔を上げると、俊彦の姿が見えた。 江崎心美……心美…… そうか、俊彦の「大吉」は、心美のためだったのだ。 よりによって心美か。 私は胸が痛くて苦しくなり、食欲は一気に消え失せた。箸を置き、席を立とうとした。 バッグを手に振り向いた瞬間、心美と正面からぶつかった。 「きゃっ!」 心美は悲鳴を上げ、そのまま俊彦の胸に倒れ込んだ。 私は衝撃でよろめき、手が熱い鉄板の上に落ちた。 じゅっと焼ける音と共に、私は思わず息を呑んだ。立ち直ったときには、手の甲はすでに真っ赤に腫れている。 痛みに冷水で冷やそうと立ち去ろうとした瞬間、私は俊彦に手首を掴まれた。 「江崎望(えざきのぞみ)!心美に謝れ!」 手の甲の痛みが、心までじんわりと締めつけた。 私は必死で俊彦の手を振りほどき、一言も言わずに冷水を探そうとした。 しかし、彼は私の前に立ち塞がり、冷たい声で言った。 「謝れ!」 私は顔を上げ、涙を必死に堪えながら硬い声で返した。 「どうして?」 すると、俊彦の胸にいた心美は顔を上げ、いじらしく言った。 「俊彦、私は大丈夫よ。うっかりお姉さんにぶつかっちゃっただけだから」 私の目が一瞬で冷たく光った。 「誰が、あなたに私をお姉さんって呼んでいいって言った?」 第2話 心美は怯えたように身をすくめ、俊彦の胸に縮こまった。 俊彦も一瞬、驚いた顔をした。 「君たち……」 心美は俊彦の手をぎゅっと握った。 「俊彦、もう聞かないでくれる?私……」 私は心美のわざとらしい仕草に耐えられず、その場を離れようと背を向けた。 だが再び俊彦が私を引き止めた。 「二人の関係がどうであれ、人にぶつかった以上、謝るべきだ。 心美は医者で、手は大事なんだ。さっき彼女の手が怪我をするところだったんだぞ!」 手の甲の傷は蟻に噛まれるように痛み、胸までじんじん響いてくるようだ。私は手を上げ、真っ赤に腫れた手の甲を彼に見せつけた。 「こんなに広い通路なのに、私は自分の席の横に立っていただけ。ぶつかってきたのは彼女のほうだ。それに、怪我をしたのは私だ。私のせいじゃないし、謝るか!」 俊彦の視線が私の手の甲に注がれ、その無表情な瞳に一瞬だけ揺らぎが走った。 私はそのまま二人を押しのけ、店員から氷袋をもらった。 店を出るとき、私は何気なく振り返れば、窓際の席に心美が不機嫌そうに座り、その隣で俊彦が柔らかな目元を見せながら、彼女に肉を焼いてやっている。 手にした氷袋の冷たさが心にまで沁み、最後に残っていたわずかな期待も跡形もなく消えていった。 冷ややかな禁欲系男子が自らほかの女のために肉を焼く。この追いかけ続けた想いは、私の完敗だ。 家に帰るなり、母親が私を寝室に引き入れ、朝に葉山家との縁談を承諾したのは本当なのかと問い詰めてきた。 母親の心配そうな視線を受け、私は鼻の奥がつんと痛み、胸の苦さがまた広がっていった。 知らぬ者はいない。私が俊彦に一目惚れし、彼以外とは結婚しないと誓ったことを。 どんなに俊彦が冷たくしても、私はいつも彼の後ろを追いかけてきた。 母親は痛ましげに私を抱きしめ、何か辛いことがあったのかと尋ねた。 私は笑みを引きつらせた。 「お母さん、私は本気よ。彼の心は温まらないもの。これ以上は続きたくない。今こそ引き返すときなの」 間もなく、階下から人の声がし、母親は立ち上がると、すぐに顔を蒼ざめさせて戸を閉めた。 私は心美の声を耳にした。 階下へ降りると、父親がソファに座り、心美に腕を絡まれながら冗談を言われ、楽しげに笑っている。 その隣には俊彦もいる。 私に気づいた心美は、すぐに身を縮めた。 父親はぎこちなく私の名を呼んだ。 私は冷たい顔で心美を睨みつけた。 「誰があなたに私の家に入っていいって言った?」 心美の顔から血の気が引き、今にも泣き出しそうな様子を見せた。 父親は不機嫌そうに私を叱りつけた。 「いい加減にしろ、望!彼女は君の妹だ!」 私は強く首を張り、大声で反論した。 「お母さんは私一人しか産んでいない。身元不明の妹なんていない!」 パッ! 父親が立ち上がり、私の頬に激しく平手を打ち込んだ。 頬がみるみる腫れ上がり、母親はよろめきながら駆け下りてきて私を庇った。 「あなた、望を叩いてどうする!」 父親は胸を大きく上下させ、客がいる手前、怒りを抑えて席に戻った。 母親は涙ながらに私を抱きしめ、初めて我慢をやめて声を荒げた。 「妊娠中に浮気したのはあなたでしょ!二度とこの子を家に入れないって言ったじゃない!それを今さら連れてくるなんて!」 両親は政略結婚で、深い感情はないが、生活はそれなりに安定していた。 私が生まれた年、母親はようやく知ったのだ。