私のかわいい息子は、夫の初恋をママと呼んだ

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私のかわいい息子は、夫の初恋をママと呼んだ

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松井湊(まつい みなと)と結婚して7年目。松井楓(まつい かえで)は、息子の松井健太(まつい けんた)の無邪気な一言を、偶然聞いてしまった...

Chương (1)

第1章

松井湊(まつい みなと)と結婚して7年目。松井楓(まつい かえで)は、息子の松井健太(まつい けんた)の無邪気な一言を、偶然聞いてしまった。 「パパ、どうして僕のママは渚さんじゃだめなの?」 楓は思わず固まった。 「渚さん」って吉田渚(よしだ なぎさ)……湊の初恋の相手? 聞き間違いだろうか。そう思って声をかけようとした瞬間、一台の車が物凄いスピードで健太に向かって突っ込んできた。 楓は考えるより先に、とっさに健太の前に飛び出し、その体を突き飛ばした。 ドンッ。 凄まじい衝撃に襲われ、楓はその場で意識を失った。 目が覚めると、病室のベッドの上だった。湊と健太の無事な姿が目に入り、楓は胸をなでおろした。 「大丈夫だよ」と、そう二人に声をかけようとした時、ふと事故の前に聞いた健太の言葉が頭をよぎった。 楓は何かに駆られるように、ぼんやりとした表情を作って、二人を見つめた。 「すみません……今、何も思い出せないのです」 ベッドの前に立っていた二人は、楓の言葉を聞いて目を大きくして、慌ててナースコールを押した。 一通りの検査を終え、医師は診断結果を告げた。 「頭部を強く打った影響で、一時的に記憶が混乱しているのでしょう」 医師が病室を出た後でも、楓は何もわからないという表情を保ち続けた。 「どうして私は事故になんて……それに、あなたたちは誰ですか?」 湊は眉をひそめ、何かを言おうとした。だがその前に、興奮を隠しきれない幼い声が、彼の言葉を遮った。 「楓さんは、うちの家政婦だよ!」 第1話 松井湊(まつい みなと)と結婚して7年目。松井楓(まつい かえで)は、息子の松井健太(まつい けんた)の無邪気な一言を、偶然聞いてしまった。 「パパ、どうして僕のママは渚さんじゃだめなの?」 楓は思わず固まった。 「渚さん」って吉田渚(よしだ なぎさ)……湊の初恋の相手? 聞き間違いだろうか。そう思って声をかけようとした瞬間、一台の車が物凄いスピードで健太に向かって突っ込んできた。 楓は考えるより先に、とっさに健太の前に飛び出し、その体を突き飛ばした。 ドンッ。 凄まじい衝撃に襲われ、楓はその場で意識を失った。 目が覚めると、病室のベッドの上だった。湊と健太の無事な姿が目に入り、楓は胸をなでおろした。 「大丈夫だよ」と、そう二人に声をかけようとした時、ふと事故の前に聞いた健太の言葉が頭をよぎった。 楓は何かに駆られるように、ぼんやりとした表情を作って、二人を見つめた。 「すみません……今、何も思い出せないのです」 ベッドの前に立っていた二人は、楓の言葉を聞いて目を大きくして、慌ててナースコールを押した。 一通りの検査を終え、医師は診断結果を告げた。 「頭部を強く打った影響で、一時的に記憶が混乱しているのでしょう」 医師が病室を出た後でも、楓は何もわからないという表情を保ち続けた。 「どうして私は事故になんて……それに、あなたたちは誰ですか?」 湊は眉をひそめ、何かを言おうとした。だがその前に、興奮を隠しきれない幼い声が、彼の言葉を遮った。 「楓さんは、うちの家政婦だよ!」 楓は、健太の言葉に絶句した。用意していた次のセリフが、喉の奥に引っかかって出てこない。 こわばった表情で、自分が命がけで産んだ我が子を見る。楓は信じられない思いで、その言葉を繰り返した。 「家政婦……」 「うん、そうだよ」健太は即答した。「じゃなきゃ、どうしてパパと僕がずっとここにいるの?うちの家政婦だから、特別に面倒を見てあげてるんだよ」 楓は何も言わず、健太の顔をじっと見つめた。その表情から、少しでも冗談めいた色を見つけ出そうと必死だった。 次の瞬間には、「ママの嘘なんてお見通しだよ」と、健太が笑って飛びついてくることを期待した。 しかし、その期待は裏切られた。健太は真剣な顔で、湊の袖を引っ張りながら言った。 「ねえ、パパ。楓さんは僕を助けてくれたんだから、ご褒美をたくさんあげてね」 あまりの出来事に、楓は全身の力が抜けていくのを感じた。 命をかけて守ったこの子にとって、自分は、ただの家政婦でしかなかったなんて…… じゃあ、健太にとっての「ママ」は、一体誰なの?もしかして、渚? 胸の奥が、ちくりと痛んだ。楓は唇を強く噛みしめ、息子に問いただしたい衝動を必死に抑えた。 彼女は、それまでずっと黙ったままの湊に視線を移した。 息子の心に自分がいないことは、もうこれで分かった。なら、結婚して7年になるこの夫の心の中には、果たして自分の居場所があるのだろうか。 楓と視線が合うと、湊は目を逸らしただけで、彼女に一言もかけず、健太を連れて病室を出て行った。 楓の心が、どこまでも沈んでいくようだった。 なにも否定しなかった。それがすべての答えなのだろう。 体中の痛みをこらえながら、楓はベッドを降りた。そして、病室のドアに体を寄せ、聞き耳を立てた。 ドア隙間から、廊下の様子が見えた。湊が健太の前にしゃがみ込み、怒りを抑えた声で尋ねた。 「健太、どうして家政婦だなんて嘘をついたんだ?」 健太は口をへの字に曲げ、不満そうな顔をした。 「だって、渚さんに僕のママになってほしかった。渚さんと一緒にいる時は楽しいのに、ママと一緒だと怒られてばっかで嫌だから。 それに、渚さんはピアノがすごく上手なんだよ。それに比べてママは、1日中うちにいるだけで、何も面白くないじゃないか」 渚に母親になってほしいと、健太自身の口から聞いてしまった楓は、全身の力が抜けていくのを感じて、ずるずると床にへたり込んだ。 やっぱり……聞き間違いじゃ、なかったんだ。 健太は、そんなにも渚のことが好きだったのか。自分を家政婦扱いしてまで、渚を母親にしたかったなんて。 渚の名前を聞いた途端、湊の怒りは少し和らいだ。それでも、表情は険しいままだった。 「そうだとしても、嘘をつくのはよくない」 「だって、ママは今、何も覚えてないんだよ。自分が誰かなんて、わかってないじゃん」健太は湊の大きな手にすがりついて甘えた。「聞いて、パパ。渚さんも、僕のママになりたいって言ってたんだ。せっかくのチャンスなんだから、本当にお願い! パパだって、渚さんといる時に楽しそうにしてたじゃん。この嘘は、パパにとってもきっといいことなんだよ。誰も傷つけないし、ママが記憶をなくしてる間だけでいいから!」 湊は、健太の言葉に心が動いたようだった。ゆっくり考えた後、とうとう頷いた。 「わかった。でも、1週間だけだ。1週間後には、ママの記憶が戻らなくても、渚を『ママ』と呼ぶのはおしまいだ」 湊の許しを得て、健太は嬉しそうに飛び跳ねた。 「やったあ!じゃあ、今すぐ渚さんのところに行って、このことを教えてあげようよ!」 そう言って、健太は嬉しそうに湊の手を引いて歩き出した。 二人は、事故にあったばかりの楓のことを、もう気にしていないようだ。 遠ざかっていく足音を聞きながら、楓はなぜか笑っていた。大粒の涙が次から次へと頬を伝って、床に落ちていった。 ほんの出来心で試しただけなのに。まさか、それで夫と息子の本音を知ってしまうなんて。 結婚して7年の夫も、大切に育ててきた息子も、自分のことなんてどうでもよかったんだ。 幸せな家族だと思っていたのは、自分だけ。全ては、笑えない冗談で片づけられた。 その時、静かな病室に、スマホの着信音が鳴り響いた。 電話は、医薬科学研究所からのものだった。 「楓さん、考えはまとまったかい?例のプロジェクトの件なんだが」 楓は、スマホの待ち受けにしている家族3人の写真に目を落とした。その瞳は、感情が抜け落ちたように虚ろだった。 「はい、参加させてください」 静かな病室に、楓の声が響いた。か細いながらも、その声には強い決意が込められていた。 「ただ、プロジェクトが始まる前に、私の過去に関する情報をすべて消してもらいたいんです」 第2話 電話の向こうの先生・山本英樹(やまもと ひでき)の声は、少し驚いているようだった。 「でも、そうしてしまったら、君という人間は社会から完全にいなくなったということになる。ご主人も息子さんも、君がどこにいるのかを知る手段がなくなるんだぞ。以前は二人のために、この話を断ったじゃないか。それが、どうして今になって……」 楓はぎゅっとスマホを握り締めた。これまでの人生が、頭の中を一気に駆け巡った。 湊と健太は知らない。自分が、何もできないただの専業主婦なんかじゃないってことを。 