父親に昔からの恋人がいて、母親の妊娠中に二人が再び関係を持ったのだ。 私が一歳のとき、その女は難産の末に心美を産んだ。 母親は私のために、父親に心美を二度と連れ帰ってこないと約束させた。 それなのに今、心美は堂々とこの家に上がり込んでいる。 私は母親の腕から立ち上がり、冷たい声で言った。 「私生児を追い出すか、あなたたち二人まとめて出ていくか。どちらかを選んで」 最初から最後まで、この秘密を耳にした俊彦の顔は冷ややかなままだった。だが、私がそう言い放った瞬間、彼はわずかに目を上げ、不快の色を浮かべた。 俊彦は立ち上がり、泣き顔の心美の前に立った。 「江崎さん、言葉に気をつけてください」 その不快げな顔を見て、私の思考は一気に過去へと引き戻された。 初めて俊彦と出会ったのは、彼が無表情のまま身をかがめ、腫れ上がった私の足首を見下ろし、「大丈夫か」と尋ねたときだった。 第3話 当時、私は心の中で彼をロボットみたいだと呟いた。 その後、私は彼が半月かけて写したお経の束を投げ捨てそうになったが、彼は相変わらずあの無表情のままだった。 わざとネットで覚えた下品な甘い言葉で彼を口説こうとしたこともあるが、彼はやはり反応しなかった。 私は彼が本当に情も欲も断っているのだと思っていたのに、今では私が心美に放った一言で彼が怒るなんて。 父親が私の言葉を聞き、また立ち上がって私の頬を平手で打った。 「これは俺が決めることだ!偉そうにするんじゃない!」 そう言うと、父親は使用人に、私と母親の持ち物を外へ放り出すように指示した。 私は阻止しようと前に出たが、父親に腕をつかまれて押し出され、玄関の外へ突き飛ばされた。 「俺と心美を見るのが我慢できないなら、お前とお前の母親は出て行け!」 ドアがバタンと閉められ、母親は床にしゃがみ込んで嗚咽を漏らしている。 ほどなくしてドアが再び開き、心美が私の荷物を抱えて満足げな顔で現れた。 「お姉さん、何をそんなに我を張ってるの?ほらね、家から追い出されちゃったわ!」 私は目ざとく彼女の腕に抱かれている陶器の壺を見つけ、瞳孔が収縮して鋭い声で言った。「その物をよこせ!」 心美は私のその必死な様子を見て、ふっと笑い、急に手を離した。 陶器の壺はパリンと音を立てて床に落ち、粉々になった。 私は怒りで目が赤くなり、彼女に飛びかかって掴み、頬を一発叩いた。 「わざとやったのか?」 心美はすぐに悲鳴を上げ、いじらしい口調で謝った。 一方、私は彼女を殴り殺したいほどだ。 その陶器の壺は、小学校の時に父方の祖母と一緒に作ったもので、私にとってそれが唯一残された彼女に関する思い出だ。 背後のドアがすぐに開き、俊彦が鼻を腫らした心美の顔を見て、怒りに満ちて私を引き離した。 私はちょうど階段のところに立っており、彼に強く引かれたら、そのまま階段から落ちて地面に転がった。 足首に激痛が走った。俊彦の目は氷のように冷たい。 「望、心美は無実だ」 地面に落ちて割れた物を見ても、彼は眉一つ動かさなかった。 「そんなものは大した価値のない物だ。割れたなら割れたでいい。心美を責める必要があるのか?」 私は痛みで冷や汗をかき、反論の声すら出なかった。 俊彦はそれきり私に一瞥もくれず、痛ましげに心美を抱いて家の中へ入って行った。 母親が泣きながら駆け寄って私を抱きしめ、私はぎこちない笑みを作ってタクシーを予約した。 雨が降り始め、どれほど経ったのか分からない。やがてドアが開き、俊彦が傘を手に立っている。 「頼んでおいた。中に入って心美に謝れば、家に入れてやると」 私は目を伏せ、じっと動かなかった。 しばらくして俊彦は降りてきて、私の手のひらにやけど薬のチューブを置き、傘を母親に差し出した。彼はその後、陸奥家の車に乗り込んだ。 私は手のひらの薬をちらりと見て、ためらいなくそれをゴミ箱に捨てた。 タクシーに乗ると、母親は泣き声が次第に落ち着き、スマホを取り出して私に言った。「望、葉山家が縁談を受けてくれたって。なるべく早く顔合わせをするって」 母親は私を連れて実家へ戻り、一日の出来事を祖父と祖母に話すと、私を見やって言った。 「お父さん、お母さん。私、離婚することにしたいの。今までは望のために何でも我慢できたけど、これ以上我慢するのは嫌なの」 母親がそう言うと、一家はまた抱き合って泣き出した。 おじさんは真っ赤な目をして言った。 「お姉さん、望、安心して。俺が必ず正義を取り戻してやる!」 そう言っておじさんは電話で弁護士に連絡を取りに行った。 私は足を負傷し、一週間以上家で寝て過ごしてようやく回復した。 