7年前、楓は東都の中央大学の医学博士課程に、最年少で在籍していた。研究者としての才能に恵まれ、ほとんど毎日研究室にこもっていた。 ある日、また徹夜で実験を終えて、ふらふらと土手を歩いていた。疲労のせいで突然目が眩み、そのまま川の方へと倒れてしまった。 周りから悲鳴が聞こえる中、誰かの手が、腕をがしっと掴んでくれた。しかし、次の瞬間、楓はもう意識を失ってしまった。 再び目が覚めたとき、病院のベッドにいた。隣のベッドでは、擦り傷だらけの湊が手当てを受けていた。 看護師から聞いて、ようやく何があったのか分かった。川に落ちる寸前、湊がとっさに腕を掴んでくれた。 しかし、落ちる勢いのまま、二人とも川に引きずり込まれそうになった。水に落ちる寸前、湊がとっさに木の枝を掴んでくれたから、なんとか助かったらしかった。 楓は感謝と申し訳なさでいっぱいになった。そんな彼女を見て、湊は優しく声をかけた。「大丈夫。次からは気をつけろ」って。楓は気を失っただけで、彼は全身に傷を負っているのに、慰めてくれたのだ。 その瞬間、研究のことしか頭になかった楓の心に、湊の姿がすっと入り込んできた。 退院する日、楓は勇気を振り絞って、湊の電話番号を聞いた。 断られるのが怖くて、楓は慌てて付け加えた。命の恩人だから、何かお礼がしたいだけなんだ、と。 すると湊は、しばらく黙って楓を見つめてから、こう言った。「お礼がしたいって?じゃあ、俺と結婚してくれないかな?」 楓は信じられない気持ちで、湊を見つめ返した。彼が冗談を言っているわけじゃないと分かると、胸が激しく高鳴った。そして、気づけば、楓は彼に答えていた。 「はい、喜んで」 こうして、楓は湊の妻になった。 結婚してすぐ、楓は健太を授かった。もともと体が弱かったから、医者には、絶対安静を言い渡された。少しでも無理をしたら危ないということだった。 楓はお腹をさすりながら、悩んだ末に、医薬科学研究所からの誘いを断って、専業主婦になる道を選んだ。 湊も、夫としての役割をしっかり果たしてくれた。病院には毎回付き添ってくれたし、出張に行けばプレゼントを買ってきてくれた。出産の痛みに苦しむ楓を見て、心を痛めてくれた…… 楓は、愛する人と結婚できて、ずっと幸せだった。しかしその幸福は、いつまでも続かなかった。 1ヶ月前の、土砂降りの夜。知らない女の人が、ずぶ濡れになりながら家のドアを叩いた。 楓と湊がドアを開けた途端、その人は気を失って倒れてしまった。 いつもは冷静な湊が、動揺を見せながら、すぐにその人を抱きかかえて車に駆け込んだ。 その時、楓は初めて知った。あれは湊の初恋の相手、渚だったなんて。 彼女は昔、湊を振って、海外に行ってしまった。湊が楓にプロポーズしてきたのは、失恋のショックから立ち直るため、誰かと一緒になりたかっただけだった。 そのタイミングで、楓は研究所から、再び誘いを受けた。 悲しい事実を知ってしまったけれど、それでも湊はずっと愛してきた人間で、二人の間に5歳の息子もいるのだ。 楓は信じていた。自分が湊と健太を愛しているのと同じように、自分も二人から愛されているのだと。 だから、どうしても研究のために、家庭を手放すことができなかった。 しかし今日、迷う必要はもう、なくなってしまった。 楓は、目の奥の悲しさを隠すように、ぐっと目を伏せた。 「もう、あの二人とは何の関係もありませんから」 英樹はため息をついたが、結局、それ以上のことは聞かなかった。 「手続きは1週間後には終わるだろう。その頃に、正式に迎えよう」 電話を切ると、楓は暇つぶしにインスタを開いた。 すると、渚が投稿を更新していた。 【家族】 写真では、湊と渚が健太を間に挟んで抱きしめ、3人で幸せそうに笑っている。 なるほど。あんなに急いで出かけて行って、真っ先にやったことが、渚と家族写真を撮ることだったわけね。 ピコン、と通知音が鳴り、渚がまた新しい写真を添えて投稿を更新した。 【この幸せな夢が、永遠に続くように】 楓はその投稿をじっと見つめた。よく知っている、湊と健太の笑顔から、目が離せなかった。 そして最後に、楓はゆっくりとその投稿に「いいね」を押した。 この夫と息子は、今日から、もう他人でいい。 第3話 楓は事故で3日間病院で休んでいるけれど、まだ退院できる状態ではなかった。 そして渚は、楓が入院してから毎日、インスタの投稿を更新した。そこにはいつも、湊と健太が写っていた。 1日目は、ケーキの手作り体験。健太は、出来上がったケーキの最初の一口を渚に食べさせてあげていた。 2日目は三人でキャンプ。夜は、湊と渚が健太を間に挟んで、テントの中から星を眺めていた。 3日目は、健太の絵画教室に二人で付き添っていた。その日のテーマは「僕のママ」で、健太が描いたのは、渚の顔だった。 そして退院当日。3日間、一度も顔を見せなかった湊と健太が、ようやく渚を連れて現れた。 楓の体に残る痛々しい傷跡に目をやり、渚は申し訳なさそうに微笑んだ。 「楓さん、本当にごめんなさいね。この数日、みんな忙しくて、今日ようやくお見舞いに来れたわ」 そう言うと、渚は微笑みながら、楓の顔色を探った。 「健太から事故にあったって聞いたけど、体の具合はどう?」 湊と健太の二人は、少し緊張しているのが分かった。 彼らは、楓が記憶を取り戻したかどうかを試しているのだと気づいた。 「お医者さんはもう退院できるって、ただ、まだ何も思い出せないの。あの、あなたは誰なんですか?」 楓は、何も分からないといった表情を崩さなかった。 目の前の3人は、そろって安堵のため息を漏らした。 健太が、自分から渚の手を取って、楓に紹介した。 「楓さん、この人は僕のママだよ」 退院の手続きをしていた楓の手が、ぴたりと止まった。 健太が渚のことを母親のように慕っているのは知っていた。でも、いざ目の前で「ママ」と呼ばれるのを聞くと、どうしようもなく息が詰まった。 命がけで産んだ我が子が、こんなにもあっさりと他の女を「ママ」と呼ぶなんて。 楓は顔を上げ、黙ったままの湊を見た。 いつもは落ち着いている湊は、珍しく、彼女と目線を合わせてくれなかった。 湊はすっと視線をそらし、やはり何も言わなかった。 楓の目に浮かんだ皮肉の色が、一層濃くなった。 7年も連れ添った夫は、息子のこの振る舞いを、ただ黙って見ているだけ。 なんて惨めなのだろう。 楓は込み上げてくる悔しさをぐっとこらえ、喉の奥から「そうですか」と一言、絞り出した。 退院手続きを済ませ、4人は一緒に車に乗り込んだ。 後部座席では、健太が渚と大好きなアニメについて夢中で語っていた。二人の様子は、まるで本当の親子のように自然だった。 楓は助手席に座り、ぎゅっと目を瞑って、何も気にしていないふりをした。 車が停まって初めて、自分たちは家ではなく遊園地を目指していたことに気づいた。 健太は渚の手を引いて車を降りると、待ちきれないように興奮しながら言った。 「ママ、早く行こうよ。遊園地なんて久しぶりなんだ。ママと一緒に遊びたい!」 その言葉を聞いて、楓はハッとした。そしてすぐに、口元に苦笑いが浮かんだ。 健太が今よりも幼かった頃に、よく遊園地に連れてきてあげた。そのたびに健太は自分の手をぐいぐい引っ張って、これに乗りたい、あそこに入りたいって大はしゃぎしていたのに。 あの頃の健太は、「ママが大好きだ」というような、きらきらした目をしてこっちを見つめてきた。 「僕、ママと遊園地に来るのが一番好き!世界で一番幸せだよ!」 でも、いつからだろう。楓が遊園地の話をしても、健太はこう言うだけになった。 「遊園地なんてつまんない。ぜんぜん行きたくない」 楓は、健太はただ遊園地に飽きただけなんだと思っていた。 しかし、今になってわかったのは、健太が飽きたのは遊園地じゃなくて、この母親のほうだった。 第4話 湊は先に歩く二人の後を追おうとした。しかし、楓のそばを通りかかった時、彼女の顔にある傷跡が目に入った。事故の時、楓が身を挺して健太をかばった光景が頭に浮かんで、湊は立ち止まって、優しく声をかけた。 「退院したばかりなんだから、休めるところで待っていて。健太には俺と渚がついているから、心配しないで」 楓は、皮肉な笑みを浮かべた。 「ええ、わかっています。ご家族の邪魔にならないように気を付けます」 楓がそんな風に答えるとは思っていなかった湊は、思わず目を見開いた。いつも優しさで満ち溢れていた彼女の瞳が、いつからか、暗くなった気がした。 訳もなく、湊の胸はちくりと痛んだ。 彼は何か言いたそうに口を開いたけれど、結局は言葉を飲みこみ、ただ黙って楓を見つめた。 「本当は……お前にこんなものを、見せたいと思っているわけじゃないんだ」 その言葉を聞いて、楓はこみ上げてくる笑いをこらえるのに必死だった。 健太の提案に頷いて、健太の母親で、湊の妻である自分の代わりに、渚を迎え入れたのは、他の誰でもない、湊だった。それなのに、今さら楓の前で申し訳なさそうな顔をして、一体どうしてほしいというのだろうか? 