その間に、葉山家と母親は縁談の段取りを済ませ、私の足が治ったら婚約の宴を開く手はずになっている。 週末、私は親友と一緒に婚約の宴のドレスを見に行く約束をしている。 会った途端、親友は心配して私を抱きしめ、私が本気で俊彦を諦めたことを確かめると、怒り混じりに愚痴をこぼした。 「ねえ、最近は大騒ぎよ。望があの私生児に追い出されたって噂が広まってる。これからは江崎家のお嬢様は彼女だけだってさ! しかも陸奥俊彦も、あの女を溺愛してて、完全に彼女の言いなりだって。みんな望のことを嘲笑ってるのよ!」 第4話 親友は目を真っ赤にし、呼吸も乱れ、私のことを本気で気の毒に思っているようだ。 誰もが知っていることだ。私は三年も俊彦に擦り寄ったが何も得られず、心美が帰国した途端、私は家を追い出され、俊彦までも彼女に奪われてしまった。 みんな私を笑いものにしているのだ。 私は気にしないふりをして苦笑いし、親友を慰めた。 「大丈夫。私の結婚相手は葉山誠(はやままこと)なんだから! そのとき、私を笑ってた連中を羨ましがらせてやるよ」 葉山家の財力は江崎家よりずっと強く、政界にもつながりがあると聞いている。A市では逆らえる人間は少ない。 そのことを思うと、親友も誇らしげな顔をした。 「そうよ、そのときは今の連中の顔に思いっきり鉄槌をくらわせてやらなきゃ!」 言い終わるか終わらないかのうちに、親友の目が輝き、ガラスケースに飾られている、ある水色のドレスを指差した。 「これ、試してみて!これを着たら望が会場で一番綺麗になるわ!」 私もそれを見て心がときめいたが、次の瞬間、ある甘ったるい声が聞こえた。 「俊彦、そのドレス、綺麗だね!」 私が親友と顔を見合わせて呆れ、振り返ると案の定、心美と俊彦が後ろに立っていた。 心美は店員にドレスを取らせ、親友は怒って前に出た。 「私たちが先にそれを見つけたのよ!」 心美は涙ぐんだように目を赤くし、俊彦の腕を振りながら甘えている。 「俊彦、お姉さんにこのドレス譲ってって頼んでくれない?父娘再会の宴でこれを着たいの」 まさか父親が彼女のために宴を開くというのか。 心美を正式に江崎家に迎え入れることは、私と母親への侮辱に他ならない。 だが母親はもうすぐ離婚するつもりだし、私は気にしないことにした。 次の瞬間、俊彦の冷たい声が聞こえた。 「望、ドレスを心美に譲れ。次におみくじを引くとき、一回多く引けるようにしてやる」 私はそれを聞き、鼻で笑った。 まるで大恩を施してやるかのように言いやがって。 「結構。誰がそんなの欲しがるって言うの?」 俊彦は驚いたように多少顔を曇らせ、私が断るとは思わなかったらしい。 私は店員にもう一着、生成りのシンプルなサテンのマーメイドドレスを持ってきてもらった。 親友は心美を一瞥して嘲るように笑った。 「まあね、そっちのほうがあなたに似合うわ。可愛さなんて、セクシーさの前では目立たないものよ!」 心美は俊彦の後ろで顔を真っ赤にした。 程なくして婚約の宴当日が来た。 車を降りると、一階でも宴会が開かれているのに気づいた。 まさしく父親が開いている、心美のための父娘再会の宴だ。 縁起でもないから早く中に入ろうと、私はエレベーターへ向かったが、背後で心美の得意げな声が聞こえた。 「お姉さん?ここにいるの?ついにお父さんに謝って、私を受け入れてくれるの?」 私は振り返り、蔑むように心美を一瞥した。 「言ったでしょ、あなたには私を『お姉さん』と呼ぶ資格なんてない!」 心美の頬が真っ赤になり、いじらしい顔を作った。 「じゃあ、お姉さん、今日はお父さんを止めに来たの?私はただ、家がほしいだけなのに、どうして私を受け入れられないの?」 俊彦が冷たい顔でさっと心美の後ろに現れ、彼女の肩に手を置いて慰めた後、私を不快げに見やった。 私がエレベーターのボタンを押して待っていると、心美はもはや泣き崩れそうになっている。 「お姉さん、お願い、私はただお父さんの少しの愛が欲しいだけなの。他のことは何もいらないの!」 私はうんざりし、少し力を込めて彼女を押しのけた。 「どいて!江崎家に入りたければ勝手に入りなさい。今日はあなたの宴に来たんじゃないし!」 心美はそれで床に崩れ落ち、すすり泣きはじめた。 周囲の人々がこっそりこちらを覗き見していると、俊彦はついに本気で怒り、目に嵐を宿している。 「望、もう十分だ! 今すぐ心美に謝って、心美を江崎家に迎え入れろ!」 私はエレベーターに乗り込み、俊彦を見返して笑みを浮かべた。 「言ってる。私は彼女の宴に来たんじゃない。私は婚約するために来たのよ」