「このすべてを許したのはあなたなんでしょう?」 湊は、はっと息をのんだ。その瞳に、ほんの一瞬だけ、焦りの色がよぎった。 楓は……なぜあんなことを言うんだ?まさか、記憶が戻ったのか? 湊が自分の考えを確認しようとしたけれど、楓はまるで何事もなかったかのように、くるりと背を向けて休憩所へ向かった。 湊は思わず後を追いかけようとした時、前方から健太の呼ぶ声が聞こえてきた。 楓の穏やかな後ろ姿を見ていると、さっきまで速まっていた鼓動が、少しずつ落ち着いてきた。 楓は自分と健太をあんなに愛しているのだ。もし記憶が戻っていたら、健太が他の女の人を「ママ」と呼んでいるのを見て、こんなに冷静でいられるわけがない。 さっきのは、おそらく聞き間違いだったんだろう。 湊はもう迷わず、前を歩く二人の元へ急いだ。 楓は休憩所の窓から、遠くに見える3人の後ろ姿を眺めていた。 健太は、渚と湊に手を引かれ、真ん中で楽しそうに飛び跳ねている。渚が健太の額の汗をハンカチで優しく拭い、湊が微笑ましい二人の姿を優しい眼差しで見つめていた。 絵に描いたような幸せな家族。 楓はふと目を伏せた。その時、きらりと光る何かが視界に入り、思わず目を細める。 薬指で光っていたのは、7年間ずっとつけていた結婚指輪だった。 7年前。この指輪を薬指にはめた瞬間、期待に胸を膨らませた結婚生活が始まった。 しかし7年後の今、この結婚は、まるで出来の悪い芝居のようだ。 楓は指輪を外した。 カラン―― 乾いた小さな音を立てて、指輪はゴミ箱の中に捨てられた。 第5話 日が暮れ始める頃、3人はようやく園内から戻ってきた。 健太は全力で遊んだせいで汗びっしょりになっていた。休憩所が目に入ると、一番に駆け込んで席に座った。 アイスクリームが売ってあるのを見て、健太は目を輝かせた。そして、売り場を指差しながら、楓に命令するように言った。 「楓さん、僕、アイスクリーム食べたい。早く買ってきてよ」 そう言うと、健太はぶつぶつと小声でつぶやいた。 「今はただの家政婦で、ママじゃないんだから。僕のこと、止められないでしょ」 健太は難産で、生まれつき体が弱かった。そのため医者からは、健康管理にはくれぐれも気をつけてと、念を押されていたのだ。 健太を世話してきたこの5年、楓は一日も気を抜かなかった。 毎日、健太の体調を気にして、栄養バランスのいい食事のレシピを勉強した。抵抗力をつけるために、定期的に運動に連れて行った…… そんなに汗をかいた状態でアイスクリームを食べれば、健太はすぐに風邪をひいてしまうのだ。 以前の楓なら、きっぱりと断っていただろう。そして優しくなだめながら、水を差し出すはずだった。 でも今の楓は、健太の額の汗に目をやり、ただ静かに頷くだけだった。 健太は信じられないというように目を見開いた。 記憶を失っただけで、ママはこんなに別人みたいになっちゃうの? 健太は思わずもう一度尋ねてみた。「本当に?」 楓はアイスクリームを買ってきて健太に手渡し、行動で健太に答えた。 「これからは、やりたいことを、思うようにやりなさい」 たとえそれが、渚を母親にすることだとしても。 そこへ近づいてきた湊は、健太の手にあるアイスクリームを見て眉をひそめた。そして、思わず楓に問いかけた。 「どうしてアイスなんて食べさせてるんだ?」 「買ってきて欲しいと言われたのですよ」 湊はその答えに納得できず、平然とした顔の楓をじっと見つめた。 湊は覚えている。以前の楓なら、健太が汗だくの状態でアイスクリームを食べるのを絶対に許さないはずだ。 記憶を失ったとはいえ……あんなに頑張って産んだ子を見て、記憶の奥に、母親としての本能すら残っていないというのか? 渚はその様子を見て、少し目を輝かせた。そして、健太の額の汗を拭いてあげながら、優しく湊に提案した。 「湊、もう帰ろう。午後から遊んでるんだから、きっと健太が疲れてるわ」 健太もそばで「おうちに帰る」と騒ぎ始めた。 はしゃぎすぎたのだろうか、健太は車に乗るとすぐに、渚に寄りかかってぐっすりと眠ってしまった。 楓は、バックミラーに映る、寄り添う「親子」の姿を一瞥し、窓の外に視線を移した。 ちょうどその時、一台の大きなトラックが、コントロールを失ったようなスピードでこちらに向かってきた。 運転手がとっさにハンドルを切り、衝突を避けようとしているのが見えた。 バンッ! 車は道路脇の電柱に激しく衝突し、フロント部分は大きくへこんでしまった。 「ママ、どうしたの!?」 助手席にいた楓は、開いたエアバッグに体を打ち付けられ、頭がもうろうとしていた。それでも健太の泣き叫ぶ声を聞き、とっさに彼の姿を探した。 力を振り絞って後部座席を振り返ると、健太は渚の手を握っていた。そして、ガラスの破片でできた手のひらの傷を、心配そう見つめていた。 健太は焦って、湊の袖を何度も引っ張った。 「パパ、ママが手をけがしちゃった!血が出てる、早く病院に連れていかないと!」 渚も恐怖で体を震わせ、目を赤くしていた。 湊は助手席の楓に目をやった。その目には、ためらいの色が浮かんだ。 「だが……」 「楓さんはエアバッグがあるから、大丈夫だよ!」湊が言い終わる前に、健太が彼の言葉を遮った。そして、湊と渚の袖を引っ張りながら叫んだ。「ママはピアノを弾くんだから、手に少しでも傷をつけちゃダメなんだ!」 「湊、私の手が……」 渚の震えた声を聞いて、湊はこう決めた。 「楓、救急車が来るのを待っていてくれ」 そう言うと、湊は渚と健太を連れてタクシーを拾い、その場を去っていった。 助手席から身動き一つ取れない楓は、ただ3人の後ろ姿を、目で追うことしかできなかった。 自分の夫と息子は、渚を真ん中にしてしっかりと守り、一度も自分の方を振り返らなかった。 自分は事故の時、命に代えても健太を突き飛ばして助けたのに。 それなのにこの親子は、自分を車から助け出そうともしなかった。 楓は、無性に笑いたくなった。 この親子に対する最後の未練も、これで完全に消えてしまった。 第6話 救急隊員が楓を車から運び出すと、真剣に尋ねた。「ご家族に連絡しますか?」 楓は、一瞬黙ってから、静かに首を横に振った。 「いいえ、家族はいませんから」 自分の命を見捨てた夫と息子なんて、もう家族じゃない。 楓は一人、事故の衝撃によるめまいを必死にこらえながら病院へ運ばれた。 幸い、検査の結果、大きな問題はなかった。数日間、薬を飲んで安静にしていれば治るそうだ。 薬を受け取った帰り、偶然、処置室の前を通りかかった。 医師が渚の傷の手当てをしていた。 ただの浅いかすり傷で、血が少し滲んでいるだけだった。それでも、隣にいる二人は焦った様子で見守った。 健太は医師の手の中のガーゼを見つめ、心配そうに尋ねた。 「先生、ママの手のひらに、傷跡は残りますか?」 湊も、たまらず口を挟んだ。 「ピアニストなんです。どうか傷が残らないように、丁寧にお願いします」 それを聞いた医師は、笑顔になって言った。 「ご主人と息子さんは優しいですね。安心してください、この程度の傷では跡は残りませんよ」 ドアの外に立っていた楓は、目に浮かんだ嫌悪を隠すように、すっと目を伏せた。 ええ、本当に「優しいご主人と息子さん」だこと。 楓は視線をそらすと、踵を返してその場を去ろうとした。 「楓!?」 「か……楓さん!?」 背後から、驚きを隠せない二人の声が聞こえた。 「楓、どうして病院に?検査は受けたのか?もう大丈夫なのか?」 湊は楓に、不安そうに尋ねた。 「ありがとうございます、旦那様。ご心配には及びません」 「旦那様」の一言に、湊の体が強張った。 今の楓は松井家の家政婦。頭では分かっていても、いざ彼女からそんな他人行儀な呼ばれ方をされると、胸の中に複雑な感情が渦巻いた。 何か言おうとしたけれど、楓の落ち着いた表情を見ると、喉に何かがつっかえて言葉が出てこなかった。 その時、湊のスマホが鳴った。 会社で急用ができたようで、湊は先に帰ることになった。3人に、自分たちで帰るようにと言い渡した。 家に帰ると、健太は真っ先に渚の手を引いて2階へ向かった。 楓は、渚がもともと自分の寝室だった部屋へ入っていくのを、ただ黙って見ているしかなかった。 渚を部屋へ案内し終えると、健太はドタドタと階段を下りてきた。1階の家政婦たちのための部屋を指差して、楓に言った。 「ここが楓さんの部屋だよ」 楓は、静かに健太を一瞥した。 「はい、健太様」 その返事を聞くと、健太の表情がなぜか暗くなった。そして、怒ったような顔で楓を睨みつけてから、どこかへ走って行ってしまった。 楓はそれを気に留めず、家政婦部屋のドアを開けた。 たった3日間家を空けただけなのに、自分の服や日用品が、すべて元の寝室からこの部屋に移されていた。 なんて丁寧なお芝居なのだろう。 それからの数日間、楓はただ黙々と、家政婦としての役割をこなした。 健太がアイスを食べ過ぎたあの日、やっぱり高熱を出していた。楓は渚に熱の下げ方を教えただけで、以前のように健太のそばに付き添うことはなかった。 湊が仕事で夜遅く帰宅しても、水を一杯用意するだけ。時間のかかる料理を、彼のためにわざわざ作ることもなかった。 …… そうしているうちに、健太の誕生日がやってきた。去年までは、楓が健太の手を引いて玄関に立ち、健太の友達を毎年一緒に迎えた。 しかし今年は、健太は朝一番に渚の手を引いて、楽しそうに玄関へと駆けていった。 楓の前を通り過ぎるとき、健太はわざと足を止め、大真面目に言った。 「楓さん、僕とママで友達を迎えに行くから。楓さんはキッチンで料理を手伝っていて。リビングには来なくていいから」 その言葉に、楓は思わず口の端を上げた。 健太は友達に楓の姿を見られるのを怖がっているのだ。もし「どうしてママが変わっちゃったの?」なんて聞かれたら、湊とついた嘘がばれてしまうから。 この7日間、渚を完璧に自分の母親にするために、健太は随分と頭を働かせたようだ。 しかし、どちらにせよ、自分はもうすぐ本当に「健太の母親」という席を空ける予定なんだから。 楓はうつむいて、小さく「はい」と返事をした。 渚は一瞬勝ち誇ったような表情になったが、すぐに困ったふりをして言った。 「健太、いくらなんでも健太のお母……」 健太の焦ったような視線に気づくと、渚は口角を上げて、言葉を続けた。 「楓さんは5年も健太の面倒を見てくれたのよ。誕生日パーティーに参加させないなんて、可哀想じゃない?」 健太は楓の顔を見て、少し複雑な表情を浮かべた。 彼が何かを言う前に、楓が落ち着いた声で言った。 「いいえ、ご心配なく。私は裏で料理の手伝いをやりますから」 自分を愛してくれない息子のために、悲しむ必要なんてない。 そう言うと、楓はもう健太の方に振り返ることなく、まっすぐにキッチンへと向かった。 しばらくすると、リビングから優雅なピアノのメロディーが流れてきた。 曲が終わると、子供たちの大きな拍手が聞こえてきた。そして、健太が興奮した声で、「ママ、ありがとう!今までで最高の誕生日プレゼントだよ!」と喜んだ。 その間、キッチンにいた他の使用人たちは、時折、同情するような目つきでこっそりと楓のことを見ていた。 楓はそんな視線には気づかないふりをした。何もなかったかのように、黙々と料理の準備を手伝った。 しかし、次の瞬間、リビングから甲高い悲鳴と泣き声が響いた。 楓は何事かと確認するより早く、キッチンに飛び込んできた弾丸のような小さな影にぶつかった。 健太は、真っ赤に充血した目で楓を睨みつけ、ぷんぷん怒っていた。 「なんでママの飲み物にマンゴージュースを入れたんだ!」 第7話 楓はデスクの角に腰を打ってしまった。鋭い痛みが全身を走り、額に冷や汗を浮かべた。 それでもなんとか体を起こして、説明しようとした。 「そのようなことは……しておりません」 しかし健太は全く耳を貸してくれなかった。楓が何度説明しても信じてくれず、ボディーガード一に楓をリビングまで連れて行くよう命じた。 リビングでは、渚の肌が所々赤くなり、湊の腕の中でぐったりしていた。 「楓、こんなことをするような人間だとは思わなかった」 湊の声は、怒りを押し殺しているようだった。 「湊……」渚が弱々しく口を開いた。「もしかしたら……楓さんは、わざとじゃないのかもしれないわ」 健太は、そんな渚の姿を見て、心配で、目に涙をためていた。 「ママ、もう楓さんをかばわないで!ずっとキッチンにいたんだから、マンゴージュースを入れたのは絶対に楓さんだよ。ママをいじめたいんだ!」 楓は、全てが可笑しく見えた。 渚に何かがあると、この親子はいつでも自分のせいにするのだ。 しかし、彼らは忘れているのだろうか。今の自分は松井家の家政婦に過ぎない。この家の「奥様」である渚を、害する理由なんてないのに。 ぶつけた腰の痛みを感じながら、楓はもう一度繰り返した。「私は、やっておりません」 「うるさい!ママがこんなに苦しんでるのが見えないのか!まだ言い訳する気?」健太は怒りを抑えきれずに、楓に怒鳴りつけた。 「パパ、楓さんがママをいじめたんだ。罰を与えなきゃだめだよ!」 湊は気づけば両手の拳を握りしめ、複雑な表情で楓を見つめていた。腕の中の人がどんどん弱っていくのを感じながら、彼は目を閉じ、声を低くして言った。「そうしよう」 そう言うと、湊は渚を抱きかかえ、車で病院へと向かった。 「楓さん」健太は無表情のまま手、二人のボディーガード一に楓を押さえつけるように指示した。「悪いことをしたら自分に返ってくる。そう教えてくれたのは、楓さんだったよね」 そう言うと、健太は使用人に牛乳を一杯、持ってこさせた。 楓は信じられないものを見る目で健太を見た。 自分にひどい牛乳アレルギーがあることを、健太は知っているはずだった。 楓は必死にもがいたが、ボディーガードの力にはかなわなかった。 牛乳が口に入った瞬間、呼吸が苦しくなり、その場に崩れ落ちた。 かすむ視界の中で、健太が静かに、冷ややかに自分を見下ろしているのが見えた。 あんなに必死に産んだ息子が、他の女のために、私にとって命に関わる牛乳を飲ませるなんて。その事実が、楓の胸に突き刺さる一番鋭い刃となった。 なんて哀れなのだろう。 楓は呼吸をするのも辛くて、目の前が真っ暗になり、意識を失った。 次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。 楓が目覚めたのに気づくと、そばにいた湊が、こわばった顔の健太の背中をそっと押した。 「謝りなさい」 健太は小さな声で言った。 「ごめんなさい」 それを見ると、楓は皮肉な笑みを浮かべた。 片方は自分に罰を下すことを許し、もう片方は自らの手で自分をこのようにさせたのだ。 今さら謝ってきて、誰に見せるつもりなのだろう? 「健太が言う罰が、あんなことだとは思わなかったんだ」湊が慌てて説明した。「でも安心してくれ。すぐに病院に運んだし、先生もたいしたことはないと言っていた。健太はただ、渚のことでカッとなって、お前に間違いを認めさせたかっただけなんだ。お前が渚の飲み物にマンゴージュースを入れなければ、こんなことには……」 「申し訳ございません」 楓は、静かに湊の言葉を遮った。 湊はきょとんとした。健太もわけがわからないという顔で楓を見た。 楓はもう一度繰り返した。「私は間違ったことをしてしまいました。本当に、申し訳ございませんでした」 この結婚生活を続けたのは間違いだった。 自分を愛してくれない息子を産んだのは、間違いだったのだ。 二人の表情が少し和らいで、健太が小声でつぶやいた。 「ふん、もっと早く謝れば、こんな目に遭わずに済んだのに」 「それでいい。今の気分は……」湊が言い終わらないうちに、スマホの着信音が鳴り響いた。 電話の向こうで何があったのか、湊は隠しきれない喜びを見せた。 「わかった、今すぐ行く」 電話を切ると、湊は健太の方を見た。 「先生が、ママが目を覚ましたって」 健太は嬉しそうに飛び跳ねて、すぐに湊の手を引いて病室の外へと向かった。 「じゃあ、早くママのところに行こうよ。ママは今すごく弱ってるんだ。僕たちがそばにいないと、きっと寂しがるよ」 楓はベッドに横たわって、慌ただしく去っていく二人の足音を聞きながら、口の端を歪めた。 その時、スマホの通知が鳴った。 【楓さん、迎えの車が着いたぞ】 楓は、この数日間で初めて心からの笑顔を見せた。 彼女は一人で退院手続きを済ませ、階段を降りようとしたところで、踊り場の角に見慣れた二人の姿を見つけた。 湊がしゃがみこみ、真剣な表情で健太を見ていた。 「健太、渚がママでいてくれるのは今日で最後だ。今夜、本当のママにすべての真実を話そう」 健太は指をいじりながら、少し不満そうに頷いた。 「うん。渚さんが一週間も僕のママでいてくれて、すごく嬉しかった」 そう言う健太の顔に不安の色が浮かび、焦ったように湊の手にすがりついて尋ねた。 「でもパパ、僕、今日ママにひどいことをしちゃったんだ。もしママが本当のことを知ったら、僕のこと怒るかな?」 湊は一瞬黙り込み、それから健太をなだめるように言った。 「大丈夫だ。健太はただ、ママにしちゃいけないことをわからせたかっただけだろ。それに、健太はママの大事な子供なんだ。ママが怒るわけがないさ」 湊の言葉を聞いて、健太はようやく安心した。 楓はその親子の様子をしばらく見ていたが、特になにも感じることはなかった。 確かに、健太に怒るつもりはなかった。 なぜなら、今日から自分はもう、健太の母親でも、湊の妻でもなくなるのだから。 これから、もう一切関わらないと決めたのだ。 二人から視線を外し、楓はまっすぐに病院から出て、タクシーで一度家に戻った。 簡単に荷物をまとめると、迎えに来てくれた車に乗り込んだ。 車が走り出し、楓は7年間暮らした家を、最後に一度だけ振り返った。 湊、健太、あなたたちが望んだ妻と母の座は、もう渚に渡してあげる。 これで、もう二度と会うことはない。